Coolier - 新生・東方創想話

あなたとワルツを~星熊勇儀の鬼退治・拾弐~

2009/12/25 18:28:03
最終更新
サイズ
49.96KB
ページ数
1
閲覧数
935
評価数
8/58
POINT
3150
Rate
10.76

分類タグ

*ご注意*
このお話は
作品集63「星熊勇儀の鬼退治」
作品集64「エンゲージ~続・星熊勇儀の鬼退治~」
作品集65「おにごっこ~星熊勇儀の鬼退治・参~」
作品集65「温泉に行こう!~星熊勇儀の鬼退治・肆~」
作品集67「そらのしたで~星熊勇儀の鬼退治・伍~」
作品集72「貴方が妬ましい~星熊勇儀の鬼退治・陸~」
作品集73「葡萄酒と香辛料~星熊勇儀の鬼退治・漆~」
作品集75「黒猫一匹~星熊勇儀の鬼退治・捌~」
作品集77「嫉妬の橋姫~星熊勇儀の鬼退治・玖~」
作品集78「水橋パルスィの鬼退治~星熊勇儀の鬼退治・拾~」
作品集81「真夜中のお祭り~星熊勇儀の鬼退治・拾壱~」
の流れを引き継いでおります。













 支えると云うより引き摺る形で勇儀を連れて歩く。

 重い。

 何貫あるのよこいつ。

 息が切れてきた……紅魔館まであとどれくらいだろう。

 霧が出てきたから近いと云うのはわかるのだが……

 しかしその霧も吹雪に掻き消されてしまいもう自分がどこに居るのかもわからない。

 膝が震えてきた。指が攣ってきた。腰が痛い。

 鉄下駄だけでも捨てようかしら。

 ……もう脱げてた。

 く、これ以上軽くならないというの。いいわよやってやろうじゃないの。

 妖怪の底力目に物見せてやるわ。誰も見てないんだけどね!!

 ……心が折れる音がした気がした。

 やっぱり神奈子や大蝦蟇が手伝ってくれるっていうのを受けるべきだったか。

 だが神奈子は気絶した諏訪子を連れて帰らねばならなかったし……

 大蝦蟇だってこの吹雪の中出歩かせるのは気が引けた。冬眠はしないらしいのだが。

 それに私の所為なんだから他人を頼っちゃダメよね。重い。うんダメだ。

 せめて紅魔館までは連れて行かないと。重い。

 重い。道は間違えてない筈。もうすぐ紅魔館が見えてくる筈。

 吹雪で何も見えないのだけれど重い。

 ……重い。

 体力が尽きかけてるのか最初の何倍もの重さに感じる。

 頑張れ私。負けるな私。妖精に道に迷わされてなければいずれ辿り着く。

 でも紅魔館の近くの湖には妖精が屯していたような……

「あ、おかえりなさいうわぁ」

 ああ美鈴。ここはもう紅魔館なのね。あなたの声に物凄く癒されるわ。

 ついでに笑顔で癒されたいから顔引き攣らせてないで。

「勇儀さん生きてるんですかそれ」

「さぁ……生きて、は、いるんじゃないかしら、ね」

 息も絶え絶えに勇儀を美鈴に引き渡す。軽々と担ぐんだから美鈴はすごい。

 私が非力なだけかもしれないけれど。

「後でパルスィさんも迎えに来ますよ。そこで休んでてください」

「い、いいわよ。歩けるわ」

「どう見ても無理ですよ~。膝笑ってるじゃないですか」

 ええ大爆笑よ。がっくんがっくんいってるわ。

「じゃ、待っててくださいね~」

 止める間もなく美鈴は行ってしまった。

 まぁ歩くのはきついし、お言葉に甘えるとしましょう。小脇に抱えられるのは勘弁だけれど。

 ふぅ、と息を吐いて真新しい門に寄りかかる。雪が火照った体を程良く冷ましてくれた。

 ふと紅魔館を見上げる。暗闇の中、門のランプに照らされる紅魔館は荘厳だ。

 明るい時は周囲から浮きまくっているだけの真赤なお屋敷だけど、夜は正に悪魔の館。

 夜闇に溶け込む紅が綺麗で、容易に目を奪われる。

「――レミリア?」

 窓辺に誰か立っている。

 思わず名を呼んでしまったようにレミリアかと思ったが、なにか違う。

 夜目が利かないからよくは見えないが……レミリアじゃない……?

 でも、一瞬だけ見えた、白い顔の中で一際目立つあの赤い眼は間違えようもなく――

「お待たせしました~。……パルスィさん?」

「え、あ」

 美鈴の声に振り返った一瞬で窓辺の人影を見失う。

 どの窓だったのかも、この大きな紅魔館ではわからない。

「どうしたんですか?」

「えっと、窓辺に誰か立ってて」

「妖精メイドがサボってたんですかねぇ?」

 美鈴も見上げるが当然見つからない。

 彼女の言うようなメイドじゃないのは確かだ。

 メイド服を着ていなかったし、なによりレミリアに似ていた、ように見えた。

 ……誰だったんだろう。

 レミリア達とは何度か一緒に食事をしている。主だった顔は知っているのだが。

 あのよくわからない居候さんのように普段は顔を出さない人が居るのだろうか。

「さて」

「うわっ!?」

 抱えられる。

「ちょ、美鈴?」

「こんなところに居たら風邪ひいちゃいますよ。さっさと暖まりましょう」

「そ、それはいいけどちょっとこういう抱えられ方は」

「誰も見ちゃいませんてー。あ、勇儀さんにはないしょですよ? 私殺されちゃいますから」

「わかってるんなら下ろして! 恥ずかしいのよ!」

「パルスィさんが歩けたら下ろしてあげますよ。だからダメです♪」

 あぅ……勇儀といい美鈴といいなんでこうも押しが強いのよ……

「あははパルスィさん軽いですね~」

「せめて黙って……舌噛みたくなるわ……」

 そして私は人生二度目にして本日二度目のお姫様だっこを経験することとなった。

 ……力持ちが多過ぎるわ、幻想郷。













 紅魔館の食堂。メイドの出してくれたお茶でようやく私たちは一息つけた。

 隣には勇儀も座っているが直視できない。

「ようやく帰ってきたと思えば愉快な顔になってるな」

 レミリアの呆れ顔も当然だった。

 勇儀の顔面には隙間なくびっちりと包帯が巻かれている。

 その下は打撲擦り傷裂傷だらけで軟膏を顔一面に塗りたくってある。

 河童がくれた薬だ。さぞかし効くことだろう。

 まぁ夜が明ける頃には治ってるでしょ。勇儀だし。

「もがもがもがもがーがもが」

「なに言ってるのかわからない」

「お嬢様、勇儀様は、

『いやーちょっとした喧嘩さぁ。今度会ったら叩きのめす』

と仰られておられますわ」

 よくわかるわね。もがもがだけなのに。

 ……今の勇儀の声じゃなかった?

