Coolier - 新生・東方創想話

誰がために鬼は戦う

2008/06/15 21:42:16
最終更新
サイズ
17.58KB
ページ数
1
閲覧数
716
評価数
9/27
POINT
1280
Rate
9.32

ж注意書き
作中にはオリジナル設定が含まれており、尚且つ作者のスペルカードルールへの勝手な解釈が表現されています。





人と妖怪が同じ地に住まう空想上の世界、幻想郷。
その名にふさわしく、幻想であり、幻想であるが故に妖怪が住まい、そして実在するのかも不明な土地に、太古より畏怖の象徴として語り継がれ、しかし現在ではその存在自体を忘れられた『鬼』がいる。
曰わく、人を攫う。
曰わく、人を喰らう。
曰わく、その腕を振り下ろせば地を割る。
曰わく、一度走れば千里の山を駆ける。
語り継がれゆく伝承は恐れられるモノばかりではあるが
「んっ! んぅっ! んんっ! ……っぷはぁ~! んんめぇ~!!」
この幻想卿にいる『鬼』は
「ふぃ~。 こんなにも酒が美味い日には力試しの一つでもやりたくなるなぁ」
語り継がれてきた『鬼』とは、まるで違う存在のように思えてしまう。
伝承の鬼と同じなのは、頭より出ている『鬼』である証の一対の角。 そしてその幼児体型に見合わぬ恐ろしいほどの力だろう。
「いよぉぉし! んじゃ霊夢の神社までいくかー!」
そう一人呟き『鬼』の伊吹 萃香は文字通りの千鳥足で前後左右に動きながら、 フラフラと前へ歩き出す。
人間の身でありながら、鬼の身である自身を打ち負かした『強い人間』博霊 霊夢がいる神社へと。
時刻はもうすぐ日が昇ろうとしている早朝のことであった――――。
「……すぅ…すぅ……」
博霊神社内の一室。
「……お賽銭~……むに……」
日頃の願望を夢の中で見ているのか、博霊 霊夢は寝言を呟きながらゴロリと寝返りをうつ。
しかしそんな彼女の幸せな夢を
「霊夢ーーーーーっ!!!! 遊びに来たぞーーーーー!!!」
萃香の咆哮のような挨拶で
「~~~~っ! ……………コロス」
無残にも散らされ、そして耳鳴りと同時に目覚めた霊夢のテンションは最高なほどに最悪であった。
「…萃香。 朝からご苦労な事ね」
乙女としての自覚は無いのか、 髪も整えず顔も洗わず、 寝起きかつ純白の寝巻き姿のままで、霊夢は神社の境内にいた萃香の前に立つ。
「お、霊夢ー! 起きてたかー。よし、んじゃあ力試ししよう!」
「力試しじゃなくて真剣にこの世から消し去ってやるわよっ! この馬鹿鬼っ!」
試合開始の合図も無く、スペルカード使用枚数すらも提示せずに
「霊符『夢想封印』」
霊夢はスペルカードを宣言・発動させる。スペルカードルール発案者がルール吹き飛ばして果たして良いのだろうかという疑問が浮上するが
それはここでは割愛する。
「そうこなくっちゃ!」
萃香は追尾性能のある夢想封印を地を蹴り右に左にと避け、前進する!
萃香は迫り来る夢想封印を恐れもせずに、心の中で高揚感を感じていた。
「いっくぞーーー!」
人間との真剣勝負は、いつも本当に楽しい。特に相手が強ければ強いほどにその面白味は増す。
「壱の符『投擲の天岩戸』」
前進していた体を止め、その場で跳躍・右腕を時計回りに回し、腕全体に天岩戸を召喚開始。
背後から追尾してきている夢想封印を右腕を回している遠心力で天岩戸を叩きつけ、霧散・その勢いのまま霊夢へと天岩戸をぶん投げる!
