Coolier - 新生・東方創想話

紫は二色に分かれて

2006/09/05 04:13:06
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 ※本作には食人っぽい成分と、微オリキャラ警報が含まれています。ご注意下さい。






 思ったよりも探すのに手間取ってしまったが、今度はなかなか良いものが見つかったと思う。
 ひょっとすると、今まででも有数の力を持つかもしれない。将来が楽しみだ。
 だが、今は単なる脆弱な赤子に過ぎない。あまり無理させずに早めに家に戻ろう。


「紫様、お帰りなさい」
「ただいま、藍」
 スキマを潜り、家の中に現れた私に驚く様子もなく藍が言った。いつもの事と驚かなくなって久しいが、少し寂しくも思う。
「あれ、赤ん坊ですか? 食事は足りていたと思うのですが」
「いえ、巫女よ」
「ああ」
 不思議そうな顔が一言で納得顔に変わる。もう長い付き合い、説明の手間が省けて助かる。
「もうそんな時期でしたか。今回は早かったですね」
「そうね。でも今度のは掘り出し物よ」
「紫様が言うほどとは、珍しいですね。それで、今から?」
 尋ねる彼女に、軽く首を振って諭すように語る。
「人間には少し遅い時間よ、藍。だから今晩は預かるから、用意お願いね。橙は大丈夫?」
「ええ、もう寝ています。猫なのだからもう少し敏感になって欲しいとも思うんですけどね」
 溜息をつく彼女の姿に、過去の自分の姿が重なり苦笑が漏れる。育てるというのは苦労と喜びの連続だ。
 そのまま用意に席を離れた藍とは別に、私は赤ん坊を抱いたまま、隙間を開き潜った。

 そこは、幻想郷を遥かに見下ろす空の上。雲ひとつない夜空を背に、月と星に照らされた大地を臨む場所。
「少し冷えるわね」
 さっと指先でなぞる様に周囲の寒暖の境界を弄る。これで、寒くても凍える事はなく、暑くても茹る事はない。
 これが、私の妖怪としての能力。人にあらざる存在である証。
「見えるかしら。ここが、幻想郷。あなたがこれから守る責を負う事になる場所よ。
 とても残酷で、少しだけ優しい、大切な場所。大事にしてあげてね」
 語りかけた赤子は、普通の人間には辿り付く事さえかなわない高度の空だというのに泣き声一つ漏らさず寝息を立てている。
 その豪胆さに笑みが漏れる。そのまま、歌うように言の葉を繋ぐ。
「あなたは人間。弱い弱い、けれど何よりも強い。そしてあなたはその人間として、人と幻想の守護者になる。
 妖怪は人を襲い、人間は妖怪を討つ。あなたはそれを体現する、幻想郷の秩序になる。
 けれど忘れないで。妖怪と人はけして相容れない存在ではないと言う事も」
 当然、返事はない。けれど、確かに聞こえているはずだった。この広く美しい大地も見えているはずだった。
「忘れないで」
 もう一度だけ呟いて、スキマを開いた。少し、長居をしてしまったかもしれない。

 戻っても藍は何も言わなかった。多分、何をしていたか薄々察しているのだろう。
 その後、空腹に泣き出した子供にミルクを与える。こんな時、外の世界のものに頼れるのは便利だと思う。
「ちょっと待ちなさい」
「ああ、いつものですね。どうぞ」
 言う前からわかっていたような風の藍からミルクを受け取り、指先から一滴だけ、私の血を垂らした。
 紅い紅い、真紅の宝石。
 私の境界を操る能力で、妖怪の力ではなく、私の身体に含まれる、博麗と呼ばれた力の残滓をより集めた最後の手向け。
「祝福になるといいわね。呪いかもしれないけれど」
「さあ……どうでしょう。何も起きないかも」
「それならそれでいいの。無意味で終わるのなら、それで」
 言って哺乳瓶の蓋を閉じ、赤ん坊にミルクを与えた。彼女は美味しそうにそれを飲み干した。
 
 その晩は赤子を抱えて、ゆっくり過ごした。夜に生きる私のような者には、夜泣きもうるさいだけでさしたる苦労でもない。
 もちろん、世話そのものは大変な部分もあるけれど。


