Coolier - 新生・東方創想話

七色と河童、七曜と白黒~七曜の魔女、暴走~

2011/04/17 10:15:51
最終更新
サイズ
59.45KB
ページ数
1
閲覧数
1403
評価数
5/22
POINT
1090
Rate
9.70

分類タグ


紅魔館の大図書館。ここには無限にあるかと思われる本を読み続ける魔法使いと、その従者の小悪魔がいつものように生活していた。
「忙しい、忙しいっと」
小悪魔がたくさんの本を抱えて走り回っている。
驚くほどの量の本を持って走っているのは、さすが悪魔と言ったところか。
「もう、パチュリー様ってば、自分で片づけて下さらないんだから」
小悪魔は、主であるパチュリー・ノーレッジの文句を呟きながら、しかし笑顔を浮かべて動き回る。楽しそうである。

「えっと、この本はっと・・あれ?」
手元の本をしまう場所を探していると、足もとで何かが光るのに気がついた。
「むー」
気になるが、両手は塞がっている。まずは本を片付けると決め、場所を覚えて今までの二倍の速さで飛びまわった。  
途中、パチュリーの机の近くを通りかかったら、コーヒーが無くなりかけていた。小悪魔は、新たなやるべきことを頭の中に放り込む。

「確かここだったよね・・・」
片づけが終わり、小悪魔は光るものがあったところへ戻ってきた。
「えっと・・・あ、これだ」
光のもとを拾い上げる。それは太陽の形をしたアクセサリーだった。暗い場所だというのに、自分で光を放っているかのように輝いている。
「・・・・・」
小悪魔には、なんとなくこのアクセサリーに見覚えがある気がした。
考える。身近なものだと、頭の中を掘り返す。

「・・・あ」
思い出した。正確には少し違うが。
それは、パチュリーの帽子についている、月のアクセサリーと似ていると感じたのだ。
「全くもう、パチュリーさまってば・・・」
パチュリーは片付けはしないが、出すときは自分で本を探して持っていく。
その最中に、何かの拍子に落としたのだろう、と彼女は結論した。
・・・それがパチュリーの帽子についていた姿など、彼女の記憶にはないはずなのに。
「こあー。コーヒーいれてくれない?」
「あ、はい。ただいま!」
愛称を呼ばれ、小悪魔はアクセサリーをポケットに入れて走り出す。
ここに来る前にコーヒーに準備はしてきていた。そろそろ良い感じだろう、とそんなことを考えながら、小悪魔は給湯室へ戻った。

「お待たせしました、パチュリーさま」
「ん、ありがとう、こあ」
コーヒーを持っていくと、パチュリーは本から顔をあげて笑みを浮かべる。
小悪魔至福の瞬間である。
「あ、そうだ。パチュリー様」
小悪魔は、再び本へと顔を戻したパチュリーの顔を見つめていると、ふと、ポケットに入れていたアクセサリーのことを思い出した。
「なに。こあ?」
「はい、おとしものです」
ぽんっ、と、再度、顔をあげたパチュリーの帽子に太陽をつけた。
それが、この大騒動のきっかけになるとも知らずに。





幻想郷に住まうものに森と言うと、ほとんどが魔法の森を思い浮かべる。
うす暗く、じめじめとしたこの森は、有害な胞子が漂うこともあって、人間はもとより、多くの妖怪もよりつかない。このような所に好んで住む者は、静かな暮らしを求めるものか、森の与える魔力を求めるものか。いずれにせよ、変わり者であることは間違いない。
そんな変わり者が二人、夕暮れの森を歩いていた。
「悪いな、キノコ狩りにつき合わせちまって」
「いいわよ、このくらい。でも次からは一回とったキノコの場所くらい、覚えておきなさい」
「へいへい」
一人は、人形のような姿をした、人形を従えた少女。もう一人は白黒の服を着た、普通の少女だった。
「でもすごいよなーアリスは。色と形を言っただけで、そのキノコがどこにあるか解るんだから」
人形のような少女・・・アリス・マーガトロイドに案内してもらって、採ったキノコを嬉しそうに弄びながら、白黒の少女・・・霧雨魔理沙は言った。
「そんなこと褒められても嬉しくないわね。でも、もし感謝の気持ちがあるなら今までに持っていった本を返してくれないかしら?」
「悪いな。それとこれとは別問題だぜ。」
「でしょうね・・・」
アリスはため息をつきながらも、人形たちに山菜やキノコを集めさせている。夕食にでも使うのだろうか。
「お、なんか作るのか?私の分はあるか?」
「ちゃんと二人分集めてるわよ」
「さっすが、アリス!」
晩飯代浮いたー、とさらに嬉しそうにキノコを放り投げる魔理沙を見て、アリスは再びため息をつく。しかしその顔には、微笑みが浮かんでいた。
仲のいい二人の、いつもの風景である。

「さて、着いたわね。料理している間にお風呂くらい沸かしておいてくれる?」
「ああ任せろ。ミニ八卦炉で一発だぜ」
「もうすこし丁寧な方法でやってもらえるかしら・・・?」
家の中は明かりがついているが、問題ない。留守を任せている、とっておきの二体の人形が掃除をしてくれているはずだ。もしかしたら、お風呂も沸かしてくれているかもしれない。
「ただいま」
「邪魔するぜー」
「しゃんはーい」
「ほーらーい」
「おかえりー、お邪魔してるよー」
「はいはい・・・えっ?」
鍵を開け、家に入るとそこには三つの影があった。
二つは、とっておきの人形たち、シャンハイとホーライ。もう一つは・・・

「お、にとりじゃん」
「にとり!あなた何してるの!?」
河童の技術屋、河城にとりだった。
「なにって、シャンハイとホーライの調整だよ。言ってなかったっけ?」
二体の人形の一体、ホーライはにとりの膝の上でわたわたしている。くすぐったいようだ。
「明日って言ったじゃない!ていうかどうやって中に入ったの!?」
家の鍵はちゃんと閉めて出かけた。加えて、シャンハイとホーライには、留守中知らない人は家に入れるな、と厳命していたはずだ。
「んー?よくぞ聞いてくれました!」
にとりは嬉しそうに、傍らにあった彼女の、質量を無視した収納力のカバンに手を突っ込む。魔理沙は風呂場に行ったようだ。お風呂を沸かすつもりらしい。律儀なことだ。
「何故、私が中にいるか!それの答えはこれだぁ!」
ばーん、といった擬音がつく感じで、アリスの前に何かを突き出す。
それは小さなリングに二つのかぎがぶら下がったものだった。

「これぞ私の新発明!万能解錠機あーんど、万能施錠機。その名もアケルクンとシメルクン!その名の通り、どんな鍵でも開け閉め自由の優れ物!機械いじってたら偶然できちゃってさー。私もよくわかってないんだよね。」
唖然とするアリスをよそににとりは続ける
「二つセットじゃないといけないことと、アケルクンで開けたのはシメルクンじゃないと閉められないし、逆もそうみたい。でも、開けて閉めたら元の鍵でも開くし、閉められるんだ。それぞれ一回ずつセットで使うのが前提みたいなんだけど」
「聞いてないわよ!」
まぁ、にとりは『知らない人』ではないから、シャンハイとホーライに言えば中に入れてくれただろうが。にとりのことだ。そんなことは関係なく、新発明とやらを使って中に入ったことは容易に想像できる。
「しゃんはーい」
「あ、ありがと。ほら、アリス落ち着きなよ。紅茶でも飲んでさ」
「アリスー。風呂沸いてたんだけど、先に入っていいかー?」
もう一体の人形、シャンハイが持ってきた紅茶を、にとりが家主であるアリスに勧め、予想通り人形たちが入れてくれていたお風呂に魔理沙が先に入ろうとする。
そんな状況を目の前にして・・・
「・・・・・・・・はぁ・・・・・」
アリスはどっと疲れが噴き出した気がして、ひざから崩れ落ちた。
・・・崩れ落ちながらも、周りに従えていた人形たちに、もう一人前ぶんの食材を集めに行かせるところをみると、彼女もなかなか図太いようである。





「ふぅ、ごちそうさま」
「ごちそーさん」
「はい、お粗末さま」
まぁ、色々あったが、結局彼女たちにとってはいつも通りのことであって。
シャンハイの紅茶をのんで落ち着いた後、三人一緒にお風呂に入り(発案者にとり。河童の腕力に魔法使い二人が敵うはずもない)お風呂から出るころに集め終わった食材を使ってアリスが腕をふるい、そして、今に至るわけだ。
「さて、それじゃ続きしようかな。ホーライは終わったから、シャンハイおいでー。」
「しゃんはーい」
食器の片付けをしていたシャンハイがにとりの膝の上に飛び乗る。にとりは手慣れた様子でシャンハイの着ていた服を脱がすと、背中にある小窓を開けた。
「しゃんはいー」
やはりくすぐったいようだ。

「しかし、ほんとすごいよな。何がどうなってるか、中身のことは私はさっぱりわからんぜ」
椅子に腰かけて、アリスのいれた食後茶を飲みながら、魔理沙は言った。
「そりゃ、私とアリスの愛の結晶だからね!」
「誤解を招くようなことを言わないの」
にとりがシャンハイをいじりながら胸を張る、という大変器用なまねをしていると、洗い物を終えたアリスとホーライが戻ってきた。
「だって本当のことじゃん」
「愛の、を技術の、にすればおおむね正しいんだけどね」
「そこが一番大事なとこだよー」
ぶーぶーと口をとがらせながらも、にとりの手は絶えず動いている。
アリスはにとりの隣に腰かけ、様子をうかがう。
「どう、シャンハイ。大丈夫?」
「しゃんはーい」

