Coolier - 新生・東方創想話

歌声の響く場所

2010/01/15 00:12:02
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「かーえーるーのーうーたーがー」
「きーこーえーてーくーるーよー」

「…いないなぁ」
「カエルの歌を歌えば寄ってくると思ったんだけどな」
「えーと、どこまで歌ったっけ」
「分かんないや」
「ケロケロー」
「あっちの方に行けばいるかなぁ」


「うわぁ…おっきな家だ」
「あれ?誰だろう?」

「………」
「眠ってるの?」
「おーい」
「………」
「起きないや」
「ほっぺたツンツンしたら起きてくれるかな」
ツンツン
「………」
ツンツン
「………」
「ツンツンしても起きないや。 じゃあ…」
ふにふに
「………」
ふにふに
「………」
「ふにふにしても起きないや…」
「そんなに疲れてるのかな」
「遊びたかったのにな」
「でも、やっぱり眠っているのを邪魔するのはよくないよね」
「おやすみー」
「あー! カエル―――――…………」


「んん…」


眼を覚ますと、その前には広大な湖が広がっていた。
…何やら騒がしかったような気もするけど、よく分からない。
いつの間に眠っていたのだろう…。
それより私はこんな所で何をしていたんだっけ?
少し寝ぼけた頭を働かして考えると直ぐに答えは見つかった。

歌を歌っていたんだった。  館の外、湖の傍で日傘を差し、歌を歌う。
昨日とは違う、今日の歌を歌う。
嬉しいことがあった時や、悲しいことがあった時にはいつもそうして過ごす。
今日は悲しいことがあったからこうしている。

なんであんなことをしてしまったのだろう。  後悔の念が絶えない。
後悔する…それだけではいけない。  自分一人でそうしていても意味が無い。

行動に移さないと、理由を話さないと、知ってもらわないと。
なぜあんなことをしたのかを。

今日の歌を歌いながらこれからどうするか考えていると
「妹様?」
後ろから声がかけられた。

歌うのをやめる、声の主は見ずとも分かる。  紅魔館のメイド長、十六夜咲夜。
「こちらにいらしたのですね。歌声が聞こえてきました」
「……」
私が何も言わずにいると、
「なぜ、あのようなことをしたのですか?」
咲夜が隣に座り、問い掛けてきた。

「……」
目も合わさずに私は沈黙を続ける。
「なぜ、あのようなことをされたのですか?」
咲夜に再び問い掛けられる。   あのようなこと か。


それは今日食事中に起きたこと。 食事の時というのは静粛にすべき時。
それなのに私は… 溢れ出る怒の感情を抑えきることができなかった。

ひと時の感情、ただそれだけのことで、使っていたスプーンを壁に投げた。

その時の咲夜の顔を忘れることはできないだろう。
私は居ても立ってもいられなくなって外に飛び出した。
そんな状況でも日傘だけは忘れなかったけど。


そして私は今日の唄を歌っていた。


「…どうしてですか?」

問い掛けはこれで三度目。理由を話すべきだ。
そうしたならば、きっと――――


「……」

「……」

「…辛かったから」
目を逸らしたまま、そう言った。


「……」
「……」
沈黙が続く。
しかし、
「…ふふ」
その沈黙は咲夜の笑い声で終わりを遂げた。

「そんなことだったのですか」
「そ、そんなことって何よ! 私にとっては死活問題なんだからっ」
咲夜の方に向き思った通りのことを言う。

「死活問題なんて大げさなことを言わないでください。あれは大分甘くしておいたつもりだったのですが…」
「うぅ…それでも辛かったんだもん」
「では次からはもっと甘くしますね」
そう言って私に笑いかけてくれる咲夜。
「うんっ」