「夢想封印を散らすなんて、どういうバカ力してんのよ…! 夢符『二重結界』!」
霊夢程の実力者ならば飛んでくる天岩戸を回避できなくもないのだろうが、避ければ背後にある神社に無骨な岩のオブジェクトが置かれてしまうのは困るため、霊符と夢符を交互に発動させるというルール違反をしてでも守らなければならなかった。スペルカード発案者がルール違反をして良いものかどうかと疑問の声が出るがここではあえてその説明は割愛させていただく。
「や~っぱ自分の身よか神社の方が大事だよねんっ!」
霊夢が『二重結界』を張って萃香の『投擲の天岩戸』を防いでいる間に
「この勝負、もらったぁ! 鬼火『超高密度燐禍術』っ!」
「しまっ―――」
霊夢の懐へと入りこんだ萃香はその至近距離で火傷では絶対済まないほどの超高火力鬼火を………
「な~んてね! 宝具『陰陽鬼神玉』」
「えっ? っっっ~~~~!!」
放つことはできなかった。放つよりも先に、霊夢が足元に設置していたスペルカード『陰陽鬼神玉』を発動・萃香の足元より陰陽鬼神玉
を召喚し、萃香の小さい体を軽々と吹き飛ばす。
「はいっ! これで勝負アリね! ふぁ~あ…朝の体操にしては少々やりすぎたかしら…」
「うぐぐ…霊夢~。足元にあらかじめスペルカード設置しておくなんてずるいぞ~」
「ずるくなんかないわよ。戦略よ戦略」
霊夢はあっけらかんとしているが、萃香の体は微かに震えていた。恐怖による震えではなく、武者震いである。
そもそも霊夢は二重結界を張った時点で足元にスペルカードを伏せていた。しかしそれはただ伏せたのではなく、萃香が必ず懐に飛び込んで来るという『予想』によるものだろう。そして、一つのスペルを発動させながら床に伏せていたスペルカードをいつでも発動できるよう
にしていたという力のコントロールの鋭さ。並の人間や妖怪ができる芸当ではない。それでも博霊 霊夢は全力を出し切ってはいない。
その底の無い力に、萃香は武者震いをし、再び再戦への闘志を燃やすのである。
「萃香、折角来たんだしお茶でも飲んでいく?」
「おお! 是非に~!」
萃香の戦績はたくさん戦全敗。萃香曰く『両手の指で数えてたけど、10を数えてからわからなくなったからそれから数えてない』とのこと。
しかし何度負けても、何度でも再戦へと臨む。霊夢は不機嫌な時もあれば、快く承諾してくれる時もある。ただ『もう来るな』とは今まで
一度たりとて言ったことは無い。そして試合が終われば、こうして霊夢が煎れたお茶を啜るのである。
「私は基本的にお酒以外は飲まないが、霊夢の煎れるお茶だけは特別! いくら飲んでも飽きないなぁ!」
「もう、大袈裟ね。体の方は大丈夫? 結構入るとこに入ったと思うんだけど」
「もうへっちゃらさ~!」
「全く、鬼って本当に出鱈目な体してるわねえ」
「丈夫だからな! あっはっはっ!」
萃香は試合をするのも大好きだが、試合が終わったあとのこの空間も大好きだった。
霊夢は鬼である自分を恐れない。幻想卿には他にも人間はいるが、皆鬼の事を…恐れてはいない。鬼が今も幻想卿に存在していることすらも忘れているのだから、恐れる恐れない以前の話なのだが。
それでも霊夢は鬼である自分の存在を『知っている』し、勝負にだって応じてくれる。
萃香は、この日々が好きだった。
「ん。それじゃあそろそろ帰るとするかな~」
霊夢と戦うのが、好きだった。
「そう。それじゃ、また明日ね」
でも今は
「明日来るだなんて誰も言ってないぞー!」