・・・このシャンハイとホーライという二体の人形。前にも言った通りとっておきであり、他の人形とは一線を画する特別な人形なのだ。
普通のアリスの人形は、どれだけ自分で動いているように見えても、アリスが操っているにすぎない。入浴中も、食材を集める人形たちを操り続けていた彼女の技術は凄まじいものがあるが、今はそれはさておく。
普通の人形は、アリスなくしては動かない。しかし、シャンハイとホーライは違う。
この二体の人形は、完全に自立して動く人形なのだ。
アリスは以前からこの、自立して動く人形を作りだすことを目標としていた。
だが、結論を言うと、成功しなかった。魔法を用いては、自立した意識を生みだすことは出来た。動力源も不安定ながら確保できた。しかし、人形自身で上手く体をうごかすことができなかったのだ。
にとりもまた、同じ目標を持ち、そしてアリスとは全く逆の問題を抱えていた。
つまり、ちゃんと動くが、自分で、思考して動かす、ということができなかった。さらに、動力源も安定しなかったのである。

「しっかし、二人がここまで仲良くなるとはなー」
魔理沙はホーライを手招きして近くに呼びながら、口に出す。どうやら二人には聞こえていないようだが。
こんな二人の出会う場を作ったのは、何を隠そう魔理沙である。
二人ともに交友のあった魔理沙は、二人の研究の状態を聞いて
「あれ?ふたりを合わせればいいんじゃね?」
という極めて短絡的な思考のもとに、二人が出会う場をセッティングしたのだ。
「最初のころからは想像できんな」
ホーライのほっぺたを・・・人肌そっくりの生地で作られたほっぺたを、ぷにぷにとつつきながら、魔理沙は続ける。
というのも、最初、アリスとにとりを会わせた時は、挨拶もそこそこに魔法と機械どっちが優れているかで喧嘩を始めたのだ。
「一瞬会わせたことを後悔したぜ」

しかし、違う畑の人間とはいえ、二人とも似たものだったということか、何時の間にやら喧嘩が話し合いになっていた。意見をぶつけ合い、疑問をあげ、話し合う。
次に会うときには二人は意気投合していた。
それでも最初は、二人とも
「「相手の技術を利用して、最終的には自分だけで上手くやる」」
と言っていたのだが・・・
「にとり、右腕に魔力がちゃんと回ってないみたい。みてくれない?」
「はいな。右腕・・・あぁ、ちょっと回路がやられてるね。ちょっと待って・・・」
「今となっちゃぁ、なぁ?」
「ほらーい」
二人の様子をニヤニヤと見守りながら、魔理沙とホーライは声を交わす。

「・・・なによ」
そんな目線に気がついたアリスが魔理沙に目を向ける。
「いや、私ら四人の努力の結晶が、形になったもんだなぁと思ってな」
魔理沙は笑いをひっこめるそぶりをすることなく、しらじらしく言った。
「まぁ、そうね・・・」
アリスは釈然としない、といった表情でそう言った。
にとりは二人の、と言ったが魔理沙の言った通り、二体には実質上四人の手が加わっている。
大部分をアリスとにとりが造ったのだが、それでは足りなかった。特に大きな問題は、動力源だった。魔力が効率がいい、という結論はすぐに出たのだが、それでもなかなかうまくいかなかったのだ。
そんな状況を打開したのは、魔理沙だった。彼女は、最近になってとある特別な石に、無尽蔵に魔力を生みだす加工をする術を発見した。それを用いることで、エネルギー問題を解決したのだ。
・・・実は魔理沙も実験中に偶然見つけた魔法式だったのだが、まぁ、別にいいだろう。
そしてもう一人。

「せっかくだからパチュリーも呼べばよかったね」
「あの出不精が、呼んでくるとも思えんがな」
図書館の魔法使い、パチュリーは、魔理沙を通して聞いた自立動人形に興味を持ち、その知識で大いにたすけとなった。
パチュリーの知識、加えて、魔法、機械区別なく大量の本の置いてある図書館。
行き詰った時三人は、図書館へ行き、四人で話し合い、ついに、完成させたのだった。
「ほい、おしまい」
シャンハイの背中の小窓を閉じると、シャンハイは自分で服を着始めた。
「うん、右手も大丈夫みたいね」
「私の腕を信じてよ、アリスー」
「はいはい、流石ね、にとり」
にへらー、とにとりが笑い、それを魔理沙がまたもニヤニヤと見つめる。
いつも通りの、仲のいい光景だった。

「さて、それじゃそろそろお暇するかね」
「じゃ、私も」
夜も更け、語ることも尽きたころ、魔理沙とにとりが立ち上がる。
シャンハイとホーライは人形だというのに眠ってしまっている。
「じゃあ玄関までくらい見送りましょうか」
「えー、森の外まで送ってくれるんじゃないの?」
「人間はね。あなた妖怪じゃない」
「私は人間だぜ」
「あなたは例外よ」
たわいのない話をしながら、玄関へと歩いていこうとした、その時。
ズンッ、と地面が揺れた。まるで外に巨大な何かが、落ちてきたかのように。
三人は顔を見合わせ、外へと飛び出した。
するとそこには、まったくいつも通りではない状態が広がっていた。




「いたーーーーーーーーーー!魔理沙ぁーーーーーーーーー!」





三人の前に広がっていたのは、家に入る前には確実に存在していなかった巨大なクレーター。そしてその中心で浮かんでいる紫色の『誰か』だった。
「やっと見つけたー!家に行ってもいないし、神社にもいないし!となるとここしかないと思ったら大当たり!」
三人は、呆然と立ち尽くしていた。三人ともに、見覚えがある顔だが、どうしてもその人物と目の前に浮かんでいる誰かがどうしても一致しなかった。
「えっと、どちらさま?」
他の二人の無言の圧力に屈し、名前を高らかに呼ばれた魔理沙がおずおずと声をかける。
「何言ってるの魔理沙。私よ。パチュリー・ノーレッジよん!」
キラッ☆という感じのジェスチャー付きで返事をする誰か。ますます三人の記憶の当該人物の印象からかけ離れていく。
だがしかし、見た目が本人であり、名乗った名前も一致するならば間違えない。
今、目の前にいる超ハイテンションな少女は、動かない大図書館。ぜんそく持ちで引きこもりがちのパチュリー・ノーレッジその人であるようだ。
「ウソよね?」
「ウソだろ?」
「ウソでしょ?」
「ウソとは何よ、失礼ねー」
腰に両手をあてて口をとがらせる。今度の擬音はプンプンっという感じだ。

そんなパチュリーを見て三人は顔を突き合わせる。
「いや、あれはパチュリーじゃないでしょ。偽物偽物」
「にとりの意見に賛成だぜ。あれパチュリーだって言うんなら、頭のいいチルノの方がまだ説得力がある」
「とはいっても、魔力の質まで本人と一緒なのよ?」
「それはそうなんだが・・・」
「私も勘違いであってほしいのだけれど・・・」
しかし魔法使い二人には、ばっちりとパチュリーの持つ魔力、火水木金土日月・・・七曜の魔力が感じられていた。勘違いと済ませるには、強引に過ぎる。
「ねー、聞いてるー?おーい!」
後ろからパチュリーの声がする。三人は、とりあえず本物だ、ということにして返事をする。・・・返事をするのは魔理沙だが。
「どうした、パチュリー?」
「うん、そういうわけだから、魔理沙と結婚しようと思って」
「どういうわけだ!」
即座に叫ぶ魔理沙。確かに何がどういうわけなのだろうか。
「えー、説明するのめんどくさーい」
説明責任は無いらしい。

「おい、アリス、にとり助けて、っていねぇ!?」
二人は本能レベルで身の危険を感じ、家の中へ退避していた。賢明な判断である。
「あいつら冷てぇ!ちょっと待て、パチュリー。話せばわかる!」
完全に狩られる側が、狩る側に対して吐くセリフを言う魔理沙。冷や汗かいている。
「問答無用よ、魔理沙・・・さぁ、こっちに来て・・・」
パチュリーが一歩近づくたび、魔理沙は一歩下がる。しかし、その距離はじりじりと縮まっていた。
「しかたないぜ!こうなったら強行突破だ!」
追い詰められた魔理沙は、ポケットからミニ八卦炉を取り出し、戦闘態勢にはいる。こんなところで大技ぶっ放したらアリスの家にも被害が及ぶかもしれないが、おいて逃げられたのだ。それくらい勘弁してもらう、と開き直り、ミニ八卦炉に魔力を集中させる。
「マスタァーーースパーー・・」

ク、という音は発音ではなく、空気を吐き出す音だった。
魔理沙がスペルを放つより先に、パチュリーの放った弾丸が魔理沙の顎を打ち抜き、意識を刈り取ったのだ。
「もう、魔理沙ったら乱暴。でもそんなところも素敵・・・」
パチュリーはそんなことを言いながら魔理沙に近づき、魔法で体を浮かせる。
「さぁ、二人っきりで、静かな場所へいきましょ!」
そして、パチュリーは魔理沙を傍らに浮かせたまま、どこかへと飛び去って行った。


「で、どうするの、アリス?」
中から一部始終を見ていたにとりが、一緒に見ていたアリスに声をかける。
「どうかんがえても普通じゃないよ、パチュリー」
「そうね。テンションも確かにおかしいけど、他にもいろいろとおかしな所があるし・・・」
一部始終を見ていたが、ただハイテンションなだけではない、何か狂気をはらんだもの
を感じた。正直、気絶までさせるとは思っていなかったのだ。
アリスは逃げてしまったことを後悔しつつ、パチュリーが飛んで行った方角に何があるかを考える。しかし、ピンとこない。紅魔館の方角ではないようだが・・・
「仕方ないわね。ほっておくわけにもいかないし、紅魔館に行きましょう。多分、何かわかるでしょ」
「そうこなくっちゃね」
にとりが満面の笑みを浮かべながら、カバンを背負いなおす。
アリスは苦笑で答えつつも、出かける時いつも持っている、珍しい鍵付きのブックバンドで閉じられた本を持つ。
二人は、シャンハイとホーライも連れて、夜更けの紅魔館へと出発した。






