ここ最近、どうにも寝付けない日々が続いている。
不眠症なんていう言葉があるけれど、今の私―――フランドール・スカーレットの状態はまさにソレだ。
吸血鬼の私が不眠症だなんて笑い話にもならないのだけど、困ったことにここ一週間ほど快眠にありつけていない。
ネグリジェに着替えて髪も下ろし、秘密兵器を片手にベッドにいる私だけれど果たして眠れるかどうか……。
自室のベッドで小さくため息をひとつつく。石造りの部屋はともすれば牢獄のような重々しさだというのに、装飾は豪奢絢爛でそこかしこにぬいぐるみが鎮座している。
コレはコレで味があるし、お姉様なりに私のことを思って苦心しているのが伝わってくるから、私はこの部屋が好きだ。
私のように危険な能力を持った妹を持つと、色々と苦労するのだろう。それでも私のことを気遣ってくれて、幽閉しながらもこんなに贅沢な部屋を用意してくれた。
普段は当主としてかツンケンしてて中々本心を見せてくれないけど、その不器用な優しさを嬉しく思う。
……っと、話がずれた。閑話休題っと。
さて、と小さく言葉を零し、私はその手にした秘密兵器にまじまじと視線を向ける。
パチュリーにこのことを相談した際に渡されたのがコレ、快眠惰眠むさぼり枕デストロイ君。
そこはかとなく不吉な名前もさることながら、コレを作ったのが悪戯好きな小悪魔だという事実が私の不安に拍車をかける。
なんでも、使用者に心地よい眠りを体感してもらうために、面白おかしく心地よい夢が見れる機能があるとか何とか。
もうすでにツッコミどころ満載だった。
けれど、それでも私はぐっすりと眠りたかった。
億を超える羊の群れを数えるのはもう疲れたのだ。天井のシミと延々にらめっこするのはもうごめんだ。
眠るには羊を数えるといいなんて嘘っぱちだ。ちっとも効果なんかありゃしない。
お姉様から「ヒィッ!?」なんて怯えられたり、美鈴から「妹様、大丈夫ですか?」と心配されたり、咲夜から「あら妹様、目が貞子みたいになってますわ」なんていわれるのはもう嫌なのだ。
……ていうか咲夜、私そこまで酷くないからね? そんなに凄まじい目付きになってないからね? せいぜいクマが出来て「私がLです」とか言い出しそうな感じになってるだけだからね?
「……あ、その場合『わたしはFです』になるのか」
うん、いい感じに頭がヤバイのが今の言葉でわかると思う。正直、思考回路が鈍くて敵わないのだ。
睡眠を怠るとこうなるから困る。そろそろ勢いのあまりテンションが天元突破してしまうかもしれない。
私のレヴァ剣が天を突くぜ!! 的なノリで。
「もういいや、寝よう」
そこまで考えてものすごく空しくなった私は、いそいそとデストロイ君を置くとぼてっと横になった。
後頭部に感じる枕の感触が心地よい。安眠とついているだけあって、その寝心地はとても安心感のあるものだ。
小悪魔のお手製だというから少し不安だったのだけれど、コレなら大丈夫そう。
くぁっと小さな欠伸をひとつ零して、うつらうつらと意識が泳ぐ。
瞼がだんだんと閉じていくけれど、自分ではどうしようもない。一週間分の眠気が一気に襲ってきているみたいだった。
あぁ、よかった。この分ならぐっすり眠れそうだと思考した刹那、私の意識はぷっつりと途切れた。
▼
とことことことこ。
私達は羊。あなたを眠らせるために柵を越える哀れな羊。
さぁ、私と一緒に数を数えてね。
とことことことこ。
さぁ柵を越えるよ。あなたを眠らせるために私達は柵を越えるのです。
とことこ走るよ羊の群れ。とことこ越えるよ羊の群れ。
さぁ、数えましょう。あなたの安眠のために。
羊が一匹。
羊が二匹。
チュドォォォォォォォォォォォォォンッ!!
羊が爆散ッ!!
▼
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」
思わず跳ね起きた。なんか凄まじいアレな夢を見たせいでせかっくの安眠が台無しだった。
ふと時計に視線を向けて見れば、アレから五分と立っていない。
大体、一体なんだって言うのか。アレか、爆散の散を三とかけたつもりか!!? うまくもなんともないよ!?
あぁ、ただの枕じゃないと思っていたけどあの小悪魔、いらん機能つけおってからに!!
ていうか、これで眠れると本気で思っていたのか激しく問い詰めたい。小一時間ほど問い詰めたい!!