私はようやく目を合わせて笑うことができた。


「ところで妹様。 先ほどの歌は何という歌なのですか?」
「名前は無いわ。 私はただ、今日の歌を歌っただけよ」
「今日の歌とは、何ですか?」
私は問いに答えない。


「ねぇ咲夜。1日1日を歌にするのって、素敵なことだと思わない?」
逆に咲夜に問い掛ける。

「1日1曲歌を作っていくの。今日は今日の歌。明日は明日の歌という風にね」
まるで日記のように。

「だから、今日は今日の事を歌っていただけよ」
「…確かに、それは素敵な――――――」
  パリ――…ン

咲夜の言葉は甲高い嫌な音でかき消された。
「…窓ガラスがっ…!!」
咲夜の言うとおり、確かにあれはガラス。 破片が庭に落ちて更に砕けるのが見えた。
「今すぐに調査と修復を致します」
そう言うとメイド長は飛ぶように行ってしまった。 再び私一人になる。

なんで割れたのか気になったけど放っておくことにしよう。
「ガラスの事は咲夜にまかせておくとして、これからどうしようかな」
「んー…図書館にでも行こうかしら」
少し考えた後、答えを出す。 そこに行けばあの子がいるはずだから。


ところで、隣から去る瞬間に見えた咲夜の横顔。
酷く焦っているように見えたのは気のせいかしら?


――――――――――――――――――――――――


館に戻り地下に入っていく。 そこにある大きな扉を開けるとまず見えるのは本。
次に見えるのも本、所狭しと積まれている無数の本。
その中にいた紫の髪がこちらを向いた。

「いらっしゃいませ」
「ここは私の家よ」
「冗談です」
動かない大図書館は今日もここで本を読んでいた。

「相変わらず独特の臭いがするわね」
「仕方ないわ。それで、今日はどうしたの?」
「聞きたいことがあって来たのよ」
「何でしょう?」
私は先ほどから気になっていたことを聞いてみることにした。


「ガラスが勝手に割れるなんてことあるのかしら?」

「……」

「……」

「…物事には、必ず理由があるわ。理由なき現象なんてものは存在しないの。必ず何かあるはずよ」


出てきた言葉は直接的な答えでは無かった。

「どういうこと?」
「例えばドアを開けるにはドアノブを捻らないといけないわよね?」
「ええ」
「じゃあガラスを割るためにはどうすればいいのかしら?」
「そんなこと決まってるじゃない」

ガラスを割るためには
「『目』をきゅっとしてドカーン」
「それはあなただけよ…」
少し呆れたような顔でパチュリーは言う。
何かおかしかったかしら?
「いい? ガラスって言うのはね…」

始まった…ガラスに関する知識を延々と語られる。
アルカリに強いとか原子や結晶がどうとか言っていた気がするけどほとんど聞いていなかった。
「パチュリーもういいわ」
「これからガラスの歴史について話そうと思っていたのだけど…」
「もう、いいわ」
「そう」
なんだか残念そうな顔をしている。

「好きなのね」
「ええ」
昔、何故図書館に住んでいるのかを聞いたときにもここで同じように語っていた。

本を読んで知識を付けて、そして話をしたいの。
いくら知識を付けても話をしないと人には伝わらない。
本はね、素晴らしいの。
作者が伝えたいことを本という形にする。
それを読んだ人がその本について話す。
そうやって知識は広がっていくの。
だからね、私は図書館にいるの。
全ての作者が伝えたかったことを理解したいの。

「本が好きなのね」
同じ言葉を繰り返すと
「本のそばにいるものこそ、自分だから」
さも当然の事のようにそう言ったのを覚えている。


「それで、ガラスが割れたのは何でだと思う?」
「そのことなんだけど、何故急にガラスの話を始めたの?」
「あ」

そういえば言って無かったわね。
「今日庭で咲夜と話をしていたときに突然ガラスが割れたのよ」
つい先ほど起きたことをそのまま話す。

「誰も怪我はしなかった?」
「ええ、窓から結構離れていたから」
「そう、それはよかった」
まず最初に怪我の心配か…。いかにもこの子らしい。

「それで、破片は内側と外側どちらに落ちたの?」
「庭に落ちてきたわ」
「と言うことは内側から割られたのね。あなたが窓を見たときに誰か見えた?」
あの時を思い出してみる…けど

