Coolier - 新生・東方創想話

揺れる笹の葉

2011/07/07 18:24:25
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― 注意書き ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

このssは、「悲しみの絆」より後のお話になっています。
もちろん、誰でも楽しんで頂けるよう、つながりはほとんどありません。
さとりとパルスィが友達になった、という設定さえ頭に入れて頂ければ、
何の問題も無く読んで頂けると思います。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―





夜空を覆う、暗い雲。
空から落ちる、涙雨。
まるで、誰かの涙の様。

「あはははは……」

抉られた心。
残酷な、記憶の残滓。

頬を伝う、1粒の雫。
これは、雨? 涙?

「妬ましい……」

もう、何も、信じられない……。





― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―





「はぁ……」

ここは、地霊殿の一室。
簡素だが、機能性にはとても優れている。……もちろん、普通ならだが……。
今は様々な書類で埋め尽くされていて、機能性という言葉など何処へやら。

部屋を食い潰す書類で埋め尽くされた、シンプルな机に向かい、ため息を吐く少女が1人。
彼女ー古明地さとりは、目の前の書類と格闘していた。

「はぁ……」

机の上を見渡して、彼女はもう一度、ため息を吐いた。
残りはあとわずか……。
……それが、一番キツかったりするのだが……。

「これで……、最後……」

厄介な書類を片付け、背伸びをする。
つまらなく、面倒くさいことを、毎日のように繰り返す。
それでも彼女は、自分の仕事だと割り切って、毎日のように書類へ向かう。

(これで、久々に休みが取れる……)

「おねぇ~ちゃん!!」

気配も無く、ノックも無く、突然、部屋に少女が入ってくる。
彼女ー古明地こいしは、さとりの妹であり、覚り妖怪である。
……第三の目を閉じているため、他人の心は読めないけれど……。

辛い過去に押しつぶされ、こいしは第三の目を閉じた。
それにより、こいしは、覚り妖怪としての能力である、読心術を失った。
だが、この力を失った後に、無意識を操れるようになった。
どうやら、その力を最大限活用して、部屋に押し入ってきたようだ。

「部屋に入るときは、ノックをしなさい、と言ったはずですが」

「え~、そうだっけ?」

「言いましたよ」

「それよりも、おねえちゃん」

突然、話題を切り替えられる。
これも、無意識を操れるようになった恩恵かもしれない。

「なんですか?」

「今度、地上でお祭りがあるんだって」

「お祭り……、ですか?」

「そう、お祭り」

どうやら、地上でお祭りがあるらしい。
こいしが誰から聞いてきたのかは分からない。
さとりには、こいしの考えだけは分からない。

「こいしは、どうしたいのですか?」

「みんなで行こうよ!! みんなを誘って!!」

「……考えて、おきましょう……」

「仕事ばっかやってたら、何処かの閻魔様みたいに、頭が硬くなっちゃうよ?」

「…………」

さとりは、何も答えなかった。
……いや、答えられなかった。

暇はある。たった今、仕事は終わったのだから。
しばらくは、仕事がほとんどない状態が続くだろう。

だが、彼女の、地霊殿の管理者という立場上、仕方のないことかもしれない。
人から嫌われている自分が行っても……、という気持ちもあるだろう。

「……夕食の買い物に行ってきます」

「考えておいてね、おねえちゃん」

「……えぇ」

かわいい妹の願いを無下にしたくはない。
だが、自分が行くのは如何なものか。
2つの思いに挟まれて、彼女だけでは、結論を出すことは出来なかった。





「あっ……」

とある一室。
冷蔵庫の前で、食材のストックを確認している少女が1人。
彼女ー水橋パルスィは、冷蔵庫の野菜室を覗きながら小さく呟いていた。

「もう、無い……」

どうやら、食材のストックが尽きたようだ。
面倒くさい、といった顔をしている。

「しょうがない……、買い足しにいきますか」

嫌々ながら、彼女は買い物の準備をする。
彼女にとって、買い物自体は嫌いではない。
むしろ、好きな部類に入る。

だが、お店には、他のヒトがいる。
そこが、パルスィにとって苦痛であった。

「さて……、行ってきますか」

そう言って、彼女は家を出る。
ふと、彼女は薄暗い空を見上げた。

地底に、太陽の光は届かない。
そんな、いつもと変わらない地底の空を眺めていると、

「お~い、パルスィ~」

彼女は突然、声を掛けられた。
パルスィの表情が曇る。
そして、

「何よ、騒々しいわね」

彼女は、不満を包み隠さず口にした。

「いやいや、呼んだだけだよ、パルスィ」

「それが十分、騒々しいのよ」

パルスィ曰く、騒々しい少女ー黒谷ヤマメは、パルスィに明るく話し掛ける。
彼女は、土蜘蛛の妖怪。
地上では忌み嫌われていたが、ここでは人気が高い。
それは、この明るさ故だろうか。

