Coolier - 新生・東方創想話

未知なる外界を夢に求めて

2010/01/16 20:48:36
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※注意書き※
本短編内には原作における描写とは相反する、いわゆる「独自設定」と言うものが含まれております。従ってそのような形式が苦手な方はブラウザバックをお願いします。




「ねぇ、霖之助さんは『外の世界』に行ってみたいと思ってるのよね。今思ったんだけどなんで外に行ってみたいの?」

 『何者にも縛られない』巫女である霊夢はその字の如く会話の文脈にも縛られない。あくまで自由に、自分自身が思った事を思ったままに口にする彼女の言葉は得てして突拍子の無いものになりがちだ。理路整然を旨とする僕にとって彼女の型破りさは全く以て論理の埒外であり、その常識に囚われない考え方には驚嘆させられる事もしばしばある。今回の言葉だってそうだ、つい先程まで彼女とはこの冬の寒さについて語っていたはずなのに何故そこから僕の望みの話に飛ぶのだろう。一度機会があれば彼女が思考する筋道をじっくりと分析してみたいものだ。きっとその道は空を飛べでもしなければとても進めそうに無い過酷なものになるだろうが。

「ちょっと聞いてるの霖之助さん。なんだか明後日の方向に考えが飛んでるみたいだけど」

 それを受けて「飛んでいるのは君の思考回路の方だ」と喉まで出かかった言葉を彼女に悟られぬよう必死に自らの内に留める。それにしても相変わらずの勘の良さだ。彼女の言に耳を傾けている『ふり』をまさか一瞬で看破してくるとは。

「ちゃんと聞いているよ霊夢。僕が外を目指す理由、だろ?」
「そう、それよ。紫に聞いた話じゃ今の幻想郷はスペルカードルールの導入も相まって昔と比べてずいぶん平和に、それでいて賑やかになったらしいじゃない?」

 確かに現在の幻想郷は霊夢が考案したスペルカードルールの効果もあってか、妖怪と人間の関係は穏和な、言ってしまえばじゃれ合いのような事さえ出来る仲になっている。僕のようなどっちつかずの存在さえ人と妖が織りなす輪の中に入る事を許容されるのだから。

「郷は至って平穏。時々起こる異変だって博霊の巫女たる私の手にに掛かれば迅速に解決してみせる。衣食住に困るものが出る事だってさして無い。現にこんな閑古鳥が鳴き過ぎて喉を涸れ果たすような店でさえ店主は生活していけるんだから」

 閑古鳥の声が掠れる一因を確かに担う彼女がこの言葉。戻らないツケを偲んで流す僕の涙が涸れ果てる日も近いかもしれない。
 そんな自分の悲観的な未来について思いを馳せる僕を尻目に霊夢は言葉を続ける。

「なのに……なのに霖之助さんはどうして外の世界に行きたがるの? この幻想郷がそんなに不満だって言うの? まさに理想的な世界、それこそ外の世界から見れば楽園と称されても良いような世界だって言うのに!」

 霊夢は声を荒げ僕に疑問をぶつけてくる。彼女がこの話題に対して感情的になる理由も判らないでもない。幻想郷を包み込む博麗大結界、それを司る博霊の巫女・霊夢。それに加え今のような人妖の関係を創り出す礎と成ったスペルカードルールを考案したのも霊夢だ。そんな彼女にとってこの『楽園』のような幻想郷を否定される事は自らを否定される事に等しいのだろう。
 フムン、僕が外を目指す理由……誰が隙間から聞き耳を立てているとも限らないこの場において馬鹿正直に真実を語るのは得策とは思えない。もっともらしい理由を告げて事でお茶を濁すぐらいは出来るだろう。だが心の片隅で「居るかも判らない間者を恐れて真実を隠す必要などは無い」と告げてくる自分が居る。「言い逃れのような真似をするのは真情を吐露した彼女に対する不義理だ」とも。
 ややあって、僕は従うべきは自らの心だと決心した。

「僕が外の世界に焦がれる理由……それは一言で言ってしまえば『未知のものを解き明かす愉しさを味わいたい』そんな自らの性分のせいさ」

 そんな僕の弁に対して霊夢はどこか腑に落ちない部分があったのか、気難しい表情で聞き返してくる。

「でも豪華に彩られた箱を開けてみたら中身に入っているのはがらくただっていう可能性だってあるじゃない。世の中には『知らぬが仏』と言うありがたーい御言葉も有るわよ?」
「そんなものは自らの思い描いていた事態と全く異なる結果に直面した末に自ら考える事を放棄した愚かな先人の創り出した言葉だ。そんな言葉のトリックに引っ掛かってどれだけの才能が潰されてきたことか。だが生憎僕程の人物にはそのような詭弁は通用しない。この世界に、未知のままにすべき事柄等は存在しないのだから」

 そう断言する僕を霊夢は呆れた、しかしどこか諦めが混じったような複雑な表情で見つめてきた。

「なるほどね……正直私には霖之助さんの主張自体は良く理解できないけど、一つだけ判った事があるわ。魔理沙があんな風に自由奔放な癖して妙な所で強情な性格に育ったのは間違いなく霖之助さんの影響ね」

 霊夢はそう呟くと早くもこの話題に対する興味を失ったのか店の奥より勝手に煎餅を見つけ出しては摘み始めた。人を焚き付けておいてこの変わり身の速さ。人としては呆れるばかりだが、商売人としては大いに参考とするべきだろうか。


