Coolier - 新生・東方創想話

LOST 1. ~あったのに なくなったの

2014/10/25 14:56:33
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     LOST 1. ~あったのに なくなったの

  ここ数日の冷え込みがうそのように、日差しが優しかったから。
 ほんとうにただそれだけなんだけど。
 
 秋色に染まった野山がうれしくて、いつもとは違う道を通ってみた。
 うちまではちょっと遠回り、でも、なんだかいいかんじ。
 だって、どこからか、いいにおいがするもの。
 その大きな木をぐるっと廻ったあたりに。

 ほら!!!
 
 すごい。
 みつけてしまった。
 うわ、どうしよ。

 これ、ぜったい、ひみつにしなきゃ。だね。

 * * * * * * * * * * * * * * *


 ‥‥‥‥ 妙だな

  雛の庵へと続く踏み分け道を辿りながら、にとりは首をひねった。
 傍らに咲く小さい花たちが、何やら華やいでいるように
 感じられるのだ。
 花ばかりではない。茶色いキノコたちや
 土にまみれた落ち葉まで、どことなく艶めいてみえる。

 この界隈の小さきものどもは皆、その空間を治める主の
 気分に影響を受けている。
 と、いうことはだな。

 雛の機嫌がものすごく良いということだ。
 珍しい。
 これは今日、自分が呼び出されたことと関係があるのだろうか。

 
 「修理屋っ 待ってたんだ」

 飛び出してきて、にとりを迎えた雛の声がはずんでいる。

 「本当に珍しい」
 「ん? 何が」
 「いや、気にするな」

 厄神のこのところの住まいは玄武の沢の中ほどにある。
 密やかな小道から、さらにわき道を突き進み、
 何本かの分かれ道を右を選んだり、左を選んだりして
 ようやっとたどり着く。
 大岩と大木が絡み合って創りあげた空間は、程よく乾燥し
 寒くもなく暑くもなく、時折風が通りぬけ、夕暮れの空が
 眺められる小窓もあり。
 つまり極めてすごしやすいというわけで、にとりも
 何度か訪ねているのだが。

 「ここっ。ここに貯蔵庫みたいのを作りたいんだ」

 こんなに元気な雛を見たのは初めてだ。
 頬がつやつやとしてまったくもって健康的だ。
 ほんの少しだがふくよかになったようにも見える。
 両手を大きく振り回して『貯蔵庫』とやらの場所を
 表している厄神。ちょっとかわいい。うーむ、眼福。

 貯蔵庫のどこに、そんなに興奮する要素があるのかが
 わからないが、どうやら棚板が何枚かと丈夫な木扉、
 それに錠前があれば良さそうだ。
 3日もあれば出来上がるだろう。
 だがわからん。いったい何を「貯蔵」したいのか。

 「棚にね、棚につぼをならべたいんだ」
 「数量はどのくらいだ。それに重さは?」
 「うんとね、ううんとぉ‥‥」
  
 なんだ、その夢見る様な顔つきは

 「重い、とおもう、たぶん。それにいっぱい」
 「冷蔵機能は必要か?」
 「れ、れいぞう」
 「氷室みたいなもんだな」
 「!!! 氷室 !!」
 
 ぴょん
 見間違いでなければ、厄神雛が両足で飛び上がった。
 ウサギ属性だったか? いや、まさか。

 「それそれそれ、それがいい」
 「じゃあ氷室つきにする、と。
  けっこうかかるぞ。工事もいれて10日ってところか」
 「10日‥ この涼しさだと、だいじょうぶかな。
  にとり、まかせた。いいやつ作って」

 だから何を収納する予定なんだ?

 問いたげな目つきに気づいたらしい。
 それとも本心では打ち明けたかったのか、雛は小さな声で
 にとりに告げた。

 「氷室ができたら教える。
  いっしょにとりに行こう」

 だから何を? それに氷室ではなくて冷蔵庫だ。
 

 *  *  *  *  *  *  *  *  *

 雛曰くの『氷室』が出来上がって数日後、
 にとりは深山の沢道を辿っていた。
 傍らには依然として絶好調の厄神・鍵山≪流し≫雛。
 楽しげに鼻唄を歌っている。

 機嫌が良すぎてこわいなあ、反動が来なければいいのだが。
 修理屋・河城≪かっぱ≫にとりが、心の中でそう願って
 いることなど、知る由もない。

 「ひと月くらいまえなんだけど」
 前置きもなく、雛の告白がはじまる。
 「この先で見つけたんだ。白蜜果の大木」
 
 「え」
 「鈴なりだった。あんなに大きい実は初めてみた」
 「え」
 「食べてみたんだ。もう熟していたから」
 「え」
 「すっごく 甘かった」
 「ぅゎ」
 「    しあわせだった」
 「‥‥‥」

