Coolier - 新生・東方創想話

目覚めの刻

2009/05/11 13:51:31
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 ちゃぶ台の上に硬貨が並ぶ。三枚の硬貨。駄菓子屋へ行けばなんとか『うめえ棒』が三本買えるほどだ。
つまりは、三人の人間がその日を凌ぐ事さえまかならない金額なのである。

 ちゃぶ台の周りに三人が、硬貨を見つめつつ正座をしている。
その面持ちは一様に険しく、眉間にはしわが寄り、冷や汗を流していた。

 一人は赤い衣装を身にまとい、その険しい表情は初見の者ならば震え上がるほどだ。
だが、現在は従来の威厳から威厳だけ抜け落ちている。ただ人相が悪いだけだったりする。

 一人は白と青の風祝装束に身を包み、むむむと唸りながら硬貨を睨む。
正座し続けている足の先が痺れたのか、むずむずさせている。

 最後の一人は、奇怪な造形の帽子をかぶり、最も幼い容姿であった。
本当は三人の中で最年長ではあるのだが、容姿や佇まいからは全くそれが伝わらなかった。

「早苗、これは一体どういう事だい?」
「み、見ての通りです、八坂様。今月のお賽銭とお布施です……」

 赤い衣装――八坂 神奈子が、風祝――東風谷 早苗に問う。早苗は視線を泳がせながら、事実を述べる。
再度、ちゃぶ台の上に視線を戻す。変わらぬ三つの銅の輝きがそこにあった。
神奈子は頭を、文字通り抱え込む。

 神である彼女らは、信仰を集める事が存在意義である。
だが、信仰だけではもちろん腹は膨れない。食べるためにはお賽銭やお布施――現物を含め――が必要となるのだ。
無論、彼女ら三人に信仰が寄せられていない訳ではない。
しかしながら、お布施とは元来で要求するものではないのだ。強要してしまってはお布施ではなく、それはただの会費である。

 ここ一ヶ月、見事にお布施が滞っていた。
別に信仰を集う行動を怠っていた訳ではない。むしろ精力的に行っていた、と神奈子は考えている。
だが、何故にお布施が増えないのか。唸っても答えは出なかった。

 更に追い討ちをかける事態も併発していた。
数週間前に信仰を寄せる河童の一族の河城 にとりが『核による永続的エネルギー炉』なるものを開発するとの事で、スポンサー料金を要求されたのだ。ちなみにその金額は普通に家が一軒建てられるほどのものだった。だが、成功時の見返りが莫大だった事に、早苗が二つ返事で許可を出して投資してしまったのだ。
後に、にとりに完成時期を確認したところ、少なからず二十年はかかるとぶったまげた返答がきたのだった。
とりあえず、早苗は投資を要求したその場で先に言えとにとりをしばいておいた。力の限り。自分の事は棚に上げて。

 賽銭箱には一銭も入っていなかった。
それもそのはず、この守矢神社は山のほぼ頂上に位置する。しかも、妖怪の山の。
人間がここに上るには度胸が必要であり、標高もそれなりにあるため、正直なところで神奈子らが人里に赴いて信仰を募り、その際にお布施もというケースが多いのだ。

「まったく、米も底をついたってのに……」
「大丈夫です、八坂様!」

 早苗が嬉々とした面持ちで続ける。

「お賽銭箱にこれが入っていました!」
「……私の目がド近眼でなければ、それはアイスの棒じゃないか?」
「はいっ。しかも……何と当たりです!!」

 立ち上がり、ババーンと掲げてみせる早苗。完全にアホの子を見る目で呆然とする神奈子。
その視線に気がつくと、はて?という感じで早苗は神奈子を見つめ返す。

「えっ? ちゃ、ちゃんと当たりですよ? 『あたい』とかではないですよ?」
「いやいやいやいやいやいや」

 頭を再度抱え込み、手を振って早苗に座るよう合図を送る。
長く早苗と暮らしてきたが、彼女はどうにも論点がずれている事が非常に多いように神奈子は捉えていた。

「仮にそれを交換したとして、一本だろう?」
「そうですね、多分」
「三人の内の誰が食べるんだい?」
「…………はっ!?」

 衝撃が走る! というような面持ちで、早苗は手に持ったアイスの当たり棒をからりと落とす。
ふるふると震えつつ、搾り出すような声で彼女は答える。

「な、仲良く……三人で分けませう……」
「古文的文法になるほど衝撃を受けんでも……」

 米は底をつき、もちろんパンも無ければ、お菓子も無い。麺も無いし、ナンも無いし、トルティーヤなんかもある訳ない。
野菜も果物も魚も肉も小麦粉も塩も砂糖も醤油も味噌も……、兎にも角にも食べられる物が見事に無くなっていたのだった。
最近は山菜や川の魚等で凌いでいたが、近隣のものが全くもって姿が消え失せていた。人の食欲とは偉大である。

 そこで神奈子はふと、ある事に気づく。

「ん? 諏訪子、どうした?」

 先ほどから正座の姿勢のまま動かないもう一人、洩矢 諏訪子を見やる。
先ほどまでと比べると俯いた姿勢になっているが、微動だにしていない。完全に微動だに、である。諏訪子も神であるが、身体の基本構造は人間と変わらない。
つまり、呼吸はすべきなのである。

「諏訪子おおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 慌てた神奈子は、彼女の目を覚まさせるために本気でぶん殴る。若干の血しぶきを口から噴射しつつ、豪快に襖まで吹っ飛ばされ、襖を突き破って下半身だけだらりとぶら下がったような状態で停止する。
ぶん殴るまでの必要は無かった事に、神奈子はふと気づく。再度慌てて諏訪子に駆け寄ると、彼女はバッと跳ね起きて周囲を見渡す。

「さっきまで小町っちゃん(こまっちゃん)が綺麗な花畑にいて、優しい笑顔で『あはは~、こっちこっち~』って……」
「落ち着け、諏訪子。それは逝ってはいけない領域だよ」
「……あれ、なんで吐血してんの、あたし?」
「それは気にすんなっ☆」

 キラッと歯を輝かせて――ついでに冷や汗をだらだら流し――、親指をグッと立ててみせる。
諏訪子を襖から引っ張り出すと、神奈子は元の位置に戻り、やはり足が窮屈だったのか、今度はあぐらをかく。

「話を戻そう。見ての通り、諏訪子も空腹で限界を迎えつつある」
「八坂様。今のは八坂様がとどめをさそうとしたようにしか見え――」
「とにかく今すぐにでも何とかしないといけないんだ!」