「ふふふ、魔理沙の寝顔、かーわいい」
つん、と眠っている魔理沙の頬をつつくパチュリー。
さて、彼女たちが今、どこにいるかと言うと、何のことは無い。魔法の森の、魔理沙の家である。あんまりにも直球過ぎて、アリスも思考の外だったようだ。
「むにゃ・・・もう飲めないぜ・・・」
魔理沙は、というと脳震盪を起こして気絶したはずなのに、幸せそうに夢なんぞ見ているようだ。さすがに神経が太く出来ている。
「さてと、魔理沙が起きた時のために、お料理でもしておこうかしら」
パチュリー、すっかりお嫁さん気分である。
「・・・んー、騒げー、もっとだーぃ・・・」
「ふふ、何の夢を見ているのかしら?」

「んー、王様になるのはー私だぜ・・・んにゃ」
「王様?」
魔理沙の寝言にパチュリーが反応する。
実はこの時、魔理沙は宴会の夢を見ていた。そのことは聴いていた寝言を総合すれば、いつものパチュリーならば把握できるはずだった。
そして、そのことが解れば、聡明な彼女のことだ、この言動が、かの有名な『王様ゲーム』のことを指しているのだと察することが出来る・・・はずだった。
最大の問題は、『いつものパチュリーではない』という一点に尽きた。
「王様・・・王様になりたいの?」
なんでもない魔理沙の寝言を、今のパチュリーは曲解し、真に受ける。そして
「解った。任せて魔理沙!」
七曜の魔女は、己の愛するもののために、暴走を始めようとしていた。






「おーい、あんた達、ちょっと待ちなさい」
アリスとにとりが紅魔館へ向かう途中、月の輝く空から何かが降りてきた。
「霊夢。どうしたの?」
空飛ぶ巫女、博麗霊夢が道行く二人の前に降り立ったのだ。
「どうしたもこうしたもないわよ。紅魔館の紫魔法使いみたいなのが家を強襲してね。あんたたちならなんか知ってる気がしたのよ」
「あぁ・・・そういえば神社にも行ったとか言ってたような」
にとりが記憶をたどりながら言う。最初の方は圧倒されて、何言っているか脳がしっかり理解していなかったらしい。
「それならなんですぐに追ってこなかったのよ。どう見ても変だったじゃない」
アリスの疑問も当然だ。魔力を感じられなくても、このカンのいい巫女なら何かおかしいことくらい解るはずだろうに。
「お茶いれたばっかりだったのよ。温かいうちに飲まないともったいないじゃない」
さも当然そうに言う霊夢。彼女の貧乏性は誰もが知るところなので今さら突っ込むものは居ないが。
「そんなことは良いのよ。で、あんた達何か知ってるの?」
「今から紅魔館に知りに行くところよ。あなたも来る?」
「夜の紅魔館は気が進まないんだけど。しかたないか」
「霊夢が居るなら心強いねぇ」
三人は連れだって歩き出す。ちなみにシャンハイはアリスの肩の上。ホーライはにとりの頭の上に乗っかっている。人形二体のこともまた、今となっては幻想郷全てが知るところである。
・・・にとりがブン屋に情報を漏らしたからなのだが。

「それで、最近一緒に居ることの多いあんた達は、今回のことどう考えてる?」
「単純に考えれば魔法の暴走・・・魔理沙に試そうとしてた魔法が変な風に作用したんじゃないかしら」
「私は正直魔法のことは解らないけど、性格どうこうする魔法が変な感じになったんじゃないかなーと思う」
とりあえずお互いの見たことを報告しあった後、道すがら、霊夢は二人に意見を求める。しかし、二人の返答には納得がいっていないようだ。
「そう・・・それならいいんだけど」
「?じゃあ、霊夢はどう思うの?」
「いや、どうも。ただ嫌な予感がするだけよ」
「あなたのカンの良さは認めるけど・・・そんな大事になるかしら」
言ってしまえば、いつもおとなしい魔法使いがやたらハイテンションになっているだけだ。下手したらレミリアに大量に酒を盛られただけ、とかいう可能性もある。
「そりゃ、ならない方が私も楽でいい・・・!」
突然ザッ、と霊夢が身構え、アリスとにとりも続く。
三人とも何かが、自分たちに向けて高速で接近してくるのを感じていた。
能力の劣るにとりが人形二体とともに後ろに下がり、霊夢は術符をとりだす。アリスは召喚した人形を魔力で紡いだ糸で接続。周囲に展開した。

三人の準備が整った瞬間。
目の前に、巨大な火球が出現した。
「・・・!?夢符・二重結界!」
太陽のごとし火球と、霊夢の張った結界がぶつかり合い、相殺する。
熱と光が散乱する中、霊夢とアリスは動く。
カンのいい、悪いの問題ではない。動け、と彼女たちの中で何かが叫んでいた。
「いけっ、偵符・シーカードールズ!」
相殺の影響で土ぼこりが舞い、まだ視界ははっきりしないうちに、アリスは相手も同条件であることを見越し、付近一帯を人形からのレーザーで広くなぎ払う。しかし、手ごたえは無い。まだ接近していないのか。
「霊夢!」
「霊符・夢想封印・散!」
敵の第二射を予測し、霊夢が攻防一体の霊球をばらまく。
すぐさま、光の矢が無数に飛来する。視界がはっきりしない中で霊夢は霊球を操作し、的確に命中コースの矢を撃ち落としていく。
(流石ね)
アリスは霊夢の技術に内心舌を巻きながら、次の手を模索する。が、視界の悪い今では打てる手も多くない。
(くっ・・・!?)
思考が行き詰った時、彼女の背後から突風が吹いた。風が土ぼこりを吹き飛ばし、視界が晴れる。
思わず後ろを振り向くと、にとりのカバンから四枚の羽が円形についたもの・・・巨大な扇風機がつきだしていた。シャンハイとホーライがにとりを支えている。
ガッツポーズに、アリスも頷きでこたえ、改めて構えなおす。

「残念、仕留め損なっちゃった」
そして、目の前に、現れたのは・・・当然、件の人物、パチュリーであった。
二人は警戒を続けながら、霊夢とアリスは小声で声を交わす。
「ロイヤルフレアにサイレントセレナ・・・しかも第二射が早かった。変わっているのはどうやら性格だけじゃないみたいね」
「ほらね、私の予感は当たるのよ・・・全然嬉しくないけど」
パチュリーは地面に降りるとほこりを払い、改めて前にでている二人と向かい合う。
「何の真似かしら、パチュリー?」
「うん、ちょっと魔理沙を幻想郷の王様にしようと思って」
「・・・それについては説明してくれるのかしら?」
突拍子のないことを言うパチュリーに突っ込むことなく、アリスは情報を引き出そうとする。
「理由かしら?魔理沙がなりたいって言ったからよ」
「質問を変えるわ。どうして私たちを襲ったのかしら?」
会話が成り立たないのは、家の前でのやりとりで分かっている。警戒を解くことは無い。もう酒がどうとかいう展開は、三人とも期待していなかった。
「あなたたち、を狙ったんじゃないわ。狙ったのは、霊夢。あなた」
「あら、私をどうにかしたら幻想郷の王になれるの?私も知らなかったわ」
霊夢が鼻で笑い飛ばす。

「確かに、幻想郷にはレミィにスキマ妖怪。月の姫や山の神・・・障害が他にもたくさんいるわね。でも、そのいずれも本来なら博麗の巫女に害をなすことはできない。そうね?」
「・・・・・」
「あなたと妖怪や、他のいろいろが戦えるのはあなたたちの創ったスペルカードルールがあるからこそ。それを撤廃してしまえば・・・巫女に手を出せるものは居なくなるわ。巫女になることは、王になる第一歩。間違っていないと思うのだけれど」
「テンション高くても頭は回るみたいじゃない」
「うふふ。ともあれ、今はまだスペルカードルールの中。もしかしたら何かの手違いで・・・殺しちゃうかもしれないわね?」
冗談ではない。八雲紫や四季映記が許すはずもないだろうが、もし今、霊夢が倒されてしまえば・・・殺されてしまえば、パチュリーの計画が現実味を帯びてくる。
豊富な知識を持つ彼女のことだ。博麗の巫女となる方法も心得ている可能性は高い。
「・・・霊夢、引くわよ」
「逃げられると思う?」
「・・・・・」
アリスの提案に霊夢は短く答える。アリスは沈黙するしかない。
さっきの攻防を鑑みるに、いまのパチュリーは日常の彼女より圧倒的に高い力を持っている。長い詠唱を阻むぜんそくも、完治しているようだ。
「狙いは私だけみたいだし、あなたたちは紅魔館に向かいなさい。何とかするわ」
「霊夢・・・」
霊夢は一人、前に出て構えなおす。

「あら、やる気になってくれたのね。嬉しいわ」
「ふん、いつも引きこもってる魔法使いに私がやられる訳ないじゃない」
霊夢とパチュリーの間の空気が凍てつく。アリスは、霊夢の言葉に従い、駆け出そうとした。そのとき
「待ちなさい」
二人の間に突然銀色の髪にメイド服の少女。十六夜咲夜が現れていた。
「博麗霊夢、お嬢様がお呼びです。今すぐ紅魔館に向かいなさい」
「あら、レミリアの招待?それはぜひ受けたいところだけど、先約があってね」
油断なく、パチュリーに目をやりながら霊夢は答える。
「お嬢様のお言葉は絶対です。その前ではあらゆる用事も些細なことでしかありません」
それまでパチュリーに背を向け、背筋を伸ばして霊夢に向き合ってメイド然としていた咲夜が、急に振り返る。その両手にはいつの間にかナイフが握られていた。
「ここは私が引き受けるわ。霊夢、あなたは早く館へ向かいなさい。アリスも、一緒に」
「大丈夫なの?」
アリスの問いに、咲夜は背中越しに笑みを浮かべて答える。
「私は、霊夢と、霊夢と一緒にいる人たちを連れてこいとお嬢様に言われたの」
問いの答えにはなっていない。だが、その言葉は力強かった。