 翌朝早く。私は赤子を抱えて博麗神社を訪れた。
 朝靄に包まれた、どこか荘厳な雰囲気の神社の境内に踏み込むとほとんど同時に、博麗の巫女が姿を現した。
「あなたは――――スキマ妖怪? こんな時間に、何を」
「あなたに贈り物があるのよ」
「え?」
 警戒するように険しい表情を作る巫女に、無造作に近寄って笑顔で赤ん坊を差し出した。
「赤ん坊?」
「そう。次代の博麗の巫女よ」
 はっと目を見開く巫女に無理矢理のように眠る赤子を押し付け、距離を取る。
 彼女は警戒の色を濃くしつつも、戸惑うような声で言う。
「いったい……何を言っているの」
「あなたももう気付いているでしょう? あなたはもう全盛期を過ぎ、衰え始めている」
 どきりとしたように、彼女は小さく身じろぎをした。
「そんなこと……ないわ。弱くなってなんていない」
「それは技術で誤魔化しているだけ。それに、霊力は研ぎ澄まされても闘う力は失われ始めている。
 あなたはいずれ博麗の巫女としての責務を果たせなくなる」
「それで、次代の巫女を連れてきたと? あなたが?」
「ええ。約定に基づいて、私が選定し私が連れて来たのよ」
「約定?」
 訝しげな声で問い返す巫女に、遠い約束を再び伝えた。昔々の誓い。
「幻想郷を守る博麗の巫女が途切れぬよう、才能ある子供を連れてくること。それが彼女との約束よ」
「彼女?」
「わかるでしょう? 初代の博麗の巫女よ」
「嘘よ。そんなことを頼む必要はないし、他所から子供を連れてくるなんて行為を頼むわけがない」
 何度も繰り返された問答に、懐かしさがこみ上げる。もう、何度目だっただろうか。
「そうね。あなたたちが頼む理由は本来はないわ。もちろんこれは高齢の初代に子供がいなかった事もある。
 安定したとはいえない幻想郷で、才能ある子供を捜す時間を取れなかったという事もある。
 本来ならそれで終わりだったでしょう。けれど、それは続いている。何故かしらね、博麗の巫女は代々ある問題を抱えていたの」
「問題?」
「恋を知らないこと」
 今度こそ、彼女は明らかな動揺を見せた。彼女にもまた、心当たりがあるのだろう。
「悪いのは場所か、強さか、人か。理由はわからないけれど、ずっと。誰も普通に恋をして、普通に子供を作る事が出来なかった。
 不思議よね。血はけして繋がっていないのに、誰もが同じような人生を送る」
「…………」
「だから、私が約束を違えぬよう、続けているのよ。今じゃ人里でも強い力を持つ子供は少ないでしょう?
 それに、力衰え巫女が命を落とす前に、育てる時間を与えるためにも」
「子供を親から引き離す事を?」
「ええ。私がどんな妖怪かは知っているでしょう?」
 沈黙を持って答えるその姿さえ、過去の姿に被って見える。
 二人とも暫く黙っていたが、彼女は真っ直ぐにこちらを見て、口を開いた。
「何故?」
「何故、とは?」
「報酬もなく、使役されているわけでもないのにどうして、律儀にあなたが約束を守ろうと」
「報酬ならあるわよ」


