Coolier - 新生・東方創想話

文VS早苗

2010/01/21 22:35:40
最終更新
サイズ
11.45KB
ページ数
1
閲覧数
445
評価数
5/16
POINT
720
Rate
8.76

分類タグ

「東風谷さんでしたっけ」

文が早苗に話しかける。
「確かに私達は貴方方がこの山に居続けることに同意はしました。 ただ私としては確かめたいことがございまして」
丁寧ではあるが、その裏には少しばかりの拒絶の意思を含んだ口調。
「確かめたいこと……ですか」
早苗は薄々感づいていた。だからこそ、手にしていた風鎌を握る力が自然ときつくなってゆく。
「ええ、これは私個人の興味でして……貴方は、強いんですか?」
そう言うや否や文の体が風になる。 それは比喩でもなんでもなく、風を纏いながら高速で移動を繰り返す文自身もまた風になっていた。
「……いいですよ、確かめてみますか」
文の宣戦布告を、早苗は受け取った。
「遅いっ!」
いつの間に背後に回っていたのか、文が早苗の背中に向けて突進を試みる。
だが、背を向けたまま、早苗は手にした風鎌で文の突進をいなす。
「なっ!?」
文が驚きの声を上げる。 早苗の判断は正解だった。 勢いのついた文の突進は受け止めることは出来ない。
だからこの場合は受け流すのが最善の策なのだ。 その最善の策を早苗は背を向けたまま、いとも簡単にやってのけた。
「妖気がだだ漏れでした。 それじゃいくら早く動いても場所は手に取るようにわかります」
穏やかに、それでいて強い意志を持った口調。 文は少しだけ、早苗に対しての認識を改めた。
「では、これはどうですっ!?」
文が団扇を大きく振ると、轟音とともに鎌鼬が生まれ、それは早苗に対して一直線に襲い掛かる。
「……」
目の前に迫り来る鎌鼬。 早苗は風鎌で五芒星を自身の目に前に描く。
空中に書かれた五芒星はその軌跡に光を発し、早苗を守る盾となった。 鎌鼬が盾にぶつかり、消えた。
「涼しい顔して、中々やりますね」
文は予想以上のあしらわれ方に内心怒りを覚えていた。 妖怪、しかも千年を生きる天狗である自分が
こんな人間程度にここまでコケにされるとは思ってもいなかった。 早苗はそれでも何食わぬ顔で再開する。
「では、今度はこちらから」
先ほどよりも手早く五芒星を二つ描く。 魔法陣のように描かれた五芒星は二つがそれぞれ文に向かって飛んでゆく。
「ふん、こんな遅い弾幕ッ!」
文はギリギリの避け方で二つを同時に避ける。 しかし、それこそが早苗の思い描いたシナリオだった。
「縛!」
追加の呪文を早苗が唱えた瞬間、魔法陣は檻となった。 そう、この五芒星の魔法陣は攻撃用ではなく、
二つの間に入ったものを捕らえる捕縛用だったのだ。 そしてその術に、文はまんまと引っかかってしまったのだ。
「なっ、くそ、こんなものっ!」
ありったけの妖力をぶつけるが、早苗の作った檻はそう簡単には壊れない。
「……」
檻に捕らえられた文に向かって、ゆっくりと、しかし確実に照準を合わせる。 文にはその目が人間のものとはとても思えないほど、鋭く冷たかった。
「手加減が出来ないのは、許してください。 それと……守矢の力をあまり見くびらないでくださいね」
いつの間にか早苗の周囲に農密度の弾幕が形成されている。
早苗が風鎌を振り下ろすと、弾幕はその密度を保って文に向かって襲い掛かった。 弾幕は勢いを緩めることは無く、檻ごと文を飲み込んだ。



「ふぅ……」
舞い上がる煙を見つめたまま、早苗は溜息を一つつく。 それは案外手間取ったという事か、それともあっけなかったという事か。
どちらにせよ決着はついた、早苗は文のことを確認しないまま、背を向けた。
「いやぁ、案外容赦ないんですねぇ。 博麗さんと似てなくもない」
「!」
声のする方向に早苗は即座に振り向く。 高く太めの木の枝に、文は悠然と腰掛けていた。
