Coolier - 新生・東方創想話

スターダストレヴァリエ

2010/01/26 01:01:56
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「くそっ、駄目だ……」
 ノートをばたんと乱暴に閉じると、イスの背もたれに思いっきり寄りかかりながら天井を眺めた。
 私は今魔法の研究をしているのだが、それがどうにも上手くいかないのだ。
 いや、上手くいかないっていうのとはちょっと違うか。
 材料は揃っているし、実験も成功している。なのに、何もイメージが沸かないのだ――弾幕のイメージが。
 そう、私は新たなスペルカード、新しい弾幕を開発するための研究をしている。
 とは言っても、既に新しい魔法は完成している。ただ、それを使った弾幕のイメージが思いつかないのだ。困ったものだぜ。
 知っての通り、弾幕ごっこはその弾幕の美しさを競う勝負だ。
 いくら新しい魔法を使っていても、今までと同じ弾幕じゃあ意味が無いし、それではきっとあいつには勝てないだろう。
「――博麗、霊夢」
 ここの所ずっと、弾幕ごっこで霊夢には負けっぱなしだ。
 連敗記録も、もう数えるのが面倒になったのでやめた。
 ……こんな風に、弾幕ごっこで勝ち負けを気にすること自体が無粋なことのようにも思う。
 弾幕ごっこは、結局の所は遊びなのだ。
 自分で描く弾幕を、例え勝てなくたって相手の弾幕を楽しめればいい。つまりは楽しんだもの勝ちなのだ。
 勿論、普段の私ならこんなことは気にしないだろう。
 それでも、あいつにだけは――霊夢にだけは負けたくない。
 ……っと、誤解して欲しくないんだが、別に必ず勝てるようになりたいとか、霊夢の鼻を明かしてやりたいとか、そんなことを考えてるわけじゃないんだぜ?まあ、弾幕ごっこで連敗する霊夢もそれはそれで見てみたいが。
 でも、そうではなく、私はただあいつと――。
「……何で、勝てないんだろう」
 そう一人で呟くと、大きな溜息を吐く。
 あいつの描く弾幕は、その飄々とした性格を表すようにまるで掴みどころが無い。避けやすそうに見えるくせに、気がつくといつの間にか誘導弾でジリジリと追い詰められていたりする。
 避ける時も、弾がどこから飛んでくるのか判っているように、自然な動きでかわしていく。自然すぎて、なんだか弾の方から勝手に霊夢を避けてるんじゃないかと思えるほどだ。
 本人は勘で避けているだけだと言っているが、疑わしいぜ。本当は未来予知でも出来るんじゃないか?まあ、そう思えるくらいに霊夢は強いってことだ。
 ……昔から、あいつはそうだった。
 何をしても、必ず周りから頭一つは抜きん出る。
 私が何とか追いついたかと思うと、既にそこにはもう居ない。
 私がどれだけ努力しても、見えるのはあいつの背中だけ。
 いくら手を伸ばしても、届かない。
 たまに思う。
 止まない雨が無いように。
 日の光に呑まれない星が無いように。
 私では、あいつに触れることも出来ないんじゃないか――あいつの隣に居るとは出来ないんじゃないかって、そんな風に思ってしまう。
 そんなことを考えながら天井を眺め続けていたら、天井の模様まで弾幕に見えてきた。……末期症状だぜ。
 椅子から立ち上がって窓に近づくと、蝉の鳴き声が聞こえてくる。勿論、今までも聞こえてなかったわけじゃないが、より一層激しく、賑やかに――というか五月蝿い。
 私はそれに構わず、一気に窓を開け放った。
 すると、蝉の鳴き声とともに、新鮮な空気が部屋へ流れ込んでくる。ああ、矢張り外の空気は気持ちがいいぜ。
 やっぱり部屋に閉じこもっているのがいけないのかも知れないな。研究をするには最適な環境だが、新しいアイデアはこうしていても生まれてこない。何事にも前向きな取り組みが必要なのだ。
「……よし」
 そうと決まれば行動は早い。
 私はいつもそうしているように、土産の茸を抱えて部屋を飛び出していった。
 
