Coolier - 新生・東方創想話

貴女に贈る、この気持ち。

2008/10/18 22:56:33
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少しだけ季節外れになってしまった慧音と妹紅のお話。







雲ひとつ無い晴れた秋空の下、妹紅は里への道を歩いていた。


幻想郷に来てから、いや正確には慧音と出会ってからか。
自分の性格がこんなにも丸くなったのは。
以前からは考えられないほどに性格は落ち着いた。
短気なのも少しは直ったし、人の話も聞くようになった。
まぁ、宿敵である蓬莱山輝夜に対しては相変わらずだったが。
それでも竹林を抜け永遠亭へ行こうとする人の道案内兼護衛なんかもするようになったし、人里に下りる機会も多くなった。
あれだけ人を避けて、閉じこもっていたのが嘘みたいに思える。
本当についこの間まで人から逃げるようにして生活をしていたにも関わらず、だ。
これもそれも全て慧音という存在のお陰だった。
あの自分がこうもよく変わったなぁ、なんて事を思うと可笑しくて笑いが込み上げてくる。


「やぁ、妹紅さんじゃないか」
にやついた顔をしている最中に後ろから声を掛けられ、どきりと心臓が鳴った。
恐る恐るゆっくりと振り向くと、そこには里の人がにこにことしながら立っている。
「あ…こ、こんにちは」
人と接する機会が増えたとはいえ、とっさに挨拶を返す事はまだ慣れていない。
しかし挨拶を怠っている事が慧音に知れたらそれはそれで怒られてしまうので
出来る限り頑張って、挨拶が出来るようには心掛けている。
「この時間にこちらに下りてくるのは珍しいね」
「あ、あぁ…今日は天気もよかったので、ちょっと散歩をしてみようかなと…」
ここ最近ぐずついた天気が続いていた上に、元々外に出る事の少ない妹紅はずっと家にこもっていたのだが
久々の晴天に少しばかり外の空気を吸いたくなり、たまには散歩でもしてみよう、という流れに至る。
「成る程。確かに今日は久しぶりのいい天気だからね」
そう言うと里の人が思い出したかのように頷いた。

「そうそう。今日は珍しく寺子屋が外で授業をしているよ」
「外で授業?」
いつもは室内で延々と歴史の授業をやっている寺子屋が課外授業とはまた珍しい。
授業がつまらないと言われているから、たまには面白い授業でもしようと思ったのだろうか。
「子供たちが大はしゃぎでね。もしよかったら見に行ってみるといいよ」
そう言って里の人は話もそこそこにまた歩き出した。
「じゃあ、ちょっと行ってみようかな」
その後姿を見送りながら、せっかく此処まできたのだから寺子屋へ行ってみようと思い、妹紅はその足を寺子屋の方へと進めた。
ここから寺子屋まで真っ直ぐ一本道だ。
その道をゆっくりと歩いていると、時折吹く風が爽やかで気持ちいい。
たまには外に出るのも悪くないな、なんて考えていると子供達のはしゃぐ声が聞こえてきた。


「お」
そこでは子供たちが紙と筆を持ち、個々それぞれ何かを描いているようだ。
「あ、妹紅さんだ!」
妹紅の姿に気付いた男の子が周りの友達へと声を掛けて、たちまち妹紅は子供達に囲まれた。
「今日は外で授業なんだって?」
「うん、慧音先生が今日は外で絵を描こうって!」
なるほど、そういうことか。
外での授業の内容を把握して、納得していると目の前に絵の描かれた紙が突き出された。
「ほら、見て見て!」
嬉しそうに、自慢気に見せるその絵には里の風景が描かれている。
「へぇ、なかなか上手いじゃないか」
「慧音先生にも褒められたんだよ」
そう言って生徒の一人が嬉しそうに笑う。
「あ、私だってお花描いたんだよ」
「僕だって!」
みんな自分の絵を見てもらいたい一心で妹紅へと自分達の作品を一斉に見せ始めた。
「わかった、わかったから」
子供達に囲まれながら、照れたような困ったような表情で子供達の絵を1枚1枚見ていく。

「妹紅じゃないか」
驚いたような声色に、ふとそちらを向くとそこには慧音がはやり驚いたような表情で立っていた。
「どうしたんだ、こんな時間に」
「あぁ、久々に散歩でもと思ってたら、里の人に寺子屋が課外授業やってるからって言われて…」
妹紅の説明になるほどと頷いた慧音が妹紅を囲む子供達に向かって手を叩く。
「ほら、まだ授業の最中だからな」
描けてないやつは続きを描いておいで。
慧音の言葉に子供達は素直に従い、一気に妹紅から散り散りにそれぞれ各々の場所へ戻っていった。

