Coolier - 新生・東方創想話

貴方の罪状は以上です

2007/03/23 19:15:36
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 かんかん。



 今日も、閻魔様が木槌を鳴らします。
 静かだった部屋の中を木槌の音が駆けめぐって、それは四方を囲む壁に吸い込まれていきました。
「貴方の罪状は以上です。行きなさい」
 閻魔様は目の前の人間に告げると、凛とした瞳を閉じます。
 次に眼を開けた時には、宣告を待つ新しい人間が、閻魔様の前に立っていました。



 かんかん。



 かんかん。



 かんかん。



 かんかん。



 賑やかな木槌の音が聞こえて、また静かになって、壁時計の針が進んでいきます。



 かんかん。
 夕暮れ時、閻魔様の持つ木槌が鳴りました。
「貴方の罪状は以上です。行きなさい」
 今日は珍しく小町が頑張っているのか、働いても働いても仕事が終わりません。
 余りの忙しさに、そして小町の気まぐれに、閻魔様は文句を呟きつつも嬉しそうな顔をしていました。



 かんかん。
「貴方の罪状は以上です。行きなさい」


 幸せそうな笑顔でそんなことを言うものだから、ただでさえ死んでしまって心中穏やかでない人間は、はらわたが煮えくり返ってしまったのでしょうか。
 閻魔様をぎらりと睨んで、こう言いました。
「私にこれから責め苦を味わわせるのが、そんなに楽しみかね?」
 閻魔様は怪訝な顔をします。
 そして人間を見直してみると、これから彼が行くべき場所が、地獄道なのを見て納得しました。
「私は、生きていた時に何百という人間を殺した。戦争じゃないぞ。科学の発展の為だと思ってやったのだ。それは大事な家族が、子孫が、いつか私の技術の恩恵を受けられるだろうと思ってやった。大量の新薬をつくった。研究室に籠もり、人の叫び声を聞きながら仕事をした。……ああ、今でもありありとその日々が思い出せるよ。しかし、それらは確実に私達の技術を進歩させた。病気は少なくなり、どんな怪我も治せるようになったのだ。私と、私の同僚は心底喜んだ。私達の技術が人々を救っているのだと。私達の技術が人々に認められたのだと思った。なのになんだ! 薬の開発をしていた時の事情が少し漏れた位で、ヤツラは私を裏切った! きっと戦争が不景気だから、ヤツラは槍玉を挙げたかっただけに違いない! そうだ! きっとそうだ! ヤツラが私をハメたのだ! ……家族もそこには居られなくなった。私にあちらで下された判決は死刑だよ。私はどんな世界でも嫌われ者だ。利用価値が無くなればあっという間に捨てられるのさ。どうせ、あんたもヤツラと同じだろう? 私を地獄に落として嘲笑うんだ! そうだろう!? そうに決まっている!!」
 どこか要点がずれている人間の問いに、閻魔様は答えました。
「貴方は、その身に満ちた罪によって地獄道に落とされます。罪が消えるまで、そこで償い続けてもらいます」
「何故だ!? 何故私の技術を認めない!? 何故私の功績が認められないのだ!?」
 目の前の人間は吐き出すように叫び続けます。
 笏を、手持ち無沙汰にこりこりと指で掻いて、閻魔様は一つ溜め息をつきました。
「貴方は人を。いや、生き物を殺す時、どんな顔をしていましたか?」
「――」
「殺すこと自体には、あちらでは罪があっても、こちらではさほどの罪にはなりません。こちらで罪になるのは、殺した理由です」
「……はは。はは――ははははは。ァァァっああはははハハハハハハハハハハハハハ!」



