Coolier - 新生・東方創想話

秋静葉誘拐事件

2010/01/12 01:30:25
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「ふー。食べた食べた」

 箱の中の食料が空になる頃、私は多少の距離なら飛び回れるほど力を取り戻していた。体もかなり軽い。試しにちょっとした弾幕を放ってみると弾幕は力強い軌道を描いて入り口の方へと飛び散っていった。うん、これなら戦闘も問題なさそうだわ。
と、思ったその時だ。

「ただいまーって、うぎゃーーー!?」

 なんと、運悪く丁度帰って来たにとりに弾が命中してしまう。

「わーーー!? ごめーーん!!」

 あわてて駆け寄ると、にとりは服の埃を払いながらのろのろと起きあがった。
幸い、大した威力は無かったので服が汚れたくらいで済んだようだ。ああ、良かったー。

「まったく、一体何事かと思ったよ。危ないなぁ」
「ごめんなさい! まさか、にとりんが帰ってくるなんて思わなかったから」

 ひたすら謝る私をにとりはきょとんとした様子見ている。

「なんか、みのりん、すごく調子良さそうだね?」
「あ、うん。おかげさまでね! 何とか元気になれたわ」

 ま、実際のとこ根本的には解決してないけど、ひとまず復活出来たのは事実だ。それがレティのおかげってのが癪に障るけど。

「おー。そいつは良かった! それじゃ後は静葉さんを助けるだけだね」

 そう言ってにとりはにかっと笑う。そう言えば雛はどうしたんだろう? もしかして一緒じゃなかったのかな。

「ねえ、雛は?」
「途中で別れたよ」
「あ、そうなんだ……」

 彼女の答えは素っ気ない。二人の仲が良くはないとは言え、やはりちょっと寂しい。

「まあそれより聞いてくれ、みのりん! 静葉さんをさらった犯人がわかったかもしれないんだ!」
「なんですって! 一体どこのどいつよ!?」
「まぁ、そんな焦らないで。今、順を追って説明するからさ」

 そう言ってにとりはポケットから紙切れを取り出す。どうやらそれに仕入れてきた情報が記されているようだ。
 あれ? その紙切れ、以前どこかで見たことあるような気がするんだけど。

「それじゃ始めるよ。実はね……」

 それからしばらくの間彼女の説明が続けられた。
 それによると、なんでも昨日の夕方頃、広場周辺で怪しい人物が目撃した者がいたらしく、その目撃者の話によると、人物は青い髪の色で帽子を被っていて、赤いスカート姿の女性を抱えたまま空の上の方にへと姿を消してしまったそうだ。これらの情報から推測するに恐らくそれは比那名居天子という天人の可能性が高いらしい。そして、連れさらわれたのは姉さんで間違いだろうとの事だ。
 私は全く予想すらしていなかった人物名を聞いた時、思わず目が点になってしまった。っていうか誰よ、そいつ。名前すら聞いたことないんだけど。
 ところが、にとりが言うには、姉が天界に行ったときにそいつと遭遇しているらしい。
 ああ、そう言えば姉さん天界で面白い奴に出会ったとか言ってたかも。そして、これは推測だけどその時に姉さんと天子とか言う奴の間で何かイザコザがあって、その報復で彼女が今回の事件を起こしたのではないかというのがにとりの説明だった。
 なるほど、それなら確かにつじつまも合うわね。
 それにしてもにとりったら、よくそこまで情報集められたもんだなぁと思わず感心してしまう。まるで探偵か何かみたいだ。

「にとりさぁ。もう探偵屋とかやってみたらどう? 凄いじゃない」

 すると、苦笑いを浮かべながら彼女の口から意外な事実が告げられた。

「いやぁ、まぁ、実はさ。文にも手伝ってもらったんだよね」

 なーんだ。なるほどね。文さんが一枚噛んでるわけか。それなら大いに納得出来る。この幻想郷で情報の扱いにおいて彼女の右に出るものはいない。
 あ、そうか。思い出した! にとりが持ってる紙切れは文さんの手帳の切れ端だ。きっとわざわざ私に説明するためもらってきたのね。
 そういや文さんは姉さんと何気に気が合うし、確かにとりと文さんは仲が良かったはず。
 本当有難い事だわ。やっぱ持つべきものは友ってわけね。

「さて、みのりん、こうなったら天界に行ってみるしかないと思うんだけどどうする?」
「もちろんよ。行きましょう!」
「おっけー! そうこなくちゃ!」

 そこに姉さんがいる可能性が高いなら行くっきゃないに決まってる。迷う理由なんてどこにもない。
 それにしても天界か。今まで行った事はなかったけど一体どんな所なんだろう。

「ねえ、ところでにとりは天界に行った事あるの?」
「うん。前に一回だけ、発明品の試用テストで行った事あるよ」
「発明品?」
「そ、空飛ぶ魔法の乗り物さ」
「ふーん?」