「誰もいなかった」
「じゃあ、何か動くものは見えなかった?」
「えと…何も見えなかったわ」
まるで自然にガラスが割れたように見えた

「そう…」
パチュリーが再び考え込む
けど、すぐに頭を上げた
「とにかく現場を見てみるしかないわね。どの部屋か分かる?」
「えーとね、あの部屋はねー」

「……」
「あれ?」
どこだっけ?
「……」
「うー…」
「分かんない」
「…………そう」
「えーと…」
「とにかくその部屋を探さないとね。行きましょう」
そう言って、パチュリーは歩いていった。
「うー…待ってよー今思い出すからー」
「こんなところでじっとしていても分からないわよ」
「うー…」

急いでパチュリーに追いつき図書館を出ていく。 ギギギッ…と軋み音を立てながら扉が閉まった。


その向こう側で本が数冊落ちたことにはその時は全く気が付かなかった。


――――――――――――――――――――――――


「あなたが思いだすのを待つより早めに妖精に聞いた方がよかったわね」
「…うるさい」
ガラスの割れた部屋は今は使われていない所だった。

「ここね」
ノックの後、返事を確認し部屋に入るとそこにはお姉様と咲夜が居た。
咲夜が窓の修理をしていた。でも、様子がおかしい。 顔色が悪く、手も震えている。

「! 咲夜! 大丈夫なの?」
「はい。問題ないです。妹様」
その言葉は明らかに嘘だった。 そして ガシャンと音が鳴った。
咲夜が持っていたガラスが落ちたのだ。 いや、落としたのだろう。

「申し訳ございません。今すぐに…」
「咲夜」
私が呼ぶと、咲夜がこちらを向いた。 その表情はとても辛そうに見える。

「休みなさい」
「いえ、私は…」
「休まないとダメ。無理をしないで」
「しかし…」
「咲夜、部屋に戻り休みなさい。これは命令よ」
いい加減にしてほしいと言うようにお姉様がそう言った。

「…はい、お嬢様」
咲夜がようやく作業を止めた。
「失礼いたします」
そして部屋を出て行った。 明らかにふらついている足取りで。
その直ぐ後をパチュリーがついて行った。

「パチェ、咲夜をお願いね」
「ええ」
パチュリーと咲夜が出て行き、お姉様と二人きりになる。
「咲夜どうしたのかしら…」
「分からないわ」
「とにかく今は休ませてあげないと…」
「ええ」
窓の方を見てみるとガラスの破片が散らばっていた。

「窓の修理は別の妖精に任せておくわ」
「…そう」
「咲夜どうしちゃったんだろ…」
再び同じ質問を言う。
「いつもとは明らかに様子が違う…」
「ええ、いつもならこんな窓を治す程度のこと一瞬で終わらせてしまうもの」
「私、今から聞きに行ってくるわ」
「フラン」
部屋を出て行こうとした瞬間お姉様に腕を掴まれた。

「今はやめておきなさい」
「でもっ」
「今は休ませてあげましょう。明日も具合がよくないようだったら、その時に聞けばいいわ …?」
突然何かを思い立ったような表情になった。


「どうしたの?」
「ねぇフラン。私、前にもこんなこと言ったかしら?」
急に何を言い出すのだろう。
そんなことを言うということは間違いない。

「ついにボケましたか お姉様」
「なっ!」
「確かに500も生きているんですから仕方のないことなのかも…」
「なにを言っているの? フラン…」
「あ…」
本気で怒らせてしまったみたいだ
「覚悟しなさい」
「―――――!」