 かんかん。
 木槌が鳴ると、獄卒達が歪な、嬉しそうな顔で笑い続ける人間を連れて行きました。










 かんかん。
「貴方の罪状は以上です。行きなさい」
 女へ向けてそう言うと、閻魔様は一つ溜め息をつきました。
 ただでさえ死んでしまって落ち着かない女は、きっと溜め息の意味を勘違いしてしまったに違い有りません。
 不安げな顔で閻魔様を見据えて、こう尋ねました。
「……閻魔様。私は地獄に落ちるのですか?」
 閻魔様は慌てて居住まいを正しました。
 そして見直してみると、これから女の行くべき場所が餓鬼道なのを見て、少し目尻を下げました。
「いいえ。貴方は餓鬼道へと行きます」
「……ああ。……そうですか。そうですか、地獄じゃなくて良かった。怖いところと聞かされていますもの」
「貴方は餓鬼となり、人間界の一ヶ月を一日として、五百年間、飢えと渇きに苦しむことになります」
 女は閻魔様の言葉を聞き終えた後、しばらく放心したような顔のままでいました。
 余りにも長いこと黙り込んでいるものだから、閻魔様が仕方なく二の句を継ごうとした時、女の口がぱくぱくと動き始めました。
「……な、なんで。なんででしょうか? 神様を敬い、家族に尽くしてきた私が、何故そんな恐ろしいところに行かされるのですか!?」
 女の人の手はぷるぷると震えていました。
 閻魔様の手は軽く握られていました。
「生まれた時、貴方は貧しき身でした。夫と契り、世俗で言う貴き身分になりました。友人や思い人を捨てて、自分だけ成り上がった心持ちがいけないのだと、今、心の中でお思いでしょう? それは全くの勘違いです」
「…………」
「貴方は次に、毎日、それこそ山のように屋敷を訪ねてきた貧しき者達に、施しをしなかったのがいけなかったのかとお思いでしょう? それも勘違いです」
「……じゃ、じゃあ何が」
「貴方は、屋敷を訪ねて、施しを乞うた者達の顔を覚えていますか? 声を覚えていますか?」
「――え? あ」
「貴方は彼らのことを忘れてしまった。一つ一つの思いは小さかれ、積み重なった彼らの思いの重さが、清算されぬまま、貴方の足に罪としてまとわりついているのです」
「…………」




 気付くと、女の周りを獄卒達が囲んでいました。
 女はちらりと恐ろしげな彼らを一瞥してから、もう一度閻魔様を見据えました。
「……ごめんなさい」
 そう言い残すと、彼女は獄卒に腕を捕まれました。
 引っ張られていく途中、
「その言葉は、次に生まれ変わる時までとっておいてください」
 閻魔様は淡々とした声で言いました。










 かんかん。
「貴方の罪状は以上です。行きなさい」
「一つ知りたいことがある! 閻魔よ、教えて頂けぬか!」
 目の前の男はいきなりそう言いました。
「ええ、よろし――」
「先ほど女が来なかったか? こう、くりっとした目をしていて、痩せた、髪の長い、可愛い、不安げな顔をして、そわそわと落ち着かぬ様子の女だ!」
 はあ、と閻魔様は早口な男に呆れた顔を向けながら、少し思い出してみることにしました。
 そういえば、一つ前に来た人間がそんな女でした。
「来ましたよ」
「……そうか」
 聞くなり、男は黙り込んでしまいました。
 先ほどとは打って変わって、死んだように静かになりました。
 や、既に死んでいますけれど。
「……その者は我が妻だ。私は百人ほどの兵隊の長をしていた。妻は私の遠征に付き従い、共にいくさ場へと向かったのだが、乗っていた馬車が焼けてしまった。妻がどうなったのか、分からずにいたのだが……」
「それはご愁傷様です」
「……閻魔に慰められるなんておかしな話ですな。ははは! いやあ、良かった! その事を聞けて本当に良かった!」
「へえ、それは何故ですか?」
「閻魔なら私の考えくらい分かっておろうに! はは、あのまま生きておれば、何が起こるか分かったものではない! きっと敵の手勢の手に落ちる。私がいなくなった後、そんな妻の姿などは見たくないからな! 炎に焼かれ、次の生を受ける方がよっぽど楽だろう! 良かった! 本当に良かった!」
 からからと笑う男に応えるように、閻魔様は微笑んでいました。
 口元は笑ませていましたが、目元は哀しそうに下がっていました。
「貴方は阿修羅道へと行きます。戦い続けます。よろしいですね」
「阿修羅か。……私はいくさに、身も心も捧げた。身が滅びた今、心が滅びるまでも戦い続けようではないか」
 息を整えるように喋ると、男は閻魔様に一礼をして去っていきました。