ぼふんっと、再び枕に顔を埋める。相変わらずふかふかとした枕は心地よくて、その点で言えば非常に手放しづらい。
悪態をしばらくついていたけれど、やっぱりその枕の快適性は確かなようで、私の意識は早くも船を漕ぎ出した。
うぅ、悔しい。でも眠っちゃう……。今度は、まともな夢を……。
ていうかさ、この夢機能は明らかに邪魔だよね?
▼
逃げる。逃げる。逃げて逃げて逃げて、足がギシギシと痛んでも、それでも私は走り続けた。
立ち止まるわけにはいかない。立ち止まったらきっとアイツに追いつかれる。
だから、止まれない。走るしかない。けれども私の体は限界を訴えて、胸が動機を繰り返していた。
心の内を占めるのは得体の知れない恐怖。
追ってくるのが何かすらわからないのに、そいつがどんなものなのかすらわからないのに、私はソレに恐怖して逃げ続けている。
助けて!!
声を上げようとして、喉からこぼれたのはかすれたような吐息だけ。
みっともなく涙を流して、何度も何度も声を上げ続けるけれども、私の口から言葉がこぼれることはない。
助けてパチュリー! 助けて咲夜! 助けて美鈴! 助けてよ、お姉様ッ!!
お願い誰か、誰か助けて!!
みっともない声の出ない叫び。あふれ出る涙は、迫ってくる恐怖に対してか。
それとも、私が危険な目にあっているというのに、誰も助けてくれないことへの悲しさか。
私の叫びは声になることはなく、ただあふれ出る感情が涙となって零れ落ちる。
あぁ、そんな時だっただろうか。その声が聞こえてきたのは。
「炎の羊、一ッ!!」
「氷の羊、二ッ!!」
「風の羊、三ッ!!」
「土の羊、四ッ!!」
「闇の羊、五ッ!!」
目に映るは五色の羊。それぞれ己の力を携えて、彼らは私の目の前に現れた。
それが、どれだけ救いなったことか。得体の知れない何か追われる私にとって、彼らの登場がどれほど嬉しかったか。
「泡沫最強戦隊ッ!」
『ゴメェ~ジャイッ!!』
あぁ、たとえその姿にどれほどツッコミどころが満載だろうが、ありえないだろその名前とか色々思ったけれど、彼らは私の救いのようにポーズを決めて登場し。
『爆散ッ!!』
次の瞬間には爆発した。
▼
「助けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
跳ね起きた。もうコレでもかってくらいに、勢いよく跳ね起きた。
汗がびっしょりで気持ち悪いとか、眠り足りないとか、そんなことはもはやどうでもいい!
「どんな夢!!? もはや軽く悪夢が入ってるじゃないの!!? なんのために出てきたのゴメェ~ジャイ!!? ていうか結局私を追っかけてたのなんだったのよ!!?」
ぜーはーと息を荒くしながらツッコミを入れて見るのだけれど、よくよく考えればこの部屋には私一人しかいないわけで。
うっかりこのツッコミが外にもれてしまえば、もれなく私は変人の仲間行きだ。
ソレはぜひとも勘弁願いたい。ただでさえ気が狂ってるだの情緒不安定だのいわれて遠慮されてるというに!!
ふと時計を見てみる。先ほど跳び起きたときから5分とたってなかった。
あれか、5分おきに目覚まし代わりにあんな夢見るように仕掛けられているのだろうか?
だとしたらとんだ嫌がらせだ。しかし、そのことが逆に私に火をつけさせる。我ながらとんだひねくれ根性だ。
「こうなったら、絶対にこの枕で眠ってやるわ!」
なんだか妙な対抗意識燃やしつつ、私は再び枕に頭を預けて目を閉じる。
すると、心地よい眠気が私を包み込み、うとうとと意識が曖昧になっていく。
本当、ここまでは画期的過ぎて文句の付け所がないというのに、どうしてこんな意味のわからない夢機能なんてつけちゃったんだろう、あの小悪魔。
今度は絶対に安眠をむさぼってやる! と眠りに落ちる前にひとつ意気込んで、私の意識は深い深いまどろみに落ちていった。
▼
フランドーンッ!!
▼
「寒いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ごめん、無理だった。ていうかもはやこの枕、私を眠らす気ないでしょ!!?
私(フランドール)が爆発したからフランドーンとか舐めてんの? お笑いを舐めてんの!!?
ていうか何で全部爆発オチなの!? 意地でも爆発オチに持っていきたいの!!? 心底はた迷惑だよ!! 二度あることは三度あるっていうけどいい加減鬱陶しいわ!!