 ドンと拳をちゃぶ台に叩きつける。もちろん、誤魔化す意図でしかないが。
諏訪子がよろよろと自身の座布団の上へと戻り、腰を下ろすとそのままちゃぶ台へとへたり込む。
そして間髪入れずにぐうという音が彼女の腹からこだまする。

「どーでもいいけどさぁ、とりあえず今日のご飯どうしようか……」
「ですから、ここにアイスの当たり棒が――」
「それはもういいっての」

 再度、神奈子は早苗にツッコミを入れる。そこには軍神としての迫力などかけらも無く、ただこれ以上余計な力を使わず、且つ娘を正しい道へと修正するかのように。
そう。差し当たっての問題は、本日の食事になのである。そろそろ日も傾こうかという時刻なのだが、彼女らはこの日、一切の食事ができないでいた。正確には三日前から、水以外を口にしていない状況だったが。
最初は野山を駆け回って、食材調達に躍起になっていたのが諏訪子だったが、何も無い状態に気づくのに一日と数時間かかり、結果として体力が三人の中で一番消費してしまい、現状では黄泉に片足を突っ込みかけたのだった。
神奈子と早苗は信仰者の家々を回ったのだが「間に合っています」の一言で、用件を伝える前に締め出されてしまうのだった。

「しかし、あの態度は何だったんだ。何も言ってもしないのに……」
「本当にそうですよね。信仰を募る時も、欠かさずに玄関先でありがたい経文を二時間に渡って読み続けていたのに」
「……早苗、それはいつから始めたんだい?」
「そうですね……一ヶ月くらい前からですね。我ながらナイスアイディアだと自負してます!」

 神奈子はマジで泣いた。涙を滝の如く流して、だが無言で天を仰ぎ、泣いた。
原因がわかったのは良しとしても、今からそれを払拭するのは時間がかかり過ぎる。水だけでどれだけ生存可能かなどという、耐久勝負を身内でその間ずっと行おうなどと馬鹿な考えは無い。
どうしたものかと、色んな意味での頭痛に悩まされていると、バンと襖が開く。ちなみに諏訪子がぶち破ったところとは別、玄関口の方だ。

「話は聞かせて頂きました! どうも、清く正しく射命丸です」

 やって来たのは、同じ山に住まう鴉天狗のブン屋であった。
神奈子としては彼女を『話していると疲れる人物』と認定していたため、露骨に怪訝な面持ちを見せる。いや、その前に無断で人ん家に入ってくるなとも思っていた。
早苗と諏訪子は彼女の新聞、特に幻想郷の旬な話題の部分を好んで読んでいたため、どちらかといえば友好的に迎えていた。

「文さん、いらっしゃい。どうぞ、何もありませんが……、お水でもいかがですか?」
「いえ、結構です。それより、耳寄りな話があるんです」

 諏訪子がずずいと身を乗り出して、最初に食いつく。

「耳寄りって?」
「はい、実はですね、わたくし射命丸が弊社『文々。新聞』の新企画としてこんな事を考えているのですよ」

 鞄の中から一枚の書類を取り出す。
 早苗が受け取り一瞥すると、何といえばいいか、実にうっとりとしたような面持ちを浮かべている。
 神奈子と諏訪子も書類を覗き込む。そこにはこう書いてあった。

『神様達は『あいどる』!? 新曲リリースまでの彼女らを徹底追跡! 素顔のあの娘(こ)にドキッ☆』

 今すぐにでもこの書類を破って、切り刻んで、叩きつけて、燃やして、幻想郷から抹消したい。神奈子はそんな気分だった。
 だが、早苗に続き、諏訪子も嬉しそうに更に文面を読み進めていた。非常にまずい事態である。二人とも乗り気のようなので、このままではこれが現実化してしまう。
 断固阻止すべく、神奈子はとある行動に移る。

「あー、射命丸さんや」
「おっと、これからの私達の仲なんですから、文で結構ですよ」
「そうかい、じゃあ文」
「なんですか?」
「あばよ」

 その刹那、文がいた場所に向けて極太のレーザーが発射された。白煙が引くと、家にどでかい穴が開いていた。
結局は実力行使だった。暴力、あかん。

「あ、危ないじゃないですか!」

 文は幻想郷最速を名乗るだけあって、今のいきなりの攻撃も何とか横方向にかわしていた。
彼女が神奈子を見やると、硝煙を上げた御柱をしまいつつ、チッと舌打ちをしていた。明らかに威嚇ではなく、本気の射撃だったのは言うまでもない。
だがよけられた事については、狭い室内で器用なもんだと、神奈子はついつい関心してしまう。

「まず第一に、これはもう私達がやる事が前提じゃないのか」
「そうです。考えても見てください。『あいどる』とは即ち偶像。崇拝されるべきものなのです。
 元々で崇拝されるあなた方には、まさにうってつけといえるでしょう。私の人選に狂いはありません!」

 神奈子の質問に臆する事無く、むしろ彼女が乗り気と勘違いしているのか、文はえへんと胸を張る。
神奈子はこめかみをピクつかせながらも、質問を続けた。

「じゃあ、この新曲リリースってのは何なのかね?」
「『あいどる』とは歌手も兼ねています。歌手なんだから歌を歌うのは必然でしょう」
「ほぅ、じゃあ徹底追跡ってのは?」
「それはもちろん、我が文々。新聞での連載になりますから、四六時中で私生活をパパラッツィさせて頂き…………ハッ!」

 再度、神奈子が極上の笑顔で――だが、こめかみにはっきりと怒りのマークを出しつつ、何本もの御柱を展開していた。
既に文の周囲を囲んでおり、早苗と諏訪子にいたっては、きちんと外へ退避していた。

「語るに落ちたな。下衆鴉がっ!」
「ひぃぃぃぃぃっ! ま、待ってください! これにはまだ続きがあるんです!」
「続き?」

 御柱はしまわずに、神奈子は彼女に続きを促す。

「は、はい。もちろんあなた方にはそれなりの見返りもご用意します。
 まずは十分な食事! これは私から提供します。信仰集めを中止する事による、弊害も考慮していましたが……今はそれどころではないでしょう」
「なん……だと…………!」

 まるで本気を出すと言って攻撃力が上がった敵を圧倒したら、もう一段階本気を出せると言い始めた。そんな状況に直面したかのように神奈子は衝撃を受ける。
食事を提供。つまり、水以外の栄養分があるものを口にできるという事だ。
カロリー。あぁ、なんと甘美な響きであろう。
神奈子は御柱を一気にしまう。咳払いをひとつして、文に向き直ると、