 かんかん。
「貴方の罪状は以上です。行きなさい」
 目の前の男は、仏頂面で閻魔様を見据えていました。
「私はどこに行かされますか?」
「畜生道です。貴方は弱肉強食の世界の中で、おおよそ千八十回ほど生き死にを続けます」
 ぎらりと、男の小さな目が油断無く光りました。
「何故でしょう! 人民に! 国に! そして神に尽くした私が何故そんなところへ行かされなければならないのですか!」
「貴方は側近によって刺され、ここに来たのでしたね」
「そう。……私は裏切られた! 今まで間違ったことなどは何一つとしてやっていないつもりだ! 国を正しき方向へと導く為に闘った! 全ての人民が救われるように心がけた! 何故です。何故私がそんなところに行かねばならないのです!」
「まず語弊のある言葉を正しましょう。貴方は全ての人民の為では無く、一部の商人の利益を助長する為に進んで民を煽動し、戦争を誘発させた。これが貴方の行いです」
「それは違う! 私は人民の窮乏を憂慮し、その、崩れぬ国を、つくる為にだ!」
「貴方の、先ほど述べた行い自体が罪なのではありません。それに、ここは現世ではありません。他者の目を気にする必要などはありませんよ」
「……な、何だと? 戦争の報いでないというのなら、何がいけないというのだ」
「貴方は確かに無私の人でした。いつでも国のことを第一に考えていました。それは常人にはできる姿勢ではありません。それは輝きにも似たものです」
「何が? 何が言いたい」
「貴方の罪は、その輝きに目が眩むばかりに、限りない数の嘘を積み上げてきたことです。一つ一つは大したことはありません。しかし、その積み上げられた嘘の数は、燃え盛る太陽まで貴方を突き上げることでしょう。貴方に裏切られた人々の思いが、貴方を持ち上げているのです」
「――な、そ……そん、そんな、それは詭弁だ! 私はいつでも国の為を思って!」
 いつの間にか、男の周りを獄卒達が取り囲んでいました。
 ちらりと、閻魔様は獄卒に目配せをします。
「それでは、行きなさい」
「待て! 私はそんなところに行くべきでは無いのだ! まだやらねばならないことが、たくさん! 嫌だ! 行きたくない! 待ってくれ! 頼む! 頼むぅぅぅぅぅぅぅううううううう」
 声は段々に遠ざかっていって、やがて聞こえなくなりました。










 かんかん。
「貴方の罪状は以上です」
 行きなさい。と告げる気力が、閻魔様には残されていませんでした。
 久しぶりに仕事がたくさんあったせいなのか、それともどうなのかは分かりませんが、閻魔様は疲れ切ってしまっていました。
 目の前にいるのは人間の少女。 
 まだ十を少し過ぎたばかりにしか見えない、幼い子供でした。
「閻魔さま。……私は、これからどうなるんですか?」
 その子供が、上目遣いに閻魔様を見ました。
 小さな顔に付いた瞳が、閻魔様の瞳を見据えていました。
 閻魔様はしばらく黙っていました。
 彼女は、今までここにやって来た物凄い数の魂達を、ずっと見てきた閻魔なのです。
 少女の顔を見て、少女の行いを見て、少女の死に方を見て、それらを考慮すれば、判決を告げた時、少女がどんな顔をするのか。
 閻魔様にはわかっていたから、黙っていたのでした。
 黙っていたかったのでした。



