Coolier - 新生・東方創想話

ギュッと

2009/08/06 06:45:45
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ギュッとする。
パリンと割れる。

ギュッとする。
パキンと砕ける。

ギュッとする。
グシャリと潰れる。

ギュッとする。
粉々のグチャグチャになっちゃう。

昔からそうだった。
今でもそうだ。

だから私は、ギュッとしては駄目らしい。







レミリアお嬢様からお呼び出しを食らった。
扉をくぐる前に色々考えてみたが、正直思い当たる節がありすぎて何が原因かわからない。
よくよく考えてみれば解雇されても文句が言えないモノもある。
現場の判断とか個人の考えとかそういうのも多分に含まれているが、それはそれこれはこれ。言い訳にはならないだろう。何せ門番とは生き方ではなく職種なのだから。
私がどんな考えのもとに動いていようとも、義務を果たせていないのは確かなのだ。
ここでの生活はとても気に入っていたが、自分自身がまいた種。
刈り取るべきもまた自分。
……覚悟を決め、扉をノックする。

「入りなさい」

扉を開け、部屋の中へとはいる。
奥の椅子にはレミリアお嬢様。その隣には咲夜さんがいた。
「レミリアお嬢様、お待たせいたしました」
帽子を取り、頭を下げる。
レミリアお嬢様はいつもよりもずいぶんとカリスマなご様子で、その佇まいからはオーラが見えそうだった。
「扉の前でしばらく佇んでいたみたいだけれど、何かやましいことでもあるのかしら?」
含み笑いを零しながらレミリアお嬢様が仰る。
「やましいことは無いつもりですが……お叱りを受けても仕様がないことは幾つもございます」
「ずいぶんと思い詰めた様子だから何事かと思ったら」
レミリアお嬢様は、はっはっは、とカリスマな笑いをされる。
「なら何の問題も無いじゃない。叱るつもりなんて別にないし、そうビクビクすることはないわ」
「えっ?」
「何をきょとんとしているのよ。もしかして本当はやましいことがあるのかしら?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、お叱りを受けるモノとばかり思っていましたので……」
「お前を呼んだのは全くの別件よ。咲夜から仕事に関して特に問題はないと聞いているし、私自身も満足している」
「そう、でしたか」
とつい安堵の息をつきそうになる。
するとレミリアお嬢様は
「何をあからさまに安心した顔をしているの? 主人としてはそういうところは戒めないといけないわね……」
と私の代わりに軽くため息をつかれた。

「お前はこのレミリア=スカーレットにより紅魔館の門番を命じられているのよ。そうである以上、ただ門を守ればよいというわけではないわ。ただ勝てばよいのなら別にお前である必要なんて無い。毅然と。そして美しく。それが無い勝利になど私は一片の価値も認めない。お前のスペルカードの造りからはそれを見いだすことが出来るのだけれど、私の買いかぶりだったのかしら?」

「……いえ、レミリアお嬢様。その二つは私の信念のよりどころです」
「そう。だったらもっとシャンとしなさい。お前自身がそうでなければ何の意味もないわ。美鈴、私を失望させないで」
「はい。畏まりましたレミリアお嬢様。以後、肝に銘じます」
深々と頭を下げる。
と同時に、頭の天辺から足の先まで活力がみなぎるのがわかる。
私が『生きる』ための活力だ。
人はパンによってのみ生きるに非ず。
生きるための理由もまた必要だ。
生きる事とは息をしている事ではない。
ああ、私はすばらしい主人に仕えた。
最近はとみにカリスマが減退していたように感じていたがそんなことは無かった。
やはり、私の主人のカリスマ分はすばらしい。本当にすばらしい。
従者としてこれ以上はない。
感激だ。
涙が出そう。
いやもう出てる。
鼻もぐずりだした。
でも今だけは許していただこう。
この涙は決して弱さから来るモノではないのだから――。







私が自らのカリスマにほれぼれしていると瀟洒なメイドが話しかけてきた。
「レミリアお嬢様」
「なぁに咲夜」
「その、不躾ながら……少々鼓舞しすぎたかと思われます」
「どうして? たまには良いじゃない。これも主人の勤めよ?」
「いえ、そのお考えはすばらしいと思うのですが、ご用事の方を先に申しつけるべきだったかと」
「なぜ?」
「その……」
「何よ。回りくどいのは好きではないわ」
「……お嬢様のお言葉で美鈴が感激のあまりむせび泣いております」

「お、お嬢様! この紅美鈴! 粉骨砕身して門番を務めさせていただきますっ!」

……涙ぼろぼろ零してるよ。
ってか鼻水鼻水! たれるって!
あ、咲夜がちーんさせてあげてる。
うらやましぃ……じゃなくて。やばい、やりすぎた。
「……あー、ねぇちょっと、美鈴」
「はいっ!」
うっわぁ、すげぇ眼がキラキラしてる。
どうしよう気合いが入りまくりなんですけど。
空気を読めない吸血鬼に未来はない。故に私は空気が読める。
今更切り出すとか無理。マジで無理。
「しかしお嬢様。美鈴以外に適任者がおりません」
「おいこら、さり気なく心を読むな」
「失礼いたしました」
しかし本当にどうしよう。咲夜の言うとおり美鈴以外には頼めない仕事だ。
でも言いづらすぎるし……ああ、そうだ。
「咲夜、お前が私の代わりに伝えなさ……っていねぇ!」
あんの無駄に瀟洒なメイド、主人に面倒ごと押しつけて逃げやがった! 
確かに私の自業自得だが、泥をかぶるのも従者の役割のはずだなのに……。
あと「愛しい美鈴を泣かせるようなまねはできかねます」とかいらん置き手紙をするな。
パチェといい小悪魔といい、惚気話を主人にするのがはやっているのか? こあぱちぇとかもうおなかいっぱいなんだよ。時代はレミパチェだろ。
いい加減カリスマな私でも寂しくて泣くぞマジで。独り身の寂しさとかわかれ。
「レミリアお嬢様……どうかなされたのでしょうか?」
「い、いや、なんでもない」
「そうでしたか。少し涙ぐんでるように見えましたので何かあったのかと。何もないのでしたら良かったです」
……あ、少し漏れてた。
いや、でも仕様がないだろ。カリスマでも泣くときは泣くのだ。
それにこのレミリア=スカーレットは血の一滴に至るまでカリスマだ。
だからきっと、この涙にもカリスマが含まれているはずなのだ。
「しかし、もし何か問題をお抱えでしたのならこの紅美鈴にお申し付けください。私の全身全霊を持って対処させていただきます」
……ほらみろ、やはり私のカリスマは万能だ。
「……実はね、フランドールのことで少し問題があるのよ」
「フランドールお嬢様の事でですか?」
「そう。お前を呼んだのもその件に関してなの」
「と、申しますと?」
「お前にはしばらく門番の職を離れて欲しいのよ」