ふと気になって時計を見る。今度は1分もたってなかった。
チクショウ、いい加減眠らせて欲しいんですけど! 今なら土下座でも何でもやってやるから、お願いだから眠らせてください!!
おのれ小悪魔、明日会ったら問答無用で鼻から七味唐辛子を振りかけてやるっ!!
しばらくして気持ちが落ち着いてくる。鬱憤を晴らすようにツッコミを続けていたけれど、それも馬鹿らしくなって盛大なため息をひとつついた。
この枕を使わなきゃいい話なんだけれど、けれども一度この枕の寝心地を味わってしまうと離れようにも離れられないのだ。
小悪魔のやつ、あいも変わらず変なところで性質の悪い道具作ってもう……。
再びぼふんッと枕に倒れこむ。相変わらずの心地よさ。一体どんな材質で出来ているというのか、ふかふかの枕の魔力から逃れられない。
するとすぐに眠気が襲ってきて、私はうとうとと意識が曖昧になっていくのを感じる。
本当に、もったいない。あの夢さえなければ、この枕はこんなにも心地よいって言うのに。
▼
さて、四度目ともなるとさすがに私もコレが夢だと実感してくる。
ソレが悪いって訳じゃない。むしろこれから先の超展開に覚悟を持って望めるという点ではむしろプラスだろう。
というわけで、辺りは見晴らしのいい原っぱ。どこかクレヨンで塗りたくったような珍妙な風景はまさしく、夢でなければありえないわけで。
「……で、何してるの美鈴?」
「美鈴ではありません。紅めぇ~りんですっ!!」
そんなわけで、そろそろスルーするのも私の精神的に難しくなってきたんで目の前の物体に声をかければ、そんな返答が帰ってきた。
目の前にいるのは我が紅魔館の門番、大陸出身の妖怪の紅美鈴。
いつもの中華風の服ではなく、顔を除く全身ファンシーな羊の着ぐるみという、ちょっと正気を疑ってしまう格好になっている彼女。
あぁ、なるほど。紅美鈴(ほんめいりん)に羊の鳴き声の「めぇ~」というのをかけたわけだ。
……小悪魔、あんたはオヤジか? さっきから思ってたけど、ギャグのほとんどがオヤジギャグってどうなの? 女としてどうなの?
「さ、此方にいらしてください妹様。私が暖めて快適な眠りにいざなって差し上げます」
「爆発とかしない?」
「しませんとも」
はたして、何処まで信用できることやら。
何しろ、コレまでの夢が夢だ。他三回が全部爆発オチだったからこの夢も爆発オチかもしれないとかんぐってしまう。
でも確かに、今の美鈴に抱きついたらソレは心地よいことだろう。
なにせ、ふかふかのもこもこだ。あったかな感触と柔らかな弾力が私を包み込んで、それはそれは心地よい眠りにつけそうだ。
その誘惑は、本当に耐え難い。恐る恐るといった様子で、私は美鈴に抱きついた。
想像のとおり、それはふかふかのもこもこで、頬擦りしてみると滑らかな毛が心地よかった。
ふと、頭を撫でられているのに気がついて、ソレが恥ずかしかったから私はいっそう顔を埋めて、彼女が苦笑しているのが気配でわかる。
うつらうつらと揺らぐ意識。夢の中で眠りに落ちる、なんて奇妙な体験だけれども。
あぁ、今度こそ本当にぐっすり眠れそうだと思いながら、私はまどろみの中に落ちた。
▼
一体どれくらい眠っていたのだろうか、意識のはっきりしない頭で自問したが答えが出ない。
よっぽど長く眠ったのだろう。瞳を開けるのが億劫で、私は腕のうちにある柔らかで、それでいて暖かな感触に身をゆだねた。
さらりと、髪の毛を梳くように撫でられる。ソレが心地よくて、はっきりとしない意識の中、緩んだ頬を直しもせずにすりすりと頬擦りを繰り返す。
ふと、すぐ近くで苦笑するような気配。
そこでようやく、私は「おや?」と違和感に気がついた。
おぼろげな意識を総動員して、眠気の残る瞼を開ける。本能はまだ寝たりないと欲求を叫び続けてるけど、そんなの知ったことか。
目を開けて、私の視界に映ったのは誰かの胸元。パジャマから覗く白い肌が、健康的でとても綺麗だと思う。
それで、私は今まで誰かに抱きついていたらしいと悟る。ふと、視界を上に上げて見れば、そこには困ったように苦笑する美鈴がいた。
……まいった。どうやら私はまだ夢を見ているらしい。
「あれ、美鈴?」
「はい、美鈴ですよ妹様。小悪魔さんから聞きましたよ、寝不足だったって。そういうことなら私に言ってくださればよかったのに」
「美鈴、何か出来たっけ?」
「あはは、そういわれると辛いですけど、ほら、こうやって添い寝ぐらいなら出来ちゃいます」
そういって、彼女はぎゅっと私のことを抱きしめてくれる。
あったかくて、やわらかくて、花の様ないいにおいがした。それで、コレは夢じゃなくて現実なのだと理解して。
けれども、私の頭は未だ眠っているのか、彼女の言葉も何処か遠い。
