Coolier - 新生・東方創想話

夏の日の神社

2014/05/30 15:38:25
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「暑っついわねぇ・・・」
幻想郷も梅雨が明け、辺りもすっかり夏模様となった。辺りにはけたたましい蝉の鳴き声が鳴り響いている。
霊夢もこの毎日の暑さにすっかり参っていた。
「暑いって言っても暑くなるだけよ」
そういって湯呑にお茶を注ぐのは風見幽香だった、霊夢は出されたお茶をとると、少し香りをかぎ、口に運ぶ。
「いい香りね。」
多少苦みがあるが、冷たさと清涼感ある香りが暑さを忘れさせる。
「アップルミントとスペアミントでハーブティーを作ってみたの。井戸で冷やすと美味しいでしょ?」
「美味しいけど…私はもうちょっと甘い方がいいかな。」
「まだまだ子供ね。」
「余計なお世話よ。」
少し照れくさそうに言う霊夢を幽香がふふっと笑う。
「そう言えばその入れ物、涼しげで好いわね。」
ちょっとバツが悪かった霊夢は幽香の持ってきた容器に話題を移す、円筒状のケースでガラスでもないの薄い青色に透けており、刻印されている花模様が見た目にも涼しい。
「前にお店で手に入れたの、こぼれないし、ひもをつけておけば井戸で冷やせるから重宝するわ。」
香霖堂で買ったという透明な密閉容器にお茶を入れ、井戸に入れて冷やす。手間と時間がかかった分、そのお茶は神社にいい涼を運んでくれていた。
「入れる時思ったんだけどスイカやら野菜冷やすのはいいけど瓢箪はなんなの?霊夢も何か飲み物冷やしてるの?」
「ああ、あれね、萃香がお酒を冷やしてるのよ。」
「スイカ?ああ、神社に住み着いたっていう鬼ね。」
「昼は寝て過ごして夜に冷酒を飲むんだーって騒いでたわ。」
「へぇ、そうなの。」
「果物とかは近くにいないと妖精が盗んでいくのよねぇ。」
そう言いながら自分で湯呑にお茶を入れる。
「そういえばどこまで話したっけ?」
「前に生意気な仙人をのしたってとこまでは聞いたわ。」
「そうそう、あの仙人って霊夢が最初に倒したんでしょ?倒した時どうだった?やっぱり泣きながら走って逃げちゃった?」
幽香はかわいい動物を愛でたように嬉しそうに話す。
「あんたってこういう話をする時は嬉しそうね。」
「だって、あの仙人、久々に真正面から私を退治するって言ったのよ、しかも大昔の術とか使って強かったし、だからちょっと本気出しちゃった。」
「そいつも災難ねー、それでどうなったの?目とかえぐっちゃった?」
「地面に叩きつけて腕を外したくらいよ。」
「まぁそれくらいならいいか、同じ事を里の人にもしたら退治するわよ。」
「よほどの事がない限りしないわよ、それにあまり怖がらせるとお花の種とか売ってもらえなくなるしね。」
「わかっていればいいのよ、そういえばこの前さとりの妹が竹林でお面と・・・」
「おーい霊夢―」
霊夢が話題を切り出そうとすると外で魔理沙の声がした。
何?と霊夢が声を出す前に箒に乗った魔理沙が突撃をかける。
「ニュースだぜニュース、仙人が妖怪に食われたって、里で持ちきりだったぜ。」
「知ってるわよ。」
「え、なんで?」
「本人から聞いたし。」
そう言って目線を向かいの幽香に移す。
「話に尾ひれがついてるようね、食べてないわよ。」
「げげっ、幽香!」
「はぁい♪」
「おい霊夢、なんで幽香なんかが来てるんだ?」
「お茶を飲みに来ただけよ、それにお花とか時々届けてくれるのよ、魔力を吸った花だからか持ちがいいのよね。」
「そ、そうなのか・・・?」
「あんたも飲む?」
霊夢は新しい湯呑にお茶を入れると魔理沙に差し出す。
「そう、じゃあもらうぜ。」
その後も和気あいあいとお茶の時間は過ぎていった。

夕方になり、そろそろ帰ろうかなという雰囲気になったその時。
「私の瓢箪を盗んだの誰よー!」
大声がしたと同時に部屋の周りを煙のような何かが包む。
そして煙が一か所に集まり何かを形作る、次の瞬間にはその場に一人の少女が立っていた。
伊吹萃香
少女の姿をしているが、かつて幻想郷に君臨していた鬼の中でも四天王と呼ばれていた実力者だ、地下に住処を変えた後、ある異変を起こした事がきっかけで幻想郷に再び顔を出すようになり、今はあちこちをぶらぶらとしている。
「どうしたのよ。」
「井戸で冷やしてた瓢箪がないのよー!」
萃香が言うには遊んで帰ってきたら朝、井戸に入れた酒の瓢箪がない
近くの妖精の所に行ったが盗んだ様子もない、嘘をつく頭もないのは分かってるので何もしていないのは本当なのだろう。
「あんたが盗んだのね、返しなさいよ。」
幽香を指さして萃香が言う
「私じゃないわよ。」
「嘘ね、花畑のお化け程度じゃそんな言い訳しかできないの。」
「・・・」
ピシッ
空気かはじけ緊張感の中、二人がにらみ合う。
「神技『八方鬼縛陣』」
「わっ」
「あら…」
不思議な力で二人の動きが止まる、次の瞬間。
「宝具『陰陽鬼神玉』」
ごちんっ
二人の頭に巨大な陰陽玉がぶつけられた。
「はい、中止、中止、目の前に私がいるんだから。」
二人が頭を押さえて悶絶する中、手をぱんぱんと叩いて制止する。
「霊夢こんな奴かばうの?」
萃香が涙目で訴える。
「言いがかりはあんたの方よ萃香、くだらない挑発はやめなさい。」
「なんで私も殴られたのかしら。」
「あんたもきっかけあれは喧嘩する気だったでしょ。」
「・・・」
その通りだったので何も言い返せない。
「とりあえず井戸に行ってみましょ、話はそれからよ。」