「やっぱり私の職務態度がお気に召さなかったのですねっっ?! ひーんっ」

……わぁいマジ泣きだ。
「いや、だから話の流れ的にそうじゃないことぐらい……」
「びぇーん! お嬢様に捨てられちゃうよぅ! 咲夜さんとももう一緒に寝られなくなっちゃうぅ!」
ひーんとかびぇーんとかってあんた一昔前の漫画じゃないんだから。つうか一緒に寝てるって何それ私知らないんだけど? 初耳でレミリアびっくり。
「何を言っているのよ美鈴。たとえお嬢様があなたを捨てたとしても、私があなたを見捨てるはずが無いじゃない。いざとなったら私が養ってあげるわ」
おいこら瀟洒なメイド。おいしいとこだけもってくな。ってかいつ帰ってきた。
「お嬢様もお嬢様です。もう少し伝えかたってものがあるじゃないですか!」
え、何私悪者扱い? いや、確かに私は悪のカリスマだけれど。でもこういうのはカリスマって言わないって思うんだ。
「いや、だから、美鈴。ちゃんと聞きなさい!」
「ふぇっ?」
あ、鼻水が、鼻水がたれる。
咲夜がちーんって。うらやましぃ……じゃなくて。
「これは一時的な扱いなのよ。ちゃんと用事が済んだら元の門番に戻してあげる。このレミリア=スカーレットが保証するわ」
「ほ、本当ですかぁ?」
「ええ、約束するわ」
「ひーんうれしいよー」
だからひーんていつの時代の漫画だって。
つうか「良かったわね美鈴……」とか「咲夜さんっ! 咲夜さんっ!」とか言いながら感極まったように抱きあうな。私の疎外感が凄いから部屋でやれ。あと咲夜、おまえ全力でいいとこ取りしすぎ。
「……それで、私の話を聞く余裕は出来たのかしら美鈴?」
「ぐすっ……はい、お嬢様」
「そう、それは良かったわ」
「はい、お手数をおかけしました……」
本当だよ。
「ま、いいわ。それより本題にはいるわね」
「はい」
「フランドールのことなんだけれど、最近側付きのメイドが怪我をしてしまってね」
「怪我、ですか」
「どうやら何かの拍子にあの子に手を握られて砕かれてしまったみたいね。怪我そのものは永琳に診せたから大丈夫なのだけれど、もう私には側付きは出来ないと泣きつかれてしまったわ。あれでもそれなりの力量を持っている者だったのだけれど、やはりあの子の面倒をみさせるには役不足だったらしいわ」
「それで私にと言うわけでしょうか?」
「理解が早くて助かるわ。ただ、私はお前にただの側付きを命じるつもりは無い」
「と、言いますと?」
「あの子の教育を頼みたいのよ」
「……レミリアお嬢様。それは、少し私には荷が重すぎるかと。むしろそう言うのは咲夜さんの領分では?」
「いいえ、美鈴。お前以上の適任者はいないと私は思っているわ。」
「しかし……」
「美鈴、あの子がなんで地下室に籠もっているのか知っているかしら?」
「いえ、詳しいことまでは」
「あの子はね、自分の力がうまくコントロールできないの。持って生まれた力があまりにも巨大すぎるせいでね。能力の話ではないわよ? そんなものは殆ど本能の領域の話で、後天的に身につけるようなモノではないわ。私が言っているのは吸血鬼としての力なのよ。あの子が本当の意味で才能に恵まれたのはそこだったわ。類い希なる純粋な力。あの子はね、能力なんてなくたって殆どのモノを壊せてしまう。自分がどう思っていようともね」
「…………」
「あの子、自分を指してなんて言ったと思う?」
「……わかりません」
「『狂っている』よ。大事になる前に地下室にあの子を閉じこめたのは私。でも、あの子は反抗なんてしなかったわ。むしろ、自分から進んで閉じこもった。怖かったのでしょうね、自分自身が。だから、あの子は今も閉じこもっている。偶に出てくることもあるけれど、あれもどちらかと言えば逃げているのに等しいわね。自分と同程度の相手、つまりは壊れないモノを探しに出て行こうとしているんだもの。でもね、私は閉じこもるのも逃げるのも、もう十分だと思うのよ。力をコントロールするための下地は十分備わった。手を握っても骨が砕ける程度にすんでいるんだもの、あの子の力を考えれば上出来。そして贖罪のためにというのならもっと他のことをすべきだわ。だから美鈴、あの子に力の使い方を教えてあげて欲しいの。繊細で臆病で、でも強くて優しいあの子に。愛しい私の妹に。私にも咲夜にも教えることは出来ない。私は力の使い方なんて教えるには色々と大雑把すぎるし、咲夜は異能を持っているとはいえやはり人間だもの。これはお前以外には頼めない仕事だわ。妖怪でありながら武術なんてモノを学んでいるお前以外にはね。……だからこれは命令ではなくお願いよ。どうか不甲斐ない私の代わりに妹のことを頼めないかしら」
「……命令ですらなくお嬢様きってのお願いだというのに、私が断る理由はどこにもありませんね。それに、従者としてはお嬢様が自らを指して不甲斐ないなんて言葉を使われた以上、そんなことはあり得ないということを証明しなくてはいけませんし」
美鈴が片膝をつき、拳を掌で包み込む。
「この紅美鈴、全身全霊を持って事に当たらせていただきます」
臣下としての礼でありながら、どこか悠然とした姿でそう口にする。
「ふふっ、私はあなたのそういうところを好ましいと思っているわ」
「私もお嬢様がそういうお方だからこそお仕え申し上げております」
お互い顔を見合わせ軽く笑い合う。
後ろの方で「わ、私も」とか瀟洒なメイドが何か言おうとしていたが無視をする。
お前も少しは疎外感を味わえ。
……あ、涙ぐんだ。
やっぱり可愛そうになったので頭を撫でてあげる。よしよし。
咲夜が顔を赤らめる。愛いやつめ。
「事に当たるのは今日からでもよろしいのですか?」
「ええ。問題ないわ」
「では、これから地下室の方へと向かわせていただきます」
「……任せたわよ?」
「お任せくださいお嬢様」
美鈴はそう口にすると部屋を出て行った。