「ぐ、具体的にどんな食事を出してくれるんですか!」
「ケ○ッグは!? ケロッ○はあるの!?」

 何故か外に退避していたはずの二人が文に詰め寄っていた。まるで気配さえ感じなかったのは、自身が空腹で衰えているからと納得させた。そうしないと怖いし。
お前ら、そんな力をまだ残していたんかぃ。胸中で独りごちると、神奈子はため息を漏らす。
乗り気な二人を前に、文はむふんと得意げな顔を神奈子に向ける。神奈子は気づかない振りをした。ブチ切れ金剛になりそうだったので。

「まぁ、しばらくは私の自腹なのであまり高いものはご用意できませんが、普通の食事は保障しましょう。
 『あいどる』としての収入が入ってくれば、どんどん豪華な食事に変える事もできます」
「だから○ロッグは!?」
「……今度、香霖堂さんに聞いてみます」
「ひゃっほおおおぉぉぉぉぉうぅっ!」

 空腹のせいだろう。明らかに諏訪子のテンションが、普段のそれとおかしかった。
うん、きっと空腹のせいだ。神奈子のみならず、同じテンションだったはずの早苗でさえもそう心で決め付けていた。

「今、話した通りですが、『あいどる』がうまくいけば収入もあります。
 音楽を単体で再生できる機械を、この前にとりに作らせましたので、それに歌をふき込んで販売します。
 安価で量産体制可能までが問題でしたが、うまくいったようです。
 その後は入場料をせしめ……、もとい、頂いてのライブを開くのです。
 もちろん、マージンとしてわたくしめもいくらかは頂きますがね」
「まぁ、文さんってばしっかりされてますね」
「はっはっはっ、それほどでも」

 早苗はもう完全にやる気のようだった。目をきらきらさせて、うふふと文に話しかけている。
諏訪子もその横で実に楽しそうにしている。お前、ケロ○グがそんなに好きだったんかい。

 一人乗り気ではない神奈子に、文はとどめにとっておきを放つ。もちろん、最初から彼女に用意していた言葉だ。

「そして『あいどる』は可愛いという認識のもと成り立ちます!」
「か、可愛い……?」

 ぴくりと耳が大きくなったような錯覚を神奈子は覚えた。
その様に、文は内心でニヤリと笑みを浮かべると、努めて平静を装って続ける。

「そうです。お三方ともども、それぞれ違った可愛らしさを持っておられる。
 そこが実に素晴らしい。神様がこんな可愛いだなんて、信仰者さん達は幸せ者です!」

 早苗は「あらあら」と頬を染め、諏訪子は「えへへ」と困ったような嬉しそうな笑顔。
だが、そんな中で一人だけ徐々に暗い面持ちになる者が。神奈子であった。
神奈子は自身の容姿がどのようなものか理解しているつもりだった。
彼女は二人と比べると、明らかに年齢が上の容姿に少なからずコンプレックスを抱いていた。

 無論、己の新聞繁栄のためならば外道ともなる文は、その事をお見通しの上で畳み掛ける。

「あやややややや? 神奈子さん、どうかされましたか?」
「……文、『あいどる』ってのは早苗と諏訪子の二人組ではだめなのかい?」
「いえ、もちろん可能ではありますけど……、何か不都合でも?」

 本来の不都合など山のようにあったはずなのだが、文の術中にはまってしまい、既に『あいどる』を引き受ける方向になっている事に彼女は気づかなかった。

「私みたいな……その、老け顔がいたんじゃあ出る人気も出やしないだろう」
「神奈子! そんな事は――」
「いいんだ、諏訪子! 私は正直、あんたに嫉妬してたのさ……」

 何故か神奈子の独白が始まる。とりあえず文は何となく面白そうだったので、メモ帳を用意する。

「私より年上なのに、若い……というか、幼いままの容姿のあんたが羨ましかったんだ!」
「そんな……そんな事を言ったらあたしだってそうだよ!
 あたしはずっとこんな成りだから……大人な女で、綺麗で、かっこいい神奈子が羨ましかった!」
「諏訪子……」
「神奈子……」

 がばりと、二人は強く抱きしめあった。
文のペンはもの凄い勢いでメモ帳の上を踊っていた。今のやり取りで一体何故そこまでの行数を書けるのかは謎である。
そんな二人の様子を、早苗は涙を流して見つめていた。溢れる涙は止まりそうもなかった。

「お二人とも……なんて純粋で、神々しい……」

 抱き合う二人。感涙する早苗。ペンを走らせる文。
実に混沌とした空間がそこにはあった。
しばらくすると、文はメモ帳をしまい、ポンと神奈子の肩に手を置き、慈愛に満ちた面持ちで告げる。

「大丈夫です。神奈子さん……あなたは可愛いし、綺麗で理想の女性像なんですよ。
 『あいどる』にそんな人がいたら、皆の憧れになりますよ。
 私も……もうあなたの事を憧れている、そんな一人なんですから」
「あ、文……」
「『あいどる』、やりましょう」
「……えぇ、こちらこそお願いするわ!」

 早苗が駆け寄り、二人を抱きしめる。笑いあう三人。
だからこそそんな彼女らを見つめる、

「むふふっ、これで発行部数はうなぎ昇り間違いなしです……」

 文の怪しげな邪笑(造語)には気がつかなかった。







「文、ちょっといいかい?」
「はい、何でしょうか?」

 数日後、文からの食事の支給を受けて何とか生き延びた三人は、早速『あいどる』としてのレッスンを開始していた。
場所は守矢神社の境内。それなりの広さがあり、早苗の熱心な信仰活動により、見事に閑散としていたためうってつけであった。
神奈子にとって一つを除いては。

「……こ、この変な衣装はどうにかならないのか?」

 白の半袖で胸のところに『かなこ』と名札が縫い付けられた上着に、紺色の――まるで下着のような着物。
黒い靴下に、スニーカーなる見慣れない靴。全て文が香霖堂から調達したものだ。
文曰く、「この組み合わせが『あいどる』のレッスンにおける黄金の比率」であるらしい。

