Coolier - 新生・東方創想話

桂枝挿話 禁

2012/05/30 01:57:52
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 竹林からの帰り道、特に急ぐでもなく悠々と空を飛んでいた二人の魔法使いは、朝日が昇るのを目にした。それ自体は何も珍しいものではなかったが、昨夜の騒動で少々くたびれた二人には日常が戻ってきたことの「証」のようで、ひどく懐かしい気分であった。

「朝かぁ……結局、私達は夜通し暴れたわけだ」

 魔理沙は暁光に目を細める。

「暴れたのはあんただけよ。私は節度をわきまえて行動したわ」

 横でアリスが涼しい顔をして言った。

「それどういう意……ふわぁ……まぁいいや」

 魔理沙の反論は欠伸とともに朝の空気に霧散した。目をしょぼしょぼさせ、朦朧とした表情を浮かべる彼女の横顔をアリスは眺める。

「……疲れているみたいね。無理もないでしょうけど」
「私が疲れているだって!? 『寝言は寝て言え』よな」
「その言葉、そっくりあんたに返す」

 ふん、と鼻を鳴らして強がる魔理沙だったが、それでも眠気は抑えようがないらしく、欠伸を噛み殺しながらじんわりと目に涙を滲ませていた。
 やはり人間なのだな、とアリスは思った。箒に跨り空を飛んでいようと、魔力を操り「魔法使い」を名乗っていようとも、その本質は「他愛ない人間の娘」を逸脱してはいない。霧雨魔理沙は「魔法を使える人間」ではあっても、「魔法使い」ではないのである。
 アリス・マーガトロイドは「魔法使い」であった。それは「魔法を操る」という意味合い以上のことを指す。彼女は単に「魔法を使う」だけでなく、「魔法によって生きて」いるのである。「魔法で生きる」、それはすなわち「魔力を生命の糧とすることで、食事や睡眠を必要としない不老長寿の身体となる」ということであり、同時に「人間の娘」からは逸脱した存在となるということでもあった。

「――駄目だ。眠くて仕方ないぜ。こりゃ、我が家まではもたないな」

 隣で魔理沙がぼやくのが聞こえた。アリスは横目でそれを見る。

「ご愁傷様。そのまま寝れば、地上へ真っ逆さまね」
「なんの! 私にかかれば、寝ながらでも空を飛ぶくらいは朝飯前だ」

 ちなみに今は本当に朝食前だがな、と得意げに付け加える魔理沙。

「それなら問題ないわね。そのまま寝ながら帰ればいいじゃない」

 アリスの返答は実にあっさりしていた。

「そのつもりだったけど、ちょうどこの近くに『別宅』があることを思い出した」
「別宅?」
「そう。みすぼらしい家だけど、みょうちくりんな我楽多がいっぱい置いてあるから、退屈しないのだけは確かだな」

 そう言うと、魔理沙は高度を落とし始める。アリスは立ち止まって少しの間それを見送っていたが、やがて溜息をひとつ吐くとその後を追った。



 魔理沙の「別宅」はいかにも胡散臭い建物であった。家屋自体はありふれた平屋のようであったが、それを取り囲むかのように置かれた種々雑多な「道具」なのか「我楽多」なのか分からない代物によって、ものの見事に「奇怪屋敷」と化していた。

「……これがあんたの別宅?」

 アリスの質問に魔理沙は笑って頷く。

「どうだ? ヘンテコな家だろ?」
「変と言うより、統一性のない家ね。持ち主によく似ているわ」
「幸か不幸か、この家の持ち主は私じゃないぜ」
「じゃあ、誰の?」
「知り合いの変人だ」
「……あんたさっき、別宅って言わなかった?」
「別宅だぜ。私がよく立ち寄るところは全部、私にとっては別宅みたいなものだからな」
「……」