「ねぇ、何処いくの?」

「何処だっていいじゃない」

「えぇ~、教えてよぉ~」

「…………」

「教えろぉぉ~~」

駄々をこねる土蜘蛛妖怪。
このままでは埒があかないと思ったのか、

「……これから、買い物に行くのよ」

パルスィは、つい、答えてしまう。
その結果、

「じゃあ、一緒に行こう、パルスィ」

「なんで一緒に行「しゅっぱ~つ!!」はぁ……」

いつもと変わらない、同じような展開。
文句を言う気も失せ、パルスィは、いつものようにため息を吐いた。





「んん~、次は、っと」

次に買うものを確認する為に、メモを見ようとした。
すると、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ねぇ~、今日、夕飯、ご馳走してよぉ~」

「嫌」

「パルスィの料理、1回くらい、食べさせてくれたっていいじゃん」

「どうして、アンタに食べさせなきゃいけないのよ」

パルスィとヤマメのようだ。
なんの話をしているのだろうか?

「パルスィ、ヤマメ、こんにちは」

「あっ、さとりさん、こんにちは」

「…………」

「『げっ!!』とか思わないでください、パルスィ」

「どうしてさとりがこんな所にいるのよ?」

「買い物をしに来てたんですよ」

というより、見ればわかりますよね……。
手に買い物袋をもってるんですから……。


少女雑談中――

3人で話していると、ふと、こいしと話していたことを思い出した。
私の手には、今買ったばかりの食材。
折角だから……。

「パルスィ、ヤマメ」

「なんですか?」

「…………」

(面倒くさそう……)

パルスィは答えない。
しかも心の中では、面倒くさそうとか。
……冷たいですね。
この前、友達になってくれたような気がしたのですが。

「ちょっと、相談したいことがあるんですよ」

(うわぁ~、面倒くさ)

「あっ、用事をおm「だから、一緒に夕食を食べませんか?」……はぁ」

パルスィの嘘は、華麗にスルー。
我ながら見事ね。

「私は、パルスィの料理が食べたいなぁ~」

「あ、いいですね。 私も食べてみたいです」

「誘ってきたのはさとりでしょ?」

パルスィが嫌そうに文句を言う。
まぁ、確かに、誘ったのは私だからそう言うでしょうね。
でも、私だって、パルスィの料理を食べてみたいんですよ?

「どうして私が作らなきゃいけないのよ」

「「食べたいから」」

上手くヤマメと声が被る。
パルスィの心が、もう帰りたい、と言ってる。
……絶対に逃がさない。

「まぁまぁ、キッチンも貸しますし、お手伝いもしますから」

「……はぁ……、わかったわよ……」

勝った。
流石パルスィ。
押しに弱い。

「では、行きましょうか」

私は、2人を連れて地霊殿へと向かう。
パルスィは、どんな料理を作ってくれるのでしょうか?
……楽しみですね。





……どうしてこうなったのだろう?
……どうして、さとりの家のキッチンに立っているのだろうか。
……どうして、他人の家で料理をしようとしているのだろうか。

「はぁ……」

「ため息なんて吐いていると、幸せが逃げていきますよ」

「誰のせいよ、誰の!!」

「誰のせいなんですか?」

「アンタでしょうが!!」

本格的に面倒くさくなってきた。
逃げ出してやろうか?

「あっ、逃げ出そうとしたりしたら、首に輪をかけて、ここから帰れなくしますよ?」

ちょ、さらっと変なこと言わないでよ。

「もしくは、お腹を空かせたこいしが、あなたのことを食べてしまうかもしれませんよ?」

食べる?
こいしって、人喰い妖怪だっけ?

「勿論、いろんな意味で」

「だから変なこと言うなぁ!!」

「私も食べてみたいですし」

「…………」

ちょっと引ける。
私はジト目でさとりを見た。

「……ごめんなさい……」

なんか、今日のさとり、変な気がする。
いつも、こんな感じだったっけ?