 もちろん早苗と諏訪子も同様の衣装を身にまとっているが、特に羞恥心は見せていない。早苗にいたってはむしろ、外の世界を懐かしがっていた。
神奈子はどうにもこの紺色の衣装――文は『ぶるま』と言っていた――がどうしても気になって仕方が無く、上着を引っ張って隠そうと努力をする。
しかし、大人な身体である彼女の……包み隠さず言えば、大きな胸が邪魔してしまい、うまく隠せなかった。
気恥ずかしさのためか、若干内股気味でもじもじしており、見るものが見れば逆にヘブン状態に瞬時に移行してしまいそうであった。

「いやいや、とても似合っておられますよ」
「に、似合ってる似合ってないじゃなくて……あと、鼻血を拭け」
「おっと、失礼」

 ちり紙で鼻栓をすると、笑顔のまま神奈子をシャッターに収める。神奈子に睨まれようと、一向にやめようとしない。実にたくましいブン屋根性であった。

「まぁまぁ、神奈子もいつもあの服ばっかりだったんだから、たまにはこんなのもいいんじゃない?」

 諏訪子がケロケロ笑いながら――帽子はいつものままだ――ストレッチをしていた。
もちろん彼女も同じ衣装を身に包み、相違点といえば胸のところの名札には『けろちゃん』と書かれている事か。
あとは上着の長さが微妙に合っておらず、『ぶるま』が三分の二ほど隠れている。文はこれがジャスティスだと思った。たまんねぇ。

「あんたは違和感が無さ過ぎなんだよ」
「んー、早苗のが普通でしょう。元々は現役だったんだし」
「いえいえ、そんな事はないですよ」

 早苗はもちろん同じ衣装だが、髪型がいつもと違っていた。
後頭部で長い髪を結って、まるで動物の尻尾のように垂れていた。早苗曰く『ぽにぃてぇる』なる髪形らしい。
更に鉢巻をカチューシャのように巻いている。これも文の趣向であり、神奈子には理解しがたい事であった。

 パンパンと文が手を叩き、三人の注目を集める。

「さて、それでは早速レッスンを始めましょう。時間は待ってはくれないのです」
「文さん、どなたがレッスンをつけて下さるんですか?」

 早苗はおずおずと手を上げる。
神奈子――もう吹っ切れるしかないと吹っ切れていた、顔は赤いが――と諏訪子もうんうんと頷く。

「はい、経費削減のためわたくしめ、不肖 射命丸 文が兼任させて頂きます」
「文ちゃん、『あいどる』のレッスンなんて教えられたんだ」

 諏訪子が素直に感心すると、彼女はむふんと腕組みをして得意げに胸をそらせる。

「この日のために、香霖堂さんから仕入れた『あいどる』育成ゲームを攻略済みです。
 全『あいどる』、またトリオで全組み合わせをパーフェクトコミュニケーションでSランククリアは大変でした」
「まぁ、それは凄いですね」

 神奈子と諏訪子にはいまいちよくわからなかったが、早苗が凄いと言うのであれば、凄いのだろうという事にした。神様といえど、案外アバウトであった。
再度、パンパンと手を鳴らすと文は三人の前に出る。その手にはいつ取り出したのか、書物が丸めて握られていた。何かの解説書だろうと三人は考えた。

「さぁ、では最初のレッスンからですよ!」



【LESSON1 発声練習】

「では私に続いてください」

 頷く三人。
文はすぅっと息を大きく吸い込む。

「あめんぼ赤いなあいうえお!」
「あめんぼ赤いなあいうえお!」

「紅魔郷妖々夢萃夢想永夜抄花映塚風神録緋想天地霊殿星蓮船!」
「紅魔郷妖々夢萃夢想永夜抄花映塚風神録緋想天地霊殿星蓮船!」

「神奈子さんのスリーサイズを教えてください!」
「上から――って、うぉいっ!」

 神奈子は危うく乗りかけたが、見事にブレーキをかける事に成功。その様子を見た文は露骨にチッと舌打ちをする。

「そうですね。確か上からはちじゅ――」
「早苗、それ以上はわかってるね?」
「サーイェッサー」

 笑顔で御柱の銃口(と言っていいのか)を自身へ向ける神奈子に対し、早苗は直立で敬礼をする。左手でやっているが、神奈子は多めに見る事にした。
はぁとため息を漏らす。神奈子はこの先大丈夫かと不安になってきたが、果たしてその予感は正しいとすぐに思い知る事になる。



【LESSON2 筋トレ】

「何だって筋トレなんてするの?」

 先ほどのやり取りを遠めで笑っていた諏訪子が文に問う。
今の会話内容をメモにまとめていた文はペンをしまうと、彼女に向き直った。というか、さっきのまで新聞に載せるんかい。

「『あいどる』は歌を歌いながら踊るものです。
 踊りとなれば全身を鍛える必要がありますし、歌唱力には腹筋を鍛える必要もあります。
 また長時間動く事による持久力をつけるという意味合いもありますね」
「おー、なるほど」
「では皆さん、腹筋を……そうですね、五十回からいきましょう」

 神奈子は軍神だけあってか、身体を動かす事は特に苦ではないため、そのまま腹筋を開始しようとしたが、一人表情を曇らせていた。早苗だった。
彼女は明らかに体育会系ではない、どちらかといえば言動は別としておとなしい方である
察した文は彼女に向け、にこりと優しい笑みを向ける。
神奈子は今までの傾向からこれが『良からぬ笑顔』であると薄々感づき始めていた。

「大丈夫です、早苗さん。何も必ずできなければいけない訳ではありません。
 徐々にできる回数を増やしていきましょう」
「はぁ……そうですね。はい! 早苗、頑張ります!」

 早苗は持ち前のポジティブさで思考を切り替える。それにしても早過ぎなんじゃないかとは思ったが、神奈子は黙っておいた。やる気を出した人間には無粋なちゃちゃだろう。
三人揃って寝転がると、各々のペースで腹筋を開始する。
やはり群を抜いて早いのは神奈子であり、着々と回数を重ねていく。
次いでは諏訪子であった。普段から動いている事が多いため、当然といえば当然であった。
案の定、早苗は二十回を越えた辺りから相当苦しそうにしている。呼吸も荒くなってきた。

 そんな彼女を、文はローアングルでシャッターを切っていた。
なるほど、あの位置なら早苗の胸が強調されて、苦しそうな表情は艶やかにも見え――

 その瞬間、文のカメラは天寿を全うしたのだった。
 死因:どっかから飛んできた空の賽銭箱が直撃



【LESSON3 ダンス】

 文は何やら敷物を広げていた。奇抜な模様で上下左右の矢印がそれに準じた方向に描かれている正方形の敷物だった。
更に大型の画面のようなものを置く。外の世界にいた際に見た事はある、テレビというものだ。映像を映す事ができる極めて精密な機械だ。
後は鼠色の長方形の機械――ボタンのたくさんついた操作機が接続されている――とテレビを配線する。
すると画面に何かの映像が映りだした。神奈子は純粋に、どこから電気を取っているだろうと思ったが、もう疲れていたためかつっこむ事は自粛した。

