Coolier - 新生・東方創想話

ふきのとう

2010/02/06 01:13:28
最終更新
サイズ
8.88KB
ページ数
1
閲覧数
701
評価数
2/16
POINT
680
Rate
8.29

分類タグ

 ふきのとう

と言っても、昔いたフォークグループの事ではなく、言わずと知れたフキの蕾のことであります。
まだ一面雪に覆われた真っ白い地面からぴょこっと顔を出す健気な姿には思わず、たくましいな! と、声をかけたくなるものです。
その蕾を摘んで、てんぷらやふき味噌にして、独特のほろ苦さを味わう事によって春の訪れを満喫出来るというわけであります。
ふきのとう。それはまさに春を告げる使者と呼べるでしょう。
そしてそれは、幻想郷の住人にとっても同じでありました。


「……ないわねぇーふきのとう」

 まだまだ雪深い山の中の川べりをもんぺに藁ぐつ、そして背負い篭という昔ながらの格好で歩く少女がおりました。
博麗霊夢。彼女はもう数時間も練り歩いていましたが、探し歩けど探し歩けど、目的の獲物は見つけられずにいました。
獲物と言うのは勿論ふきのとうの事です。
本当なら家の近くにもあと少し経てば生えてくるのですが、どういうわけか今年に限っては誰よりも早く食べたいという欲が彼女の中に芽生えてしまい、それでわざわざ山へ取りにやってきたのでありました。

「まだ時期が早かったのかしら……」

なんて呟きながら思わず空を仰ぎますと、眩いくらいの爽やかな青空が広がっています。と、その時です。その青空を一点の黒い影が横切ったかと思うとその影はどんどん大きくなっていき、やがて彼女の目の前でぴたりと止まりました。

「おやおや、誰かと思えば博麗の巫女さんではないですか」

影の正体は鴉天狗の射命丸文でした。

「一体こんな所でなにをしているのですか?」
「ふきのとう。ふきのとう採りしてんの」
「ふきのとうですか?」
「そ。ふきのとうよ。てんぷらにすると美味しいのよ」
「ほうー。そうなんですかー」
「そうよ」
「そういえば、さっきこの下の沢の方にも人がいましたねー」
「ほんとう?」
「ええ、もしかしたらその人も、ふきのとうを採っていたのかもしれません」
「ふーん、ということは私以外にも採ってる人がいるというわけね」
「そうなりますね」
「これはうかうかしていられないわ」
「しかし、地味な格好ですね」
「仕方ないでしょ。雪の中なんだから」
「いや、結構似合ってますよ」

と言いながら彼女はパシャリと霊夢を写真におさめます。

「それは褒め言葉なのかしら」
「どうぞお好きに解釈してもらって結構ですよ」
「ところであんた今暇?」
「え? ええ、まぁ特には何も」
「じゃあ、あんたも手伝ってよ。採れたら山分けしてあげるからさ」
「ふーむ。悪い話ではないですね」
「でしょう?」
「ええ、巫女の面白い姿を目撃できるかもしれませんし」
「何か動機がおかしくない?」
「そうですか?」
「あんたは私に何を期待してるのよ」
「いえ、あなたはただ普通に行動してくれればそれで結構です。それで十分ネタになりますから」 
「ネタって……まぁいいわ。一人より二人の方が楽だし。それじゃ……」
「さて、それでは私は、上からあなたの様子を見守ることにしますね」
「待てこら。あんたも一緒に探しなさいよ!」
「ご心配なく。もしふきのとう見つけたら合図を送りますから」

そう言い残すと文は天高く飛び上がり、やがて完全に姿が見えなくなってしまいました。
これでは到底合図なんかわかりっこありません。そもそも彼女が地面のふきのとうを探せるのかどうかも怪しいものです。

「……まったく。あいつに期待した私がバカだったわね」
 
一人取り残された霊夢は、ぽつりと呟くと、彼女のことは忘れて急いで沢の方へと向かう事にしました。
 
 さて、沢につきますと、先ほど文が言ったとおり既に人の姿が。霊夢はその人影に見覚えがありました。魂魄妖夢。白玉楼の庭師で西行寺幽々子の従者です。彼女もまた雪靴に手提げ篭という姿で、脇には半霊をふよふよと従え沢を歩き回っておりました。

