Coolier - 新生・東方創想話

幻想即興曲

2010/01/17 15:41:54
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幻想の音

それは死んでしまった音

もう聞くことのできない音





その日もリリカは幻想となった音を探すべく空を飛んでいた。

「あー、幻想の音なんてなかなか転がって無いものなのねー」

ここのところ、姉妹の中でどうも自分の扱いが悪いような気がするとリリカは考えていた。
ライブの中でも自分をコールする声が他の二人と比べて随分少ないような気がするし
天狗の写真も自分が写ってなかったり、酷いときは見切れていたりしたときもあった。
確かに姉さん達は人気がある。
ルナサ姉さんのダウナー系の演奏はしっとりとしていて落ち着いて聞くにはちょうどいいし
メルラン姉さんのアッパー系の演奏は聞く人の精神を高揚させてハッピーな気分にさせてしまう。
それと比べると、私の幻想の音というのはどうにも地味らしい。
「幻想の音だよ? 幻想の。死んでしまった音なんてすっごくレアじゃない!」
そう姉さん達に力説したこともあった。幸い二人とも理解してくれたことはとても嬉しかったが
それでもやっぱり自分は演奏家である。多くの人に理解されてこそ意味があるんだとリリカは常々思っていた。

そんなことを考えているうちに人里の外れまでやってきた。
幻想の音のよさを広めるには、まずたくさんの音を集めたほうが良いだろう。
外の世界で失われた音というのは何かしら人が関わっているものが多い。
それなら人間の里のどこかに隠れているのではないかとリリカは睨んでいたのだ。

さて、どうしようか。もっと里の中まで入ってみるか。
それとももう少し、このあたりを探してみようか。
辺りをぐるりと見回してみると、一つの人影が目に映る。こんなところに誰だろう。
一応境界線上はここも人間の里ではあるが、人家はおろかほとんど里の人間も来ないような場所に
護衛もなしに一人で出歩く人間とは一体どんな人物か。ちょっと顔が見たくなった。

息を潜めてその妖しい人影のそばまで忍び寄る。顔を見てリリカは驚いた。

「お婆さん、お婆さん。こんなところで何してるの?」

思わず声をかけてしまった。怪しい人影の正体は、なんともこの場に不釣合いなお婆さんだったのだ。
一方お婆さんの方も急に空飛ぶ少女に声をかけられ驚いたのか、目を見開いたまま微動だにしない。

(あ、固まった。…大丈夫かな。まさか今ので死んじゃったなんてこと無いよね?)

恐る恐るお婆さんの目の前で手を振ってみる。
ようやくお婆さんの目に動きが戻った。どうやら我に返ったようだ。

「…ああ、びっくりした。お婆ちゃん、ついにお迎えが来たのかと思っちゃった」

そう言ってお婆さんは笑った。
それにしてもこのお婆さんは変わっている。こんなところに一人でいるのもそうだけど
こんなフワフワ浮いている、明らかに人間でない自分を前にして怖がるどころか笑いかけるなんて。

「ねえ、あなたは幽霊さん? お婆ちゃん、幽霊さんに会うのは初めてなの」

今度はリリカが驚く番だった。このお婆さん相当肝が据わってる。

「えっとー…。私は幽霊じゃなくって騒霊なんだけど…」

私は何を言ってるんだろう。返事をするにしたってもう少し気の利いた言葉があるだろうに。

「まあ、騒霊さんっていうの? 幽霊さんとは違うのかしら…」

お婆さんは頬に手をあてて考え始めてしまったようだ。
その仕草が妙にかわいらしくて、思わずリリカは吹き出した。
きっとこのお婆さんはいい人なのだろう。そう思うとなんだかこのお婆さんのことが好きになっていくのを感じた。

「お婆さん、こんなところに一人でいると危ないよ? この辺には怖い妖怪もウロウロしてるしね」
「そうなの? でも騒霊さんならお婆ちゃん平気よ。だってこんなにかわいらしいんですもの」
「わかんないよー? 急にこう、頭からバリバリーッてお婆さんのこと食べちゃうかもしれないよ?」
「あらまあ、怖いわぁ」

お婆さんが口に手をあてて微笑む。それを見て、リリカもつられて笑った。

「お婆ちゃんはね、今日は冒険をしているのよ」
「冒険?」
「そう、冒険。お婆ちゃんね、この前お医者の先生にもう長くは生きられないって言われちゃったのよ。
だからこれからはやりたかったことをやるの。今日は冒険の日なのよ」

言われてリリカは返事に困った。
騒霊には寿命が無い。明日消えてしまうかもしれないし、もしかしたら未来永劫このままなのかもしれない。
だから人間の気持ちはわからない。彼女なら、レイラならどう答えただろうか。