「さて、準備完了です」
「あの……これってダンスゲームではないですか?」
「流石は早苗さん、ご存知でしたか。これは八雲 紫さんから提供して頂きましたダンス練習機です」

 早苗が画面を見ると口を挟む。どうやら彼女はこれを知っているらしく、懐かしがっている。
神奈子と諏訪子は初見のため、まじまじと画面を見詰める。色とりどりの光が画面から発せられ、実に煌びやかであった。
操作機で画面を進めると、文はまず神奈子に向き直る。

「じゃあ、まず神奈子さん、始めて頂きましょう」
「いや、ちょっと待っておくれ。これはどうやるものなんだい?」
「簡単ですよ。画面上部の矢印のところに流れてくる矢印と敷物上の同じ方向の矢印を踏めばいいだけです」
「そ、そうなんだ。じゃあ……」
「……踏めるものならですがね」
「えっ?」

 そして画面に「START」と表示されると――ドえらい高速で画面上に矢印が流れる。
軍神の誇りをかけて損じる訳にはいかない、と神奈子は本気で動こうとしたが、いかんせん初めてで慣れないもののため、どう見てもぎこちない動きにしかならなかった。
失敗していると自身でも、他の三人にも丸わかりのため、神奈子の顔は疲れ以上に羞恥で真っ赤になる。
そして、その様を息を荒らげて……何故かどこから復活したのか、カメラで収めていた。

 しばらくすると、いきなり画面上が扉が閉じたような演出で強制的に終了させられてしまった。

「ざ、残念だったね……かなぷふぅっ!」

 耐え切れず、諏訪子が吹き出して盛大に笑い始めた。つられて早苗も、俯いて肩を震わせ、声は出さずに笑っている。神奈子は更に耳まで真っ赤になった。
文はまだそんな彼女に向けてシャッターを連射。舞う賽銭箱。崩壊するカメラ。また出てくるカメラ。

 こんな調子で、延々と練習――と呼べるのかは全くわからなかったが、歌の発売まで続いた。










 数週間後、遂に歌が完成し、里の町の中央広場で発売記念ライブを開催する事となった。
文が前々から宣伝を行っていたため、集まったのはかなりの人数となっていた。
中には博麗の巫女や白黒の魔法使い、紅魔館の主(メイド長が日傘を持ち、隣に立っている)、スキマ妖怪、寺子屋の女教師、鬼二人など見知った顔もいくつかあった。
ちなみに、ライブを行う事を守矢神社の三人が知ったのは前日の事であった。
既に決まった事と、神奈子からの反対を完全に予想済みであった文はカウンターで制した。

 舞台裏、既にライブ衣装を着た三人が控えていたが……ここにきて再び神奈子が異論を口にしていた。

「嫌! これだけは絶対に嫌ぁっ!」

 軍神の威厳などまるで無く、涙を浮かべつつ完全にだだっ子のようにカーテンにしがみついて離れようとしない。
文はどうしたものかと考えていたが、早苗と諏訪子が何とかなだめているようだったため、まずは静観する事にした。
早苗が優しく神奈子に話しかける。

「八坂様、大丈夫ですってば。何の問題も無いです」
「あるって! すごくある!」
「だからさぁ、あたし達も同じようなの着てるんだから大丈夫だって」

 諏訪子がため息混じりに言う。
彼女らはステージ衣装として用意された衣服を身にまとっていた。
全員とも上半身は露出が多く、へそは丸出しで胸は一枚の布のようなものでくるりと覆われ、上からベストを羽織っている。全体的に白を基調とした清楚な感じのものであった。
だが下の着物はそれぞれ違い、早苗は膝下くらいまでの長めのスカート。諏訪子はホットパンツ。
そして、駄々をこねている神奈子はミニスカートとオーバーニーソックスだった。絶対領域がたまらない。
ついでに髪にストレートパーマがあてられており、今までの彼女の外見から想像された年齢より、一気に下の年齢に見られるくらいだろう。

「これって早苗のじゃないの!?」
「いえ、ちゃんと『八坂 神奈子様』と書かれた箱の中にありましたよ」
「じゃあ諏訪子の!」
「いやいや、何で『じゃあ』なのかわからないけど、大きさが違うってば」

 ようは、あまりに自身のイメージとかけ離れたもののため羞恥が限界を超えたのだ。
そもそも、文の口車に乗ってしまい今まで『あいどる』修行を行ってきたが、神奈子は乗り気ではなかった事をつい先日思い出したのだ。場の雰囲気とは怖いものである。
まったく進まない話に、文はやむを得ず最終手段の書類を一枚鞄から取り出して、神奈子に差し出した。

「……これは?」
「このライブの出費一覧です。ちなみに私と今回の機材調達、設置を請け負ったにとりで出しています」

 そこにはゼロが……とてもたくさん並んでいた。そりゃもう、守矢神社の三人が金額を覗き込んで真っ白に燃え尽きて硬直するほど。

「今回のライブを中止にしたとしたら、まぁ……音楽再生機(仮)は売れないでしょうね。
 そうなってしまったら、今回の出費を取り返す事はできません。あぁ、もちろんあなたがたには請求しませんよ。
 私が勝手に巻き込んでしまったんですからね。だから……気にしないでください、神奈子さん」

 言葉を受け、文の優しげな眼差しに耐えられずに神奈子は俯く。
口車に乗ったとはいえ、自身で「やる」と言った事を途中で投げ出そうというのか。それが神の行う事なのか。自責の念が彼女を支配する。
もちろん、文がそう仕向けるよう彼女の性格を把握した上で優しい風を装って語ったのだが。
諏訪子はそれに気づき、「まさに外道」と胸中で独りごちる。ただ、状況的には神奈子をどうにかしなければ、神様がドタキャンしたと、今後の信仰に関わるのは明白。

「わ、わかった……。ごめん、迷惑かけて……。
 うん、私もやると言ったんだ。最後まで『あいどる』をやってみせるさ」
「えぇ、ありがとうございます。本当に助かります」