 アリスの視線をよそに、魔理沙は戸口に立つ。
 扉には「準備中」と書かれた札が架けられていた。どうやらこの建物は何かの店らしい。

「……もしかしてこの我楽多の山が商品なのかしら?」

 アリスはぽつりと呟いた。

「あー? 何か言ったか?」
「別に何も」

 あっそ、と魔理沙は肩をすくめると扉を勢いよく開く。それはもう、蝶番に同情したくなるような勢いだった。

 バタン、カラン、カラン

 扉の内側に取り付けられていた鐘がけたたましく鳴る。明け方から迷惑極まりないのは明白だが、魔理沙は悪びれる素振りも見せず店内に入ると大声で言った。

「おい香霖! どうせ起きてるんだろ? 朝っぱらから来てやったぜー」

 店の中は薄暗かったが、奥の方では小さな灯りが瞬いているのが見えた。おそらく洋灯の光だろう。そしてその傍に誰かが座っている。
 若い男だった。男はゆっくりと椅子から立ち上がると、二人の方に近づいてきた。

「魔理沙か。こんな時間から何の用だい? まだ日も昇りきっていないじゃないか」

 不満そうな表情をしながらも、慣れた感じで男はそう言った。

「おはようさん! 香霖。さっそくだが、布団を貸してくれ」
「いきなり何を言い出すかと思えば……。家が火事にでもなったのか? 大方、『ミニ八卦炉』の火力を間違えたんだろう?」
「残念だが外れだぜ。昨日の晩から寝ずに妖怪退治をしてたから眠いんだよ」
「なら自分の家に帰って寝ればいいじゃないか」
「家まではもちそうにない。だから香霖の所で寝ていくことにした」

 そう言って欠伸をすると、魔理沙はすたすたと男の脇を通り抜け、奥の部屋へと入っていってしまった。
 アリスと男は同時に溜息を吐く。男がアリスを見た。

「で? 君も魔理沙と同じ理由で僕を訪ねて来たのかい?」
「まさか」

 アリスは頭を振る。だろうね、と男は頷いた。

「人様の家で堂々と寝ていく奴なんて、僕は魔理沙の他には一人くらいしか思い当たらない」

……アリスはなぜかその一人に心当たりがあるような気がした。

「寝に来たのでなければ、お客さんということでいいのかな? あいにく店はまだ準備中のつもりだったんだが、物はついでだ、何でも見ていってくれ」

 というわけで、と男は咳払いをすると、

「いらっしゃいませ。ようこそ『香霖堂』へ」

といまさらのように言ったのだった。

「……ご丁寧にどうも。それで、ここは何のお店かしら?」
「何の、と訊かれると難しいな。とりあえず自分の目で確かめてくれるかい?」

 店主に促され、アリスは店の中へと足を踏み入れた。
 店内の様子はというと、「雑然」の一言に尽きた。外以上に整理整頓されておらず、ありとあらゆる物が棚や床に無造作に置かれてあった。しかもよく見ると、それらの物品はほとんど見慣れないものばかりである。珍しいといえばそうなのだが、アリスは『珍品』よりも『存在しない品』の方がしっくりくるように感じた。

「何と言うか……品揃えがいいのね」

 特に興味津々というわけでもなく、漫然と陳列(?) された品物を見ていたアリスがそう言うと、店主は機嫌を良くしたらしく、

「まぁ、外の世界の品に関してなら、幻想郷においてこの店の右に出る者はいないからね」

と自慢げにそんなことを言った。

「これは外の世界の物なの?」
「大半がそうだ。ただ中には使い方の分からない物があって……いや、何に使う物なのかは分かるが、どうやって使うのかが分からないんだ」
「何に使うかなんてどうして分かるの? あなたは幻想郷の住人でしょう?」

 目を遊ばせながらアリスが尋ねる。店主は肩をすくめた。

「それは天賦の才と言うか、僕には道具の名前と用途がたちどころに判るんでね」

 ふぅん、とアリスはうわの空で聞いていたが、ふと、その視線がある物を捉えた。

「これ……」

 それはアリスが見たことのない人形であった。大きさは一尺にも満たないだろう。色彩豊かな着物に身を包んだ、おかっぱ頭の女の子の姿をした人形。その表情は人形特有の「無機質さ」を漂わせつつも、どこか「人間臭さ」を感じさせるという奇妙なものであった。
 あぁその人形か、と後ろで店主の声がした。

