Coolier - 新生・東方創想話

昔話 ~お酒は二十歳になってから~

2008/12/19 02:23:50
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おじいさまー

おぉ、こんな時間にどうしたのだ? 早く寝なさい

うん。ねる前におじいさまのお話きかせてー?

まったく、仕様のない子だ。聞いたらちゃんと寝るのだぞ?

わーい! ありがとう、おじいさま!

やれやれ…。さて、何を話そうか……。うむ、あれが良い。…むかしむかし―――


―――そう、それは昔々のことだった。あるところに、人を取って喰らう恐ろしい鬼がおった。




「長! 長ぁーーー!」

「どうした、騒々しいのう」

「また一人やられた! あの鬼にやられた!」

「なんということだ…。このままでは村が滅びてしまう…」




―――鬼は一月に一度、満月の晩に決まって酒宴を開き、人を招いては喰っていたそうだ。その鬼は恐ろしい力の持ち主で、村人では太刀打ちできんかった。

―――だから村人は恐れ、悩んだ。どうにかしなけらばならない。しかし、どうしようもない。

―――次なる満月の晩が迫った、そんなある時のことだった。その村に一人の若い侍が訪れたのだ。

―――その侍は不思議な姿をしていた。年若く見えるというのに、その髪は銀の輝きを持つ白で、その長い髪を首の後ろ辺りで一つに纏めていた。

―――それに、立派な身なりだが腰には脇差一本しか差していなかった。

―――不可思議な雰囲気を持つその青年に、村人は藁にも縋る思いで頼み込んだのだ。恐ろしい鬼を退治してくれ…、と。




「ふむ…、だが私はまだ修行中の身。そのような大役が務まるであろうか?」

「お願いします…。もうお侍さましか頼れる相手がいないのです…」

「そんなことはないだろう。ここは京の町からそう遠くない。そこに行けば助けを得られるのではないか?」

「行くとするならば村の若い衆が出払うことになりかねません。そうすればこの村に残るのは年寄りと女子供ばかりです…」

「むぅ、確かにそれは困ってしまうか」

「お願いです! 退治してくれたなら必ずや恩返しさせていただきますので、何卒!」




―――青年は困ってしまった。彼は旅先での用事を終え、自分の主の住まう屋敷に戻る最中だったのだ。早く帰らねば主に心配をかけてしまう。

―――しかし、その青年に必死な村人たちを見捨てることはできなんだ。結局、青年は鬼退治を引き受けることにしたのだった。




「あいわかった、人助けも修行のうち。おぬしらの願い、しかと聞き入れよう」

「おぉ…、ありがたい。満月の晩まであとわずか。それまではこの村にて旅の疲れを癒してください」

「うむ、しばらく世話になる」




―――青年は村長の言葉に甘え、満月が訪れるまでの日をその村で過ごすことになった。

   そして、その日がやってきた―――




「では行ってくる。皆は外に出ぬように」

「わかりました。相手は恐ろしい鬼です。くれぐれもお気をつけて」

「心配無用だ。私に任せておきなさい」




―――日が沈み、夜闇が空を覆う刻限の頃、青年は村を出た。鬼がいると言われるその場所を目指して。




「さて、酒宴を催しているという話だが…、それらしい場所が見当たらんな。どこにいるのやら」




―――外は月明かりで明るく、闇が深くなったとはいえ少し遠くなら見通せるほどだった。

―――だから青年は不思議に思った。そこは開けた場所で、視界を遮るものは無かったというのに、鬼がいる場所が分からなかったのだ。

―――しばらく歩くと、月を眺めて一人酒を飲む者の姿が目に入った。遠目には分かり辛かったが、どうやら人のようだ。

―――その者の身を案じた青年は、声をかけるために近寄ることにした。近寄って見るとそれは長い髪をした、大変美しい妙齢の女だった。

―――しかし、青年はすぐにおかしなことに気付いた。その女は瓢箪を携え、見たこともないような金の髪をしており、なにより、その頭には――




「おや、今日はまだ誰も招いていないっていうのにお客さんだねぇ。私に何か用かい?」

「まさかとは思うが、お前が鬼なのか…?」

「なーに惚けたこと言ってんの。この立派な角を見た上での口上なら悲しいねぇ」




―――背後から近づいたというのに、その女は青年の接近に気付いていた。

―――そしてその女、いや、鬼の言う通り、その頭からは天に向かって伸びる、一目で化生と分かるような、見るもおぞましい角が――三本。

―――頭の左右から二本と、その額から悠然と伸びる角が、一本。確かに存在した。

―――鬼は、青年に背を向けたまま話を続けた。




「ちょっと前までは五本あったんだけどね。京を荒らしてたら人間に懲らしめられちゃって、その時に失くしちゃったんだ。いやー、まいったね」

「誰もそんなことは聞いてない」

「無愛想だなぁ。そんなんじゃモテないよ?」

「いらん世話だ」

「ところでお前……、ふーん…」




―――鬼は突然、青年の方に向き直った。その容貌は、青年がそれまで見たこともないほど美しく整っておった。

―――そして、青年の姿をまじまじと見つめた鬼は、言葉を続けるのだった。




「若く見えるけど、苦労してるんだねぇ。その白髪」

「余計な御世話だ!」

「にゃははは。何だ、ちゃんと怒れるじゃん。感情が無いのかと思った」

「何なんだこいつは…。わけのわからん事ばかり喋りおって…」

「あーおかしい……。それで、お前は何? 何をしにここに来た? 私はお前なんて呼んでない。命があるうちに消えろ」

(……ッ! なんだ、この豹変ぶりは…。それに、恐ろしいまでの重圧だ…!)




―――妙な雰囲気の鬼ではあったが、相手はやはり鬼。その身のもつ力は、青年をたじろがせるには十分だった。

―――しかし、青年とて引き下がるわけにはいかなかった。村人との約束もそうだが、この鬼を野放しにすることはできないと思ったのだ。




「…貴様を退治しに来たのだ。お前に恨みはないが、付近の民が怯えておるのでな」

「まぁ…、そんなとこだろうとは思ったけどね。でも、お前じゃ無理。私には勝てない」

「何故そんなことがわかる?」

「じゃあ逆に聞くけど……、勝てると思うのか?」

「………ッ!」




―――鬼の言葉に青年は黙る事しかできなかった。彼我の実力差を見抜けぬほど、青年は未熟ではなかったのだ。

―――その事実に、青年の心は抉られた。自分では勝てないかも知れぬと実感していたのは、他でもない自分自身だったのだから。

―――それでも、青年は背を見せたりはしなかった。そこに死が待ち受けているとしても。




「…なんで逃げないの? そんなに死にたいのか?」

「死にたいわけではない。だが逃げぬ。お前を退治しなければならないのだからな」

「わかんないかなぁ。それが無理だって言ってるのさ。衰えたとはいえ、お前ごときにやられるほど落ちぶれてない。
 私を破ったのは名だたる豪勇たちだった。そんな彼らも、私を騙し打ちすることでようやく勝てたんだよ?」

「馬鹿にされたまま引き下がることも出来ぬ」

「はぁ…、無謀と勇気は紙一重、ってね。たまにいるんだよねぇ、お前みたいなのが」

「だったら何だと言うのだ」

「別に~? ただ、お前みたいなやつは嫌いじゃないよ」




―――青年は戸惑ってしまった。鬼は先ほどの剣呑な空気を一瞬にして霧散させ、歯を見せるほど口元を歪ませた。

―――そこには一切の邪気が感じられず、青年はそれにこそ戸惑ったのだった。




(…やり難い。ころころと雰囲気の変わる奴だな…)

「それで、どうしても私とやり合うのかい?」

「無論だ」




―――青年の信念は揺らがなかった。相手が自分より強いからといって逃げ出すことは、武人の恥だと考えていたからだ。

―――しかし、退治する事とは別の思いが青年の心に芽生え始めていたのだった。




(こいつは…、案外面白い奴なのかもな)

「でもなぁ、結果の分かり切った勝負ほどつまらないものはないし…、そうだ」

「…どうした」

「お前は私がここで酒宴を開くって聞いたから来たんだろう?」

「まぁ…、確かにそれで合っているが…」

(その言い方では、まるで私が酒に釣られたみたいではないか…)

「だったら、私と飲み比べだ。そっちの方がよっぽど鬼との勝負らしいよ」

「…そうか?」

「そうだって。お前だって下戸ってわけじゃないんだろ? だったらまだ勝ち目があるかも知れないよ」

「確かに下戸ではないが…」

「だったら決まりだね。さあ、宴の始まりだ!」




―――鬼はこの上なく楽しそうに声をあげおった。まるで、その時をずっと待ちわびていたかのようでさえあった。

―――そして、その顔に浮かべた笑みは先ほどのものとは違い、外見からは想像もできないほど幼く、何より純粋だった。

―――青年が、相手が鬼であることを一瞬忘れて見惚れてしまうほどに、鮮やかな笑みだった。




「宴といっても…、私とお前の二人しかいないではないか。そもそも酒はどこにある?」

「細かい男だねぇ。そんなこといちいち気にしてたら大成できないよ? 酒ならほら、この瓢箪から無限に湧いて出てくるさ」

「それは何とも珍妙な…。それと、余計な御世話だ」

「勝負はどちらかが飲めなくなるまで。倒れたらその時点で終了だよ」

「無視か」

「ここからが重要だけど、もしお前が負けたら罰を与える。死も覚悟してもらおうか」

「なんだと…ッ!」

「鬼と勝負するんだから、それくらいは当り前だろう。でも、もしお前が勝てば褒美をくれてやるよ」

「褒美?」

「そ、褒美。お前が望むものをくれてやる。もちろん、私の命でもいいさ」

「なるほどな…。それは確かに――」




―――それは間違いなく『鬼』との勝負であった。そして、相手は正真正銘『鬼』だった。

―――青年とてそんなことは分かっておった。だが、今一つ緊張を感じきれない不思議な雰囲気に、それすらも忘れかけておったのだ。

―――相手は幾人もの人間を殺し、喰らいし者。青年は自分の心構えを正した。




「それで、やるかい? それとも怖気づいちゃった?」

「愚問だな。やるに決まっている」

「あぁ、よかった。もし断ろうものならそんなつまらないことはない。最悪、殺しちゃってたかもね」

「それでは端から選択肢がないではないか」

「最悪の場合だって言っただろ。それに、命なんて日々数え切れないほど消えてゆく。
 もしお前がここで死んだとしても、それはその内の一つにすぎない。そうだろう?」

「そして、お前自身も…、というわけか」

「当然さ。それでも、生き残るならなるべく面白い奴がいい。ここで怖気づいて逃げ出すようなつまらない奴は、この先生きててもしょうがない」

「だから、最悪の場合は殺すのか」

「その通り」

「何という傲慢。やはりお前は退治せねばならぬ存在のようだな」

「お、やる気になったかい?」

「必ずやお前に勝ってみせよう。この私に酒飲みで勝負を仕掛けたことを後悔させてやる」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。ああ…、本当に楽しみだ」




