Coolier - 新生・東方創想話

それぞれの『おやすみ』

2010/01/20 21:04:26
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~レミリアとフランと一冊の絵本~

ある夜のこと。
もう寝ようと思い、自室に向かって廊下を歩いていた私は、ふいに後ろから声をかけられた。
「お姉様!」
「あら、フラン。どうしたの?こんな時間に」
声の主は、フランだった。いつも夜は早目に寝る彼女が、こんな遅くまで起きているとは、少々珍しい。
ふと、可愛い妹に何かあったのかと心配になってしまい、私は思わず問いかける。
「眠れなかった?もしかして、心配事でもあるの?」
「ううん、そんなことないんだけど、寝る前に本を読んで欲しいなあって」
私の問いかけに対し、少しだけ恥ずかしそうに、そう言うフラン。
よく見れば、その胸には、一冊の絵本が大事そうに抱かれている。それは、私が昔フランに贈ったものだった。
外に出してやれない代わりにこれで世界を知ってほしいと、フランには沢山の本を与えた。
嬉しいことに、彼女は今もそれらの本を大切に取ってくれている。
そして、今フランが持っているのは、その本の中で彼女が最も気に入っているものだった。

フランの言葉を聞いて、私は少しの間考える。
寝る前に、絵本を読んで上げる。姉妹の交流としては、決して悪いものではない。
それに、生意気なところもあるとは言え、血の繋がった可愛い妹の頼みである。となれば。
私はその絵本を見て、微笑みながら言った。

「ダメ」
「えー!?」
「カリスマが妹に絵本なんか読み聞かせてあげてたら、色々台無しでしょ?咲夜にでも読んでもらいなさいな」
私の出した結論はそれだった。妹は勿論大切だが、紅魔館の主として、面子だってそうそう潰すわけにはいかないのである。
特に、二人仲良く寝てる写真なんて天狗にでも撮られたら、どんな記事を書かれるか分かったものではない。
「お姉様のケチ!意地悪!」
「何と言われても、ダメなものはダメ」
妹の非難の声に対してもあくまでクールに、私はそんな言葉を口にする。
そして、それじゃあと手を振り、再び廊下を歩き出した。

「……お姉様ぁ」
しばらく歩いた辺りで、そんなフランの情けない声が聞こえてくる。これ以上いじめたら、今にも泣いてしまいそうだ。
ああ面白い、なんて思ってしまう辺り、私は根っからの悪魔なのだろう。でも、だからと言ってやりすぎてしまうのはよくない。
「……本当に、ダメ?」
「……しょうがないわねえ」
懇願するようなフランの声に、今夜だけよ?と言いつつ、私はクスクスと笑いながら振り返る。
すると、先程までしょんぼりした表情だったフランは、途端に花の咲くような笑顔を浮かべて私に飛びついてきた。
「お姉様!」
「ああもう、そんなにくっつかないの」
「だって、嬉しいんだもん!」
「ふふ。まだまだ子供ねえ、フランは」
まったく、手がかかる子なんだから。これじゃあ、いつまでも独り立ちできないわよ?
そう言ってやってもフランは意に介していないようで、すりすりと私の胸に頬擦りをしている。
これでは、彼女の独り立ちなど、先のまた先の話だろう。
ああ、でも、何だかんだ言いつつ、結局こうやって言うこと聞いちゃう私も甘いんだろうなあ。

「それじゃあ、寝室に行きましょうか」
「うん!」
「せっかく読んであげるんだから、途中で寝ちゃ嫌よ?」
「が、我慢する!」
「そう。それなら私も読み甲斐があるわね♪」
終わるまで、寝ちゃダメ、寝ちゃダメ、と、自らに対してぶつぶつ呟くフラン。
これじゃあ、何のために読んであげるのか分からないな、なんて思いつつ、私は心の中で苦笑した。

ベッドに入った私たちは、早速フランの本をパラパラと捲りだす。
何のことはない。この絵本は私も大好きなもので、もう何回も読んでいるので、二人とも筋は分かりきっている。
まあ、こう言うと「そんな筋の分かったお話など、改めて読んでも面白くない」という人もあるかもしれない。
それでも、一人ではなく、二人で読めば、いつでも初めて読むような新鮮な気持ちが味わえるのは何故なのだろう。
「お姉様、早く!」
「もう、そんなに焦らないの。それじゃあ、読むわよ。むかしむかし、あるところに……」
「……」