でも、温かい。心地いい。それだけで、十分。
「じゃあさ、今日はずっと一緒に眠ってくれる? さっきからずっと変な夢ばかりでうんざりしてたところなの」
「いいですよ、今日は非番ですし。それにアレは小悪魔さん特製枕ですからねぇ、私も経験ありますよ。えらい目にあいましたけど」
「それじゃ、私達は仲間だね」なんてゆるい笑みを浮かべた私は、そのまま彼女に抱きついたまま瞳を閉じる。
心地よい感触と温かさ。程なくして訪れる眠気も、美鈴の「そうですね」という何処か嬉しそうな声にどうでも良くなってきた。
そうして、私は再びまどろみに誘われる。うつらうつらと舟をこいで、触れる温かさが私の心を落ちつかせる。
私の頭を撫でながら、「羊が一匹、羊が二匹」なんて数えだした美鈴に苦笑しながら、私は彼女に抱きつく腕の力をきゅっと強める。
コレじゃなんだか美鈴が安眠枕みたいだなぁなんてぼんやりと思って、ソレも悪くはないかなと思いながら私は眠りに落ちた。
▼
さてさて、アレから私達は少しだけ親密になった。
とりあえず、小悪魔にあの枕を返品した私は、毎日のように美鈴の部屋に通っている。
「美鈴ー、今日も一緒に寝よう!」
「喜んで、妹様」
部屋に入り込んでそう言葉をかければ、彼女はにっこりと微笑んでそう言葉を返してくれた。
その笑顔が、今では見るのが楽しみなくらい。普段は門番で外にいるから中々会えないけど、こうやって部屋に入って彼女の笑顔を見ると何処か安心するのだ。
けれど、ひとつだけ。ひとつだけどうしても不満なことがある。
「もう、二人っきりのときはフランで良いっていってるのに」
「そういうわけにもいきませんよ」
「一夜を共に過ごした仲だっていうのに、冷たいわ」
「むむ、中々意地悪な言い回しをするようになりましたね」
私が少し意地の悪い言い方をすれば、何処か困ったように笑顔を浮かべて頬をかく。
美鈴はやっぱり一線を引いてるのか、どうしても私のことを名前で呼んでくれない。
いつもの通りに妹様、あるいはフランドール様としか言ってくれないのは不満なんだけれど、仕方ないか。彼女にだって立場というものがあるわけだし。
今日も今日とて、私は美鈴の部屋を訪れる。
いつもより少しだけ親密になった関係が心地よくて、私はこれからも彼女の元に訪れるのだろう。
もう私が寝不足に悩まされることはない。
きっと、これからも彼女が枕の替わりに私を抱きとめて、心地よく羊を数えてくれるだろうから。
不眠症なんていう言葉があるけれど、今の私―――フランドール・スカーレットの状態はまさにソレだ。
吸血鬼の私が不眠症だなんて笑い話にもならないのだけど、困ったことにここ一週間ほど快眠にありつけていない。
ネグリジェに着替えて髪も下ろし、秘密兵器を片手にベッドにいる私だけれど果たして眠れるかどうか……。
自室のベッドで小さくため息をひとつつく。石造りの部屋はともすれば牢獄のような重々しさだというのに、装飾は豪奢絢爛でそこかしこにぬいぐるみが鎮座している。
コレはコレで味があるし、お姉様なりに私のことを思って苦心しているのが伝わってくるから、私はこの部屋が好きだ。
私のように危険な能力を持った妹を持つと、色々と苦労するのだろう。それでも私のことを気遣ってくれて、幽閉しながらもこんなに贅沢な部屋を用意してくれた。
普段は当主としてかツンケンしてて中々本心を見せてくれないけど、その不器用な優しさを嬉しく思う。
……っと、話がずれた。閑話休題っと。
さて、と小さく言葉を零し、私はその手にした秘密兵器にまじまじと視線を向ける。
パチュリーにこのことを相談した際に渡されたのがコレ、快眠惰眠むさぼり枕デストロイ君。
そこはかとなく不吉な名前もさることながら、コレを作ったのが悪戯好きな小悪魔だという事実が私の不安に拍車をかける。
なんでも、使用者に心地よい眠りを体感してもらうために、面白おかしく心地よい夢が見れる機能があるとか何とか。
もうすでにツッコミどころ満載だった。
けれど、それでも私はぐっすりと眠りたかった。
億を超える羊の群れを数えるのはもう疲れたのだ。天井のシミと延々にらめっこするのはもうごめんだ。
眠るには羊を数えるといいなんて嘘っぱちだ。ちっとも効果なんかありゃしない。
お姉様から「ヒィッ!?」なんて怯えられたり、美鈴から「妹様、大丈夫ですか?」と心配されたり、咲夜から「あら妹様、目が貞子みたいになってますわ」なんていわれるのはもう嫌なのだ。
……ていうか咲夜、私そこまで酷くないからね? そんなに凄まじい目付きになってないからね? せいぜいクマが出来て「私がLです」とか言い出しそうな感じになってるだけだからね?