「しかし、なんでまた外で授業なんだ?」
「ここ最近天気の悪い日が続いていたから、久々の晴れの日に篭っているのも勿体無い気がしてな」
たまには箱詰めじゃない日があってもいいだろう。
そう言って慧音が笑った。
「なるほどね」
みんなの楽しそうな様子を見ながら、妹紅は目を細める。
「あぁ、そうだ」
何かを思いついたように呟いた慧音が、妹紅に向かって紙と筆を差し出した。
「妹紅、お前も何か描くといい」
「え…私もか?」
差し出された紙と筆に戸惑いを感じて、妹紅が首を振ると慧音は不満そうな表情を浮かべる。
「いいじゃないか、せっかくだし」
「いや、私は絵心が全く無い」
と言うか最後に描いたのは何百年前だろうか?
妹紅がふるふると首を振って見せた。
「だったら久しぶりにどうだ?」
「いや、だから―」
そこまで言い掛けて、妹紅が何かに気付いたようにふと遠くを見る。
「どうかしたか?」
「いや…さっきもそうだったんだが風に乗って甘い匂いがしてくるなと思って…」
妹紅の疑問に慧音があぁ、と頷く。
「それは多分これの事だろう」
そう言って慧音がついて来い、と合図したのでその後を追いかけた。
慧音の後をついて行くに連れてその匂いが強くなっていく。
甘くて、どこか懐かしいその香りに妹紅は心が癒されるようだった。
しばらく歩き、立ち止まった慧音の視線の先にある木は橙色の小さな花を沢山つけていた。


「これの香りじゃないか?」
そう、これだ。
この匂いが風に運ばれて妹紅の元へ届いていたのだ。
「この花は…」
「金木犀だ」
「金木犀…」
小指の先もない程度の小さな花から香る香りがとても心地良い。
「私が好きな花でもあるんだけどな」
そう言って慧音が金木犀の木を見上げた。
「いい花だろう、香りもいいし」
そう言って慧音が目を細める。
その横顔を眺めながら、妹紅は少しばかり迷ったが心を決めた。

「慧音」
「ん?」
「さっきの…紙と筆貸してくれないか?」
妹紅の言葉に慧音が少し驚いた表情を見せたがすぐに笑う。
「あぁ、構わないさ」
そう言って再び妹紅に紙と筆を差し出すと、妹紅はそれを受け取りその場にどっかりと腰を下ろした。
「で、でも、上手くは描けないから」
出来は期待するなよ。
そう言って筆を取り、早速紙へと金木犀を模写し始める。
「描こうと思う気持ちが大事なんだ」
うんうん、と頷く慧音をちらりと見て、妹紅は照れた様な顔をした。
「あー、描いてるの見られると緊張するから、その…」
「わかった、また後で来るから」
ひらひらと妹紅へ手を振って、慧音はその場所を後にする。
慧音が立ち去った後、目の前の金木犀の木々と紙を交互に見ながら筆を進めていく。
絵なんてほとんど描いたこと無いのに、だ。

でもこれを見た時に、どうしてだか描きたいと思った。
この木に惹かれたからだろうか。
それとも慧音が好きだと言ったからだろうか。
今、この時期にしか感じる事の出来ない時間は永遠を得た自分とは違う。
だからこそ、なのかもしれない。
来年が来ればまた花をつけるだろうけど、もしかしたら来年は咲かないかもしれない。
金木犀が好きだと言った、嬉しそうな慧音の顔も永遠に見れる訳じゃない。
そんな事を考えながら、妹紅が戸惑いながら、迷いながらゆっくりと筆を置いていく。

迷いながら、戸惑いながら時間をかけて描き上げると、それをじっと眺めた。
何百年ぶりの絵の割には、自分的にはそれなりのものが描けたように思える。
紙に写した絵を眺めていると、突然影が出来て手元が暗くなった。
「出来たか?」
「わっ!?」
突然慧音が声を掛けたものだから、何とも間抜けな声を上げてしまう。
「そんなに驚かなくてもいいだろう」
その声に慧音もびっくりしたのか、表情が少し強張っていた。
「い、い、いきなり声掛けるからだ」
「それはすまなかったな。で、描けたのか?」
妹紅の手の中にある紙を指差すと、妹紅は少々照れたようにそれを慧音に突き出した。
受け取った紙には金木犀が模写されている。