がちゃりと言う音がした。
顔を上げるとトビラが開けられようとしている。
あのメイドが戻ってきた?
……ううん、それはない。あれだけ怖がっていたのだ、もう来ることはないだろう。
だとすると新しいメイド?
新しいメイドだとしたら――。
ほんのちょっとだけ、もしかしたら、と思う。
でもすぐにそう思うのは止める。今までただの一度もなかったから。
ギィ、と少し高めの音を鳴らしながら扉が開いた。
すると立っていたのはどこかで見た顔。
「この度フランドールお嬢様の教育係を任されました紅美鈴と申します。メイリンとでもお呼びすて下さい。私は元々門番を守っていた守衛隊ですので色々と至らない点があるかと思いますが、どうかよろしくお願いします」
そういうとほんめいりんとかいう新しいメイドは頭を下げた。
ああ、そうか。門の前で何度かみかけたんだ。
「……門番?」
「ええ、『元』ですがこれでも門番長をしていたのですよ」
そう言ってにこっと笑う。
私に向かってそういう風にするって事は、自信があるんだろうか?
期待して、いいんだろうか。
……ううん、だめだ。だめ。期待しちゃ、だめ。
私はまだ全然力を上手く使えない。
何度も何度も手加減をしようとしたけれど駄目だった。
前に比べたら少しはマシなきもするけれど、それだってほんのちょっと。
それはこの前痛いほどよくわかった。……痛かったのは私ではないけれど。
「そう。わかった。今のところ何もないから帰ってもいいよ」
できるだけ距離をおこう。まだだめだ。まだだめ。まだ。まだ。
――まだって、いつまでなんだろうか。
なんだか泣きそうになったから、両ひざに顔をうずめる。
私はレミリア=スカーレットの妹だ。こんな事で泣いちゃいけないんだ。
「……あー、フランドールお嬢様? 何か誤解なさっておいでではないでしょうか?」
かつかつと音がする。
私の方へ近づいてくる音。
びっくりして思わず顔を上げる。
すぐ目の前に門番が立っていた。
「私は教育係としてここへ来たのです。私のすべきことはフランドールお嬢様に様々なことをお教えすることであり、フランドールお嬢様のご命令を聞く事ではございません。私は私の考えでもって行動させていただきます。ですので、離れろ、とご命令されたところで、私がそれに従わなくてはいけない理由は存在しないのです」
そういうと袖で私の涙を拭いてきた。
「はい、ですから、こうやって勝手に近づいてお涙も拭かせていただきますし、かってにお外へと連れていかせていただきます」
門番はそう言うか言わないかの内にふわりと私を持ち上げると、まるで子供を扱うかのように抱っこした。
「え、あっ」
何だか訳がわからない内に部屋の外へと連れ出される。
「さ、参りましょうか」
門番はすたすたと歩く。
「は、はなして」
「いやです」
門番は動きを止めようとしない。
身体をよじって逃げようとするけれど、なんだか上手い具合に身体を操られて逃げられない。
「はなしてってば!」
「駄目です」
じたばたしてみたけれど全然逃げられそうにない。
それならと、
「……あんまり聞き分けがないようだと、壊しちゃうよ?」
お姉様のまねをしてカリスマな笑いをしながら軽く脅してみせる。
「壊す? ああ、一緒に遊びたいって事ですね。ちょうど良かったです。これからお外、といっても門の外までは出ませんが、ちょっと一緒に遊ぼうと思っていましたので」
全然怖がらない。
それどころか予想外のことを言われた。
「あ、でも弾幕ごっこではないですよ? 純粋に身体を動かしていただきます」
「それ、ハンデになってないよ? 私、別に弾幕が得意って訳じゃないし」
「ハンデは必要ございません。フランドールお嬢様には全力を出していただきます。そうでないと教えるべき事も教えられないので」
「教える? 何を?」
「力の使い方、ですよ」