「……あ、その場合『わたしはFです』になるのか」
うん、いい感じに頭がヤバイのが今の言葉でわかると思う。正直、思考回路が鈍くて敵わないのだ。
睡眠を怠るとこうなるから困る。そろそろ勢いのあまりテンションが天元突破してしまうかもしれない。
私のレヴァ剣が天を突くぜ!! 的なノリで。
「もういいや、寝よう」
そこまで考えてものすごく空しくなった私は、いそいそとデストロイ君を置くとぼてっと横になった。
後頭部に感じる枕の感触が心地よい。安眠とついているだけあって、その寝心地はとても安心感のあるものだ。
小悪魔のお手製だというから少し不安だったのだけれど、コレなら大丈夫そう。
くぁっと小さな欠伸をひとつ零して、うつらうつらと意識が泳ぐ。
瞼がだんだんと閉じていくけれど、自分ではどうしようもない。一週間分の眠気が一気に襲ってきているみたいだった。
あぁ、よかった。この分ならぐっすり眠れそうだと思考した刹那、私の意識はぷっつりと途切れた。
▼
とことことことこ。
私達は羊。あなたを眠らせるために柵を越える哀れな羊。
さぁ、私と一緒に数を数えてね。
とことことことこ。
さぁ柵を越えるよ。あなたを眠らせるために私達は柵を越えるのです。
とことこ走るよ羊の群れ。とことこ越えるよ羊の群れ。
さぁ、数えましょう。あなたの安眠のために。
羊が一匹。
羊が二匹。
チュドォォォォォォォォォォォォォンッ!!
羊が爆散ッ!!
▼
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」
思わず跳ね起きた。なんか凄まじいアレな夢を見たせいでせかっくの安眠が台無しだった。
ふと時計に視線を向けて見れば、アレから五分と立っていない。
大体、一体なんだって言うのか。アレか、爆散の散を三とかけたつもりか!!? うまくもなんともないよ!?
あぁ、ただの枕じゃないと思っていたけどあの小悪魔、いらん機能つけおってからに!!
ていうか、これで眠れると本気で思っていたのか激しく問い詰めたい。小一時間ほど問い詰めたい!!
ぼふんっと、再び枕に顔を埋める。相変わらずふかふかとした枕は心地よくて、その点で言えば非常に手放しづらい。
悪態をしばらくついていたけれど、やっぱりその枕の快適性は確かなようで、私の意識は早くも船を漕ぎ出した。
うぅ、悔しい。でも眠っちゃう……。今度は、まともな夢を……。
ていうかさ、この夢機能は明らかに邪魔だよね?
▼
逃げる。逃げる。逃げて逃げて逃げて、足がギシギシと痛んでも、それでも私は走り続けた。
立ち止まるわけにはいかない。立ち止まったらきっとアイツに追いつかれる。
だから、止まれない。走るしかない。けれども私の体は限界を訴えて、胸が動機を繰り返していた。
心の内を占めるのは得体の知れない恐怖。
追ってくるのが何かすらわからないのに、そいつがどんなものなのかすらわからないのに、私はソレに恐怖して逃げ続けている。
助けて!!
声を上げようとして、喉からこぼれたのはかすれたような吐息だけ。
みっともなく涙を流して、何度も何度も声を上げ続けるけれども、私の口から言葉がこぼれることはない。
助けてパチュリー! 助けて咲夜! 助けて美鈴! 助けてよ、お姉様ッ!!
