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幻染録②~起章・『雨』『雲』来りて『林』が沈む~

2009/12/29 03:05:32
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 ※この作品は『幻染録①』の続編にあたります。
  前の作品を読みたい方はタグの幻染録からどうぞ。
  相変わらず独自の解釈及び設定がございます。




  ◇:霖之助視点 ◆霖視点 ○その他の幻想郷住民の視点 となっております。


 ◆
 私が香霖堂に働き始めてもう2週間になる。
 完全に居ついてしまったけれど迷惑ではないだろうか?
 まぁ今更考えることでもないだろう。
 と先日魔理沙さんに小突かれたばかりだ。
 あの霧の湖以来私はこの香霖堂を出ていない。
 というのも森近さんがやはり危険だと心配してのことだった。
 チルノ様とあった時の顛末を話した時の森近さんの顔と言ったら……。
 まぁそんなことで今日も店番をしている。
 とはいっても。

 この香霖堂……誰も来ない。
 私が配達したあの茶葉以降お客様が全く来てないような気がするのだけれど……。
 まぁ森近さん曰く生活できているらしいから何か収入源でもあるのだろうけど。
 
「あら? 今日も店番してるの?」
「霊夢さん。今日は買い物……じゃないですよね」
「あんたも慣れてきたわよね」

 苦い顔をしてカウンターに座る霊夢さん。
 慣れてきたというよりは霊夢さんは関係者、ということで考えが決まったわけなのだけど。
 
「それでは今日も休憩に?」
「まぁね。霖が来てからここもゆっくりできる場所になったしね」
「どういうことでしょうか?」
「霖之助さんの長話を聞かなくていいからよ。あれ、嫌いじゃないのだけど興味がない話題の話だとどうしてもね」

 とため息を吐く霊夢さん。なんとも疲れた顔をしている。
 やはり仕事が忙しいのだろうか。私と同じくらいの年だというのに。

「まぁ仕事の延長と言えばそうなるけど……朝まで宴会になっちゃって」
「宴会ですか。何か祝い事でも?」
「そんなものないわよ。宴会やるぞ、ってなったら始まるのよ」
「魔理沙さんが?」
「昨日は魔理沙じゃなかったわ。萃香が言い出してね」
「萃香様というと……霊夢さんが以前言っていらした」
「鬼よ。まぁ酒好きの。酒の場じゃ暴れたりはしないわよ。暴力的な意味ではね」
「鬼のいる神社というのはどうなのかと思いますが……それは外の世界の理論ですよね」
「私は外の世界がわからないから知らないけど変だとは思ってるわよ?」

 と頭をかく。
 霊夢さんは霊夢さんで苦労していることは多そうだ。

「そういえば森近さんに聞いたのですけど、霊夢さんは異変解決をなさってるとか」
「そうよ? 前に教えた弾幕ごっこはそのための技術だもの」
「撃つんですか」
「撃つわよ? そうじゃなきゃ解決しないじゃない」
「穏便に会話で解決とか」
「したいのは山々だけど……幻想郷の住人は基本話を聞かないから」

 チルノの件で懲りてるでしょ、と立ち上がって私の後ろの戸棚を漁る。
 確かにあの会話のし辛さは大変だったけれど。
 でも意外と話せてたような気がする。
 その辺はチルノ様だったからだろうか?

「そうそう。あのチルノだったから助かったのよ。だから反省なさい」
「反省って言われましても……一方的にまきこまれた気がしますが」
「そんなの幻想郷じゃ日常茶飯事よ。いつ襲われるかわかったもんじゃない」
「そうなのですか?」
「そうよ。今にして思えば香霖堂に置いて正解だったかもね。神社の周りは妖怪も多いし」

 妖怪の多い神社ってどうなのだろうか?
 まぁ心霊とかそういうものは神社やお寺に付き物だ。
 それが関係してるのだろうか?
 それにさっき言っていたように宴会という名目で鬼などが集まっているというのなら。
 外の世界の心霊写真にも少し愛着が沸く。
 そんなことを考えていると霊夢さんは戸棚を閉めて別の棚を探し始めた。お目当ての品物がなかったのだろうか?
 別の棚から煎餅の袋を取り出すと渋い顔をしてこっちを見てきた。