 その後も霊夢はまるで万華鏡のように話題を転換させ続ける。僕はと言えば不幸にも店を訪れる客が全く現れなかった為に延々と彼女の話に付き合わされる羽目と成った。そろそろ夕餉の支度でも口実に彼女を追い出そうかと思い始めた頃、霊夢はにわかに「お賽銭が入った気がする!」と叫ぶと、神社に向かってそれこそ天狗顔負けの速さを以て飛び去って行った。これも巫女特有の直感とでも言うのだろうか。今度遠隔操作で賽銭を放り込む装置を開発してみるべきだろうか。それがあれば効率的に巫女をこの店から追い払えるように成るだろう。

 一陣の風の如く霊夢が去った後、僕は店の中で一人ごちる。

「魔理沙があんな風に育ったのは僕の影響、か……」

 結論から言えばこの言葉は不正解、それどころか寧ろ全くの正反対だ。何故ならば僕が先程霊夢に断言したような事を本気で思えるように成ったのは、他ならぬ魔理沙の影響なのだから。

 その昔、正直余り自分でも思い出したくない過去なので詳細は伏せるが、自らの親も知らぬ僕が紆余曲折を経て人里にある霧雨店に於いて奉公をするに至った頃。あの時分の僕は自分の出自が判らぬ事に加え、半妖という中途半端な自分の立ち位置も相まって、人々の営みによる輪に入る事を躊躇いどこか冷めた目線で世界を見続けていた。そんな冷淡な目に映る世界、それは一面の灰色だった。あらゆる事象に興味を見出せず、与えられた仕事を淡々と消化するだけの毎日。生まれ持った器用さのおかげか大きな失敗をやらかす事も無く日々の仕事をこなせたので、人々から疎まれる事はあっても排斥される事は無いのだけは幸いだった。
 そんな生きているとも死んでいるとも付かない日々を過ごしていたある日、僕は店主の一人娘である霧雨魔理沙の世話を任される事と成った。今思えば霧雨の親父さんは僕の抱える虚無感を確かに見抜いていたに違いない。そして親切にも何とか出来ないかと知恵を絞った結果、まるで瑞々しい生命をそのまま凝縮したような存在、自由奔放たる魔理沙を僕にぶつけてみる事にしたのだろう。
 
 最初、僕は魔理沙の事が煩わしくて仕方が無かった。あれやこれやと矢継ぎ早に疑問を投げかけてくると思えば、僕がその答えを探っている間にもう次に興味を引かれたものに向かって走り去ってしまう。そんな彼女に引っ張り回される毎日に辟易していたのだ。
 そんな鬱憤が積もり積もったある日、彼女の奔放さに耐えかねた僕は魔理沙にある意地の悪い質問をした。「君はいつも『あれが知りたい、これは何?』と人に聞く事ばかりするが、そこで返ってきた答えが君にとっての不幸をもたらしたらどうするんだい?」と。
 そこで彼女が答えた言葉は、僕にとってまさに青天の霹靂だった。

「なんでそんな事聞くんだ? 知らなかった事を知るってのはすっごくワクワクする事だろう。だから私にとって知らなければ良かった事なんてあり得ない。決めるのは私自身なんだから勝手に他人に不幸と言われたくは無いぜ」

 他人なぞ関係ない、全ては自分自身だと余りにも気持ち良く言い切る魔理沙。その言葉を子供特有の蛮勇と切り捨てる事なぞ僕には出来なかった。きっと魔理沙には未知のものに溢れるこの世界がこの上無く彩り鮮やかに見えるのだろう。灰一色の世界しか知らない僕にとってはその事が心底羨ましかった。
 それと同時に僕の心に生まれて初めてと言っても過言ではない程の強い感情が渦巻いた。僕も彼女のように『生きて』みたい、世界の美しさを知りたいと、他人に後ろ指を指される事を恐れて薄暗がりの中をおっかなびっくり進む生き方なぞまっぴらだと。


 それからというものの僕は人が変わったように、それこそまるで別の人物が乗り移ったのではないかと噂される程に、しゃにむにあらゆる知識を求めた。それに伴い少しずつ色付き始める僕の世界。その事が僕には例えようもない程愉しく、故に更にと新しい未知を求める事に繋がる。終わる事のない循環。そして今は尽きる事の無い探求心を満たす為に自らの店を構えるまでに至っている。

 世の中全てが色褪せて見えた僕に未知を解き明かす事の美しさを教えてくれた魔理沙。彼女のおかげで凍り付いた僕の心には仄かな火が灯った。そして今その火は業火の如く燃え盛っている、この幻想郷に限らず外の世界までもを含めた遍く全てを知ってみたいと。この炎が揺らめく限り、僕の世界は美しく輝き続けるだろう。
 お久しぶりの方、こんにちは。そうでない方には初めまして、鈴月です。今回の話ですが、前書きにも有る通り、自分なりの独自設定で書かせて頂きました。それがどの箇所かと言いますと、霖之助の修業時代。原作における魔理沙の話だと霖之助が霧雨店にいたのは「魔理沙が生まれる前」なんですよね……
 原作を無視するという恐れ多過ぎる行為、それでもせっかく書き上げたのだから日の目は見せたい。一体どうするべきかと悩んでいた所でしたが、とある方が私の背中を押して下さった結果、注意書きを添えての公開と相成りました。


おまけ:どうにかして盛り込もうと思ったが没になった小ネタ
「どうしたの深刻そうな顔して」
「ちょっと悩んでるんだ、ほっといてくれないか」
「ふーん、話変わるけどお客さん来た?」
「話変わってないよ」
鈴月
the.bell.moon@gmail.com
http://bellm00n.blog108.fc2.com/
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コメント



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22.80名前が無い程度の能力削除
俺設定上等
霖之助の意地悪な問い掛けに対する魔理沙の答、
すごく「らしく」て素敵だと思いました