「それは『市松人形』という代物だ」
「イチマツ人形?」
「所謂、着せ替え人形だな。子供の玩具としても用いるが、その人形の場合は専ら鑑賞するための物のようだ」 
「そう……。ところでこの人形、魔力の気配がするんだけど、外の世界では日常的に魔法が使われているのかしら?」
「魔力だって!?」
「気付いていなかったみたいね。この人形には魔力が宿っているわ。何らかの意図をもって組み込まれた術式の類ではないみたいだけど……」
「そうだったのか……いやしかしあり得ない話ではないな、『人形』なら」
「人形といえども、必ずしも魔力が宿るわけではないわ。ましてや、この人形自体には何の魔術的な技法も使われていないし」
「それはそうだろう。でも僕が言っているのはそういう事じゃない」
「じゃあ、どういうことかしら?」

 アリスは魔法の事となるとどんな些細なことでも無下にはできない性分であった。特に今回のように「人形に纏わる魔法」の場合ならなおさらである。

「そうだな……少し長くなりそうだから座って話そう」



 店主はそう言うと、小さな卓子の傍にあった椅子の一つに座った。アリスもそれに倣う。お茶は? と尋ねる店主に首を振り、彼女の方から口を開いた。

「……それでさっきの話の続きだけど、『人形に魔力が宿るのは不思議じゃない』っていうあなたの言葉の意味を教えてもらえるかしら?」
「その前に訊きたいんだが、君は魔法使いだね」
「ええ、そうよ」
「魔法に詳しいみたいだから、そうだと思った。昨晩の妖怪退治とやらにも、魔理沙と一緒に出かけていたみたいだったし」
「それが人形の話と何か関係あるのかしら?」

 アリスの問いかけに店主は笑みをこぼす。

「意外とせっかちだな。そうだな……なくはない。魔法使いの君に訊くというのも変な話だが、君は『魔法』とは何だと思う?」
「それは魔法の仕組みの事? それとも意味かしら?」
「――どちらかというと後者だな」

 少し考えて店主は答えた。

「そうね……『世界を形作る一つの側面の探求』かしら。 ちょっと違う気がするけど」
「ふむ。それはあながち間違いではないと思う……というより魔法使いではない僕には、それが正しいのか判断する術がないわけだが」

 店主は湯呑みの茶を啜る。アリスは黙ってそれを見つめていた。静かな店内に、かち、こち、と古ぼけた柱時計が時を刻む音だけが心地よく響く。

「――さて、本題に入ろう。この人形に宿る魔力の正体についてだが、君の言う通り『意図をもって施されたもの』ではないだろう。僕の見立てでも魔法道具としての使い道は考えられなかったからね」
「じゃあ、この魔力の根源は何?」
「恐らくはこの人形に自然発生したものだろう」
「それはないわ。魂魄や精霊ならいざ知れず、魔力は自発的には存在しない。何らかの手段で誰かが働きかけない限りは存在できないのよ。私は長い間人形を作り続けているけれど、人形に自然と魔力が宿ったことなんて一度もないわ」
「そうかい? それならこの場合、きっかけとなったのはこの人形のもつ『意味』だろうね」
「意味?」

 アリスは眉をひそめる。どうもこの店主の話は回りくどい。昨晩出会ったあの異次元を操る妖怪のようだ、と思った。

「そう。『市松人形』をはじめとして、元来人形には玩具・鑑賞品としての役割だけではなく、多くの用途がある。中でも遥か昔から存在しているのが――」
「祭礼の道具としての役割ね。『藁人形』がそのいい例かしら」