―――鬼はまた雰囲気を変えおった。今度はまるで、遠くを眺めるように、もう帰らない昔日の思い出を懐かしむかのようだった。

―――青年は戸惑った。言葉の端々から窺える、命を命とも思わぬ言葉は間違いなく化生そのもの。

―――しかし時折見せるその表情が、まるで心ある人間の様で――




(――馬鹿馬鹿しい、相手は人喰い鬼だ。それより心せねば。私が敗れれば村の者たちがまた不幸に見舞われる)

「それじゃあ早速始めようか。準備はいいかい?」

「いつでもいい。早く始めろ」

「言っておくけど、私は鬼の中でも大の酒好きで通ってるんだ。はっきり言って強いよ」

「だからどうした。私とて酒に呑まれたことは一度としてない」

「本当にやるんだね?」

「くどい。武士に二言は無い」

「いい度胸だ。それじゃあ、私が三つ数えたら開始だよ」

「承知した」

「いくよ……。三――」




―――鬼が数え始めると、青年は辺りが一斉に静かになったかのような錯覚に陥った。




「二――」




―――夜の澄んだ空気を、鬼の凛とした声が震わせる。それはまるで、優雅な音曲を聞いているようだった。




「一ッ!」




―――そうして、青年と鬼は同時に盃を傾けた。しかし青年はその直前に、鬼が何かを呟いたのを聞いた。




「―――……………う…」




―――鬼の顔は既に盃に隠れて見えなくなっておった。そして、すごい勢いで酒を飲み干しておった。まるで、その呟きすらも呑み込むように。

―――青年の聞き間違いだったのか、今となっては確かめる術もないが、青年は確かに聞いたのだ。鬼の呟きを。




(今のはどういう意味だ…? ええい、考えている暇など無い。今は勝負に集中すべきだ)

「お、いい飲みっぷりだねぇ。だけどそれがいつまで続くかな?」

「無論、勝つまで」

「にゃははは! そいつはいい、せいぜい頑張りな」

「言われるまでもない」

「…楽しませてくれるねぇ」




―――二人の勝負は夜明けが近くなるまで続いた。どちらも一歩も譲らず、相手が飲めば青年も飲み、青年が飲めば相手も飲む。これが延々と続いた。

―――しかし、永遠に続くと思われたその勝負も終わりが近づいてきた。




「そ…、そろそろ、限界なんじゃないのかい…?」

「なんの…、これしきで…。お前の、方こそ…、さっさと倒れたらどうだ…?」




―――互いに虚勢を張っているのは明らかだった。二人の頭から勝負という言葉は抜け落ちて、もはやただの意地の張り合い、子供の喧嘩となっていた。

―――そして、二人はとうとう倒れた。月はもう見えなくなっていた。




「お前の…、方が先に倒れたね…。私の勝ち…、だよ」

「お前の目…、は節穴か…? どう見てもお前の…、方が先だった…」

「なんだって……! う……」

「来るなら来い…! ぐ……」

「………ねぇ、引き分けってことにしない…?」

「已む無し、だな…」




―――勝負の決着はつかなかった。二人ともさすがに限界を迎えていて、まともに動くことすらできなかったのだから、それも仕方のないこと。

―――勝敗は決まらなかったというのに、二人の顔には自然と笑みが浮かんでおった。それもそのはず、互いに死力を尽くしたのだからこれ以上はなかった。

―――二人はただただ無言で倒れていて、しばらくすると鬼が口を開いた。



「お前、やっぱり面白い奴だったね。気に入ったよ」

「鬼に気に入られても嬉しくない」

「やっぱり無愛想だなぁ。もう少し気の利いた言葉はないのかい?」

「敵と馴れ合う趣味は無い」

「…まぁ楽しめたからいいけど。それで、どうする?」

「どうする、とは?」

「決着がつかなかったわけだけど」

「無論、再戦だ。私はお前に勝たねばならん」

「そうかそうか…。それは良かった…」

「どういう意味だ?」

「深い意味は無いよ。気にしないで」




―――青年の言葉を聞き、鬼は朝焼けの空を仰ぎ見て、静かに笑うだけだった。それは、とても穏やかな笑みだった。

―――鬼らしい残忍な性格をしていると思いきや、時折見せるその笑顔は、あまりに鬼らしくなかった。

―――その鬼が何故笑うのか、青年には全く理解できなかった。それでも、鬼が笑うと、青年は不思議と悪い気分ではなかった。




「よし、それじゃあ明日の晩にまた勝負だ」

「明日? 満月は過ぎてしまったではないか」

「だからそんな細かいこと気にしなくていいの。飲みたい時に飲むだけさ」

「そういうことなら、別に今晩でもよいのだぞ?」

「それ、本気で言ってる?」

「むぅ……。まあ、お前がどうしてもと言うなら明日で構わん」

「おやぁ? 強がっちゃってぇー。私はあんたを気遣ってやってるんだよ?」

「強がっているのはお前の方だろう?」

「よく言うよ」

「その言葉、そのまま返そう」

「はっ――――」




―――とうとう鬼は大口を開けて笑い始めおった。あまりに突然のことだったので青年は、それはそれは驚いた。

―――しかし、鬼が笑ったその時の理由は、青年にもなんとなく分かるような気がした。なぜなら、青年も声に出して笑いたい気持ちだったのだから。




「お前は…、不思議な奴だな」

「萃香」

「は…?」

「私の名前だよ、伊吹萃香。かつては酒吞童子、なんて呼ばれたりもした」

「酒吞童子!?」

「お、知ってるのかい? いやぁ、有名人は辛いねぇ」




―――酒吞童子。

―――それは、誰でも一度は耳にしたことのある名前だった。大江山に住まい、都でさんざん悪事を働いた末に退治されたと言われる鬼の名だ。

―――青年は耳を疑った。悪名高い大妖怪が女の姿をしているとは思わなかったし、何より退治されたのならばそこにいる筈がなかったのだから。

―――しかし、その鬼が嘘をついているようには思えなかった。理由は分からなかったが、何故だかそんな気がした。




「しかし、退治されたはずではないのか?」

「確かにそうなんだけど、私はちょっと特別でね。普通に殺したって死なないのさ」

「そうか…。それでは私では勝てぬわけだ」

「…信じるのかい?」

「嘘だったのか?」

「鬼は、嘘はつかない」

「ならば信じる。お前の言葉は、なぜか信じられる」

「…あんたも、不思議なやつだよ」




―――そう言って、鬼は目を細めた。

―――鬼の言う通りだ、と青年は思った。理屈も無しに妖怪の言葉を信じるなど、気が触れているとしか思えない。

―――それでも、青年は鬼の言葉を信じようと思った。




「それで、あんたの名前は?」

「言っただろう。敵と馴れ合う趣味は無い」

「面白味のない男だねぇ。それじゃあ、私が勝った時にでも教えてもらおうかな」

「…殺すのではないのか?」

「覚悟はしろって言ったけど、必ず殺すとは言ってないよ? それに、あんたは面白い」

「たった今、面白味がないと言ったばかりではないか」

「それとこれとは別問題さ」




―――鬼の言葉は一貫性が無いとさえ思えるほどで、青年は首を傾げるばかりだった。

―――しかして、妖怪の放つ狂言と切り捨てられるほど矛盾しているようにも感じられず、結局、青年は困惑することしかできなかった。




(もしかしたらこいつは…、何も考えていないのかも知れんな)