「咲夜? 今の声どうやって出したのよ」

 よかった。突っ込んでくれた。

「失礼。近頃声帯模写に凝っておりまして」

 凝れば出来るってもんでもないでしょうに。

「もががもがーもがもが」

「『私を無視するなよー』と仰られておられます」

「黙れ木乃伊女」

 強引に会話成立させてる……

「ま、その様子じゃ負けたみたいね。いいざまだわ」

「もが! もががもがもがもがっ!!」

「『ふざけるな私は負けてない。相打ちだ!』と仰られておられます」

「鬼の四天王様が相打ち程度で胸張られてもね。……目障りだから本当に張るな」

 気持ちはわかるわレミリア。

 この真冬に西瓜二玉見せつけられて平穏でいられる筈がない。

 特に私やレミリアのような者は。妬ましい。

 だがしかし、流石は紅魔館の主。激高する寸前のような顔から涼しげな顔に切り替える。

「で? 大怪獣何ドンと戦ってきたのかしら?」

「もがが、もがもがもがー」

「『ちんちくりんのガキさ。今度会ったらすり潰す』と仰られておられます」

「あー……あえて言うならケロドン?」

「ん? あの祟り神と喧嘩してきたの」

 ナチュラルに勇儀を無視するわねレミリア。

 気持ちはわかるけれど。

「知ってるの?」

「んー。まぁね。前に挨拶に来てね」

「お嬢様と決闘を」

「うぐ」

「何故に挨拶から決闘に」

「な、なんでもないわよ。あいつが絡んで」

「あちら様が我が家のメイドを見て『いいね! うちも採用しようよ神奈子!』と。

それでお嬢様が『うちの個性を取るんじゃないっ!』と殴り合いの大喧嘩に」

「うぐぅ」

 どうでもいいけど本当に声真似上手いわねメイド長。

 その顔で諏訪子やレミリアの声出されるの凄い違和感あるんだけど。

「……決着は?」

「壮絶なダブルノックアウトでしたわ。勇儀様と同じですわね」

「うぐぐぅ」

 ……勇儀だけじゃなくレミリアとまで引き分けるなんてどこまでバケモノなのよあいつ。

「もがっがっがっが。もがーがもがもがもが」

「『はっはっは。次勝てばいいじゃないか』と仰られておられます」

「そういう問題じゃないわ! あともう通訳いいわよ咲夜!」

 おお、レミリアが怒ってる。普段の泰然とした態度が吹っ飛んでるわ。

「主人の恥を堂々と晒すとは何事かー!」

「はっ! そのポーズは人喰い怪獣モケーレムベンベ!」

「きしゃー! たーべちゃうぞー!」

 プライドかなぐり捨て過ぎよレミリア。可愛いけど。

「もががーもがもが」

「ごめん勇儀なに言いたいのかわからない」

 身振り手振りされてもさっぱりよ。

「もが、もご、っぷは。いや包帯苦しくてさ。自分じゃ取れないんだよこれ」

 あぁうん……もう治ったんだ……

 解いてやる。目立つ傷はほとんどなくなっていた。呆れるしかない。

「お嬢様、逆エビとは……! 咲夜はキャメルクラッチを所望します!」

「じゃかあしいっ! 注文できる立場かっ!!」

「ですが喉に! 喉にお嬢様の小さなおててを感じたいのですっ!!」

「変態か咲夜ーっ!!」

 ……どうしたものかなぁ。

 慣れたものなのか美鈴は平然とご飯を食べている。

 メイドたちも見もしない。

 慣れとは麻痺と同意だとよくわかる光景だった。

「けぷ。ごちそうさまー。あ、メイドちゃんお茶ください。緑茶で」

 本当にマイペースね美鈴。

 とても真後ろでよくわからない光景が繰り広げられてるとは思えないわ。

 混ざりたそうな顔しないで勇儀。あなたまで加わったら誰にも止められないから。

 ……こんな時神奈子なら一言で治めちゃうんだろうなぁ。

 レミリアを軽く見るつもりはないけれどあの威厳は桁外れだった。

 妬ましいほどに強い人だった。

「想い人の心に風が吹いてるわ……月が隠れてしまってる」

ガタタッ

 び、びっくりした。何時の間に現れたのこの人。

 いつぞやの寝巻みたいな恰好をした少女……確か居候さんだったか。

 なんで私の隣で水晶玉覗きこんでるんだろう……

「このままでは月は沈んでしまうわね……星は煌煌と輝いたままなのに」

 ……何を言ってるのかしら。

「月は風に負けてしまうのかしらね、レミィ」

ごきゅり

 鈍い音に振り替えればまたもやいつの間にかレミリアは椅子に座っていた。

 何事もなかったかのようにお茶を啜っているけれど、メイド長が倒れたままなので無駄な気がする。

 痙攣してるように見えるけど大丈夫なのかしらメイド長。

「ほほう? それはなんの占いなのかしらねパチェ?」

「新しく作った読心の魔法。これはどういう意味なのかしら……」

「わかってないのにあんな自信ありげに言ってたのっ!?」

 醸し出した威厳が一気に剥がれ落ちる。流石に想定外だったようだ。

「私が見るに星は美鈴、風は美鈴、月は私の暗示ね」

「なんで美鈴が二回」

「じゃあ風は天狗。新聞を押し売りされそうってところかしら」

「絶対に見方間違ってるわパチェ」

「物事に絶対はないかもしれないわレミィ」

 美鈴に負けず劣らずマイペースね。

 訝しげな目を向けているとレミリアが口を開いた。

「ああ、そういえば紹介してなかったわね。こいつは私の友達で紅魔館の居候。

パチュリー・ノーレッジよ。魔法使いだから何考えてるのかイマイチ理解できないわ」

「随分な紹介ねレミィ。魔法使いは常に真理を求めていると思うの」

 うん。さっぱりわからない。こういう人なんだと思っておこう。

「えっと、私は水橋パルスィ。レミリアの厚意で紅魔館に泊めてもらってるの」

「初耳だわ。あと初対面ではないかもしれないわねペルシャの人」

 ペルシャ? ……本当に何を言ってるのか理解できない。

 こうなるとレミリアの紹介が正鵠を射ていたとしか思えない。

 同じ魔法使いでも黒白はまだ会話が通じたわね……

「あなたはもっと我儘になれば満点よ」

「……なにが?」

「猫度が」

 いや……私猫の妖怪じゃないし……

 なんかふわふわしてる子ね……印象が掴みづらいというかなんというか。

「そちらは……よく知ってるわ。本に載ってたから」

 ふわふわふらふらと視線が勇儀に向かう。

 意外だわ、自分から誰かに関わるようには見えないのに。

「ん? 自己紹介は不要かい?」

「千年の昔人間の都を荒らし回った鬼の軍団。四人の鬼の大将。

その一角、星熊童子……こんなところかしら」

「大筋じゃ合ってるね。まぁ一応、星熊勇儀だ。よろしく」

「パチュリー・ノーレッジよ。お近づきの印に角とか血液とか心臓とかいただけないかしら」

 うわ、勇儀がドン引きしてるの初めて見た。

「骨一本でもいいんだけれど……」

「いやいやいやいや」

「麻酔するから痛くないわよ?」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいや」

 おぉ……勇儀が押されている。

 アレかしら、最近本で見たまっどさいえんちすととかいう人種。

 話が通じるようで全く通じてない辺りそれっぽい。

 魔法使いでまっどさいえんちすと。憶えておこう。

「パチェは図書館の主だから気が向いたら見せてもらうといいよ。蔵書量は幻想郷一だからね」

「図書館? へぇ……本は好きだから興味あるわね」

「まぁ背後に気をつけなきゃいけないから貸し出し手続きの後でないと安心して読書はできないけど」

 私も昔は牙とか羽とか狙われたわ、とぼやく。

 レミリアの忠告に勇儀に迫っている彼女を見る。

 今度は肋骨の交渉に入ったらしい。4・5本抜いても生活に支障はないとかなんとか。

「特にあなたみたいな変わり種は狙われるわよ」

 さらりと告げられた言葉に目を丸くする。

「私が? 勇儀ならわかるけど、私は木端妖怪よ?」

「謙遜もほどほどにね。あいつがあなたの隣に座った意味を考えてみなさいな」

 いきなり読心の魔法をかけられた。心――つまり私の能力に関心があるのか。

「私はあなたの能力の方には興味ないけど……魔法使いなんて人種には垂涎の的じゃない?」

「意味がわからないんだけど……?」