「霖之助さんは?」
「森近さんでしたらお店の奥で帳簿を付けていますが」

 2週間お客も来てないのに帳簿を書く必要があるのか、と言えばわからないけれど。
 私がいなかった2週間前に仕入れや買付があったのかも知れない。
 私の言葉を聞くなり霊夢さんは店の奥に走って行ってしまった。
 煎餅の袋を片手に。
 
『ちょっと霖之助さん!? 本なんか読んでないで!』

 声が響いて聞こえてきた。魔理沙さんが入ってきた時もこんな感じに聞こえていたのだろうか。

『なんだい霊夢。そんな血相変えて。何か異変でも起こったのかい?』
『えぇ、ある意味異変だわ。霖之助にとってもね』
『僕にも? 一体何があったって言うんだ?』

 森近さんは霊夢さんの慌てぶりを気にも留めていないようでのんきに返事をしている。
 というか帳簿をつけていたんじゃ。

『香霖堂の高い茶葉が1つもないわ! 私が食べようと取っておいた羊羹も!』
『その羊羹とやらはうちの商品だった気がするけどね。いつ君は代金を払ったんだい?』
『そんなのツケでいいのよ』

 理不尽な。
 最近は慣れてきたやり取りだったけれど。
 奥ではなにやら小言で霊夢さんが話しているが小さくて聞こえない。
 障子を閉めたのだろうか? 随分と静かに閉めたなぁ。
 私には話せないことだろうか。
 
『……で……なんじゃないかしら』
『あぁその……』

 と声がすると障子の開く音と共に店の奥から森近さんと霊夢さんが出てきた。
 森近さんは嬉しそうにニヤニヤと笑っており、
 霊夢さんは悔しそうにムスリとしていた。

「お手柄だよ霖。霊夢はわからなかったそうだ」
「本当ですか! よかった……」
「よくないわよ。なんで隠し場所を変えたこと言わなかったのよ」

 霊夢さんが探していた茶葉は私が隠したのだった。
 勝手に飲まれるから隠してみてくれと森近さんに頼まれて隠してみたのだけど。
 正解だったようだ。

「言ったら霊夢さん飲んじゃいますし」
「いいじゃない。霖だって飲めるのよ?」
「いや……私は店員ですからそんなことは望みませんよ」
「……まぁいいわ。で? どこに隠したのよ。種明かしして貰わなきゃ気分が悪いわ」

 さぁさぁと急かされて私はカウンターの端の一つの箱を手に取った。
 見た目は普通の箱だが開けるところが全くない箱。

「その箱の中? 開け口なんてないじゃない」
「えっとこれはとある民芸品なんですけど……」

 側面の板を押すと真ん中が少しずれ、
 その面を次は下に引っ張って……。
 パズルのようにカチャカチャと箱を動かす。
 そして霊夢さんは呆けた顔で私の手を見ているうちに、上の面が外れて小さな茶葉の袋が出てきた。

「『秘密箱』って言う品物です。全部で12回の行程を踏まないと開かない仕組みになってます。4回で開ける方法もあるそうですけど私は知りませんね」
「霖がこれを開けた時はびっくりしたよ。昔からの伝統工芸らしいが……」
「私持っていたんですよ。祖父から子供のころもらったことがありまして。宝物入れになっていました」

 私は思わず笑顔で答えると霊夢はため息を吐いた。
「降参よ。外の世界の品物を使われたんじゃ見つけれるわけないもの」
 と手を挙げて降参のポーズを取ってくれた。




 ◇
 霊夢はやはり見破れなかったようだ。
 まぁ正直禁じ手に近いものだけど。
 霊夢が少しでも懲りたようならばいいことだろう。
 
「でもちょっと卑怯じゃない?」
「いや……元々香霖堂の品物ですし」
「その通り。君に勝手に飲まれる理由はないだろう?」
「霖之助さん……霖を味方に付けて調子に乗ってない?」

