Coolier - 新生・東方創想話

東方放浪記 ~こちらスネーク(嘘)、紅魔館に潜入した~

2008/01/27 06:40:37
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            ※これは『東方放浪記 ~鬼同士~』の続きです

















「いた?」
「いなかった」
「こっちかも」
「行ってみよう」
 扉の向こうからそんな声が聞こえたのでひとまずは安心だ。
ゆっくりと扉から背を離す。
今まで息を殺していたので、急に息切れしてきた。
なんせ全力疾走でこのだだっ広い屋敷を駆け抜けて、時には弾幕をくらい、時には撃ち返しながらこの部屋に駆け込んだのである。
近くに誰もいない今なら息切れくらい許されるだろう。
黒を基調とした長袖、長ズボンをした男だった。
しかし全て黒とは言えず、裏地は真っ赤になっていた。
さらに、胸の部分には三日月を九十度回転させたような、歪に笑った口のような、そんな模様が赤く刻まれていた。
そう、鴉間与一である。
なぜ彼がこんな潜入任務のような真似事をしているのかというのには、少し記憶の船をこいでみるといいだろう。





 確かあれは半日前、私は魔理沙の家を訪ねたときのことだ。
余裕を持って昼から出たのだが、案の定魔法の森で迷ってしまい、たどり着くまでに五時間はかかった。
途中、妖怪やら某名作ゲームに出てくる赤い食人植物などに出くわしたが、そこは根性で切り抜けた。
よくやった!私!
 その甲斐あって、今こうして差し出された紅茶をのんびりと飲むことが出来る。
「随分と余裕そうだな」
 さっきまでやっていたと言う実験の片づけを終わらせた魔理沙が言った。
実験の片付けより部屋の片付けのほうが先じゃないかとも思うが……。
「余裕じゃなかったんですよ、ここまで来るの。変な妖怪に襲われたり、変な植物に食べられそうになったり――散々だったんですから」
「その割には綺麗だけどな。服とかも新品みたいだぜ」
「そりゃあ、この服が再生したからですよ」
「再生?服って再生するもんなのか?」
「私の服は特別製でしてね。破れたりしてもすぐに補修されるんです」
「いつの間にそんな魔術を覚えたんだか……」
「魔術じゃないですよ。魔理沙は私の能力を知ってますよね」
「ああ、体をくにゃくにゃ出来る能力だろ」
「表現としては微妙ですが……まぁ、そんな感じです。体を変形させることの出来る能力、っていうのが一番しっくり来ると思いますよ。で、その能力の根本にくるのは何か。それは細胞の変化です。細胞が増えたり減ったりして形を変える。細胞そのものの形を変化させることで材質や色を変える。つまりはそれの応用です」
「……全っ然話が見えないな。もうちょっと分かりやすく話してくれ」
「簡潔に言うと、私の能力を持った服です」
「ああ、なるほどね。理屈は分かったがやり方が分からん。教えてくれ」
「血肉に漬ければいいんですよ」
「……はぁ?」
「私の細胞を布の繊維に置き換えてしまおうという話です。朱に染まれば赤くなるってね。
そのためには元の朱が必要ですから切り落として使用しました」
「猛烈にその服に触りたくなくなってきた」
「ははっ、大丈夫ですよ。もう血も肉も落としてます。赤くなったものをこれ以上赤くしても意味無いですからね」
「まったく、紅茶なんて入れるんじゃなかったぜ。連想してしまう」
「血の紅茶、ですか。いいんじゃないですか?それもまた一興です」
「お前はレミリアか……はぁ」
 少しため息をついて、紅茶を一気に飲み干した。
「で、こんな辺境まで何の用だ?」
「魔理沙から貸してもらっていた本が読み終わりましたんで、続きを貸して欲しいんです。たしか最終巻でしたよね。スペルカードについての巻」
「んん?そうなのか?」
「そうなのか?って……全部見たんじゃないんですか?」
「いや」
「見てないのかよ……」
「いやな、もう一度基礎から習いなおそうとしてパチュリーからうば――借りたんだが、途中で飽きちゃったんだぜ」
「飽きちゃったんだぜ、ってねあんた……まぁいいや、で、この続きを見るにはどうすればいいんですか?」
「湖の近くに紅魔館って屋敷があるんだ。そこの図書館に行けばあるぜ。絶対」
「湖近くの紅魔館ですね。では行ってきます」
「ちょっと待て」
「……なんですか?今は一刻も早く用を済ませたいんですが」
「どうせお前のことだ、普通に入ろうとするだろ。でもな、あそこは普通に通らせてくださいって言って通れるところじゃないんだよ」
「じゃあどうすれば……」
「それはな――」





 そのまま魔理沙の口車に乗せられて、私は寝ていた門番を素通りして入ったわけだが、すぐに見つかってしまい今に至るわけだ。
「どうするかな……」
 このままここに居てもいつかは見つかってしまう。
その前にどこかに隠れるか、もしくは移動するか、どちらかを選ばなければいけない。