「頼んだわ」
霊夢の言葉と同時に、アリスはにとりに目で合図を送る。にとりはすぐに意図を理解し、シャンハイとホーライに体にしがみ付かせ、カバンを駆動させる。一瞬にしてカバンからは機械質な翼が左右に伸び、次の瞬間には点火、超高速で飛び出していた。
「つかまって!」
にとりの伸ばした手にアリスと霊夢が捕まる。普通に彼女たちが自力で飛行するより、こちらのほうが圧倒的にはやい。
「逃がさないわよ!」
パチュリーが、魔理沙を気絶させたのと同質の魔力弾を放つ。
しかし、時を止め、弾道に滑り込んだ咲夜がたたき落としていた。
わずかな隙。その間に、にとりたちは紅魔館の方角へ飛び去って行った。

そして、輝く月の下。咲夜とパチュリーが対峙する。
「パチュリー様。失礼ながら、少々お付き合い願います」
「あら、咲夜。私の邪魔をするの?」
「たとえあなたがお嬢様の友人であったとしても・・・お嬢様のお言葉以上に優先されることなどありえません」
ナイフを操りつつ、腰を低く落とす。突撃の姿勢。
「レミリア・スカーレットのメイド、十六夜咲夜の名にかけて、お嬢様のお望みをかなえます」






アリスたちは、まっすぐに紅魔館へと向かっていた。そのスピードは幻想郷最速、ブン屋の烏天狗に迫るほどであった。
終始、そのスピードを維持し、紅魔館の前へたどり着く。
・・・そしてそのまま、門をぶち破り、玄関を粉砕し、館の中、入ってすぐの大きな階段に衝突し、ようやく停止した。
「いたた・・・ブレーキつけるの忘れてた・・・」
「あなたねぇ・・・」
いろいろ散らかってしまった紅魔館の中で、アリスとにとり、霊夢が立ち上がる。
「しかし派手にやったもんね。修理代請求されても、私は払わないわよ」
「あら、門を壊されたのは門に居なかった門番の責任よ。当然給料から引くわ」
「そんなお嬢様!私はお嬢様のお傍にいるように、と咲夜さんにお願いされたから、門の前に居なかったのであって、それは不可抗力ですよ!」
霊夢らしい感想に答えたのは、壊された階段の上の方から降ってきた声だった。
「レミリア、お招きに答えて参上したわよ。招待の理由をお聞かせ願えるかしら?」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットと、門番である紅美鈴が階段の上に立っていた。
レミリアは彼女の持つ迫力を存分に発揮しているが、横に居る美鈴が涙目なせいでいまいち締まらない。
「あら、霊夢。私があなたを呼びつけるのに理由がいるかしら・・・なんて、冗談を言っている場合では無いわね。広間に来なさい。何が起きているか話してあげるわ。美鈴、あなたは咲夜のところへ。今のパチェ相手では、一人で長くは持たないでしょう」
「解りました」
美鈴は粉砕された入口の方へと駆け出し、レミリアは踵を返して歩き出す。三人は顔を見合わせ、レミリアの後を追った。

「さて、あなた達、今のパチェを見て何か気付いたことは?」
広間に設置された長い机。おそらく日常では食事に利用されているであろうそれに、全員が着席するやいなや、レミリアはそんな疑問を投げかける。
「話すって言ったのに、質問からなのね」
アリスは言うが、レミリアは取り合わない。
そんな様子を見て、アリスと霊夢は改めて考えるが、気づくも何もかも変だったのだ。何かを気づく余地もない。
そんな中、にとりがおずおずと手をあげる。
「強いて言えば、帽子の飾りが・・・太陽になってたよ?いつもは月じゃない」
「あら、河童の割に良いところに目をつけるじゃない」
レミリアが目を細めてにとりを見ると、にとりはびくりと肩を震わせる。当然だろう、妖怪としての格が違いすぎるのだ。
「飾り・・・そういえばそうね」
霊夢が記憶をたどりながら言う。

「それは私も気付いていたけど、それがどうしたのよ」
アリスがレミリアに続きを促す。
「あの太陽のアクセサリーには大量の『陽気』が封じ込められていたのよ」
「ようき?」
霊夢の言葉にレミリアは頷く。
「太陽の気で、陽気。早い話が太陽の力。あのアクセサリーには、紅魔館に満ちる『陽気』を吸収させていたのよ」
陽気は太陽が与える、漠然とした気の力だ。家の中に居て日が差さない状態でも、雨が降っているより晴れているほうがなんとなく気待ち良く感じたり、テンションがあがったりするのは、陽気に原因がある。また、肉体にも良い作用をする。多くの生き物にとって、適切な量の陽気は良いものなのだ。
「何のために?」
「ほら、私吸血鬼じゃない。日光さえ浴びなければ消滅したりはしないけど、基本的に太陽の気って嫌いなのよ」
軽く言う。吸血鬼のことなど知るべくもないが、本人が言うならそうなのだろう。
「それで、パチェに相談したら、あのアクセサリー・・・陽気を吸い取るアクセサリーを作ってくれて、それを屋根の上に置くように、って言ってくれて」
快適だったのよー、などとレミリアは言う。他の紅魔館の住民のことは・・・と思うが、咲夜はレミリアの言うことに逆らわないし、美鈴は基本的に門の外でじかに日差しを浴びている。フランドールも吸血鬼だし、パチュリーもどちらかというと日差しは苦手そうだし、パチュリーが良いなら小悪魔も良いだろう。問題はなさそうだ。

「で、それと今回のこと、何の関係があるのよ」
話が見えない、といったように霊夢が続きを求める。
「最近になって、アクセサリーが吸収できる量の限界が来てね。パチェに新しいやつをお願いしていたのよ。古い方は、貯まった陽気を研究に使うとか言ってたわ」
「それが何でパチュリーの頭についてるのよ」
「それがね・・・」
アリスの質問に、小悪魔から聞き出した顛末を手短に話す。
「つまり、整理してなかったアクセサリーを偶然小悪魔がパチュリーの頭につけて、中に貯まりに貯まっていた陽気がパチュリーの中に注ぎ込まれた、と」
前に記した通り、陽気は気分を良くしたり、テンションをあげたりする効果がある。それが一気に、大量に注ぎ込まれたのだ。影響がないはずがない。
「そういうことね。小悪魔はしっかりと叱りつけておいたけど、それでどうなるわけでもないわ」
その小悪魔はと言うと、地下の図書館で陽気を打ち消す方法を必死になって探している。
一度のミスでしょげかえるほど、彼女は弱くない。
「そして、アッパーになったパチュリーが魔理沙をさらって、その時の何かしらの勘違いで王様になりたいとか、魔理沙が口走ったせいでこんなことになっているわけね・・・」
現状をまとめた後、アリスは今日何回目になるかわからないため息をついた。

「魔理沙をさらった理由は・・・パチュリーが魔理沙を好きだからか」
「そうね」
「そうだね」
「そうでしょうね」
霊夢のつぶやきに、三人が同時に答える。・・・そこは共通認識なのか。
「まぁ、当面の解決法は、簡単ね。パチェを気絶させるなりなんなりして、無効化してしまえば害は無くなるわ」
「それができれば苦労してないわ・・・というかあなたがやってくれるのかしら?」
先ほどの交戦を思い出して、アリスは頭を抱えながら言う。
「残念ながら、それは無理ね。パチェの放つ陽気が強すぎる。一瞬で消滅とは言わないけど、正直勝てるとは思わないわ。ついでに言うと、近づけないから能力も使えない。私の能力、意外と不便なのよ」
「あら、天下無敵の吸血鬼がずいぶん弱気じゃないの」
霊夢が茶化すように言うが、レミリアは取り合わない。
「自分の出来ないことが解らないほど、私は愚かでは無いわ。・・・それはともかく、本題に入らせてもらおうかしら」

「本題?」
アリスは疑問符を浮かべる。さっきの話は本題では無かったのか?
「待ちくたびれたわ。そんなこと言うために私を呼びつけたわけではないだろうとは、思っていたのよ」
霊夢が椅子から立ち上がる。
「どうせ、私からこの館から出るな、とか言うんでしょ?」
「あら、さすが霊夢、察しが良いじゃない。あなたのそういうところが好きなのよ」
レミリアも立ち上がりながら、言葉を続ける。
「私はこの館の主。住人の行動には責任を取らないといけないのよ。パチェがあなたを殺そうとしているなら、止める責任がある」
「あら、それは大変なのね。それが私に何の関係があるのかしら?」
霊夢の手には、すでに霊符が握られていた。
「陽気もため込んだものなのだから、いずれは切れる。それまでパチェとあなたを会わせなければいい。今、私の従者達がパチェの足止めをしてくれているわ。・・・そんな中、主が何もせずのうのうとしていては、示しがつかないでしょう?」
いつの間にか、レミリアの手にも炎で形作られた槍が握られている。
「私がおとなしくしていると思うの?」
「思わないわ。だから、久しぶりに遊んでもらおうと思って」
「いいわ、良い退屈しのぎなりそうじゃない」
霊夢とレミリアの緊張が高まる。アリスとにとりは、止めることもできずに、見ていることしか出来ない。
緊張が最高へと達し
そして・・・巨大な地響きがした。
館の中では無く、外から。
アリスとにとりは、シャンハイとホーライを伴い、すぐさま駆け出す。霊夢もそれに続こうとするが、レミリアがその前に立ちふさがった。

「あなたは駄目よ。今回は友情というやつにかけてみないかしら?」
「あの四人のことを言ってるの?友情とかあなたの言う言葉じゃないと思ったけれど」
「あら、何を言っているのかしら?」
レミリアは力を秘めた笑みを浮かべ、言う。
「パチェは私の親友よ」
「そうだったわね」
その時、0時の鐘が鳴り響いた。
霊夢が動く、レミリアが迎え討つ。そして、力が激突した。