「そんなわけで、今日はもうお開きだね」

「うむ」

「忘れないでよ? 明日の晩、この場所でもう一度勝負だからね?」

「忘れるものか。次こそは私が勝つ」

「そうかい…」

「…どうした?」

「何でもないよ。そら、もう行きな」




―――鬼に促されて、青年は村に戻ることにした。帰り際に後ろを振り返ってみると、鬼は立ち昇る朝日を見ていた。

―――逆光が眩しく、また背を向けていたので、どのような表情をしているのかは分からなかったが、その背中はなぜか、泣いているようにも見えた。

―――それでも、そこから悲哀を感じることはなかった。全ては、青年の勘違いだったかもしれないが、そんな気がしたのだ。

―――ともあれ、青年が村に戻ると、村人たちはたいそう驚いた。満月の夜に鬼と会い、生きて帰った者は青年が初めてだったのだ。




「よくぞご無事でお戻りくださいました。して、鬼は…?」

「決着は終ぞつかなかった。なので、明日の晩再び会い見えることにした」

「そうですか…」

「ところで、もう休んでもよいだろうか。さすがに疲れたのでな」

「わかりました。すぐに支度をさせますので、しばしお待ちくだされ」




―――鬼との勝負で精も根も尽き果てていた青年は、その日は丸一日眠った。心配になった村人が起こしに来ても、全く反応がなかったそうだ。

―――しかし、次の日にはしっかりと起きて、夜が近くなった頃に再び村を出たのだった。

―――約束の場所に辿り着くと、そこにはやはり鬼がおった。初めに見たときと同じように、僅かに欠けた月を眺めていた。

―――今度は青年の接近に気付いていないのか、鬼は空を仰いだままだった。陰をおとしたその横顔は、何を思っているのか。青年は魅入ってしまった。




「あぁ…、来てくれたのか」

「当然だ。約束したからな」

「…驚いた。あんたの口からそんな言葉が出てくるとは…、思わなかったよ」

「そんな言葉?」

「私との約束さ。そんな事を理由にするような奴には見えなかったからね」

「心外だ。どのような相手であれ、交わした約束を反故にするほど腐った性根は持ち合わせていない。それに勘違いしてもらっては困る。私はお前に――」

「――勝たねばならん、って言うんだろ? そんなことは分かってるよ。それでも、少しだけ嬉しかったのさ」

「嬉しかった? なぜ?」

「鬼に真正面から立ち向かうような馬鹿はそうそうお目にかかれない、って意味だよ。まぁ、あまり気にしなさんな」

「気にはしておらんが、馬鹿という言い方はないのではないか」

「おや、誉めてるんだけどなぁ」

「そんな褒め言葉があってたまるか。……なぁ、ところで――」

「ん?」




―――月を見上げて、何を考えていたのか。青年はそう問おうとして、止めた。聞いてはいけないような気がしたからだ。

―――口をつぐんだ青年を不審に思ったのか、鬼が顔を寄せて言葉を発した。




「どしたの、急に黙ったりして?」

「な、何でもない。そんなことより、顔が近い…。少し離れろ」

「あー、照れてるなぁ? 可愛いとこあるじゃん!」

「照れてなどいない! 笑うな!」

「にゃはは、健全な証拠じゃないか。何を恥ずかしがることがあるんだい?」

(まったく…、調子の狂う相手だ。しかし――)




―――青年は分からなくなっていた。その鬼と触れ合えばそれほどに、本当に人々が恐れるような純粋な悪鬼とは思えなくなっていたのだ。

―――初めに見せた、底の見えない恐ろしい存在感を放つ姿は確かに酒吞童子と呼ぶに相応しかった。それがなぜこのような表情もできるのか。

―――本当にただの殺人鬼が、こんなにも人懐こい笑みを浮かべられるのだろうか…、と。




「ま、私みたいな超絶美人に惚れちゃう気持ちも分かるけどねー」

「少ししつこいぞ…」

「にゃははは…、本当に楽しいねぇ」

「こっちは少しも愉快ではない。ったく…、さっさとやるぞ」

「相変わらず威勢がいいね。前みたいに倒れなけりゃいいけど」

「倒れたのはお前も同じだろうが」

「そうだっけ?」

「お前な…」

「気にしない気にしない。それより、せっかく名前教えたんだからそっちで呼んでよ」

「何度も言わすな。お前と馴れ合うつもりはない」

「はぁ………、堅物」

「…今、馬鹿にされたような気がするのだが?」

「今のは馬鹿にしたんだよ。まぁいいや、始めよっか。勝負内容は前と同じでいいね?」

「むぅ…、異論はない」

「それなら、私が三つ数えたら開始だ。準備はいいかい?」

「いつでも来い」

「それじゃあ…、三――、二――、一ッ!」




―――全てが満月の晩に行われたことと同じだった。二人の拮抗具合も、夜明け近くまで続いたことも、果ては勝負の結果まで同じだった。

―――そして、二人は同時に倒れた。これもまた、同じだった。




「あー…、もう飲めないよ」

「俺もだ…、無念…」

「また、決着つかなかったね…」

「そうだな…」

「また、勝負するの?」

「勝つまでだ…」

「それじゃあ……、また、来てくれる…?」

「おかしなことを聞く…。来なければ勝負できんではないか」

「そっか…。うん、そうだよね…」

「突然なんだと言うのだ…」

「べっつにー? えへへ……」

「わけが分からん…。いきなり笑いだすなど、薄気味が悪いぞ」

「………」

「…おい、どうした? 今度は突然黙ったりして」

「…すー……」

「寝てる…。敵を前にしてなんと図太い…」




―――青年は思わず呆れてしまった。まさか、自分を退治しようとしている存在の前で寝入るとは予想だにしていなかったのだ。

―――それと同時に、この上ない機会が巡ってきたと考えた。実力では勝てない相手が、今は眼前で無防備な姿をさらしている。これ以上はないだろう。

―――そう思い、青年は腰の刀を抜き、鬼の真上に掲げた。沈みかけた月明かりを反射して、刀身が鈍く光った。

―――そして、その手に持った刀を――




「…いくら村人の為とはいえ、寝ている相手を手にかけることなどできん…」




―――振り下ろすことはできなかった。そのような卑劣な行いは、青年の武人としての矜持が許さなかったのだ。

―――理由はそれだけではなかった。口に出すことはなかったが、青年もこの奇妙な雰囲気の鬼を、いつしか気に入っていたのだ。

―――故に、勝負をつけるのはそのような方法では納得がいかなかった。気に入ったからこそ、正々堂々と勝負したかった。




「次は必ず俺が勝つ。また明日の晩に来る」

「……んぅ………」

「…返事は当然無い、か。それにしても、まだ夜は冷え込むというのにこの薄着…。寒くはないのか?」




―――鬼の衣服は変わっていた。今まで青年が見たこともない様な仕立てで、上着に至っては肩口から先が無かったのだ。

―――相手は鬼。人間とは違い、当然寒さには強いであろう。それを理解していながらも、青年は自分の羽織っていた着物を、鬼にかけてやった。

―――何故そんなことをしたのか、青年自身でも理解できんかった。




「…勝負をするならば万全の状態でなければならん。故に、お前に風邪などひかれたら困るのだ。それ以上の意味など無い」

「…すー………」

「何をやっているのだか…。もう行くからな」



「…………変なやつ……」




―――青年が村に着く頃には夜がすっかり明けていた。そして、再び泥のように眠るのだった。

―――村人は鬼がまだ退治されていない事に多少落胆しながらも、青年の帰還を喜んだ。

―――そして次の日の夜に、青年は再度鬼との勝負に臨むために対決の場所へ向かった。そこにはやはり鬼がいた。青年の着物を羽織って。




「いやー、暖かいねぇ」

「そうか、では返してもらおう」

「え、くれたんじゃないの?」

「誰がやるか! 貸してやっただけだ!」

「またまたー、私の気を引くための貢物なんでしょ? でも、それならもっと価値のある物がよかったなー。残念だったね」

「阿呆か…。どうして私がお前の気を引かねばならん…」

「そりゃあ、あんたが私に惚れてるから?」

「断固否定する」

「つれないねぇ。女の子にはもう少し愛想良くするもんだよ?」

「私の知ったことではない。いいから返せ」

「やなこった。あんたはこれを貸すとも言わずにここに置いていったんだ。だから私が拾ってやったのさ。これは私のものだよ」

「屁理屈をこねよってからに……。ん…?」




―――そこで青年は奇妙な点に気付いた。鬼の言葉は、まるでその時の様子を知っているかのようだったのだ。

―――しかし青年の記憶が確かならば、その時鬼は寝ていたはず。ならば、それはおかしいのではないか、と考えた。




「なぁ、もしかしてお前――」

「さぁ無駄話なんてしてないでさっさと始めようか」

「人の話を――」

「そろそろ私が勝たせてもらうよ。これ以上引き分けたら格好がつかないからね」

(…喋れん)