「『心に作用する』じゃなくて『心を操る』。これは魔法でもまだ出来ないらしいわ」

 出来ないから興味を持つ。不可能だから手を伸ばす。ということか。

 正直興味を持たれても嫌な気しかしないが……なんかそういうのを越えた処で狙われてる気がする。

 ふわふわふらふら。掴みどころがない。よくわからない性格。

 そうね。油断したら手術台に乗せられてわけわからん実験台にされそうね。

 想像するまでもなく異常に似合うまっどさいえんちすとの衣裳。

 あまり背は高くないのに尋常じゃない迫力があるわ。

 うん怖い。

「……気をつけるわ」

 パチュリー・ノーレッジ。

 なんかよくわからないけど恐るべき魔法使い。

 顔を強張らせているとレミリアが微笑みかけてきた。

「木端だろうが大物だろうが、見方を変えれば特別なのよ」

「……レミリア」

 なんかかっこいいこと言ってるみたいだけどあなたの背後が気になって……

 刃物と薬らしきもの取り出してるパチュリーが怖くて何言ってるのか聞き取れなかったわ……

「血液5リットルで手を打つわ」

「助けておくれよパルスィ! なんかこいつ怖いよ!」

 迫るパチュリーの腕を軽々と抑えながらも勇儀の顔は引き攣っていた。

 頑張って勇儀、お願いだから私に振らないで。怖い。

 見るにパチュリーも相当に非力そうだけど私も非力なの。押し倒されたら負けそう。

「レミィ、こいつ力が強いわ。手伝って」

「鬼なんだから当然よ。それと嫌よ」

「あなたの怪力は何の為にあるの」

「少なくともおまえの怪しい実験の為じゃない」

「ひどいわ」

「美鈴、話が進まないから取り押さえなさい」

「はーい」

「あーれー」

 ……緊張感ないわね。

 いやちょっとこっち見ないでよ。

 椅子に縛り付けられて無害な分には可愛いかもしれないけれどやっぱり怖いわパチュリー。

「…………怖かった」

 私に泣き付かれても困るわ勇儀……

 というか仮にも鬼の大将格がそれでいいの……?

「さて、ようやく次の話が出来るわね」

 言ってレミリアは指を鳴らす。するとメイドが私たちに封筒を一通ずつ持ってきた。

 復活早いわねメイド長。

「これは?」

 もう突っ込むのも疲れたので無視して話に乗る。

「招待状。と云っても紅魔館の中に居るあなたたちにはあまり意味がないのだけれど」

 ま、慣習よね。と彼女は笑う。

 招待状? 見れば封蝋も捺されているちゃんとしたものだ。

 正式なもののようだが……確かに彼女の言う通り今更である。

 私たちが紅魔館に滞在するようになってもう数日が過ぎているのに、何故?

「あなたたち、あと2・3日はうちに居るんでしょう?」

「そのつもりだけど?」

「じゃあパーティに出席しなさい」

 パーティ?

 ……これはパーティへの招待状ってこと?

「新年を祝う紅魔館のパーティよ。夜中の宴なんて吸血鬼にはぴったりだもの、外せないわ」

「お誘いは嬉しいけど……いいのかしら。私たちが出席して」

「構わないわよ。友人をパーティに誘うのなんて当然じゃない」

 向けられるのは邪気のない微笑み。

 友人。友達。……私からは縁遠い言葉。

 勇儀とレミリアは、友達だと思う。勇儀から踏み込んで、彼女もそれを受け入れた。

 でも私はおまけみたいなもので……彼女に対等に見てもらえているなんて考えてもいなかった。

 以前の私なら消極的に拒否していただろう。レミリアに近づくのが怖かった。

 同格の力を持つ勇儀でさえも毒牙にかけた私の能力が届いてしまうと思ったから。

 間違いなく私は、レミリアに好意を抱いているのだから。

 私の中の御しきれぬ狂気はレミリアさえもその手にかけようと疼いているだろうから。

 ――――それでも、私は戦うと決めたのだ。勇儀の手を取ったのだ。

 故に私は微笑みを返す。

「お誘いありがとうレミリア」

 半歩にも満たない一歩だとしても、前に進みたい。もう立ち止まらないと誓った。

「どういたしまして。――またかわいくなったわねパルスィ?」

 レミリアの笑みに邪気が混じる。

「またからかっ」

「手ェ出したらお仕置きじゃ済まんと教えたよな吸血鬼」

 …………勇儀。

「短気に磨きがかかったわね四天王。本当に試そうか? 夜這いは吸血鬼の十八番よ」

「はしたのうございますお嬢様」

 軽口に一々噛みつく大将ってどうなのよ。テーブルに片足乗せて身を乗り出さないでよ。

「っは。この私に喧嘩を売るたぁいい度胸だ。葬式の予約を済ませな」

「生憎行きたい天国がなくてね。悪魔は地獄こそが故郷なのよ」

「ならふんじばって私のペットにでもしてやろうかね。地獄の鬼に飼われるなら本望だろう?」

 ……なんで私とお揃いの首輪をしてるレミリアが思い浮かんだんだろう。

 いや違う。私、ペット、違う。

「――……いい」

 おいメイド長。聞き逃さないわよその不穏な発言。

「それは名案だわ。筋肉馬鹿を飼うのも一興。私専用の椅子にでもしようかしら」

 売り言葉に買い言葉を地で行く応酬。こいつら本当は仲好いんじゃないの。

 ああもう、本当に神奈子呼びたくなってきたわ。

「悪魔のペット……多重契約による拘束が必要ね。興味深いわ」

 うわぁパチュリーまで乗ってきた。猛烈な勢いで分厚い本に何か書き込んでる。

 こりゃもう私じゃ止められない。それこそ神奈子様頼みでもしなければ絶対無理だ。

 どうしたものかと首を捻っていると、お茶を啜っていた美鈴が話しかけてきた。

「パルスィさんのドレスはどうしましょうか」

「……ドレス? パーティ用の正装、だっけ?」

「そんな感じですね。そのままの服でもいいでしょうけど、どうせなら着飾った方が楽しいですからね~」

 ……と言われても、私はドレスなんて持ってない。家に帰れば喪服くらいは備えてあるけど……

「なんなら私が作りましょうか? チャイナドレスとか似合いそうですからねパルスィさん」

「作るって、あなた裁縫出来るの?」

「咲夜さんほどじゃないですけどね。それなりに得意ですよ~」

「待てパルスィに似合うのは花魁衣裳だろう!?」

「いいえここは派手にカクテルドレスで露出度よ! っていうかなに話進めてんのよ美鈴!

主催者面しおってからに主を差し置いて生意気よっ!」

 互いの手を掴み合ったまま二人が割り込んでくる。テーブルから降りなさいよ二人とも。

「だってお嬢様パルスィさん放り出したまま勇儀さんと遊んでるんですもん。

パルスィさん事情が呑み込めてないんだから話進めてないと間に合わないじゃないですか」

 まぁ正論ね。実際私何も理解してないし。パーティは西洋の宴だということがわかっているだけだ。

 レミリアは臍を噛む表情を浮かべて勇儀の手を振り払った。

「……ええい! ここは一時休戦よ勇儀っ! 代償は酒樽一杯!」

「承諾したっ!!」

 よだれを拭け勇儀。

 のそのそとテーブルから降りる二人が滑稽だった。

「さてダンスパーティなんだけど」

 どんと椅子にふんぞり返ってレミリアは話を再開する。

 だが諏訪子といいレミリアといい、一度崩れた威厳を建て直すのは難しいとよくわかる。

 ……頑張ってるのが目に見えて頭撫でてあげたくなっちゃうわよレミリア。

「ダンスパーティなんだけど!」

「うん、はい。どうぞ進めてください」

「あなたたち、踊れる?」

 う。ダンスパーティとは踊る宴なのか。

「いいえ……」

 苦手中の苦手、というより踊ったことなんてない。

「能とかヤスキ節なら……」

 勇儀、それジャンルが全然違う。ダンスに掠ってるのかはわからないけれど。

 しかしまいったわね。踊れないんじゃせっかく誘ってもらっても……

「じゃあ教師を付けてあげる。鬼には……美鈴ね」

「へ? 私ですか?」

「だってあなたくらいじゃない。こいつがうっかりしても壊れなさそうなのって」

「うわぁすごい理由だった!」

「身長差考えると妖精メイドと組んだ方がいいんでしょうけど」

 まぁ、無理よね。控えてるメイドたちの顔が引き攣ってるし。

 ん? 身長差?