このまま隠れておく ←
移動してみる

 いや、時間の問題だし、それにここで待っていても本は手に入らない。
それに下手に籠城すると返って相手の戦力を増やしかねない。

  このまま隠れておく
  移動してみる    ←

 こっちのほうが妥当な線か……。
しかし、見つからずに進むというのもかなり難しい話である。
この屋敷は広さと同様に雇われているメイドの数も多い。
地図もなしに闇雲に歩き回っていれば見つかってしまうだろう。
 結局どちらにしてもいい手ではないということ……。
 と、その時、不意にドアの向こう側から声が聞こえてきた。
しかもこちらにどんどん近づいているようだ。
「くっ……」
 私は急いでソファーの後ろに隠れる。
それと同時にドアの開く音が聞こえた。
 私は判断を誤ってしまった。
いくら急いでいたとはいえ、ソファーの裏などと少しでも部屋の中に足を入れれば見つかりそうな場所に隠れるなんて。
最悪の場合、こちらに向かってくる者を無力化しなければならない。
しかし、それは全面的に紅魔館を相手にするのと同義で――
「んー、いないなぁ」
 短い一言でドアは閉じられてしまった。
……戦々恐々までもなかったようだ。
 しかし、これでここに居ても仕方が無いということは分かった。
「移動、するか……」
 とりあえず、ドアに耳を付けて外の音を聞いてみる。
大丈夫だ、誰もいない。
 そっと、ドアを開けると、部屋と同じく、紅い廊下が続いていた。
そのまま、左側の壁を伝って進んでいく。
こういった潜入の基本は知っているが、使いどころが無かったので実際にやるのは久々だ。
そうそう、こういうことしていると向こうの世界でやってたゲームのこと思い出すな……。
たしかメタル――なんだったっけ?
 そんなことを思い出しつつも、私は奥へと進んでゆく。
曲がり角、ちょうど向こうから妖精メイドが歩いてくるが見えたので急いで死角に入る。
このままやり過ごしていてもあれなので、ここは尋問するして図書館の場所を聞きだすことにした。
 妖精メイドが通り過ぎたのを確認して、背中を追っていき、首筋にドローイングナイフを突きつけ、「動くな」と静かに告げた。
「あう」
 メイドの方もこの状況を早くも理解したらしく、あっさりと両手を挙げた。
相手が無抵抗になったことを確認して、一番近かった一室へと引きずり込む。
「図書館の位置を、分かりやすく」
「さぁ?」
「さぁ?って……いつもはどんな風に行っている?」
「んーとね……勘?」
 どすっ。
私は手刀でメイドを気絶させる。
妖精なので少しは聞き出すのに苦労するかと思ったが、それ以前の問題だった。
「ふぅ……」
 息をつき、振り出しに戻った状況の中で次の手を考えてみる。
あの状況から変わったものといえば妖精メイドが増えたくらいである。
あと客間みたいな部屋が倉庫に変わったことかな。
圧倒的に居心地のよさなら客間の方がいいのだが、贅沢は言えないだろう。
「……とりあえず、なんか探すか」
 とりあえず探してみた。
どうやらここは野菜の保管庫らしく、色とりどりの野菜が積まれていた。
だが野菜にこの危機を乗り越えられるような力は無いし、精々相手に投げつける程度だ。
つまりは役立ちそうなものは特になし。
と、思っていたのだが、私は視点を変えた瞬間に目が釘付けになった。
「これは――いける!」