 そりゃぁね。前までは魔理沙と霊夢の二人がかりだったから不利だったが今は2対2だ。
 さらに霖の前では魔理沙は泥棒の真似事はしない。
 魔理沙は魔理沙なりに年長者としてしっかりしたいのだろう。
 つまり今は実質2対1。多少気が緩んでもなんともないだろう。
 それに彼女のおかげで少しずつだが外の品物を使えるようになってきた。
 とはいえ多くの物が電気を必要とするらしく使用できないのが現状である。
 しかし少しでも知識が深まることは楽しい。ここ最近の楽しみであった。

「まぁ外の世界の品物には興味はあるけど……今の生活で満足してるから」
「確かにのどかでいいですしね。幻想郷は……お茶がおいしいですし」
「それは僕の店の商品だからなんだけどね……」
 
 霊夢は見つけられなかった茶葉を霖から奪って勝手に入れてしまっていた。
 これでは隠した意味がないというものだ。

「まぁいいじゃないですか。お茶おいしいですし」
「そうそう。注いだ以上楽しみなさいよ霖之助さん」

 霊夢と一緒に笑う霖。
 お茶を啜り、一息つく。
 うん。いいお茶だ。


「それでその時ルーミアって妖怪が邪魔してきて……」
「ルーミアさんって……森近さん?」
「あぁ、君が会った妖怪だよ」

 霊夢に異変について聞く霖。今は紅魔館での出来事を話していることだった。
 しかし僕はその話に深く耳を傾けてはいない。
 何度も聞いた話だというのもあるが、今は気になっているのは別のこと。

「私がチョチョイとやっつけて先に進んだら今度はあのチルノが邪魔してきたのよ」
「チルノ様がですか。大変だったでしょう?」
「どっちの意味で?」

 2人で話している。些か興奮しているのか霖は少し口早だ。
 そして常に笑顔である。



 どういうことだ?
 変ではない。変なことではないのだが。
 しかし少し奇妙な感覚がある。なんだこれは?
 霖は普通だ。いつも通りのはずだ。
 事実霊夢は気づいていない。自分の話に真剣なのかもしれないけれど。

「えと……霖?」
「はい! なんでしょうか!?」
「楽しいかい?霊夢の話は」
「えぇとっても!」

 満面の笑みだ。何の曇りもない笑顔だ。

「何よ霖之助さん。私の話の方が霖が笑っていて悔しいとか?」
「いや、そういうわけではないよ」

 なるほど。霊夢にはそう見えたか。
 確かに霊夢はチルノに会った後からうちには来ていない。
 僕の持つ彼女の違和感に気づかなかったのだろう。
 その違和感というのはとても変な違和感だった。

 霖が笑う。

 ただそれだけだ。正直変なことではない。
 だが確かに笑うようになったのだ。チルノに会ってから。
 正確にはチルノがうちに運び込まれた後からだ。
 笑うようになった、というよりは性格が明るくなったと言うべきだろうか?
 悪く言うならば性格が軽くなった、というところだ。
 少し前の彼女はよく言えば冷静、悪く言えば卑屈な性格であった。
 おどおどと物事に警戒しながらも興味のあることには果敢に挑戦するものだった。
 だがチルノとの一件以来、彼女には前者欠落し始め、後者が大幅に増強されたように見える。
 言い方は悪いが考えなくなった。というところだ。
 最初はチルノに影響されて楽観的にでもなったのかと思ったが……。
 ケラケラと笑う彼女を見ると(笑うことはいいことなのだろうが)奇妙な違和感がある。
 別人にすら見えてくるのである。
 今の話を聞くにしても前までの彼女なら軽い相槌を打つだけで話に割り込んだりこちらに話を振ることはなかった。
 よくも悪くも彼女は『聞く』ことに集中していたからだ。
 それ故に彼女は正確な情報を得ることができた。
 しかし今は話を聞き自分を想像で話を走らせ始めたりするようになった。
 こうなるのではないか、こうなったのではないか。
 天狗が作るゴシップ新聞のような空想で話を埋める。
 いったい何があったというのか。
 