「なんで身長差が出てくるの?」

「だってあなたたちが組んで踊るんですもの」

 組んで? ……二人で踊る踊り? 想像が追いつかない。

 勇儀にぶん回される踊りじゃないでしょうね。

「……パルスィを振り回す踊りか?」

「勇儀、違うと思う。違うと云うことにしなさい」

「お、おう」

 先行き不安だわ。

「それじゃパルスィは咲夜に教えてもらいなさい」

「さく、メイド長に?」

「なに? 嫌だった?」

「いえ、そういうわけじゃないけど」

 ……よりによって、人間に。

 私には、まだ覚悟が足りてないと思うけれど……

 ――逃げ腰でばかりいられない。

 レミリアがくれた機会と思って、頑張ってみよう。

「……じゃあ、彼女に頼むわ」

「ん、さてあとはドレスね……んー」

 なにやら悩んでいるようだけど……美鈴が作ってくれるんじゃないの?

 もしかしてその辺の記憶はあの騒ぎごと捨てたのだろうか。

「私のドレスは……流石に着れない、いや着れるかしら?」

 微妙に着れそうだけど無理があるわよ。……うん、無理よ。無理だって。

 私、レミリアより背高いし。ちょっとだけど背高いし。

 いくら子供みたいな容姿してるからって完全にお子様体型のレミリアの服は無理だってば。

「私と大差ない体格だしいけないかしらね」

「いや無理よ。無理だから。うん無理」

「なに意地張ってんのよ」

「お嬢様、デザインの問題がありますわ。パルスィ様には羽がありません」

「あ、そうか。髪が短いから隠すわけにもいかないものね」

 よし。ずれてる気がするけど私のプライドは守られたような気がする。

 ……羽ってことは羽を出す穴が開いてるのかしら。背中を出すなんて恥ずかしいからよかった。

「簡素なものでよければ私がお作りしますが」

 メイド長が名乗り出る。そういえば美鈴が自分より上手いみたいなこと言ってたけど。

「じゃあ任せるわ。さて次は勇儀だけど」

「あ、勇儀さんのドレスは私のを貸しますよ」

「そうね。身長的に勇儀と張れるの美鈴だけだし」

「入るかな? 私は美鈴ほど細くないし」

「手直しが必要かもしれませんけど大した手間じゃありませんよ」

 流石裁縫自慢ね。しかし料理も裁縫も得意って意外と家庭的ね美鈴。

「纏まったわね。パルスィは咲夜、勇儀は美鈴に面倒見てもらいなさい」

 これからはダンスの練習とやらの日々か。気のせいじゃなくここ数日、忙しいわ。

「じゃ、そういうことでパチェも出なさいね。たまには外に出ないとカビが生えるわよ」

「今出てるじゃない」

「食糧漁りに出てきただけでしょうに。で、出る気は?」

「お酒が出るなら」

「出さないパーティがどこの世界にあるのよ」

 ええと……とりあえずメイド長について動けばいいのかしら。

「ではこれよりパーティまで、二人は会うこと禁止ね。タイムスケジュールは任せるわ咲夜」

「承知いたしました」

「は?」

「え?」

 異口同音に疑問符が出た。それも当然。

「待ちなよレミリア。なんで会うの駄目なのさ」

 勇儀が食ってかかる。

 優雅に紅茶を啜っているレミリアは片眉を上げて応じた。

「あら、気を利かしたつもりだけど」

「気を利かすって、逆じゃないかい」

 なおも食い下がるが、レミリアはお得意の邪悪な笑みを崩さない。

 流石に、何か考えがあるとは気付く……が、納得まではいかない。

 勇儀はさらに食い下がろうとするが、深められたレミリアの笑みに制される。

「ふふ――宝箱はふたを開けてのお楽しみよ」

 結局、その一言で押し切られ……深夜のお茶会は幕を下ろす。









 勇儀が美鈴に連れて行かれ、私もメイド長に促される。

 食堂を出る間際、ふと思い出した質問を投げかけた。

「あ、そうだ。レミリア、あなた私たちが戻って来た時見てた?」

「? 見てって?」

 問われたレミリアの顔に浮かぶのは困惑。

 質問の意図そのものが通じていない。

「ええと、紅魔館から見下ろしてた?」

「いいえ。こんなに寒いのに窓になんか近づくわけないじゃない」

「……そう」

 期待した答えは返ってこず、それどころか疑問は更に深まる。

「どうかしたの?」

「い、いえなんでもないわ」

 食堂を出る。

 レミリアではなかった。本人に否定された。

 なら、あれは誰だったと云うのか。

 ――この真冬に怪談? 勘弁してよ。







 連れてこられたのは小さな部屋だった。

 私たちの泊まっている部屋より二回りは狭い。

 ダンスの練習と云うから大きな部屋に連れて行かれると思っていたんだけど……

 見回せばあるのは上半身から頭と手を取ったような人形。ミシン。大小様々なメイド服。

 見慣れない形の棚には生地が収められているようだ。

 ……裁縫の為の部屋? たかが裁縫に専用の部屋があるとは……

「では失礼します」

「え、え?」

「ドレスを作るので、お体のサイズを測らせていただきたいのですが」

「あ、はぁ。……どうぞ」

「失礼します」

 他人に触れられるのには慣れない。

 何度も覚悟を決めた。このままではいけないと意を決した。

 それでも染みついた恐怖は薄れてくれない。

「私に触れるの、怖くないの?」

 故にか、口から出たのは逆の言葉。

 ほんの少しでも逃げようとする見苦しい言葉。

「質問の意図を理解しかねます」

「得体の知れない妖怪よ? どんな力を持っているのか知れたものじゃないのに」

「……それでも、質問の意図を理解しかねますわ」

 自分への怒りを転嫁してしまう。僅かに、苛立ってしまう。

 所詮は人間と、侮ったのかもしれない。

「怖いもの知らずなのね」

 皮肉混じりの言葉を吐いてしまう。

 しかし返ってきた声は怒りなど微塵も含まず、ただ冷え冷えとしていた。

「いいえ。本当に恐ろしいものを知っているだけです」

 声に熱など籠っていない。感情など籠められていない。

 ただ淡々と事実を述べると云う風に、彼女は告げる。

「私は悪魔のメイド。悪魔の犬。恐れるのも敬うのもただ一人」

 そういえば――彼女と二人きりになるのは初めてだ。いつもレミリアの影に潜んでいた。

 決して前に出ることはなく、常にレミリアを介してのみその存在を感じられた。

 影のような彼女は、その名を呼ぶときにのみ――声に熱を帯びる。

「私が恐れるのは我が主。知略も能力も純粋な力も並び立つ者のいない吸血鬼。

運命を操る紅い悪魔。レミリア・スカーレットただ一人でございます」

 従者という言葉を思い出す。身も心も――従う者。忠実なる僕。

 だのに身に纏う優雅さは微塵も失われずあくまで洒脱。

 メイド長の肩書は伊達ではなく、その在り方は完璧なまでに悪魔に付き従う者。

「さて、採寸は済みましたわ」

 人間の身で紅魔館の使用人を統べるメイド長、十六夜咲夜。

 只者である筈が……なかった。

 彼女は――強い。

 素直に、嫉妬してしまうほどに。

「…………」

 華奢で、線の細い彼女に――勇儀の姿が重なる。

 呪いには負けないと力強く語った彼女の姿が。

「――続き、お願いできる?」

 戦わねば。

 彼女が信じてくれた私が負ける筈がないと、胸を張らねば。

「かしこまりました」

 微笑みで応え、彼女は生地の選定に入った。

 手持無沙汰だ。

 邪魔にならない程度に……声をかけてみよう。

「……ドレスってそんな直ぐに出来るものなの?」

「幸いお嬢様用の型紙を流用できますので……あとは装飾と生地の変更で。

それにしても、羨ましいほどに細いですわねパルスィ様」

 あんたが言うな。

 筋肉? 脂肪? それは美しさに必要なものかしら?