声にならない叫びを上げても無駄な事だった。


――――――――――――――――――――――――


「今日はこれぐらいにしといてあげるわ」
「……」
「お姉様」
「なに?」
「そういえばパチュリーは…」
咲夜について行った後戻ってきていたのだろうか。

「パチェなら随分前に帰ってきていたけど、呆れた顔して出ていったわよ」
「な…」
顔がボンッと赤くなるのが分かった。
パチュリーにあんな姿を見られていただなんて。

「いいじゃない。見られても減るものではないわ」
「………」
「それより、もう寝る時間よ」
時計の針はいつもの時間より遅い時を示していた。
「はい、おやすみなさい お姉様」
「おやすみなさい フラン」

………

自室に戻った瞬間倒れこんだ。お姉様ったら、あんなことまでしなくてもいいのに。
そんなことより咲夜…明日には… よく…

そんな事を考えながら眼を瞑った瞬間――
私の意識は夢の世界に飛ばされた。


――――――――――――――――――――――――


眼を開けるとお姉様と咲夜がいるのが見えた。でも、ここはどこ? 
足元を見てみるとレンガ片やガラス片が散乱していた。
私は瓦礫の中にいた。

この瓦礫は何か分からない。 辺りを見渡してみると、その風景は見覚えのある風景だった。
あの花 あの森 あの湖   じゃあ、その中心にあるものは?


そこにあるものは決まっている。
この、足元に散乱している瓦礫… 紅魔館だ。


「なにが起こったの…?」
紅魔館が崩壊するなんて、ありえない。
いや、その前に考えるべきことがある。


絶望を感じ取り上を見上げると  その瞬間、雲の影から太陽が姿を現した。


館の崩壊。 
私を守ってくれていたものの消失。 
陽の光。


私は、霧になる。



そんなの嫌っ! 抗いてみせる。 そして眼を落とした先に見えたもの。
瓦礫の中から突き出ている一本の腕。

見覚えのある、あの服は…。
「パチュリー!」

あの瓦礫を破壊しないと…  私にならできる! この能力で!

全てのものには「目」が存在している。 それを潰せば…破壊することができる!


パチュリー!
「今、助けるからっ!」

あの瓦礫の「目」を 見つけたっ!  後は潰せばいいだけ


それなのに、それができなかった。


私の手は既に消えていたから。


見えているのに  あれを潰せばいいだけなのに

それができない  なんて無力…


「ごめんね…パチュリー…」
もう私は消えていくだけの存在。


「ごめんなさいね。咲夜」
ふと、唐突にお姉様の声が聞こえてきた。


「明日でも大丈夫だなんて、言わなければよかったわね」
「お嬢様ではありません。悪いのは私、ただ一人です」
そしてこちらを向き一言。


「ごめんなさいね。フラン。私の方が早いみたい」
「そんなっ!」
これから只消えゆく存在なのだとしても伝えたいことは沢山ある。
それをただ伝えたい。


「あのねっ お姉様…私いつも力加減ができなくて…力任せになって失敗ばかりしてたけど…!」

「最近はね…! ちゃんと加減…できるようになったんだよ…!」

「もうね、ふっ飛ばしたりしないんだよ…?」



「そうなの…頑張ったわね」
「お姉様に見ていて欲しかった…」
「ごめんなさいね フラン 咲夜」

「先にいって、待ってるね」

「そ…そんなこと言わないで!お姉様!私たち…どんな時でも一緒だって…!」
「フラ……」

口は開いているのに、お姉様は声を出すことが出来なくて。
それでも、聞こえた

ありがとう

「な…!そんな言葉だけ…置いていかないでよ…お姉様…!消えないで!お姉様っ…!この手を掴んで!」


「手を繋いで…お姉様…!」


そう言いながら手を伸ばして掴もうとする。 すでに消えている手で。
消えているはずなのに。 もう存在していないのに。
そのはずなのに私には確かに見えた。


二つの手が、繋がれるのを。


しかし、それは一瞬の間。
次に瞬きをした時にはお姉様の姿は消えていた。



お姉様…
感情が弾ける。涙があふれ出てくる。

「うあああぁあぁぁあ!!!!」
「妹様っ…!」
そんな私を咲夜が抱いてくれた。


でも、何も感じることができなかった。

触れられている
そんなことさえ分からない。
この声が届いているかも分からない。

それでも叫び続けた。


咲夜…! 私… 消えたくないよ!  もっとずっと 一緒に居たいよ!