 空なんて普通に飛べるのに、空飛ぶ乗り物なんて何に使うのか。やっぱり河童の考えている事はイマイチわからないわね。

「さてと、そうと決まったら、早速行く準備しないといけないな。今日はもう日も暮れてきたから、出発は明日の朝にした方が良さそうだね。そんじゃ、明日の朝迎えにくるから、行く用意しておいてね!」

 そう言うとにとりは「さーて。忙しくなるぞー!」とか言いながら慌ただしく去って行ってしまった。まったく賑やかと言うか楽しそうと言うか。
 彼女が去っていった方を眺めながら思わずため息を一つ。
 そういや考えてみると彼女はいつも楽しそうだ。今回だって何か事件そのものを楽しんでる気がする。でもそれは他人事だから真剣じゃないというのではない。
 私が思うに、にとりはきっと姉さんが無事だと言う事を信じて疑わないからこそ、そういうゆとりが持てているんだと思う。
 自分は何かあるとすぐに余裕がなくなって頭の中が真っ白になってしまうから、そんな彼女が頼もしいし、ちょっと羨ましいと思う。
 まぁ、無いものねだりだってのはわかってるんだけどさ。

「みのりん、ただいまー」

 あ、雛の声だ。

「おかえり。ひーちゃん」

 入り口に行き彼女を出迎える。彼女は何やら手提げ袋を提げて入ってきた。

「ひーちゃん、何それ?」
「ん? ちょっとね。秘密」

 んー何なんだろう。気になる。

「ところで、体の方はどう?」
「おかげさまでこの通り元気になれたわ。もう大丈夫よ!」
「本当? それはよかったわ!」

 雛がにこりと微笑む。私もそれを見て微笑む。あぁ、雛の笑顔はいつ見てもいいなぁ。
 あ、そうだ。雛に言いたい事があったんだ。にとりもいないし、言うなら今しかないわね。

「ねえ、ひーちゃん。ちょっと良いかな」
「なあに?」
「にとりんの事なんだけどさ……」
「あぁ、みのりんは気にしなくていいのよ」
「その……なんかごめんね」
「え? なんでみのりんが謝るの? みのりんは全然悪くないわよ」
「いや、でも、向こうが一方的に嫌ってるんだよね? だから私が代わりに謝っておくべきかなって……」
「いえ彼女も悪くないわ」
「え?」
「だって、私は厄神だから嫌われてて当然なのよ」
「え、そんな……」

 思わず言葉を失ってしまう。

「みのりんだってわかってるでしょ? 私の側にいると人間だろうと妖怪だろうと神様だろうと悪い事が起きるって事は」
「それはそうだけど……」
「だから別にいいのよ。嫌われても仕方がないし、それに私そういうのは慣れてるから」

 ああ、そうか。雛はずーっと前からこういう体験をしてきていたんだ。だからあの時もにとりに対してあんな事が言えたんだ。

 ――私の事は嫌いでも何でも構わないわ。でもせめて今だけは、みのりんのために力を貸してもらえないかな。この事件が解決したら私はもうあなたに会わないようにするから。

 ……うん、強いなぁ。雛は。それに比べて私は……。

「ねえ、みのりん、今は私の事なんかより静葉さんの事の方が大事よ」

 そうだ! 雛の言う通り今は凹んでる時じゃないわね。いけないいけない。しっかりしないと!

「うん、そうだね。ごめんね。余計な事言っちゃって」
「ううん、気を遣ってくれてありがとう」
「そんな? お礼なんて……」
「私ね。みのりんや静葉さんがいてくれて本当助かってるのよ。だからこそせめて力になってあげたいの」

 ああ!! もう、何でこんなにいい子が、よりによって厄神なんだぁああっ! 思わず心の中で叫んでしまう。

「……みのりん大丈夫?」

 雛が怪訝そうに私の顔を覗き込んで来た。どうやら声には出さずとも表情に出てしまっていたらしい。これは迂闊だった。
 思わず顔が赤くなる。いやーお恥ずかしい……。

「だ、大丈夫よ。それよりっ! えーとほら、にとりんがさっき来てさ。明日天界に行くって事になったんだけど……」
「うん、知ってる」

 あれ? て事は、もしかして雛もずっと一緒に行動していたのか。てっきり始めから、にとりと分かれていたのかと思ってたけれど。

「だから、これを用意してきたの」

 そう言って手提げ袋に目を向ける。

「と、いう事は武器か何か?」
「んー。だから秘密だって。だけどきっと役に立つはずよ」

 本当、一体なんなんだろうか。ちょっと見当もつかない。

「確か、天子って言ったわよね? 静葉さんをさらった犯人」
「あ、うん、そうみたいだね。まだ犯人って決まったわけじゃないけど」
「私、噂で聞いたんだけど、その天子っていうのはかなり強いみたいよ。なんでも前に霊夢さんの神社を壊してしまったとか」
「マジで!? なんて命知らずな」