初めの興味津々ぶりもどこへやら。私が読み始めてすぐ、うとうととした表情を浮かべるフラン。瞼もかなり重そうだ。
これでは、最後まで話を聞くなんて到底出来ないだろう。今夜はかなり無理をして起きていたみたいだし、当然か。
「……フラン?」
「……き、聞いてるよ!?」
「そう?それじゃ続けるわよ」

(まだ何も言ってないのに「聞いてるよ」なんて言う時点で、聞いてないじゃないの)
こみ上げる笑いを堪えつつ、私はそんなことを思う。

今晩、フランはどんな夢を見るのだろうか。
胸の躍るような冒険?それとも、ハラハラドキドキのサスペンス?あるいは、私や咲夜とのんびりお喋りを楽しむような、そんな夢かもしれない。
姉馬鹿だけど、少しでも楽しい夢を見て欲しいと願ってしまう。
そして出来ることならその夢が、今読んでいる絵本のように、幸せな結末を迎えますように。

フランの可愛い寝息が聞こえてきたのは、それからすぐのことだった。



~秋姉妹と、ある冬の日~

冬の我が家には、会話が無い。
「無い」と言えば大げさだと思われるかもしれないが、本当に無いのだ。
春も、夏も、勿論秋も、いつだってそこに存在しているはずのそれが、冬の間に関してだけは、殆ど消えてしまう。
まるで、時たま降る雪に、私たちの声を全て吸収されてしまっているかのように。
私も、お姉ちゃんも、ただ、無言を貫いている。

「……お姉ちゃん」
「……何?穣子」
「……蜜柑取って」
「……ん」
以上、今日交わした会話の全て。
本当に、たったこれだけ。しかも、昨日は多分これよりも更に喋っていないはずだ。

別に、私たちの仲が悪いわけではない。
現に、他の季節には、こんなことは起こらないわけだし。
そもそも、仲が悪いのなら離れて暮らせば良いだろう。何のかんの言われてたって神だもの、一人で生きていくぐらいは容易いことだ。
でも、私もお姉ちゃんも、今のところそんなことをするつもりはない。

では、何故、毎年冬の間だけ、このような事態に陥ってしまうのか。

会話が無い理由は簡単だ。
私たちはその名が表すとおり、秋にこそその真価を発揮できる存在。
だからこそ秋の間は二人揃って非常に元気になれるのだけど、そんな秋が終わりを告げた冬は、お互いに何処か苛苛した気持ちが募ってしまうのだ。
もっと秋のうちに出来ることはなかったか、なんて後悔することも多い。そこから派生して、何で秋はこんなに短いの、なんていう、我ながら理不尽な怒りを感じることもある。
そして、姉妹共にそんな状態で話していると、普段なら何でもないような場面で喧嘩になってしまいかねない。
実際、私とお姉ちゃんは、今までにそんなお互い気まずくなるような喧嘩を、何回も繰り返してきた。
だから、うちでは冬の間、なるべく会話はしないようにしようという暗黙の了解が生まれたのだ。

まあ、いくら何でもお正月になれば「明けましておめでとうございます」くらいの挨拶はするが。
でも、私もお姉ちゃんも、とても新年を祝うのに相応しいような顔はしていない。
二人とも、まさに『どんより』という言葉がぴったり当て嵌まるような、暗い表情だ。
当然だろう。だって、次の季節である春は、まだまだ先なのだから。
結局、その挨拶だけ済ませれば、あとは無言の生活に逆戻りだ。毎年、こんな暮らしが弥生頃まで続く。

壁に掛かったカレンダーを、ふと見てみた。
「一月」という二文字に、思い切り気が重くなるのを感じた。

その日の晩のこと。
いつものように布団で寝ていた私は、くしゅっとクシャミをしながら目を覚ました。
(うう、何か寒い……)
見れば、毛布を蹴飛ばしてしまっており、私の体に掛かっているのは薄がけ一枚だ。
おゆはんにお鍋を食べて、お風呂に入り、その状態で布団に入ったから、暑くなりすぎてしまったのだろう。
なるほど、これでは寒いはずだ。
枕元に置いてあったちり紙で鼻を拭きつつ、私はその寒さに思わず震える。
(今夜は、ことさら冷えるなあ)
これだから冬は、なんて悪態をつきつつ、毛布を肩まで掛け直す。
先程までよりも、ややではあるが暖かさがまし、ようやく私はほっと息をついた。
(寝不足は朝辛くなるし、早めに寝なきゃ)
そんなことを思いつつ、私は寝直すことにする。