 思い出すのは、過去の姿。彼女は言った。

「私には今から子供を作ると言うわけにもいかないし、お願いするわ。
 もし私の後の子達が子宝に恵まれぬようなら、その時も」
「それを私に願い、何を与えてくれるのかしら?」
 そう尋ねると、笑顔を崩さないまま、あっさりと言ってのけたものだ。
「私をあげるわ」
「はい?」
 流石に何を言い出すのかと眉をひそめる私に言って聞かせるように、
「あなたは人間を食べるのでしょう? なら、立派な報酬になるわ。霊力もあるし、不満?」
「……それでいいの? 人間なのに、命を捨てるような」
「あなたに諭されるなんてとんだ笑い話ね」
 くすくすと、何てことない話であるかのように。
「誰かが守らなきゃいけないのよ、この土地を。確実に守るためには、力が必要だわ。
 少なくとも自分に出せる値で将来の安全が買えるのなら、安いものだと私は思う。
 もちろん、子供の親には悪いと思う。けれど、探して回る余裕が今はないから」
 彼女には、絶対にこの幻想郷を守りたいという意思があった。だから、私もそれに乗った。幻想郷は私にとってもいい場所だったから。
「いいわよ。あなたの命を私が貰い受ける」
「契約成立ね」
 変わらない笑顔、でもどこかほっとした表情の彼女に、悪い妖怪であるところの私は言った。
「でも、人間の味方である博麗の巫女が妖怪と取引なんてしていいのかしら」
「いい悪いなんてのはね、後からついてくるものよ。必要だからするの」
「それに、あなた一人じゃずっと面倒を見るには足りないわ。
 そうね、次代を与える代償に、その代の巫女を貰う事にするわ。構わないかしら」
 そう意地悪を言うと、流石に自分の命ではない事に少し困ったような顔をしたが、頷くのに時間はかからなかった。
「いいの?」
「本当はよくないけど、子供が生まれないのなら仕方ないわ。この結界を守る役目を途切れさせる訳にはいかないもの。
 かけられる保険はかけるに越した事はないから。取り返しがつかないことだものね」
 自分を納得させるように言い、一つ頷くともう一度、今まで以上の笑顔で彼女は私に言ったものだ。
「その代わり、それだけの価値に見合うだけの働きに期待するわ。
 ちなみに、報酬分以上に働いてくれても構わないわよ?」
 そんな彼女の抜け目のなさが――――口には出さないが――――私は気に入っていた。
 本当は死なせたくなんてなかった。
 だけど、いつか死は必ず訪れるし、彼女の願いを受け入れるためには、それだけの対価を受け取る必要もあった。
 私は悪い妖怪だったから、無償で働くなんて似合わないから。
 だから、せめてもの餞別に、今度は私から言うのだ。約束を受け入れる言葉を。
「そう、契約成立ね。期待してくれて構わないわ」
「ありがと」

 その笑顔を、今も覚えている。


「私の命?」
「そう。もちろん、すぐにとは言わないわ。五年の猶予をあげる。最低限の事を仕込みなさい」
「そんな、無茶よ!」
 無論、無茶を言っている自覚はあった。だが、初代が要求した時間がそれだけだったから、今もそれを続けているだけだ。
「あなたは忘れてるでしょうけど、あなたもそれだけの時間しか与えられなかったのよ。
 それでも大丈夫なのは、あなたが一番知っているでしょう?」
 事実で黙らせると、反論や抵抗を受ける前に私は身を翻した。
「っ、待ちなさい!」
「五年後よ。忘れないでね」

 家に戻ると藍がお茶を用意して待っていた。
「五年後に、またお別れですか」
「ええ。人間の生は短いわね」
 先代の時も、先々代の時も思った事だ。詮無い事だと知っていても、時々思わずにはいられない。
「今度はどうでしょうか」
「さあ。いつもと変わらないかもしれないし、違うかもしれない」
「違うといいですね」
 事情も気心も知れた相手というのは、時に助かるが少しだけ面倒だ。隠したい事も、全部筒抜けになってしまう。
 そんな私を励ますように、藍は何気ない口調で言った。
「幽々子様が、遊びにいらっしゃい、と仰ってましたよ」
「……もう。全部お見通しなのね」
「長い付き合いですから」
「そうね。じゃあ、少し出るわ。橙によろしくね」
「はい。いってらっしゃいませ」
 気が利きすぎる式に別れを告げ、冥界の友に会いに行こう。
 そうそう。
「藍?」
「はい?」
「ありがと」
 それだけ言って、私はスキマを潜った。スキマの向こうで、彼女が笑った気がした。