 そう考えていると話が終わったのか霊夢がタイミングよく僕の考えの答えとも言える言葉を言った。

「そういえば霖、あんた何かやった?」
「何か……と申しますと?」
「幻想郷の境界に触れるようなことよ」
「いえそんなことは……」

 不思議そうな顔をする霖を霊夢は彼女が来た時のように上下に見て、

「なんて言えばいいかしら、こういう言い方は変かもしれないけど……」
「どうしたんだい? 霖の体に何か?」

 霊夢は少し悩んだように上を向くとこちらを向いてこう言った。

「あんた、精神が『増えてる』わ。前は3割程度だったけど……5割……はいかないわね4割くらいになってる」

 そういうと霖は目を輝かせた。感無量と言った感じだ。

「本当ですか!」
「えぇ。そんな感じがするわ」
「わかるものなのかい? そのたった1割2割の変化なんて」
「普通はわからないけど……霖は特殊だもの。ちょっとしか水が入っていない透明な瓶みたいになってるのよ。だから少し増えればすぐにわかるの」
「そういえばチルノ様も言っていましたね。『ながめはスカスカだ』って」

 精神が増えた……?
 つまり彼女の外の世界にある7割の精神のうち1割が流れてきたのか?
 だとすると彼女の変化も少しは頷ける。
 精神とはそのまま性格などに直結するわけだから多少変わっても問題はない。
 それが元々の姿だからだ。
 だとするとその世界の彼女は今のように明るいのだろうか?
 まぁまだ6割の精神が来てはいない。
 完全にわかったことではないな。
 だが腑に落ちない点が2つある。
 何故今か、ということ。
 時間的なことは元々『いつか』ということがあったのでなんとも言えないがそれでも疑問ではある。
 それがわかれば残りの精神を集めるのに一役買いそうであるからだ。
 チルノに遭遇したのが原因だろうか?
 彼女にそんな力があるとは思えないが……。
 
「森近さん? どうかしました?」

 ふと前を見ると霖がこちらを心配そうに見ていた。
 手には霊夢と自分の飲み終えた湯のみを持っている。

「いや、どうすれば早く集まるか考えていただけだよ」
「そんな急がなくてもいいと思うけどね」
「まぁ確かにそうなんだが……光明が見えてきたら手を伸ばしたいだろう?」
「火傷しても知らないわよ?」
「そうしたらそういう結果を得られるだろう?」

 もう1つの点は……考えても理由がわからない。それに合っているかもわからない。
 今は考える必要はなさそうだ。僕一人では答えは出ないだろうから。



 
 ○
 相変わらずの性格ね霖は。
 人の話を聞いてばかりで自分の話をしようとしないんだから。
 チルノの話も魔理沙から聞かなきゃ知りもしなかった話だわ。
 今の紅霧異変のことだって自分の知識の確認しかしてこなかった。
 明るく話すようになったあたり良くはなっているのかしら?

「そういえば先ほど話していた咲夜さんにはお会いしましたけど……先ほどの話のような物騒なお方ではありませんでしたよ?」
「そりゃ何も起こってないし起こしてないもの。さっきの話は主人が異変を起こしてたからでしょうに」

 そうですね、と納得する。
 なんだろう。以前にも増してふわふわしたような感覚が増えた気がする。
 気のせいだろうか。
 香霖堂での生活に慣れてきたのかしら?
 目が生き生きとしているもの。きっとそうだわ。
 
「ですけど吸血鬼の主様ですか……お会いした時はどうすれば……」
「また卑屈になって。やめなさいよ、私まで暗くなるじゃない」
「す、すみません」
「霊夢、少し厳しすぎやしないかい? まだ幻想郷に慣れていないんだ、萎縮するのは仕方のないことだと思うけれどね」
「霖之助さんが甘やかすから厳しくしてるのよ。魔理沙も見栄張っていいとこ見せようとしてるしね」