 店主は頷く。

「『藁人形』は呪詛の道具だけど、逆に人の身代わりとなって厄災を祓う人形もある。いずれにせよ、人形というものが古来より人と深く関わっているのは確かだ。ここでひとつの疑問が浮かぶ」
「それは?」
「『どうして人形は人に影響を及ぼせるのだろうか?』ということだ」
「それは簡単な話ね。呪術や魔法というものは基本的に定められた形式を踏むことで力を得る。だから人間に影響を及ぼすのであれば、その媒体として人を模した人形を使うのが適当なのよ。あくまで『直接相手に触れない場合は』だけど」
「それはさっき君が言っていた『仕組み』の話だろう? 僕が言っているのは『意味』の方だよ」
「……どうも分かりにくいわ。かいつまんで話してもらえる?」
「それは悪かったね。僕が言いたかったのはなぜ人形が適当なのか、ということだ」

 まだ首を傾げているアリスを見て、店主は続ける。

「君の言うように、人に魔法をかけるときは人形を媒介にするのが適当なのかもしれない。でもそれは何故なのだろうか? なぜその形式に則れば、魔法が使えるのだろうか?」

 アリスは少しの間黙り込んでいたが、やがて溜息を吐いて言った。

「……さぁね。私が知っているのは『どうしたら魔法が発動するか』ということだけ。仕組みは分かるけれど、魔法が存在する意味なんて考えたことはないわ」
「『どうやって使うか』は分かるが、『どういうものか』は分からない、か。僕とは正反対だな」
「そうね……」

 少女は『市松人形』に視線を向ける。その表情にはほとんど起伏が見られなかったが、店主はそこに一抹の「憂い」のようなものを垣間見た気がした。

「これは僕の勝手な推測なんだが――」

 店主の声にアリスは視線を戻す。

「人形は人の『起源』であり、そのことが人形と人間を関連付けているんじゃないだろうか?」

 アリスは何も言わない。ただ目が先を促していた。
 店主は傍らの棚から一冊の本を取る。タイトルは見えなかったが、アリスはその本からほんの僅かだが人形に宿る魔力と似通った気配を感じたような気がした。

「この書物は最近仕入れた物なんだが、所謂『写本の写本』みたいな物でね。原典にはまだお目にかかったことはない。しかし、僕はそう遠くない将来にその原典が幻想郷に渡るんじゃないかと考えている。たぶんそれは外の世界にとっても、幻想郷にとってもあまり喜ばしいことではないのかもしれないが……」

 そこで店主は少し考え込んだが、すぐに我に返った。

「この書物の序章にあたる部分で、世界の創造主である神が最初の人を創る場面が描かれている。なんでも、神は土をこねて作った人形に息を吹き込んで人を創ったそうだ」

 不思議な話だろう? と店主は言う。

「人を模しているはずの人形から最初の人は創られたんだ」

 相変わらず店主の話は回りくどかったが、彼が言わんとしていることをアリスはおぼろげながら理解した。

「……つまり『人形』とは『人間を模したもの』ではなく、『人間の起源』。人間の根幹部分に関わっている物だからこそ、人間に対して働きかける力を持っていると?」
「そう。そして僕はそれが人形に宿る『魔力』の正体だと思う。恐らく、人形というものは最初から魔力を注ぐ為の『器』としての役割があったんだ。そう考えれば、人形に魔力が宿るのは何の不思議もないということになる」
「どうして人形にはそんな機能があるのだと思う?」
「それは僕にも分からない。それこそ、この本の神様とやらに訊いてみないことにはね」