―――青年がそのことを問いただそうとすると、鬼は不思議とそれを遮るように声を発した。それはまるで、そのことを聞かれたくないかのようだった。

―――よくよく鬼を見れば、その顔が微かに赤く染まっておった。理由は分からなかったが、鬼はどうやらその着物を欲しがっているのが理解できた。




「…わかった。それはやる」

「え…? いいの?」

「ああ、好きにしろ」

「もう返さないよ?」

「武士に二言は無い」

「本当にいいの?」

「お前の言った通り、それは捨てたものだ。だから、誰かが拾ってくれたなら有難いことだ」

「…えへへ。あんたって、見かけによらず優しいんだね」

「…世辞などいらん」

「でも不器用だねぇ。結構損してるんじゃないかい?」

「世話もいらん!」

「おっと、図星を指されたからって、怒るなんて大人気ないよ?」

「喧しい。もういい、この話は終わりだ」




―――青年は憮然とした態度だったが、鬼からしてみればそれが可笑しかったのだろう。口元を軽く歪めて、にやにやと意味ありげに笑っておった。

―――それを見て青年は多少腹を立てたが、嬉しそうな顔をしている鬼を見ると、怒っている自分が馬鹿らしく感じられ、怒りを霧散させた。




「それじゃ、今度こそ始めようか」

「…そうだな。今日こそ引導を渡してやる」

「それはこっちの台詞さ。今日も私の合図で開始、それでいいね?」

「ああ」

「いくよ…。三――」




―――いつも通りの合図で、二人はいつも通りに飲み始めるのだった。まだ三回目のその勝負だったが、二人の向かい合う姿はとても馴染んで見えた。

―――その晩の決着もやはりつかなかった。それどころか次の晩も、その次も。勝敗定かならぬまま酒を飲み交わし、言葉を交わし、倒れ伏す日々が続いた。

―――鬼は青年が来ると決まって喜んだ。必ず無邪気に笑ってみせた。その勝負を心底楽しんでいるようだった。

―――鬼の影響か、はたまた心境の変化か、いつしか青年も鬼との勝負が楽しみになっていた。いや、むしろ鬼と語らうのがなにより面白かった。

―――それがいいことなのか、はたまた悪いことなのか青年には判らなかったが、少なくとも悪い気はしていなかった。

―――しかし、そんな二人の勝負も終わりを迎えることになる。それは月が再び真円を取り戻した晩の事だった。




「あんたと飲み合って、今日でお月さんが一回りしちゃったね。よくここまで鬼に対抗できるもんだ。感心するよ」

「そうだな。私も鬼がこれ程とは思っていなかった。正直驚いている」

「…珍しいね、あんたがそんな返し方するなんて。何かあったのかい?」

「…思えば、短いようでとても長い時をお前と一緒にいたような気がするな」

「そうだね…」

「このままお前と酒を飲み交わす日々…。それも悪くはないのかも知れんが、そうもいかない」

「………」

「これ以上村人たちの世話になるわけにはいかんし、私は主の元に帰らねばならない。名残惜しい気持ちもあるが、今日で終わりにしなければ…」

「そう……」

「だから、今日こそお前に勝たねばならない。何が何でもな」

「…そっか。うん、わかった。今日で終わりだね。私だって負けないよ」




―――鬼は気丈に振る舞ってはいたが、微かに声が震えておった。

―――無理をしている。無骨な青年でも、それぐらいは分かった。敵同士という隔たりはあれども、その心の内は恐らく同じだったからだ。

―――名残惜しい。あるいは寂しい。少なくとも青年は、その胸に一抹の悲しみさえ抱えておった。

―――もっと飲み交わしたい。もっと語り合いたい。もっと触れ合いたい。もっと鬼の事を知りたいのに…、と。

―――しかし、それが叶わない気はしていた。いくら気に入ったとはいえ、相手は鬼なのだから。




「それじゃあ、今日はちょっと趣向を変えようか」

「どういうことだ?」

「いつもの飲み比べじゃまた引き分けだからね。だから、別の勝負にするのさ」

「それは確かにそうかもしれんが…。どんな勝負にするのだ?」

「そうだねぇ…。いつもは飲んでばかりだから今日は逆に、先に飲んだら負け、ってことにしないかい?」

「飲んだら…? 意味が分からんな。それではいつまで経っても勝負が終わらんだろう」

「いやいや、案外わかんないよ? 月に魅せられて思わず、なんてことがあるかも」

「そうだろうか……。それに、勝負の最中は何をするのだ? まさかただひたすら酒を眺める、なんてことはするまい?」

「そりゃそうさ。そんなつまらないことはない。だから、話でもしないかい?」

「話…?」

「そ、飲むだけが宴じゃないよ。他愛のない話に華を咲かせるのも乙なもんさ」




―――大の酒好きを自称する鬼からの提案は、青年の一番予想もしないものだった。

―――しかし、それは青年にとって願ってもいない提案だった。その不思議な鬼の事を、少しでも知ることのできる機会が巡ってきたのだから。




「わかった。それでいい」

「…驚いた。まさか承諾するとは思わなかったよ」

「何故だ?」

「いつもみたいに、敵とは馴れ合わない、って断るかと思ってたから…」




―――その言葉に青年は驚いた。いや、むしろ自分自身の言葉に驚愕した。それまで散々言ってきたことを、まさか自分から覆すような発言をしたことに。

―――青年はその鬼の事を、いつの頃からか敵として見れなくなっていたことに、今更ながらに気がついたのだった。




「…お前の言うように宴の席なら、敵も味方もない。ただ、友の語らいがあるだけだろう…」

「今まで言ってきたことと矛盾してるよ?」

「そんなことは私が一番わかっている。なんでこんな事を言っているのやら…」

「ふーん……。へーぇ……」

「…なんだ、その顔は? 何か文句でもあるのか」

「いんや、特にないよ。ただ、あんたはやっぱり変なやつだって思ってただけさ」

「失敬な。お前の方がよっぽど変だろう」

「私が変わり者ってのは認めるけどね。でもあんたは自覚がない分、さらに変わり者だ」

「お前にだけは言われたくないな」

「にゃはは」




―――初めの頃は、そんなやり取りにも腹を立てた青年だったが、今ではそれに心地良ささえ感じておった。

―――鬼とのそうしたやり取りが好ましくて、苛立ちなどとうの昔に忘却してしまったかのようだった。




「…さて、そろそろ最後の勝負を始めようか。もう合図は要らないね?」

「そうだな…」

「それなら開始だ」

「ああ」




―――鬼の宣言で、静かに勝負が始まった。その日の二人はいつもとは違い、向かい合うではなく、並んで座しておった。

―――二人はしばらく無言で月を眺めていたが、鬼がゆっくりと口を開いた。




「いい月だねぇ」

「…そうだな」

「何を話そうかねぇ」

「そうだな…」

「……ねぇ、あんたの話を聞かせてくれないかい?」

「私の話?」

「そう、あんたの話。あんたが一体どんな奴なのか、って話をさ」

「構わんが…、面白くはないぞ?」

「いいんだよ。私が聞きたいんだから」

「本当に、つまらん話になるが――」




―――そうして、青年は語り始めた。

―――自分がどこで生まれ、どのような生き方をしてきたのか。仕える主がいること、その主に忠誠を誓っていること、剣に生涯を懸けていることなど。

―――本当に面白味のない話だったが、鬼は目を閉じて静かに聞き入っていた。青年の言葉を一つ一つ、その身に沁み込ませるように耳を傾けた。

―――話が終わる頃に、鬼は目を開き、青年に問いかけた。




「どうしてあんたは一本しか差していないんだい? 立派な身なりをしているのに」

「これは我が家に伝わる刀だ。これだけが私の力に耐えられる」

「どういう意味?」

「普通の刀では私の力に耐えられず、折れてしまう。金がかかる上に持っていても仕方がないので、これしか差しておらんのだ」