アリスとにとりが破壊された門へとたどり着いた時、銀の人影が滑り込んできた。
「咲夜!」
「あら、アリス、にとり。お話は終わったのかしら?」
かなり長い時間戦っていたのだ。あちこち傷ついている。時を止めても回避しきれない攻撃があったのだろう。
「えぇ。今頃中で霊夢とレミリアが戦っているんじゃないかしら?」
「そう。それでは私も、私の仕事をしないといけないわね」
言いながら、咲夜が立ち上がる。
「主が戦っているのに、従者がのうのうとしているわけにはいかないわ」
本当に、この主と従者は、とアリスは思う。いつ見てもまぶしく映る。
「私たちも手伝うよ!」
にとりが勢いこんで言う。アリスも、すでに周囲に人形を展開し終えている。
「時間を稼げばいいのよね?どのくらいなの」
「時間?・・・あぁ」
一瞬不思議そうな顔をするが、すぐに合点がいったというように頷き。
「私は聞いていないわ。お嬢様がそんなこと言ったのかしら」
「えっ!?」
「やああああぁ!」
そんなやりとりの中、眼前では美鈴とパチュリーが戦闘を繰り広げていた。
パチュリーの火球を、気の流れでそらして接近し、拳で一撃するが風の障壁で止められる。
美鈴はさらにそこを支点に体を旋回させ、蹴撃を繰り出す。しかしパチュリーは、いつもの彼女からは信じがたい動きで、身をかわし、体の流れた美鈴に向けて、再び火球を放つ。
今度は、美鈴は正面から受け止め、勢いのまま後退。アリスたちの傍へと着地した。

「お二人とも来ましたね!お嬢様からの伝言を預かっていますよ!」
時間を稼げばいいのではない、と告げられた二人に、美鈴が声をかける。
「『どうやってでもいいから気絶させなさい。本当なら許さないけど、パチェの友達のあなたたちなら、許してあげる』だそうです!」
言い終わると同時に、美鈴は再び飛び出していく。あちこち傷ついていたようだが、流石にタフに出来ている。
「それはつまり・・・」
それはつまり、気絶させられないことには、パチュリーを止められないということだ。
そのことを認識したにとりは愕然とする。
「無茶だよ!今のパチュリー無茶苦茶強いのに!」
「まぁ、やるしかないみたいだけど」
アリスは素早く覚悟を決め、パチュリーへと向き合う。
「にとりは後ろの方から援護を。あなたはそこまで弾幕ごっこは強くないものね」
アリスは笑みを浮かべながら、にとりに言う。その顔を見てにとりは
「・・・うん!任せて!」
カバンから銀色の鉛筆のようなものがついたアームをいくつも広げる。彼女の発明品『ミサイル』だ。

「いいわ。それではいきましょうか」
咲夜も再びナイフを構え、駆け出そうとしたが、
「駄目よ、咲夜。あなたがパチェと戦うのを許した覚えは無いわ」
虚空から、レミリアの声がした。周囲を見回すと、一匹の蝙蝠が飛んでいた。
「ですが、お嬢様!」
「あら、咲夜。私の言うことに逆らうのかしら?あなたに命じたのは足止めよ。それに・・・」
その時、なぜだかアリスには、蝙蝠が笑ったような気がした。
「彼女たちなら、大丈夫よ。私の元に来なさい」
「承知いたしました」
その言葉に秘められた意味を全て理解した、というように咲夜はこうべを垂れ、一瞬で姿を消す。
「よろしい。美鈴、構わないわ。閉じなさい」
その言葉を最後に、蝙蝠は消え去った。
「了解しました!お二人とも!」
再び、後退していた美鈴が声をあげる。
「パチュリー様を紅魔館の敷地から出します!援護してください!」
「オッケー!」
「了解」

返事とともに、アリスは数体の人形を突撃させ、にとりもミサイルを放つ。
「ごちゃごちゃ話していたようだけど・・・何のつもりかしらね?」
ずっと戦闘を続けているはずなのに、まったく疲れを見せず、空中に浮かんでいるパチュリーが迎撃しようと、魔法を発動する。しかし、アリスは人形たちが着弾する前に手を握りしめ、人形たちを起爆した。爆発はミサイルも巻き込んで大きくなり、パチュリーの視界を塞ぐ。
「くっ!」
パチュリーは爆風に思わず後ろに下がる。それに追いすがる緑の影があった。
「パチュリー様!失礼いたします!」
踏み込みは十分。美鈴は握りしめた拳をためらうことなく、突き出した。
「撃符・大鵬拳!」
渾身の一撃、ガードはされてしまったが、パチュリーは大きく弾き飛ばされ、紅魔館の門・・・破壊されて原型は無いが・・・の外へと出た。
「でやああああ!」
にとりはそれを追いながら、再装填したミサイルを放つ。アリスもそれに続いた。

「それでは、いきます!」
美鈴は門があったところへ着地。両手を打ち合わせる。
「お嬢様の気、お借りします!紅魔門・閉!」
今度は地面へと手のひらを叩きつける。それと同時に練り上げられた気が一気に膨張し、紅魔館を包み込み始めた。
「させないわ!」
パチュリーは周囲に五つの石を召喚し、気が紅魔館全てを覆う前に、投げ込んだ。アリスとにとりは撃墜しようとするが、パチュリーの魔法に阻まれる。そして、気が紅魔館を包みこむと同時に、石は人の形をとって、紅魔館の中へと侵入した。
アリスはそれを見届けるが、すぐに目をパチュリーへと向ける。
にとりはミサイルをパチュリーに打ち続けていた。シャンハイとホーライもそれを手伝っている。
美鈴に目をやり、にとりに目をやり、再びパチュリーへと目を戻す。現状把握完了。
「にとり!美鈴のところへついて!シャンハイ、ホーライ!来なさい!」
素早く指示を飛ばし、宙へと舞い上がる。指示された面々はすぐさま従った。
にとりは地面へ手をつけたままの美鈴の前に立ち、シャンハイとホーライはアリスの元へ。アリスは手にしていた魔導書をそばに浮かべ、素早く魔力糸をシャンハイとホーライに接続した。
「やっとお出ましかしら?」
「ええ。お待たせしたわね」
そして二人の魔法使いが対峙する。




「ふぅ・・・」
紅魔館の中では、戦闘のさなか、霊夢が突然構えを解いていた。
「あら、どうしたの霊夢。あきらめたのかしら?」
レミリアは満足そうな笑みを浮かべながら言う。
「出られないならこんなことやる意味無いじゃない。全く・・・あの門番こんなことできたの?大した結界じゃない」
「あら、術者もわかるのね」
「結界は私の専門よ?それにしても、館に満ちるあなたの気を利用した結界。術者は結界の外で一歩も移動不可能。しかもこの土地でしか使用不可。人を閉じ込めるのには使えるけど、守りのためにはいささか気が抜けてるんじゃない?」
「あらあら。流石は博麗の巫女といったところかしらね」
一瞬で結界の詳細まで見抜いた霊夢にレミリアは内心舌を巻くが、それを表情に出さずに続ける。
「今回の目的は、あなたを閉じ込めることが主なんだから、役立っているわ。さて、遊びも終わったことだし咲夜、お茶をいれてくれないかしら?」
「承知しました。お二人分でよろしいですか?」
いつの間にかレミリアの隣に立っていた咲夜に声をかける。
「三人分よ。あなたも飲みなさい。咲夜」
「かしこまりました」
「全く、良いお茶飲ませなさいよ・・・ところであんたの妹はどうしてるの?」
「寝てるわ。吸血鬼なのに、人間みたいな生活リズムで・・・困ったものね」
「あなたも似たようなものじゃない」

その場の面々が、軽い会話を始めたその時、広間に五つの影が飛び込んできた。
霊夢と咲夜が身構える。五つの影は、全て魔理沙の姿をしていた。
「これは・・・パチュリーの仕業よね・・・精霊か何かかしら」
霊夢の認識は少し違う。正確にはホムンクルスとよばれる、人工生命体である。しかし、目の前のそれはまがいもので、命は宿っていない。人の姿をした抜け殻であった。
「火水木金土・・・パチェの『賢者の石』ね。全く、元気なことだわ」
「お嬢様、いかがいたしましょう」
苦笑を浮かべるレミリアに咲夜が支持を仰ぐ。レミリアは一瞬思案顔をして
「いいわ、二人とも下がってなさい。お茶の前の運動をしましょう」
レミリアが二人の前に出る。
「面倒ね。三人でなぎ払っちゃえばいいじゃない」
「霊夢に賛成ですが・・・お考えがあるのですか?」
「考えって言うほどじゃないわ、ただ、霊夢、二つほど質問があるのだけれど」

指を二つ立てて、レミリアが言う。
「一つ、あれは生き物かしら?」
「えっ、いや、それはないわね。それがどうしたのよ」
何を言っているか、わからないというような表情をしながら、霊夢は答える。
「二つ、あれらはスペルカードを持っているのかしら?」
「そりゃあ・・・あぁ・・・」
答えようとして、霊夢は納得する。咲夜はすでに、キッチンへと動き出していた。
考えてみれば、ホムンクルス達は、明確な敵意を持っているにも関わらず、いつまでたっても襲いかかってこない。それは、レミリアの鬼気が原因であった。
そして紅い吸血鬼は、かつてないほど嗜虐的な笑みを浮かべ、言った。
「いいでしょ、たまには思いっきりやらせてよ」
霊夢も背を向け、キッチンへと歩き出す。
次の瞬間にほとばしった真紅の閃光を見たものは、誰もいなかった。