遊んでいたいよ…! 

歌を…歌っていたいよぉ……!

「フランドール様…!」


わずかな抗いも意味を為さず

咲夜の体温を感じる事も無く

私の身体は霧となった。


――――――――――――――――――――――――


目が覚めた時に私は泣いていた。

でも、身体は存在している。声も出る。確かに私はここに生きている。

よかった…。 あれは只の夢だったのかしら。 いや、もしかしたらあれは…

いやいや、そんなことはありえない。 頭をブンブン振ってそれの考えを否定する。

とにかく、顔洗おう。 起きたのはいつもより早い時間。
顔を洗うと眠気は飛んでいった。 それでも一抹の不安はぬぐい切れない。

あの夢の事が気になってしまう。あの夢は、実際にあった事のように感じられたから。 
それほど昔でもない、つい最近起きたような気がする。

いやいや、やっぱりそんな事はありえない。
頭を振ると水が飛び散った。

だって私はここにいるから。 あの夢の私は陽の光を浴び、消えた。
ここにいるわけが無い。

本物の私は、私だから。

水滴をタオルで拭き、これからどうしようか考えてみるけど、そんなことはもう決まっている。

「お腹すいた…」


下に降りると咲夜が居た。
「おはよう、咲夜」
「おはようございます。今日は早いのですね」
「身体の方は大丈夫なの?」

答えは分かっていた。明らかに今日も無理をしている。
それなのに…
「はい、大丈夫です」
あなたはまだそんなことを言うの?


「妹様にお話があります」
「なに?」
「最近、この館ではおかしなことが起きていると思いませんか?」
「ええ、そうね」
唐突に何を言うのかと思えばそんなことなのね。  あなたの様子がおかしいわ。

「あの部屋の他にも様々な事が起きているのですよ」

咲夜はあの部屋以外のガラスも割れて、幾多の物が落ち、倒れ、壊れた…
そんなことまで起きていたと言った。  私は、全く知らなかった。

「それらの事象はなぜ起きているのか…分かりますか?」


私に再び問い掛けてくる。 その表情は分からない。
咲夜が顔を伏せているから。

なぜ? そんなことを私に聞くのは、なぜなの?
咲夜が言いたいこと、それは聞かなくても分かる。


そして私にさせたいことがあるのも分かってしまった。 そんなこと、私はできない。


物事には必ず理由があるわ
理由なき現象なんてものは存在しないの
必ず何か、あるはずよ


昨日パチュリーに聞いた言葉が頭の中で繰り返される。 そう、理由なき現象なんて存在しない。


幾多の物が落ち、倒れ、壊れた。  それらが起きている理由。

この館は咲夜の能力によって空間が広げられているということ。

つまりそれは…

「私は今、自分の能力が抑えきれなくなっています」


「………」


「私を、殺して下さい」



そんなこと叶えられるはずがないじゃない。

「この館…紅魔館は私が空間を広げているのです。その力が制御できなくなっている今、このままだと…」
一呼吸置いて、こう言った。

「空間が無限に広がり続けて、館自身が耐えきれなくなってしまうのです」

そして、すべての物が破壊されてしまう。
そのような未来しかない。


あの夢が頭を過ぎる。
「それを防ぐためには私を殺すしか無いのです。妹様」
一呼吸おいて、こう続けた。


「破壊して下さい。その能力で。私を」


頭の中が真っ白になった。
なんで?なんでそういうことを言うの?おかしいわよ…。


だって咲夜を、私が… そんなことできるわけがない!