ほんめいりんとかいう門番が私と遊んでくれることになった。
なんだか、私と遊んでも壊れない自信があるらしい。
それどころか私に力の使い方を教えるつもりらしい。
お姉様に頼まれたといっていた。
そんなことできるわけないのに。
私と遊ぶといつだってだれだって壊れてしまう。
壊れなかったことは一度もなかった。
能力なんて関係ない。
私は吸血鬼だから、ただそれだけで相手は壊れてしまう。
今までずっとそうだったんだ。
だから、大丈夫なわけがない。
きっとこれは罰なんだ。
だから私はあそこに閉じ困っていなきゃいけないんだ。
ちゃんと力が使えるようになるまでずっと。
……やっぱり、出来るだけ手加減をしよう。
もう壊したくない。
もう壊すのにはあきちゃった。
みんなみんな壊れちゃって、後には誰も残らない。
誰も、残らない。
もう嫌だ。
なんでお姉様はわかってくれないんだろ?
……うん、いいや。あんまり考えるのはやめよう。
泣きそうになるから。
「じゃあ、行くね」
「あ、フランドールお嬢様、お待ちください」
やっぱりだ。
「……遊ぶのやめる? いいよ、別に」
「いえ、そう言うわけではなく、礼が終わっていないのです」
「れい?」
「はい、これからする遊びは『武術』というモノです。正確には少し違うのですが、まあ、それは些細なことなのでこの際それは置いておきます。フランドールお嬢様には武術を通して力の使い方を学んでいただきます」
「さっき全力でっていっていたよね? 力の使い方を学ぶのに全力を出すっておかしいと思う」
「いえ、それは違います。力の使い方はまず自らの力の限界点を見極めることから始めるのです。ですから全力を出していただきます。それに、武術というモノが実際にどういうモノなのか身をもって体験していただいた方が理解も早まると思いますし」
では始めましょうか、とほんめいりんとかいう門番は言った。
「この武術という遊びは、遊びを行う前に相手に対して敬意を込めて自分の名前を述べます。私は相手をする側、つまりは教える側ですのでまずはフランドールお嬢様からですね」
「私の名前、しってるよね?」
「はい、存じ上げております。が、これは礼節の問題なのです」
変なの。
変な妖怪に、変なルール。
……なんだか、ちょっと面白くなってきた。
「フランドール=スカーレット、です」
「紅美鈴です。お相手致します」
そう言うと、ほんめいりんとかいう妖怪はなんだか変な格好をしだした。
左足を前に出して、身体は横を向いているのに顔はこっちを見ている。
腰の位置が低くて何かに腰掛けているみたい。
そんなんじゃ素早く動けないと思うんだけれど。
「何その変な格好?」
「お気になさらずに。さあ、どこからでもかかってきてくださって結構ですよ」
もしかして、私舐められてる?
……ちょっとむかっときた。
いいや、少し痛い目にあわせてやろう。
本気、よりはちょっと力を抜く感じで。
よし。

「行くよ?」
「どうぞ」







フランドールお嬢様の頭が低く沈む。
前傾姿勢。
ダンッ、という音の後『予想通り』に右手が迫ってきた。
軽くさばいて右手をつかみ、背中から地面へ落とす。
もちろん落とす前に身体を浮かせて勢いを殺す。
最初何が何だかわからなかったのか面食らった様子だったが、すぐに対応して開いている左手で殴りつけてくる。起き上がりざまにしてはかなり速い。が、それも何の意外性もない。
つかんでいる右手を操って動きを誘導する。同時に私自身も半回転。
前の方向へ受け流す。手を離す。数歩前へ送る。
振り返る。むっとした表情。
同じように直線的な動き。が、最初と比べて段違いに速い。
本気になったようだ。
流石は吸血鬼というべきか、肉体的なポテンシャルなら私など端から相手になっていない。
でもこっちのやることは変わらない。
さばく。回す。流す。
そのうち正面からじゃ埒があかないと気がついたのか、上下左右前後を時には虚を織り交ぜながら向ってくる。弾幕じゃないからいいと思ったのか分身も。
そう言う柔軟な発想は評価。しかし連携という概念がないのは減点。
効率よく使えば私など瞬殺だろうに。
そう、効率だ。効率。
やっている内にわかった。やはりというべきか、フランドールお嬢様の動きには無駄が多い。
基本動くと止まるの繰り返し。流れというモノが存在しない。
この分だと、力の加減を『力を押し込める行為』として受け取っていそうだ。
それは走りながら止まれといっているようなモノ。
力を加減するために力を入れるのは本末転倒だ。
そしてそれは本来の動きすら束縛する。
レミリアお嬢様の話から推測して、本当はこんなモノではないはずなのだ。
憶えるべきは歩き方。
緩やかな力の使い方。
うん、決めた。フランドールお嬢様には太極拳をお教えしよう。
あれはちょうどいい。流れと緩やかな力の出し方の両方を学べる。
その上健康にもいい。いいことずくめだ。
見た目があまりよろしくないのと子供にはつまらないのが難点だが、まあそれは教え方でどうとでもなる。
と、そんなことをつらつら考えていると、いつの間にかフランドールお嬢様の動きが止まっていた。
何事だろうと思ったら、目じりに涙。
「何で、何で当たらないのぉ」
どうやら悔しかったらしい。
少しやりすぎた。でもこれはこれでいい傾向だ。
「フランドールお嬢様、悔しいですか?」
下を向いたままフランドールお嬢様は動かない。
「そのお気持ちを忘れないでください。その気持ちはあなたを良い方向へと進ませる原動力です。フランドールお嬢様は他人を傷つけないために部屋に籠もっておいででした。そして他人を傷つけないための力を得ようとされました。ですが、それでは駄目なのです。なぜなら他人を傷つけるのも傷つけないようにするのも同じ力であって、どちらか一方だけを得るということが不可能だからです。他人を傷つけないためには『傷つけるとはどういう事か』を学ばなくてはなりません。その逆も同じです。つまり、フランドールお嬢様が学ばねばならないのは『力の使い方』なのです。決して手加減などではありません。手加減などというモノを覚えてしまうと、今のように本来の動きすら出来なくなってしまいます」
思うところがあるのかフランドールお嬢様がびくっと動く。
「そして学ぶという行為は部屋で籠もっていては出来ないのです。わかりますか?」
フランドールお嬢様はこくりと頷く。
うん、素直でよろしい。
「もし、フランドールお嬢様が力の使い方を学びたいとお思いでしたら、私がそれをお教えします。いかがでしょうか?」
フランドールお嬢様は袖口で目元をこするとキッと私を見上げる。
「おねがい。教えて。私はずっとそれが知りたかったの」
うん。流石レミリアお嬢様の妹様、良い眼だ。
「承りました」
形式に則って礼をする。するとフランドールお嬢様も私をまねてぎこちないながらも礼をした。
本当に素直。
その素直さ故の過ちなら、いくらだって取り戻せるはずだ。