 五年の月日が経った。約束の日、私はまた博麗神社を訪れる。
 時間は朝まだき。新しい、幼い巫女の邪魔が入らないように。
 そして彼女は、私の朝早すぎる来訪を知っていたように、当然のように立っていた。
「お久しぶりね。元気そうで何よりね」
「そうね。おかげさまで、と言うべきかしら」
「あの子はどう? 使い物になりそうかしら」
「悔しいけど、私よりもずっと強くなるわね、きっと。将来が楽しみだわ」
「そう。それは楽しみね」
 友人のように語りながら、けして隙は見せてくれない彼女の姿は、以前より五年の時を経て今なお力強さを感じさせる。
 それゆえに、過去の強さを知っている私は悲しくなるのだ。
「聞きたいことがあったのよ」
「何かしら?」
「私がいなくなっても、あの子は大丈夫かしら? 一人でも生きられるようにはしたつもりだけど」
「あなたと同じように、大丈夫だと思うわ」
「そう。ところで、私が先代の姿を思い出せないのももしかして何かあるのかしら」
「親が突然消えたら悲しいでしょう? だから、記憶を意識と無意識の境界の奥へと押し込んだのよ。
 寝てる間に見た夢のように、意識に上らなくなった記憶は自然と泡沫の様に消えていくものよ」
「そう。大きなお世話だけど、ありがとうと言っておくわ」
「いえいえ、どういたしまして」
 じりじりと、距離を詰めるようにすり足で移動する彼女を見据えたまま、今度は私が尋ねる事にした。
「あの子、名前はなんていうのかしら」
「霊夢、と名付けたわ。どこかの誘拐犯は薄情にも本当の名前までは連れてきてくれなかったから」
「いい名前ね」
「ありがとう」
 彼女の納得する間合いになったのか、動きがぴたりと止まった。
 これで彼女ともお別れなのだと思っても、悲しいと思う事が出来ない事が、少し寂しい。
「あの子を預けられてから、ずっと考えていたの」
「何かしら」
「あの子と別れないで済む方法」
 ぴん、と空気が張り詰めるのが肌でわかる。
 ああ、彼女も。過去の巫女たちと同じように、今もけして諦めてはいない。それが感じられる事は、素直に嬉しいと感じる。
「あなたを倒せば、それで全部解決するのよ」
 そして、それがお別れの合図である事も、わかった。

 それはけして遊びではなかった。お互いが生き残るために、本気の全力で力を振るう瞬間だった。
 だから、勝負は一瞬で着いた。
 彼女は博麗の巫女で、私は誰よりも、きっと彼女よりも博麗の巫女を知っていた。予想を超える力を、彼女はもう持ち得なかった。
 だから。結界と封印の隙間に針を通すように、ただの一撃で貫いて。
「さよなら」
 そう呟いたのは、本当に私だったのかどうか――――。


 その晩、月を見ながら縁側に腰を下ろしていると、藍が隣にやってきた。
「どうでしたか?」
「美味しかったわ。流石は巫女ね。そこらの人間とは霊力の量が違うわ」
 私の答えに何か言いたげにふう、と溜息をついて、しかしそれには触れずに話を変えた。
「今代の巫女は大丈夫でしょうか」
「大丈夫よ。そこが幻想郷である限り、彼女の遺志が彼女を守るわ。
 博麗の巫女である限りは、天運が彼女を守るでしょうし」
「幻想郷最強の守りも、ついているし?」
 聞こえない振りで誤魔化す私を知っているのかどうか、彼女はまたも話を変えた。
「巫女は、何故恋をしないのでしょうか」
「そうね……。偶然かもしれないし、呪いでもかかっているのかもしれないわね。
 博麗の巫女は、ある意味最も中立である者だから、それが理由なのかもしれない」
「紫様に言われた時点で作ろうとする事はできないのでしょうか?」
「出来るかもしれないけど、生き方はそう変えられるとも思えないわ。
 何より、妊婦でも巫女である以上は休めないのだから危険じゃない」
「そうですね………」
 話題が途切れる。藍は、いつも巫女を食べた夜、こうして何かを話しに来る。
 まるで、落ち込んだ人を慰めるように。私は、自分が落ち込んでいるのかはわからないけれど。
 月明かりが、庭の池に反射するのを眺めながら、ぽつりと言葉が零れた。
「ねえ、藍」
「はい」
「あなたは、長生きしなさいね」
 言われて、きょとんとした顔でこちらを見るその顔を見て、口が滑ったかもしれないと思った。
 笑うかと思ったが、意外にも彼女は優しい顔で語りかけてきた。
「もう随分生きましたが、当分は死にませんよ。まだまだ手のかかる式もいる事ですし」
 そう言うと立ち上がり、そして彼女は軽く私を抱きしめた。少しだけ、どきりとする。
 すぐに離れ、すっくと立って私を見た。
「紫様も、まだ見ていなければならない子がいるでしょう?」
 それだけ言って、軽く会釈して離れていった。
 全く、知らない間に随分と色んな事を覚えるものだ。時折驚きと共に嬉しくなる。
「本当、そうね………」


