Coolier - 新生・東方創想話

中立

2012/10/15 09:42:57
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貴方は波長の前に位相がずれているのね……
決して地上の生き物と干渉することのない波。
だから人を裁けるのね。
ー東方花映塚より、鈴仙・優曇華院・イナバー


「ねぇ、あなたたちが一番恐ろしいと思うもの、人ってなに?」
「なんなのいきなり? そんな弱味を他人に言うわけないでしょうウドンゲ」
「いやいや、私は弱味とかそんな難しいことなしに興味があるだけよ咲夜! 気にならない? 納得するような恐ろしいものや、他人からしたらすごいくだらないものが恐ろしいものかもしれない。それはそれで面白いしね。何よりお互いを深く知り合えるじゃないの」
「たしかにいいかもしれませんね…その恐ろしいものへの対策も聞けるかもしれませんし」
「そうでしょ妖夢!小町はどう思う?」
「…まぁいいんじゃない? たまにはベタベタ仲良く秘密を打ち明けたりするのも。ここにいる奴らは毎日苦労が多いだろうからねぇ」
「あなた以外はそうでしょうね。はぁー…わかりました。なら話しましょう、恐ろしいものとやらを」
「ありがとう咲夜!じゃあじゃんけんで順番を決めましょ!」

ここはとある旅館。そこの部屋の一室で4人の人妖が酒を飲み、語らい合っていた。
紅魔館の十六夜咲夜。永遠亭の鈴仙・優曇華院・イナバ。白玉楼の魂魄妖夢。彼岸の小野塚小町。
時刻は深夜、丑の刻。友人同士の泊りであれば、何か刺激的で、非日常的な話を求めたくなる時間帯だ。

「えー、私から!?」
「まぁ普通は言い出しっぺからなんだから、当然の結果なんじゃない?」
「んー、じゃあ良くお聞きになってくださいよ皆さん…私の恐ろしいと思うものと、そう思うようになった経緯を…!」

それぞれの"一番恐ろしいと思うもの"を話すという、ありふれたテーマの話が始まった。

「…と言うわけなんですよ」
「ふふふっ、妖夢…それ、くだらなすぎ!」
「な、何を!私はかなり真面目に悩んでいるのですよ!」

たとえ軽い気持ちから始まったとしても、こういう話で"マジな話"をする者が出てくる。

「おや、次はあたいかい」

これは彼女の"恐ろしいと思う人"の話である。


中立


「小町か〜、またおふざけモードに入っちゃうね」
「またってなんですか鈴仙!私はさっきの話は大真面目に話したんですよ!!」
「はいはい怒らないの妖夢… ということは私が最後ね」
「咲夜の恐ろしいもの…すごい気になるし、相当怖い話になるだろうな〜」
「なんだいなんだい、全くあたいの話にゃ期待してない風だねあんたら」
「だって、ねぇ? 小町の恐ろしいと思うものってどうせ、閻魔様でしょ?」
「………まぁ、その通りだけど」
「やっぱりねぇ〜 いつもサボってるんだから恐い人になっても仕方ないと思うけど…」
「黙って聞きましょうよ鈴仙。それなりに面白い話かもよ?」
「言ってくれるね〜……じゃあ始めるよ」




ある一人の少女がいた。その子は恋をしていた。その子が恋をした相手は、閻魔様で、どうみたって性格は正反対だった。閻魔様の方は仕事熱心で、丁寧な性格。
その子は遊びが好きで、仕事は適当。かなりガサツな性格だった。
その子はある日の人里の茶屋で閻魔様に会ったんだ… 一目惚れだった。
彼女のキリッとした佇まい、美しい顔に一瞬で夢中になっちまった。 おっと、同性愛とかつまらん突っ込みはよしておくれよ!ここは幻想郷。そんなん気にしている奴自体少ないだろうからねぇ。

「初めまして!○○と申します!あなたは四季映姫様ですね?」

その子はすぐ声をかけた。人の生は短かい、当然のことさね。

「えぇ、えぇ、そうですが私に何か?」
「いえ、話で聞いていたよりも美しく、優しそうな人なので、声をかけたくなりまして」

かと言っても、その子はいきなり告白なんざ出来なかった。そらそうさ、あの四季様だからね。
……でも今思えば、その子がいきなり情熱的な告白をしなかった理由は別だったと思うね。 彼女はなんとなく、気付いていたんだろう。
おっと!話がそれちまったねぇ。
それでそれで、その子はなんとか四季様と親しくなることができた。彼女は何せ人間のわりに、いろんなことをしていたからね。話す話題がたくさんあった。
二人はよく顔を合わせるようになった…といっても、人里に来た四季様をその子が捕まえるという感じでだがね。

「あなたはいろいろなことをしているのですね。それはそれは楽しい人生なのでしょう。 ですがしっかり苦労をして、善行を積み重ねなければ、地獄へと堕ちてしまいますよ?」

四季様はよくこう言っていた。だが、珍しくあの長い説教はその子にはしなかった。

「またまた、そんな怖いこと言って!そんなことより、この前…」

その子は四季様のそのような忠告は聞きやしなかった。何せ今が良けりゃいいって性格だったし、心のどこかで四季様とこんなにも仲がいいのだから、まぁ大丈夫だろうとも思っていたんだろうね。

「四季様、随分あの子とよく話してますね!もしかして…気になるんですかぁ〜?」

「そういうわけじゃないわ。あの子が勝手に私に話しかけてくるんですもの」

そして時は流れて、その子と四季様が会ってから2年が経っていた。

「映姫様…私、あなたに会った時から大好きでした。ずっと、ずっとこの思い温めてきました。私とどうか、付き合ってくれませんか?」

「いいですよ、ただしこのことは他言無用です」

こうして二人は付き合うことになった。
幸せだっただろうその子は。 ただ、一つだけ気になることがあった。
果たして映姫様は、私を見てくれているのだろうか? いや、それ以前にちゃんと何かを見ていることがあるのか?
その疑問はどんどんその子の中で膨らんでいって、やがてそれは不満に変わり、四季様に問い詰めた。