窓から下を見下ろすと美鈴とフランドールお嬢様がなんだか変な動きをしていた。
「……何あれ」
思わずそう口にすると隣の妖精メイドが
「何でも『たいきょくけん』とかいうものらしいですよ」
といった。
ああ、あの健康法。
「太極拳、ね。大丈夫なのかしらあんなので。もっと他にもいいのがあるはずだけれど……」
以前美鈴に幾つかみせてもらった覚えがあるが、そっちのほうが、こう、もっと武術らしかった。
お教えするならそう言うやつの方がいいのではないだろうか? とりあえず見た目的にも。
「でも、まあ、可愛らしいけれどもね」
うん。とても可愛い。凄く可愛い。
ああ、いつもだったら鬱陶しいだけの烏天狗が今だけは恋しい。
もし来てくれたなら丁重ににお迎えして、丁重にあのカメラ奪い取るのに――。
「メイド長……鼻血が」
「失礼」
ハンカチで拭き取る。色々漏れていたみたいだ。
「効果あるのかしらね、あれ。私は一種の健康法だと聞かされたけれど」
「私にはよくわかりませんが、この前フランドールお嬢様が掃除を手伝ってくださった時はずいぶんと力加減がお上手になっていらっしゃいましたよ?」
「掃除を手伝った? フランドールお嬢様が?」
「ええ。門番長が鍛錬の一巻としてやらせてみたいと仰いましたので、幾つか……壺を運んだりされたのです」
「それは……凄いわね」
「ええ、凄いです」
よく割らずに運べたモノだ。以前だったら持った瞬間割っていただろう。
「それに、フランドールお嬢様は最近とても明るくなられました」
「ええ、確かに」
最近のフランドールお嬢様は本当に明るくなられた。
積極的に部屋からでるし、なによりレミリアお嬢様と一緒にお食事を取るようにもなった。
まあ、最初の内はレミリアお嬢様が感激のあまり泣き通しで食事にならなかったのだけれど。
私としては、レミリアお嬢様がフランドールお嬢様を抱きしめていらっしゃる姿でお腹いっぱいになったので何の問題はなかったが。
「メイド長……鼻血が」
「失礼」
ハンカチで拭き取る。またもや色々漏れていたみたいだ。
「いえ、私もお気持ちはよくわかります。フランドールお嬢様が門番長に「メイ、だっこぉ」とか言っているのを見ると私も――」
「鼻血鼻血」
「失礼しました」
ふきふき。
「それにしても、以前に比べてフランドールお嬢様は子供らしくなられましたよね。言葉使いも、こう、いい言葉が浮かびませんけれど、変わりました」
「門番長は子供を子供らしくさせるのが得意みたいよ? そういうのは昔っからみたいね」
私もそうだったしとは言わないでおく。
思い出すだに恥ずかしい。なのに美鈴ったらいまだに嬉しそうに昔話をしたりするんだからやっていられない。
「ああ、メイド長も経験済みでしたものね?」
ふふふっと笑いながら妖精メイドが言う。
「……そういえば、あなたも割と古参だったわね」
「ええ。もう、あのころのメイド長と言ったら可愛くて可愛くて――」
「……鼻血」
「失礼しました」
ふきふき。
……やられてる側の気分てこんな感じだったのね。今度から少し自重しなくては。
「ま、つまり、門番長に任せておけば安心という事かしらね」
「ええ。時々フランドールお嬢様が脱走劇を行われるのが少しアレですが」
「門番長に言わせるとアレも鍛錬らしいわね。両方の鍛錬になってなおいい、とか」
「……正直こちら側としては必死なので勘弁して欲しいですが」
「大丈夫よ……私も必死だから」
「……」
「……」
「業務に戻りましょう」
「そうですね。壊れた場所の修繕もまだですし、防御壁も破られたままですし」
「今度はもっと強いのをかけないと駄目ね。パチュリー様にお願いした方がいいかしら」
「その方がよろしいかと思います。段々と壊し方が効率よくなってきていますので、大雑把な防御壁では持たなくなっています」
「まったく……壊れた分の修繕費は門番長の給料から引いておかないとね」
「ええ、私もそれぐらいやっても罰はあたら無いと思います」
お互いに、ふふふ、と乾いた笑いを浮かべながら仕事へと戻る。
……あんにゃろうこんどいじめてやる。







どかーん、ばーん、ぎゃー、わー、ひー、どーん。

「あー、始まりましたね」
最近の恒例となっているちょっとした実地訓練の音だ。
フランドールお嬢様と紅魔館全体の両方を同時に訓練できる中々効率の良い訓練法だ。
咲夜さんを含むほぼ全員に偉く不評だが、実践に勝る訓練なしが信条の私としてはここは譲れない。
少なくとも私の給料が消えて無くなるまでは続けるつもりだ。
ああ、今月どうやって暮らそう。久しぶりに山にでも籠もろうかな。

どーんっっ!