お願い誰か、誰か助けて!!
みっともない声の出ない叫び。あふれ出る涙は、迫ってくる恐怖に対してか。
それとも、私が危険な目にあっているというのに、誰も助けてくれないことへの悲しさか。
私の叫びは声になることはなく、ただあふれ出る感情が涙となって零れ落ちる。
あぁ、そんな時だっただろうか。その声が聞こえてきたのは。
「炎の羊、一ッ!!」
「氷の羊、二ッ!!」
「風の羊、三ッ!!」
「土の羊、四ッ!!」
「闇の羊、五ッ!!」
目に映るは五色の羊。それぞれ己の力を携えて、彼らは私の目の前に現れた。
それが、どれだけ救いなったことか。得体の知れない何か追われる私にとって、彼らの登場がどれほど嬉しかったか。
「泡沫最強戦隊ッ!」
『ゴメェ~ジャイッ!!』
あぁ、たとえその姿にどれほどツッコミどころが満載だろうが、ありえないだろその名前とか色々思ったけれど、彼らは私の救いのようにポーズを決めて登場し。
『爆散ッ!!』
次の瞬間には爆発した。
▼
「助けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
跳ね起きた。もうコレでもかってくらいに、勢いよく跳ね起きた。
汗がびっしょりで気持ち悪いとか、眠り足りないとか、そんなことはもはやどうでもいい!
「どんな夢!!? もはや軽く悪夢が入ってるじゃないの!!? なんのために出てきたのゴメェ~ジャイ!!? ていうか結局私を追っかけてたのなんだったのよ!!?」
ぜーはーと息を荒くしながらツッコミを入れて見るのだけれど、よくよく考えればこの部屋には私一人しかいないわけで。
うっかりこのツッコミが外にもれてしまえば、もれなく私は変人の仲間行きだ。
ソレはぜひとも勘弁願いたい。ただでさえ気が狂ってるだの情緒不安定だのいわれて遠慮されてるというに!!
ふと時計を見てみる。先ほど跳び起きたときから5分とたってなかった。
あれか、5分おきに目覚まし代わりにあんな夢見るように仕掛けられているのだろうか?
だとしたらとんだ嫌がらせだ。しかし、そのことが逆に私に火をつけさせる。我ながらとんだひねくれ根性だ。
「こうなったら、絶対にこの枕で眠ってやるわ!」
なんだか妙な対抗意識燃やしつつ、私は再び枕に頭を預けて目を閉じる。
すると、心地よい眠気が私を包み込み、うとうとと意識が曖昧になっていく。
本当、ここまでは画期的過ぎて文句の付け所がないというのに、どうしてこんな意味のわからない夢機能なんてつけちゃったんだろう、あの小悪魔。
今度は絶対に安眠をむさぼってやる! と眠りに落ちる前にひとつ意気込んで、私の意識は深い深いまどろみに落ちていった。
▼
フランドーンッ!!
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「寒いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ごめん、無理だった。ていうかもはやこの枕、私を眠らす気ないでしょ!!?
私(フランドール)が爆発したからフランドーンとか舐めてんの? お笑いを舐めてんの!!?
ていうか何で全部爆発オチなの!? 意地でも爆発オチに持っていきたいの!!? 心底はた迷惑だよ!! 二度あることは三度あるっていうけどいい加減鬱陶しいわ!!
ふと気になって時計を見る。今度は1分もたってなかった。
チクショウ、いい加減眠らせて欲しいんですけど! 今なら土下座でも何でもやってやるから、お願いだから眠らせてください!!
おのれ小悪魔、明日会ったら問答無用で鼻から七味唐辛子を振りかけてやるっ!!