「上手いじゃないか」
初めて妹紅の絵を見た慧音はその出来の高さに感心した。
「自分でもまぁまぁかなとは思ってるんだが…」
満更でもない妹紅の態度に、慧音がくすくすと笑う。
「これ、私にくれないか?」
慧音の言葉に妹紅が目をぱちぱちとさせた。
「こんなのでいいのか?」
「あぁ、とても気に入った」
そう言って慧音がにっこりと笑う。
まるで欲しかったものが手に入った子供のような表情だった。
「まぁ…こんなのでよければやるよ」
自分の描いたものを褒められて、しかも欲しがってもらえた事がとても照れ臭くて
あまり嬉しさを表には出せなかったが、それでも妹紅はとても嬉しかった。
「この花が見れる時期ももう終わりだから」
こうやって絵が残れば次に花を付けるまでいつでも見れるだろう。
そう言った慧音の表情は少し淋しそうに映る。
そう思うと何だか妹紅も悲しくなってしまった。
ふわりと香る金木犀の香りが余計に後を引く。


しんみりした空気の流れる中、それを破ったのは子供達の声だった。


「先生ー」
遠くから聞こえる子供達の声にはっとした慧音が苦笑いを見せる。
「すっかり感傷に浸ってしまったな」
「まぁ、こんな季節だからそういうのもありじゃないのか」
秋はなんとなく淋しい季節だから。
妹紅の言葉に慧音が小さく頷くと、その顔に微笑みを携えた。
「さぁ、帰ろうか」
すぐに気持ちを切り替えると、妹紅も立ち上がる。
「一緒に寺子屋までみんなを送っていくよ」
「そうだな、頼む」
そう言って慧音が子供達の元へ歩き出した。
その後姿を見ながら、妹紅はどうにかこの金木犀を保存しておける方法がないものかと考える。
枝を折ったって、すぐに枯れてしまうだろう。このまま保存しておくなんて出来るはずもない。
悔しいようなもどかしいような気持ちでその場を後にする事しか出来なかった。



翌日も、その次の日も妹紅は里へ下りて金木犀の木を眺めていた。
一日、また一日と過ぎる日々に、橙の小さな花の絨毯が大きくなっていく。
もう何日かすれば、この花が無くなってしまだろう。
それまでに何か、何かいい案はないだろうか…
金木犀を見つめながら考え込んでいると、ふとある考えが頭の中に浮かんだ。

「もしかしたら…!」
妹紅の望みに一筋の光が射す。まるでその光は救世主のようなものだった。
しかしそれが本当に実現できるかどうかは、まだはっきりとはしていない。
「…いちかばちか、頼んでみるか」
よし、と心を決め、急いでその場を離れると目指すは迷いの竹林。の中の永遠亭。
どたどたと屋敷の中へ入ると、助手の妖怪兎である鈴仙が何事かと目を丸くした。


「え、あ、あのっ…」
「今日は道案内じゃない」
永琳はどこだ?
妹紅の勢いにたじろいだ鈴仙はすぐ傍の扉を指差す。
「入るぞ」
その言葉に鈴仙がこくこくと頷くのを確認し、妹紅が勢いよく扉を開けた。

「あら?」
開いた扉の向こうにいたのが患者ではなく妹紅だったことに永琳は少々驚く。
しかしすぐにいつもの柔らかな表情を浮かべると、扉の傍に立つ妹紅へ声を掛けた。
「どこか怪我でもしたのかしら?」
「怪我なんかする訳ないだろ」
「それもそうね」
そう言って永琳がくすくすと笑う。
「じゃあ何の用事かしら」
「作ってもらいたいものがあるんだ」
妹紅から出た言葉に永琳が不思議そうに妹紅を見つめる。
「私は薬くらいしか作れないわよ」
「薬、とは言い難いがまぁ似たようなものだと思う」
はっきりとしない言葉に永琳が首を傾げると、永琳がそれを作れると希望を託し妹紅が口を開く。


「作ってほしいものは…」


妹紅の口から出た言葉に、永琳はふむと考え込んだ。
「出来ない…か…?」
「やってみないとわからないわね、少し時間が掛かるかもしれない」
「時間は掛かってもいい」
真剣な妹紅の表情に何か事情がある事を感じ取った永琳がにこりと微笑む。
「まぁ出来る限りの事を試してみるわ」
「あぁ、よろしく頼む」
そう言って妹紅は持ち込んだ袋を机の上に置いた。
「これだけあれば足りるだろ」
「…実験用も含めても十分ね」
袋の中を覗き込みながら永琳が言う。
「じゃあ、出来るようなら連絡してくれ」
「わかったわ」
その言葉を聞いて妹紅は少し安心したような表情を見せて部屋を出る。
そして屋敷からも出ると人里へと戻っていった。
妹紅が出て行った後、机に置かれた袋を見つめながら、永琳はくすくすと笑う。

