Coolier - 新生・東方創想話

宵闇の日傘

2011/08/11 08:27:49
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 扉を開けると咲夜の視線の先には、紅魔館の主であるレミリアの姿が飛び込んで来た。
 陽も高く昇っている時分に彼女が起きていることは、ここ最近では珍しいことでは無くなっていた。
 彼女が友誼を持つ博麗の巫女の下へ、積極的に出向いているからに他ならない。それ以外にレミリアが館を出たことは、咲夜の記憶する限りではほとんど無かった。
 紅魔館は吸血鬼の館と言うには窓が多い。
 レミリアが平然とした顔で足を組んで椅子に座っているが、そのすぐ隣にも窓はある。白いレースなどが掛かり、直接的に日光を浴びないとは言え、並の吸血鬼ならば裸足で逃げ出してしまいそうな環境である。
 そこは希代の吸血鬼であるレミリアの為せる業である。
「いつまで突っ立っているの咲夜。早く入りなさい」
「はい、お嬢様」
 促がされるままに咲夜は部屋の中へと足を踏み入れる。
 その隣には、いつもは見慣れない影があった。
「うー、なんなのー?」
 吸血鬼が忌み嫌う太陽のような輝きを持つ金髪。そして、吸血鬼であればやや親近感を覚えないでも無い紅い瞳。
 そして何より印象的なのは頭につけた可愛らしいリボンである。
 ルーミアと名乗るその妖怪は、両手両足を鎖で縛られた恰好のまま、部屋の中央へと引き摺りこまれていた。
 彼女の表情からは怒気は見られず、ただ困った表情を浮かべるばかりである。
「一つ二つ、質問をするわ。あなたはそれに答えなさい」
 可愛らしい八重歯を覗かせながら、レミリアはルーミアを見下ろしながら言葉を掛ける。背筋が凍り付くような威圧感さえ覚えさせる。
 ルーミアは言葉を発さずにこくりと頷く。
「あなたは闇を操れると聞いたけれど、それは本当のことなのかしら?」
 巷では宵闇の妖怪と呼ばれるルーミアの噂は、紅魔館の主の耳元にも届いていた。それは曰く魔法の闇であるらしく、松明の光でさえその闇の中では輝きを持たぬと言う。
「何も見えなくはなるよ」
「良いわ。それじゃ、もう一つの質問をするわ。あなたは私に従うつもりはあるかしら」
 全身の毛がよだつような寒気を咲夜は覚える。言外の威圧をレミリアは意図的にルーミアへ掛けているようだった。
 幻想郷でも有数の実力を持つレミリアの殺気を浴びているにも関わらず、ルーミアはただ困ったような顔を浮かべているだけだ。
 その様子に咲夜は自分が捕らえてきた妖怪のことが分からなくなった。実力はそう高く無い妖怪だったが、その実は凄まじい実力を潜めた大妖怪だったのだろうかと。
 咲夜は幻想郷の事情にはそう通じていない。生活の大半を紅魔館で過ごしている。それに幻想郷のパワーバランスを考えるのは自分の仕事では無いとも割り切っていた。
 自分にとっての世界は、紅魔館なのだ。それ以上は求めるべくも無い。
「私に付き従うのはそんなに嫌かしら」
 プレッシャーを与え続けるレミリア。それに対してルーミアの反応は、あまりよろしくは無い。
 側らでその様子を眺めていた咲夜はレミリアに近付き耳打ちをする。
「分かりやすくご命令されては如何でしょうか。対等な話し合いに応じる様子ではありません」
「それもそうね」
 ごほん、とわざとらしい咳払いをするレミリア。椅子から立ち上がりルーミアのすぐ傍にまで近寄る。
「私の為に働きなさい。それがあなたの運命なのよ」
 その小さな体躯からは想像も出来ない程の迫力を滲ませるレミリア。
「運命……?」
「そう、あなたと私は巡り合うべくしてして巡り合ったのよ」
「そーなのかー」
 実際はレミリアの命により咲夜が捕縛して来たのだが、その事実を敢えて口にする者はこの場には一人も居なかった。
 ルーミアは満面の笑みを浮かべていた。
 レミリアはそれを肯定と受け取ったのだろう、咲夜へルーミアの拘束を解くように指示を飛ばす。
 太股に手を伸ばした咲夜は、二振りのナイフを取り出す。手の平に収まる華奢なイメージを持つそのナイフを、躊躇いも無くルーミアへと投げる。
 二振りのナイフは、綺麗にルーミアを拘束していた手枷と足枷だけを裂く。
「早速だけど、霊夢の所へ行くわ。咲夜は留守番をお願い」
「はい。ですが――」
「彼女も手当たり次第に妖怪を狩る訳では無いわ。さぁ、あなたの初仕事よ」
 そう言ってルーミアを手招くレミリア。
 見る者によっては禍々しくも映る羽根を伸ばすレミリア。咲夜はさもそれが当たり前のように窓を開け放つ。
 ふわりとレースがはためき、外の香りが部屋の中へと舞い込む。門番である美鈴が世話をしている花壇から漂ってくるのだろうか、ほのかに甘い香りだ。
「さぁ、行くわよ」
 期待に胸を膨らませているであろうレミリアが一歩前へ進む。その後ろにはルーミアが続いて、球状の漆黒がレミリアを包みこむ。
 ふわりと宙に浮く球体。そして響くごつんと言う音。
「うー! 痛いー!」
 漆黒の球体から転がり落ちて来たのは、カリスマ溢れる紅魔館の主。と言うにはあまりに邪気の無い姿を晒しているレミリアだ。
 頭を抱えながらごろごろと床を転がっている。ルーミアの闇は何事も無かったかのようにふよふよと窓の外へ飛び出してやがて見えなくなってしまった。
 窓枠にはかなり大きな凹みが出来てしまっていたが、どうやらレミリアはそこに頭を勢いよくぶつけてしまったようだった。
「全く前が見えないじゃない! って言うか、何処行ったのよ!」
「彼女自身も何も見えていないのではありませんか? お嬢様が居なくなったのも気付いていないのでは……」
「うー、あの闇の中、結構心地良かったのに……」
 ぐすんと涙を堪える姿を眺める咲夜の口元が微かに吊り上がる。鼻がひくひくと動いているが、それに気付く者は居ない。
「日傘をご用意致します」
「そうして頂戴。はぁ、日光なんて忌々しい」
「日傘を差すお嬢様も画になりますよ」
「褒められても嬉しくは無いわ」
 そう言う主人の頬が少しだけ緩んだのを、目敏くも咲夜は見逃さなかった。
初めまして、こちらは初投稿となります。
以後お見知りおきを頂ければ幸いです~。
地方ようかい
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コメント