館から、巨大な音がした。
アリスの見立て通り、さっきの石は問題なく処理されたようだ。
「せっかくの奥の手が無駄になったわね?」
「構わないわ。もう私には本物の魔理沙が居るんだもの」
アリスの軽口に、パチュリーが答える。
「さて、相手をしてもらおうかしら、パチュリー。夜も深いから、早く眠りたいのよ」
「嫌よ。美鈴を倒しちゃえば中に入って霊夢を叩けるんだから。あなたにかまっている暇は無いの」
パチュリーの言葉に、アリスは歯噛みする。彼女もこの結界の特徴にはうすうす気がついていた。だからこそ、にとりを美鈴の元に残してきたのだ。パチュリーが気付いていないことを期待していたが、やはり頭は回るらしい。
(しかたないわね。切り札よ)
美鈴の方に向かおうとするパチュリーに、アリスは声をかける。

「あら、恋敵のことを放っておいて、いいのかしら?私を無視して行くなら今すぐに魔理沙の奪還に向かわせてもらうわよ?」
「・・・・なんですって?」
効果はてきめんだった。パチュリーの意識がいっきにアリスのみに集中する。
「なるほど、そうね・・・ふふ、あのときも、このときも。考えてみれば思い当たる節はたくさんあるわ・・・」
(そんなにたくさんあるかしら?)
アリスはそんなことを思う。当然、彼女にそんなつもりは一切ない。今のは口からでまかせである。しかし、今のパチュリーにはその言葉は重大な意味を持っていた。
「いいわ!今、あなたを!消し飛ばしてあげるわ!」
パチュリーが全身から魔力を放つ。
(来るわね!)
アリスは身構える。今の言葉は、全ての注意を自分に向けられるが、全力を出させてしまうもろ刃の剣であることは解っていた。
(まぁ、魔理沙は大切な友達だけど・・・)
接続したシャンハイとホーライが各々の武器を召喚する。シャンハイは、身の丈に合わない人間用の剣を。ホーライは身の丈に合わない人間用の槍を。この二体の人形は、自分で戦いながらも、アリスの支援を受けられる。戦闘面においても、他の人形とは一線を画するのだ。
(それはあなたも一緒よ、パチュリー。それに)
後方の地上に居るにとりに目をやる。にとりはミサイルを広げ、力強くうなずいた。
(あなたもね、にとり)
戦闘準備が、整った。



「来なさい!七曜の魔女!私の友のために、魔法の人形劇を見せてあげるわ!」
「行くわよ!七色の人形遣い!私の恋のために、日月の光の中に消えなさい!」

そして決戦が、始まった。



アリスは手首を返し、糸を繰る。その動きに応じ、シャンハイとホーライが、パチュリーに向けて宙を翔ける。
「はあああぁ!」
パチュリーは二体には目もくれず、右手の一振りで生み出したいくつもの火球をアリスへ向けて、撃ちだした。
「・・・・・」
アリスは無言で糸を繰る。火球に対応し、軌道修正。同時に周囲に四体の人形を召喚する。
進む軌道を変えられたシャンハイとホーライは途中、すれ違いざまに火球をそれぞれの得物でたたき落としながら、パチュリーへの突撃を続ける。火球群を抜けた時、残っていた火球は四つ。正確にホーミングしながら迫りくるそれに、アリスは召喚したばかりの人形をぶつけ、爆発させる。
「はい!」「らい!」
二体の人形は、間合いに入ると同時に攻撃に移る。パチュリーはうっとうしそうに左手を振り、突風を生みつつ、アリスへ向けて右手で火球を放ち続ける。
「しゃ!」「ほー!」
それを見て、ホーライはシャンハイの後ろに隠れ、シャンハイは大きな盾を呼び、風をしのぐ。風がやむと同時にホーライが飛び出し、槍で突きを繰り出した。
「くっ・・・!」
パチュリーはすんでのところで身をかわし、今度は全身から突風を放つ。今度は二体の人形は両方とも吹き飛ばされた。
「この人形は・・・なるほどね」
いったん距離を置き、一度は人形たちに向けた視線を再びアリスに戻しつつ、声に出す。
彼女は、激昂してアリスだけしか見えていなかったから、人形を無視したのではない。
彼女とて、アリスの戦い方は心得ている。そしてその弱点も、対応策も理解している。すなわち、人形を操っている元を断つ。だからこそ彼女は人形にかまわず、アリスへと攻撃を繰り返したのだ。しかし・・・

「認識を改めないとならないようね!」
火球によるアリスへの攻撃を続けつつも、肉薄する人形たちの攻撃を風で受け流し、生み出した剣で受け止める。
(大した完成度だわ)
アリスの意識は全て接近する火球へと向けられている。だからこそ、四方八方から迫りくる火球を全てかわし、撃ち落とし続けられるのだ。そんな中でも二体の人形は攻撃をやめない。それこそが完全に独立していることを示していた。事実上の三対一。
(大した完成度、でも!)
風を利用し、パチュリーはアリスから大きく距離を離す。
「三対一なんてこのスペルには関係ない!」
詠唱を開始。烈日の光がパチュリーの手から生れ出る。パチュリーの持つ術の中でもトップクラスの効果範囲と威力を持つ殲滅スペル。日符・ロイヤルフレア。
アリスもシャンハイもホーライも、大きく離れていて詠唱を阻止する手立てがない。
アリスが大量の盾持ち人形を召喚。前方に展開する。
(関係ないわ!)
パチュリーは構わず詠唱を続行する、そして呪文が完成しようとした、その時
「私のこと忘れてない!?」
声とともに、無数のミサイルがパチュリーに飛来した。パチュリーは思わず未完成の呪文を解き放つ。しかし、いかに強力な呪文と言えど、完成していない呪文には大した威力は無い。誘爆を利用してどうにかミサイルを撃ち落とす。
「残念だけど、四対一だよ!」
地上からアリスの援護射撃をしたにとりのほうを確認することなく、しかし声を頼もしく思いつつ、アリスは瞬時に防御のための人形を攻撃に回す。
武器を持たせる時間も惜しいとばかりに、人形たちを特攻させ、魔力で起爆する。手ごたえは無い。それどころか爆風を突き破って火球が飛来した。アリスとにとりはそれを迎撃する。
「月木符・サテライトヒマワリ」
パチュリーのスペルが静かに発動される。黄色と緑の球体が生み出された。
少女たちの舞台は始まったばかりなのだ。



「いけないわね・・・」
戦いが始まって半刻ほど。アリスは焦燥を感じていた。
絶え間なく飛来する火球を迎撃しつつ、アリスはつぶやいた。
にとりが参戦した今でも、攻撃対象は明確にアリスに絞られている。さきほどのセリフは確実に効果を表している。
しかし、決め手がない。それどころか押されている。
シャンハイとホーライは接続を解除し、パチュリーの『月木符・サテライトヒマワリ』で生み出された二つの衛星弾の対応に当たらせている。今まで一度も、シャンハイとホーライはアリスへと衛星弾の攻撃を撃たせていない。完璧に押さえつけている。
自然、アリスとにとりの二人で、パチュリーの相手をすることとなるのだが・・・
「おりゃああああああ!」
にとりは、どこに隠し持っていたのかという量のミサイルを放ち続ける。彼女はアリスのフォローに専念していた。アリスに明確な隙が生まれた時、それを埋めるためにミサイルを放つ。だがその回数は確実に増加していた。
(考えるのよ。この状況を打開しないと・・・)
にとりのミサイルとて、無限ではない。正直彼女の援護が無くなれば、しのぎ切る自信はアリスには無かった。
「アリス!」
「・・・!?きゃあ!」
思考に意識を没頭していたアリスは、にとりの声に反応して、とっさに目の前の火球を迎撃する。しかし間に合わず、ついに一発被弾してしまう。反発術は張り巡らせていたが、今のパチュリーの魔力を完全に無効化は出来ない。

「アリス!このおおおぉ!」
よろめいたアリスをカバーすべく、にとりはミサイルを斉射。爆炎がパチュリーの視界を塞ぐ。アリスはそれにまぎれて、その場から離脱する。
(大丈夫、パチュリーの意識は私の向いている。それを利用すれば、手は・・・!)
二つの衝撃によってアリスの思考は打ち切られる。シャンハイとホーライに衝突したのだ。
「しゃんはい!」「ほらい!」
二体の顔に浮かぶのは焦り。
「シャンハイ、ホーライ!盾を!」
アリスは素早く周囲の衛星弾を認識。二体に防御を指示するが・・・
「!?」
二つの衛星が放ったのは、ただの閃光だった。目くらまし。光が収まった時、三角形がその場に出来ていた。
頂点は、アリスと人形たち、にとりと美鈴、そしてパチュリー。
パチュリーの手は、にとりを向いている。にとりの背には、ミサイルは広がっていなかった。最悪の状況。
「にとりーーーっ!」
アリスは叫ぶが、間に合わない。
「・・・フラッシュオブスプリング」
パチュリーの放った、風弾が、にとりを貫いた。


「・・・・・」
アリスは呆然としていた。体はシャンハイ達と共に、にとりとパチュリーの射線上に移動するが、思考は動かない。
(私の・・・せいね)
彼女の読み間違えが、この状況を招いた一因であるのは、確かだった。
アリスは、パチュリーが彼女の挑発に乗ってくれたものだと思っていた。否、最初はパチュリーも挑発に引っ掛かっていたのかもしれない。
しかし、パチュリーは目的を忘れていなかった。魔理沙を幻想郷の王とする。その第一歩として、霊夢を倒す。
(情けなくて涙が出てくるわね)
今、にとりは美鈴の目の前に倒れていた。
風弾を受けるとき、にとりは美鈴の前に両手を広げて立ちふさがっていた。つまり美鈴の盾になったということ。抜かれてはならない結界の要を守ったということ。
アリスは、ひたすらにパチュリーを止めることを考えていた。それは先刻までの役割分担を考えれば、正しいことだ。しかし、攻めを考えるあまり守りを忘れたことが、今の状況を招いていた。
(何より・・・)
相手より、少し上の力で戦う。全力で戦って負けると後がないから。
こんな時でも、彼女は自分のスタンスを保っていた。そして、パチュリーの力を、思考を、読み間違えた。
その結果がこれだ。
友をさらわれ、友を救えず・・・友を傷つけた。