「よくもまぁこんなに集めて」
「妹紅!」
妹紅が去るのと入れ違いに突然叫び声がしたかと思うと、扉ががらりと開く。
驚いて扉の方へ視線を向けると、そこに立っていたのは輝夜だった。
「どうされたんですか、そんなに慌てて」
「イナバから聞いたのよ。妹紅が来てるって」
きょろきょろと部屋を見渡すが、妹紅の姿は見えず輝夜は首を傾げる。
「ああ、もう帰りましたよ」
「え」
既にいなくなった妹紅に輝夜はぽかんと永琳を見た。
「どうして!?」
「さぁ、どうしてでしょうかね」
輝夜をなだめながら、袋の中身を少しだけ取り出した。
「私に挨拶もなしに帰るなんて…あれ、それは…?」
愚痴を零すように言った輝夜だったが、永琳が取り出した袋の中身に興味を持ったらしく近付きそれを眺める。
「どうしたの、これ」
「作ってほしいものがあると頼みに来たんですよ」
「これを使って?」
何を作らせるつもりだと、輝夜は顔をしかめた。
「まぁ、いろいろあるんでしょう、彼女にも」
そう言って永琳は早速作業へと取り掛かる。
永琳の言葉にいまいち状況が把握できない輝夜は首を捻った。



永琳のところへ頼み事をしに行って以来、なんとなく外に出るのがおっくうでずっと家にこもっていた。
恐らく金木犀はもう散ってしまっただろう。
散った金木犀と、それを残念に思う慧音を思ったら、あの場所には行きたくないと思ってしまう。
しかし今日は慧音と会う約束をしていたので、外に出なければならないのだ。
しかも待ち合わせ場所はあの金木犀の木…。
「…仕方ないか」
ぽつりと呟いた妹紅が重い足取りで出掛けようと扉を開くと、扉の向こうに兎が2匹立っていた。
永琳の助手である鈴仙とてゐだ。

「ん?」
「あ」
扉を出るのと、扉を叩くタイミングが重なり、1人と2匹がばったりと出くわす。
「どうしたんだ」
薬なら間に合ってるぞ。
不機嫌そうにそう言うと、てゐがじっと妹紅を睨み、鈴仙はたじろぎ言葉を詰まらせる。
「話はちゃんと聞くものなのよ」
「あ?」
てゐの言葉に妹紅が不機嫌な声を上げると、思い切った声で鈴仙が間に割って入った。
「師匠から預かったものを届けようと思って来たんですけど…」
「預かり物…?」
一瞬何のことかと顔をしかめたが、はっと気付くと鈴仙が荷物の中から袋を取り出す。
「多分貴女が望んでいるものが出来たと思う、って師匠が言ってました」
鈴仙の言葉もそこそこに袋を開けて中身を取り出す。
妹紅がそれを眺めると、こくりと頷いた。
「あぁ、望み通りだ」
今度礼をしに行くと伝えてくれ。
そう言って妹紅は慧音との待ち合わせの場所、あの金木犀の元へ走り出す。



金木犀の木々が植わっている場所を遠目から見ると、既に慧音がその場所にいた。
妹紅を探しているのか少し落ちかない様子だ。
そんな慧音に後ろからそっと近付き、ぽんと肩を叩く。
「うわっ!?」
「あ、あぁ、すまない」
慧音のあまりの驚きぶりに妹紅の方も驚いた。
「気配を感じなかったからびっくりしたぞ」
はは、と苦笑いしながら、慧音がちらりと視線を金木犀の木へ移す。
それに気付いた妹紅も木を見つめぽつりと呟いた。

「散ったな」
「…ああ」
もうすっかり橙をなくし、香りもしなくなった金木犀を見上げる。
「また来年だ」
少し残念そうな表情を浮かべ、慧音は金木犀に背中を向けた。
その様子を見た妹紅はポケットへと手を入れる。
そして背を向ける慧音の名前を呼んだ。