 文は慈愛モードを貫く。そして三人へ用意していた冊子を渡す。

「文さん、これは?」
「今日の台本です。
 基本は皆さんの思った事を話して頂いて構いませんが、キャラは徹底して頂きます」
「キャラ?」

 と三人の声がかぶる。
台本の最初のページには進行予定表が書かれていた。
次のページもめくる。ある程度のMC内容が記載されていた。各々が目を通す。

 文の言う通り、三人とも明らかにキャラづいているのが明確だった。
早苗はいつもよりおとなしく、清楚に。あまり変わりは無いような気もするが、早苗の見た目から入った人には真実を知らせない方がいいだろう、という文の魂胆だった。
諏訪子もやはり見た目通りで通すようで、元気な子供という感じでいくようだ。
そして責任を通そうと何とか自分を持ち直した神奈子が自身の設定を見やると、

 ブツリ

 と何かがキレた。否――――



 覚醒した。



 既に今や遅しと湧き上がった会場のステージに、司会も兼任する文がマイク片手にやってくる。

「あーあー、ワンツーワンツー……皆様、お待たせしました!」

 マイクテストを何度か行うと、文は声を張り上げる。
それにつられて、会場に集まった人々からワアッと歓声が再度上がる。かなりの声量だが、マイクを使用しているため特に問題は無いと文は判断して進めた。

「本日は『文々。新聞』主催のこの催しにおこし頂き、誠にありがとうございます!」

 そのままぺこりと一礼。

「さてさて、皆さんのお目当ては私ではない事は重々承知です!
 わかっております! 彼女らも舞台裏で今か今かと鼓舞している様子でした!」

 オオオオオオオッと歓声が上がる。ほぼ男性の野太い声であった。そういう層をターゲットとしたので当然だが。
文はコホンと、マイクを遠ざけてひとつ咳払いをすると続ける。

「では早速参りましょう!
 本日デビューします、大型新人『あいどる』トリオ! 『MORIYAN』の皆さんです!!」

 再びオオオオオオオッと野太い声で歓声が上がる。
彼女らの知り合いの見知った顔の連中も乗っている者もいれば、とりあえず拍手を送る者と、男性客よりはある程度は冷静に見ていた。
三人が舞台上に現れるまでは。

「みんな~! こ~んにちは~!」

 彼女を知らぬ者は頬を染め、その成りや可愛らしい声に瞬時に心を奪われた。
だが、彼女を知る者達は呆然としており、本当に開いた口が塞がらない状態となっていた。見事に全員が。
そんな全員の胸中に真っ先に浮かんだ言葉、それは共通していた。
「お前、誰だ」であった。
そう、真っ先に舞台上に出てきたのは諏訪子ではなく、もちろん早苗でもない、超絶ブリっ子(死語)な神奈子であった。
後から早苗と諏訪子も大手を振って続いて入場し、それぞれのバミリの位置に立つ。神奈子をセンターに、向かって左に早苗、右に諏訪子。
神奈子はヘッドセットのマイク部分の位置を調整し直すと、改めて始める。

「改めまして、今日は私達『MORIYAN』の初ライブに来てくれて、ホントにありがとうございます!
 ではでは自己紹介! まずはわたくし、リーダーを務めております、『なこ』で~す!!」

 そして右手を大きく掲げて、ブンブンと振る。また上がる大きな歓声。男とは実に単純な生き物であった。
ちなみに『なこ』とは文が用意していた神奈子の芸名である。考えるのが面倒だったのか、『かなこ』から一文字取っての『なこ』である。
神奈子、もといなこが一歩下がると、続けて早苗が前に出る。そしてぺこりと一礼。

「皆さん、初めまして……ではない方もいらっしゃるようですが、今回は初めましてという事で。
 本日はたくさん楽しんで頂ければと思います。『さな』です!」

 そして優雅に再び一礼。またまた歓声が上がる。
最後に、諏訪子が両手を上げて振りながら、元気良く前に出る。

「お前ら、おーーーーーっす!!」

 おーーーっす! と歓声が変わる。群集の適応能力は案外高いもののようだ。一部の知人達は硬直するか大笑いかのどちらかになっていたが。
諏訪子は指で「ノンノン」と横に振る。もちろんこれも文の演出であった。

「ありゃりゃ、元気が無いなぁ。も一度いくよ……おーーーーーっす!!」

 おーーーーーっす!!

 馬鹿でかい歓声、というか轟音に近い声量になった。文の手回しで近隣住人には、大音量になると説明済みだったが、予想の範疇を越えていた。嬉しい誤算ではあったが、後で謝罪は必要かもしれないと文はため息を漏らす。
諏訪子は最初から乗り気だったため、そんな様子に気を良くして続けた。

「うーん、いいねぇ! 今日はめいっぱい頑張るんでよろしく! 『わっこ』でーーーす!!」

 そして歓声。会場の盛り上がりは最高潮となりつつあった。まだ歌ってないのに。
再度、神奈子が前に出る。そのまま少し間を空ける事で、会場の興奮状態を落ち着かせた。
ある程度、落ち着いた事を確認すると、神奈子は改めて口を開く。

「もっとお話ししたいだけど、まずは私達のデビュー曲を聴いてください。
 あっ、もちろんその後で皆とお話しする時間はた~っぷり用意してるから安心してねっ!」

 なこちゃーん、とあちこちから上がる呼びかけに、いくつかの方向に柔らかな笑顔で手を振って答える神奈子。もう軍神の面影などどこにもありやしなかった。
三人が少し下がり気味に――歌での立ち位置に移動すると、早苗と諏訪子の二人は演出のため俯いて待機する。

「では聞いてください。 私達『MORIYAN』のデビュー曲で……『おねがい☆かみさま』ですっ!」



『おねがい☆かみさま』  作詞:アリス・マーガトロイド  作曲/編曲:プリズムリバー三姉妹



神『憂鬱な月曜~の朝
  昨日のホリデイが嘘みた~い~』

早『ココアでお目覚めしよう~
  コーヒーはまだ苦手なのっ』

諏『トーストくわえてダッシュだなんてあ~りえない
  だけどお約束があるならCome on Now!』

神『君と曲がり角でぶつかって始まるデスティニー
  そんなのならっ大歓迎~☆』

全『お願い神様~ こんな夢を叶えてよ
  お布施なんてあたしのお財布じゃ無理だけど~
  お願い神様~ 好きがパンクしちゃいそう
  自分でやんなきゃだめだよね~
  でもでも 不安でハートが満身創痍っ
  どうすればいいのかな~ ああ 神様~』