「さぁ?」

「アンタのことでしょうに……」

「なら、いつもこんな感じなんじゃないですか?」

……だったら、ただの変態じゃない……。
ペットたちや、こいしがかわいそうだわ。

「パルスィも変態にしt「いい加減にして」ハイ……」

こんな変な話続けてどうすんのよ……。
何にもならないでしょうに。

……そんなことより、何作ろう……。
無難にカレーとか?
でも、普通すぎるなぁ……。
取り敢えず、冷蔵庫の中でも見せてもらおうかしら?

「さとり、冷蔵庫の中見せて」

「いいですよ」

「んん~」

あぁ、綺麗だな、冷蔵庫の中。
いろんなものが揃ってるし。
……妬ましい……。

とか言ってる場合じゃない。
……何作ろう……。
……肉じゃがかなぁ……。
それなりに得意だし。

後は……。
おひたし、かな?

さて、作り始めましょうか。





私に手伝えることなんて何も無かった。それぐらい、パルスィの料理の腕はすごかった。
キッチンにある椅子に座り、流れるようなパルスィの動作を見ていることしか出来なかった。

着々と準備が整っていく。
肉じゃが、ほうれん草のおひたし。
あとは、お味噌汁に、きゅうりの漬け物。

おいしそう……。

「さとり、座ってないで料理運ぶの手伝って」

「えぇ」

気付いたら、もう完成していたみたい。やっぱり上手ですね。
……もう少し、料理しているところを見ていたかったのですが……。

私とパルスィは、料理を持ってリビングへ。
一緒に夕食の配膳をする。
と同時に、ペットを使ってこいしを呼んだ。

……ん?
なにか、1人ほど増えているような気がするのですが……。

「おう、あがらせてもらってるぞ」

……勇儀だった。
なんでいるのでしょう?

「何故、ここにいるんですか?」

「ちょっと、こっちの方に野暮用があって、ついでに寄ったんだ」

そうでしたか。
いいタイミングというか、面倒なタイミングというか……。

「美味そうだなぁ~」

「アンタの分なんて用意してないわよ」

「少し、残ってるじゃないですか」

「パルスィが作ったのか?」

「そうですよ」

ちょっとパルスィに視線を送る。
準備しないと、私のペットにしますよ?
という意味を込めて。
食べ物の恨みは怖いですからね。
ちゃんと、準備してあげましょう。

「……わかったわよ、準備すればいいんでしょ!!」

「最初から準備してくれりゃいいのに」

(イラッ……)

イラついてる。
そんなにイラつかなくても……。

なんだかんだ文句を言いつつも準備を終え、食事を始める。

「美味いっ!!」

「おいし~」

「美味しいよ、パルスィ」

みんなが言うように、本当に美味しい。
しかも、おかずの組み合わせも上手い。
……妬ましい……。

「また食べたいなぁ~」

「もう作らないわよ」

「えぇ~、また作ってよ」

「他人の食事を作るのは嫌いなの」

「ぶぅ~、パルスィのケチ~」

こんな他愛のない会話を聞きながら食事をしていると、こいしが話しかけてきた。

「ねぇねぇ、おねえちゃん」

「なんですか、こいし?」

「買い物に行く前に言ったこと、考えてくれた?」

「……まだ、決めてません」

今日、みんなを呼んだ理由だ。
私は、地上のお祭りに行ってもいいのだろうか?
それを聞きたくて、みんなを呼んだ。

「なんの話だ?」

「今度、地上で行われるお祭りのことです」

「みんなで行きたいんだけど、おねえちゃんが乗り気じゃなくて」

「……私が行ってもいいのかどうか……」

「それは、さとりの自由じゃないか」

「それはそうなんですけどね」

「ならいいじゃないか」

「しかし、覚り妖怪はみんなから嫌われていますから」

地上の人や妖怪たちが私を見れば、きっと不快な気持ちになるでしょう。
そんな気持ちを見れば、私だって不快な気持ちになる。

「それに、私は地霊殿の主ですから、そう簡単に行く訳には……」

もっともそうな理由をつけて逃げる。
嫌な現実には触れたくない。

いつもと変わらない、成長しない。
ただひたすらに他人との関わり合いを狭めていく。
私を認めてくれる、小さなコミュニティだけでいい。

それ以上には、触れたくない。
嫌われている、という現実を見たくない。

「別に、誰も気づかないわよ」

それに、気にしなければいいじゃない。
きっと、大丈夫なんじゃない?
と、パルスィは言ってくれる。

「それに、かわいい妹の願いなんじゃないの?」

そう。
妹の願い。
私の大切な妹。
だから……。

「……わかりました、みんなでいきましょう」

「やった~!! おねえちゃん、ありがと!!」

こいしの顔が明るくなる。
この顔が見れるだけでも、私はうれしいんですよ。

そう言えば、お祭りはいつ行われるんでしょう?