「そんな……!」
流石の早苗もこれには動揺を隠せなかった。 自分の弾幕が文を飲み込む瞬間を、早苗は見ていた。 いくら文の足が速いとはいえ、
あの状況から無傷で抜け出すのは不可能だ。
「どうして」
思わず疑問の言葉が口から漏れる。 対する文は先ほどの劣勢が何事も無かったかのようだ。
「ああ、それはですね……」
ぴっ、と文が指差す方向。 それはいまだもうもうと土煙の舞い上がる、早苗の弾幕が弾けた場所だった。
早苗は文が指差す方を凝視する。 同時にだんだんと土煙が薄れ、中から一つの影が姿を見せた。
「な……」
早苗は絶句した。 なぜなら、土煙の中から出てきた影は、文ではなく見たことも無い天狗であったから。
「まさか!?」
瞬時に早苗は文の幻術に陥っていたことを理解した。 長く生きている妖怪、しかも天狗とあらばそれぐらいの幻術は用意であろう。
「頭の切れも博麗並みか」
説明する前に理解してしまった早苗を見て、文はどこかつまらなそうな顔をする。 それは早苗を馬鹿にしているようにも見えた。
「一応紹介しておきますね。 そこで延びてるのは犬走 椛、私の部下です、ハイ」
椛、と呼ばれた天狗はいまだに目を覚ましそうに無い。 早苗はちらりともう一度椛を見た後、すぐに文の方に視線を戻した。
「……何時から?」
そう、自分は何時から幻術にはまっていたのか。 戦闘中、文は幾度も風のような速さで早苗の周りを移動していた。
つまり、その間に幻術を仕掛け、椛と交代することはいくらでも可能だったのだ。
「ふふ……」
文が笑いをかみ殺すように口を歪ませる。 だって、頭が切れる早苗でさえ、それには気づいていなかったのだから。
「最初から、ですよ」
「最初?」
「私が最初に貴方に声をかけ、姿を消した。 次に現れた私は、もう椛だったんですよ」
早苗は文が笑った理由がようやくわかった。 弱い者には徹底的に強く出る、早苗は文に弱い者として見られていた。
「ちなみに幻術とはいえ私の姿をした椛はあくまで椛自身の戦闘力しかありません」
つまるところ、早苗が先ほどから圧倒していた相手は文ではなく、椛だったのだ。 自分から勝負を仕掛けておいて、
自身よりも弱い者をけしかけて反応を窺う、そんな文の態度に早苗は言いようの無い怒りを覚えた。
「私を試していたのですか? それとも、馬鹿にしていたのでしょうか?」
文の背筋にぞくぞくするような感覚が走る。 これこそ、長く生き過ぎた妖怪には無い人間特有の生々しい感情。
その混じりっけのない感情を弄ぶ事がどれほど楽しいか、文は想像するだけで胸が高鳴るのを感じた。
「うーん、試させてもらった……その言葉が一番しっくりきますね」
煮え切らない返答ももちろんわざと。 早苗の射殺すような視線が心地良い。
「で、それはもう終わりですか?」
先ほどとは打って変わって早苗が早くも臨戦態勢をとる。 一方の文ももうこれ以上は我慢の限界だった。
「ええ、貴方の力量も大体把握しましたし……これで心置きなく虐められる」
文は確かに木の上にいた。 しかし次の瞬間早苗が背後から強烈な衝撃を受け、吹っ飛ばされていた。
「!?」
早苗は何が起きたのか理解できなかった。 自分が攻撃されたと理解できたのは、地面に思いっきり擦れながら滑っている時だった。
「東風谷さん、注意力散漫ですよ」
そんな軽口を叩くほど、文には余裕がある。 文は思う、風に成るとはけして暴風を纏うわけではないことを。
むしろ、気づかないほどのそよ風、その流れに乗れる方が難しいと。 移動する時に相手にわかってしまうような風を纏う天狗は三流だ。
だからこそ、椛は早苗に負けたのだ。
「ありゃ、強く蹴り過ぎましたかねぇ」
相手が気づかないほどの静かで翔けるような動き、それこそが一流の天狗の証。
文は奢っている訳ではない、その足は正真正銘一流の天狗の名を冠している。
「秘術」