一際大きな音がした。
悲観するのは後回しにしよう。まずは仕事だ。
「気の配置は、っと」
ざっと全体の気を見る。誰か怪我をした者はいないか、怪我をしたまま何かに埋もれていないか、等々。
万が一の事態でもすぐ対応できるように。
今のところ問題はなし。
お、流石咲夜さん。対応が早いなぁ。
瞬間移動するかのように移動する気が一つ。綺麗な円形だからなおわかりやすい。
あ、でも離脱も速い。
まあ、相性的に最悪だから仕様がないけれど。
それにしてもフランドールお嬢様も力の使い方がお上手になられた。
そうこうしているうちに表玄関が開かれる。
フランドールお嬢様がひょこっと顔を出して左右を確認すると、とことこと歩いてきた。
ちゃんと壊さないで出てきた。偉い偉い

「めーりんついたよ! どうだった?」
「今までで一番の出来でした。壊さなくてもいいところは壊しておりませんし、力の振り分けも申し分ないですね」
「でしょでしょ! メイにこの前言われた通りちゃんと上手く力を使って行動したんだよ!」
むふぅーと胸を反りながら自慢げな顔をする。
うん、とても可愛らしい。
「この前の練習で言ったことをきちんとお守りになられたのですね。偉いです」
よしよしと頭をなでる。嬉しそうにピコピコと羽が動く。
ああ、本当に可愛いなぁ。
「でもレミリア様を壊してしまったのは減点です。元に戻るからと言っておいそれと壊していいものではありません」
「ええー、でもお姉様の目を見つめながら『お願い、通してっ』って抱きついたらなんだか鼻から血を出した後灰になっちゃったんだもん。ちゃんと力は加減したし、私悪くないよ」
「……ああ、カリスマブレイクですか。それならしょうがないですね」
「かりすまぶれいく? なにそれ?」
「レミリア様の特殊能力です」
「特殊能力?」
「ええ、カリスマを生け贄にいろんな愛を召還するのです」
主に愛らしさとか。対咲夜さん向けの。
「レミリア様が今回召還なされたのは、妹愛(いもうとラブ)ですね」
「妹愛(いもうとラブ)?」
「つまりはフランドールお嬢様が大好きだと言うことですよ」
「……えへへ、そうなんだぁ」
フランドールお嬢様がもじもじしながら気恥ずかしそうにする。
ああ、この場にレミリアお嬢様がいなくて本当に良かった。
下手したら復元不可能になってしまうところだ。
「フランドールお嬢様」
「なぁに、メイ」
「明日レミリアお嬢様に外出の許可を頂きましょう。きっと許していただけますよ」
「ほ、本当?!」
「はい」
「やっったぁ!」
その場でぴょこぴょこと跳ねる。
「あ、でも外に出た際はちゃんと私の言う事を聞いてくださいね?」
「うんっ!」
満面の笑みでフランドールお嬢様が答える。
見ているこっちまで笑顔になる。
思わずギュッと抱きしめる。
「わっ!」
フランドールお嬢様の身体がびくっと固まる。
「本当に――本当に頑張りましたね。私はフランドールお嬢様が誇らしいです」
「……メイのおかげだよ。私一人じゃきっとむりだったもん」
「私が手助けできたのはフランドールお嬢様の頑張りがあったからこそですよ」
そう口にすると、フランドールお嬢様の身体の力がふっと抜け、おずおずと両腕が私を抱きしめようとする。両腕はしばらく逡巡するかのように宙に浮いた後、ぱたりと降ろされた。
「フランドールお嬢様。お気になさる必要はありませんよ?」
「えっ?」
「大丈夫です。私は頑丈ですので、おいそれとは壊れません」
「で、でも……」
「力の使い方、学ばれたじゃないですか。だから大丈夫です。今はまだ、誰に対しても大丈夫とはいえませんが、少なくとも私に対しては大丈夫です。だからお気になさらずに」
そういってもう一度ギュッと抱きしめる。
「う、うん。わかった」
そういうとフランドールお嬢様は意を決したかのように私をギュッと抱きしめてきた。
「……ほら、大丈夫」
「……うん」
さらにギュッと私を抱きしめる。
しばらくすると、小さく鼻をすする音が聞こえた。
ポンポンと、軽く背中を叩いてあげる。
そして頭を撫で撫で。
「ねぇ、メイ」
「何ですかフランドールお嬢様」
「大好き」
「……私もですよ。大好きです」
「えへへっ……」
腰に回された両腕の力が最後に軽く強められた後、緩められた。
「そろそろ部屋に戻るね」
「もうよろしいのですか?」
「うん、これ以上一緒にいると嬉しすぎて力の加減また忘れちゃいそうだし」
「そうですか。わかりました」
「じゃあ、お仕事頑張ってねメイ。おやすみ」
「はい、おやすみなさいフランドールお嬢様」
そう言うとフランドールお嬢様はパタパタと屋敷の方へと走っていき、途中振り返って軽く手を振った後お部屋へとお戻りになられた。