「ふーん…。ただの若白髪じゃないとは思っていたけど、成程ねぇ」

「白髪は余計だ。生まれつきこうなのだから仕方ないだろう」

「気に障ったなら謝るよ」

「いや、奇異の目で見られることは慣れているからな。今更気に障るようなことではない」

「そうかい。でもそれだと鍛錬とか大変そうだね。木刀なんか軽くへし折れるんじゃないの?」

「それは力加減の問題だ。ただ、真剣では手加減ができん。だから折れる」

「難儀というか何というか…」

「私の話はこれで終わりだ。次はお前の番だな」

「そうなんだけどねぇ…。何から話したものやら」




―――鬼は頻りに首を傾げながら話題を探していた。しかし、いつまで待っても鬼は唸り続けるだけだった。

―――そんな鬼の様子を哀れに思い、青年が聞きたい事を聞き、話してもらうことにした。




「なあ……」

「ん? どうしたんだい?」

「どうしてお前は、一人なんだ?」

「…そうきたか」

「酒吞童子といえば数多くの手下がいたと聞く。それに、その仲間の茨木童子も有名だ。それなのに、どうしてお前はこんな所に一人でいる?」

「茨木童子……、どこで何をしてるやら。勇儀のやつも…」

「勇儀? 誰だ、それは?」

「私の友達さ。今はどこにいるのか知らないけど、多分地獄に帰ったんだろうね。他の鬼もきっと同じ」

「だから…、お前は一人なのか?」

「そうだねぇ…」

「どうして、お前は帰らないんだ? わざわざ孤独を選ぶ理由はなんだ?」




―――そう訊ねると鬼は閉口し、再び目を閉じた。その表情からは、何を考えているのか全く分からなかった。

―――虫の音が響く静かな世界で、月だけが二人を見ていた。やがて、鬼は語り始めた。




「私はね、酒が大好きなんだ」

「…それは知っている」

「一人で飲むのもいい、鬼仲間と飲むのもいい…。だけどね、こう言うと信じられないかもしれないけど――」

「なんだ?」

「一番楽しいのは、人と一緒に飲む事なんだ」

「人、と…?」

「にゃはは、やっぱり驚いたね。そうさ、人と飲むのが一番楽しい」

「嘘……、はつかないのだったな…」

「その通り、嘘じゃないよ。どうしてか分かるかい?」

「…分からんな」




―――そう、青年に分かるはずがなかった。鬼は人を攫い、喰らうもの。自分の目の前にいる鬼とて例外ではない。

―――そんな存在が、どうして獲物と飲み交わすことを至上の喜びとするのかなど、理解できるはずもなかった。




「他の鬼がどうかは知らないよ。ただ、私は昔から続く人と鬼の関係が気に入ってるんだ」

「それは、どんな関係だ?」

「勝負だよ。真っ向からの一対一。鬼に勝てばいい目が見られるし、負ければどうなるか分からない。そんな関係さ」

「しかしそれは…」

「分かってるよ。そんな事をする鬼なんて今は殆どいないし、そんな勝負に挑む人間だっていない。私は旧い鬼かも知れないね」




―――鬼はそう締めくくると、遠い目をした。もしかしなくても、昔を懐かしんでいたのだろう。

―――青年はそこまで聞いて、ふと気付いた。かの鬼が、何故月に一度の酒宴に人を招いていたのかということに。




「もしや、お前は満月の晩に人を呼び寄せては、勝負をしていたのか…?」

「…鋭いなぁ。でもちょっと違う。私は勝負を仕掛けたけど、受けて立った人間は一人もいなかったよ」

「一人も? そんなことはないだろう、誰か一人くらいいたのではないのか?」

「本当さ。誰も彼も、私の姿を見るなり怯えて逃げたんだ。私がこんな事言うのは変かも知れないけど…、少し寂しかったよ…」

「それは…、仕方ないだろう。誰だって鬼は恐ろしい」

「そうだね…、怖いよね…。でもね、我侭かも知れないけど、こんな形で恐れられるのは、本当は望んでないんだ」

「どういう意味だ?」

「人間は私を恐れたわけじゃない。鬼を恐れたんだ。それは私に対するようでいて、その実そうじゃない」

「…すまん、よく分からない」

「私が特別な鬼だっていうのは話したよね?」

「ああ…、聞いた」

「私は人が心に描く鬼という幻想そのものなのさ」

「…だからよく分からんと――」


「――忘るるな、人の子よ。汝の心に鬼在る限り、また我在り」




―――鬼の言葉によって、一瞬で周囲の空気が変わった。青年はそれが恐ろしかった。知らずのうちに身震いしてしまう程だった。

―――しかし、これまで感じていた鬼としての恐ろしさとは違うような気がしていた。それはまるで、人が神に対して抱くような畏れだった。

―――青年の額から汗が流れ、頬を伝い顎から落ちる。地面に滴る、聞こえる筈もない音がやけに大きく聞こえた。

―――そうして、鬼は破顔した。今までの事がまるで嘘だったかのような豹変ぶりだった。




「つまり、人が鬼を恐れる限り私は死なないのさ。私は人の思い描く、『鬼』という幻想の萃まりだから」

「…それならば、今のままで十分ではないのか…?」

「言っただろう、幻想の鬼だって。ただ人を喰らうのではなく、力あり、恐ろしい者でなくちゃいけないんだよ」

「何が、違うのだ…?」

「鬼の品格の問題さ。人に害為すだけならそこらの妖怪と変わらない。それは鬼じゃないんだ。そして、鬼は鬼としての地位を失い始めた」

「今の人間が恐れる鬼は、人を喰らうのみ…、だからか?」

「そうさ、鬼は今や人喰い妖怪としてしか見られていないんだ。荒ぶる神、強き者としての鬼は、忘れられつつある…」

「…なんとなく分かった。鬼という幻想が廃れつつあり、それがお前にとって悪影響を及ぼす、という意味なのだな?」

「ん、大体そんな感じ。それでも滅多な事じゃ私は死なない」

「何故だ?」

「鬼が恐れられ続けるなら、私は絶対に消えないからさ。弱くてちっぽけな存在に成り下がるかもしれないけどね」

「それでは無敵ではないか」

「無敵とは言えないよ。なにしろ力は衰えるんだ。勝てない相手がわんさか現れるだろうね。でもそんなの、私の矜持が認めない」




―――それはきっと、強き者としての矜持だろう。人々の幻想を体現するその鬼は、幻想であり続けることを願った。

―――故に嘆いた。人の心から鬼という畏れが消えてゆくことを。そして、その場所でただ独り守り続けたのだ。畏れを取り戻すため、ただひたすら…。

―――しかし、それは叶うことがなかった。人々は理由も分からぬままに、ただ鬼を恐れたのだ。それは、孤独な鬼の望みではなかった。

―――幾度悲しんだことだろう。幾度叫んだことだろう。その嘆きは、怒りのままに逃げ惑う人を殺してしまう程だったのだろう。

―――青年は、かつて鬼が静かに月を仰ぎ見ていたのを思い出した。その時の鬼の心の内が、今なら分かるような気がした。




「だから、人と勝負をしたかったのか」

「そうだよ…。でも、私の力を誇示できればそれでよかったのに、人は鬼という妖怪を恐れたんだ…」

「しかし、鬼は人を喰らうものだろう?」

「誰でも、ってわけじゃないよ。初めに言ったけど、面白い人間は生かす。だけど、浅ましい人間は、殺して喰うのさ」

「それは何故だ?」

「鬼の胆力に負けないような人間は、鬼を恐れないようでいて誰よりも鬼の恐ろしさを知る人間だ。だから生かす。
 だけど、怯えて逃げるような人間は、鬼を恐れるだけ。だから殺して喰う。それだけさ」

「…そうだったのか」

「傲慢だ、って笑うかい?」

「……何故だろうな。お前の事をそう思えなくなった…」

「それは、同情?」

「多分、違う。私にも分からない。お前と会ってから、自分でも分からない事ばかりだ」




―――青年は、かつてその鬼を何も考えていない者と思ったことがあった。そして今、それを悔いた。

―――鬼が抱える全てを、見た目と雰囲気だけで切り捨てていたことを恥じた。




(やはり、俺はまだまだ未熟だったか…)