しかし、一度起きてしまったことに加え、寒さもあって、中々寝付くことが出来ない。
更に、寝なきゃ寝なきゃと思うと、余計に眠れなくなるという悪循環のおまけつきだ。
(うう、本当に寝なくちゃいけないのに)
そう焦っても、こんな状況では、まともに眠れるわけもない。
仕方がないのでそのまましばらくごろごろと寝返りを打っていると、ふいに隣の布団から「穣子……?」と声をかけられた。

「……何?お姉ちゃん」
「……貴女、何でこんな時間に起きてるの?」
「……寒くて、目が覚めちゃって」
「……あら、奇遇ね。私もよ」
お揃いね、と微笑むお姉ちゃん。それにつられて、私も思わず笑ってしまう。
でも、次の瞬間、私は寒さに耐え切れず、ぶるっとその体を震わせてしまった。
「……そんなに寒いの?」
「うん、何だかね……」
心配そうなお姉ちゃんの声に私がそう言うと、お姉ちゃんはいつ以来かの優しげな表情を浮かべて言った。

「……穣子」
「……何?」
「……こっちの布団に来なさい」
「え?何で?」
「二人で寝れば、寒くないでしょ?」
おいで、と言いながら、私が入れるように掛け布団を捲るお姉ちゃん。
ああ、そういえば昔はよく一緒に寝ていたんだっけ。懐かしいなあ。もう随分前のことだけれど。

そんなことを思い出しつつも、私は首を横に振りながら言った。
「一緒に寝るなんて恥ずかしいよ。子供じゃないし」
まだ幼かったあの頃ならいざ知らず、今はもう立派な大人だ。
お姉ちゃんじゃなかったとしても、誰かと一緒に寝るなんて、恥ずかしい。
そう思ってこんなことを言ったのだが、お姉ちゃんはそんな私に向かって、諭すようにこう言った。
「そう言って無理して一人で寝て、風邪を引く方がよほど子供なんじゃない?それに」
「?」
「私も穣子と一緒に寝たいのよ……。今夜は、すごく冷えるから」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、そんなことを言うお姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんの言葉が嬉しくて気恥ずかしくて、私は頬を赤く染めながら、お姉ちゃんの布団へと入った。

「こうやって二人で寝るのも久しぶりだね」
「ふふ、そうね」
「前にこうしたのはいつだったっけー」
そんなことを話しながら、二人でクスクスと笑い合う。これも、何だか随分久しぶりだ。
嬉しくなって、私は更にお姉ちゃんに向かって話しかける。
「お姉ちゃん」
「何?穣子」
「……春は、まだ遠いね」
「……ええ、そうね」
私が言うと、お姉ちゃんは少しだけ落ち込んだような声で、そう相槌を打って来た。
お姉ちゃんも、遠い春をまだかまだかと待ちわびているのだろう。だから、春が遠いなんて改めて言われれば、落ち込むのは当然だ。
そんなお姉ちゃんに向かって、私は敢えて明るい声で続ける。
「でもさ」
「何?」
「冬にだって、良いことはあるよね?」
その私の声に、驚いたように目を丸くするお姉ちゃん。
でも、お姉ちゃんはすぐ分かったようで、微笑みながら言った。
「ええ。こうやって一緒に寝られるのも、冬くらいのものだしね」
「うん。やっぱり、一緒に寝てるとあったかいね」

どんなゆたんぽなんかよりも、毛布なんかよりも、そこに誰かがいること。それが、一番暖かい。
そんなことを身に染みて感じていると、次第に、瞼が重くなっていくのが分かった。

「お姉ちゃん」
「……何?」
「……もっと話してたいけど、眠くなってきちゃった」
「……ええ、私も」
「……お姉ちゃん」
「……何?」
「……おやすみなさい」
「……ええ。おやすみ。穣子」

明日からは、喧嘩にならない程度にお姉ちゃんと話そう。
日々の出来事。里で流行っていること。話したいことは、尽きない。
やっぱり、そこに誰かがいるのに、それを感じられないなんて嫌だ。

春はまだ遠い。だからこそ、今は冬を楽しまなくちゃいけない。
そして、どうせ楽しむなら、二人がいい。それは、さして難しいことではないはずだ。だって、姉妹なのだから。

そんなことを考えながら、私は、とても気持ちの良い眠りへと落ちていった。



~神奈子と諏訪子の静かな晩酌~

―――月の綺麗な夜だった。
私は一人、縁側にて過ごしていた。
片手に酒瓶、もう片手にはお猪口を持ちながら。所謂『一人酒』というやつだ。

くいっと日本酒を一口飲み、空を見上げる。
澄んだ空気の中で見渡す空は、まるで吸い込まれそうなほどに美しい漆黒だった。

外の世界では街の明かりで見えにくかった星も、この山からはよく見える。
その光は、昔たしかに見ていたはずのもの。
にも関わらず、それをすっかり忘れてしまっている私にとっては、何だか新鮮な煌きだ。
こうまで自然を忘れてしまっていたのかと、私は思わず苦笑した。