「それで、いつなんですか?」

「明日だよ?」

明日、ですか。
これはまた、急だったんですね。

「では、明日の酉1つ時に、パルスィの家に、集合しましょう」

「えっ?」

突然の提案に、パルスィは素っ頓狂な声を上げる。
文句を言われる前に、

「拒否権は認めません」

行動を封じ込める。
結局、パルスィは、

「はぁ……」

ため息を吐くだけで、何もすることは出来ませんでした。





薄暗い、部屋の中。
明日の為、タンスへと向かう。

昔、持っていたらしいあの服。
明日。7月7日。お祭り。
きっと、あのイベント……。
記憶の片隅に、知識しか無いけれど。

あの頃の記憶なんて、もう、ありはしないけど。
あの頃の記憶よりも、今のほうが、性に合ってるだろうけど。

夏のお祭りに似合う、あの服。
着ていこうかな、とは思った。

空高く浮かぶ、美しき星の川を、1番綺麗に眺めさせてくれる不思議な日。
いつだって、同じハズなのに。

ただの御伽話だけど。
あの制約は、2人にとって残酷で。
でも、2人は、何度でも出会い続ける。
いつまでも、互いを想い続ける。
その物語に、私は、憧れる。
たとえ、1年に1度しか逢えなくても。
2人が愛し続けられるなんて……。

どうして、こんなにも憧れる?

こんなにも、憧れているはずなのに……。
どうして、心の奥は、明日を恐れるの?
そんなに、ヒトを見たくないの?

あなたに、気にしなければいいじゃない、と心の中で呟いた。
あなたに、きっと大丈夫だって、と心の中で呟いた。

でも……。

私は、気にしないでいられるの?
私は、大丈夫でいられるの?

さとりには、大丈夫だって、と言ったこの口が憎たらしい。

どうして、自分には言ってやれないの?
どうして、気にしないでいられないの?
どうして、大丈夫でいられないの?

私は……。

あぁ……。
どいつもこいつも。
……妬ましい……。

どうして、こんなにも苦しいの?

どうして、こんなにも御伽話に憧れる?
どうして、こんなにも明日を恐れるの?

……どうして?