「慧音」
「なん…!」
振り返ると同時にあることに気付いた慧音が不思議そうに瞬きを繰り返す。
「この香りは…金木犀…?」
もうすっかり花も散ったのに、この香りはどこからやってきたのだろう。
さっきまでは何も感じなかったのに、この一瞬で…?
「どうして…?」
「正体はこれだ」
そう言って妹紅が小さな瓶を差し出した。
中には何が液体が入っている。
「どうやったら金木犀の香りを留めてられるかを考えたんだ」
妹紅の手から小瓶を受け取ると慧音はそれをまじまじと眺め、匂いを嗅ぐ。
「なるほど、水に香りを溶け込ませてあるんだな」
「酒やら薬やらには匂いがあるだろう、だから出来るんじゃないかと思って」
…まぁ、実行したのは永琳だけど。
そう付け加えるとそれはわかっている、といった表情で慧音が笑った。
そんな慧音に妹紅がぽつりと呟く。


「…あんな絵だけじゃ、足らないからな」
「何に足らないんだ?」
妹紅の言葉に慧音が不思議そうな表情をした。
「私は慧音と出会ってたくさんのものを貰ってきた」
それも目に見えない、大切な事ばかりだ。
人間らしく生きれるようになったのも、自分を変えてくれたのも慧音という存在がいたからこそ、だ。
その言葉を慧音がきょとんとした顔で受け止める。
そんな表情を見ると、気恥ずかしくなってくるがこれは伝えておかなくてはならないと
言葉を詰まらせそうになりながらも、妹紅は言葉を紡いだ。
「今の自分は自分じゃないみたいに思えるほど変われたのは慧音のお陰だと思っているんだ」
予想もしていなかった妹紅の言葉に慧音が照れた様に笑う。
「そんな…大袈裟だ」
「いや、大袈裟なんかじゃないさ」
こんな風に自分を変えてくれた慧音に何か返したいとずっと思っていた。

「いつか…いつか2人が永遠に別れる時が来るまで私は慧音が笑って、喜んでくれる顔が見たいから」
「妹紅…」
「いつもありがとう、慧音」
にこりと微笑む表情は慧音しか知らない妹紅の姿。
その姿を見たら慧音は感極まって、目頭が熱くなった。
「あぁ、永遠に別れるまで時まで…ずっと」
私もお前の傍で笑っていたいと思うよ。
そう言った慧音だったがすぐにむ、とした表情を見せる。
その表情を見た妹紅は何かまずい事を言ったかと内心焦った。
「だが、永遠の別れなんて悲しい事を言うな」
確かにいつの日かその時はくるだろうけど、今からそんな事を考えるなんてらしくないぞ。
そう言って慧音が妹紅の背中をばし、と叩いた。
「それもそうだな」
苦い笑いを浮かべる妹紅に、慧音も笑った。2人で笑い合った。
そして、2人で金木犀の木を見上げる。

「来年の花の時期が楽しみだな」
「あぁ」
「来年はもう少し上手く描ける様に練習するよ」
「今でも十分上手いのに」
「いや、私は納得できないね」
そう言って肩を竦めた妹紅に相変わらず真っ直ぐだな、と慧音が笑った。






「これで、よし、と」
妹紅から貰った絵に、同じく妹紅から貰った小瓶の液体をほんの少しだけ染み込ませる。
そして机の前の壁にその絵を貼り付けた。
絵からはまるで本物の金木犀のように香りが漂ってくる。
その絵を満足そうに見つめながら、今日もまた慧音は生徒達を迎え入れる準備を始めた。




―END―
妹紅と慧音の2人はこれくらいの関係が丁度いいと思ってたりします。
付かず離れず、でも相手を思いやる、そんな理想の2人を自分なりの話です。
加えて金木犀の花にちなんだ話を書きたいと思っていたので織り込んでみました。
もうほとんど見かけなくなってしまった頃の完成となりましたが
まだどこかで見かけた際には、残り僅かの花の香りを来年までその身に染み込ませていただきたいものです。
ちなみに金木犀の香水は実在します。
C・B
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コメント



0.590簡易評価
1.100煉獄削除
ほのぼのとしていて、しかしちょっぴり?しんみりとした話ですね。
妹紅と慧音の穏やかな雰囲気がとても良かったです。
この関係がいつでも続けば良いですね。
3.100名前が無い程度の能力削除
あぁ~
今夜は良い夢が見れそうですw
4.100芳乃奈々樹削除
金木犀の香りはいいですよね~。
確かにこれくらいが二人にはちょうどいいのかも。
支えつつも支えられている、そんな関係。

素敵な物語をありがとうございました。
8.90名前が無い程度の能力削除
ああ・・・平和だ
この二人はやっぱりこうでなきゃ