諏『憂鬱な放課後のハート
  君と話すなんてSO HARD』

神『見つめるだけでドキ☆ドキ
  前進できないこの想~い~』

早『君に募ったたくさんのマイハートたち
  今日も増えちゃって どうしたらいいのかなっ』

諏『帰り道 君の後姿を見つけちゃったよ~
  勇気を出して さぁ突撃~☆』

全『お願い神様~ 彼と一緒に歩きたいの
  たったそれだけ できないあたしはだめだめね~
  お願い神様~ 勇気 貸してくれませんか
  想い胸に 全力ダッシュ
  やっぱり 不安でハートは満身創痍っ
  こうするしかないよね ああ 神様~』

早『君がゆっくりあたし見る』
神『ハートがドキ☆ドキ アクセル全開』
諏『お願い』
早『お願い』
神『お願い』
全『お~ねっが~~~いっ』

全『お願い神様~ こんな夢を叶えてよ
  お布施なんてあたしのお財布じゃ無理だけど~
  お願い神様~ 好きがパンクしちゃいそう
  自分でやんなきゃだめだよね~
  でもでも 不安でハートが満身創痍なのっ』

全『お願い神様~ 勇気 言葉に乗せるよ
  君が微笑み あたしの手を取り 駆け出す~
  お願い神様~ この時間を終わらせないでよ
  わがまま? ごめんね 今だけは~
  楽しい時間って あっという間なんだもん☆
  わかってくれないかな ねえ 神様~~~っ』



 曲が終わり、一瞬シーンと静まるも、まさに一瞬のみでワアッと今までで最大の声量で歓声が上がる。
実のところ、集まった人々も暇潰し程度であればいいと考えていたが、三人の完成されたパフォーマンスに心をガッチリ鷲掴みにされてしまっていた。

 曲中は常にダンスしながら歌っていたため、三人ともいくらか汗が流れており、かえってそれが色気を演出していた。
三人は各々、一礼したり、大手を振ったり、拍手したりと更に会場を盛り上げる。
文もうんうんと頷き、満足げであった。もちろん十七代目のカメラ――先任の十六台は神奈子に破壊された――で終始ライブの様子を収めていた。

 ちなみに、ライブ後の手渡し販売もつつがなく成功し、売り上げも相当なものとなったと付け加えておく。






 それから一週間後。
修復を済ませた家の居間。『二人』がちゃぶ台の前で目の前の光景を凝視していた。
そこには……うず高く積まれたプレゼントの山が存在していた。
食べ物はもちろん、洋服や趣向品、中には生活用品などもあった。
『お布施』ではなく『プレゼント』なのだが、二人は些細な事と特には気にしなかった。

「すごいですねぇ、洩矢様」
「うん。まさかこんなに変わるなんて思いもしなかったよ」

 早苗と諏訪子の二人が正座しつつ、積まれたを見上げていた。
更に、境内の賽銭箱には溢れるほどの賽銭が納められていた。
文の粋な計らい――彼女のマージンからだが――で、人間用の山道が配備された事も大きな要因と言える。
実際に今も表では参拝者が絶えず来ており、現在は知り合い達に頼んで仕事を代行してもらっていた。
なお、『文々。新聞』も芸能欄目当てでの購読者が相当増えたらしいが、文の渾身の一面や社説は全く見られていない事が判明し、彼女は非常に苦い顔をしていた。

「ところで……」

 諏訪子が背後の襖――ぶち破った部分は紙があてがわれただけだった――を見やる。先は寝室となっている。
はぁ、とため息を漏らすと続ける。

「神奈子はまだ復活しないの?」
「え、えぇ……。頭から布団をかぶって『違うの、あれは私じゃないの』と呪詛のように繰り返しています」
「まったく、こんなに信仰が集まってるのに肝心のリーダーが動けなくてどうするのかね」
「まぁまぁ。八坂様も日頃から頑張っておられましたから、お疲れなのでしょう」
「んー、そうだね。まぁ、『次の新曲』までには本格的に復活してもらわないとね」

「いやあああぁぁぁぁぁ…………」

 諏訪子の声が聞こえたのか、襖の奥から力無い神奈子の悲鳴がこだまする。
そう、既に新曲の発売が決定しており、レッスン期間となっていた。神奈子にとってはまた『アレ』が自分を支配するのかと恐怖していたのだ。
諏訪子は信仰と言うが、正確には『人気』である事を二人は気づいていなかった。神奈子は……現実逃避に必死だ。

 諏訪子はふぅと一息つくと、襖の奥に向かって声をかける事にした。
新曲のレッスンは既に始まっているため、センターの神奈子を抜いてできるほど優しいものではない。
そのため、『アレ』を呼び起こす――と最近判明した――魔法の言葉を言う。

「ほら、レッスンに行くよー。『なこ』~っ!」

 ブツリ(何かが切れる音) ガラガラ(襖を開ける音)

「おっけ~☆ 今日もなこ、頑張っちゃうよっ!」
かわいい神奈子様を参拝できるのは守矢神社だけ!
さぁ、あなたも守矢神社へCome on Now!
やきそば。
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コメント



0.4110簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
キャラソートで神奈子様が一位だった俺狂喜乱舞wwwwww神奈子様の体操着とミニスカニーソ姿を想像してオンバシラがメタル化したのは俺だけじゃないはず…っ!

いやマジで作者様に最大級の賛辞を。
6.100名前が無い程度の能力削除
神奈子様のあまりにも神々しい姿に目をヤラれました。賠償を請求します。
8.100名前が無い程度の能力削除
サザエさんヘアーじゃない神奈子なんて…神奈子なんて…


おいしいです(^q^)
9.100てるる削除
神様ってここまで見事に壊れられるんだなぁ…
最早二重人格w

『なこ』ちゃん頑張れ~!w
11.100名前が無い程度の能力削除
これはやばい、神奈子様が流行るかもしれない!
ゆうかりんのポジションが奪われてしまうっ(泣)

Come on Now!
12.100ZRX削除
思い切り吹きました。とてもかないません。
可哀想な神奈子様・・・。
そして可愛いぞ『なこ』ちゃん。
13.100名前が無い程度の能力削除
笑いすぎて腹がよじれるかと思ったwwwww

ところで、MORIYANのライブチケットは何処で買えるのでしょうか。
19.100名前が無い程度の能力削除
ヒドスww

超笑った。スゲェのに目覚めたww
20.100Admiral削除
神奈子様がアイドルだと…!許せる!
作者様、アンタは最高だ!
22.100名前が無い程度の能力削除
神奈子様は乙女なんだよ!!!!!!!
と日頃から主張しまくっている俺に最高のご褒美キターーー