「…私は、嬉しかったよ」

「何を突然…」

「もう数えるのが馬鹿らしくなるくらい人に勝負を挑み、逃げられたのに…、あんたは逃げなかった。私を恐れてなお立ち向かってくれた」

「それは…、村人たちに頼まれたからだ」

「それでも良かったの。あの時は嬉しくて嬉しくて…、涙が出そうになる程だったよ…」




―――青年は初めて鬼と対峙した夜の事を思い出した。厳密には、初めて勝負を始めたその直前の事を。

―――その時、鬼は何事かを呟いた。それは青年の耳にしっかりと届き、鮮明に焼きついていたのだ。




「だからあの時…、『ありがとう』と…」

「ありゃ、聞こえてたのかい? いやぁ、恥ずかしいね」

「その言い方では、全然そうは思えんのだが…」

「そんなことないって。恥ずかしくって顔から火でも吹く勢いだよ」




―――鬼の言葉通り、その顔はこれまで見たことがないほど赤く染まっていて、少女のようなはにかんだ笑顔を見せた。

―――鬼であり、神であり、妙齢の美しい女性でもあり、少女の様でもあるその女は、第一印象通り不思議な雰囲気という言葉が、やはり相応しかった。

―――それらを全てひっくるめ、混じり合った存在が、一個の「伊吹萃香」なのだろう。

―――もはや青年は、鬼の事をお前とは呼べなかった。それは、どの「伊吹萃香」を指す言葉ではないからだ。




「萃香は、強いんだな」

「…今、なんて言ったの?」

「萃香は強いと……、何かおかしかったか?」

「やっと…、やっと名前で呼んでくれたね…」

「呼んだが、そんなに取り立てて驚くようなことでもないだろう」

「だって、ずっとお前なんて呼んでたんだよ? ああ、なんか嬉しいなぁ…」

「大袈裟なやつだな」

「ね、もう一回呼んでよ」




―――萃香は、何度も青年にそれをせがんだ。そして、青年は何度もそれに応えた。特に意味のないやり取りだったが、二人はそれを楽しんだ。

―――そうして笑い合う二人の姿は、ずっと昔から一緒にいる友のように見えたに違いない。二人はひとしきり笑った後に、どちらともなく口を開いた。




「楽しいな…」

「楽しいねぇ…」

「なぁ…、萃香はどうして人と飲むのがそんなに楽しみなんだ?」

「そうだねぇ……、人ってさ、なんて言うか凄いよね」

「どんなところが?」

「力なんて全然弱いくせに、知恵を振り絞って私たちみたいな鬼を退治するし、ちっぽけなのにすごい勇気を持ってたりするところがさ」

「…そうだな、そんな人間も確かにいるな」

「だからさ、人と飲み比べして、そんな一面を見るのがすごく楽しいんだ」

「そうか…」

「だからあんたみたいな奴、私は大好きだよ」

「な…ッ! 何を言い出すんだ!」

「照れなくてもいいって、本心なんだから」

「それが問題なんだよ…」

「可愛いんだから~。ほれほれ」

「顔を突つくな、鬱陶しい!」




―――やはり萃香は不思議だった。真面目な話をしていたかと思えば、いつの間にか緩んだ空気を纏っていたりした。

―――青年は嫌がる風を見せ続けていたが、その胸中は実に穏やかだった。萃香に感化されたのか、青年はその空気をとても好んだ。

―――そこで、青年はまだ萃香に名乗っていない事を思い出した。




「なぁ萃香、私の名前だが――」

「それは言わなくていいよ」

「だがしかし…」

「今言われたら勝った時の楽しみがなくなっちゃうからね」

「そんな楽しみにするような名前ではないぞ…」

「にゃはは、面白い名前を期待してるよ?」

「期待するな!」

「にゃははは――あぁー…、笑った笑った」

「笑ったのは萃香だけだがな」

「そんな細かいこと気にしてたらいい男になれないよ?」

「そんなものは剣の腕となんの関係もない」

「もしかしたら私の心を射止められるかもしれないのに…」

「なんでそんな残念そうなんだ…。からかうのもいい加減にしろ」

「あり、バレちった」

「長い付き合いという訳ではないが、お前のことは良く分かっているつもりだからな。それに――」




―――幾度もの対決を経て二人は、家族ほど密ではないが、他人と呼べるほど疎ではない関係を築いていた。

―――しかしその絆は、確かに二人を強く結んでおった。それを互いに感じられたのだ。

―――その絆の名は――




「――友だろう、私たちは?」

「…そうだね。友達だ」

「そうだとも」

「あぁ……、本当に、いい月だねぇ…」




―――そう言って萃香は瓢箪を手にし、それに口をつけたかと思うと、そのまま空を仰いだ。

―――それが、最後の勝負の結末だった。




「…飲んじゃった」

「ああ…、飲んだな」

「私の負けだね」

「そうだな、萃香の負けだ」

「にゃはは、負けちった」

「私も危ないところだったさ」

「でも私の負けだね」

「そればかりは仕方無い。飲んでしまったのだからな」

「そうだね…。あー、こんなに美味しいお酒はどれくらい振りだろう…」

「む…、そんなに旨かったのか?」

「最高だったよ」

「それは惜しいことをした。私も飲みたかった」

「負けちゃうのに?」

「それとこれとは別問題、というやつだろう?」

「…そうだね、確かにそうだ。今ならまだ美味しいと思うけど、どうする?」

「もちろん飲むさ」




―――二人が酒を飲み交わすのに、ここまで静かなのは初めてだった。そして、ここまで旨い酒も初めてだった。

―――並んで月を眺め、酒を飲む二人の肩は、対決を初めた頃よりも幾分近くなっているような気がした…。




「それで、どうするの?」

「どうする、とは?」

「だから褒美だよ。初めの頃にあんたが望むものをくれてやるって言ったじゃないか」

「あぁ…、そうだったな…」

「そうだよ。だからどうするの?」

「なぁ、それは命令でもいいのか?」

「…まあ、勝ったのはあんただから好きにしたらいいよ。私に死ねって命令するのも自由さ」




―――青年にそんな気持ちは既になかった。得難き出会いで得た友を切って捨てるような真似が出来ようはずもなかった。

―――しかし、それをしなければ村人たちの期待を裏切ることになる。それもまた、出来なかった。

―――青年は悩んだ末に、萃香に対してある命令を言いつけた。




「萃香、もう人を襲うな」

「…本気で言ってるのかい? 私に遠慮して言ってるならとんだ勘違いだよ」

「本気だ。一つ聞かせて欲しいのだが、萃香は人を食べねば生きていけないのか?」

「そんな訳ないだろう。言ったじゃないか、人の心に鬼が在る限り死なないって」

「だったら、もう人を襲うな」

「それが何を意味しているのか分かってる? 結局は私に死ねって言ってるんだよ」

「畏れられなければならないのだろう。そんなことは承知している。だがそれなら別の方法があるはずだ」

「ほぅ…、そんな方法があるなら言ってみなよ」

「それは――」




―――青年は萃香にその方法を話した。すると、萃香は驚愕に目を見開かせるのだった。




「あんた正気かい? そんなことをあの連中が受け入れると、本気で思ってるのかい?」

「しかし、私には他の方法が思いつかない。萃香が人を殺さずに畏れられるなら、これが一番だと考えたのだ」

「あんたは甘いよ。そんな都合良くいくはずがない」

「私が必ず彼らを説得する。だから信じて欲しい」

「それが成功すると信じられる根拠はあるのかい?」

「無い。だが、信じてくれ」

「……わかった、わかったよ。あんたを信じる。好きにやりなよ」

「ありがとう。必ずや成功させて見せる」

「まったく………。そんな言い方、卑怯だよ………、馬鹿」

「何か言ったか?」

「いーえ何も。それよりあんたも欲が無いねぇ。何でも望むものが手に入ったんだよ?」

「私はそんなものが欲しくてお前と勝負した訳ではないからな。これでいい」

「ふーん…、ところであんたはその主とやらの所に帰るんだよね?」

「そうだな。遅くなってしまったから随分心配なさっていることだろう」

「ここからは遠いのかい?」

「いや…、遠くはないが…」

「だったら、次の満月の晩にここに来なよ。いい物あげるからさ」

「褒美はもう貰ったぞ?」

「褒美じゃなくてお礼だよ。私を楽しませてくれた、お礼。いいから来なって」

「…わかった、必ず来る。約束する」

「ああ、約束だね」

「それでは私はもう行く。暫しの別れ、さらばだ」

「おいおい、そいつは違うよ」

「…何が違うのだ?」

「こんな時は、また会おう、って言うんだよ」

「そうだな……、では萃香」

「ああ」


「「また会おう」」




―――そうして、互いに背を向けて歩き始めた。また会える、そう思えば惜別の念など感じられなかった。

―――青年にとって、その夜の出来事、いや、萃香と過ごした夜は決して忘れられぬものとなったのだった。そして、青年は村に戻った。

―――帰還した青年を待ち受けていたのは、村長をはじめとした多くの村民だった。皆、一様に不安げな顔をしていた。




「勝負は私の勝ちで終わった」

「おおぉ……、ありがとうございます。ありがとうございます…!」

「しかし、滅することはできなかったのだ」

「そうでしたか…。やはりお侍さまの力をもってしても無理でしたか…」

「だが、もう二度と人を襲わないように、との約束を取り付けてきた」

「なんと…、そんなことが…」

「すると、鬼から条件を出されたのだ」

「それはどのような…?」

「うむ、それはな――」




―――それは青年の嘘だった。萃香の出した条件ではなく、全ては青年の考えた筋書き。

―――内容はこうだった。


『人は襲わぬ。代わりに、我を崇め畏れよ。さすれば我はそなたらの守り神たらんことを誓う。
 然れども、我を畏れずば、たちまち我が怒りがそなたらに災厄をもたらすこととなるであろう。
 人よ、我を畏れ敬え。我は禍々しくも強きなる者、鬼なり』




「――というものだ」

「そんな…、我々はどうしたら良いのですか…?」

「まず、鬼がいると言われるあの場所に祠を建てるとよい。そこに供物を供えなさい。酒などが特に好まれるようだ」

「はい、必ずやそうします」

「そして、その祠の前で宴会を開くとなお良いだろう」

「それは…、恐ろしくてとてもとても…」

「分かっている。だから月に一度、いや、年に一度でも良い。あの鬼と酒を飲んでやってくれ」

「しかし、そんなことをしては殺されてしまうのでは…?」

「そのために、人を襲わぬよう約束させた。鬼は嘘をつかないらしい。
 鬼に立ち向かう心構えはな、畏れつつも無闇に恐れぬことだ。さすればあの鬼を怒らせるようなことはあるまい」