そろそろ時間だ。
私は、遠慮気味にドアを叩く。

「パルスィ、いますか?」

「…………」

「いないのか?」

「そんなハズはないと思いますが」

「おーい、パルスィ」

鍵の開く音がして、ドアが開く。
不機嫌そうな顔を、少しだけ赤らめて、パルスィが顔を出す。

「……少しくらい待てないの?」

おぉ~、浴衣。
似合ってますね。

「なによ?」

「似合ってるなぁ、って思っただけですよ?」

「かわいいぞ~」

「うっ、うるさい!!」

照れてる照れてる。
照れるパルスィはかわいいですね。

「さとりは着ないの?」

「持ってないですから」

「……折角だから、着ていく?」

「えっ!?」

「たしか、もう1着あったと思うから」

「おねえちゃん、着てみなよ」

「私に、着物なんか似合わな「ほ~ら、こっち来て」……」

なんか、言葉を遮られるパルスィの気持ちが分かるかもしれない。
じゃなくて。
私なんかに、着物が似合うのかな……。
ちょっと、不安ですね……。

少女着替中――

「はい、さとり、着物ver.」

「……どうですか?」

「似合ってるよ、おねえちゃん!!」

「おぉ、いいな、さとり」

「ほら、着てよかったでしょ」

パルスィと2人で浴衣か……。
なんか、恥ずかしいですね。

「お~い、みんな~」

ヤマメとキスメだ。
これで、全員ですね。

「パルスィとさとりさんは着物かぁ」

「どうですか?」

「似合ってますよ、さとりさん」

「ありがとうございます」

うれしいですね……。
ありがとう、パルスィ。

「さて、行きましょうか」





久々の地上だ。
空は、ちょっと曇っている。
折角の夜空に、星は輝いていない。
虚しいような、ホッとするような……。

「そういえば、このお祭りは、なんのお祭りなんでしょうか?」

「たぶん、七夕のお祭りなんじゃない?」

「たなばた?」

「織り姫と彦星が、唯一逢える日」

「ロマンチックですね」

「……残酷に思えるほどにね」

私は、この『年に1度』という制約は、あまりに残酷に思えてしまう。
それは、私が嫉妬深い橋姫だからだろうか。

「まぁ、ただ便乗して、馬鹿騒ぎしたいだけでしょうけど」

そうでなきゃ、その辺に酔っ払いがたくさんいるはずないじゃない……。
笹の葉に、願い事を書いた短冊を飾るイベントだったハズなんだけど……。

「笹の葉に、願いを書いた短冊、ですか?」

心を読まれたようだ。
まぁ、もう慣れてるけど。
でも、みんなは首をかしげてる。
さとりがわかっても、みんなはわかってないから、説明は省けない。

「七夕には、願いを書いた短冊を、笹の葉に飾る風習があるの」

「飾ってどうするの?」

こいしが尋ねてくる。
そして、至極当然のように返す。

「別に、どうもしないわ」

「なら、なんでやるのさ?」

今度はヤマメだ。
まるで、子供のように聞いてくる。

「願い事が叶うとされているのよ」

「おもしろそうですね」

「着いたらやってみる?」

「なら、みんなでやりましょうか?」

「やろうやろう、絶対やろう」

……願いが叶うとされている、か。
……私は、願いが叶ったこと、あるのだろうか?

「……どうしたんです、パルスィ?」

「なんでもないわ」

人が増えてきた。
もうすぐ、お祭りの中心部かな?





人が、多い。
ここまで多いと、人の思念も、ほとんど聞き取れませんね。

「で、どうなの?」

「何がですか?」

唐突に、パルスィは聞いてくる。
さて、なんのことだろう?

「何もないならいいわ」

「何もないですね」

あぁ、なるほど。
心の声のことですか。
……心配してくれているんですね。
ありがとう、パルスィ。

「あれ、こいし様は?」

連れてきたお燐が問う。
いなくなってますね……。
あの子の放浪っぷりはすごいですからね。
まぁ、突然帰ってきますから、大丈夫でしょう。

「多分、大丈夫でしょう」

「わかりました」

お祭りの中心らしき広場。
あちらこちらに屋台が広がっている。

ちょっと離れた所で、お燐とお空が話をしている。
どうやら、お空がお腹を空かせたようですね。

「お燐、お空」

「「はい」」

綺麗にハモってる。
流石、息の合ってる2人。

「折角地上に来たんですし、自由に回っていてもいいですよ」

「ありがとうございますさとり様」

「お燐お燐、さっきの屋台に行こう」

お空は、お燐を連れて走り出す。
そんなにお腹空いてるんですか……。
もう少し、我慢というのを教えたほうが良さそうですね……。

「私も、少し抜けようかね」

「勇儀さんもですか?」

「あぁ、美味い酒が飲めそうだからな」

「アンタ、いつも酒のことばっかりよね」

「アハハ、いいじゃないか、美味いし」

「酔って、暴れないでくださいね?」

「もちろんだとも」

そう言って、勇儀も行ってしまった。
ここでも、お酒ですか。
いつも、地底でたくさん飲んでますよね?

「パルスィ、短冊ってどこ?」

「あそこの、大きな笹があるところにあると思うわ」

「行こう、キスメ」

パルスィが答えると、ヤマメはキスメに話かける。
キスメは頷いて、ヤマメの後についていく。
2人して、先に行ってしまった。

結局、この場に残ったのは、2人だけ。

空を見てみると、まだ、薄い雲が広がっている。
雨でも降るのだろうか?

「私たちも、行きますか?」

「私は後にするわ」

「なら、私も後にしますね」

私は、パルスィと離れ、雑踏の中に入っていった。





人が行き交う雑踏の中、私は立ち尽くしていた。

まわりには、男と女が手をつないで歩いていたり、
お祭りの喧騒から、少しだけ離れたところでいちゃついてる2人とか、そんな奴らばっかり。

あぁ、妬ましい。
どいつもこいつも妬ましい。

でも……。
何故か、安心する。
妬ましいと思う心がありつつも、安心している心がいる。
いつもは、こんなことないのに。

「ぱ~るすぃ!!」

「……何?」

「ま~た、妬ましいとかやってるの?」

「私は、そういう妖怪よ」

私は、嫉妬心を操る妖怪。
嫉妬という心から生まれた、醜い妖怪。
ただただ、愛しくて、妬ましくて。
私は……。

……私は?
……愛しい?
何?