言いたいことがありすぎて何を言えばいいのか分からない。


「……」
「大丈夫ですよ。私がいじっていた空間が元に戻るだけです。少し狭くなると思いま…」
「それだけじゃないでしょ!そんなこと、出来るわけがないじゃない…!」
ただ叫んで、咲夜の言葉をさえ切った。


「そうですか…それが無理ならば、こうするだけです」
そう言うと、どこからか無数のナイフが現れ、それが咲夜を覆い尽くした。刃先は全て、咲夜自身に向かっている。


…え?
咲夜、なにをやっているの…?
それじゃ、まるで――――――――――


「今まで、ありがとうございました」
咲夜が一瞬笑った後、ナイフが一斉に動き出した。


その瞬間、全身の血が凍りついた。
咲夜を失うという恐怖心。

そんなの嫌…!
咲夜っ…!
咄嗟に右手を翳し能力を発動させた。
失いたくない。その一心で。


咲夜に突き刺さるその刹那、全てのナイフが破壊された。



間に合った!
「なぜ止めるのですか…?」
「そんなの当たり前でしょ…!」
どうしてそんなことを聞くの…?

「でも、もうこうするしか方法は無いのですよ…?」
「時間を操れるのなら時間を戻せばいいんじゃないの? そしたらそんなことする必要…」
そんな私の淡い希望は
「私の能力は時を止めること。流れを遅くすることもできますが…戻すことはできないのです」
咲夜の絶望の一言で打ち破られた。


「…ですが、ある一定の条件が満たされているのならば戻すことが可能です」
絶望の闇に光が差し込まれた感覚がした

「なら! その方法で戻せば…」
「残念ですがもう不可能です」
「もう? それってどういう…」
「既に一度使っているからです」
物事の螺旋が全部繋がったような気がした。


「まさかあの夢は…!」
「夢に見たのですか…?」
「…ええ。また、あの夢と同じことが繰り返されるの?」

私とお姉様が消える…

「いえ、今度の結末は違うものになります」
違う結末? まさか…
「それって…!」

「はい。今度はお嬢様方ではなく、私が死ぬことになります」


回り続ける運命の輪廻。その最深部はいつも最悪。


「一人で誰にも見られないまま死ぬことも可能でした。でも、それは出来なかった…。明日になれば変わっているだろうという…淡い希望に縋り付いていた…!」
もう選択肢は限られてきている。

「じゃあ!せめて時間の流れを遅くして!そうすれば…少しでも長く話ができる!一緒にいることができる!その間に考えたら…!」
「残念ですがそれもできません」
咲夜が首を振る。


「それは…なぜ?」
「既に、時の流れは遅いのですよ本来なら、とっくに崩壊している時間です」
「っ…! そんな…」
「そして、こうして話すことすら…もう…」
その言葉を聞いた瞬間、私の中に絶望が駆け抜けていった。


「レミリア様… フランドール様… パチュリー様… ありがとう…ございました……」

そう言った咲夜の手の中には
いつの間にかナイフが握られていた。
それを、自らに向けて――――――――――――


「咲夜っ!ダメ!そんなこと…しないで!!」
間に合って!  咲夜っ…
ナイフの「目」を瞬時に探し、それを潰す


手ごたえはあった…確かに「目」を潰した。

それと同時に咲夜が倒れた。


「咲夜!」
急いで駆け寄り抱きかかえる。
ナイフは跡形もなく破壊されていた。


でも、遅かった…。
咲夜の服が血で染まっていくのが分かったから。 


「咲夜… 咲夜ぁ…!!」
そう言って咲夜の身体を抱き上げる。私も赤く染まっていく。


「申し訳ございません… 汚して…しまいました…今すぐに……」
そう言って拭き取ろうとするが、血は広がっていく一方で…。
「もう、いいよっ…」
そう言って咲夜の身体をさらに強く抱きしめる。