「…分かりました。いきなりは無理でしょうが、最善を尽くすことにします」

「うむ、それが良い。あの鬼は酒吞童子と呼ばれた大鬼だ。その加護を得られれば、村はまず安泰だろう」

「酒吞童子ですと!?」




―――やはりその名は、誰しも一度は聞いたことのあるものだった。案の定、その村長も知っていた。それ故に驚愕したのだ。

―――強大な鬼として広く知れ渡っていたからこそ、その村は猶のこと萃香を畏れずにはいられないだろうと、青年はそう考えていた。

―――これが、青年の思い描いた最善だった。人が死なずに、萃香が畏れられるにはこの方法しか思いつかなかったのだ。

―――しかし青年は気付いていなかった。歯車は、既に狂い始めていたのだった。




「それでは、私はこれにて失礼させてもらう。長らく世話になった」

「お侍さま、まだ私たちの恩返しが済んでおりません」

「いや、長い間世話になったからな。今更そのような事をされると些か心苦しい。気持ちだけ受け取っておこう」

「そんな、私たちの気が済みません」

「ならばそうだな…、鬼の忠告を守ってやってくれ。恩返しというならば、それでいい」




―――そうして青年はその村を発った。帰りの道中、萃香との約束の場所が目に付き、しばらく眺めておったがすぐに歩き始めた。

―――また会うのだから、感傷は必要ない。青年は再び会うその日を心待ちにして、主の元に向かうのだった。

―――しかし、青年は気付いていなかった。酒吞童子、その名を聞いた時に村長が驚愕した、本当の理由に…。




「長、本当にあんな言葉を信じるんですかい?」

「うむ…、あのお侍さまは信じられる。だが、鬼の言葉など信じるものか」

「当然でさぁ。今まで散々仲間を殺されたんだ、信じられる訳がねぇ」

「あの御仁が言っておったが、我らを脅かす鬼は酒吞童子らしい」

「それがどうかしたんで?」

「その鬼は、都で暴れまわったと言われる伝説の鬼じゃ。やはり恐ろしい鬼だったようだの」

「そんな…。それじゃ俺たちじゃどうしようもねぇ…」

「結論を急ぐな。この話には続きがあってな、その鬼は――――…というわけじゃ」

「そんなことが…。それなら俺たちでも何とかできるかも知れねぇ!」

「うむ。まずはあの御仁の言葉通りに行動し、鬼を油断させるのだ。そして宴会を開き…」

「始末するってわけですね」

「その通りじゃ」

「よーし! 必ず敵は取ってやるからな!」




―――主の屋敷に着いた青年は、まず盛大に怒られることとなった。主に心配をかけるなど従者として恥ずべきこと。青年は当然の事として受け止めた。

―――怒鳴り散らした主は、次に何があったのかを尋ねた。そこで青年はありのままを話すと、主はたいそう驚いたものの、青年を快く許すのだった。

―――そして、次の満月の晩に萃香を会う約束をしたことを話すと、主はこれまた快く許可をした。ただし、今度は心配をかけるなと言われた。

―――ついに、その日がやってきた。




「むぅ…、これでは着く前に日が沈んでしまう。あいつを待たせると何を言われるか分からんからな、少し急ぐとしよう」




―――青年は屋敷を発ち、萃香の元へ向かっておった。既に日が沈みかけていて、少し歩く速度を速めることにした。その手には土産の酒を持って。

―――口では仕方ないように言ってはいたが、萃香に会いたいという気持ちが青年を逸らせていたのは間違いなかった。

―――そして、辿り着いた。二人の約束の場所へ。日はとっくに沈み、満月が悠々と空を支配していた。




「結局遅くなってしまったか。ん、あれは…?」




―――そこを視界に収めたとき、何か騒々しい人だかりがいるのが確認できた。青年は村人たちが宴会を催してくれたものと思い、そこに向かった。

―――しかし、そんな彼を待ち受けていたのは、武器を手に萃香を睨む村人と、凄まじい鬼気を放つ…、萃香だった。

―――だが不思議な事に、その萃香が纏っていた妖気は以前見たそれより、はるかに弱々しい印象を受けた。




「これはどうしたことだ!?」

「おぉ…! あなたは! いいところにおいで下さった。あの鬼を成敗してくだされ!」

「成敗…? 何故そのような事をしなければならない」

「宴会の最中に鬼が突如暴れ始めたのです。私たちでは手に負えません。どうかお助け下さい…!」




―――村人たちの言が確かならば、萃香は青年との約束を破ったということになる。

―――鬼は嘘をつかないと豪語していた萃香がそのような事をするとは、青年にはとても思えなかった。だから、どうしても萃香と話がしたかった。




「…わかった。凄まじい戦いになるだろう。おぬしらは村へ避難し、私が戻るまで一歩たりとも出てはならん」

「ですが…」

「早く行けッ!!」

「は、はい! おい、みんな行くぞ!」




―――そうして残されたのは、青年と萃香のただ二人だけだった。

―――『また会おう』…。その約束は果たされたが、このような形で再開することになるとは夢にも思っていなかった。

―――恐ろしい空気を纏った萃香を見ると、青年は目頭が熱くなった。




「来て、くれたんだね…」

「…約束したからな」

「にゃはは…、嬉しいねぇ…」




―――それでも萃香は普段通りに振る舞おうとしてくれた。だから、青年も精一杯それに応えることにした。

―――だが、青年には二の句が紡げなかった。今の萃香に、何を話しかけたら良いのかが分からなかったのだ。

―――青年が黙ったままでいると、突如萃香が地に膝をついた。驚いた青年は、急いで萃香に駆け寄った。




「どうしたんだ! いったい何があった!?」

「別に…、村人たちの宴会に混ざっただけだよ…」

「馬鹿な! それがどうしてこんなことになる!」

「言ったじゃないか…。あんたは甘い、ってさ……」

「何の話だ…?」

「有名人は辛いねぇ…。どうやって退治されたか、そんなことも知れ渡っちゃうんだから…」

「………ッ!」




―――その一言で青年はすべて理解した。そして、己の浅慮を悔いた。

―――酒吞童子、それはかつて頼光四天王の異名をとる豪傑たちに打ち取られた鬼である。神便鬼毒酒という酒を盛られ、身動きが取れなくなったところを成
    敗されたという逸話が有名であるが、その逸話の舞台となるのは四天王によって催された、宴だった。

―――村長はそのことを知っておった。それで、そのような事になったのだ。全ては青年の失敗が原因だった。




「あれほどキツイ毒じゃないけど…、どこから持って来たのかねぇ。私が身動きできなくなるなんて、大したもんだよ…」

「すまなかった…、私の所為でこんなことに…!」

「あんたが謝ることじゃないさ…。宴会にのこのこと出向いた私が悪いんだから…」

「それでも…、謝らせてくれ…!」

「そうそう…、私、約束破らなかったよ…。あいつらは腰抜かして驚いてたけど、私は、あいつらを威嚇しただけさ…」




―――その言葉を聞いて、青年は僅かに安堵した。萃香が約束を破っていなかったことを喜んだ。

―――ほんの少し気が抜けて、青年は奇妙な点に気がついた。鬼の象徴とも言える角が、額にあった立派な角が跡形も無かったのだ。

―――そんな分かりやすい変化にも気付けないほど、青年は動揺していた。そして、萃香が弱々しく感じられた原因はそれだったのだろう。

―――角は鬼の力の象徴。それを失うことは力の減退を意味する。だから、村人が拵えたような毒にも膝をついてしまった。




「萃香! お前、角が…!」

「別にあいつらにやられたって訳じゃないよ…。額の角なら、ここにあるから…」

「何を言っている、現に無いではないか!」

「ここだよ…。これさ…」




―――そう言って萃香がその手に持ったのは、一本の大太刀だった。

―――黒く塗られた鞘に収まったそれは、その鍔、柄までもが黒く、それでも華やかな意匠が施されていた。

―――青年は一目で理解した。その刀の放つ圧倒的な存在感は、尋常ならざるものだと。それは、鬼気を纏う萃香を彷彿とさせた。




「苦労したんだよ…? 腕のいい刀鍛冶、といっても人間じゃないけど、それを探すのはね…」

「馬鹿もの! どうしてこんなことを…」

「言ったじゃないか…、あんたに渡したいものがある、ってさ…。他に思いつかなかったんだよ…」

「だからと言って、どうしてお前がここまでしなければならないのだ!?」

「気になってたのさ…。あんたほどの侍が、短刀一つじゃ格好がつかないだろう…? 普通じゃ駄目だって聞いたから、私の角を使ったんだ…」

「答えになっていない! 何故お前はここまでしてくれるのだ…、どうして…」

「それを聞くかい…、野暮だねぇ…。まぁ、私を心底楽しませてくれたお礼だと思っときなよ…」

「そんな理由で納得すると思っているのか…!」

「もういいじゃないか…。そんなことより、貰ってくれるかい…?」




―――そして、萃香は青年にそれを託した。

―――太刀は見た目とは裏腹に軽く、しかし、重かった。その重さの理由を、青年は強く深く感じた。

―――それと同時に不安も感じた。果たして、自分がこれを持つに相応しいのかと。

―――青年はその不安を打ち明けると、萃香はそれを一笑に付した。




「この世のどこに、あんた以外に相応しい奴がいるのさ…?」

「しかし…」

「男がうじうじ悩まないの…。いつもみたいに堂々としておくれよ…」

「…私に、これが振るえるだろうか」

「どうしても不安ならそれでもいい…。資格がないと思うのならそれでもいいさ…。
 それなら、いつかそれに相応しい男になれるように日々精進することが、あんたの為すべきことじゃないのかい?」

「…そう、だろうか?」

「少なくとも、今のあんたは格好悪いねぇ…」




―――青年はしばし黙考した。その頭の内にあったものは、感謝だった。萃香の言葉によって不安は吹き飛ばされたのだ。

―――不安を感じるより、それを無様に打ち明けるより先に、青年はまず、萃香に感謝すべきだということに、ようやく気付いたのだった。




「ありがとう…」

「…どういたしまして。ねぇ、抜いて構えてみてよ…」




―――言われるがままに、それを鞘から解き放つ。美しくも妖しい刀身を持つそれは、月明かりを受けて、鈍色に輝いた。

―――青年はそのあまりの美しさに言葉を失い、無言で幻想的なその刀を構えた。その心の内は、あまりに見当はずれなものだった。




(ああそういえば…、今宵は満月だったな…)