 と全身で語っているようなスタイルしてるくせに。

 私のはただの痩せっぽちよ。

 ――それにしてもレミリア用のが流用可能か。見た目五寸は私の方が背が高いと思っていたのに。

 それとも服ってのは身長は融通が利くのかしら。

「パルスィ様は色で例えるなら青ですので、このピンクの生地を使いましょう」

 どこが「なので」なのよ。

「なんで青でピンクなの」

「相反する色を使った方が映えると思いますから」

 ……変わったセンスね。

 む、見られてる。

「ふむ。ピンクは――もう少し淡い色の方が似合いそうですね。

パルスィ様用だと……この生地はコサージュにでもしましょうか」

 どことなく楽しそうに見える。それは結構なことだが――

「……あの、その様付けやめてくれないかしら」

「ですが我が主のお客様ですから」

 うう、その理屈はわかるけれどこそばゆい。

 格下に見られることこそあれ、格上に見られることなど皆無だった。

 私は敬われるような大妖怪じゃないし、ここ百年様付けで呼ばれることなんてなかったのだし。

「あの、咲夜――さん? お願いだから様付けはやめて。私、そういうの苦手で」

 彼女のような完璧に見える従者にこのような頼みは無粋とわかっているのだが……

 案の定、きょとんとした顔をされる。

「ええと、つまり――対等に扱って欲しいと?」

「そ、そう。そういう感じで接して欲しいのだけれど」

 メイド長は考え込む。

 やはり、無茶を言っているのだろうか。

 撤回した方がいいのかな――と考え出したところだったので、尚更その言葉は理解出来なかった。

「では、今から友達ね。パルスィ」

「……へ?」

 間抜け面しか出てこない。

 いや、そりゃ――勇儀や神奈子なら対等なら友達だ、くらいは言うでしょうけど。

 私はそんなに器が大きいわけじゃないし、嫌われ者の橋姫だし――

「あら、私が友達じゃ御不満かしら?」

「そ、そんなことは」

「じゃあそれでいいじゃない。友情を育んで友達になる、なんて道理に従う必要もないのだし」

 それにしたって、性急過ぎる。

 こっちにだって心の準備とか色々あるのだし。

「実は私、あなたみたいな子好きなのよね」

「え?」

「小動物的な子っていじめたくなるの」

 獲物を狩る猛禽類の目だった。

「ごめんなさい用事思い出したわそれじゃ」

「逃がすと思う?」

 がしりと肩を掴まれた。首に生温かい吐息がかかってる。

 やだもうなにこいつ。それなりに距離があったのにノータイムで捕まった。

 絶対人間じゃない。

「まあ冗談なのだけれど」

「うんまあ……殺気なかったからそれはわかってるんだけど……」

「その割には乗ってくれたわね。乗り突っ込みするタイプかしら」

 恐ろしくてあんたには突っ込めないわよ。

「で、答えをまだ聞いてないのだけど?」

 ……にこにこしながら言われても。

 まだ――捕まったまま。答えなければ、解放してくれないつもりらしい。

「うーあー」

 本音を言えば、曖昧なまま流したい。小粋な冗句でお茶を濁してなかったことにしてしまいたい。

 しかしそれは出来ない。私が小粋な冗句など言えないこととは関係なく……不義理が過ぎる故に。

 嘗ての私なら兎も角、勇儀と知り合ってしまった今の私には――――

「…………よ」

 差し伸べられた手を振り払うことなど、出来ない。

「……よ、よろしく……」

「こちらこそよろしくお願いしますわ」

 なんの気負いもない優雅な微笑み。憎たらしいほど様になっている。

 砕けた口調にも気品が見え隠れしていて、流石はレミリアの従者と溜息つくしかない。

 十六夜咲夜。紅魔館のメイド長。

 得体の知れない――人間だ。





 そうして始まったダンスの練習。

 ところが翌日、私はもう弱音を吐き始めていた。

「あ――――足、攣った……っ」

 意外にも、意外にも程があることに、咲夜はスパルタンな教育方針だったのだ。

 もう踊りを習っているのか体力を作っているのか判別できない。

 なんで妖怪なのにこんな健康的な生活を送らねばならないのか疑問だわ。

 なによりこの身長差を補うために履かされたハイヒールとやらが辛い。立つだけでも難しいのよ。

 これ履いた上慣れぬドレスを着せられて踊るなんて……無謀じゃない?

「青息吐息ね」

「ふ――私のイメージカラーは青だったかしら? ならここからが私の本領よ」

 などと気を吐いても笑う膝は隠せない。むしろよくそれで立っていられるわねと呆れられる。

 この反射的に意地を張ってしまう癖、どうにかした方がよいのかも。

 咲夜の呆れ顔が次第に嗜虐的な笑みに変わっていくから。

「あの、咲夜、さん」

「なぁに? パルスィ」

「わたしたち、ともだち、よね」

「…………ええ、そうね」

 残念そうに目を逸らすな。油断ならぬ奴……

 ……いまいち理解出来ないけれど、あれね。勇儀と似た趣味なのかしらね。

 告白されたばかりの頃、ちらと見せた勇儀の本性。奪い壊し侵す鬼の性。

 痛みを与えることに快楽を見出す嗜虐趣味。

 どことなく、そういう暗い部分が勇儀と似通っている気がする。

 金髪と銀髪。

 赤眼と碧眼。

 長身に見合った肉付きの良い肢体と長身に見合わぬ針金染みた痩身。

 明るく朗らかで他者を惹きつける大将と控えめで寡黙で主を立てる従者。

 外見から立場まで全てが正反対と言えるのに――十六夜咲夜。彼女は勇儀に似ていた。

「ああ、そうか」

 だから、怖くないのね。

 道理で散々脅かされているのに逃げようという気にもならないわけだ。

 どれだけ脅しても、本当に私を傷つけたりはしないって知っているから。

 己の異常性を理解し、その上で他人を愛せる器を持っていることを知っているから。

「パルスィ?」

「え、ああ」

 咲夜に声をかけられ正気に戻る。物思いに耽っていた。

 疲れ――はしているが、思索に走る程ではないのに。

「…………」

 訝しげな目を向けられる。さっさと立って練習を再開しないと……

「それじゃ休憩ね」

 咄嗟に反応できない。鬼教官らしからぬ言葉に耳を疑う。

 まだ一日しか付き合ってないが疲れた素振りを見せたら即座により難解な練習を始めていたのに。

 それとも、私自身気付いていないだけで相当に無理をしているのだろうか。

「休めるのならありがたいけれど……いいの?」

「まだ時間はあるからね。本番に疲れは残したくないでしょう?」

 理に適った物言いではあるが、何か引っ掛かるわね。

 私が疑り深いだけなのかもしれないけれど。

「時間があるって言っても、パーティは明後日なんでしょ?」

 念のため問えば思案顔。間に合うか計算しているようだが……それは、十六夜咲夜らしからぬ行動だった。

 何事もそつが無く済ませるように見えるこのメイド長らしくはない。

 改めて考えねばわからぬようなタイミングで休憩を挿むだろうか。

 こう見えて――意外と大雑把な性格だった、という可能性もあるのだが。

 ……私はまだ彼女のことをよく知らない。

 故に、それは完全に不意打ちとなった。

「鬼の大将がそんなに気になる?」

 表情を一切変えずに紡がれたその一言。

 油断し切っているところに避け切れぬ一撃。動揺が顔に出てしまう。

 確かに、考えて、いた。咲夜を通して勇儀を見ていた。

 でも考えていただけなのに。一言も口には出していないのになんで読まれるのよ。

 私の狼狽ぶりに満足したのか、咲夜は嗜虐的な笑みを深めた。

「お嬢様の命令だから絶対に会わせてあげないけれど」

「う……」

 いじめっこめ。

「さて、私は他の仕事を済ませてくるわ。存分に休んでなさい」

 何かを言い返す間もなく、咲夜の姿は消えていた。

 なんとなく、置いて行かれた気分で落ちつかない。お茶でも貰おうと厨房を目指す。

 何度通っても慣れないわね、深紅一色のこの廊下。目に痛いだけじゃなく道が憶えにくいったら……

 ――――あら?