霊夢自身に会うことが楽しみになりつつある自分に、萃香は気が付いていなかった。
「な~んていいつつ最近は毎日来てるじゃない」
また明日。その明日が終わればまた次の明日。
「えへへ。それじゃ、また明日来るよー」
毎日が同じことの繰り返しかもしれないけれど、それで満足している。
「……またね。萃香」
博霊神社の門を通り、また妖怪の山へと行き、気が向けば誰かと対峙し、気が向けば寝る。
そして陽が落ちて、また陽が昇る時にここに来よう。
そしてまた霊夢と試合をして、霊夢の煎れたお茶を飲む。
萃香はそんな変わらない日が、ずっとずっと続くと信じていた――――――――。
「霊夢~~~~~~! 朝だぞーーーー!」
そう。こんな風に大声で挨拶をすればいつものように霊夢が怒って出てくる
「…………?」
はずが、出てこない。
「霊夢ーーーーー!!!! おーーーーい!!!」
今度はいつもより大きめに叫んでみる。今まで一度の挨拶で出てきた霊夢にしては初めてのことだった。
「……??」
まさか留守なのか? なら中で待って、帰ってくるのを待とう。そう萃香は思った。
「霊夢ー。いないの…………えっ?」
そう思い、神社の境内から霊夢の部屋へ行こうと、神社の廊下を曲がった所で
「れ………霊夢っ!!」
霊夢は、うつ伏せの状態で廊下の床に倒れていた。
普段、酔いが醒める事など滅多にない萃香が一瞬で素面に戻るなど、初めての事かもしれない。
「霊夢っ! 霊夢っ!! 大丈夫か!?」
慌てて駆け寄り、軽く揺すってみて萃香は霊夢の体に異変が起きていることを知る。
荒い息遣いに、汗が滲んでいる体。
「しっかりしろ霊夢っ!」
突然の出来事に萃香の頭の中はグルグルと渦を巻いている。
「………はあっ…はっ…はぁ…! …萃……香…?」
「霊夢!」
声が聞こえたので、萃香は霊夢の体制を仰向けへと慎重に変えた。
「…はっ……はっ……ごめん…ね…昨日っ……約…束したっのに……はぁ…はぁ…」
霊夢の顔色は土気色になり、額には汗が滲み、眼は虚ろに萃香をとらえている。
「霊夢…! それはいい! 一体何があったんだっ!」
「ちょっと前から……はぁ…はっ…熱が、あって……んっ…放っておけば治ると思ったら…この有様…えへへ…」
萃香にとって人間の体の仕組みは謎である。だからこそ霊夢が言っている意味を知ることができなかった。
「…何だかよくわかんないけど…私に今何ができる!?」
「…とりあえず……はぁ……私の部屋へ…運んで、そこに寝かせて……」
「おうともさ!」
萃香はその華奢な両腕では考えられないほどの軽い動作で霊夢を抱き上げる。
霊夢の体を揺らさないようゆっくりと、且つ迅速な動きで霊夢の自室へと移動する。
見慣れた霊夢の部屋には、人間が寝る時に使う布団が広げられて置かれていた。
萃香はゆっくりと霊夢を降ろし、霊夢を布団の上へと寝かせる。
「はっ……はぁっ! …はぁ…はっ………はっ…」
呼吸も不規則で、霊夢はきつく眼をつむり、何かに必至に耐えているかのような、そんな表情をしている。
萃香自身、霊夢の身に何が起きているのかわからない。しかし
「……霊夢………私がお前を助ける」
このままここで霊夢を見ていても、意味が無いと悟る。そして唯一、萃香には霊夢を救えるのではないかという『心当たり』が存在した。
「萃……香……?」
『鬼』が『人間』を助けるなどということは前代未聞かもしれない。
「次に陽が昇るまでには、戻ってくる」