 場所は変わって、博麗神社――もっと細かく言うならば、与一の部屋。
今、主が留守のこの部屋に三つの影が動いていた。
「ないわね……」
 そう呟くのは、神社の巫女であり、この部屋の主の主とも言える霊夢だった。
「魔理沙、こういうことはあんたの方が得意なんじゃない?」
 もう一つの影――魔理沙は不思議そうな顔をした。
「なんでだ?」
「だって何時もやってるじゃない。紅魔館とかで」
「失礼だな。あれは盗んでるんじゃない、借りてるんだ」
「物を探すって意味なんだけど……」
 そんな二人の後ろでチルノが鉄仮面を見つけてはしゃいでいる。
「何か面白いもの見つけた!」
「おいおい、探すのは仮面じゃなくて刀だぜ――っても、あるどうか分からないけどな」
「あるわ。そんな気がする」
「お得意の勘ってやつか」
 魔理沙はおどけた顔を一瞬して、真剣な顔で霊夢に訊いた。
「そういやぁ前々から気になってたんだが、なんで与一を住まわせてんだ?」
「あら、魔理沙は与一さん嫌いだった?」
「いや、そうじゃないけどな、だって普段の霊夢なら絶対に人を住まわせたりしないだろ。外来人ならたくさん来たはずだし、住ませてくれって言われたことも少なくないだろ。でも、お前は断り続けた。誰になんと言われてもだ。それなのに与一はここに住ませてる。どういう風の吹き回しかな、と思ってな」
「そうね……確かに多かったわよ。住ませてくれっていう人。でも彼らは他で生活できる――いえ、他で生活しても危険性が無いから追い返したのよ」
「与一は危険だ、って言ってるのか?」
「分からないけど、なんとなくそう思ったわ」
「……そっか、ならいい」
 魔理沙は疑問が解決してすっきりしたような表情で作業に戻った。
 ちなみに作業というのは『赤染』探しのことだが、一通り探しても見当たらなかった為、それに繋がる資料探しへと進んでいる。
つまりは与一の持ち物を物色してるわけだ。
霊夢はやる気満々で、魔理沙は興味半分、チルノは冷房代わりに魔理沙に拉致られたわけである。
 魔理沙ははらりとページを捲る。
どうやらアルバムを見ているようだ。
本気で探す気の無さが伺える。
「しっかし、風景画しかないな。たまに人が混じってるのもあるけど」
「魔理沙、しっかりとおかしな点を探すのよ」
「写ってる人間が毎回違うって点を除けはいたって普通だぜ。霊夢、そっちはどうなんだ?」
 霊夢の方は何かのファイルを見ていた。
そこにはさまざまな人の顔、名前、身長、特徴、癖、などが細かに書かれていた。
まるでその人物に成りすます為に作られたかのような。
「特には無いけど……本当、与一さんっていろいろやってたのね」
 呆れ顔だった霊夢が、次のページを開けたとたん、何か不思議なものを見たような、そんな顔をした。
「ねぇ、魔理沙」「なぁ、霊夢」
 二人の声は綺麗に重なった。
「……魔理沙からでいいわよ」
「ん、ちょっとこれを見てくれ」
 そう言って魔理沙が見せたのは先ほどのアルバムだった。
その指先がさしているのは、何の変哲の無いただの写真。
だが、写真に写っているものは変哲の無い、とはいかなかった。
「人食いが――二人?」
 中央に与一、そして両脇に天裁が二人という構図。
「与一が化けた、ってわけじゃないよな。現に写ってるし」
「双子って言う線は?」
「いくら双子でも、ここまでそっくりなやつはいないだろ」
 そう、写真に写っている天裁は、鏡に写したように同じなのである。
「そういえば聞いたことがあるわ。向こうの世界じゃあ『合成写真』って言って、写真を捏造できるだとか」
「あの鴉天狗だけには絶対に知って欲しくない情報だな。でも、だとしたら何でこんな写真を捏造したかったんだろうか」
「さぁ、興味本位じゃない?」
「かもな。で、お前のほうはどうなんだ?」
「これ、見覚えあると思わない?」
 そう言って差し出されたのは、先ほどのファイルだった。
そのファイルには銀髪の少女が書いてあった。
「どこかで見たことあるような……でも思い出せないな……」
「そうなのよ、どこかで見たことあるんだけど……誰かしら」
「あー、あの屋敷のメイドだ」
 先ほどまで鉄仮面を付けて遊んでいたチルノが突如として叫んだ。
「「咲夜だ!!」」
 続けて二人も叫ぶ。
 それもそのはず、写真に写っている咲夜はあの瀟洒なメイドではなく、可愛らしいワンピースを着て無邪気に笑う幸せそうな女の子だったのだから。
「あのチルノに分かって私達に分からないなんて……馬鹿以下ってことか?」
「人生最大の汚点だわ……」
被写体が分かったというのに、霊夢と魔理沙は絶望の淵に追い込まれた様子だった。
「むきー!馬鹿っていうなー!」
「過去のことは忘れよう。うん、忘れよう――で、問題はなんで与一が咲夜の写真を持ってるかってことだ」
「レミリアから聞いたんだけど、咲夜ってもともと外の世界から来たらしいのよ。だから写真があってもおかしくは無いんだけど――本当に問題なのはその写真がそのファイルに載ってるってことよ」
 霊夢がパタンとファイルを閉じた。
そのファイルの表には『仕事用』と綺麗な文字で書かれていた。
「……『仕事用』?あいつの仕事ってなんだ?」
「他人に成りすまして情報を抜き出したり、内部告発したり。でも一番多かったのは暗殺業だって言ってたわ」
「暗殺って……じゃあ、もしこのファイルが暗殺関係の仕事内容だったのなら――」
「与一さんは過去に咲夜を殺しにかかったことになるわね」
「本人たちは覚えてるのか?」
「宴会のときに一応は会ってるみたいだけど、得に何事も無くしゃべってたわ」
「それなら思い出させないようにしなきゃいけないってことか。特に咲夜のほうには」
「そうね。与一さんにも湖辺りを近づかないように言っとかないと」
 与一を紅魔館に行かせた、なんて言えない雰囲気だな……。
魔理沙はこのことを言わないでおくことにした。
どうも、鏡面世界です。
今回は思った以上に時間がかかりそうだったので二つに分けることにしました。
この話は鬼神関係から外れたものにしようと努力したら二つくらい伏線引いちゃいました。
今後、地道に回収していく予定です。っていうか全部回収しなくちゃ……。
次回は大佐が出てくる予定です。メタルギアを知ってる人には面白いはず。いや、知らない人でも面白いと思える作品にしなければ!
鏡面世界
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コメント



0.300簡易評価
5.70幻想入りまで一万歩削除
>外来人ならたくさん来たはずだし、
もしや某所にて大量に幻想入りしてる方々のことでは?と邪推してみたり