「妖夢じゃない。久しぶりね」
「あら、霊夢」
「もしかしてふきのとうを探してるのかしら」 
「ええ、幽々子様がどうしても食べたいってきかないので……ってよくわかったわね」
「その格好を見れば誰だってわかるわよ」
「そう言うあなたも私と同じような格好ね」
「ええ、そうよ」
「という事はあなたもなのね。ふきのとう」
「そうよ。ふきのとうよ」
「……残念だけど、ここにはないみたいだけど」
「ふーん。本当かしら」
「本当よ。嘘ついてどうするのよ」
「ちょっと、その篭見せなさいよ」
「うわ! ちょっと!?」
 
霊夢は、無理やり妖夢の持っている篭を奪い取ると中を覗き込みます。
するとどうでしょう。篭の中には、なんと小さなふきのとうが数個ほど入っているではありませんか。すかさず霊夢は彼女に詰め寄ります。
 
「嘘つき! しっかりと入ってるじゃないのよ。どういう事なのよ」

霊夢が問い詰めますと彼女は無念といった様子で顔をうなだれさせました。

「だって、ここら辺一体のふきのとうを採るくらいしないと、幽々子様のお腹を満足させられないのよ。あなただってわかるでしょう? 幽々子様の食欲の凄さは」
「ま、確かにね。あの亡霊の食欲は並半端じゃないし」
「でしょ? なら……」
「でも、嘘をついたのはいけないわね。罰としてこれは没収よ!」
「なんでそうなるのよ!」
「自業自得ってやつよ。それじゃ、私はこの辺で」
「……待て! それを渡すわけにはいかないわ!」

籠を持ってその場を去ろうとする霊夢の前に、妖夢は刀を抜いて立ちふさがります。

「こうなったら力づくでも奪い返してやる!」
「まったく……相変わらず乱暴ね。少しお灸をすえないといけないかしら」
 
と、霊夢も彼女に負けじとお札を取り出し臨戦態勢に。そしてお互いに間合いを詰め入ったその時です。
二人の目の前をひゅるう~と風が吹き通り抜けていきました。
 
はるー はるはる はるですよー ふきのとうも ふくじゅそうも おめざめですよー

二人はそんな声が聞こえたような気がしました。もしかしたら空耳だったかもしれません。
思わず辺りを見回しますが、人影らしきものは何も見えません。そして、ふと地面に目を向けると、なんと! さっきまで無かったはずのふきのとうがあちこちに生えているじゃありませんか。それに気づくや否や、霊夢も妖夢も戦闘ムードそっちのけで我先にと、ふきのとうを摘み始めます。 するとあっという間に、二人とも篭一杯の収穫となりました。

「これだけ摘めば十分ね」
「よし、これなら幽々子様にも満足してもらえそうだわ」
「それじゃ、ふきのとうも手に入った事だし、ここにはもう用ないわね」

と、無事に目的を達成した霊夢は、何事もなかったかのように妖夢と別れを告げると、さっさと山を降りたのであります。

 さてさて、家まで戻ってきた彼女はさっそくてんぷらにするための下ごしらえにかかります。まず外側の皮を剥がして水できれいに洗うのですが、これがなかなか大変な作業。一つ一つ皮をはいでいかないといけませんし、その上汚れを丁寧に洗い落とすとなると、なんせこれだけの量がありますので結構な手間となってしまうというわけです。
結局、彼女は半分済んだ所でめんどくさくなってしまい、残ったのはひとまず棚の中にしまっておく事にしました。
そして疲れた彼女は少し休もうと縁側で横になります
ぽかぽかした日差しが降り注ぐ麗らかな昼下がりです。ところがこの日差しがあまりにも心地よかったものですから彼女はそのまま転寝をしてしまったのです。