それはつまり明日。
「…また戻ってきて元気になったら、また力試しやろうな…」
萃香はそう言って霊夢に微笑むと、静かに立ち上がり、霊夢の部屋から出てゆく。
「待って…! 萃…けほっけほっ!」
「……幻想卿の巫女も、病の前には無力、か。ま~外の世界で超強い人間の格好した宇宙人が心臓病でポックリ死んでしまうぐらいだもんねえ」
どこからともなく女の声が響き、霊夢の自室の、天井と床の間で『空間』が割れ、そこから無数の手や眼が垣間見える『スキマ』が出現し
「霊夢。あんたも体調悪いのにあんなにスペルカード使えば倒れるってことぐらいわかるでしょ?」
現れたのは幻想卿を代表する大妖怪・八雲 紫である。
「…ゆか……り? …うるさいわね…はぁ…はぁ…放っておいてよ……」
「放ってなんかおけないわよ。貴女が死んでしまえば『結界』を維持できなくなるじゃない。それにしても~…」
紫は突如にんまりと口元を歪め、スススと霊夢に近づく。
「…な…何よ…」
「霊夢って、何だか萃香には優しいわよねえ?」
「そ、そんな事っ! けほっ! 無いわよっ!」
「じゃあ何で私の再戦は断るくせに萃香の再戦には積極的なの~?」
ウリウリと紫は人差し指で霊夢の胸を優しく突付く。
「そ、そんなのあなたには…関係無いでしょ」
熱のせいか、霊夢は顔を赤く染め、布団の中へと潜り込んでしまう。
「くすくす。まぁいいわ。まぁ萃香はどこかへ行っちゃったけど、あの子が帰ってくるまで私が貴女の面倒をみてあげるから」
「お断り…よっ! …はぁ……はっ…」
「あらあらつれないわねえ。まぁでも見たところただの風邪みたいだし。安静にしてればすぐに治るでしょ」
そして霊夢は近くに胡散臭い妖怪がいることに警戒心を抱きながら、眠りへと意識を沈めていった――――――。
――――――――最初は、ただただ鬱陶しかった。
『霊夢っ! 今日こそ私が勝つ!!』
毎日毎日、何度倒しても立ち上がって。
『ぬああああ! また負けたーーー! 強いな~霊夢はっ!』
負けたのにあんなに愉快そうに笑う妖怪なんて、今まで会ったことが無かった。
でも、いつからだろうか。
『何よ。また来たの?』
『おうともさ! 力試し力試し~!』
彼女―伊吹 萃香との力試しが、楽しく感じ始めたのは。
『良かったらお茶煎れるけど、飲む?』
『私はこの酒以外飲まんっ! だけど霊夢がくれるなら飲む!』
否。力試しが楽しいんじゃない。
『もう、どっちなのよ。おかしな妖怪ね』
『私は妖怪じゃない! 鬼だ!』
萃香自身に会うのが楽しみになっていた私自身が、いた。
だからこそ、毎朝早朝の萃香の力試しは私には欠かせない日課となっていたし、それを嫌うことは今はもう無い。
体調が悪い事なんて、わかっていた。自分の体だもの。
それでも、私はその体調不良を萃香に明かしたくなかった。
心配されるのが嫌だった。
悲しい表情をされるのが、嫌だった。
そして何より、力試しができずに、寂しそうに帰る萃香を想像しただけで、私の胸は締め付けられる。
笑顔を見せてほしい。
あの心の底から笑う、屈託の無い笑顔を。
気が付けば、私は、萃香の事ばかりを考えていた。
はは、これではまるで恋をする乙女みたいだな、と寂しく笑う自分が、そこにいた――――――――。
――――――――走る。立ち止まることはできない。
走っている最中に、考える。何故私は霊夢を助けようとしている?
力試しができなくなるのが嫌だから? 霊夢が煎れるお茶を飲めなくなるから?