しばらくして気持ちが落ち着いてくる。鬱憤を晴らすようにツッコミを続けていたけれど、それも馬鹿らしくなって盛大なため息をひとつついた。
この枕を使わなきゃいい話なんだけれど、けれども一度この枕の寝心地を味わってしまうと離れようにも離れられないのだ。
小悪魔のやつ、あいも変わらず変なところで性質の悪い道具作ってもう……。
再びぼふんッと枕に倒れこむ。相変わらずの心地よさ。一体どんな材質で出来ているというのか、ふかふかの枕の魔力から逃れられない。
するとすぐに眠気が襲ってきて、私はうとうとと意識が曖昧になっていくのを感じる。
本当に、もったいない。あの夢さえなければ、この枕はこんなにも心地よいって言うのに。
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さて、四度目ともなるとさすがに私もコレが夢だと実感してくる。
ソレが悪いって訳じゃない。むしろこれから先の超展開に覚悟を持って望めるという点ではむしろプラスだろう。
というわけで、辺りは見晴らしのいい原っぱ。どこかクレヨンで塗りたくったような珍妙な風景はまさしく、夢でなければありえないわけで。
「……で、何してるの美鈴?」
「美鈴ではありません。紅めぇ~りんですっ!!」
そんなわけで、そろそろスルーするのも私の精神的に難しくなってきたんで目の前の物体に声をかければ、そんな返答が帰ってきた。
目の前にいるのは我が紅魔館の門番、大陸出身の妖怪の紅美鈴。
いつもの中華風の服ではなく、顔を除く全身ファンシーな羊の着ぐるみという、ちょっと正気を疑ってしまう格好になっている彼女。
あぁ、なるほど。紅美鈴(ほんめいりん)に羊の鳴き声の「めぇ~」というのをかけたわけだ。
……小悪魔、あんたはオヤジか? さっきから思ってたけど、ギャグのほとんどがオヤジギャグってどうなの? 女としてどうなの?
「さ、此方にいらしてください妹様。私が暖めて快適な眠りにいざなって差し上げます」
「爆発とかしない?」
「しませんとも」
はたして、何処まで信用できることやら。
何しろ、コレまでの夢が夢だ。他三回が全部爆発オチだったからこの夢も爆発オチかもしれないとかんぐってしまう。
でも確かに、今の美鈴に抱きついたらソレは心地よいことだろう。
なにせ、ふかふかのもこもこだ。あったかな感触と柔らかな弾力が私を包み込んで、それはそれは心地よい眠りにつけそうだ。
その誘惑は、本当に耐え難い。恐る恐るといった様子で、私は美鈴に抱きついた。
想像のとおり、それはふかふかのもこもこで、頬擦りしてみると滑らかな毛が心地よかった。
ふと、頭を撫でられているのに気がついて、ソレが恥ずかしかったから私はいっそう顔を埋めて、彼女が苦笑しているのが気配でわかる。
うつらうつらと揺らぐ意識。夢の中で眠りに落ちる、なんて奇妙な体験だけれども。
あぁ、今度こそ本当にぐっすり眠れそうだと思いながら、私はまどろみの中に落ちた。
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一体どれくらい眠っていたのだろうか、意識のはっきりしない頭で自問したが答えが出ない。
よっぽど長く眠ったのだろう。瞳を開けるのが億劫で、私は腕のうちにある柔らかで、それでいて暖かな感触に身をゆだねた。
さらりと、髪の毛を梳くように撫でられる。ソレが心地よくて、はっきりとしない意識の中、緩んだ頬を直しもせずにすりすりと頬擦りを繰り返す。
ふと、すぐ近くで苦笑するような気配。
そこでようやく、私は「おや?」と違和感に気がついた。
おぼろげな意識を総動員して、眠気の残る瞼を開ける。本能はまだ寝たりないと欲求を叫び続けてるけど、そんなの知ったことか。
目を開けて、私の視界に映ったのは誰かの胸元。パジャマから覗く白い肌が、健康的でとても綺麗だと思う。
それで、私は今まで誰かに抱きついていたらしいと悟る。ふと、視界を上に上げて見れば、そこには困ったように苦笑する美鈴がいた。
……まいった。どうやら私はまだ夢を見ているらしい。
「あれ、美鈴?」
「はい、美鈴ですよ妹様。小悪魔さんから聞きましたよ、寝不足だったって。そういうことなら私に言ってくださればよかったのに」
「美鈴、何か出来たっけ?」
「あはは、そういわれると辛いですけど、ほら、こうやって添い寝ぐらいなら出来ちゃいます」
そういって、彼女はぎゅっと私のことを抱きしめてくれる。
あったかくて、やわらかくて、花の様ないいにおいがした。それで、コレは夢じゃなくて現実なのだと理解して。