「井戸の中は見た?」
「見てないわよ。」
「・・・そんなので良く他人を疑る気になったわね。」
そう言いながら霊夢は井戸の蓋を外すと中を覗き込んだ。
「!?」
異臭に慌ててとびのくと萃香に向かって言う
「やっぱ瓢箪はこの中ね。」
井戸の中は酒のにおいが充満していた。
「ちゃんと蓋閉めて浮かべたの?」
「うーん・・・」
「好いじゃない、お酒が井戸から出てくるなんて、人間の夢よ」
「良くないわよ、私のお酒よ。」
「うーんだいぶ底までお酒になってるなぁ、まぁほっとけば勝手に薄くなるだろ、湧水なんだし。」
魔理沙が深さを変えながら水を汲むが水ではなく酒だった。
「瓢箪が底にあるならいつまでたっても全部酒よ、底にあるってわかってるなら香霖堂で道具借りて取り出せそうだけどなんかもったいないわよね。」
「じゃあみんなで飲めばいいじゃないか。」
そして宴会が始まった。

「流行ってないって聞いてたけど結構来るじゃない。」
宴会の後幽香だけが残って片付けを手伝っていた、他の参加者や魔理沙萃香はさっさと行方をくらましもういない。最初は4人だけで呑んでいたのだが騒ぎを聞いた妖精と小人が混ざりネコとカラスが合流し仙人が二人も来てとあれよあれよと十数人規模の宴会となってしまった、瓢箪はみんながバカみたいに酒を汲むので水かさが減り簡単に取り出せた。
「あんなの単なる冷やかしよ、あんな連中がたむろしているから、いちばん来てほしい人間の参拝客が来ないし。」
「それでも誰かが来るだけいいじゃない、人間って一人が辛いんでしょ?」
「あんたの口からそんな事が聞けるとはね。」
「あの時はあなたに倒された連中が博麗神社に集まって宴会するなんて思ってもみなかったわ、ほら、昔のあなたってもっとギラギラしてたじゃない?」
「た、大して変わらないわよ!あんた酔ってんじゃないの。」
ちょっと顔を赤めらせながら霊夢が言う。
「博麗の巫女があんな妖怪や人外と仲良くなって、自分でどう思う?」
「あんたも含めてみんな退治する対象よ、でも……悪くない…かな。」
「そう…。」
「後はいいからもう帰りなさいよ。」
「次は何の花を持っていく?」
「任せるわ、あんたなら間違いないだろうし、あ、そうだっ、言い忘れたけど今度持ってくるときはあのお茶もっと甘くしてね。」
「ふふ、考えとくわ。」
そう言うと幽香はふわりと飛びあがると神社を後にした。
家路につく途中でかすかな歌と明かりが見えてきた。
「かぜーにふかれて~りむへ~こあへ♪」
美声なのだがいまいち歌詞がわからない。
たまに見る夜雀の屋台だった、普段は寄らないがこの時はなぜか入ってしまった。
「いらっしゃいー♪」
店主の夜雀が笑顔で迎える。
「適当に何かちょうだい。」
「雀酒のいいの入ったんですよ飲みます?」
「おいしいの?」
「ええ、もちろん♪」
「じゃあそれももらうわ。」
「わかりましたー♪」
そうして歌いながら酒を注ぎ焼いていた肉を盛りつけ始める
「お客さん、何かいい事でもあったんですか?」
「なんで?」
「なんか笑顔でしたから。」
「成長っていいわね。」
「?…なんの事です?」
「私みたいなモノはもう変われない、変わったら別のものになってしまう、自分のまま変われるってすばらしい事じゃない?」
「?私にはちょっとわかりません・・・」
「そう。」
(今日は楽しかったな・・・)
そんなことを思いながら酒が注がれたコップを飲み干した。

次の日に幽香が雀酒の影響で踊っている所を知り合いに見られて霊夢に伝わりバツの悪い事になるのは別のお話。
求聞史記の「神社によくいる」というのを見てどんな会話してんだろうと思って書いたものです
マンガの宴会のシーンでも背景に居たりよく神社に行ってるっぽいですよね。
ちょっと修正しました、ご指摘感謝です
海水
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コメント



0.720簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
宴会らへんをもうちっと書いて欲しかったなぁ、と。
ちょっとあっさりし過ぎていましたが、面白かったです。
4.100名前が無い程度の能力削除
こういうの好きです
8.90奇声を発する程度の能力削除
良いね、面白かったです
9.90絶望を司る程度の能力削除
なんか、名前混じってませんか?萃香とスイカですけど。
夏らしさがしっかり出ていて面白かったです。
12.100名前が無い程度の能力削除
酒が湧き出る井戸…酒飲みにとっては喉から手が出るほど欲しい代物ですね
あと、幽香が雀酒を飲んで浮かれている様子が気になりまくりです
17.90名前が無い程度の能力削除
何気無い日常が楽しそうでイイです