「ねぇ!映姫はいつも一体何を考えているの?私のことを考えてくれてるの?いや、何かに対して感情を抱いたりしたことあるの?」

「えぇ、えぇ、ありますとも。私はしっかりと、あなたたちを見てますよ?全てのものを見てますよ?心配しないでください」

…その時の四季様の目!!どこまでも平板で、奥行きを全く失っていたらしい。
その子は怒りと、恐ろしさで四季様の元から離れてしまった。
鬱憤が溜まっていた。早く早く発散しなくてはならない。そらぁ今まで我慢なんかよくしなかった子だからね。
その子は四季様という女性が好きだったが、男に抱いてもらったことも何回もあった。今回は鬱憤を早く晴らそうと、危険な橋を渡ってしまった。
その子は複数人の男に襲われそうになった。人気のない場所。助けなどくるわけがない。ありったけ声を出しても誰も気づかない。絶望的だ。

四季様が通りかかった。飛び出した彼女を探しに来たのだろう。その子は感動の涙を流したさ。
あぁ!映姫!私のために…! ってね。
しかし四季様は、また、あの例の目でその子を見ていた。
その時その子は悟ったんだ。

彼女は全く何も見ていないんだ。と

あの時初めて会った時。私が話をしている時。食事をしている時。 何物も見ていなかったんだ彼女は。

どうして!どうしてなの!!!私はこんなにもあなたを愛していたのに!!!!

四季様は何も言わず、その場を去っていった。
恨みつらみを叫び続けながら、男どもに辱められる彼女を置いてね。


後日、彼女はあたいの舟に乗った。
そしてあたいはこの話を聞いた。
……随分と、長い話だった。

「四季様!」

「なんです小町?仕事はまだあるでしょう?」

「いえ、あたいの質問に答えてもらいます。どうして!どうしてあんなことを?」

「あんなこと? あんなこととは?」

四季様をもう既にそのことを全くもって忘れているようだった。

「ふざけないでください!あの、あなたの恋人のことですよ!! 聞きましたよ全部… あんまりですよ… 何故ですか四季様…」

四季様はそこで、 あぁ と呟いて言い始めた。

「いや、私は人間のことをよく知っているつもりだったのですがね…なにせ地蔵からこの身分に上がったので。ですが理解が足りなかったようなので、あの子とそういう関係になったのですよ。いろいろと人のことを知ることで、少しでも裁判の役に立てればとね」

あたいは一瞬四季様が何を言っているのかわからなかった。
そして愚かにも、その上司に掴みかかってしまってね。

「そんなことをあたいは聞いているんじゃない!あんたは…あんたはどうして助けなかったんだ!!目の前を通ったのだろう!! なんで助けないんだ!!!」

「小町、落ち着いてください。まずその手を離してください」

その時あたいを離そうとした四季様の雰囲気たるや…恐ろしかったね。 彼女は事務的にあたいの手をねじりあげ、あたいを突き飛ばした。

「小町、あなたは一体何を言っているのです? 彼岸の者が此岸の者に過度な干渉するのはタブーなのですよ? 私たちの管轄では無いのですから。こちら側で裁くこと、それが私たちの責務です」

「か、彼女は!あなたのことを愛していたのですよ?それなのに…それなのに…」

「はぁ…小町、いい加減にしてください。そう、彼女は幼過ぎた。私と会った時すでに、取り返しがつかないくらいね。歪みがああいう形で出るのも仕方なしですよ。愛する?彼女は愛していただろうけれど、私はそうではありません。というか、私は何者も特別扱いしません。できません。話は以上ですよ。ほら、立って仕事にいきなさい」





「と、言う話さ」
「…」
「幻想郷には、恐ろしい奴らが山ほどいるよねぇ。でもあたいは、どいつと比べても四季様が一番恐ろしいと思う。彼女はなーんにも興味がないのさ。裁判のこと以外ね。あらゆることがそれ以外どうでもいいのさ。究極の中立。それが彼女であり、閻魔様なのさ」
「でも…それは仕方のないことなのでは?」
咲夜が口を開く。
「そう!仕方のないことなんだよ…でも、それでも、そうわかっていても、あたいは彼女が恐ろしい。あの無関心な平板な目や、冷たい手が恐ろしい。
あの方は紛れもなく、怪物だ。どんなことがあろうと、表情一つ変えない、恐ろしい怪物だ」


妖怪を退治すること。
これが今の貴方が積める善行よ。

もっと人間に恐怖を与えること。
これが今の貴方が積める善行よ。


初投稿です。これからよろしくお願いします。

7様
アドバイスありがとうございます。自分は結果を急ぐ性格なので、文章にもそれが出てしまいました。これから焦らずゆっくりと楽しみながら書けるように頑張ります。
お豆腐
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コメント



0.590簡易評価
7.70名前が無い程度の能力削除
早く結論を書きたくて仕方が無い様な感じがしました。二人称なので淡々と進めがちなのは分かりますが、〜した、〜だった。の様に、物語の事実だけを言うのはあまり面白味がありません。文章として素晴らしいと言うより、単に物語を表現した、といった印象です。ですが、四季映姫が悪者ではなく、あくまで中立の立場で、だからこそ恐怖を感じるというのは関心致しました。前半の部分もキャラクターの個性が存分に出ていて良かったです。次回も楽しみにしています。