「どうしたの?」

「別に、何でもないわ」

何でもないはず……。
何でもないはず、なのに……。
心が騒ぎ出す。

「顔色悪くない?」

「気のせいよ……」

「そうかなぁ?」

「………」

わからない。
自分が。
自分の心が。

空を見上げる。
今にも、泣き出してしまいそうな空。
そんな空が、私の心を抉っていく。

「ねぇねぇ、パルスィ」

「何?」

「甘いもの食べたくなっちゃった」

少しだけ、気が紛れる。
抉られた心に麻酔を打つような、そんな感じがする。
ちょっとした、不快感が残る。

「一緒に食べに行こう?」

こんな気持ちで食べたくないな。
それに、こんな気持ちで食べれば、こいしにも悪いし。

「今、食欲ないの、ゴメン」

「そっか」

「少し、1人にさせて」

「ねぇ、パルスィ?」

「何?」

「おねえちゃんとは、と……」

こいしは、途中まで言いかけて、やめた。
あなたは、何を聞きたいの?

「いいや、今のは忘れて」

さとりがどうしたの?
わからない。

「んじゃ、また後でね」

そうそうと走り去る。
最後のは何だったのだろう?

空は、今にも泣き出しそう。
そんな空を見上げていると、また、私の心が騒ぎだす。
なんなんだろう……。
私は、どうしてしまったんだろう……。





私は、人混みの中を歩き続ける。
みんなが言っていた通り、誰も、私には気づかない。
気にしていない。

……来て、良かったかもしれませんね。

雑踏の中、ただただ、目的も無く、歩き続ける。
人ごみの中、こいしの姿を見つける。

「おねえちゃん……」

いつの間にかいなくなっていたこいしに出会う。
なにか、重々しいような感じで、私に話しかけてきた。

「どうしたんですか、こいし?」

「パルスィの様子がおかしいんだけど……」

様子がおかしい?
来る時は、普通だったと思うんですが。

「なんか、顔色が悪かったよ」

どうしたんでしょうか……。
少し、心配ですね。

「何処にいました?」

「広場にいたよ」

「ちょっと、行ってみますね」

「ねぇ、おねえちゃん……」

「何ですか?」

「……ううん、なんでもない」

どうしたんでしょう?
言いたいことがあれば、いってくれればいいのに。

「早く、パルスィの所に、行ってあげて」

「……えぇ」

こいしが、私に何を伝えたかったのか気になった。
でも、今はパルスィだ。
こいしも、早く行ってあげてって言っている。
私は、広場へと向かいはじめた。

広場へと歩いていると、顔に、冷たい雫があたった。
ついに、降り始めてしまったようだ。

私は、広場へ向かって歩いていく。
突然の雨に、お祭りに来ていた人たちが、雨宿りをし始めている。
そんな中、私は、雨も気にせず、歩き続けた。

歩き続けていると、突然、寒気を感じた。
今までと、空気が違うような気がする。
冷たい……。
でも、寒いわけではない。

まるで、生気を吸い取られそうな……。
それだけの、負の気質。
それを生み出している中心部に立つ、少女が1人。
うつろな目で、虚空を捉えている。

見間違えるはずがない。
でも……、見間違えであってほしいと、思いたくなる。
それほどまでに、禍々しい力が、私にあたる。

「パルスィ」

「…………」

パルスィは答えない。
空を眺めて、ただ呆然と、立ち尽くすだけ……。
パルスィの顔は、何かで歪んでいる。

「パル、スィ……?」

どうすればいいのかわからず、私はただ、名前を呟くことしかできなかった。





空を覆う、厚い雲。
年に1度の、大切な出会いを隠す雲。
天に住まう、2人の涙雨。
それが、残酷なほどに、私の心を抉る。

――妬ましい、妬ましい。
――何故、妬ましい?
――どうして、妬ましい?

人が信じられない。
人は、嘘の仮面を被ってる。
人は、私の心を裏切る。
そう……。
全てが、虚空に消える……。

――どうして、そう思うの?
――これは、私の記憶なの?
――私の、古い感情?

幻想的な御伽話。
年に1度の大切な出会い。

私は、憧れた。
永遠に、お互いを想い続けられる、2人が羨ましかった。

私も、そんな風に生きていきたかった。

でも……。
彼は違った。
彼は、『愛しているよ』と言ってくれた。
『ずっと、大切の思っているよ』と言ってくれた。

でも……。
彼は、別の女の子と一緒にいた。
私といるときよりも、楽しく、過ごしていた……。

天に住まう、永遠に年1度を繰り返す、2人の下。
永遠に、お互いを想い続けている2人の下。
まるで、雲で隠れているから、何をしても許されるだろう、と思うように。
彼は、私の知らない女の子と、一緒にいた。

――どうして、私のことを愛し続けてくれないの?
――ずっと、大切に思っていてくれなかったの?