どれも、違う。
私自身、とっくに気が付いてることを、気が付かないふりをしているだけだ。
「はっ! はっ! はっ! はっ!」
私は霊夢が好き。好きで好きでたまらない。いつから好きになったのかなんてわからない。
気が付けば、もう霊夢の事を考えない日は無かった。
「はぁっ! はっ! はっ…!」
だからこそ力試しという名の口実で博霊神社へと赴いていた。口実と言っても力試しはいつでも本気だったが。
「あと少し…! あと少しっ…!」
妖怪の山を越え、その先にある山を2つ越え、目的の場所へと辿り着く頃にはもう陽が完全に落ち、空は宵闇に染まる時刻。
「は…はっ……は……着いた…」
さすがに全力疾走でここまで来れば『鬼』の萃香であろうとも、体力の消費は激しい。
「――――」
しかし萃香にとってはここからが本番である。
「御山の守護者よ!ここに赴いた理由は唯一つぞ!!」
彼女が目指し走った場所、それは妖怪の山に次ぐ霊力を秘めた名も無き霊山。
その頂上に備蓄されている、どんな怪我・病すらも癒してしまうという神秘の泉がある。
太古の時代、幻想卿に鬼たちがいた頃には鬼たちはここを危険な妖怪や人間たちに知られて乱用されぬよう秘密として守り、泉が枯渇せぬように管理をしていた。
しかしその管理していた鬼たちが幻想卿を去り、無人となった泉は荒らされるかと思いきや、突如として現れたのがこの
「――――――――」
巨大な黒い体躯と、その体に見合う実力を兼ね備えた無名の妖怪。眼も無く口も無く、人の形をしているけれど、その巨体は見るモノを戦慄させる。目的も定かではなく、ただただ『泉』を守護し続ける霊山の守護者。
その守護者は萃香の目的を悟ると今まで座っていたのか、ゆっくりと黒い巨体は動き、更なる巨体へとなる。
「こちとら急いでるんでね。最初から全力でいかせてもらうよっ!」
その巨体の大きさは恐らく萃香自身の身長をあと6・7つ程足せばようやく同じ高さになるであろう敵に
「鬼神『ミッシングパープルパワー』っ!」
鬼の少女は、怯むこともなく、恐れることもなく、臆することもなく立ち向かう。唯一つの約束を守るために。
「うぉぉぉぉおおおおっっっ!」
見る見るうちに萃香の体は巨大化し、山の守護者と同程度の身長となる!
「――――――――!」
『……霊夢………私がお前を助ける』
(くぅ…! ここまで走ってきて……体力が…!)
『次に陽が昇るまでには、戻ってくる』
(だからってこんなとこでモタモタしてられない…。帰るんだ。必ず! 霊夢の元へ!!)
『…また戻ってきて元気になったら、また力試しやろうな…』
(大好きな霊夢と、またいつもの毎日を過ごすんだ―――――!)
豪腕と豪腕がぶつかり合い、衝撃波を生み出し、殴り、相手をよろけさせたかと思えばカウンターをくらい蹴りを放てば足払いをされ、投げ倒せば、すぐに起き上がり、こちらに突進・体当たりをしてくる。
幾度となく傷を負い負わせ、地面は揺らぎ、木々は倒れる。
それでも萃香は、倒れない――――――――――――――――。
―――――――――――「ねえ霊夢。あの子、きちんと戻ってくると思う?」
眼を覚ますと、まだ外は夜なのだろう。部屋の中が暗い。
そして今しがた声がしたほうへと顔を向けると、紫が微笑みながらこちらを見ていた。まだいたのか、と思ったがすぐにどうでも良いと思い直した。
「あの子って…萃香のこと?」
まだ意識がボンヤリしているが、朝のような苦しさは今はもう無い。寝巻きが汗でベタついていないということは…寝ている時に紫が着替えさせてくれたのか…。
どこか変な所を触られたりしていないだろうかと疑問を持ち始めた時に
「そう。霊夢、貴女は『鬼』であるあの伊吹 萃香を信じることができる?『人間』である博霊 霊夢は、あの子が貴女を助ける手段をきちんと持って帰って来ると思う?」
紫は何故こんなことを聞くのだろうかと疑問に感じたが、私は即座に答えた。