 それでもやっぱりマイナス思考なのは変わらないみたいだけど。
 その辺は彼女の元々の性格なんだろうから仕方ない。
 けど正直話題を振ってあげているのにしょ気られるのは気に入らない。
 そう考えていると霖之助さんがため息をついて、

「霖から見たら僕は祖父らしいが……この感じだと霊夢は母親かな?」

 と冗談交じりに言う。母親はないでしょ、霖之助さん。
 と思いつつもまさかと霖を見る。
 霖は私をジーッと見ると少し考えて

「霊夢さんは強いて言うならお母さんというより……お姉さんですかね?」
「お姉さん? 魔理沙が成りたがっていたものじゃないか」
「魔理沙さんは頼りになるお姉さんです。……というか私居候なんですからそんなこと言っても……」
「何、イメージを聞きたかっただけさ。今の所僕らしか霖には深く関わっていないだろう?それならば多少のイメージができているかと思っただけさ」
「だからって家族設定はどうかと思うわよ? 霖之助さん」

 まぁ母親とかお祖母さんとか言われなかっただけいいか。
 でも魔理沙が聞いたら怒りそうね……勝手にこういう話をしてるわけだし。
 なんでか魔理沙は霖の姉になろうと頑張っているようだ。
 まぁ霖之助さんと魔理沙は関係が深いしわからないわけじゃないけど。
 
「そういえば魔理沙は? 今日は来ていないのね」
「魔理沙がそう毎日来ているわけがないだろう。まぁ昨日来ていたが」
「一昨日も来ていましたね。何も買っていきませんでしたけど」

 来てるじゃない。
 でも魔理沙は昔からよく来ていたし、深く考えることでもないか。


「そういえばチルノに襲われて帰って来た時魔理沙もいたのよね?」
「えぇ、一緒にキノコ鍋を食べましたよ? どうしてでしょうか?」
「いや、なんとなくだけど……」
「なんだい霊夢。何か引っかかることでも?」

 別に引っかかることってほどでもない。
 魔理沙にはやっぱりわからないみたいだ。ということだけ。
 それを確認したかった。
 この子の精神が増えたのは間違いなくチルノに会った直後。
 私みたいにわかる人間ならすぐに気づくはずだ。
 私が来なかった2週間の間何もなかったってことは特に異常はないみたいだけど……。
 もし1割でも精神が来たってことは結界を越えてきたってこと。
 外の世界から結界を越えてきたことに気づけなかった。
 確かに普通の人間の十分の一程度の精神の塊であってもこちらに来る際は博霊神社か無縁塚のどちらかから来るはず。
 無縁塚から来たのなら仕方ないけれど博霊神社から来たのなら気付けなかったら私の失敗だもの。
 紫なら普通に気づいていたのかしら?帰っていたら聞いてみようかしら?
 それより霖之助さんに話した方がいいかしら? 何かいい案を出してくれるかも……。
 いや、今はまだいいわね。これじゃただ失敗を暴露しているだけだわ。
 とりあえず紫には聞いてみよう。結界を何かが越えてきたか。
 あと、もうひとつ気になることがあった。

「霖、ちょっと」
「はい? なんでしょう霊夢さん」

 もう一度霖を上下に見据える。
 ぼんやりと見える精神の器。普通じゃあり得ないスカスカの器だ。
 正直アリスの人形を見てるような感じだわ。
 動くのに最低限に必要な魔力を注がれて動く人形。
 あれも見た目の大きさより少ない魔力であったりする。
 でもこの前見たときは少し違う所がある。
 
 なんと言えばいいのかしら。
 増えたとは別に色が変わったような気がするのは気のせいだろうか。
 髪の色にそっくりだった茶色が少し青みがかっているような気がする。
 半端な精神が混ざったからだろうか?
 正直この色、という感覚も私の勘のようなものでしかない。
 なんとなくこんな感じ、と言い表すための例としての。
 それも喜怒哀楽で変わる程度のものだ。
 そこまで気にする必要もないかもね。
 まぁ深く考えるよりも行動したほうがいいかもしれない。