「道、間違えたかしら……?」

 通路があったと思っていた場所は壁になっていた。

 触れてみる。ここ数日で作られた壁じゃないのは明白で、埋めた跡すら見当たらない。

 ならば間違えているのは私の方なのだろうが――咲夜の態度と同じく、釈然としないものが残る。

 ……レミリアが咲夜に命じていた。その台詞を思い出す。

『ではこれよりパーティまで、二人は会うこと禁止ね。タイムスケジュールは任せるわ咲夜』

 咲夜の細工――なのだろうか。

 レミリアの台詞を信じるならそうだ。ついさっきも本人に絶対に会わせないと宣言されたばかりなのだし。

 ならばここは大人しく引き下がった方がよいのだろう。

 さて、どうしたものか。改めて宛がわれた部屋に戻るか……先程の部屋に戻りダンスの自習をするか。

 私の上達具合を考えれば自習をした方がよいのは確かだが咲夜が居ないと何も出来ない。

 踊りに変な癖をつけてしまってはよろしくない、と思う。

 咲夜に言われた通り、存分に休むしかないのだろうか。

「誰?」

 それもいいかと踵を返した瞬間、その声は届いた。

 曲がり角から出てきたところで立ち止まり私を見ている少女の姿。

 金の髪に赤い瞳、形容し難い羽を持った少女。

 その顔は……レミリアと瓜二つと言える程に、よく似ていた。

 あの時の、窓から見下ろしていた誰か?

「あなたは誰? お客様?」

 近づかれながら問われる。

「……ええ。館の主のご好意で泊めさせてもらってるわ」

 へえ、と頷かれる。

 お客様、という表現といいレミリアとよく似た顔といい……彼女が紅魔館の関係者なのは確かだろう。

 ただどういう立場なのかはわからない。レミリアの親族だろうという推測は出来るが……

 しかし、身に纏う雰囲気がレミリアのそれとはかけ離れている。

 気品はあっても威厳はない。

 強大な妖力は感じるが恐れこそすれ畏れはしない。

 何か、アンバランスな印象を受ける少女だ。

 危ういと云うか……精巧な硝子細工を前にした気分、とでも言えばいいのか。

 触れることを躊躇ってしまう美しさを醸す少女だった。

「それで、あなたは誰?」

 再び問われる。それは、もう答えたわよ?

 もしかして名を訊いていたのだろうか。

「あ、ええと、私は水橋。水橋パルスィよ」

「ミズハシ? ミーズハシ。日本の名みたいね?」

「そりゃ私は日本の妖怪だもの」

「え?」

 まじまじと顔を覗き込まれる。諏訪子にもこうされたことを思い出す、って、え?

「ふぅん……」

 ぺたぺたと私の顔に少女の手が触れる。

 普段なら即座に拒否反応が出るような真似なのだが……何故か、動けない。

 少女の意図が読めないという理由もあったが、何より――その行動があまりにも子供染みていたからなのか。

「ヨーロッパ……よりもっと東、かしら? 日本って感じはあまりしない顔立ちね」

 そう言われても……生まれも育ちも日本なのだから困るわ。

 妖怪なんてのは大なり小なりそういう容姿で当たり前でしょうに。

 目を逸らす。曇りの無い、真っ直ぐな目で見られるのは――苦手だわ。

 目を逸らした先にあったのは羽。少女の背から生えた枯れ木に宝石が実っているかのような……

 それは――とても歪で――

「――綺麗な羽ね。妬ましいくらい」

 思わず口に出していた。はたと手で口を押さえるがもう遅い。少女はきょとんとした目で私を見ていた。

 癖が抜けてないのかしらね。こんな初対面の子供にまで嫉妬してしまうだなんて。

 苦笑して肩を竦めようとすると、

「褒めてくれるの?」

 あまりに素直な反応に苦笑さえも浮かべられなかった。

 子供らしく――前向きな受け取り方だ。

 頷く。素直に、思ったことを口にする。

「色とりどりの宝石がいっぱい。あなたの金の髪と相まって綺麗としか言えないわ。妬ましい」

「…………」

 感化されたのか、つい言い切ってしまった。ここまではっきり言えばもう受け取り方は一つしかない。

 嫉妬など、されて嬉しいものではないのに……

「うふふ、嫉妬されちゃった」

 笑み。

 不純物など一切混じらぬ純粋な笑み。

 嫉妬されて、相手を見下さずにただ肯定だけを受け入れ喜びとした。

 これは、子供らしいと云える反応――なのか。

 くりんと少女の赤い瞳が私の目を見る。

「あなたの眼もキレイ。宝石みたい」

 お返しのつもりだろうか、そんなことを言う。

「これは……私が人間じゃない証よ。そんな綺麗なものじゃない」

 それこそ素直に受け入れればよいのに、反発してしまう。

 しかし少女は諸手を広げ歌うように告げた。

「あら、緑の眼は怪物の眼。人を誑かし餌食にする恐ろしい怪物の眼。

シェイクスピアにも語られた美しさよ? 誇りなさいな」

 全てを肯定される。

 恐ろしささえも美しさに変えてしまうだなんて、どれだけポジティブなのか。それこそ、苦笑ものだ。

 なのに少女は笑みを深め私の薄っぺらい苦笑を吹き飛ばした。

「緑は地味ね、目を引く派手さはどこにもない。なのに見てしまう。気を惹かれてしまう。

それは何故か知っている? パルスィ」

 歌う口調のまま問いかける少女に、私は戸惑いの顔しか返せない。

 私の答えを待っていなかったのかそのまま彼女は自ら答えた。

「抑えられた彩りの中にも高貴さが宿るんだって。お姉様が言ってたわ」

「え、お姉様って」

「私はフランドール・スカーレット。紅い悪魔の妹よ」

「レミリアの?」

 一度に色々と告げられて整理が追いつかない。

 ええと、私の――眼のことは置いておいて、この少女は……フランドール・スカーレット。

 レミリアの、妹。

 言われればそれ以外の続柄が一つもしっくりこない。

 瓜二つに近い顔立ちといい、子供らしい振る舞いといい妹というのはこの上なくぴったりだ。

 …………ならば、何故――レミリアはただの一度も彼女のことを私たちに教えなかったのだろう。

 レミリアの性格を考えれば不自然だ。妹が居るのなら見せびらかすくらいはしてもおかしくないのに。

 これではまるで……

「ねぇパルスィ。館が騒がしいのだけれど、何かあったのかしら」

 問いに思索は中断される。

「知らないの? 新年を祝ってダンスパーティがあるのよ」

「……またパーティか。あいつ本当にハデなのが好きね」

 再び違和感。

 何故紅魔館の状況を私に、客に訊ねるのか。

 何故、言葉に僅かな毒を混じらせたのか。

「ええと、フランドール? あなたは……パーティに出ないの?」

 探りを入れる。いつもの私なら流して決して関わろうとはしなかったのに。

 変わろうと気負い過ぎて、変な方向に走ってしまっているのだろうか。

 それとも……勇儀や、紅魔館の面々に感化されてしまったのか。

「出れるわけないわ」

 私の問いに、フランドールは露骨に眉を歪めた。

 知らず、痛いところに触れてしまったのか彼女の機嫌はどんどん悪くなっていく。

「いっつもパーティ開いてるけど私が出たことなんて一度もないわ。

だって私は紅魔館に閉じ込められているんですもの」

 あまりにも理解し難い。

 閉じ込められている? あのレミリアが、妹を閉じ込めている?

 それは私の知るレミリアからは想像も出来ないことだ。

 どのような理由があって閉じ込めているのかなんてわからないけれど、レミリアらしくはない。

 こうして苛ついているフランドールを見るに……彼女はパーティに参加したがっているように見えるのに。

 他人の家庭の事情に踏み込む気は無いが、不仲、なのだろうか。

「フランドール、それは……」

「咲夜に館を迷路にされて、パチュリーに魔法で封じられ、お姉様に力でねじ伏せられ。

ただの一度も紅魔館から出られない。パーティにだって出られないわ」

 彼女の語る紅魔館の面々と私の知る紅魔館の面々が一致しない――パチュリーは置いておくとして。

 そんな、話も通じないようなことはなかったように思う。

 それに……フランドールの言葉からは、単純に嫌っているだけではない感情が窺えた。

「あなたはパーティに参加したいって伝えた?」

 故に私の口を突いて出たのは辛辣な言葉だった。

「……え?」

「一度でもレミリアに私もパーティに参加したいって言った?