ゆらり、と早苗が立ち上がる。 風鎌を天に掲げると、早苗の立つ場所を中心に風が吹き荒れ始めた。
「一子相伝の弾幕」
代々東風谷の家系に伝わる弾幕。 そのルーツは遥か神代にまで遡る。
諏訪神社の神々が使ったとされるおおよそ現代には成し得ない弾幕が、文の眼前に広がった。
宙に浮かぶ五芒星を象った弾幕、その数はあまりにも多く、神々しく、そして何よりも凶悪だった。
「妖怪風情が……!」
早苗の顔が憎悪に歪む。 現人神として存在している自分が妖怪程度に遅れをとるはずが無い、
神の力を借りた自分に勝てない妖怪はいない……早苗は風鎌を文に向かって振り下ろした。
「滅!」
早苗の号令で五芒星が分解し、それぞれが濃密な弾幕へと変貌する。 それはまさしく神の怒りとも形容出来そうな光景だった。
「あちゃぁ……これは避けられそうも無い」
ゆっくりと自分を押し潰しにかかる弾幕を前に文は舌打ちをする。 このストーリーは想定外だった、まさか相手がこんな大技を隠し持っているとは。
「塞符」
精神を統一する。 禅を日常的に行っている天狗は、いつ、いかなる場合でさえ己の精神を最大限に集中させることが出来る。
「天上天下の照國!」
宣誓後、文の周りを竜巻が包み込む。 さらにそれを囲うかのように大小入り混じった無数の弾幕の壁が生成される。
早苗の放った怒涛の弾幕は、外側の弾幕とぶつかり、相殺されてゆく。 運良くそれを潜り抜けた弾幕も
文による妖力を練った竜巻によって散り散りに引き裂かれていった。
「くっ……」
早苗の奥歯が軋みつつも弾幕の波が収まる。 視線の先の竜巻が消えて、中からは無傷な文が姿を見せた。
「無傷……馬鹿にしてる」
霊夢や魔理沙に負けたときは、油断していた。 だから負けてしまったのだ、もっと万全な状態ならば負けなかったはず。
早苗は常々そう思っている、だからこそ、こんな天狗如きに負けるはずはない、と。
「ふむ……」
一方、文は早苗を冷静に観察していた。 文の頭の中には既に勝負などという平等な考えはなく、どうやって早苗を壊すか、それだけだった。
そう、目の前の娘は幻想郷に来て日が浅い。 だからこそ未だに自分の力を過大評価している、そう文は思った。
事実、早苗ほどの力を持つものなら幻想郷にはごまんといるだろう。
「……!」
文の舐める様な視線に、早苗は嫌悪するかのごとく風鎌を突き立てる。 まだ自分の方が上だと思っているその表情に、文は少しばかりいらつきを覚えた。
「逆風」
このままでは、早苗は自身の力を過信し、自分の身を破滅に導くだろう。 別にそこに慈悲などという感情は無いが、文は早苗に現実を教えることにした。
「人間禁制の道」
今度は文を風上とした暴風が早苗を襲う。 弾幕こそ無いものの、その純然たる荒れ狂う風は早苗の動きを封じるには十分すぎるほどだった。
「ちっ……こんなも、のっ!?」
喉が詰まる。暴風の中、文が自分の首を締め上げていた。 文はまるで子どもでも持ち上げるかのように片手で早苗の首を掴む。
ギリギリとめり込む指が早苗の気道を圧迫する。
「っか、はっ!」
「……」
文は何も言わず、早苗を勢いよく投げ飛ばす。 ぶぉん、と風を切りながら早苗は錐揉み回転がかかった弾丸のように投げ飛ばされ、
大木に強く打ちつけられた。
「がはっ!」
早苗は衝撃で口から血を吐いた。 喉にこびりつく鉄分の味が気分をより一層悪くさせる。
頭はガンガンと痛み、体は四肢は痺れて動かない。 かろうじて四つん這いになって呼吸を整えることしか早苗は出来なかった。
「こんなことっ……こんなことぉっ!」
自分が一方的に押されている。 しかもそれは弾幕勝負などといったものではなく、ただの力のぶつかり合いにおいて。
神の加護を受ける早苗の身体能力は常人を遥かに上回る。 しかしそれすら霞むほど、目の前の妖怪の力は強大だった。
ざり、と砂が擦れる音。 その音を聞いた早苗の体がびくんと跳ねる。