「まだお婆ちゃんが子供だったころ、この辺りまで冒険に来たことがあるのよ。先立ってしまったあの人と一緒にね。
妖怪が出てきたら俺が守ってやるって言ってくれて、子供心にときめいちゃったの」

お婆さんはまるで少女のように笑う。
思い出を辿るために、お婆さんはここまで来たのだろうか。
杖を突いて、正直足取りも少し危なっかしい。しかし人間の思い出とはそれほどの物なのかもしれない。

「でもやっぱり歳はとりたくないものね。いろんなことを忘れていってしまうのよ。
どれもこれも、みんな大切な思い出だったはずなのにね」

少し寂しそうなお婆さんの顔を見てリリカは思った。
幻想の音は死んでしまった音。もう聞くことのできない音。
外の世界で失われた音も、幻想郷で忘れられてしまった音も、誰かの思い出であることにきっと違いはない。
このお婆さんは幻想の音を持っているかもしれない。
その音をもってすれば、お婆さんの思い出も蘇るかもしれない。

「ねえ、お婆さん。よかったらもっとお話を聞かせてくれないかな? お婆さんの思い出を私が取り戻してあげる」
「騒霊さんは一体…?」
「私は幻想の音を操るリリカ・プリズムリバー。 プリズムリバー三姉妹っていったら
人間の里でもけっこう人気のある楽団なんけど、お婆さん、知らない?」
「うーん、ごめんなさいねえ。お婆ちゃん、知らなかったわ。でもお話をするだけで思い出せるものかしら?」
「私の操る幻想の音は、遠い昔の思い出の音。たとえお婆さんが忘れていても
言葉の中にはきっとその音が隠れているわ。それを私が奏でれば、お婆さんの思い出は蘇るっていう寸法よ」
「なんだか面白そうね。それじゃあお願いしてみようかしら」

そう言ってお婆さんは語り始めた。
この里に生まれた事、この世界の外にはもっと大きな世界があると知った事。
たくさんの友達。初めての恋。両親に叱られたこともあった。寺子屋の先生に褒められたときは嬉しかった。
大きくなって結婚もした。生まれた子供たちは皆かわいかった。
年老いた両親が亡くなった。辛く悲しかったが、夫や子供、周りの人たちが支えてくれた。
子供たちの成長を見るのが何よりの楽しみだった。手がかからなくなる頃には自分もいい年になっていた。
老いていくことは怖くなかったが、小さい頃からの友達がだんだんとこの世を去っていくのは寂しかった。
ついに自分もそう長くないことを知った。これからはやりたいことをやろうと思った。

「そして今日、リリカちゃん、あなたに出会ったわ」

目を瞑り、リリカはお婆さんの話に耳を傾けていた。ところどころ曖昧な部分もあったが
あまりにお婆さんが楽しそうに話すので、自然と口元が綻んでいた。

「ありがとうお婆さん。次は私の番だね」

リリカは神経を集中する。お婆さんの言葉の端々に、思いの中に幻想の音は存在する。
インスピレーションからイマジネーションへ、お婆さんの心を理解し失われた音を紡ぎ出す。

(見つけたよ、お婆さんの音)

中空に静止するリリカ。傍らにはキーボード霊。ただ一人のために幻想の調べは始まる。
にっこりと笑い、今、高らかに宣言する。

「ここに取りい出したるは、高名にして不遇のキーボードの霊。
その身に宿った幻想を、今こそお聞かせいたしましょう!
リリカ・ソロライブ、はっじまっるよ~!!」

それはとても不思議な音だった。
誰もが初めて聞くような、それでいてどこか懐かしさを覚えるその音は、お婆さんの心にすうっと沁みこんでいった。
時に激しく、時に切なく。旋律は人生のように移り変わる。
その中でお婆さんは聞き覚えのある音を聴いた。あれはどこで聴いたのだったか。
随分と小さい頃だったような気もするし、つい最近だったような気もする。
気になれば気になるほど音は心に絡みつく。気づけば、お婆さんは―――




―――幻想の中にいた。

腰ほどまである草むらの中を一人の少女が駆けてゆく。

(ああ、あれは私なのね。そしてこの景色は―――)

少女の行く先には生意気そうな顔をした少年が待ち構えている。息を切らせて少女は言った。

「ねえ、里の外に、子供だけで、出ちゃいけないんだよ。
怖い妖怪に、食べられちゃうって、お父さんも、お母さんも、言ってたもん」

少年が答える。

「妖怪なんて全然怖くないね!もし妖怪が出てきても、その時は俺が守ってやる!」

(あの人、小さい頃はこんな声だったのね。すっかり忘れていたわ)

少年は少女の手を握り歩き始める。
道を外れて林の中へ、すぐそばにあるのに始めて見た景色たち。
初めての冒険。
二人だけの秘密。
たどり着いた先は一面の花畑だった。振り返って少年が言う。