「・・・シャンハイ、ホーライ。にとりのところへ」
二体は無言でうなずき、指示に従う。
「惜しかったわね。美鈴さえ倒せれば結界のなかに入れたのに」
パチュリーの声を聞きながら、アリスは覚悟を決める。
全力を出す覚悟を。
「でも、問題ないわね。もうすぐだわ」
己を捨てる覚悟を。

「ねぇ、パチュリー・・・」
言いながら、アリスは宙に浮かべた本へと左手を伸ばす。
彼女が欠かさず持ち歩いている魔導書。
それの魔導書を閉じるブックバンドには・・・錠がついていた。
「何かしら?あなたが魔理沙を好きなことは、もう怒ってないのよ。だって私の方が、絶対魔理沙のことを好きだもの」
パチュリーは言う。戦いのさなかにそのことを思いついたから、彼女は冷静になったのか。だが、そんなことはもうどうでもいい。
「もし、この時の記憶があるなら、魔理沙とにとりにも同じ言葉を伝えてくれるかしら」
アリスの右手に光がともる。その中には一本の鍵が浮かんでいた。
それは封印を解くための鍵。ある人から・・・地上で暮らすために授けてもらった封印を破る鍵。
得てしまった強すぎる魔力を、力に引きずられた弱い意思を。五色の力とともに、魔導書の中に封じた封印。
「パチュリー」
アリスは、鍵穴へ鍵を差し込む。回してしまえば、もう地上には居られない。でもまぁ・・・
(友達のためと思えば、悪くないわね)
「ありがとう、そして・・・さようなら」
「何を・・!?」
パチュリーが問う暇もなく、鍵が開く。五色の光があふれだし、周囲を包み込んだ。
アリスが決して開くことのなかった、魔導書の名前。本の背にはこう刻印されていた。

『Grimoire of Alice』と。






光が収まった時、そこに居た者はアリスとは違っていた。
アリスと同じ、金色の髪。しかしその姿は比べ物にならないほど幼い。そして、その手には魔導書が握られている。
「・・・・・・・・・!」
そのアリスでは無い誰かが放つ魔力に、パチュリーは戦慄を覚える。圧倒的すぎる。今のパチュリーすらも優に超える魔力量。
全力で火球を放つが、届くことなく、五色の壁にはじかれる。
「うふふ、ふふ」
「!?」
『誰か』が笑う。愉快そうに笑う。同時に、赤い魔力がパチュリーに向けて放たれる。彼女はすんでのところで回避するが、大きく態勢を崩した。
「・・・何?」
追撃を予想し、障壁を張るが衝撃は何時まで経っても起こらない。
「何をしているの?もっと楽しませてくれない?」
『誰か』は退屈そうに本のページをめくっていた。
「『私』があなたを気絶させたがっているの。それが終われば私の自由に出来るけど・・せっかく久しぶりに究極の魔法を使えるの。もっと楽しませてよ」
おかしなことを言いつつ、『誰か』は青色の魔力を放つ。
「くそ・・・!」
パチュリーは障壁で受け止めるが、防ぎきれず余波を受ける。

「それなら!」
大呪文の詠唱のために距離をとる。
「あら、何を見せてくれるのかしら?」
『誰か』は余裕のつもりか、詠唱を待っている。
パチュリーは構わず呪文を紡ぐ。右手に陽光。左手に月光。彼女の持つ、最高の攻撃呪文。
「日月符・ロイヤルダイヤモンドリング!」
完成した呪文を放った。二つの光が交わり、無数の閃光の刃となって『誰か』へと迫る。しかし・・・
「つまらないわね」
『誰か』はその全てを、こともなげに撃ち落とした。
「この程度なの?もういいわ。墜ちなさい」
言うと、集束された、紫色の光をパチュリーに向けて放った。
「きゃあああ!」
障壁を全て突き破られ、撃ち抜かれたパチュリーは叫びをあげて、気絶した。
「・・・あら、落ちないのね。まぁいいわ」
パチュリーの浮遊術は周囲の風精を使役して浮かぶものだ。精への使役契約が切れるまでの短い時間は浮遊していられる。だがそれも時間の問題だ。
「気絶させるのが『私』の意思だからね。ともあれそれはもういいわ」

今の彼女はアリスである。それは間違いない。違うのは『力』と『意思』だ。
昔、魔界に住んでいたアリスはひょんなことで究極の魔法の『力』を手に入れた。そして彼女は、その『意思』を引きずられた。その魔法の力をふるうことのみを望むようになった。
そのときは、地上のとある人物に敗れ、一時的に意思を取り戻すことが出来た。
それをきっかけにアリスは地上へと住むことを望み、魔界の神と言われる存在に、依頼し魔導書を己の一部とする代わりに、本の中に『力』と『意思』の一部を封印してもらった。そのおかげで彼女は地上で平穏に暮らすことが出来た。
今のアリスの姿は、その当時の彼女の姿だ。『意思』に引きずられたからなのか、『力』がなじんでいた当時の姿を求めたからか、理由は定かではないが。
「さて、せっかく地上に居るんだし、あいつにお礼参りでもしようかな」
邪悪な笑みを浮かべる『アリス』。彼女の意思は完全に力をふるうことを求めていた。
そして『アリス』が動き出す。同時にパチュリーの体も落下を始めた。その時

「でりゃああああああああああ!」
青色の弾丸が、超高速で突撃してきた。
「あら、あなた無事だったの?」
それは、さっきパチュリーの弾丸に倒れたはずのにとりだった。カバンから紅魔館への移動に使った翼をひろげ、両翼にシャンハイとホーライをしがみ付かせたまま飛来する。
そんなにとりを『アリス』は感情のこもらない目で見つめ
「あなたに用は無いわ。消えなさい」
迷うことなく魔力を・・・今度は黄色の魔力を放った。
「シャンハイ、ホーライ、あっちはお願い!」
言ってにとりはカバンから腕を抜く。おもりを失った翼はさらに速度をあげ、シャンハイとホーライを乗せたまま、パチュリーの方へと飛来した。
「しゃんはい!」
「ほーらい!」
二体の人形はパチュリーの体を支える。これで地面にたたきつけられることは無くなった。

そしてにとりは
「!?消え・・・!」
「アリス!」
光学迷彩で姿を消し、自力で飛行して、『アリス』に組み付いていた。
「もう放さないからね!」
「うっとうしいわ!」
『アリス』は再び姿を現したにとりへ向けて魔法を放とうと、緑の光を手に集中させる。
(今だ!)
にとりは一瞬の隙に、魔導書を弾き飛ばした。
「甘いわ。グリモワールがないと魔法が使えないとでも思ったのかしら?」
だが、光は消えない。緑光が次第に大きくなっていく。しかしにとりの行動は、『アリス』の考えの上を行っていた。にとりは魔導書へと飛びついたのだ
「何をしているのかしら?封印なんて出来ないわよ!」
そう、封印は魔界の神の特別製だ。同じものを河童がかけることなど出来ない。
「・・・そうかな?」
にとりは左手で魔導書をつかむ。鍵はまだ、本の表紙についていた。
「それは・・・・?」
彼女の右手には何かが握られていた。
それは小さなリングに二つのかぎがぶら下がったものだった。
にとりが封印をかけることは出来ない。しかし今のにとりなら

開いてしまった鍵をかけなおすことはできる!

「いけええええええええええええええええ!」
にとりの叫びとともに、七色の光がみちた。




目を開けたら、蒼い空が広がっていた。
へぇ、私の意識の中って蒼一色だったんだ。てっきり七色だと思ってた。
ぼーっと眺めていると、急に私の顔に影が落ちる。あれ、誰かがこっちを見ているみたい・・・おかしいわね。昔の『私』の意識の中に他人なんて・・・
「アリス!やっと目醒ました!」
「・・・にとり?」
思考が追い付かない。どうなってるの?というか、あれ?声出せてる?
えっと・・・
とりあえず落ち着こう。深呼吸。・・・息も出来てる?
「よかったよ!失敗したのかと思ったぁ。アリス、私のことわかる?」
解るに決まってるじゃない。名前を呼んだの忘れたのかしら?
落ち着いたら、自分の頭の後ろに、柔らかいものが当たっていることに気がついた。
これは、あれね。膝枕。恥ずかしいじゃない、もう。
そして、状況をじっくり考えてみると・・・
「私は・・・私なの?」
信じがたいことに、私は『私』ではなく・・・私のままらしい。
・・・自分で考えててこんがらがってきたけど・・・
「そういうことを言うってことは、ちゃんとアリスだね!よかった!」
目の前にあるにとりの顔が、安堵の表情を浮かべる。
「えっと、その、どうして?」
でも結論は出たけど、理由が解らない。
私は確かに、鍵を使って封印をといて、『私』に戻って・・・

「にとり・・・私の本は?」
「その辺に落ちてるよ」
にとりの膝に頭を乗せたまま、顔を動かしてにとりの指差した方を見る。
するとそこには私の本と、家で見せてもらったにとりの鍵が落ちていた。私の本は、変わらない姿なのに、にとりの鍵は一本が壊れてしまっている。
「・・・・」
だめだ、頭が回らないわ。何が起きているの?
「ふふふっ。アリスのそんな顔は珍しいね」
役得だよ、とかにとりが言っている。そんなに不思議そうな顔をしていたかしら。
「えっと、つまり、鍵を閉めたんだ」
あぁ。
なるほど。
にとりの一言で、ばらばらだったピースが組みあがっていく。
「私が開けた封印の鍵を・・・あなたがかけなおしてくれたのね」
家で自慢げに見せてくれた、アケルクンと、シメルクン。
なんでもありね、本当に。封印の鍵までかけちゃうなんて。出てきちゃったのも元に戻せたんだ。どんな仕組みなのかしら。
なんでかしら。なんかもう、まともに顔も見れないじゃない。
「でも、よかったの?二つセットじゃないと使えないんじゃなかったの?」
私は、本と鍵に顔を向けたまま、にとりの顔を見ないようにしながら、言った。