「似合うねぇ…。やっぱり私の目に狂いはなかったよ…」

「そうか?」

「そうさ。何を切ったところで刃毀れ一つしないと思うけど、大事に扱ってよ…?」

「無論だ。言われるまでもない」

「ありがとう…」

「それは私の台詞だ…」

「にゃはは……。さて、と…」

「おい…、立っても大丈夫なのか?」

「なんとかね…。それより、やらなきゃならないことがある」

「それは一体…?」

「ここに住まう鬼の伝説を、終わらせるのさ…」




―――青年は萃香の言葉の意味が分からなかった。それよりも、しっかりと立っているようで覚束無い足取りの萃香を心配した。

―――さりとて萃香の瞳は揺らがず、確固たる意志を持って大地に根ざしていた。青年の心配は、萃香に対する侮辱でしかなかった。

―――青年は、再び己を恥じた。そして、やはり萃香には敵わないとも感じた。




「終わらせるとはどういう意味だ?」

「そのままの意味さ…。私はここで、退治されるんだよ。あんたの手でね…」

「…何を言っている。もはやここに留まれないと言うなら、どこへなりとも行けば良いではないか」

「それが出来たら苦労はしないよ…。あいつらの毒は意外と強くてね、動くのもしんどいのさ…」

「ならば、私が安全な所まで――」

「あんたの手は借りたくない。あんたは友達だけど、あんたを頼ったら対等じゃなくなる」

「――ッ!」

「私はあんたと対等でいたい…。おかしいね…、恐ろしいとか、強いとか思われ続けたかったのに、あんたとだけはそんな関係がいいって思うんだ…」

「だからと言って、何故退治など…」

「あんたが私を見逃して、このまま動けないでいても…、くだらない人間、妖怪どもの餌食になるだけさ…。そんなの耐えられない…」




―――それは鬼としての矜持、荒ぶる強き神としての意地だった。

―――萃香は、どこまでいっても萃香だった。そして、「伊吹萃香」のまま終わることを願ったのだ。




「私なら、いいのか…?」

「あんたがいいのさ…。まだまだ未熟で大した力も持ってない癖に、私に真っ向から向かってきたあんたが…」

「友を、切れと言うのか…?」

「…ごめんね、こんなこと言って。でも、お願いするよ…」

「……承知した」

「ごめん…、ありがとう…」

「…一つ、聞かせてくれ。お前は、本当は気付いていたのではないか?」

「何に…?」

「人の欺き、裏切りだ。酒吞童子であった時、そして今宵も」

「なんで、そう思うんだい?」

「何故だろうな…。なんとなくそんな気がしたんだ」




―――萃香は考え無しのようではいたが、物事を見通す力が無かったのではなかった。普段の言動が、慎ましやかにそれを隠していた。

―――だから青年はそう思ったのだ。そう思わずにはいられなかった。

―――何より萃香は、人と飲む酒がこの上ない楽しみだと、そう言っていたから。




「…どうだろうねぇ。あんたはどう思う…?」

「どうだろうな…。分からんよ」

「だったらそれでいいのさ…。でもね…」

「でも…?」

「…楽しかったよ」

「そうか…。良かったな」

「うん…!」




―――それ以上の言葉はいらなかった。人の裏切りはとても悲しいことだったろうに、それでも楽しかったと言うなら、青年には何も言うことが無い。

―――話が終わると、青年が静かに刀を正中に構えた。それしかできることがなかった。

―――萃香は静かな瞳で青年を見つめていた。その顔に浮かべた笑みは、青年が見た中で一番、穏やかだった。

―――やがて、青年が口を開いた。




「強く恐ろしく、そして偉大なる鬼よ。この私が成敗してくれる」

「…この伊吹萃香に勝てると思うのか? 矮小なる者よ」

「勝たねばならん。その首、その名はここに置いて逝け」

「面白いじゃないか…。出来るもんならやってみな」

「冥土の土産にしかと聞け。我は西行寺に仕えし剣士、魂魄妖忌なり」

「……ずるいなぁ。ここでそれを言うかい?」

「強き者と立ち合うならば当然の礼儀だ。ましてや真剣勝負なら猶更というもの」

「妖忌、か…。いい名前だね」

「それに、友に名を名乗らぬままというのも、礼儀にかけるだろう?」

「あんたはそんな性格だったね…。でも私は、そんな妖忌に…、救われたよ」

「私も、萃香には随分楽しませてもらった」

「そうだねぇ…、妖忌は普通の人間じゃなかったけど、私も楽しかった」

「やはり気付いていたか。どうせ初めから分かっていたのだろう?」

「どうだろうねぇ?」

「こいつめ…」




―――剣呑とした言葉の応酬の最中であっても、二人は終始笑っていた。

―――その姿は立ち合いと言うよりも、友人同士のじゃれ合いという言葉が相応しかった。

―――しかし、終わりの時というものはやって来るのだった。二人に悲壮感はなかった。惜別も感傷も、全てがその場に似つかわしくなかった。

―――だから、それで良かったのだ。




「なにか、言い遺すことは…?」

「特に無いよ。一思いにやって」

「そうか…。では、いくぞ」

「あぁそうだ…、一つだけあったよ」

「なんだ…?」

「また…、会おうね」

「…ああ、またいつか会おう。そして、また二人で飲もう」

「にゃはは、そいつはいいねぇ。楽しみだよ、妖忌…」

「私もだ、萃香…」




―――それが、二人の交わした最後の会話だった。

―――萃香から授かった刀で初めて切ったのは、いかなる皮肉だったのか、萃香自身だった。それを思うと、刀がより一層重く感じられた。

―――倒れ伏し、物言わなくなった萃香は間もなくその姿をかき消した。まるで、夢幻であったかのように、跡形もなく。

―――そこに残ったのは、村人が建てて萃香が壊したのか、倒壊した祠だけだった。

―――村に戻り、萃香を退治したことを告げると彼らは喜んだ。そして、青年は静かに村を後にした。誰も責めることができなかった。


―――そして青年は、帰り際にあの場所に寄った。




「人の心に鬼在る限り…、か。縁があればまた会えるだろう、萃香。
 この酒…。お前と飲むつもりだったのだが、無駄になってしまったな…。まぁいい、お前にやろう。気が向いたら飲んでくれ、旨いぞ?」




―――青年は、壊れた祠に酒を供えた。そして、そのまま去ろうとすると、一陣の風が吹き抜けた。その風にまぎれて――




にゃはは、嬉しいねぇ




―――聞こえた。確かに青年は聞いた。しかし、驚き振り返ってみても、そこには祠があるだけだった。

―――何も変わり映えしない景色の中で、ただ青年の供えた酒瓶だけが、姿を消していた。




「あいつめ…。いるなら私に一言挨拶くらいしたらどうなんだ、まったく…」




―――青年はおかしくて、ただひたすらに笑った。

―――悲しみなど無く、ただひたすらに爽快だった。




(それもある意味、萃香らしいか…)

「…では萃香、再会するその日までしばしのお別れだ。また、会おう」




―――かくして鬼は退治され、村人たちは平穏を取り戻した。

―――鬼は姿を消し、鬼を証明する物は、妖怪の鍛えた鬼の角だけだったが、青年は確かに覚えている。

―――「伊吹萃香」が在ることを…―――


―――…おしまいだ。どうだった?

うー…、おじいさまのお話、むずかしくってよくわかんない…

はっはっ、それはすまんかった

でも、鬼さんかわいそう…

そうだのぉ…、だが、鬼さんはいなくなったわけではないぞ

どうして?

儂が知っておるからだ。伊吹萃香の恐ろしさをな

ふーん…、ねぇおじいさま、お侍さまのお名前、おじいさまといっしょだったね

妙な偶然もあったものだな。さ、もう寝なさい。明日も朝から鍛錬だぞ

はーい、お休みなさい、おじいさま

お休み、妖夢………。また会おう、か―――




―――これは、いつか、幻想郷のどこかであったお話。




「今夜はいい月だねぇ」

「そうだな」

「私はまだ誰も招いていないのに、お客さんだ。まるで、いつかの様じゃないか」

「そうだな、儂にも覚えがある。もっとも、こんなに小さな相手ではなかったがな」

「私も、こんなお爺さんが相手じゃなかったよ」

「また、会えたな…。まさか幻想郷に来ているとは思わなんだぞ、萃香」

「こっちこそ、幻想郷にいるとは思わなかったよ、妖忌」

「…随分と様変わりしたな」

「にゃはは、あんたがそれを言うかい。でも、力が弱くなってこんなんなるとは思わなかったよ」

「これは純粋な時の流れだ。しかし…、お前は変わっていないな」

「…あんたもね。いや、失礼。随分いい男になった」

「褒めても何も出ん」

「そりゃ残念。ところで、あの刀は…?」

「孫に譲った。まだまだ粗いが、いずれ立派な剣士になる」

「やっぱりあんたの…。そうだと思ったよ。初めに見た時は、そりゃあ驚いたもんさ」

「会ったことが?」

「何度かね。知らない仲じゃないよ。さて、世間話はここまでにして…」

「そうだな…」

「いつもの合図で始まりだ。いいね?」

「今宵こそ儂が勝つ」

「それは私の台詞だよ。それじゃあ……、三――、二――、一ッ!」




―――長き時を経て果たされた、約束のお話だったとさ。めでたし、めでたし…。
酒吞童子は角が五本あったという説があるらしいですね。(酒吞童子wiki参照)

あれ…、萃香って、酒吞童子で合ってますよね…?

そして、楼観剣が萃香の角だったという冒険設定。萃香にカリスマを持たせたかったのです。

本当は楼観剣の由来をメインに書きたかったのですが、妖怪が鍛えただけでは…。解釈の幅が広がるのはいいですが、自由すぎて困りました。

最初はもうなんか、ロン・ベ○クみたいな人がいるのか、とか色々考えましたが、登場させない方向で収まりました。

その代わりというわけではありませんが、幼夢登場。誤字ではありません。

長々とした作品になりましたが、ここまでお付き合いいただいた皆様すべてに感謝します。本当にありがとうございました。

皆様の感想、ご意見をお待ちしております。今回は特に自分でも大冒険しましたので、指摘がございましたら是非ともお願いします。

※ 53:名前が無い程度の能力さん
   そうだったのですか…。確かにその辺りはたいして練り込まずに書いていました。
   ご指摘本当にありがとうございます。少し手直しさせていただきました。
お腹が病気
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コメント



0.2950簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
素直にアリだと思った。
7.90名前が無い程度の能力削除
大人スイカは勇儀姐さんみたくたゆんたゆんなんだろうか…
たゆんたゆん

5本も角あったら邪魔だよなぁ
13.80名前が無い程度の能力削除
れいみょんですねわかります
14.100名前ガの兎削除
良いモン読ませてもろた
16.100名前が無い程度の能力削除
幻想郷と此岸が無理なく繋がった傑作だと思います。
妖忌と萃香、再開できてよかったっ!
17.100名前が無い程度の能力削除
I,m lovin it!
23.100名前が無い程度の能力削除
普通に良かったと思う。おもしろかった。
24.100名前が無い程度の能力削除
えがった。ごっつえがった。
28.100名前が無い程度の能力削除
すんばらすぃ。
31.100名前が無い程度の能力削除
ただ一言、泣けました
35.100名前が無い程度の能力削除
妖忌の武士っぷりといい萃香のいい女っぷりといい……
最高やでぇ……
39.100名前が無い程度の能力削除
すばらしい!妖忌ナイス!
42.100名前が無い程度の能力削除
感動しました
50.100名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナー
53.100名前が無い程度の能力削除
なるほど。昔は姐御だったんですねw

無粋な突っ込みかもしれませんが、勇儀姐さんの件は「星熊童子」って、まんまな鬼神がおられるので、そちらではないかと…
確かに、茨木童子は鬼女だったという伝承もありますが。そのうち登場するかもw
54.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい物語をありがとう。
56.90名前が無い程度の能力削除
大好きです
57.100名前が無い程度の能力削除
オリ設定だというのに違和感無くすんなり入ってきました
素晴らしい、実に素晴らしい
67.90名前が無い程度の能力削除
\アリだー!!/
69.100名前が無い程度の能力削除
普通によかった。
もっと評価されるべき。
73.90名前が無い程度の能力削除
妖忌にありがとうといいたい。
78.100名前が無い程度の能力削除
オリ設定に違和感もなく良い話でした
81.100名前が無い程度の能力削除
爽やかだねえ
82.100名前が無い程度の能力削除
オリ設定だけど楽しめた
妖夢と萃香の絡みがほしい
83.100名前が無い程度の能力削除
87.無評価名前が無い程度の能力削除
なんか主が心配するからとか銀髪あたりからうすうす
誰かは気づいていたがこの話はイイハナシダナー
二人が再開できてよかったです( ;ω;)
88.100名前が無い程度の能力削除
すいません点数つけわすれです
89.100名前が無い程度の能力削除
良い