「お前にこれを見せてやりたかったんだ。きっと喜ぶと思って…」

少年は耳まで真っ赤にしている。途中ごにょごにょと口ごもって最後のほうは良く聞き取れなかった。
なんだか急に恥ずかしくなって、二人とも目を逸らしてしまった。
胸の高鳴りがはっきりと聞こえた。

(小川のせせらぎも、小鳥のさえずりも、あの人の声も、みんなみんな懐かしい
たとえそこにある物は同じでも、決して同じ瞬間は訪れない。それが私の音―――)

意識の遠くでリリカの演奏が聞こえる。その旋律に合わせて、幻想もまた転調していった。
懐かしい人。懐かしい声。
懐かしい景色。懐かしい音。
思い出が次々に、目まぐるしく流れてゆく。夏の夜に見た走馬灯のように。
お婆さんは自分が泣いていることに気づいた。

(これが私の音。これが私の思い出。これが私の人生。私はなんて幸せだったのだろう)

もう少しこのままでいたいと思った。もう少しリリカの演奏と一緒に、この思い出の中に浸っていたいと思った。
しかし演奏には終わりがある。最後の音がフェードアウトして行き―――




―――現実が戻った。

お婆さんは、ほう、と一つため息をつき拍手を送った。

「ありがとうリリカちゃん、本当に素敵な演奏だったわ。お婆ちゃん、リリカちゃんのファンになっちゃった」
「へへへー、すごいでしょ。でもねお婆さん、私が操るのは幻想の音。
お婆さんの音がきれいだったから最高の演奏ができたんだよ」

二人で笑う。

「お婆ちゃん、またリリカちゃんの演奏が聞きたいわ。演奏会、やったりしてるんでしょう?」
「本当? 嬉しいなぁ。 実はね、今度姉さん達と人間の里近くでコンサートやる予定だったんだ」
「まあ、それじゃあ絶対に聴きに来なくちゃいけないわね」
「うん、絶対来てね」
「もちろん、絶対よ」



/




「みんなー!、今日は私たちのコンサートに来てくれて本当にありがとう!!!」

メルランがこれ以上ないくらいのテンションで観客に挨拶をした。
ルナサも観客の声援にこたえてひらひらと手を振っている。
今日のコンサートは大成功だった。
中でもリリカの演奏は絶好調と呼べるもので、今日の主役はリリカと言ってもいいくらいだった。

(お婆さん来てたかなぁ)

声援の中、リリカは思った。
今日の演奏にはあのお婆さんの音も混ぜてみた。どうやらそれは思った以上にうまく行ったようだ。
だからこそ今日の演奏はあのお婆さんにも聴いて欲しかったのだが―――

(お婆さん、来てないなぁ。絶対来るって言ってたのに…)

気を取り直してリリカも観客達に声をかける。たちまちリリカコールが起こった。
声援はまだ少し続きそうだった。



それからしばらくして、リリカは風の噂にあのお婆さんが亡くなっていたことを聞いた。
たくさんの人に看取られて幸せな最期だったそうだ。

「約束、破られちゃったなぁ」

少し寂しそうにリリカが言う。
今頃あのお婆さんはどのあたりだろうか。
もう三途の川を越えただろうか。渡し賃が足りないなんて事はありえないだろう。
それに、閻魔様だってきっと優しくしてくれるに違いない。
目を閉じればあのお婆さんの顔が浮かんできた。






幻想の音

それは死んでしまった音

もう二度と聞くことのできない音

そっと鍵盤を叩いてみる

―――ありがとう、かわいい騒霊さん―――

そんなふうに、聞こえた気がした
こんにちは、リリカスキー権兵衛です。あふれる思いを文章にしてみました。
独自解釈も大目ですが、少しでも気に入っていただけたなら幸いです。
権兵衛
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コメント



0.1080簡易評価
13.100名前が無い程度の能力削除
作者とは気が合いそうだ。
17.100名前が無い程度の能力削除
自分も結構リリカ好きですが、幻想の音っていまいちイメージが沸かなかったんですよね
こういう音だったら素敵だなあと思えました、良かったです
19.100名前が無い程度の能力削除
リリカの能力にはロマンが溢れてると思うんです。
 こんな解釈もまた素敵ですね。
20.80ずわいがに削除
幻想郷って不思議なところですよね。
人間と妖怪に神様、そして霊がふれあいを持っているんですから。
21.100名前が無い程度の能力削除
ふわ・・・

なんだかそんな声を出してしまいたくなるくらい良いお話でした。
幻想と忘れた想いはおんなじ物なんでしょうねぇ。

リリカの音は出会いを重ねれば重ねるほどいいものになるのでしょう。
23.90名前が無い程度の能力削除
ええ話やのぉ……
25.100名前が無い程度の能力削除
好いリリカでした。
ありがとう。