既に手は血に染まっているのにその手で私を拭おうとするものだから、すればするほど汚れていく。

そんな姿をこれ以上見ていることはできなかった。


―――――――――――――


「咲夜…」
ふと、声が聞こえた。

振り向いたらお姉様とパチュリーが傍に居た。
「フラン…なにが起きたの…?」
「……」


咲夜を抱きしめながら、先ほどのことを二人に話した。


――――――――――――――――――――――――


「図書館に行く」
そう一言だけ呟きパチュリーは歩いて行った。
ふと、なにかを思いついたように。


「パチェ?」
「妹様…お願いがあります…パチュリー様の元へ行って下さい…」
息も絶え絶えにそう言う咲夜。でも…
「そんな事言われても、咲夜と離れたくないよ…!」
「咲夜の傍には私が居るから」
お姉様が隣に座る。

「咲夜の願いを聞いてあげて…?」
「……」
「なぜなの?」
「……」
「それは…行けば分かります」
「……」
咲夜を見る、次にお姉様、そして図書館の方を見て
もう一度咲夜を見つめる。

「すぐ戻ってくるから」
そう言って立ちあがり、図書館へ向かった。


――――――――――――――――――――――――


図書館への扉を開けるとありえない光景が目に飛び込んできた。
本棚が崩れているわけでもないのに、本が散乱していた。

まさか…パチュリーが? 
いや、そんな事はありえない…。
それより咲夜が言っていたことは?
「……ってた?」
「え?」
そんなことを考えていたらパチュリーの言葉を聞き逃してしまった。


「この本達が落ちていた事、知ってた?」
「…?いいえ、知らなかったわ」
どういうことだろう?

「本来は落ちるはずないのよ」
そりゃ…そうだろうけど。

「…ところで話が変わるんだけど、この図書館…広いわよね」
「え…ええ」
パチュリー…あなたは何が言いたいの?何を伝えたいの?


「沢山の本に囲まれて幸せだわ。でも本来はね、もっと狭いのよ」
「―――!」
ようやく気がついた。
パチュリーが何を言おうとしているのか。


「それってつまり…!」
「咲夜の力よ」
気づくのが遅すぎた。
ここの本達は咲夜の力によって支えられていた
その支えが今、消滅する。

「パチュリ―――!!!」


崩れてくる図書館。鳴り響く轟音。
私の声は、パチュリーの姿は、その中にかき消されていった。



雪崩の暴君と化した本の数々。
崩壊、落下する本、本、本
まだ落ちてくる。      
下には、パチュリーが居るというのに…!

本のそばにいないと、生きていないとっ…!
そうでないと意味がない! それなのに…!

パチュリ―――――――!!!


「ああぁあぁああ!!!!」
怒りと悲しみの悲痛の叫びを上げて
何千…何万という本の山を吹きとばしていく。

周りなど見えない。
ただ、本を破壊していく。
「目」を見つけ次第、潰していく…
どれだけの本を破壊したかなんて数えていない。


数える気もない。
そのまま手当たり次第に壊していくと、紫色の服が見えた。


この光景は見覚えがある。
憎らしいほど以前の夢と同じだった。

その腕の周りの本を吹き飛ばすと


パチュリーはその下から、変わり果てた姿で見つかった。



「パチュリー…」
その傍に膝を着き、肩を揺すっても
何の反応も返ってこない。


「パチェ…」
いつの間にか隣にはお姉様が居た。


ふと思い出した。お姉様の能力。
運命を変えるという、その能力。
立ち上がってお姉様に向かい、言った。

「私たちの運命を操って…変えて」
「え?」
私の言葉で絶句するお姉様。

「咲夜やパチュリーたちと一緒に生き残るという運命に!」
「そんな事…できない…。 もう運命は決まってしまったから…」

自分にはどうしようもできない…そういうことを分かり切っているからこそできる、辛い表情をしている。

「私はこれからのことしか未来の事しか変えることができない!過去に戻すことはできないのよ…」
過去に戻す?それができるのは…一人だけ。


「咲夜は?」
「……」
何も答えず、ただ首を横に振った。


「そう」
それが答え。咲夜は、もう…。
そんなの…


「嫌」
「え?」
「こんな所は嫌だって言ったのっ…! 咲夜もいない… パチュリーもいない…こんな館!こんな世界っ!!」
壊してやる。 破壊してやる。
こんな所、もういらない。