私の知るレミリアなら、そんな願いを無碍にはしないわ」

「でも……お姉様は」

「私もそう言われた」

 フランドールの紅い瞳が丸くなる。

「私も前に、ある人に言われたの。伝えてくれなきゃわからないって。

ただ黙っているだけじゃ何も理解なんてされないわフランドール。

何かを求めるなら――手を伸ばすだけじゃなくて、言葉にしなきゃ」

 言い終え、僅かに痛む胸を押さえる。

 なんでここまで踏み込んでしまうのか。水橋パルスィは出来るだけ他人と関わらぬ生き方を望んでいたのに。

 何より、私にこんな偉そうなことを言う資格は無いのに。

 抑えきれぬ狂気を持て余して孤独の殻に閉じ籠ろうとした私には……

「……お姉様は」

 知らず互いに俯いていた。彼女の小さな呟きに顔を上げる。

「お姉様は、私がパーティに出たいって……言ったら」

 ぽつりぽつりと、喉に詰まりそうになりながらも言葉を吐きだす。

 弱弱しく、されど一歩を踏み出さんと。

「許してくれるかしら」

 彼女とレミリアの関係は私にはわからない。

 どのような過去の積み重ねでこうなったのかなんて知り様も無い。

 でも、私は私の知るレミリアを思い浮かべ答える。

「ええ。きっと」

 あの小さな夜の王は不敵に笑って許すだろう。

 王に相応しき度量を以って細々した悩みなんて吹き飛ばしてくれる。

「……それじゃお姉様に話してみるわ」

「上手くいくといいわね」

 我ながら無責任な言葉だと思う。しかし擦れ違ったに等しい少女にかける言葉などそうは見つからない。

 己の不甲斐無さに辟易していると、フランドールは晴れやかな笑みを見せた。

「ありがとうパルスィ」

 そのまま駆け出して、すぐに見えなくなってしまった。

 ――礼を言われるようなことはしていない。勝手に踏み込んで、勝手に荒らしたようなものだ。

 ただ、不満を口にして拗ねた眼でものを見ている姿が気に入らなかっただけだ。

 あんな勇儀の真似事をしてしまったのは……どこか――私に似ていたからだろうか。

「この分じゃ私の出番は無いわね」

 心臓が跳ね上がった。

 呼吸が乱れて膝が力を失う。壁に凭れてなんとか倒れることだけは回避した。

「ぱ、パチュリー」

「呼ばれずとも飛んではこないけど出てきてこんにちわ。夜だけど」

 椅子に縛られたままのパチュリーがそこに居た。

 どうやってここまで来たのだろうか。

「み、見てたの?」

「壁の前で唸ってたあたりから」

 最初からかよ! 声くらいかけなさいよ! なんで毎回音も無く忍び寄るのよ!

 ……ああもう! 怖くて突っ込めない! カモン美鈴! あなたは本当に突っ込み易かったわ!

「お祭り騒ぎしながら魔法を使うなんて面倒だから助かったわペルシャのパルスィ」

「変な二つ名つけないでよ。……魔法って、あの子を閉じ込めるっていう?」

「そう。悪魔の妹フランドール・スカーレット。彼女は閉じ込められなければいけない。

彼女の力は測定不能の規格外だから。そしてそれを御し切れるほど成熟していないから」

「それは……大人の都合だわ」

 反発してしまう。私が見たフランドールは、子供だった。

 その力とやらがどんなものか知らないし、パチュリーの言うことは正しいのかもしれないが……

 閉じ込められる子供に、そんな理屈は通じない。ただ、苦しいだけなのだから。

「そうね。私やレミィの勝手な都合。まわりとのバランスを考えた上での都合なのだけれど。

ここで言葉を尽くしてレミィの、レミリア・スカーレットの正当性を主張しても意味は無いわね」

 打てども響かぬ、どころか受け流される。私の反発は彼女には届かない。

 魔法使い、だったか。口八丁では勝てそうにない。

「レミリアの友達でしょう? 少しは擁護すればいいのに」

「あなたに私たちの友情を妬んでもらうのもいいけど、今更語ることでもないわ。

レミィの妹への愛情なんてことはね」

 あっさりと言葉の裏を見抜かれ答えられる。

 多少癪に障るが――まぁ、いい。大筋では理解出来たし、なによりも知りたいことが知れた。

 レミリアが……ふざけた理由であの子を閉じ込めているわけではないと、わかった。

 深いところなんて当然知れないけれど、少なくともレミリアが妹を愛していると知れただけで十分だ。

「……猫度、10点減点ね」

「は?」

「友達思いなんて猫らしくないわ。レミィにまたいい友人が出来たのは喜ばしいけれど」

 本当に何を言っているのかさっぱりわからない。

 がたごとと椅子を左右に傾けながら歩くようにして移動し始める。

「……そうやって歩いてたの?」

「美鈴が縛ったから解けないのよ。結び目が硬いの」

 ああそれはわかる。美鈴は力持ちだから。

「それじゃダンスの練習頑張ってね」

 何も言えぬままがたごとと去っていくパチュリーを見送る。

 あんな騒がしい移動方法なのにどうやって無音で私の傍に現れたのだろう。

 というかどこに向かっていたのだろうか。もしかしてロープを切るための刃物を探しに厨房へ?