しばらく立って、お屋敷の方へ向かおうとすると――隣に咲夜さんが立っていた。
「……あ、咲夜さん。コンバンハ」
「こんばんは、門番さん。どうやらとてもお忙しいようね」
笑ってない笑顔で瀟洒に微笑まれる。
……あー、これは終わったかな。人生的に。
「いえ、まあ、それほどでもないですヨ?」
「あら、それほどでもないのに人命救助をする余裕はないのかしら?」
「いやー、咲夜さんなら大丈夫かなと」
「……何でそう思うのかしら?」
「だって瀟洒なパーフェクトメイドですし」
「……便利な言葉よね、それ」
そういうと咲夜さんはそっぽを向く。
「私だって……たまには……」
目尻に涙が浮かんでいた。まずい。
「す、すいません咲夜さん。冗談が過ぎました」
「うるさいわね。どうせ私なんかどうでもいいんでしょ? ええ、そうよ。大丈夫だったわよ。だってしょーしゃなぱーふぇくとめいどだもの。心配にも値しないほどのね。だから鼻歌交じりでかわすわよ。避けきってみせるわよ。怖くなんかなかったわよ。全然怖くなかったわ」
やばい、半泣きだ。そして鼻水が。鼻水が垂れそう。
ちーんさせてあげる。
咲夜さん可愛いなぁ……じゃなくて。
「……すいません、本当に冗談が過ぎました」
帽子を取って頭を下げる。
言って良い冗談と悪い冗談があった。
「……本当に悪いと思っているの?」
「はい、申し訳ありませんでした」
「じゃあ、はい」
咲夜さんが両腕を広げてこっちを向く。
「えっと?」
「んっ」
「……あの、腕でも怪我したんですか?」
「そうじゃなくて! その……フランドールお嬢様みたいにってこと!」
「ああ、なるほど!」
咲夜さんにしては珍しい行動だったので少々面食らってしまった。
そういうことか。
「よしよし」
頭を撫でてあげる。
うん、だれだって頑張った後は褒めてもらいたいモノだ。
「……いや、そうじゃなくて。うん、まあ、これはこれでいいんだけど……じゃなくて……って、ああまどろっこしい!」
そう言うと咲夜さんが抱きついてきた。
「ッ……とそういう意味でしたか」
「……普通そういう意味よ」
背中に手を添える。
「先ほどは本当にすいませんでした」
「いいわよもう。……それにあなたのことだから気配でわかっていたんでしょ?」
「ええ、まあ」
「便利な能力よね、ほんと」
「咲夜さんの程じゃないですよ」
「おだてても何も出ないわよ」
「もうもらっているので大丈夫です」
「……ずるいわ、本当に」
そういうと、咲夜さんの影が顔にかかった。
軽い触れ合い。
「……そろそろ行くわ。後片付けもまだだし」
「お手伝いしましょうか? 力仕事なら出来ますが」
「結構よ。それよりも、ちゃんと医務室に行きなさいよ」
「医務室に? なぜです?」
「とぼけなくてもいいわよ」
ばれてたか。
「……私はさっき『大丈夫です』って言ったんです。だから『大丈夫』なんですよ」
「そう……苦労性ね」
「ええ、咲夜さんと同じ程度には」
「ふふっ、じゃあ頑張ってね門番さん」
「ええ、メイド長も」
ヒラッと軽く手を振ったあと咲夜さんの姿がかき消える。
「さて、と」
虚勢を張ったはいいものの、結構痛いので取り敢えず涙ぐんでみることにした。
やっぱりあとで部屋に戻ったら咲夜さんに慰めてもらおう。







お姉様に「お外に出てもいい?」と聞いたらなにかを飲込むような仕草をした後、「美鈴と一緒なら外に出ても良いわ」と言ってくれた。
メイの言うことは本当だった。ふり返るとメイがニコニコとしていた。
私はとてもうれしくなって、泣きそうになるのを我慢しながら「ありがとうお姉様」というと、またお姉様がかりすまぶれいく?をした。咲夜が「最近お嬢様のカリスマ値が下がる一方だわ……」と鼻血を出しながらちりとりとほうきで灰を集めていた。とてもしょーしゃだった。
「またお姉様を壊しちゃった……今日お外に出るの駄目になるの?」とメイに聞くと「これはフランドールお嬢様が悪いわけではありませんので大丈夫ですよ」といった。よかった。でも無意識に力を使っているのかもしれないから気をつけることにする。メイとの約束だ。メイも守ってくれたんだから私も守らないと。約束を守ることはいちりゅーのしゅくじょのたしなみだ。
しばらくするとお姉様が元通りになったので門の方へと移動した。お姉様が私のために作らせたとかいう日傘をくれた。特別せいらしい。「ちょっとやそっとじゃ壊れないから安心なさい。紫や幽香のやつ並よ」といっていた。よくわからないけれどすごいらしい。
七色の日傘。「メイの弾幕みたいだね」というと「じゃあおそろいですね」とメイがいった。うれしい。メイとおそろいだ。大事にしよう。うん、これなら約束を守れそうだ。
咲夜が「これは私からです。腕によりをかけました。お昼に食べてくださいね」といってランチバスケットをくれた。
メイが「これは私が責任を持って預かりますね」といった。お昼が楽しみだ。今日は楽しみでいっぱいだ。うきうきして走り出そうとするとメイが「あ、フランドールお嬢様、走ると危ないですよ」といって私の左手をにぎった。
ニコニコしながら「大丈夫です、お外は逃げませんよ。はぐれるといけないので手は繋いで行きましょう」といった。メイの右手は少しごつごつしていて、ちょっと堅くて、ああ大人の手だな、と思った。なんだか安心する。
でも私はどんな堅いモノでも壊せてしまうから、にぎり返すのが怖かった。でもメイはそんな私のココロをよんだかのように「大丈夫ですよフランドールお嬢様。大丈夫です」といった。メイはいっつもそうだ。まるで私のココロを読んでいるみたい。
だからメイに「メイってまるで魔法使いみたいね」というと「私なんかを魔法使いと呼んではパチュリー様にしかられますよ?」と笑った。メイはそういうけど、やっぱり私にとっては魔法使いだ。だってそうじゃなければ、こんなにも私の胸がいっぱいになるはずがないと思うのだ。
まるで魔法の世界。
「フランドールお嬢様、それでは参りましょうか」とメイが言った。
私は「うん!」といってメイの右手をにぎり返した。
はやる気持ちをおさえつけるみたいに。
壊れないように。
壊さないように。
でも思いっきり。
せいいっぱいのありがとうと大好きをこめて――ギュッと。
初めまして。
メイフラ、めーさく、レミサク、レミフラが好きすぎて「ならいっそ全部入れちゃえばいいんじゃね?」とか本気で考えた結果明後日の方向に跳んでいってしまった作品です。けれども愛だけは詰まっています。涙目で鼻水出してる女の子への愛とかそういうのがたくさん詰まっています。ああ、美鈴に「はいちーんんしてね」ってやられたいしやりたいなぁ……。