 ◇◇◇
 
 じいじいと蝉の鳴き声が聞こえる。
 夏の午後、香霖堂の店主・森近霖之助は冷えたお茶を飲みながら、一人優雅に読書をする予定だった。
 予定だった、ということは言うまでも無く、今現在はそうしていないということだ。
 別に、蝉の鳴き声が五月蝿くて集中できないわけではない。
 集中して読書が出来ていないのは事実だが、原因は別にある。
 本から視線をはずして、店の一角――本が山積みにされた場所を見ると、その原因であるところの黒い物体がじいっと本を眺めている。
 ちなみにこの黒い物体、名前を霧雨魔理沙という。
 今から三時間ほど前だっただろうか、突然店にやってくると、挨拶もおざなりに今の場所に座り込んで、それからずっと黙り込んで本を眺めている。
 魔理沙が店に突然訪れる。これはいつものことだ。むしろ、何かしらの約束をして会いに来る方が珍しい。これはいい。
 しかし、それからの行動はちょっとおかしい。
 あの魔理沙が数時間もの間、一つの言葉を発することも無く、ただ只管に読書を続けているのだ。
「……なあ、魔理沙。何か探し物かい?」
 と、声を掛けても、
「あー、ちょっと本を読みたい気分なだけだぜ」
 の一点張りだ。
 普段はもう少し大人しくしていて欲しいと心から願っている霖之助であったが、流石にこれは静か過ぎて逆に落ち着かない。何とも勝手な言い分ではあるけれど。
 しかも、これは今日だけの事ではないのだ。
 ここ数週間、たまにこうやって訪れたかと思うと、この調子でじっと読書を続けている。
 静かでいいな、と最初は呑気に構えていたこの道具屋の主人も、いよいよもっておかしいと思い始めた。
 原因は――はっきりと断定は出来ないが、何となく想像はつく。
 黙って本を読み続ける魔理沙から視線をはずし、自分の直ぐ隣を見る。
 そこには風呂敷一杯に詰め込まれた茸の山が、我が物顔で居座っていた。
 勿論、これは霖之助が買い込んだものでも、ましてや採ってきた物でもなく、魔理沙がいつものように持ってきたものだ――量は尋常じゃなく多いが。
 これもここ数週間、魔理沙の様子がおかしくなってからずっと続いている。
 腐らないように毎日必死に消費しているが、一つの山が片付いたと思うと、まるでそのタイミングを狙ったかのように魔理沙が訪れて同じ位大量の茸を置いていく。そのためここ数週間、食卓から茸が消えたことは一度も無い。
 この季節外れの茸祭り――これが魔理沙の様子がおかしい原因を示しているのではないかと霖之助は思う。
 魔理沙の持ってくる茸は、里で売られているようなものでなく、魔法の森で魔理沙自らが採ってきたものだ。
 彼女が魔法の森で茸を漁るのは、それ自体が多分に彼女の趣味でもあるのだが、目的はそれだけではない。彼女の魔法は、この魔法の森で採れる化け茸を材料に発動させている。茸漁りはその材料集めを兼ねているわけだ。
 普段彼女が持ってくる茸も、そのついでに収穫したものが含まれるのではないかと思う。
 つまり、この茸祭りは彼女の研究が難航していることを示しているのではないか――そう、霖之助は考えていた。
 では、彼女はなんの研究をしているのか。
 これも推測する他には無いが、霖之助には一つ、思い当たることがあった。
 それは霊夢との弾幕ごっこの決闘だ。
 霊夢も魔理沙も、よく香霖堂を訪れては下らない言い争いをして、弾幕ごっこで決着をつけている。その内容は、夕飯の献立を決める勝負だったりと、実に取るに足らないようなことばかりだ。
 この勝負はスペルカードルールが生まれてからは、すっかり御馴染みのものとなっている。この二人にとっては、最早日常の光景と言っても過言ではないだろう。
 その結果は、少し霊夢に分があるものの、霊夢が勝つこともあれば、魔理沙が勝つこともあったりと、ある程度のバランスを保っていた。
 だが、茸祭りが始まる少し前、数ヶ月前からそのバランスが崩れ始めた――魔理沙の勝率がぐっと減り始めたのだ。
 最近では、魔理沙が勝った所を霖之助は見ていない。
 勿論、あの二人のことだからどこか別の場所でも弾幕ごっこはしているのだろうし、そこでの結果はまた違うのかもしれない。
 しかし、少なくとも霖之助の見ている限りでは魔理沙の連敗は続いているし、たまたま霖之助が見ているときだけ魔理沙が負けている等という偶然もあるとは思えない。何しろ、これはこの数週間ずっと続いていることなのだから。
 きっとそこに関係があると思うのだ。
 しかし、それがわかったところで霖之助は魔法に関してはからきしだったし、本人が何も言わないのだから助言のしようもない。
 結局の所、魔理沙のことが気になるものの、霖之助に出来ることと言えば、こうして読書をする振りをしながら彼女の様子を窺うことだけだ。
 彼女とは知らない仲じゃないし、何とか力になってやりたいとは思うけれど――。
 