――どうして、裏切られなければならなかったの?

――妬ましい……。
――簡単に手のひら返す輩が、妬ましい。
――全てのものが、妬ましいっ!!!

「パルスィ、止めて!!」

――妬ましい、妬ましい。

嫉妬の力は荒れ狂う。
すべてを妬む。
私を裏切った薄汚い心。
それを持ち得る存在を。

(アンタ、この前、知らない女と会ってたでしょ!!)

(この手紙は何!?)

(昨日、なんであんなに遅かったの?)

(どうして、キスなんてしていたの?)

雑踏から聞こえる声、全てが変わる。

周りから、美しい声が聞こえる。
嫌疑を纏った妬みの声。
私の心に染み入る声。
満たされない。
でも、喰い続けなければ、壊れテシまウ。

嫌、嫌、いや、イヤ、イヤいヤイヤイやイヤいヤいやイや。

全てが怖い。
裏切りが。
大切なものを、失うのが!!

「パルスィ!!パルスィ!!!」

私の心に、声が響く。

「妬ましい……」

私の口から、呪詛が漏れていく。
心の奥底の、本音と一緒に漏れ出て行く。

「私を裏切る、心が妬ましい!!!」





なんなのだろう。
『私を裏切る、心が妬ましい』
これは、パルスィの過去?

「どうして、裏切られなきゃならなかったの?」

パルスィの声は、震えている。
それは、恐怖? 絶望? 嫉妬? 怒り?
心を読んでもわからない。
あまりに心が荒れすぎている。

「私の何が、いけなかったの?」

過去の記憶が、溢れている。
自分すら、見失っている。

「私はただ、彼を想い続けて生きていきたかっただけなのに……」

自分の想いを捧げ続け。
誰よりも、その男の人のことを想い。
……好きでいた。
なのに、

「私はただ、彼に想われ続けて生きていたかっただけなのに……」

大切な人に、裏切られた。

そして……。

恨みを込めて、鬼になり。
全てを妬み、生きてきた。

「もう、誰も、信じていたくないっ!!」

でも……。
それでは悲しすぎる。
せめて、私だけは、パルスィが信じていられる、存在でいてあげたい。

「誰にも裏切られたくない、嫌われたくないっ!!」

涙が溢れている。
恐怖というものを包み隠し、嫉妬という膜を張り続けてきた。
それだけ、悲しい生き方を選んできた。
絶望を抱えて生きてきた。

誰も信じられず。
誰も好きになれず。
たった1人だけで、生き続けてきた。

私と、友達になってくれた、あのときからも……。

パルスィには救ってもらった。
永遠に手に入らないと思っていたものをくれた。

だから、私は……。
裏切りたくない。
嫌いたくない。

そして……。

失いたくない……。

だって、私は……。

普通に見てくれたあなたを。
友達にしてくれたあなたを。
心配してくれた、あなたを。

……大切に、想っているもの。

「私は、あなたを裏切らない!!」

パルスィの身体が震える。

「私は、あなたを嫌わない!!」

パルスィの、苦痛に歪んだ顔が、私を捉える。
その顔を、見たくなかった。
そんな顔、させたくない。
だから、

「私は、パルスィのこと、好きですよ」

本当の気持ちを込めて、精一杯、パルスィに叫んだ。





『私は、パルスィのこと、好きですよ』

心の中を蹂躙する、過去の記憶。
私を支配する、嫉妬の心。
それを掻き消す、アイツの言葉。

一瞬、私の心は揺らいだ。
アイツと過ごした私の心は、その、甘味な言葉を受け入れかけた。
でも、私の過去の心は、その、危険な言葉を受け入れなかった……。

心の奥底が、怖いと叫ぶ。
裏切られることが。
捨てられることが。

でも、嬉しいと思う。
その言葉を受け入れたいと願う。

2つの心に挟まれて、何1つとして得られない。

自分が、何処までも愚かしい。
私を想ってくれる、アイツの言葉を信じられない自分が……。

「パルスィは、私と友達になってくれた」

あぁ……。
そういうこともあったな……。

「私は、あなたを、こんな孤独の闇に閉じ込めたくない!!」

私は、あのときから、ずっと孤独だった。
全てを妬む鬼として、誰からも好かれることはなかった。
だから、この前のことも、実感なんて、全くなかった。
それなのに……。

「私は、あなたとずっと、一緒にいたい」

私は、アイツに、想われてる?
私は、アイツを、想っている?