「でもっ…そんな事をしたらっ…! 私たちはっ…!!」
「こんな所に居たくなんてない!!」
「フラン…!!」
「破壊する…!! 全部っ…!!」


両手を掲げ、集める…
紅魔館の物… 全ての「目」を。

両手に力を加え、それらを破壊する瞬間

不思議な光が、私を包み込んだ――――――


――――――――――――――――――――――――


「咲夜ぁ お腹すいたー」
「もうすぐ出来ますからもう少し待っていて下さい」
「うー…」
じれったくて、足をバタバタさせる。

「そんなに手足をバタバタさせても早くはなりませんよ?」
「まったくフランは、いつまでたってもお子様ね」
「そんなことっ」
「やめなさい。二人とも」
「パチェー…」
なにか言いたそうにしていたけど無視することにした。


そのまましばらく待っていると
「できあがりましたよっ」
「どうぞ、お召し上がり下さい」
ようやく出来上がったみたいだ。


「いただきまーす」
「………」
「どうですか?」
「おいしいっ」
「………」
「これ、甘すぎないかしら…」
その日の料理はカレー。三者三様の反応を見せた。



お姉様は部屋に、パチュリーは図書館に戻っていき、ここには私と咲夜だけになった。

「…妹様、ありがとうございました」
咲夜が礼を言ってきた。でも…


「私は別に何もしてないわ。あれはパチュリーのおかげよ…」
「妹様の能力があってこその、あの魔法だと思いますよ」
「そうかしら」
「はいっ」
「いつあんなものを……」
「おそらく妹様がパチュリー様の肩に触れたときでしょうね」
「触れただけで?」
「そういう魔法を同時にかけていたのではないでしょうか」
「…そう」


パチュリーが私にかけた魔法…「天邪鬼」
あらゆる能力が「逆」の効果になるというもの。
…だと咲夜が言っていた。


「そういえば咲夜…」
少しだけ気になっていたことを聞いてみる。

「はい」
「壊されたものは元に戻せないのじゃなかったの?」

「メイド長に不可能な事は無いのです」

「…そう」
「……」

「咲夜」
「はい」
「歌でも、歌いましょうか」

ここは私達の歌声の響く場所。

今日も、明日も、これからも永遠に―――――――
初めまして。これは僕の人生初の東方SSです。
こんな穴だらけの駄文を、読んで頂きありがとうございました。
βよっしー
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コメント



0.530簡易評価
4.70名前が無い程度の能力削除
文章が先走って状況分かりにくい場面が多かったかなぁというのが自分の第一印象です。

オチが雑な気もしますがストーリー自体は悪くないと思います。
個人的にキャラの喋り方が良いなと感じました。
6.80名前が無い程度の能力削除
おぉ、新しい風です。
ストーリーがすごく気に入りました。大好きです。

ですが、いや、だからこそ
フランの視点で話が進んでることを生かし切れてないように思いました。
7.80名前が無い程度の能力削除
話自体は好きなので
この点数で

美鈴をおいてかないで…
こぁは…巻き込まれたのかな
12.無評価βよっしー削除
>01:28:15さん
コメントありがとうございます。
文章が先走っている…むぅ、なるほど。
しゃべり方がいいですと!? ありがとうございますー。
参考にさせていただきます。

>02:16:18さん
コメントありがとうございます。
新しい風とな!?しかもストーリーも気に行っていただけるとは…。
感謝感激です。
ふむ、視点が生かし切れてない…と。勉強になります。

>02:36:55さん
コメントありがとうございます。
どんな点数でも入れて頂けるだけでありがたいです!
その二人が出てこないのは当時の僕がキャラが多くなると書けないと判断したためです。
最近書いたものでは出ていますよ。

皆さまのコメントは活気に繋がりますので、これからもよろしくお願いいたします!!
15.80ずわいがに削除
一度目の崩壊はどうしようも無かったことなのかな……
それにしてもハッピーエンドで良かった。ホント良かった。