よろしくお願いします。


追記:幾つか誤字修正。
追記2:誤字修正。改行を幾つか修正。「パチューリー様」とかミスとしては致命的すぎる……。しかも一応投稿前に気がついて直した記憶があるのに現実には直っていないという。幻覚でも見たのか俺は。
ネコ跳び
http://nekotobi.blog99.fc2.com/blog-entry-1.html
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コメント



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4.90名前が無い程度の能力削除
紅魔館カップリング牧場と聞いて飛んできました
5.50削除
誤字報告
>表玄関が開かれる。。
表玄関が開かれる。

やたらと改行してあるところがあって、心情や状況などの描写がぶつ切りになっている印象があった。もう少し、横に伸ばしてもいいと思う。
後、このフランドールは少し可愛すぎる。すばらしい。もっとやってほしい。
8.100名前が無い程度の能力削除
このフランは可愛すぎる
9.無評価名前が無い程度の能力削除
途中でおくってしまった。上の続きです。
めーりんもサクヤもレミリヤも全員良い味出していると思いう。特にレミリヤはカリスマが無いようであるのが素晴らしい(笑)
12.100煉獄削除
紅魔館の人たちにそれぞれの味があって良いですね。
鼻血出したりとか灰になったりとかさせるフランの行動など可愛いですし、美鈴に太極拳や
教育を受けてからの心の成長や懐きようとか皆のフランへの暖かさなど面白いお話でした。

誤字の報告です。
>「私なんかを魔法使いと呼んではパチューリー様にしかられますよ?」
『パチュリー』ですよ。
15.100名前が無い程度の能力削除
アットホームないい雰囲気なのに所々カリスマブレイクがwww
いい紅魔館ですね。
18.100名前が無い程度の能力削除
ほほう、これはなかなか斬新ですな
これらのカップリングは良く見るけど、同居してるってのは中々ないですから。
特に咲夜さん。レミィに鼻血たらたらのロリ咲夜と、美鈴に素直になれないツンデレ咲夜さんはまったくの別物で、
ふたつが同居した咲夜さんというのはあまり見られなかったので。いやあ良かったです。
力関係は、
レミリア→咲夜→美鈴→フラン→レミリア(以下ループ)って感じですね!
題して紅魔リング!これで勝つる!
25.100名前が無い程度の能力削除
素敵な甘さをありがとう、心がほんわかしました。
フランが能力を扱えるようになればなるほど、レミリアが壊れる(灰になる)回数が増えるのは気のせいだろうかw
灰になったお嬢様を箒と塵とりでかき集めるメイド長は本当に瀟洒だわw
27.100名前が無い程度の能力削除
これはいいw
4つのカップリングが合わさってるものはなかなか見ないですからね!
楽しく読ませてもらいましたw
29.100名前が無い程度の能力削除
すばらしいこれはすばらしい。
30.80名前が無い程度の能力削除
いろいろ詰め込んだ結果なのに修羅場にならんだとっ!?
32.100奇声を発する程度の能力削除
素晴らしい!!!
これは本当に最高すぎる!!!!!
33.90名前が無い程度の能力削除
むきゅ・・・どういうことなの・・・
41.90名前が無い程度の能力削除
こいつらが悪魔の館の住人だと……!?
46.100名前が無い程度の能力削除
いろいろ詰め込んだ結果=いい話の4乗
50.100名前が無い程度の能力削除
とりあえず、よくやったと
55.90名前が無い程度の能力削除
カリスマブレイク!!
ぎゃおー(^o^)
58.90名前が無い程度の能力削除
色々詰め込んだ結果がこの名作だよ!!
フランと咲夜さんが可愛いすぎる。フランと咲夜さんが本当に可愛いすぎる。(大事な事なので2回言いました)
59.100名前が無い程度の能力削除
4つのカップリングの相乗効果がすばらしい。本当にすばらしい。
62.100名前が無い程度の能力削除
>やはりあの子の面倒をみさせるには役不足だったらしいわ
ここは役者不足が正しい用法

役者の実力に対し求められる役柄が見劣りするのが役不足
求められる役柄に対し役者の実力が足りないのが役者不足

話の内容はとてもよう御座いましたw
64.100名前が無い程度の能力削除
すばらしい
イイハナシダナー
74.100名前が無い程度の能力削除
最後の美鈴の右手がちょっと心配ではあるが
総じて非常に心暖まった
76.100名前が無い程度の能力削除
この美鈴のかっこよさは異常
79.100名前が無い程度の能力削除
空気が和やかでとてもよかった。もっとやれ
81.100名前が無い程度の能力削除
カリスマブレイクとかふざけてるのか? すばらしいいいぞもっとやれ。
84.100名前が無い程度の能力削除
愛に満ちておる……
100.100名前が無い程度の能力削除
「門番を守っていた守衛隊」ってあってるんですか?
門番の妖精メイドが居て、そいつらを守っているってことで良いんですか?
101.100名前が無い程度の能力削除
キャラにいっぱいの愛情が感じられて最高です。