「信じるも何も、あいつは嘘を吐かないわ。だからこそ信じる信じないの問題じゃない」
要は、疑うことなどないということ。その心からの言葉に、紫は
「ぷ…あはははっ! そうか~そう答えるか~。いやー貴女って本当に楽しい人間ねぇ」
「そういう貴女こそ本当に胡散臭い妖怪ね…」
紫が何故笑っているのかも興味が無いし、再び眠気も襲ってきたことだから眠ろう………。
「……良かったわね萃香。まだ『鬼』を信頼してくれる人間が、少なからず一人はいたわ。………それにしても」
すぅすぅと規則正しく呼吸をし、眠りについている霊夢を微笑ましく見ながら紫は
「萃香。ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、貴女に妬けちゃうな」
霊夢と萃香は永遠に知ることは無いだろう。霊夢が倒れた瞬間の紫の慌てぶりを。
そして、倒れた霊夢を救おうと『スキマ』より出ようとして、萃香が現れたと同時に、自ら身を引いたことを。
そして…陽は昇り始める。
朝日の光が、博霊神社の霊夢の自室へと差し込む。
「……ん……んん……」
その光により、霊夢は眠りより目を覚ます。
「…紫はいない…か」
自室を見回しても、紫の姿はなく、そして、萃香の姿も、無い。
「…………」
胸にあるのは一抹の寂しさ。
次に眼が覚めた時、この部屋に萃香がいると思っていた。
『霊夢っ!これでお前を助けてやれるぞ!』
と、元気な笑顔で私を助けてくれる『手段』を持って帰ってきてくれるのではないか。
裏切られた、などとは思わない。
「…顔…洗いに行こう…」
そもそも倒れて心配をかけさせた自分が何よりも悪いのだ。
「朝の廊下は冷える~…」
愛想など尽かされて当然…………
「……え………」
自室より廊下を出て
「……う…そ……」
曲がり角を曲がり、神社の境内が見える場所へ来た時、霊夢は見た。
「す……萃……香……?」
背後に朝日が照っているせいか、萃香の体は黒い影に包まれ見えにくいが
「萃香ぁぁああっ!」
衣服は所々破れ、足に至っては両方裸足。体には生傷が幾数もあり、何箇所からかは出血していて、ポタリポタリと萃香の足元へと垂れている。
言うなれば満身創痍である。目は前を向き、手には一つの竹筒を握り、今しがたまで歩いていた様子を痛いほどに伝えてくる。
「萃香っ!萃香ぁ!」
霊夢は自身が裸足であろうが躊躇うこともなく萃香の元へ駆け寄る。
「………あぇ……霊…夢………? 丁度良かった…えへへ。霊夢……これでお前を…助けて……やれ……る……」
霊夢に声を掛けられるまで、立ったまま気絶していたのか。ゆっくりと萃香は眼を霊夢に向け、持っていた竹筒を小刻みに震える手で渡そう
とするが、バランスを崩し、倒れそうになる。
「萃香っ! しっかり…しなさいっ! 丈夫なのが取り柄…けほっ! …なんでしょ!」
霊夢は倒れそうになる萃香の小さく軽い体をがっしりと抱きかかえ、支える。
「……えへへ。今回は……ち~っとばかし無茶しちゃった………って、霊夢。まさか…泣いてる…のか…?」
「バカッ……泣いてなんか…グスッ…いないわよっ! このバカ鬼…ッ!」
「まぁ…何は、ともあれだ。………ただいま。霊夢」
「………おかえりなさい。萃香」

こうして、『鬼』の少女と『人間』の巫女の話は終わるのですが
「霊夢ーーーー! 昨日新しい技を思いついたんだ! 試させてくれーーーー!」
「わざわざウチにまで来て試すんじゃないわよこのバカ鬼っ!!」
萃香の持ってきた神秘の水により霊夢は病を癒し(実際にはただの風邪だった模様)
同時に萃香も自身も、霊夢に与え、余った分の量で傷を癒しました(実際は霊夢よりも萃香のほうが危険だった)
そしてこの一件以来、二人の距離は更に親密になります。
「ね……ねえ萃香。もし、もし良かったら、よ?」
「お?」
「今夜…泊まっていきなさいよ」
これより先は語らぬが礼儀。
鬼とは恐れられ、忌み嫌われてきた存在。