「霖、また博霊神社に付いてきてくれない? 晩御飯くらい御馳走するわ」
「それは助かりますが……なにか私に用事でしょうか?」
「会わせたい奴がいるのよ。幻想郷を一番知ってる奴にね」

 私がそういうと霖之助さんはあからさまに顔を顰めて、

「まさか……紫と会わせる気かい? 確かに彼女なら色々知っていそうだが」
「でしょう? ちょうど朝まで宴会に参加してたから多分いるわ。なら会わせない理由はないでしょ? 善は急げよ」
「僕としては次の日には元の世界に返しました、なんてことにならないことを祈るばかりだね」
「大丈夫よ。話を聞くだけだから。……だから怯えるのをやめなさい霖」

 私は怯える霖の手を取って香霖堂を出た。




 ◇
 やれやれ。行ってしまったか。
 しかし紫に会わせるというのは些か早すぎるのではないだろうか?
 彼女は幻想郷の管理者だ。霖のような特殊な例はすぐさま元の世界に戻されても文句は言えない。
 正直に言えば彼女の力があれば外の世界で漂っているであろう『明』の精神を連れて来ることなんて容易いことだろうから。
 ならば何故すぐさま頼らなかったのか。
 それは単なる僕の我儘でしかない。
 外の世界の人間。外の世界の知識。それに釣られてしまったのが事実だ。
 どんなに理由を取りつくろってもそれは確実だ。
 
「でもその選択は一番正しかったと思いますよ?」

 その声は突然背後から聞こえた。
 振り向くと店内だというのに自らの背丈ほどある傘を持った少女が座っていた。
 魔理沙にも負けない美しい金髪で威圧感のある少女。背後にはよくわからない空間の入り口が開いている。

「八雲紫か。いきなり現れないでくれといつも言っているだろう? あと勝手に人の思考を読まないでくれ」
「あらあらいいのかしら店主さん? もうすぐストーブの燃料が欲しくなってくるころでしょう?」

 クスクスと笑う紫。この不可思議な所が苦手なんだ。

「霊夢が君を探して神社に向かったんだが……行ってやらないのかい? どうせスキマから一部始終見ていたのだろう?」
「まぁ人聞きの悪い。私はそんなことはしていませんわ。霊夢達がここを出るのを見たので入り込んだだけです。私は店主さんにお話しがあったので」
「僕にかい? さっきの話だったら僕の妄言だ。馬鹿にしてくれて構わないよ」

 そういうと八雲紫は空間を閉じて傘を折りたたみながら話しだした。

「まぁまぁ。先ほどの言葉は本音ですよ? あの子……霖だったかしら。あの子はここに置いておくのが最良でした。もし霊夢が博霊神社に連れてきていたら私が勝手にここに持ってきていたかも知れませんわ」
「どうしてだい? 霖が少しでも早く精神を取り戻すには境界に近い方がよかったんじゃないのか?」

 自分でここに置いておいて何を言っているやら。僕の心を悟ったのかまたクスクスと紫は笑うと扇子でこちらを指して、

「ここは境界から遠く、そして境界を知る者が多い。あなたにしろ霊夢にしろ。あの吸血鬼達だって外の世界から来たんですもの。ここはぴったりじゃない?」
「境界の管理者である君も来ているしね。まぁ確かにわからないでもないな」
「博霊神社に置いておくのもいいのですけれどすこし弊害がありますので」
「弊害?」
「霊夢は境界を司る巫女。境界の中心にいるような人間が傍にいたのでは支障が出ないとも限りませんから」

 なるほど。しかし妙だ。ならどうしてすぐに戻さない。
 今の発言を聞く限りでは霖はかなり危険な存在のはずだ。
 無意識的に霊夢のことを弱めてしまう可能性があるのだから。
 なのに何故紫は放っておいているんだ? 
 そう考えていると紫は僕の隣に座ってこう言った。

