Coolier - 新生・東方創想話

これからも

2009/12/04 00:41:48
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吐息も白ずむ、本格的な寒さを感じさせる紅魔館のある日。パチェが倒れた。

原因はとんでもなく簡単。読書による夜更かしと過労である。

シリアス展開を期待した者達には少々申し訳ない。

「新しい本を大量入荷したのが嬉しかったからって、限度があるでしょうに。
 体調壊すまで読み続けるなんて無理が過ぎるわ………特に貴女は」

「ええ………流石に百時間通しでの読書は私には無謀な試みだったわね」

私はっつーか、不眠不休でんなことしたら吸血鬼でも目が潰れるっての。

多分人妖怪亡霊神様ぜーんぶの種族が無理だと思うけど。

呆れた私に共感しているのか、今回パチェの治療に当たってくれた永遠亭の薬師も

困ったようにクスクス笑っている。

「それでは、私はこれで………充分な栄養と、休養を取ってくださいね」

医療器具を纏め、八意 永琳は席を立つ。

コイツの見立てによれば、パチェは体力低下と眼の疲労以外には特に問題無いらしい。

や、あると言えば持病の喘息とかがあるんだが、今回の昏倒騒ぎに関してはその二つだけが原因だとか。

用件は現状の治療だけだから、それだけ分かれば充分だろうて。

「悪かったわね、態々竹林の奥からこんなトコまで出張ってもらっちゃって」

「いえいえ………困った時はお互い様ですよ、レミリアさん。それに、出張らないと
 得られないものも有りましたし」

そう言って柔和な笑顔を浮かべた永琳がチラつかせた鞄の中には、ウチの図書館にある

医療に関する本が数点…………成る程。

「期限は特に決めてないけど、頃合を見てちゃんと返しなさいよ?」

「あら、ここの本は死んだら返すのが基本だって聞いたのですが」

それ一生返ってこないじゃないかぁ。と談笑し合う私達。まあこの医者は真面目さんだから

どこぞの黒白とは違ってちゃんと返してくれるだろう。

「………さて、名残惜しいですが今度こそお暇致しますわ」

「ああ………咲夜、彼女を永遠亭まで送ってあげなさい。ずぶ濡れに
 なってる門番も見がてら、ついでに………ね」

普段ならここで軽く返事が来るもんだが、今回に限って咲夜から返事は無い。

ふふん、誰が誰を心配しているかなんてお見通しよ。

部屋の前で永琳が廊下を曲がり姿が見えなくなるまで見送ってから、私は

部屋に戻りベッドで寝てるパチェの隣に椅子を持ち出して椅子に座る。

「あら………今日は外へ行かないの?」

「雨、降ってるもの。行きたくとも行けないわ」

ざあざあと雨音を鳴らす外を眺め、残念そうに溜息を漏らす私。

本日の天気は、生憎の雨模様である。吸血鬼である私にとって雨とは種族柄天敵なのだ。

肌は焼けるし、外出は出来ない、美鈴との組み手は愚か尻も叩けず、雨合羽も無しに門前に立つ彼女が

気掛かりで咲夜はソワソワしっぱなしと例を挙げればキリがない。

ん?吸血鬼関係ないか?これ………まあ良いや。

「でもま、今回はその雨に感謝しないとね。お陰で倒れてる貴女を見付けられたし」

「そうね………レミィに雨の日は図書館で暇を潰す習慣があって助かったわ」

憎き天敵に癪ながら礼を言う私に、パチェは小さく笑う。

雨は嫌いだが、こんな役得があるなら偶には良いだろう。

「でも良いの?寝込んでる私に付き合うよりメイド達のお尻でも触ってた方が
 貴女的には楽しいのではなくて?」

「悪くない提案だけど、それじゃあパチェが寂しいじゃない?
 貴女が寝るまではここに居るわ」

「今日のレミィは優しいわね」

「親友ですもの」

弱ってる貴女を放っておけますかっての。勿論、フランや咲夜や美鈴も同様にね。

真の当主とは従者を大事にするのだよ。

どれ、その証として私自ら林檎の一つでも喰わしてやるか。勿論皮剥いて。

「え、レミィ何もそこまでしなくても………相手を気遣って
 貴女まで怪我しちゃったら本末転倒よ?」

柔和な表情から一転、物凄く心配そうに私を見上げるパチェ。この魔女め、

私を誰と心得るか。

我が名はレミリア・スカーレット。運命をも支配する稀代の吸血鬼だぞ?

数多の運命(フラグとも言う)の中から、『林檎の皮を綺麗に剥く運命』を

手繰り寄せれば造作も無い!










……




…………………………………



……………………………………………………



…………………………………………………………………………



………………………………………………………………………………………………



……………………………………………………………………………………………………………中々ヒットしないな。

林檎の皮如きでどこまで苦戦してんだ私は。もうちょっと頑張れ私の可能性。

あ、何だこれ………『皮は剥けなかったが林檎と弾幕を掛け合わせた新たなスペルカードを閃く運命』?