 ――どうしようもないな。
 
 溜息をついて、再び視線を魔理沙に戻す。
 
 ――ん?
 
 魔理沙の目の前、山と積まれた本にその視線がぴたりと止まる。
 目に留まったのは、この数時間で魔理沙が築き上げた本の山、そのタイトルである。
 一見するとただ手当たりしだいに本を読み漁っているように見えるが、タイトルを見るとある一つの共通項が浮かんでくる。
 それこそ唯の偶然かもしれないが――。
 
 ――何もしないよりはマシ、かな。
 
 読んでいた本を閉じて椅子から立ち上がると、ゆっくりと魔理沙に近づいていく。
「なあ、魔理沙」
 驚かさないように、そっと呼びかける。
「あー?何だ香霖、私は今取り込み中だ。用なら後で受け付けるぜ」
「いやなに、何を調べているのかと思ってね」
 そう言って魔理沙の隣に腰掛ける。
「何度も言ってるだろ?ただちょっと本を読みたい気分なだけだぜ」
 ふぅんそうかいと呟いて、目の前に積まれた本を一冊手にとりパラパラとめくる。
「それにしては、随分と偏った本の選択だね」
 霖之助が手に取った本のタイトルは『星雲・星団の観測』だ。それ以外の積まれた本を見てみると、どれもこれもが星や宇宙、外界の天体に関する本ばかりだ。
「……別に、たまたまだぜ」
 さて、本人が言うように本当にたまたま――なんだろうか。
 霖之助はふと思い出す。
 そういえば、魔理沙が星に因んだ魔法を使い始めたのは、初めて流星祈願会をした頃からだった。
 
 ――なら、今回のコレはやっぱり。
 
 と、霖之助が思い至った時、
「なあ、香霖」
 どこか遠慮しがちに、魔理沙が呼びかけた。
「……なんだい?」
 思えば、こうして魔理沙から口を開いたのは随分と久しぶりな気がする。
 一体何を聞かれるのだろうかと、若干の緊張をしながら、霖之助は次の言葉を待った。
「月と地球ってあるだろ?あれって月が地球の回りをぐるぐる回っていると思うんだが――あれは、ずっとそのままなのか?」
 きっと星に関する話に違いないとは想像していたものの、魔理沙の口からでた言葉は、霖之助の予想からはちょっと外れていた。てっきりまた流れ星に関する話だと思っていたのだ。
 魔理沙の言う『ぐるぐる回る』というのは、きっと公転のことだろう。それについてなら霖之助にも覚えがある。
 それが魔理沙の悩みとどう結びついているのか、それは皆目見当も付かないが、自分が答えられる話題であることにほっとしつつ、霖之助は彼女に言った。
「まあ、そうなるね。余程大きな変化が星に起きなければ、基本的にはずっとこのままだろうな」
「それじゃあ、月が地球に触れることは――二つの星が重なることはないのか?」
 不安そうに、魔理沙が尋ねる。
「うん。まず無いだろうね」
 というかそれはもうぶつかってるんじゃないか、等と無粋なことも思ったが、とりあえずそれは黙っておく。
「そう、なのか……」
 霖之助の答えを聞くと、魔理沙は寂しそうに呟いて押し黙った。
「一体どうしたんだ?」
 霖之助にしてみれば、問われた事に応えただけで、傷つけるようなことを言ったつもりはまったくない。
 わけも判らずに、思ったことをそのまま彼女に尋ねた。
「あー、別に大したことじゃないんだ。ただ――」
「ただ?」
 少しの躊躇いを見せながら、魔理沙が応える。
「ただ、広い宇宙の中で折角あんなに近くにあるって言うのに、お互いに触れることもないなんて、寂しい話だと少し思っただけだぜ」