目を覚ましたら時は既に夕暮れ。
妙な胸騒ぎがした彼女は慌てて台所へと向かいます。するとテーブルの上で水切りしていたふきのとうが、なんときれいさっぱりなくなっているじゃありませんか。
夢でも見ているのかと頬をつねったり何度も見直してみますがそれでもやっぱりふきのとうの姿はありません。
思わず途方に暮れてしまう彼女でしたが、幸いにも棚の中のは無事でしたので、仕方なくそれをおひたしにして食べる事にしました。

 こうしてまぁ色々ありましたが彼女は今年も無事に春の知らせを満喫する事が出来たわけであります。めでたしめでたし。










と、行きたいところですが、実はこのお話はもう少し続くのです。


 次の日、彼女は新聞の一面にドアップで飾られた自分のもんぺ姿の写真を眺めながらふと思います。まったく人んちのものを勝手に盗んでいくなんてとんでもない奴もいたもんだ。しかし、彼女は大体犯人の目星は付けていまして、早速その容疑者である霧雨魔理沙の家を訪ねてみた所、案の定テーブルの上にふきのとうのてんぷらが。
すかさず家主の魔法使いを探してみますと、何故かベッドの上で苦しそうに唸っていました。不思議に思った霊夢は尋ねかけてみます。

「どうしたのよ。具合悪そうにしたりして」
「ああ、霊夢か……すまん。どうやら罰が当たったみたいだ」
「どういうこと?」
「うぅ。おまえんちのふきのとうを勝手におすそ分けしてもらったんだが……食べていたら急に具合が悪くなってな……ど、どうやら呪いか何かかかってたみたいだ……」
「呪い、なんてかけた記憶ないんだけど……」

何の事かさっぱり話が理解できない霊夢はてんぷらを良ーく見てみます。すると彼女が苦しんでる理由が分かりました。別に呪いとかではなく、実はふきのとうの中に有毒の福寿草が混じっていたのです。その福寿草の毒に彼女はやられてしまったというわけなのです。

これは勝手に人んちのものを盗んだ罰だ。ざまぁみろ。と霊夢は魔理沙をあざ笑おうとしますが、もし、あのままてんぷらを食べていたら今頃中毒起こしていたのは自分だったかもしれない。そうと思うと彼女は笑うに笑えなくなってしまいました。

食べた量が少なかったせいもあって幸いにも魔理沙の容態はすぐに回復しました。そしてベッドから起き上がった彼女がふとテーブルの上を見ますと、何故かふきのとうが。
実は霊夢があの後、魔理沙の事を不憫に思い少し分けていってくれたのです。とは言うものの霊夢は良かれと思ってやった行為なのでしょうが、彼女からすれば今はふきのとうの姿なんて見たくもない。全く春からとんだ災難に遭ってしまった。といった具合です。しかし、この霧雨魔理沙という子は転んでもただじゃ起きないたくましさを持っていまして、彼女はそのふきのとうを密かに思いを寄せる道具屋の店主にあげる事にしたのです。
これをきっかけに二人の仲が縮まれば正にふきのとうは「春」の使者と言えるのですが、はてさて、そう上手くいきますのやら。

 とまぁ、ふきのとうをめぐる悲喜こもごもをお送りしてきましたが、この機会にみなさんも是非今年はふきのとう頂いてみてはいかがでしょうか? きっと春の目覚めを感じる事が出来ると思いますよ。
ただし、ふきのとうを取りに雪の残る山に軽装で行ったり、ふきのとうと福寿草を間違えたりはしないように気をつけてくださいね。
それこそ「春氷を渉るが如し」となってしまいますよ。
ちなみに自分はふきのとうより、コゴミやタラノメ、コシアブラやモミジガサの方が好きです。

あ、フォークグループのふきのとうは好きです。
バームクーヘン
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.530簡易評価
9.70夕凪削除
紙芝居を見ているような感じでした。
こういうのもいいですね。
11.80名前が無い程度の能力削除
ちょっとパンチは弱いけど、柔らかい雰囲気が好きです。