Coolier - 新生・東方創想話

夜雀と謎の拾得物

2005/02/13 23:21:38
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 月明かりの下、風の葉音に乗って、小さなメロディが流れている。

 気ままに夜の散歩を楽しむ、夜雀の歌姫ミスティア・ローレライの耳は、そのかぼそい音色を雑多な夜の音から拾い上げた。


 ―――…………♪


「ん……? なんか、歌が聴こえるような……。どこからだろ」


 きょろきょろと周りを覗う。


 ミスティアの周囲を囲むのは、背の高い常緑樹。
 ギザギザの尖塔の群れは、夜空の月を追い落とすかのようにツンツンと尖がっていた。
 とても木立ちの合間に誰かが居るとは思えない。

 ならば、地中か?

 神経を地面に集中させた。
 惜しい。
 確かに地面に近い位置から聴こえてくるが、地面の中という訳ではないようだ。
 むしろ、なにかとても小さなものから……聴こえてくるような……。

 音のする辺りに、目を凝らし、集中してみると――ミスティアは”ソレ”に気がついた。



 月明かりの下、ぽつんと落ちている奇妙な匣。

 その匣は、柔らかい月光を浴びて白銀の輝きを放っていた。

 なにやら怪しい唸り声が、匣から伸びる白い二本の紐の先についた詮から聴こえてくる。
 
 恐る恐る、彼女はその匣に近寄り、つんつんと足先で突付いてみた。


 ―――…………♪


「わ」

 ビンゴ

 確かに音は、その耳栓のようなものから聴こえてくる。

 でも、一体コレは何なのだろう?

 妖怪……ではない、と思う。だってこの匣からは全く妖気を感じられない。

 人間の仕掛けた……罠?

 否定は出来ない。弱々しい人間どもは、力ある妖怪に対抗する為に様々な道具、霊符を開発する。

 これがその一種ではないと、どうして言えるだろう。


 だが―――


「よっ……と。ん、案外軽いわね」

 無造作にひょい、と匣を拾い上げる無警戒な鳥頭が一匹。

「どういう物なのかな? えーと、この先から音が出ているみたいね」

 よっと耳栓を耳に近づけた。すると、やはり歌が聴こえてきた。しかも、先程よりはっきりと、歌詞がわかる程度に。


 ―――…………♪………♪…………………♪

「わぁ………」



 美しい歌であった。
 
 彼女が聴いたことの無い、異郷の調べ。

 それは、いつか見た夢の物語。

 月の砂漠を旅する恋人たち、周りには自分たち以外誰一人として居ない。
 
 夜空には静かに星が瞬き、時間と共にくるくる廻る星空は――スターダストレヴァリエの如く綺麗に流れる。

 ―――星の器に注がれるは、月光の芳酒。

 消えては瞬き、瞬いては消える。

 永遠のような、儚い夜。

 旅人たちは星に願いを託し、月に自分たちのことを忘れないで欲しい、と祈りを捧げる。

 そう――――――いつまでも、いつまでも。………忘れないで………と。



「……………」

 しばし、無言で歌に聴き入るミスティア。
 軽い気持ちで拾った不思議な道具。
 なにより歌を愛する彼女が、自分の知らない歌――

 『異郷で紡がれし、恋の歌』

 を聴いて、黙っていられる筈が無い。


「………たい」

 無意識に零れる願い。


「歌い、たい……」

 抑えきれぬ想いは、夜雀のチンチン囀る口を衝き、外界へと溢れ出す。


「否、歌わなきゃだわ! この感動を……夜道を行く旅人に、伝えなくっちゃあ!」

 彼女はそう叫ぶと共に、その匣をポイっと放り投げ、バサバサと羽ばたいて夜空を翔け上がる。



「~~~~~♪」

 早速憶えたメロディを口ずさみながら、夜雀ミスティア・ローレライは往く。

 今夜は満月。

 少し欠けているようではあるが、細かいことは―――気にしない!

 暦では満月となっているのだから、誰がなんと言おうと、今宵は満月なのだ。

 夜空を照らし出す、私のステージ。

 私が紡ぐ、素晴しい歌声で………一寸先も見えない程度に、夢中にさせてやる!

 そう――





 『もう、歌しか聞こえない』





 と言うぐらい、この世界を感じて貰おう。







「お、さっそく旅人はっけーん!」

 見れば、夜空を飛行する二人の人影。

 先刻の歌にある通り、恋人同士なのかしら。

 だったら―――



「ちょ、ちょっと待って~!」

 訝しげに声のする方角を見やる人影たち。

 あ、そうか。私ってば夜雀だから、はっきり姿を見せちゃあマズイわね。

 ふふふ……何も見えない、何処から聞こえてくるのかも分からない……ミステリアスな謎の歌!

 もし、人間だったら私が―――鳥目にしてあげる!




      夜雀の怪

       ミスティア・ローレライ

        Mystia Lorelei      
  


 彼女の華麗なステージは、これから始まる――― 











 










 無論、弱っちい彼女の弾幕では―――すぐに強制終了させられるのだが。

 現実は、伝説のリサイタルのようには、いかないのだ。
2/17までは落ち着く予定。

今は かなり冷静ですよ? 自分。

なんで、唐突にミスティア話。
しん
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