 ――ふむ?
 
 ここに至って、彼女がこの話の中に何を見ているのか、宇宙に隣り合って浮かぶ二つの星を誰と重ねていたのか、それが霖之助にも朧げながらもわかってきた。
 もし、それが当たっているとするならば、それは実に瑣末で、下らなくて――なんと可愛い悩みだろう。
 だがそれが判ったとしても、それは結局の所、魔理沙自身の問題だ。霖之助が口出し出来るようなことは何もない。
 しかし、ひとつだけはっきりと言えることがある。
「魔理沙、君はちょっと勘違いをしているようだね」
「……勘違い?」
「そうだ」
 短くそう応えると、目の前に積まれた本の中から一冊の本を抜き取って、ページをめくっていく。
 漸く目的のページを見つけると、その本を覗き込みながら霖之助は続けた。
「さっき『お互いに触れることもない』って言ったね?確かに物理的な接触だけを考えればそうかもしれないが、この二つの星は互いに影響を与えながら、ぐるぐると回っているんだ」
 ほらここに書いてある、そういって図説入りのページを指差す。
「……どういう意味だ?」
「君もこの星に引力があることは知っているだろう?その力と月の運動がちょうど均衡を保っているから、こうして月はぐるぐると回っているのさ。わかりやすく言えば、お互いがお互いを引っ張り合って、ちょうどいいところに落ち着いている――ということだ」
「ええっと、それはつまり――どういうことだ?」
 困惑をしながら魔理沙が言う。
「つまりさ、君はさっき『お互いに触れることもない』と、まるで二つの星が無関係であるように言っていたけど、そんなことは無いということだよ。僕達の目には見えないところでこの二つの星は互いに影響しあって、そうして今の形に落ち着いているんだ。君だって僕達がどれだけ月から影響を受けて生活しているか知っているだろう――って、なんで笑っているんだ?」
 ふと見れば、隣に腰掛けた魔理沙が心底おかしそうにお腹を抱えて笑っていた。
「……人が折角リクエストに応えて喋っているっていうのに、いくらなんでもそれは失礼なんじゃないか?」
「ははっ……!すまない、いや、くくっ……。香霖、お前が珍しく的を得たことを言うものだから、それがおかしくてな……、あっはっは!」
 何とも失礼な話である。
 しかし――。
 