 そう、とアリスは無表情で頷いて、もう一度人形に視線をやった。鮮彩な衣を纏い、艶やかな黒髪をした、彼女の知らない人形。そして、そこには彼女の知らない魔法がかけられている。
 アリスはふと、昨晩出会った「月の民」を名乗る人物の言葉を思い出した。彼女は、魔法の事を「古代の力のコピー」、「まだ人間がいなかった頃の無秩序な力」と呼んでいた。その時はただ何となく心の奥に引っかかるだけの言葉であったが、今ならその意味がわかるような気がした。
 恐らく「魔法」というものはアリスが思っているよりもずっと単純なのだ。今でこそ複雑な道具や魔法陣や詠唱を必要としているが、はじまりはもっと粗野で純粋な現象だったのだろう。そしてそれが、火を「火」に、水を「水」に、そして人形を「人形」になさしめた。だからこそ今、アリス・マーガトロイドは人形を通して魔法を使うことが出来るのである。
 アリスにとって「人形」とは魔法を行使する手段である。だが実際には、人形はそれ自体が既にひとつの「魔法」だったのだ。それは誰かが目的をもって施したものではなく、ただはじめからそこにあったものであり、そしてそれは「完成していた」。

「私は正しい道に立って違う方角を見ていたのね……ほんと、一体いつになったら辿りつけるのかしら」

 アリスはぽつりと呟く。それはとても幸せそうで、とても疲れたような、小さなちいさな呟きであった。

 ぼーん ぼーん

 時計の鐘が鳴った。二人は文字盤を見る。時刻はすっかり朝になっており、窓から見える空にはすでに太陽が高く昇っていた。

「――もうこんなに時間が経っていたのね。そろそろ帰らせてもらうわ」

 アリスは椅子から立ち上がる。知らない魔法に出会った以上、また魔法を探求する日々に戻らなくてはならない。そのために早く家に帰る必要があった。

「この人形はどうする? 買っていくかい?」

 店主の問いかけにアリスは人形を一瞥すると、東洋の人形は私の趣味じゃないわ、とだけ答えた。

「おや、そうかい。それは残念だ」

 言葉とは裏腹に、店主にはそれほど残念そうな気色は窺えなかった。アリスは会釈をして戸口に歩み始める。その背中にふと思い出したように声がかけられた。

「あぁ、そういえばまだ君の名前を訊いていなかった。よければ教えてもらえるかい?」

 扉に手を掛けて、少女が振り返る。

「――アリス。アリス・マーガトロイド」
「僕は森近霖之助という。以後、『できれば』ご贔屓に」

 そうだ、と店主は百味箪笥の引き出しから四角い入れ物を取りだすと、アリスに歩み寄ってそれを差し出す。首を傾げつつ蓋を開けてみると、中には西洋歌留多が入っていた。

「それも人形と同じ、古くからある魔法の一つだ。受け取ってくれ」
「あら、対価を支払ったおぼえはないんだけど?」
「なに、お代は気が向いた時でかまわない。君には市松人形の価値を教えてもらったし、他にも色々とね。これはそのお礼だと思ってくれればいい。あとはもう一つだけ意味があるんだが――」
「?」
「――いや、それは次の機会にでも話すとしよう。またの来店をお待ちしているよ」

 そう言って店主こと、森近霖之助は慣れないお辞儀をした。



 魔法使いの少女が帰ってからしばらくして、もう一人の「魔法使い」は目を覚ました。寝癖でぼさぼさになった髪を撫でつけながら、のそのそと居間兼店舗となっている部屋へ向かう。
店主は相変わらず本を読んでいた。その背中に声をかける。

「おはようさん、香霖。何か食べる物をくれ。ぐっすり寝たから腹が減ったぜ」
「……他人の家で勝手に寝た挙句に、今度は何か食べさせろだって!? 魔理沙、君の心臓には毛じゃなくて棘でも生えているんじゃないのか?」
「惜しいな。正解は『羽』だ」

 少女の言葉に溜息を吐くしかない霖之助。もはや処置なし、である。

「なぁ、何かないのか? 食べる物は」
「うるさいなぁ。そんなに食べたければ、自分で食材を用意したらどうだ。君の大好きな茸ならすぐに取って来られるだろう?」
「ちぇっ、仕方ないなぁ。ちょっと集めてくるから鍋の用意を忘れるなよ」