「おや、東風谷さん。 先ほどまでの威勢は何処へ行きましたか?」
文字通り、文は早苗を見下していた。 不用意に近づいてきた文に対し、早苗は全身を襲う痛みをこらえながら風鎌を文に向かって突き出した。
「おっと危ない」
だが、その早苗の必死の攻撃も文には届かなかった。 文はあろうことか、二本指で風鎌を受け止めたのだ。
「この期に及んでそんなに動けるとは、予想外でした」
うなだれる早苗の頭を掴み、強引に顔を上げさせる。
「あ……あぁあ……」
先ほどの攻撃を外した時、早苗はついに心の底で自身の負けを認めた。 緊張感と敵対心が、一気に恐怖へと変わる。
「おや、どうしましたか?」
早苗の心境の変化を理解しつつも、文は持ち前の底の見えない笑顔で早苗に笑いかける。 早苗にとって、文の笑顔はもはや死刑宣告にしか見えなかった。
「い、いや……やだ……」
目から涙が勝手に溢れてくる。 外の世界にいた頃は感じ得なかった感情、絶対的な恐怖心が早苗を包み込む。
口をパクパクとさせながら許しをこいねがう早苗を、文は少しだけ哀れに感じた。
「何言ってんですか」
再び早苗の首を掴み、大木に押し付ける。 喉輪状態にされた早苗は必死にその腕を外そうとするが、
文の指はまるで鉄で出来ているかのように動かなかった。
「が……はぁっ……」
呼吸すらもままならない状態、それでも早苗は文の腕を外そうともがく。 文はそんな早苗を凝視し、そして不意に手を離した。
全身の力を失った早苗が地面に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……」
「東風谷さん」
もはや条件反射のように早苗の体が跳ねる。 早苗の目は既に焦点が合ってなく、歯もかちかちと鳴っていた。
「わかりましたか?」
「え、あ……」
「この幻想郷は、貴方のいた世界とは違います。 外の世界の非常識が、この世界の常識です。 貴方はその事を肝に銘じなくてはいけない」
早苗は地面を見つめながら文の言葉をただただ受け止めた。
「そうでないと……きっと貴方は自身を死に追いやってしまうでしょう」
何故、文がそんな忠告をしたのか文自身もよくわからなかった。 ただ、文の目には早苗は右も左もわからない迷子のように見えていたことは事実だった。
「ちなみに私より強い妖怪だっています。 もちろんそんなことは理解していただいたと思いますが……それでは、私は仕事に行きますので、これで。
こら、椛、起きなさい。 仕事ですよ」
手短に言葉を残して、椛を担いだ文は早苗の前から姿を消した。 文が空に目を移した時には、既に遥か遠くに文の姿があった。
自分以外誰もいなくなったその場所で、早苗は泣いた。 誰にも気づかれないよう、声を殺して泣き続けた。
初めての投稿です。 むかーし書いてたやつが偶然にもHDDより発掘されてしまった記念。
masuda
masuda@otad.sakura.ne.jp
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.310簡易評価
6.90名前が無い程度の能力削除
これは…なんつうか後編というか…続きが欲しいんだぜ
8.90名前が無い程度の能力削除
長編の導入部としてそのまま使えそう。
10.90名前が無い程度の能力削除
ここで終わりなのはどうかと思います。
12.無評価名前が無い程度の能力削除
昔、同じような路線で文VS霊夢ってのを読んだ事がある。
あっちはさんざんブッ叩かれた挙句、自主削除に至ったが、はたしてこちらは……?
15.70名前が無い程度の能力削除
惜しいなー。いろいろと惜しい。
もうちょっと展開とセリフを尖らせて、読者に読ませる説得力を帯びた作品を多数発表してヒットしたという前例があるんです。
徒歩二分というサークルさんなんですけどね。
16.70ずわいがに削除
哀しいけどここ、幻想郷なのよね