0.2060簡易評価
3.90奇声を発する程度の能力削除
お嬢様どんまいw
5.80名前が無い程度の能力削除
わろた
6.100名前が無い程度の能力削除
良いね
7.100名前が無い程度の能力削除
単純だが面白いw
単純だからこそ面白い
8.100名前が無い程度の能力削除
可愛いぜ
10.100朔盈削除
軽くてかつおもしろかったです。
短くても、面白みを出せるのはすごいなぁ~。
11.無評価地方ようかい削除
>得点、コメント頂きました皆様
 本当にありがとうございます!
 皆さんの言葉が、凄い励みになります!
12.80名前が無い程度の能力削除
メイド服のルーミア……ありだ!!
14.90名前が無い程度の能力削除
初投稿なのかー
頑張れ~
16.100名前が無い程度の能力削除
レミリアも考えたなww
25.90名前が無い程度の能力削除
www
34.100名前が無い程度の能力削除
9さんに同意。1ページ漫画に近いかもしれない。
まるでお手本のようなSSだ。
36.100名前が無い程度の能力削除
悪くない
37.100名前が無い程度の能力削除
即堕ちでカリスマ崩壊するレミリアがかわいすぎました。
40.60名前が無い程度の能力削除
なんか昔似たような話が有った気がする。
でもあっち趣向は違うね。
ただ、そういう訳で面白かったけどちょっと物足りない
41.100名前が無い程度の能力削除
るみゃの自由さが光るな。
「そーなのかー」が万能過ぎるんだよw
42.無評価地方ようかい削除
こんなにもコメントありがとうございます!
中には過分なお言葉まで……大変嬉しく思います。

>42さん
 被りが無いようにと、少し気をつけたつもりでしたが残念です。
 より一層、気をつけさせて頂きます。
43.90過剰削除
まぁそうなるわなww

しかし両手両足が鎖につながれたルーミアとか犯罪の臭いが凄まじい
47.80名前が無い程度の能力削除
まあルーミアの闇をレミリアが利用するってのは割と王道ですし、あまり気にすることはないかと。
欲を言えばもうすこし長く読んでいたいとも思いましたが、これはこれでまとまっていて良いと思います。
49.100Dark+削除
アホやw