 そして時は流れ、今の博麗神社。
 様々な妖怪と、何人かの人間が集まって宴会をしている。こんな姿を見る事になるとは、あの頃は思いもよらなかった。
 騒ぎを横目に、そんな事を思いながら縁側の端で杯を傾けていると、足音と共に聞きなれた声がした。
「あんたがしんみり飲んでるなんて、珍しいじゃない」
「そんな日もあるのよ」
「明日は雨かしらね」
「槍が降ったら神社が潰れるかもね」
「それは困るわね」
 憎まれ口を叩きながら隣に座り込んだ、それこそ珍しく宴会だというのに酒に呑まれていない今代の博麗の巫女を、じっと見詰めた。
「何よ、気持ち悪い」
「いーえ、何も。それより、あんまり慧音に迷惑かけちゃ駄目よ」
「何よ、それ」
「いえいえ、ただのお節介です」
「どこがよ」
 誰よりも自由であるために、人間よりも妖怪に近いと人に噂される少女。幻想郷を守りながらも人々に慕われない巫女。
「霊夢。大好きよ」
「何よいきなり。気色悪い」
「傍若無人で自分勝手なところも、乱暴で大雑把なところも」
「……けなしてるのかしら」
「ふふ」
 誰よりも幻想郷という場所が似合う少女。人間も妖怪も問わず友と出来る者。
 それは、いつか見た彼女を髣髴とさせる。だから、このままずっと元気でいて欲しいと思う。

 私は、彼女をずっと見てきた。生まれてすぐから、神社に預けてからも、一人で生きはじめてからも。
 私は彼女を育てるのに手を貸した事は一度もない。彼女を連れてきたこと以外、何の関係もない。
 けれど、ずっとずっと見守ってきた私は、彼女を愛しく思うのだ。まるで母親のように。
 彼女を本当の母、育ての母と引き離した私が。それでも、彼女の成長に一喜一憂する気持ちを捨てる事は出来ない。

 だから、私は霊夢に尋ねた。
「ねえ、霊夢?」
「何よ」
「あなたは長生きして頂戴ね」
 私に、殺されないように。
 私の気持ちを知ってか知らずか、彼女は鼻で笑って当然の顔で笑って言うのだ。
「当たり前よ」

 その笑顔を、私は今も信じている。
 この作品は、・霊夢の親関係の話を聞かない事 ・紫と霊夢(博麗の巫女)との関係
 辺りに妄想を大いに混ぜて出来ています。

 無粋ですが作品解説っぽいものとして。
 紫は巫女を殺したい訳ではありません。殺す気は普通にありますが。
 個人的なイメージですが、紫はある意味、とても不器用だと思います。
 守るべき一線を抱えている、というか。
 彼女が巫女に長生きして欲しいと思うのは行為から矛盾しているように思えるかもしれませんが、本気で思っています。
 初代との約束だから、人を襲う妖怪として、礼を尽くしているだけです。
 自分に勝って欲しいと思っていますが、死にたいと思っているわけでもありません。
 ただ、殺されず、いつまでも生きて欲しいと思っているだけです。一人の友人として。そして、

 育てるという事は、苦労と喜びの連続だ。それが見守るだけでも、見る側に情が湧くには十分だ。

 タイトルについて。こちらも無粋なのですが。
 紫は赤と青で出来ています。赤は紅白になりました。
 そしてもう一つの色は、何色だろう、という意味も含んでいますが。
 ついでに、個人的に、colorではなく、色即是空の色だと思っています。
 子供というのは、存在を分けるような物ではないでしょうか。