今日も、何てことはない平凡な一日を終えた神社。平和だなあと思いつつ、いつも通り、私は早苗と諏訪子におやすみの挨拶をした。
しかし、何故だか寝付くことが出来なかった私は、台所からお酒を拝借し、縁側で空を眺めながらそれをちびちびと飲んでいたのだった。

今夜は、満月。
光を遮るような雲も無い。
空に浮かぶ月には、まさしくまん丸という言葉が相応しい。

(今頃、外の世界でも、私と同じ月を見ている者がいるんだろうねえ)
空を眺めつつ、何とはなしに、そんなことを思う。
昔、どこかでそんなフレーズを聞いた気がしないでもないが、別に構うまい。
私は、客観的に見て、事実であろうことを言っただけだ。

ふと、考える。彼ら、彼女らは、どういう思いで月を見ているのだろうと。

それは、希望なのか。
真っ暗闇で、先の見えない社会に、一筋の光を差してほしいという思いなのか。
それは、恐怖なのか。
多くの者に称えられ崇められ、潮の満ち干きにさえ干渉するような、途方も無い影響力を持った一つの衛星に対する恐れなのか。
それは、羨望なのか。
多くの者が月面を目指し、それに一生をかける者がいることからも分かるように、何がしかの憧れを持って月を見ているのか。

そこまで考えたが、しかし、私は自らの首を横に振った。
(……多分、どれでもないんだろうね)
大多数の者は、別段深いことなど何も考えずに、月を見ているのだろう。
私が今、ただ『綺麗だ』と思いながら、月を眺めていたように。

ため息を一つ吐くと、お猪口に日本酒を注ぐ。
少しだけ溢れた酒が、私の指を濡らした。



「こんな夜中まで月見酒とは、随分いいご身分ね?」
しばらく縁側で飲んでいると、ふいにそんな冗談めかした声が聞こえてきた。
一聴してそれと分かるほどに、耳に馴染みきったその声。
私は振り向くこともなく、その声に答える。
「そりゃあ、いくら信仰が減ったと言っても神だもの」
「そっか、神様ならしょうがないか」
「あんたも同じ神でしょうに」
「ふふ。そうだったっけ」
私と、ここのもう一人の神様―諏訪子は、そんな他愛も無い会話をしながら笑い合った。
諏訪子は縁側に腰を下ろすと、私に向かって話しかけてくる。
「眠れなかったの?らしくないね」
「んー、何だかね。今夜は寝付けなくて」
諏訪子の言うように、こんなに眠れないというのは、久しくなかったことだ。
昔は諏訪子との戦いに明け暮れる中、毎晩気絶するように眠っていたし、それが終わっても、別段眠れなくなるなどということはなかったのだから。
私がそんなことを考えていると、諏訪子はククっと笑いながら言った。
「明日は、雪でも降るんじゃないの?」
「降ったっておかしくないでしょうが。今は冬なんだし」
「参ったねえ、そうなったら冬眠しなきゃ」
一人で可笑しそうに笑う諏訪子。そんな諏訪子を見ていると、こちらまで楽しい気分になってしまう。

そのまま二人で少しの間話していたが、ふと、諏訪子が私の飲むお酒を見ながら聞いてきた。
「私も、ご相伴に預かっていい?」
「ええ、勿論」
諏訪子の問いに、私は笑顔で答える。すると、諏訪子はとても嬉しそうな表情を浮かべた。
「じゃあ、お猪口取ってくるね」
そう言って、台所へ向かおうとする諏訪子。私は、そんな諏訪子を呼び止めて言った。
「ああ、じゃあ諏訪子」
「?」
「ついでに、何かおつまみもね」
「……あーうー」
途端に、はめられたとでも言いたげな表情で睨んでくる諏訪子。
しかし、私はまったく気にしていない素振りで、再び空を見上げた。
「相変わらず、月が綺麗ねえ」
「……簡単なのでいいんでしょ?」
「ええ。別に、何でもいいわよ」
「もう!不精なんだから……」
そうやってプリプリと怒りつつも、台所へ向かう諏訪子。
私はその後姿に「お願いねー」と声をかける。

こんな二人の関係は、もう何年も前から、変わることなく続いてきたものだ。
単なる友達とも恋人とも違う、言葉で表すには難しいような関係。
諏訪子の背中を見ながら、私は何となく遠い昔の事を思い出し、思わず微笑んでしまうのだった。