「だか、ら……」

この想いは、裏切られない?
この想いは、大切にしてられる?

「さと、り……」

「パルスィ!?」

「アンタ、は、わた、しを、大切、に、想って、くれ、る?」

「大切に、想ってますよ」

さとりのその言葉に、涙が零れてくる。
たった1人でも、ここまで、大切に想ってくれる人がいる。

「唯一、私を認めてくれた、たった1人の、大切な、かけがえのない存在ですよ」

気のせいか、少しだけ、さとりの顔が赤くなっているように見える。
それが、恥ずかしさなのか、気疲れなのかは分からないけど。

とっても、うれしかった。
私にとっても、かけがえのない、大切な、友人、なの、かな?

「ありがと、さとり……」

いつの間にか雨は上がり、雑踏が戻りつつあった。
広場の隅に座り込み、過去を想起する。

さとりの言葉はうれしかった。
あの男なんかより、言葉に、心が宿っていた。
本当に、大切に想われているように思えた。

でも、まだ、私の心は……。

「ねぇ、パルスィ?」

「何?」

「短冊、書きに行きましょう?」

「……いいわよ」

「願いを、叶えましょう?」

「…………」

「さっきの言葉、絶対に守りますよ、パルスィ」

「……ありがと……」

私とさとりは、大きな笹へと向かう。

空は、あのときとは違い、美しき天の川が煌めく。
年に1度の制約を持ち、でも、永遠に想い続ける2人。
その2人に思いを馳せる。

「大丈夫ですよ」

「何が?」

「いいえ、なんでもないですよ?」

突然、さとりは言った。
一体なんのことだろう?

わたしと、さとりは、笹の葉に、短冊を飾る。
大切な想いを乗せて。





『 ずっと、友達でいられますように…… ーパルスィ 』

『 ずっと、友達でいますよ ーさとり 』





星が煌めく、大空の下。
人は失せ、静かな夜を取り戻した。

空では、年に1度の出逢いを、本当に短い再会を、静かに過ごしている。
それでも2人は、これからも、お互いを想い続けるのだろう。

笹を揺らす風が吹く。
笹の葉から、心地の良い音がする。

あらゆる願いを乗せた、七夕の短冊。
その中には、願いではない何かも混ざっている。

大切な想いも抱え、笹は、天へと短冊をかざす。
まるで、言えない言葉を届けるかのように……。

『 ありがと、さとり 』
どうも、朔盈です。4回目の投稿です。
またまた、さとパルですよ~。
なんか、この2人、気に入ってるんですよね。

一応、地霊組のキャラは、みんな出したけど、
上手く動かしきれませんでした。
これなら、みんなを出す必要、無かったんじゃ……。
(でも、削っちゃうと、はぶってるようで嫌なんですよね)

そういや、自分は天の川というものを見た憶えがありません。
夜空が明るすぎて見れないんですよ。
(もしかして、根性が足りないのでしょうか?)
どれくらい綺麗なんでしょう?
一回くらい、見てみたいものです。

ではでは、こんなところまで読んで頂きありがとうございました。
朔盈
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コメント



0.500簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
とても良いさとパル!
二人の絆良いなぁ
3.100名前が無い程度の能力削除
いいねぇさとパル好きですよ。
天の川か、近所のプラネタリウムで見たのはかなり綺麗でした。もはやあれも幻想なのでしょうね(魔理沙のミルキーウェイとか)
6.60名前が無い程度の能力削除
ふむふむ
7.70oblivion削除
視点変更が多くて読みづらかったかなー。三人称ならまだしも、一人称でこれはちょっと辛かった。
でもさとパル大好き。よく書いてくれました。
愛欠乏症のパルスィ。さとりちゃんにはもっともっと愛してもらってほしい!
ありがとうございました。
13.無評価朔盈削除
コメレスです。
なんか、読みづらかったようですね。
自分としては、交互1人称が好きなんですが(お互いの心情を描写出来るので)、
読みづらいのは問題ですね。

>>奇声を発する程度の能力 さん
コメありがとです。
楽しんで頂けたようで、なによりです。

>>3 さん
コメありがとです。
さとパル好きですか。また、書けるといいなぁ。
たしかに、天の川は既に幻想なのかもしれませんね。

>>6 さん
ほむほむ

>>oblivion さん
コメント、ありがとうございます。
読みづらくて、すいませんでした。努力不足です。
交互1人称を使う以上、読みやすく工夫しなくてはいけないのに。
読み辛さが無くなるよう、努力していきます。

みなさん、読んで頂いてありがとうございます。