 長くなりましたが、最後に。精一杯頑張りましたが、拙作を読んで頂き心より感謝を捧げます。
 一言でもご感想頂ければ幸いです。
水無月
簡易評価

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コメント



0.6340簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
良い紫様でした。
幻想郷の表の調停者である博麗の巫女、
それを裏から支え続けてきた紫様。
私の中で、理想的な関係でした。
11.100名前が無い程度の能力削除
後書きで説明しすぎですが、それはそれとして
13.-10名前が無い程度の能力削除
もしこの作品に違和感があるとすれば、それは紫が博麗の欠陥を知ってなお、根本的な解決としての行動を何も起こさなかったことだと思います。
もし本当に巫女に長生きしてほしい、殺したくないと思うなら、面はたいて正座させて三日三晩説教してでも、恋と結婚、出産の重要性を説くべきだったと思います。
そういった意味で、いくら初代が約束したからとはいえ、それにただ従う紫が本当に巫女の命を重く見ているようには思えませんでした。
14.90名前が無い程度の能力削除
他の小説でもよく出てくる「博麗の孤独」感がさらに深まる一品でした
孤独だからこそ、恋を知らない
恋を知らないから、間違った方法で代を継ぎ
それが更なる孤独を生み出すって螺旋が切ないです
15.100U.N削除
個人的にこういうのは好きですね
23.80名前が無い程度の能力削除
善悪の彼我の境目に立つが故に中庸且つ中庸では成り得ないモノ。
母で在り、仇で在り、友人で在り、宿敵で在り。然し、何者でも無いモノ。

――だって妖怪なんですもの。
24.100名前が無い程度の能力削除
感想が上手く言葉にできないのですが……
霊夢には長生きしてほしい、と切に思いました

あと、藍さまに多大なカリスマを感じました
29.100コイクチ削除
好みのお話でした・・・。
33.90名前が無い程度の能力削除
良い話だ
57.70変身D削除
か、感想を書きにくい話ですね……困ったOTZ
ただ一つ言えるのは、紫は博麗をこれからも永久に見守っていくのでしょうね。
67.70名前が無い程度の能力削除
良い
70.80名前が無い程度の能力削除
良いですね。
73.90てきさすまっく参拾弐型削除
「巫女」も紫さまも、幻想郷を維持管理するためのシステムの一端にしかすぎない、
という私の考えに合致したSSでした。よかったです。切ないですが、そこが。
79.90名前が無い程度の能力削除
強大な力を持つ紫ですが、その力が代々の博麗の巫女を喰らうことによって維持されているのだと考えると、残酷ではありますがよく出来たシステムではないでしょうか。
博麗の巫女は幻想郷の秩序を維持する。
紫は巫女を喰らって得た力で大結界を維持し、また次の巫女へと博麗の血を繋ぐ。
紫は代々の巫女を愛しく思いながらも、これを喰わねばならない…
やりきれず、切ないですね…GJでした。


84.90名前が無い程度の能力削除
とても良いです
87.10074削除
納得した。
94.60近藤削除
自分の中にも似た構想はありましたが、なるほど上手い。
「人」を知る紫だからこそ、逆に何も言えなかったのかなぁ、と。
まぁ愛だの恋だのは人にどうこう言われて知るもんでもないですしねぇ。

ただ、紫の一人称という書き方に頼りすぎた所為か、
いささかその場面を描き辛い部分がちらほらと。
台詞主体であり、それだけでも十分に彼女等を「見る」事はできるのですが、
やはりもう一歩、描写の面で突っ込んだ書き方をしてほしかったな、というのが。
97.50名前が無い程度の能力削除
大変良い物を見せていただきました。
私の持っていたこの二人へのイメージにこれほど合致する作品は初めて見た気がします。

ただ何故か読み始めから読後までずっと不快感が消えないでいるのは
紫の力の描写があまりにもご都合的過ぎた所為でしょうか。
別にわざわざ解説を入れなくても十分伝わると思うのですけれど。
98.70床間たろひ削除
面白かったです。
淡々とした語り口であるが故に、しんみりと染み入りました。
104.50真十郎削除
異なる価値観、異なる種族。
狭間のさだめの妖怪譚に
賛否両論の点数を。
105.70deso削除
巫女の謎についての考察、面白かったです。
妖怪としてのジレンマに悩む紫が人間くさくて良いですね。
119.90ZORK削除
考えれば考える程「博麗の巫女」って謎だらけですよね、、、
128.100時空や空間を翔る程度の能力削除
陰と陽・・・
二つの力が引き合って一つの世界を
留めている・・・・・
巫女と妖怪の一つの定め・・・・かな。
139.無評価レフトッ!削除
先生が黙ってないのでは?紅い悪魔とかも・・・・・
153.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんかわいい
157.100名前が無い程度の能力削除
単純に白黒つけられない深いお話でした。
最後の紫の親心が切ない。