何でこんなのが率先して出てくるんだ………林檎と弾幕から一体何を閃けっつーのだ。

「…………レミィ?やっぱり無理せずに咲夜とか呼んだ方が」

「むっ」

いかん。林檎を持ったまま停止したからパチェに心配を掛けさせてしまった。

「だ、大丈夫よ。それに一度言った事を違えるのは紅魔館当主としてのプライドが………お、良し」

累計500495パターンの運命からどうにかそれを見つけ出し、私はスラスラと皮を剥き始める。

淀み無く動く私の手つきに、パチェは少なからず驚いていた。つーか私も驚いてた。

「………ただ偉そうにふんぞり返ってるお嬢様ではなかったのね」

「そうだろうそうだろう」

皮剥き程度で認識を改められるアレだが、多分褒てるので素直に受け取る私。

一応自分の持ってる能力を使っての行為なんだから、ズルじゃないだろうしね。

「はい、パチェ。あーん」

「あーん」

綺麗に四つに切られた林檎のうち一つを摘んで、パチェの口へ運んでやる。パチェが

食べたのを確認してから、ついでに私も一個拝借した………うん、瑞々しくて美味い。

「………こうしてふたりっきりなのも、久し振りね」

「ん?ああ…………そう言えばそうね」

二個目の林檎を食べながら、ふとこの部屋には私達以外に誰も居ない事に気付く。

咲夜は永琳の送迎、美鈴は門番、フランはお昼寝中で、パチェの使い魔である小悪魔も今は

パチェに少しでも栄養をと食材を買い回っていて全員不在。メイド達もこの部屋に入ることは

まず有り得ないから、事実上のふたりっきりだ。

最近は私達の周囲には必ず咲夜と小悪魔が待機していたから、本当の意味でかなり久し振りだろう。

「昔はもっとこんな時間あったのにねぇ………この屋敷も随分賑やかになったもんだ」

「残念?」

「ちょっとね。こうしてパチェと一緒に居るの、好きだし」

「私も」

互いに笑い合って、私は寝ているパチェの手に自分の手を重ねる。血の巡りが

悪そうな白い掌は、存外に暖かい。

「…………冷たくない。生きている証拠ね」

「………心配、掛けさせちゃった?」

「当然」

隠す事無く、私は正直な気持ちをパチェにぶつける。

実際、倒れてるパチェを見た時はかなり慌ててた。大事に至らなかったから今ではこんな風に

落ち着き払ってるけど、もし彼女が死ぬような事態であったら悲しすぎて大暴れしていただろう。

私が愉しく優雅に過ごすにはこの屋敷と、私に仕える従者達が必要だ。だがそれよりも、私の隣に

パチェが居ることが大前提だ。刺激あってこその生活であり、親友あってこその人生だ。失うワケにはいかない。

「パチェは普段から身体が弱いんだから、私はいっつも心配よ………
 くたばるなら一緒じゃないと嫌よ?」

「あら、私だってレミィが無理しすぎないかっていつも心配よ?月に喧嘩を売りに行った時も、
 内心ずっと無事を祈ってたし………レミィこそ、死ぬ時は一緒じゃないと嫌よ?」

ほう、パチェがそこまで私を気に掛けてくれていたとは。これは親友冥利に尽きる。

しかし互いに気遣い、果てるときは一緒と決めていたとは………流石だな私達。

まあ当分私は死ぬ予定は無いし、パチェだって死なないし死なせない。まだまだ私の人生は

終わりそうも無いな。

パチェも同じ事を考えているのだろう………口元には笑みを浮かべ、私達は同時に口を開く。

「それじゃあパチェ」

「それじゃあレミィ」




































「「これからもどうぞよろしく」」
個人的にはぱっちぇさんとお嬢様は相思相愛なので、この程度はデフォだと思うんだ………

どうも、何処からかこの場所を嗅ぎつけた友人に「お前の書く幻想郷はちょっとほんわか過ぎる」とお叱り(?)を受けた男、鉢植えです。
さて、ペースもそこそこに投稿させていただいた第四弾はレミパチュとなったワケですが………思いの他コンパクトにまとまっちゃいました;; しかも甘々を目指したのに甘さが控えめってどう言うことだ……………自分はまだまだ実力不足のようです。頑張れ自分。
それでは長々と語るのもアレなので今回はこの辺で。次は何を書こうかな………
鉢植え
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コメント



0.1220簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
いーですねぇ、、
人間には築けない100年来の少女たちの友情、愛情
ときに雨とは心を洗い流すきっかけとなるものです
この雨に感謝
4.100名前が無い程度の能力削除
レミパチェはこのぐらいの距離が調度いいですね。
6.90名前が無い程度の能力削除
さりげないさくめーで俺が幸せになった。
7.100奇声を発する程度の能力削除
ラストの部分で和みました!
この距離感が凄く好き!!
9.90名前が無い程度の能力削除
好きなコンビだけど滅多に見ないので大歓喜。
しかし運命がグーグル先生のようだw
13.100名前が無い程度の能力削除
レミパチェ イズ マイジャスティス!
14.100煉獄削除
静かに時間が流れていく感じが良いですね。
レミリアとパチュリーの雰囲気や二人の友情とか面白かったです。
16.100名前が無い程度の能力削除
ほんわか過ぎるくらいが素敵だと思うのです。
レミパチュは素晴らしい。もっとはやるべき。
19.100名前が無い程度の能力削除
さあ、めーりんとさくやがちゅっちゅする話を書く作業に早く戻るんだ!
28.80名前が無い程度の能力削除
「…………冷たくない。生きている証拠ね」

「………心配、掛けさせちゃった?」


思いの丈をぶつけ合うでもなく、
お互いが確認を求め合うでもなく、ただ静かな感情で言葉を交わす。
二人の過ごしてきた時間はきっと掛け替えの無いものなのでしょう。

あやかりたいものですね。