「……ごめんなさい」



 それは、少女の声でした。



「……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。……お母様」



 閻魔様は静かに聞いてやります。



「お父様を殺してしまってごめんなさい。ひとりぼっちにさせてしまってごめんなさい。勝手に死んでしまってごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。……辛かったの。もう嫌だったの。お父様が怖かったの。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
 ぽつり、ぽつりと、雨のように落ちた言葉はやがて止みました。
「貴方がこれから行くべき場所を、知りたいですか?」
 閻魔様が尋ねます。
 相手の肯定を得ないと、その言葉が出せないくらいに、閻魔様は疲れていたのでした。
 こくりと、目の前の少女は俯いたまま頷きます。
 瞳を見据えると、閻魔様は息をすう、と吸い込んでから言いました。



「貴方は人間界へと戻ります」



 静かな声は、まるで夜の闇に溶けていく梟の鳴き声のように響き渡りました。
 目の前の少女は震えていました。
 顔を伏せて。
 彼女が落ちる場所は、地獄などではありませんでした。



「何でですか!」



「私は、またあんな辛いところに戻らないといけないんですか!? ……また、お母様のような優しい人を哀しませなくちゃいけないんですか?」
 少女は顔を上げて、きっ、と閻魔様を睨みつけていました。
 閻魔様が、やはり、とでも呟きたげに目尻を下げて、淡々と言います。
「貴方の父殺しの罪は、確かに重いものです。本当なら、貴方は人間界などへと戻らずに、地獄に落ちるべきだったのかも知れません。しかし地獄は苦しくて、恐ろしいところです。人間界に戻れるならば、その方が貴方にとって――」
「いいえ! ……私なんかが戻ったら、また誰かを泣かせます。また誰かを殺しちゃうかも知れません。地獄が恐ろしいところなのは知ってます。けれど、わ、私が誰かを哀しませるのは、もう、嫌なんです」
 少女は瞳に涙を溜めていました。
 力が抜けてしまったのか、床にぺたりと座り込んでしまいました。
 閻魔様が声を掛けます。
「……貴方は、そんな哀しい顔をしてはいけません」
「……なんでですか」
「貴方の笑顔が、貴方を人間界へと戻したからです」
「……え?」
「……母と過ごす時間は楽しかったでしょう? 皆と笑う時間は楽しかったでしょう? その時間を。その笑顔を。世に生をもたらしてくれたのは、紛れもなく貴方の父と母なのです。その片割れを殺した罪だけがあったならば、貴方は人間界へと戻るには、徳が至らなかったでしょう。……けれど」


 
「貴方はどんなに辛い時でも、他の人々を励まそうと、進んで笑いました。五日食べなかった日の夜を覚えていますか? 一枚の布を分け合った夜を覚えていますか? 貴方はその時も笑顔でいた。屋根の無い空の下で眠る生活をしていた時も、寒くて凍えそうな冬の日々も、更には父に乱暴をされた日の翌朝でさえも笑顔でいた。それもつくった笑顔では無かった。貴方は人々の幸せを見るだけで笑えたでしょう。それが傍から見れば、どんなに些細な幸せであっても、どんなに馬鹿げた幸せであっても、貴方は人々に共感することが出来たでしょう? 笑みが勝手にこぼれたでしょう? それが常人には出来ないのです。貴方の笑顔は多くの人々を幸せにしています。多くの人々を笑わせています。……いや、笑わせていた、と言うべきでしょうか」
「…………」
「父を殺してから、貴方はいなくなってしまった。その翌々日に死にました。貴方がいなくなったことを悼む人間は……貴方が思っていたよりも、ずっと多いのです。周りの皆が哀しみました。貴方の母だけではなく、他の何人もの人間が涙を流したことを、私は知っています。こっそりとパンをくれた男の子の笑顔を覚えていますか? 抱き締めてくれたお婆さんの笑顔を覚えていますか? 煙突の上の景色を見せてくれた男の人の笑顔を覚えていますか? 誕生日を家族のように祝ってくれた女の人の笑顔を覚えていますか? きっと、貴方は皆のことを忘れてなんていません。それと同じように……皆も、貴方の笑顔を忘れることはありません」
「――」