「え?良いに決まってるじゃん。アリスのためだよ?」
あっけらかんとのたまう。
それは、友達だから、ってこと?それとも私だからなの?
ぐるぐると思考が回る。えっとその。そういえばにとり、愛の結晶がどうとか言っていたような。もしかして本気?
あ、顔が熱い。ますますにとりを見られない。
そんな私をよそに、にとりは話を続けている。
「パチュリーは先に目を覚ましたから、シャンハイとホーライに紅魔館の中に運んでもらったよ。小悪魔が見つけてきた中和術のおかげですっかりもとに戻ってた。アリスはなかなか目を覚まさないから、無理に動かさないでここでみてたんだ」
音は聞こえてくるけど、意味を理解できない。
「あと、あの本だけど・・・シメルクンで閉めて、アケルクンは壊れちゃったからもう二度と開けられないと思う。だから・・・」
にとりの声が途切れ、顔にしずくがあたった。思わず私は、にとりの方を見てしまう。
「もう、あんな無茶させないんだからね・・・」
そこには、目に涙をためた、にとりの顔があった。
助けてもらって心配かけて。本当にもう、私らしくない。
一生かけても返せない借りを作っちゃったみたい。

「にとり・・・その・・・」
ごめんね、と言おうとしたとき、にとりが後ろに倒れた。
「!?にとり!」
動かない体に鞭打って、無理やり動かしにとりの顔を見る。
「すー・・・すー・・・」
寝ていた。すやすやと。心の底から安心したように。
あ、だめだ。
もうパチュリーのこと、とやかく言えないわ。
苦笑が浮かぶ。何に対するものかは、自分でも解らないけど。
もう少しだけがんばれと自分の体に檄をとばして、にとりの体を引きずって、手近な木の幹にもたれる。そして、にとりの頭を私の膝に乗せた。
まぁ、なんというか。
とりあえず一晩膝を使わせてもらったという借りから返すとしましょう。
これからを考えるのは、それから。
私もまだ眠いし、もう少し寝かせてもらうとしましょうか。
「にとり・・・ありがとう」

今日も、いつも通りの朝がやってきた。



「・・・気づいたら夜だったわ」
「突然どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
ここは紅魔館の中、大広間。外はすっかりと闇に覆われ、昨日より少しだけ面積の増した月が夜空に浮かんでいる。
館の中では宴会が開かれている。レミリアが今回の騒動の詫びに、と催したものである。最初は小規模なものだったが気がついたら、関係のない面々まで集まって大宴会になっていた。
よくよく、幻想郷には祭り好きが集まったものである。
そして、昨夜の疲れの抜けきらないアリスとにとりは騒ぎの中から抜け出してきたのだった。
「まったく、みんな元気なものね。寝ていただけの魔理沙はともかく、霊夢とか・・・」
その二人ときたら、魔理沙は騒ぎのど真ん中で、霊夢も少し外れたところで酒を飲んでいる。大した体力だ。咲夜と美鈴はというと、こちらも二人でワインなんぞ飲みかわしている。
「あはは・・・あっ」
二人でふらふらとしていると、壁に寄り掛かっている少女の姿を見つけた。


パチュリーは広間のすみで壁に寄り掛かっていた。
「・・・あなたにも迷惑をかけたわね、レミィ」
音もなく隣に立っていたのはレミリアだ。
「いいさ、このくらい。大したことじゃない」
むしろ安心したくらいさ、とレミリアは続ける
「友人ってのは、迷惑をかけあうものだろう?私はパチェの友人なんだ。最近相手してくれなかったから寂しかったんだ」
「・・・そうね。本当にありがとう」
冗談めかして言うレミリアに、パチュリーは礼で答える。
「でも、魔理沙たちには嫌われちゃったかしらね」
「おや、なんでそう思うんだ?」
悲しそうな表情を浮かべるパチュリーに、レミリアは言う。
「なんでって、あんなに迷惑をかけて・・・」
「そう思うかい?それじゃ本人たちに聞いてみるといいさ」
「えっ」
言葉とともに、レミリアは姿を消していた。その瞬間、彼女を呼ぶ声がした。


「パチュリー!」
二人は近づき、にとりが声をかける。
「あっ・・・」
「よかった。もう平気そうね」
「もう、心配したよ」
二人の言葉に対し、パチュリーは口を開こうとするが
「その、ごめんなむが」
「違うわ、パチュリー。それより良い言葉があるでしょ」
その口にアリスが指をあて、言葉の訂正を求める。
「えっと、ありがとう・・・?」
おずおずと言った言葉に、アリスとにとりは満足そうに頷く。
「やっぱり、友達なんだからこうじゃないとね!」
「まぁ、私もさっきその方がいいと思っただけだけどね」
にとりの言葉に、アリスも苦笑とともに同意する。
「でもあんなに迷惑かけて」
「いいのいいの!事故みたいなものじゃんあんなの」
「そうね。どうせあの白黒も深く考えてないでしょうし」
「おーい!アリス!にとり!パチュリー!そんな隅っこで何やってんだー!」
タイミングを狙っていたかのように、魔理沙の声が遠くから聞こえてくる。見ると、両脇にシャンハイとホーライを侍らせている。
「・・・ほらね」
「・・・・・・」

アリスの言葉に、パチュリーはぽかんと口を開いたまま、返事をしない。
そんなパチュリーを見て、アリスは笑みを浮かべ言った
「そうね、それじゃもし感謝の気持ちがあるなら・・・今度何冊か魔導書を貸してもらおうかしら?」
「・・・お安い御用よ」
そんな言葉に、パチュリーも笑顔で応じる。
「ほら、アリス!呼んでるよ!パチュリー先に行ってるね」
「わ、ちょ、に、にとり、引っ張らないで・・・」
にとりがアリスの手を引き、輪の中心へと近づいていく。アリスのほおが赤くなっていたのは酔いのせいか、それとも・・・
「ふふっ、友達は迷惑をかけあうものか・・・」
そんな様子を見て、パチュリーは再び笑みを浮かべる。
「そうか・・・友達が増えたのか。作り方なんて忘れていたけど・・・」
パチュリーも二人の後について歩き出した。


「にとり!もう少しゆっくり・・・」
「あれ?どうしたのアリス。顔赤いよ?疲れで熱でも出した?」
にとりが振り返って、アリスの顔を見つめる。さらにアリスの顔が赤くなった。
「え、えっと違うの。顔が赤いのはちょっと酔っちゃって・・・」
「それならいいんだけど。あ!酔っちゃったせいでちゃんと歩けないのか!それならそう言ってくれれば良いのに」
「え、にとりなにを・・・きゃあ!」
にとりがアリスを抱えあげる。俗に言うお姫様抱っこの態勢である。
「えっ、ちょっと、にとり!下ろして・・・」
「大丈夫だよ。アリスだもん」
だからその言葉の真意はなんなんだという思考がアリスの頭をぐるぐる回り出す。
黙ってしまったアリスを抱えて、にとりは騒ぎの中に進んでいく。

まだまだいつもの宴は、始まったばかりだ。
                         
にとアリがジャスティス
パチュリーは魔理沙が好き。魔理沙にはその方向の趣味はなし。

でもこの四人には仲良くあってほしいのが俺の最大の願望である。

というのがこのメンバーへの妄想です。

長文をここまで読んでいただき、ありがとうございます。

しかしタイトルも分類登録にも迷いました。結果こう落ち着きましたが、どちらも正確ではないような・・・
シャンハイ、ホーライはオリキャラ臭いですが、人形ですしオリキャラはつけませんでした。
だまされた気がした方は申し訳ありません。

楽しんでいただけたなら、幸いです。


追記
細部を修正しました。
愚迂多良童子様、誤字、ミスの指摘ありがとうございます。チェックの甘さを思い知りました。
まきがみ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.650簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
一言でまとめるなら……お幸せに!
地霊殿サポート組はいいですね。キャラクター間のシナジーが分かり易いです。
ハイテンションでも意外と純情なパチュさんに和みました。
10.100愚迂多良童子削除
鍵はそこで活きてくるのか!とびっくりした。
にとりとアリスのカプもいいですね。意外性抜群の良作でした。
 
誤字報告
>>変わり者であることは間違えない。
間違いない

>>「・・・・・・・・はぁ・・・・・
括弧の閉め忘れ

>>強引が過ぎる。
強引に過ぎる

>>俊発的に
存在しない単語です。「瞬時に」とか「即座に」と変えたほうがいいかと。
たぶん「瞬発的」と書きたかったんでしょうが、「瞬発」は「瞬発力」という単語でしか使わないようです。

>>「私は聞いていないわ。お嬢様がそんなこと行ったのかしら」
言った

>>自力で飛行『アリス』に組み付いていた。
飛行して?
11.50名前が無い程度の能力削除
何を書きたいのかは分かるんだけど、構成がごちゃごちゃして読みづらくなってるのが残念。です。また、美鈴の術やパチュリーのホムンクルス等、原作の東方にない要素が説明もなく当然のように使われているふたりに唐突感があり、読み進めて行くうちにどんどんと違和感が大きくなりました。オリジナル要素は当然構わないのですが、それを物語になじませる工夫に欠けていたのがマイナスでした。
全体像としては、作者が書きたい場面や要素だけを盛り込んで、それらを支える日陰の部分がおろそかにになっているという印象です。
とは言え、作者の愛と情熱は十二分に伝わってきましたので、書き慣れてくればもっともっと素晴らしい作品が書けるんじゃないかな、とw
16.100名前が無い程度の能力削除
とてもよかったです。
一気に読みました。
にとアリ、これはいい!
17.90名前が無い程度の能力削除
この4人は一緒に遊んでるとテンション上がりすぎて明後日の方向に全力で突っ走って行きそうなイメージがあるw
そのうちダブルデートといかないあたりにほろ苦いものを感じるなぁ。
緩急のつけ方がよかったので、一気に読めました。
面白かったです。