 よりによって博麗の巫女にケンカを売るなんて。でも、それだけ自分の力に自信があるからこそ出来芸当よね。ううむ、これは思ったより強敵かもしれない。

「ごめんなさい。もしかして不安にさせちゃった……? そんなつもりで言った訳じゃないんだけど……」

 雛が不安げに尋ねてくる。

「いや、むしろ燃えてきたかも」

 ……そう、勝たなくちゃいけない。誰が相手であろうと私は絶対に姉さんを取り戻してみせるんだ!
 そのためには、そうね。今のうち体力を温存しておかないと。

「そうだ。私、少し寝るね。明日朝早いし」
「うん、わかったわ」
「ひーちゃんはどうするの? 一旦帰る?」
「ええと、ここにいても良いかな……?」
「え、別に良いけど……」
「ありがと」

 再び雛はにこりと微笑んだ。
 どうして彼女がお礼を言ったのかはわからなかったが、寝る前に雛の笑顔が見れた事は凄く嬉しかった。
 これはいい夢が見れそうだ。
 その笑みを瞼に焼きつけ私は眠りにつく。



 早朝、私は機械の駆動音のような音を聞いて目を覚ます。
 雛は枕元に座っていた。って、もしかしてずっと私の側にいたの?
 寝顔も見られていたのかと思うとなんか恥ずかしい。
 
「ねえ、ひーちゃん。これ何の音?」
「さあ、外の方から聞こえるわ。行ってみましょ」

 まだ真っ暗な外へと出るとそこには人が乗れるほどの鉄の円盤が居座っていた。一体何事!?
 雛も唖然とした様子でそれを見ている。やがてその円盤の上側が開いて中からにとりが姿を現した。

「おまたせー。迎えに来たよ」
「にとりん! 一体これは何よ?」
「何って、昨日話した乗り物さ。これで天界に行くんだよ」
「え? わざわざこれに乗っていくの? てっきり自分達で空を飛んでいくのかと思ったけど」
「それもいいけど、こいつを使えばあっという間にたどり着けるよ。それに空飛んで余計な力を消耗せずに済むでしょ」

 確かにそうだけど、……大丈夫なのこれ?

「さ、いいから、早く乗った乗った! 出発するよ」

 にとりに促されるようにその乗り物の中に入る。円盤の中は証明か何かがあるのかぼんやりと明るい。どうやら中からは外の様子は見えるようになっているらしい。設置されてる円上のソファーは思ったよりいい座り心地だ。

「よし、二人とも絶対ベルトは締めてね。それじゃいくよ。ユニバーラゲス号発進!」

 号令とともに円盤がふわりと浮き始める。そして見る見るうちに地面が遠くなっていく。すごいスピードだ。これなら確かに自力で空を飛ぶより遙かに速い。

「さあて、これから雲の中に突っ込むよ。ちょっと衝撃があるかもしれないけど、まぁ大丈夫だから」

 ちょっと、衝撃って! どういう事……と、言おうとした瞬間、早速円盤が大きく揺れる。

「うひゃあああ!? ちょっとにとりん、これ大丈夫なの!?」
「あー。平気平気。ちょっと気流に巻き込まれてるだけだから」

 にとりはこれっぽっちも動揺せず笑顔すら浮かべて操縦レバーを握っている。
 この場合は頼もしいと言うべきなのか。どうなのか。
 雛は目を閉じて祈るようなポーズをとっている。
 ひーちゃん……。その気持ちわかるよ。えーとこう言う時は何の神に祈ればいいのかしら。なんて考えてるうちに徐々に揺れが収まってくる。

「さあ、雲を抜けるよ!」

 彼女がそう言ったとたん視界が突然開ける。
 薄明るい夜明け前の空をバックに満天の星がすぐ目の前で瞬いていた。まさに宝石箱をひっくり返したようなという表現がぴったり。それはそれはきらびやかな光景だった。

「わー綺麗……」
「うん、素敵だわ」

 雛も目を輝かせて星空を眺めている。

「よーし、ここまで来ればもうすぐさ。後は落下するだけだ。それまでこの天体ショーでも楽しんでてね」

 あとは落下するだけって、一体どういう原理でこの円盤が動いているのか気にはなったが、それより今はこの星空を堪能していたかった。
 ああ、そういえば昔、姉さんと二人で妖怪の山の頂から夜通しで星空を眺めていた事あったっけな。あの時も凄く綺麗な星空だったけど。この景色はその時以上だ。そうだ。今度姉さんにもこの光景を見せてあげよう。きっと喜ぶはず。
 次第に星が姿を消し空が明るくなってきた。
 やがて足下に大きな雲が見えてくる。そしてその雲を突き抜けるようにして大きな岩がたくさん並んでいるのが見えた。

「あれが天界さ。今から着陸するよ」

 さあ、いよいよか。姉さん待っててね。今行くわよ!

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