 雛の頬が緩んでいる。
 完熟の白蜜果の味を思い出しているのだろう。
 なるほど、すこしふくよかになったのは
 糖度の高い果実をたらふく摂ったからなのか。
 しかしひと月まえに熟していたとなると、
 今はどうなっているのだろう。
 「他の実はどうしたんだ、雛?」
 「全部摘んだ。しまう場所がなかったから木の洞に
 かくしてある」 
 「木の洞にねえ。なんだか嫌な予感がするのだが」
 
 言うまでもなく白蜜果の木は発酵作用が非常に強い。
 醸造されるのには2週間もあれば十分だろう。
 辺りにただよう香りにもそれが感じられる。
 (気づかないのは隠れ天然の雛くらいなものだ)
 たぶん好きもの達を引き付けてしまっている。
 やっかいな相手でなければ良いのだけれど。

 「おうぅ、なんだぁ、修理やぁ、久しいなあ」
 「最悪だ」
 「ぬぁんだとぉ」
 
 白蜜果の幹にもたれていたのは泣く子も黙る怪力乱鬼だ。
 もうすっかり「出来上がって」いるように見える。
 いつにも増して口調が乱暴だ。

 「勇儀サマ、ご機嫌ですね」
 「ぬぁんだとぉ」
 「いつ旧地獄からでてきたんですか」
 「ぬぁんだとぉ」
 「話にならないな」
 
 「あーっ!!!!」
 
 勇儀が四度目の「ぬぁんだとぉ」を言う前に
 雛の悲鳴がひびいた。
 
 「ないっ、なくなってる。ひとっつも」
 さもありなん
 「‥‥‥でも、かわりにお酒ができてるみたい」
 ご名答。

 「おお、飲め飲め」
 今だけは気立ての良さげな怪力鬼が持参の盃を、
 ざぶりと果実酒にくぐらせた。
 まるで自分の手柄のように厄神に差し出す。

 複雑な表情をした雛は、それでもおずおずと
 盃に両手をのばした。
 星熊盃か、そりゃあ倍もうまかろう。

 「おいし」
 
 一口目はそろそろと、それからはまるで雪崩のように。
 甘くてとろりとコクのある香酒は、鬼と流し雛が
 あびるほど飲んでもまだまだ尽きずに
 樹木の洞に満ちていた。
 「ね、うちで飲みなおそう。氷室もあるんだよ」
 「ひむろぉ?何いれるんだぁ」
 「白蜜酒。ほらつぼも持ってきてるし」

 意外と力持ちな雛が大振りな取っ手付きのつぼをみせる。
 にとりと二人で8つもさげて来たのだ。
 「よしきた、まかせておけ」
 勇儀が立ち上がると、つぼになみなみと酒を汲み
 8つとも持って歩きだした。
 うしろに星熊盃をかかえた雛がつづく。
 
 いつになく友好的な鬼と厄神。
 酔いが醒めてもそのままでいられる事を
 祈ろう。
  
 ‥‥ 二人とも”からみ酒”じゃなくて良かった
 
 「うちに帰って飲みなおそう」
 背嚢に常備の自在瓶に美酒を詰め、ついでに
 これまた常備の徳利にもたっぷりと汲んだ。
 そして小さくため息をつくと、にとりは
 秋の花々が喜びに咲きみだれる小道をたどって
 家へともどった。
 ひとりで。
初投稿です。よろしくお願いします。
床ぴかぴか
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コメント



0.90簡易評価
3.80絶望を司る程度の能力削除
雛可愛いにとりがなんかカッコいい勇儀さんマジで何してんの!?
面白かったです。さてどうなるか楽しみですね。
5.70大根屋削除
読み終わってすごく気になったのは、変なところで段落が出来ていたり、文が切れていたりしたところ。メモ帳等の文章作成をそのまま持ってきたのでしょうか?
内容は面白いです。独特のキャラ付けは少し癖がありますが、慣れればこれもアリと思えます。
6.無評価床ぴかぴか削除
点数を入れていただいてありがとうございます。ドキドキです。
 ご指摘のとおり、メモの機能を使って書いたものを貼り付けたら、こんなことになってしまいました。
投稿後に気づいたので、あまり大幅に改めてもいけないと思って、そのままにしてあります。
たいへん読みづらいのですが、次回からは何かいい方法を考えますので、今回はご容赦ください。(ところで皆さんは、どうやって書いているのでしょう?)
7.70奇声を発する程度の能力削除
少し気になる所もあったけど面白かったです