 不恰好な烏みたいな帽子を頭に乗せ、箒を手に取ると魔理沙は出口に向かう。

「――魔理沙、一つ訊いていいか?」
「あん?」

 戸口で振り返った少女に霖之助は問う。

「君は『魔法』とは何だと思う?」
「はぁ? いきなり何だよ」

 目をぱちくりさせる魔理沙。突然何を言い出すんだこいつは、という表情をしていた。構わず霖之助は繰り返す。

「いいから教えてくれよ。魔法とは何なんだ?」
「決まってるじゃないか。魔法は『魔法』だよ。それ以外に何があるって言うんだ?」

 魔理沙の答えに霖之助は呆れたような表情を浮かべたが、一拍置いてどこか納得したように頷いた。

「そうか……そうだな、確かにそれ以外にはない。ところで魔理沙、存外君は優秀な魔法使いなのかもしれないな」
「なんだ、今さら分かったのか? なにせ私は『ただの魔法使い』じゃなくて、優秀な『普通の魔法使い』だからな」

 おかしそうに笑う霖之助に魔理沙は変な奴だ、と言い残すと、茸狩りへと出掛けて行った。
 少女が出て行った後の扉を見つめる霖之助。しばらくの間、目を細めて物思いに耽っていたが、やがて視線を手元へと戻す。
 窓から差し込む柔らかな日差しは、その本の表紙を照らしていた。

『Alice’s Adventures under Ground』
こんにちわ。せなかあわせです。
前回投稿させていただきました「桂枝挿話」の第二弾となります。ですが、ストーリー上の繋がりはないので気軽に楽しんでください。

お話のアイデアは「少女裁判〜人の形を弄びし少女」と「恋色マスタースパーク」の二曲の聴き比べから。
同じ魔法使いなのに、なんであんなに印象が違うんでしょうね?
あと、霖之助さんは爽やかすぎ…… 修正により、いつもの霖之助さんになりました。


7/18 追記――
誤字およびタイトルに修正を加えました。お見苦しい限りですが、ご容赦ください。

2014.12/6 追記――
今更ですが、本文を加筆修正いたしました。内容的には変化ありませんが、何かご意見がある方はコメントでどうぞ。
せなかあわせ
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コメント



0.1280簡易評価
1.20名前が無い程度の能力削除
魔法について素人であるはずの香霖との対話が研究の進展に繋がるとか、なんかこう、凄い寒かったです。
見方を変えるのは必要だけど、本来知的で頭も良いはずなのに今までそんな浅いところで研究をしていたとは、貴方のアリスにはがっくりきました。
異変が終わって魔理沙が寝るって行ってるのにアリスが中までついていくのも不自然ですし。
8.90名前が無い程度の能力削除
魔法について原作設定で詳しい霖之助の別の視点からの切り口
話の読みやすさと展開は面白かったです。
続編に期待。今度はもう少し長くして
12.80名前が無い程度の能力削除
霖之助が魔法使いに魔法を別の視点で語る、こんな珍しいパターンも面白いなって
17.80名前が無い程度の能力削除
あなたの描く東方の世界をもっと知りたくなりました。
原作のような雰囲気が漂ってきて、とても良かったです。
次回を心待ちにしております。
19.100名前が無い程度の能力削除
綺麗なお話でした。
原作の雰囲気を完璧に再現してるのに内容は新しい、まさに二次創作の鏡なss。
また次の作品を楽しみにしています!
21.90名前が無い程度の能力削除
雰囲気良いね!
22.100白銀狼削除
何だろう。言葉のやりとりから凄く原作の雰囲気が感じられる…
良いですね。次回も有るのなら楽しみに待ってます。
32.90名前が無い程度の能力削除
霖之助の丁寧口調には少し違和感を感じましたが、物語としての完成度は高いですね。シチュエーションと言葉がしっくりと溶け合っているのが素晴らしい。霖之助理論も秀逸でした。
38.70非現実世界に棲む者削除
いかにも店主と客といった雰囲気でした。素敵です。