「貴方の笑顔は徳となって。同時に罪にもなって貴方の背中に乗せられています。……貴方は皆を辛い目に遭わせました。その罪の清算を、これから人間界で行いなさい」
「……わかり……ました」
 すっくと、少女は立ち上がりました。
 閻魔様の声に応えるずっと前から、嗚咽の音が辺りに響いていました。
 涙がぽたりと床に落ちます。
「貴方は誰かを幸せにしなければいけません。誰かを笑わせてあげなければいけません」
 少女は閻魔様の声を聞いて、震える唇をきゅっと締めました。
 涙が雨のようにこぼれ落ちる顔を、閻魔様へと向けます。
 最後に笑って一礼をしようと、少女は哀しみに歪む顔を、必死に微笑ませようとしました。
「閻魔さま。……あ。……あ、りがとう、ございま、したっ」
「そんな顔だと、人に笑われますよ」
 少女の顔が、一瞬だけ怪訝そうな顔で固まって。
「……あは。あははははははは!」
 そして大きく、楽しそうに綻びました。
 肩を揺らして、とても楽しそうな顔で、少女は笑っていたのでした。
 とてもすてきな笑顔でした。
 閻魔様も、にこりと微笑みます。
「貴方の罪状は以上です。行きなさい」
「……はい!」
 少女は涙をがしがしと拭くと、再び歩き出しました。




















「やあやあー。今日の分の仕事、やっと終わりましたよー」
 先ほど少女が出て行った場所から、賑やかな死に神がやってきました。
 閻魔様は無言で死に神へと歩み寄ります。
「なんか外でちょいといざこざがあったらしくて、死ぬ人間の多いこと多いこと! 人心の乱れってヤツですねー。死に急ぐようなヤツラが多くて敵いませんよ。ま、お陰で久しぶりに渡しも多かったし、いい運動になりましたけど――って普段さぼってるって意味じゃありませんからね! 今日が多かっただけですからね! あは、あはは、あはははは!」
 慌てておどけたような顔をしてみせて、死に神は底抜けるような笑い声を上げました。
 ひとりで一刻は喋れそうな死に神の前で、閻魔様が俯いていた顔を上げました。
「こまち」
「――ハ、ハイ!」
 びくっと震えると、死に神が背筋を伸ばして閻魔様を見ます。
 自分の名前を閻魔様が呼ぶ時は、大抵長ったらしいお説教が始まる時だと理解しているのです。
 だから条件反射なのです。
 閻魔様はにこりとも笑わずに、死に神にこう告げました。
「……お酒、一緒に飲みませんか?」
「へ?」
「奢りますよ」
 死に神の伸びた背筋が、ぐだらーっと弛緩しました。
「あっはははは! なあーんだ。てっきりあたいはまーたお説きょ……あ、あ有り難いお話かと思ってああっはハはハはハはハはハ!」
 死に神の声が裏返っていました。
「アハハハハハ! アハハハハハハ! ……あは」
「…………」
 黙り込んでいる閻魔様。
 死に神の背中を、ぞっとするような冷たい水滴が伝います。
 そーっと横を向いて、俯いたままである閻魔様の顔色を窺いました。
 綺麗な髪に隠されて、その目元は見えませんでした。
 おそるおそる、死に神が視線をもう少し下げてみると、閻魔様の唇が哀しそうに、一文字にきゅっと結ばれているのが見えて――死に神は理解しました。
 目尻を哀しそうに下げます。
「……えーき様」
 ばしっと閻魔様の肩を思い切り叩いて、
「今日は死ぬまで飲みましょー!! 朝までパラダイス! いや、フィーバーフィーバー! いい店ありまっせー! そして明日は二日酔いするだろーから休みくださいッ!」
 早口の死に神に、ぷっ、と閻魔様が吹き出します。
「……休みはダメです。遅刻は認めます」
「よおーし! それなら五時出勤しますよッ! あ、もちろん夕方! 快眠で疲労もサッパリ!」
「そうしたら、私は明日、貴方の魂をこう裁きますね。『飲んだくれて他人に迷惑をかけたこと。仕事を丸一日サボったこと。器物を損壊したこと。か弱い上司を泣かせたこと。乙女の醜い二日酔いの実態を公衆の面前に晒したこと。貴方の罪状は以上です。地獄に落ちなさい』」
「だっはははははー。あたいが乙女だなんて照れるなあー。このこのー」
 死に神が閻魔様を肘で小突いて、ごすっと笏叩きの刑にされました。
 いつの間にか閻魔様の顔には微笑みが戻っていました。
 笑いながら歩くふたりの姿は、段々と小さくなっていって、やがては見えなくなりました。