 ――静まり返っているよりは、余程いいか。
 
 霖之助はそう思う。
 魔理沙はこうでないと、こっちとしても何だか落ち着かない。
 しかし、てっきり魔理沙の悩みはスペルカードに関するものだと最初は思っていたのだが、今の話で全て解決したのだろうか。それとも、そもそも自分の推測が外れていたのだろうか。
 そんな事を霖之助が考えていると、
「――でも、それでもやっぱり、ちょっと寂しいな」
 そう不意に魔理沙が呟いた。
「何がだい?」
「いや、どの星もそうやって距離を保ったまま回り続けるんだろう?それは矢張り、少し寂しいと思っただけだ」
「それなら、ちょうどいい『星』があるじゃないか」
 それは、正確に言えば天体ではないけれど。
「……一体どんな星だ?」
 わからない、といった表情で魔理沙が訪ねる。
「君の大好きな流星――流れ星さ」
「あ……」
 流れ星は星の公転軌道を振り切って、この星へと降り注ぐ。
 魔理沙お気に入りの夜空の主役。
「どうだい。納得したかい?」
 そう霖之助が言うと同時に、魔理沙はすっと立ち上がって、無言で店の入り口へ歩き始めた。
「お、おい、魔理沙?」
 何か不味いことでも言っただろうか、そんな心配をしながら霖之助が声を掛ける。
 すると、入り口で魔理沙はぴたりと止まって、
「――今日はありがとな。後で必ず礼はするぜ」
 一度だけ振り返って、眩しいくらいの笑顔でそう言った。
 そして今度は声を掛ける間もなく、魔理沙は店を飛び出していく。
 結局、スペルカードが関係していたのかどうかはわからなかったが、あの様子ならきっと大丈夫だろう。
 予定通り読書を続けるために、再び椅子に座り込んで本を開く。
 しかし、そこで一つだけ問題が残っていることにふと気がついた。
「――お礼って、まさか茸を持ってくるつもりじゃないだろうな」
 隣に置かれた大量の茸を眺めながら、霖之助はげんなりと呟いた。
 
 ◇◇◇
 
 さて、それから数日後のことである。
 
「茸といえば七輪で直火焼きに決まっているぜ!」
「何を言ってるのよ。そんなの季節はずれも甚だしいわ!ここはやっぱり鍋よ、鍋!」
 鍋だって十二分に季節外れなんじゃないだろうか、そんな事をぼんやりと考えながら、森近霖之助はその光景を眺めていた。
 そんな下らない言い争いをしているのは、ご存知紅白の巫女――博麗霊夢と、黒白の魔法使い――霧雨魔理沙だ。
 いつも通りの組み合わせである。
 場所もいつも通りに香霖堂の店内でのことだ。
 事の発端は霖之助が二人を夕食に誘ったことだった。
 余りにも多い茸にとうとう音を上げた霖之助が、都合よく三人揃った今日のうちに全て消化してしまおうと二人を夕食に誘ったのだ。
 そこまではよかったのだが、調理法を決める段階で、これまたいつものように、二人が言い争いを始めたのである。
「ふーん、わかったわ。それじゃあちょっと、軽く勝負で決めようじゃない」
「ふん、望む所だぜ!」
 そして結局、いつものように弾幕ごっこで決めることになったらしい。
「おい、二人とも。別に何で決めたって構わないけど、店内で暴れるのだけは止めてくれよ?」
「わかってるわよ。魔理沙、それじゃいきましょ」
 そう言って霊夢は早々と店の外へと出て行った。
 魔理沙はといえば、霊夢が出て行った方をじっと見つめて動かない。
「おい、魔理沙――」
「香霖」
 霖之助の呼びかけを遮る様に、魔理沙が振り返って言った。
「今日は、絶対に焼き茸だからな!」
 そう言い放つ彼女の瞳に迷いは無い。
「――ああ、わかったよ」
 霖之助は重々しく頷いた――内容は実にくだらないものであったけれど。
 その返事を聞くと、漸く魔理沙は外へと出て行った。
 そうしてその背中を見送ると、霖之助はどちらを準備するべきか迷いながら――結局、七輪を探しに倉庫へと向かった。
 