「――――あ」

 ロープ、魔法で切ればよかったんじゃないかしら。





 再び休憩が入り、私はドアに凭れて息を整えていた。

 咲夜の姿は既にない。あれだけハードな練習をしながら通常業務も怠らないなんて、本当に人間なのかしら。

 そろそろ日付が変わる。あと一日。24時間後にはパーティだ。

 間に合うのかしら……

 こつん、とドアが叩かれた。

「居るかい?」

「勇儀?」

 聞き間違えようのない声。ドアの向こうからくぐもった声で話しかけているのは勇儀だ。

「どうしたのよ。会うの禁止でしょう?」

「いやまぁ、気になってしょうがなくてさ。それに、扉越しだ。会っちゃいない」

「詭弁ね。それにしても、よく来れたわね」

「実際苦労したよ。門番の役職は伊達じゃないね。美鈴の目を掻い潜るのは大変だ」

 たはは、と苦笑しているのがドア越しに背中に伝わる。

 どうやら彼女もドアに背を預けて座り込んでいるようだ。

 ドアを挟んで――背中合わせ。

「で、どうだい?」

「……別段支障も無く。恙無く練習してるわ」

 本番で上手く踊れるかと問われれば、自信が無いとしか答えられないのだけれど。

 返事は無い。強がりでも万事上手くいっていると答えた方がよかったのか――いや。

「――少し、寂しいけれど」

 彼女が望んでいるだろう、掛け値なしの本音を告げる。

 勇儀は、寂しがりやだってこと忘れかけてたわ。

 恋人になってからずっと私の家に上がり込んでいた。

 こいつは、離れるのが嫌なんだって知っていたのに。

「……そうかい」

「あなたはどう? 踊れるようになった?」

 敢えてそこには触れず話を促す。

 やはりまだ、気恥ずかしい。

「んー。まぁなんとかな。本番じゃおまえを床に叩きつけずに済みそうだよ」

「…………美鈴、生きてるんでしょうね」

 あちらの練習も相当にハードだ。美鈴のことだからお返しに投げ飛ばすくらいはしてそうだし。

「あれくらいで死ぬようなら私は負けやしなかったよ。寝たままダンス続けようとして巴投げ食らったし」

 ああやっぱり。どこで練習してるのか知らないけれど床くらい抜けてそうだわ。

「と、そろそろ戻らんとな。美鈴のお説教は怖いんだ」

「あ」

 正直、名残惜しい。

 まだ一日しか経ってないけど――付き合い始めてからずっと、毎日顔を合わせていたから、余計に。

 もっと話をしたい。もっと勇儀の声を聞きたい。――勇儀の顔を見たい。

「パルスィの声聞けて元気が出たよ。あと少し、お互い頑張ろう」

「ん……」

 さっぱりとした彼女の声とは真逆に、私の出す声は暗く沈む。

 あと一日。明日には会えるとわかっていても……寂しい。

 寂しがりやは、私も同じか。

「また明日」

 己に発破をかけるように強い声を出す。

「ああ、また明日」

 応える彼女の声も、力強かった。

 遠ざかる足音。

 そう、明日。あと一日で勇儀に会える。

 頑張ろう。

 頑張って――ダンスの練習を続けよう。













 そして年が開け、パーティが開かれた。

 どれだけの招待状を出したのか、紅魔館の使用人だけじゃない顔も見える。

 テーブルが無数に置かれ、その上には豪華な食事が所狭しと広げられていた。

 立食パーティという形式らしい。私の知る宴とは違い、座らずに立ったまま食事をし歓談するものだとか。

 ダンスパーティじゃないのか、と咲夜に問えばダンスはダンスで別に催すとかなんとか。

 いまいち西洋のパーティというのはよくわからないわ。

「お? もしかしてパルスィかい?」

 声を掛けられ振り返る。

「諏訪子?」

 まさかここで顔を見れるとは思っていなかった。

「お正月なのに、神社に居なくていいの? 神様でしょ?」

「はっはー。そういうのは神奈子と早苗に任せてあるんだよ。私は祭神じゃないしー。

それにしても見違えたねぇ。ドレス似合うじゃないか」

「あ、ありがとう」

 こそばゆい。今私は咲夜が仕立ててくれたドレスに身を包んでいる。

 淡いピンクの生地に要所要所にフリルがあしらわれたパーティドレス。

 髪まで結われてしまって落ちつかない。

「私も着飾って来るんだったかなー。小鬼の招待だってんで手抜きし過ぎたかね」

「ふ、不様ね祟り神」

 不遜な声、主催者のお出ましだ。

 見ればいつものように咲夜を従えたレミリアが豪奢なドレスを翻しながらこちらに来ていた。

「これはこれは。お招きどうもクソガキ殿」

「存分に飲み食いなさってね? 神社との財力の差に打ちひしがれるといいわ」

 おおう、最初からケンカ腰。

 二人とも場を弁えているのか手を出しこそしないが殺気の応酬が火花を散らしている。

 巻き込まれるのも怖いのでそっとレミリアの背後に控えている咲夜に声をかける。

「あ、あの……ドレス、ありがとう。さっきはお礼言いそびれたから」

「構わないわよ。趣味のようなものだし。似合っててよかったわ」

「いやに仲がいいわね?」

 こちらに向き直ったレミリアが訝しげに眉根を寄せる。

「パルスィとは友達になりましたから」

「あら、手が早いのね」

 にっこりと微笑む咲夜ににやりと不敵な笑みを返す吸血鬼。

 またそういう言い回しを……あ、そうだ。レミリアに訊ねないと。

 フランドールのこと、気になってしょうがないのだけれど――

「おおぅ……っ」

 え、なにこの感極まった声。

 よく知った声だけに振り返りたくないんだけれど。

「今の今までなんで当日まで会えないのか理解し難かったが、理解出来たぞレミリア……!

飢えさせられた分さらに着飾ったパルスィが可愛く見えるぞっ!!」

 勇儀――そういうことでかい声で言うなつってんでしょうが……!

「ふ、悪魔の策略は大成功ね」

「流石だな夜の王。見直したよ」

「どんどん見直しなさい四天王。褒め殺されるのもやぶさかではないわ」

 ああもう、どうしたものかこいつら。

 諦めて振り返る。勇儀は美鈴と一緒に来たようだが――勇儀の着ているドレスは私の物と違った。

 美鈴が普段着ている服をよりぴっちりさせ露出度を上げたような……これもドレスなの?

「似合うなぁ可愛いなぁ、そうかパルスィには着物よりこういう服の方が似合うのか……」

「いやあの勇儀、褒めてくれるのは嬉しいけど、ちょっとその」

 落ちつけ。落ちついてください本当に。

「ところで美鈴、この服の切り込みだが」

「ええ、そういう用途も無きにしも非ずです」

「話がわかるな」

「いえいえ」

 なにを固い握手交わしてる。

 不穏な空気しか感じられないわ。

「おっと、曲が替わるわね。そろそろダンスの時間よ」

 レミリアの一言にメイドたちが客を誘導し始める。

「ほらあなたたちも踊りに行きなさい。この為の練習でしょ」

「わ」

 背を押されつんのめる。慣れないハイヒールだからちょっとこれは転ぶんじゃ――

 とん、と抱き上げられる。

 お姫様だっこのかたち。

 って、え?

「それじゃ踊りに行こうかパルスィ」

「ちょ、ちょっと下ろしてよ歩けるわよ……っ」

「いいじゃないか、皆パーティに夢中で見ちゃいないよ」

 そのままダンスを踊るための開けたホールに連れて行かれてしまう。

 見回せば、既に何組かが踊っているようだ。

 ……あんなに上手く踊れるかしら、私。

「不安かい?」

「正直ね」

 そっと下ろされる。

「私がエスコートするよ。さ、お姫様。お手を拝借」

 仰々しく手が差し出された。

「……キザね」

「こんな時くらいはね」

 笑いかけられる。

 ――曲が終わった。ここからまた始まるのだと教わった。

 勇儀の手を取る。

「エスコートよろしくね、勇儀」

「承知」

 同時にアップテンポな曲が始まる。

 始めはゆっくりと、だんだん曲に合わせて大きく動く踊りに変わっていく。

 咲夜の練習に無駄はなかったようで私にもある程度踊れた。

 少しずつ、周りを見る余裕も出てくる。

 見知った顔は居ない。いや、こちらを眺めているレミリアの隣に――

 よかった。フランドールも来ているわね。

 やっぱりレミリアは妹の願いを聞き入れた。

 紆余曲折はあったかもしれないが、楽しそうなあの顔を見るに上手くいったのだろう。

 余計なことを言ったのかもしれないと落ちつかなかったから安心できたわ。

「パルスィ」

 ふいに勇儀の声が耳に届く。

「あんまりよそ見はしないでおくれよ」

 見れば、ほんの少し曇った彼女の顔。

「私にはおまえしか見えてないんだから」

 ふぅと、溜息を吐いてしまう。

「まったく……本当に嫉妬深くなったわね、あなた」

 要らぬ心配よ勇儀。

 無用な嫉妬よ勇儀。

 だって――



「私だって、あなたしか見えていないわ」



 くるくると踊りながら、そう告げた。
四十度目まして猫井です

前回から約五カ月。大変お待たせしてしまって申し訳ありませんでした

前回が夏で今回が冬って秋はどこに行ったのか……

次回はもう少し早く書けるよう頑張ります

ここまでお読みくださりありがとうございました



それでは皆様、よいお年を
猫井はかま
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2350簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
いいなぁ。生きてるよ。
幻想郷のみんながここで生きてるって感じがするよ。

ダンスが踊れるって幸せなことだよね。
12.100名前が無い程度の能力削除
ふぃ~、ボリューム満点で満腹満足ですわあ
やはり勇パルは良いものだ
16.100名前が無い程度の能力削除
ニヤニヤが止まらねぇ!!!!
18.100名前が無い程度の能力削除
いやはや、何処までも素晴らしい
21.100名前が無い程度の能力削除
勇パルいいよ勇パル!
しかし咲夜さんは自重www
26.100名前が無い程度の能力削除
ごちそうさまでした
28.100ずわいがに削除
ロマン・ラブ・青春・シリアス・ギャグ……詰まってますね。
勇パルシリーズ本編再開でテンション上がっちゃいましたよ。
長さを感じさせない細かな文の面白さ、ストーリーの深さ、設定がもうホント最高です。
30.100削除
勇パルは良いものだ!
ニヤニヤが止まらない。