軍神の恥じらいブルマ姿破壊力やばすぎる。ありがとう…!
25.90名前が無い程度の能力削除
アリスの作詞のセンスはものすごいなw
神奈子様かわいいよ神奈子様
27.100名前が無い程度の能力削除
かわいい神奈子様は大好物です!!
28.100名前が無い程度の能力削除
作者GJ!!
29.100名前が無い程度の能力削除
2ndシングルの発売はいつですか?
30.100名前が無い程度の能力削除
なこはワシが育てた
33.80名前が無い程度の能力削除
馬鹿な…ストパーだと…
35.100名前が無い程度の能力削除
90秒固まって、諏訪子様のようにこまっちゃんときゃっきゃうふふしたじゃないか!!www
いいぞ「なこ」可愛いよ「なこ」www
43.100名前が無い程度の能力削除
神w奈w子wwwwwwwww
ごめん、負けたwwwいろんな意味で負けましたwwwww
44.100名前が無い程度の能力削除
なこ……アリだな!!
46.100名前が無い程度の能力削除
とりあえず○ケットぴあでは扱ってないようだ・・・。
49.100名前が無い程度の能力削除
ぶっちゃけ信仰と人気って紙一重だよな
50.100名前が無い程度の能力削除
なんだこの作品はっ
神奈子様を辱めて点数や評価を集めようとしてるだけじゃないか
こんなの誰が認めるか!


・・・なこグッズの注文を
51.80名前が無い程度の能力削除
「なこ」はまあいい。「わっこ」もまだわかる。
でも「さゆ」は確実に無いだろw

今の日本だと清楚ちみっ子タイプの方が受けるんだけど幻想郷だと
ぱっつんタイプの神奈子が受けるんだろうなーと妄想。
しかし既婚者とバレるとアイドルは辛いぞ…
53.90名前が無い程度の能力削除
これを書きあげることができた胆力に敬意を表しよう
休み休みじゃないととても読み切れなかったw
54.100謳魚削除
なこ様、お疲れ様です。
……神奈子様頑張って下さい、激頑張って下さい。
そして神奈子様のブルマは正しいのです。
色々と持て余しました(良い意味で)
ぺこり。
56.100名前が無い程度の能力削除
腹筋壊れるwwwwwwwwwwwww
57.100名前が無い程度の能力削除
ちょ,マジでシリーズ化希望!!!
59.100名前が無い程度の能力削除
全く、神様を何だと思ってるんだ?
敬うべき神をアイドルだなんて……

なこちゃんの写真集はまだですか、射命丸先生
60.80名前が無い程度の能力削除
『なこ』のインパクトに埋もれがちだがアリスの歌詞センスも突っ込み所満載wwww
61.100名前が無い程度の能力削除
俺も本気でシリーズ化切望
63.100名前が無い程度の能力削除
なるほど。神奈子様から神成分が抜けると「なこ」になるのか。
65.90名前が無い程度の能力削除
まだこのアイドル坂を上り始めたばかりだからよ…っ!
66.100名前が無い程度の能力削除
後のインパクトに隠れがちだけど、最初のほうの『あたい』がツボだったよ!
このノリを貫き通せる力に乾杯w
69.100名前が無い程度の能力削除
早苗…どこに向かってるんだチミはw
70.無評価やきそば。削除
反応遅れまして申し訳ありません。
お読み頂いた皆様、誠にありがとうございました。
神奈子様のような普段気の強い女性が見せる弱さとかかわいさって……、
グッときますよね。畜生、いじめてぇ。
※やきそば。は基本的にドSです

>アリスの作詞のセンスはものすごいなw
いかにキモい歌詞にするかでしたが、なこのインパクトに隠れてしまい心残りです。
ちなみに、音を付けられるように文字数は調整しております。

>神奈子様を辱めて点数や評価を集めようとしてるだけじゃないか
は、反論できません orz

>でも「さゆ」は確実に無いだろw
自分でも読み返しましたが、『さな』ですね。
マジレスだった申し訳ありません。

>これを書きあげることができた胆力に敬意を表しよう
前作に比べると、相当安産でした。
自分はアホな話の方が向いているようです。

>シリーズ化
ネタの構築ができたら、また続きを書きたいですね。

>神奈子様から神成分が抜けると「なこ」になるのか。
誰がうまい事言えと(ry
自分はご指摘を頂き、初めて気づきました。
84.100名前が無い程度の能力削除
ちょっくら諏訪大社に祈願してくる
90.100名前が無い程度の能力削除
これは続きを希望するしかないな

ところで握手会はまだですか?
91.100名前が無い程度の能力削除
盛大にワロタw
92.100名前が無い程度の能力削除
文もかなりのP(プロデューサー)だが三人とも能力が高すぎるとおもうんだ。ビジュアルイメージ的な意味で。

さて、
MORIYANのSランクへの道は明るいですw
93.90名前が無い程度の能力削除
いや、なんか、その、なんと言うか……

こ れ は ひ ど す ぎ るw
97.100名前が無い程度の能力削除
なこちゃん・・・だと・・・?
おい、俺を早く幻想郷に連れて行けバb(ry
98.100名前が無い程度の能力削除
こ、これは
100点を入れざるをえない…!
101.100名前が無い程度の能力削除
なんだか…ごちそうさま。

そんでもって、何してんのアリスwww
103.100名前が無い程度の能力削除
私は今日、自らの理性が崩壊してゆくのを初めて味わった……ひゃっほおぉぉぉぉぉぉ!!


諏訪子様がケ○ッグ好きなのはやっぱ名前からですかいなw
104.100読む程度の能力削除
……えっ?
……ええ~~っ!?
111.90名前が無い程度の能力削除
いくぜっ!守谷神社!
見るぜっ!!なこっ!
113.100名前が無い程度の能力削除
諏訪子様に萌えた俺は間違ってるのか・・?
114.100名前が無い程度の能力削除
これほどPさんになりたくなったことはない。
パイタッチOKですか?
120.100名前が無い程度の能力削除
この作品は、何より歌の歌詞と、
その作詞をしていた時の、作者さんの精神状態及び、
公開した事に満点だと思うんだw
136.100名前が無い程度の能力削除
八雲家のお約束条項ぱーとちゅーの歌詞!?
(あめんぼ赤いなあいうえお)