「店主さんはどう思います? あの子」
「不完全な幻想入りをした人間。ただそれだけだろう?それ以外はただの人間だ」
「その通り。でもあなたは必要以上に気にかけていらっしゃるようですね」
「うちの店員なんだ。気にかけるのは当然だろう?」
「でも、『幻想郷に染める』という目的はまるで進んでいませんよね?」

 僕が口ごもると紫はまた笑い、言葉を続ける。
 僕の無力をあざ笑うかのように。

「あなたは珍しいからそれを見守っているに過ぎない。そうでしょう? 珍しい鳥を捕まえたからそのまま鳥かごに入れたまま、といった感じ。だからあの子は萎縮して自分じゃ外には出なかった。まぁ元々の性格もあったのでしょうけどね」
「なら君がその鳥かごとやらから出してやればいいじゃないか。君の力ならすぐさま彼女を元の世界に返すことだってできるはずだ」

 そういうと彼女は笑顔を崩さぬままテーブルの上の『秘密箱』をいじくりながら話す。
「確かにそれもやろうとすればできますわ。多少時間はかかりますけど。けれど私がそれをしない理由はただ一つ」
「まさか楽しむためとは言わないだろうね? まぁ僕も知識のためだ。人のことは言えないけれど」

「今後を考えてのことですわ。幻想郷のね」

 ポカンとした顔をしていたであろう、僕を見て紫は笑いながら、

「そんなに驚くことですか? 私が幻想郷のことをしっかりと考えていることが」
「そうは言わないが……霖はそこまで例外的なものかと思ってね。君の力ですぐさま対応できる段階なんだ。問題はないように感じるが」
「それはついこの前までの意見ではありませんか?」

 その言葉に僕は紫を睨みつけた。
 全てを監視されていた。
 それがわかったことではない。僕の考え全てが見透かされている。

「いつから監視をしていたんだい?」
「霊夢から聞いた後からですわ。監視と言ってもあなたが思うようなものではありませんわ。時折様子を覗き見させていただいただけです」
「それは監視、もしくは盗撮と言うんだ。管理者だからと言って許されることではないだろう?」
「まぁそれはそうですね。以後気をつけることにしましょう」

 全く反省していない。恐らく監視は続くだろう。
 しかし彼女の立場上仕方ないと言えば仕方ないのだが。

「話を戻しますわ。店主さん、彼女をどう思います?」

 その目は先ほどの目とは違う。純粋に意見を求めている目だ。
 この違和感をこのスキマ妖怪に話せばわかるだろうか?
 今は知ることが必要だ。ならば話しておくべきだろう。
 
 僕は紫に僕が持った違和感、そして僕なりの推測を話した。

「なるほど。豹変とまではいなくとも性格の変化ですか」
「あぁ。気のせいと言われればそれで済む程度なんだが少し様子がおかしい気がしてね」
「確かにそれは店主さんしか気づき得ない問題ですが……」

 紫は秘密箱をカチャカチャと動かしながらつぶやいた。

「精神が不安定になっている可能性があるかもしれませんね。元々10割で動いていた肉体ですから、3割で動いていたために周りからの影響を受けやすいのかもしれませんわ」
「君でも断定は無理かい?」
「精神が割れる……というモノなら幽々子の方が専門ですわ。あの庭師もそういう部類でしょうし」
「しかし霖の場合は外とこちらの分断だろう? 君の専門じゃないのか?」
「境界については説明がつきますけれど人間の精神……言わば霊体は幽々子の管轄です」

 それでは彼女を白玉楼に連れていけばいいのだろうか?
 しかしあそこは冥界だ。ただの人間が行くには危険すぎるだろう。

「なら妖夢を護衛に付ければいいじゃないですか。ここによく来るのでしょう?」
「まぁそうだが……」

 とここで僕は気がついた。
 紫は1割の精神が来たことに触れていない。
 だとすると幻と実体の結界を何も越えてないということになるのだろうか?