けれども、私の頭は未だ眠っているのか、彼女の言葉も何処か遠い。
でも、温かい。心地いい。それだけで、十分。
「じゃあさ、今日はずっと一緒に眠ってくれる? さっきからずっと変な夢ばかりでうんざりしてたところなの」
「いいですよ、今日は非番ですし。それにアレは小悪魔さん特製枕ですからねぇ、私も経験ありますよ。えらい目にあいましたけど」
「それじゃ、私達は仲間だね」なんてゆるい笑みを浮かべた私は、そのまま彼女に抱きついたまま瞳を閉じる。
心地よい感触と温かさ。程なくして訪れる眠気も、美鈴の「そうですね」という何処か嬉しそうな声にどうでも良くなってきた。
そうして、私は再びまどろみに誘われる。うつらうつらと舟をこいで、触れる温かさが私の心を落ちつかせる。
私の頭を撫でながら、「羊が一匹、羊が二匹」なんて数えだした美鈴に苦笑しながら、私は彼女に抱きつく腕の力をきゅっと強める。
コレじゃなんだか美鈴が安眠枕みたいだなぁなんてぼんやりと思って、ソレも悪くはないかなと思いながら私は眠りに落ちた。
▼
さてさて、アレから私達は少しだけ親密になった。
とりあえず、小悪魔にあの枕を返品した私は、毎日のように美鈴の部屋に通っている。
「美鈴ー、今日も一緒に寝よう!」
「喜んで、妹様」
部屋に入り込んでそう言葉をかければ、彼女はにっこりと微笑んでそう言葉を返してくれた。
その笑顔が、今では見るのが楽しみなくらい。普段は門番で外にいるから中々会えないけど、こうやって部屋に入って彼女の笑顔を見ると何処か安心するのだ。
けれど、ひとつだけ。ひとつだけどうしても不満なことがある。
「もう、二人っきりのときはフランで良いっていってるのに」
「そういうわけにもいきませんよ」
「一夜を共に過ごした仲だっていうのに、冷たいわ」
「むむ、中々意地悪な言い回しをするようになりましたね」
私が少し意地の悪い言い方をすれば、何処か困ったように笑顔を浮かべて頬をかく。
美鈴はやっぱり一線を引いてるのか、どうしても私のことを名前で呼んでくれない。
いつもの通りに妹様、あるいはフランドール様としか言ってくれないのは不満なんだけれど、仕方ないか。彼女にだって立場というものがあるわけだし。
今日も今日とて、私は美鈴の部屋を訪れる。
いつもより少しだけ親密になった関係が心地よくて、私はこれからも彼女の元に訪れるのだろう。
もう私が寝不足に悩まされることはない。
きっと、これからも彼女が枕の替わりに私を抱きとめて、心地よく羊を数えてくれるだろうから。
しっかし美鈴枕うらや(ピチューン
羊は英語で数えないと…
しかし、やはりめーふらはイイものだと再確認
そして相変わらずの小悪魔がいいキャラしてる
眠れないときに羊を数えるのって、牧場に行って羊と遊んだ楽しい思い出を思い出して
リラックスすれば眠れるよって事だと聞いた気が
イイハナシナノカナー
腹筋返せw
でもイイハナシデヨカッタナー。
レツゴー三匹はないんですか
やはりメイフラはいいよね。
おっぱい抱き枕は年末ぐらいに販売されるとあたい信じてる
私は羊を数えていると面倒になって爆破したり、わからなくなって爆破してリセットしたりします
うぎぎフラン……めーふっ、ふらっ、フランちゃん……!
フランちゃんッ!
とはこのことか!!
「シープ(羊)」が「スリープ(眠る)」に聞こえてくるから眠くなるなんて大嘘だったな。鳴き声の「メェー」が「美鈴」に聞こえるから眠くなるんだ!!
開始2分で腹筋がブレイクしましたww 最後の美鈴のくだりまで夢なんじゃないかと疑ってしまったのは余談
突っ込み妹様の勢いとかも良かったです!
くっ…貴様わかっているな…ww
つかフwwwwwラwwwwwンwwwwwwドwwwwwーwwwwwwwンwwwwwwwww
下らなすぎるwwwwww
後半で思いの外ニヤニヤ。
今までの流れから爆散しやしないかと内心不安でしたが。
めーりん爆散しなくてよかった
ある意味、小悪魔のセンスは、最高だな。
そして何故か手元にある生徒○のもきゅっとした生物。
メイフラはいいね。心が安らぐ。
爆発オチいいよ爆発オチwww
面白いね、爆発は。
・・・にしても、紅めぇ~りん・・・、だと・・・?!・・・あれか、ハ○ヒちゃんにでてきた、もこもこ羊さんコスな朝○奈さんがモデルかぁ~!?
ちくせう、なんて破壊力だ・・・!!姿を想像しただけで忠誠心(鼻血)が・・・!!!
そんなんでいいのかって?たまには良いじゃない。美鈴とフランドールの組み合わせが好きなんだもの。
炎の羊くらいで爆散した。