「お待たせ。はい、これ」
「お、いいわね」
台所から戻った諏訪子が手にしていたのは、塩煎餅だった。
シンプルな味ながら、その分あとを引く。私も諏訪子も、大好きなお菓子だ。
「ありがとう、諏訪子」
「いいって別に。早く飲もうよ」
早速、塩煎餅を一枚口にする。
サクサクとした食感と、程よいしょっぱさがたまらない。
うん。やっぱりこれは美味しい。
「諏訪子も一枚食べてみなさいよ」
「どれどれ……。ん!美味しいね」
「でしょう。あんた、下手に自分で作ったりしないでよかったわね」
「何だとー!」
「あはは、ごめんごめん」
お煎餅をつまみながら、そんな取り留めもない会話を交わす。
そして、二人並んで酒を飲んでいく。

「うん。日本酒だけでも良かったけど、つまみが加わると格別ね」
やっぱり、お酒は何か食べながら飲む方が、美味しく頂ける。
そう思って私が言うと、諏訪子は先ほどのお返しとばかり、からかうような口調で言ってくる。
「あれ~?月をつまみにしてたんじゃないの?」
「うるさいわねえ……。お月様じゃ食べられないでしょうが」
「ありゃりゃ、たかだかお煎餅に負けるんじゃ、お月さんも形無しだねえ」
ニヤニヤとした笑いを浮かべる諏訪子に対し、憮然とした表情を向ける私。
勿論、こんなやり取りを本気でやっているわけじゃないんだけど。さっきの冗談の延長戦だ。
やがて、二人とも耐えられなくなったように、どちらからともなく笑い合う。
早苗が起き出してこないかが若干心配だったが、どうやら大丈夫だったようだ。

「今夜は、このまま朝まで飲んじゃう?」
ふいに、諏訪子がそんな魅力的な提案をしてきた。
思わず頷きかけた私だったが、しかし、流石にそれはまずいだろう。
徹夜したなんて早苗にバレたら、何を言われるか分かったものじゃない。
「駄目よ。明日早苗に怒られるわ」
「大丈夫だって。いつも通りに振舞ってれば分からないよ」
「……そう?」
自信たっぷりに言い切る諏訪子。
たしかに、こうして二人きりで酒を飲むのも久々だし、何だかこのまま眠ってしまうのは勿体無い気もする。
それに、まだお酒もお煎餅も残っているのだ。たまには、こんなのも良いだろう。
「じゃあ、今日はとことん飲んじゃう?」
「うん♪飲んじゃお、飲んじゃお♪」
まあ、仮にも神だし、一晩くらいの徹夜なら、早苗にも分かるまい。
そう思い、私と諏訪子はお猪口になみなみと酒を注ぐ。

結局、私たちはそのまま明け方頃まで飲み明かし、形ばかりのおやすみを言い合うと、自室へと戻ったのだった。

―――翌日。
昨晩飲んだ日本酒の空き瓶が見つかり、黙って飲んでいたことがバレて、私と諏訪子が早苗に怒られたのは言うまでもない。
どうも、ワレモノ中尉です。
前回コメント下さった方、ありがとうございました。
久しぶりの回文話でしたが、楽しんでいただけた方がいるようでほっとしました。

今回は、ちょっといつもと違うものをやってみようと思いまして、短編集のような形式です。
幻想郷での『おやすみなさい』の形とでもいうのか。まあ、寝る前という一番リラックスできる時間を書いてみたかったということで。うまく書ききれたか、どうも自信が持てませんが…。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。それでは。
ワレモノ中尉
http://yonnkoma.blog50.fc2.com/
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コメント



0.1300簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
これはそれぞれの味が出てていいね。
ほんわかした。


俺も妹様に絵本の読み聞かせしたい(ぁ
5.100煉獄削除
それぞれに良い雰囲気があって良いですねぇ……。
レミリアとフランの会話とか微笑ましかったです。
12.100名前が無い程度の能力削除
スカーレット姉妹も秋姉妹もスワカナも素敵すぎる。
13.90名前が無い程度の能力削除
素敵でした。
思わず声がでてしまうほどに。

おやすみなさい
21.100名前が無い程度の能力削除
冬なのに、温かい気持ちになれました。

絵本を読んであげるレミリア嬢…
和むわぁ。
25.100ずわいがに削除
なんというハートフルファミリーズなんだ!
そして俺としては守矢を最後のシメに持って来てくれたのもすこぶる嬉しいところ。
29.100名前が無い程度の能力削除
ほんわか