Coolier - 新生・東方創想話

地獄に紅は似合えりや

2018/01/27 06:25:40
最終更新
サイズ
4.07KB
ページ数
1
閲覧数
1252
評価数
3/5
POINT
330
Rate
11.83

分類タグ


...


 土を裂いたら時折水が湧き出るように、空を裂いたら太陽が落ちてきはしまいかと、馬鹿げた事をふと思う。
 読心の能力は自分の取るに足りない考えさえもひとつひとつ丁寧に詳らかにしていくのだから、不便だ。自身の独り言さえ五月蠅いと思う。
 どうにも草木の根付かぬ場所があるのです、と言われ、管理者故に赴いて、その土地を見た。なんの変哲もない土くればかりあったが、昔はどうも、そこは性質の悪い怨霊の溜まり場であったらしく、それによって汚染され、不毛の地となったように見えた。彼女が残留思念を読み取れたのはそこまで。彼女は暇そうにしているペットの数匹に言い付けて、その辺を歩いているだけで良いからとにかく毎日そこへ行って、その様子を見て来なさい、と言った。
 本来、土地の事情など、如何に管理者と言えど関係はない。彼女はあくまで怨霊の管理を任されているに過ぎない。ただ、土地の汚染が怨霊の仕業であるというのなら無下にもできない。とは言え仕事を増やしたくはない。結論として、「何かしているフリ」をすればよい、と判断した。
 古明地さとりとは、概ねそういった性分である。

「お姉ちゃん、そういうトコあるよね」
「ほう。仕事熱心で勤勉である、と。自慢の姉であると自負はありますがあまり褒めないでください」
「一言も言ってないし自尊心大爆発に巻き込むのやめてよね」
「失敬。貴女の心は読めませんから逆に捏造し放題だな、と思いまして」
「開き直り方が雑」
「住まう世が地獄であるのなら、征く先も地獄でしょうて。元より地獄にしか留まれぬこの身なら、できる限りは健やかに平穏に、そうして何事もなく平坦に、一切が執り行われるのが素晴らしい」
「事なかれ主義をプラス方面に拗らせるとこうなるんだねえ」
「地獄の隅に花が咲いて何になりましょうや?」
「こんなところにも花が咲くんだなあ、と思うひとが生まれるだろうね」
「ハテ、それが何になりましょうや」
「何にもならないね。でもどうだろう、何にもならない事は、何にもならなくて良かった事と同義なのかな? あ、これは単に適当な事をちょっと小難しげに言えばそれっぽい台詞になるかなと思って言っただけだから、意味はまったくないよ」
「貴女はそういうところがありますからね」
「うん。自分に対して周りが引くほど無責任なくらいが私らしいし、所詮『私らしい』とはその程度なんだよ」

 古明地こいしとは、概ねそういった性分であった。
 妹の事は横に置くにしても、さとりはふと思い立って、こいしがいつの間にかいつも通りにいなくなってから、塩害に遭った土壌の改良について書かれた本を読んでいた。塩に汚染された土地をまた植物が生育されるに相応しい状態に戻すには、かなりの労力と費用が必要とされる。彼女の場合は塩ではなく怨霊だが、どちらにせよ辿る過程は同じ筈だ。やはり抜本的解決は面倒くさい。自分にそこまでの必要はないのだから、それなりの対応をそれなりにしているフリを決め込む事にした。
 今更、この地の底で汚染も何も。地上から追いやられた末の最終焼却炉のようなものではないか。怨霊など掃いて捨てるほどいるし。不毛の地など見飽きるほどある。それでこそ地獄ではないのか? 住み心地の良い地獄などあるまいて。

 こいしが最後に帰ってきてからふた月が経った。
 とうとうどこかで野垂れ死んだかな? などと思いながらさとりはつつがなく仕事をこなしていた。こなしているだけ。彼女は仕事熱心でも勤勉でもない。給金以上の仕事は決してしない。また妹に冷淡であるのも元よりそのような性分である。彼女なりには愛しているし、彼女なりには慈しんでいるのだが。単に、生死を心配する事は、さとりにとって愛情としての勘定に入らなかっただけの事である。
 件の土地を見に行かせていたペットから珍しく報告があった。
 あの不毛の土地、花が咲いたらしい。
「へえ。それは。へえ」
 さとりは面白がって見に行った。本当に咲いていた。加えて、不毛の地ではなくなっていた。汚染の跡はどこにもなく、なんの残留思念もそこには残っていなかった。
 そう。なんにも残っていなかったのである。誰かが何かをしたならば、そこには残る筈であるのに。それが覚りというものだ。意思に拘らず、勝手になんでもかんでも詳らかにしてしまうもの。自身の取り留めもない思いの礫にさえ蓋をできぬもの。その覚りを前にして、何も残らぬとは、これ如何に。

 さとりは件について礼を言われた。一応何かしたフリはしていたし、根本的に何かをしたであろう誰かはまったく名乗りを上げないので、順当にさとりの功績となった故だ。
 さとりはよい笑顔で「礼には及びません」等と言った。ばっちり自身の手柄にするつもりである。彼女は上機嫌にこう言った。
「あんなところにも花が咲くんですねえ」

 彼女の妹は今日も野垂れ死んでいない事だけは確かである。



.....
読めないけれど、理解る気がする。
櫨染
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.70簡易評価
1.100怠惰流波削除
とても面白かったです。
捻くれた姉妹の会話が素敵。

オチもすっきりしていて、読後感がいい。もっと読みたいと思わせる文章でした。
2.70奇声を発する程度の能力削除
良い雰囲気で良かったです
4.無評価名前が無い程度の能力削除
さとりの口調がかなり気持ち悪い。何でもかんでも原作に合わせろとは言わないけど、せめてキャラクターの性格や口調くらいは原作を把握してから書いてほしい。
5.90大豆まめ削除
ひねくれた思考と言動のさとりとこいしのやり取りが面白かったです。
ちょっとぶっきらぼうな感のある終わり方ですが、色々と思わせぶりで余韻がいいので、多分この終わらせ方が正解なんでしょうね。素敵。