それでも萃香は願う。いつの日にかまた、人と鬼との間に『信頼関係』というものが復活することを。
今こうして、鬼である自分と人間である霊夢とが、信頼し合っているように。

誰がために鬼は戦う END
初投稿でガチガチに緊張して、今こうしてキーボード叩いてる手が小刻みに震え誤字連発・修正をエンドレスしてるE.Sと申します初めまして。緋想天発売したにも関わらず空気読まずに萃夢想やってたら思いついたので思うがままに書いてみました。これからも東方SSをおもしろおかしく書いて行きたいので、皆様のご意見・感想・批判等々をお待ちしております。
そして最後となってしまいましたが、読んで下さった方々へ、心からのお礼を。本当にありがとうございました。

6/17 追記:たくさんの感想・意見・評価、本当にありがとうございます。ご指摘を頂いた脱字、投稿してから修正して良いものかどうか迷っていましたが、やはり読んでいただくもの。修正するという判断を下し、遅ればせながら修正させていただきました。そして奇妙な改行、これもこちらが把握できる範囲で修正させていただきました。そして萃香の角が『二対』と表記されていたのを『一対』へと変更させていただきました。ご指摘を下さった皆様、重ねてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。今回の修正点を次回作で活かせるよう、努力する所存です。……次回作も今回より良いものができるかとてつもなく不安ですが、出来る限り頑張ります。
E.S
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.620簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
こういう雰囲気大好きです
もうみんなかわいいよ!
3.80名前が無い程度の能力削除
一生懸命なのは良いことです^^
6.100煉獄削除
う~ん、こういう雰囲気いいですねぇ。
二人の関係とかにニヤっとしてしまう。
スイカ(漢字変換でスイが出ない。なぜ?)は愛らしいというかなんというか。

初投稿ですか、面白かったですよ。
是非にこれからも楽しい作品を書いてくださいませ。
7.無評価名前が無い程度の能力削除
うひょう!これは良い萃霊!そしてゆかりん切ないよ!

>心配をかけさた
「せ」が抜けているのでは?
8.60名前が無い程度の能力削除
幻想郷の人々は必死になって何かに取り組むことがないんだよなぁ。
だから、こういう話は妄想すればするほど楽しいb
14.90からなくらな削除
いやぁ、初投稿なのになかなかにすごいじゃあないですか
シーンが変わるところで
それでも萃香は、倒れない――――――――――――――――。
―――――――――――「ねえ霊夢。あの子、きちんと戻ってくると思う?」
といったように、この細長い棒で現されていて、わかりやすかったですね
ほとんどの人は改行しますが、こういった方法もいいですね
次も期待
15.80名前が無い程度の能力削除
初投稿お疲れ様でした。
内容は面白かったのですが若干気になる点が一つだけ。
奇妙な改行がいくつかあるのですが、(例:その巨体は見るモノを<ここで改行されてる>戦慄させる。)
書籍とは違い読み手さんのブラウザサイズは一定ではないので句読点関係ないところではあまり改行しないほうがいいかもしれませんね。

言い方変えたらこのぐらいしか粗が見つからなかったわけですがw
16.30名前が無い程度の能力削除
全体的に中途半端で色々と不備が出ている感じでした。

……あとと二対だと四本になっちゃいますよ。
17.70名前が無い程度の能力削除
幻想卿がたくさん居たよ。面白かったです。これからにも期待。
19.60名前が無い程度の能力削除
楽しませていただきました。
次回作も期待させていただきます。