ただ、少し弱気になったえーき様と、優しく慰めるこまちが書きたかっただけなのです(ちょっぴり本当)。
……半年くらい前に書いたのを、お彼岸で思い出してうpらせて頂きました。
あおのそら
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コメント



0.1720簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
優しすぎるが故にえーき様は色々溜め込んじゃいそうですね
この閻魔様にはこまっちゃんのような存在がやはり欠かせない
8.10074削除
最後で救われた
12.50名前が無い程度の能力削除
この手の作品は評価が難しいな。
映姫の判決内容に不満を感じさせてラストでブワッって狙いなんだろうけど
何か仕掛けて来るのはわかったし、その映姫の判決に作者の思惑が透けて見えて
物語に集中できなかった。
19.100名前が無い程度の能力削除
みなまで語らずとも映姫様の心情を理解できる小町が良いです
25.無評価あおのそら削除
読んでくれた皆様、どうもありがとうですー。
コメントにレスを付けさせて頂きます。

名前が無い程度の能力さん ■2007-03-23 18:25:44
えーき様とこまっちゃんは私の中で、何故か他キャラより激しくオリジナルとかけはなれている気がします(苦笑)。
でも、オリジナルも二次も含めて似合いのコンビだと感じるんですよねぇ。なんとなく。

74さん ■2007-03-23 18:39:58
私、バッドエンドは基本的に大嫌いなのでw
意外性が少なくなるという意味ではあまり宜しくない。

名前が無い程度の能力さん ■2007-03-23 21:01:49
映姫の判決については、私の価値観を通して決めている為に違和感ばりばりに覚えられたと思います(笑)。
第一、ZUNさんと違って私、怠け者ですし……w
しかし話の筋が読めてしまったというのは、ひとえに私の技量不足であります。精進致します。
具体的な批評は、作品の見直しに助かるのでとても有り難いです。

名前が無い程度の能力さん ■2007-03-24 00:55:24
そこは悩むことなくすらすらと書けました。
何せ最後のシーンにこの話の主題が詰まっておりますゆえ(三分一厘四毛くらい本当)。
31.40名前が無い程度の能力削除
下で誰かも言っていますが確かにこの手の話は判断が難しいですね。
話の構成は嫌いじゃないのですが、肝心の裁判風景が少し幼稚に感じてしまいました。
分かりやすい悪人や善人は書きやすいですが陳腐でもあります。
36.80名前が無い程度の能力削除
これは最後の文がなかったら、と思ってしまいました。

裁判部分は寓話的な要素があり、一個人としては良い展開でした。
ですが、最後の小町で少し救われてる映姫様に目が行ってしまいました。