「君はたった1割の精神が流れたという事実に疑問は持たないのかい?」
「疑問を持たなかったわけではないです。ただ……」
「ただ?」

 紫は不思議そうに顎に手をあてて呟いた。

「結界には何の変化もなかったのですけど……」

 この幻想郷の管理者でも不思議に思うことはあるものか。
 まぁそれは別としても僕の予想は的中していた。
 やはり結界を越えるものはいなかった。
 だとすれば。

「あら? 何も堪えていないようですのね店主さん」
「あぁ。多少考えていたことだからね。ある意味予想通りだよ」
「予想?」

 先ほど感じた腑に落ちないもう一つの点。
 それがある意味証明されたが、謎は深まった。

「いくら特殊な事情だからといって精神が分断されるなんてことはそうそうあり得ない。今回の3割、7割という分断だってそうだ。普通人間の精神は分かれることはないんだ。だとしたらこれ以上精神が……今は幽体か。それが分かれるはずがないんだよ」

 よく考えてみればそうだ。
 元々この3割だけの不完全な幻想入りでさえ異常なことなのに1割ずつ流れてくるなんてあり得ないことなんだ。
 それは言ってしまえば同じ人間の魂が無限に分裂できることを意味する。
 霖の場合『名』によって分けられたわけだけれどこれでさえ本来は起こり得ない。
 もし幻想郷に霖の7割の精神が流れてくるならば7割のままが来るはずなのだ。


 だとすれば。

「だとすれば今霖に入った1割の精神は……何なんだ?」
「他の死人の魂でも飲み込んだんじゃないかしら?」
「彼女はずっとこの店にいたんだ。チルノに会った際も通り道は魔法の森だ。そんな幽霊がうろついているという話も聞かない」
「まぁ幽霊にとりつかれたなら霊夢が気づかないはずがないですし。それはないでしょう」

 ならなんだ?
 何かの物語で読んだ魂を分け与えるという話。
 それならばあり得なくもないけれど。
 普通の人間にたった1割の魂を分け与えて何の意味があるんだ?
 体を乗っ取ろうにも1割では元々ある彼女の3割の精神に負けてしまう。
 事実その1割の精神で霖は心を明るくし、良い方向へ向かっている。
 何なんだ?
 そう考えていると紫は立ち上がって、

「霊夢が帰ってきたようですし私は帰りますわ。ここに来ていたこと、内緒にしてくださいな」

 と言ってスキマから帰ってしまった。ちゃっかり秘密箱の中の茶葉を抜き取って。
 とほぼ同時入り口が開き霊夢と霖が入ってきた。

「全く……紫ったらどこに消えたのよ」
「仕方ありませんよ……幻想郷の管理者様なのでしょう?お忙しいのでしょうし」

 微笑みながら霊夢を諭す霖。
 その姿はなんでもない人間であり、2週間前に出会った姿のままである。
 だというのに何かが変わるような気がする。
 しかし彼女を元の世界に戻すのは幻想郷に触れさせなければならない。
 いつまでもこの香霖堂に置き続けるわけにもいかないのだから。
 彼女が幻想郷を知り、無事に元の世界へ戻れることを願うばかりである。



 ×
 まさかあのスキマ妖怪まで目をつけるとは。
 はち合わせたくないなぁ。すぐさま退治されそうだ。
 まぁ私は普通に動くだけだ。
 風の向くまま気の向くまま。
 あなたが助けを求むなら、助けてやろうと決めたから。
 あなたが私を探すなら、私はあなたを食べるから。
 そのまま染まりな謎の人。私の姿がわかるまで。
7作目でございます。
今回は題名の通り起章、ということでこのまま承章、転章といった感じの話を時折混ぜて最後に結章で終わらせたいと思っております。
正直物語は最後まで考えてありますがなんとも長くなるか短くなるかはわかりません。文章力がないものですから。
秘密箱の描写につきましては私の自室にあるものを利用させていただいています。……開けられなくなっていますが。
楽しんでいただければ光栄でございます。
前回の作品で誤字指摘などを多数いただいたため注意して書かせていただきました。治っていればいいのですが……。

おもしろかったようでしたら次の作品も読んでくださいな。
白麦
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