 そして――。
 
 「まったく、霖之助さんひどいじゃない。これじゃ私が負けるって決まっていたみたいだわ」
 そう毒突きながら霊夢が七輪から茸をとって頬張る。
「へへっ、ぼうっとしている方が悪いんだぜ」
 そういいながら、こちらも美味しそうに茸を頬張っている。
 そう、結局今回の勝負は――魔理沙の勝ちだったのだ。
「別にぼうっとしていたわけじゃないわ。大体、いつの間に使い魔なんて使うようになったのよ」
 人は日々成長していくものだぜ、と魔理沙は平然と言い返す。
「まあ、いつもと同じカードの名前だったから少し油断していたし……。それに、ちょっと……」
「ちょっと?」
「ちょっと弾幕に見蕩れていただけよ!」
「おいおい、弾幕ごっこは美しさを競う勝負だぜ?それで見蕩れていたなんて――」
 敗北宣言に他ならない。
「わかっているわよ、もう!霖之助さん、もっと茸持ってきて!」
「ああ、はいはい。まだまだあるから遠慮しなくていいよ」
 そう言って立ち上がると、茸を取りに台所へと向かう。
 その後ろからは二人の賑やかな声が聞こえる。
「次は必ず避けきって見せるわ。……巫女に同じ弾幕は二度も通じないのよ!」
「ふん、あのスペルには弾を増量した上位版を用意しているんだが、それでも避けきれるか?」
「……なんか、そっちからはそこはかとなくB級臭がするわね……、それもとてつもないB級臭が」
「まだ見てもいないのにそんなこと言うなよ!っていうか、B級臭ってなんだ?B級臭って……」
 勝った魔理沙は兎も角として、霊夢すらも上機嫌に思える。それは多分、霖之助の勘違いなどではないだろう。
 きっと、彼女はわかっていたのだろうと思う。
 そう、そもそも勘の鋭い彼女が、友人の異変に気付かないはずがないのだ。
 霖之助などよりもずっと早くから、親友が何かに悩んでいたことを、その一因が自分にあることにも気付いていたに違いない。
 それでも彼女は――何も言わずに待ち続けたのだろう。魔理沙が自分でその問題を解決できると信じて。
 魔理沙はその霊夢の隣で呑気に茸を齧りながら、自分で持ってきたお酒を美味しそうに飲んでいる。
 
 けれど、霖之助は知っている。
 
 彼女がそのためにどれだけの努力を重ねてきたのか。
 
 彼女がどんな気持ちでその場所に座っているのかを。
 
 それでも今は、何も語らない彼女達の気持ちを、友情を尊重して、
 
 ――黙っていようと、思うのだ。
こんばんは、負け猫亭です。
今回で3回目の投稿となります。

幼馴染っていいですよねぇ。
なんというか、近すぎず遠すぎず、絶妙な距離感があるような気がします。
ああ、妬ましい妬ましい。
え、私?私には幼馴染なんて居ませんよ。
子供の頃、何回か転校している私に幼馴染の付け入る隙など微塵も無い!
はは・・・orz

それでは、最後まで読んで頂きありがとうございました。

追記:

コメントして下さった皆様、ありがとうございます。

魔理沙が勝った理由~については、霊夢との戦闘シーン(というか弾幕シーン)を
書くかどうか最後まで迷っていたんですが、結局書きませんでした・・・。
もっと読み手の事を意識しないと駄目ですねorz
ご指摘ありがとうございました。
負け猫亭
[email protected]
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コメント



0.1450簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
素敵でした……プラネタリウムの中にいるようでした。

きっと魔理沙は流れ星にあこがれる月
地球を目指してる星達とともに、地球を目指して進み続けてる月
きっと霊夢はこの世に二つとない地球
その強さから全てを受け止めるが故に、自らは輝く事のない地球

二人が一緒にいることを、ずっと遠くから見つめる彼は……さて?
14.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙が勝てた理由が少しわかりづらいかなーと
話の雰囲気はとてもよかったです
20.100名前が無い程度の能力削除
雰囲気が好きだなあ。
GJ。良いお話でした。
21.100名前が無い程度の能力削除
台詞と地の文のバランスが良かったです。おかげですらすら読めました。
25.無評価名前が無い程度の能力削除
二人が友情してて、霖之助がお兄さんしててイイハナシダナー
26.100名前が無い程度の能力削除
↑評価忘れ
28.100名前が無い程度の能力削除
やっぱり香霖堂関連は良いものだ・・・
幼馴染…良い響きですよねぇww
29.100名前が無い程度の能力削除
前の話からすればいいと思う
37.100名前が無い程度の能力削除
良いお兄さんだなー…
そして、良いお話でした。