Coolier - 新生・東方創想話

クリスマス記念日

2009/12/22 14:51:03
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私は自分がこの館に来た日を忘れない。
荒んだ日々を握り潰して、新しい世界が始まった日の事を。

ただ、思うのは。
もう少し日をずらせば良かったと。

待ちたくない記念日の近付く日々はどうにも充実しない。一日一日は長ったらしく感じるが、振り返ってみるとすかすか。中身の詰まった永く感じる日々には程遠い。

神を信じる事の叶わぬ生活だったとはいえ、よりにもよって、という日。
この館を訪れる日を、もう少し日をずらせば良かったと、私は思う。



「ちょっと美鈴。貴女何やってるの?」
普段なら門前で元気にはしゃいでいるはずの門番隊の妖精達が、今日は一カ所に集まって何やら美鈴と遊んでいる。どちらにせよ問題のある現実だが、まあそれは慣れた。
そんな光景に紅魔館のメイド長たる自分、十六夜咲夜は一本のナイフと質問を投げかけたのだ。当然だと思う。

「あ、咲夜さんだ」
「ええ、私だわ」

今更のような美鈴の発言に若干棘を混ぜた雰囲気を返すと、あぅぅ、と美鈴は小さくなる。
勿論私には分かる。ここで少しでも引いたら負けだ。
この美鈴という奴はただの門番を自称しておきながら扱いにくい事この上ない。もしも私が謝ろうものならさらりと条件なりなんなりを提示するのだ。それも、逆らえない空気の中で。
本当に、扱いにくい事この上ない奴である。

「で、自分だけじゃ飽きたらず妖精達までサボらせるってのはどういう了見かしらね?」

私は相変わらずの口調のつもりだったが、少し頬が緩んでいたかもしれない。

そんな扱いにくい美鈴だが、私は彼女が嫌いではない。
美鈴のこういった企みは紅魔館全体で楽しめるものが多い。息抜きにもなるし、新しい事への期待も重なって、それが美鈴にも伝わってしまったのだろう。
それはもう馬鹿みたいに楽しそうに言ったのだ。

とんでもない、



爆弾発言を。




「クリスマスパーティを企画していたん」
皆までは言わせぬ。下らない冗談に付き合っているほどメイド長は暇じゃない。美鈴の真横には五本のナイフが壁に直立。流石に若干の涙目をこっちに向けてきた。
「さ……くやさん?」
それも、何で投げられたのか分からないというように。
「貴女ね……此処が何処だか分かっているのかしら?」
「紅魔館門前です」
「紅魔館よ。そう、悪魔の館。何処の悪魔が神様の誕生日をお祝いするのかしら?」
「パイオニアという言葉をご存じですか?」
「阿呆な事言わないで頂戴。流石に意識が足りてないわ。この事は後でお嬢様にも報告するから」
「あ……う……」
美鈴は俯いたまま、言葉にもならない音ばかり出す。
それしか出さない。
思わず一歩下がりたくなるが、しかしそういう訳にはいかない。
「じゃあ、行くから。しっかり仕事しなさいよ」
何て顔をするのよ。まるで私が悪者みたいじゃない。
「……はい」
返事は確かに聞こえた筈。




だから、あれから30分経ったにもかかわらず門の前の飾り付けがなくなっていないのは私の目の錯覚なのだろう。
「どころか、派手になってるようにも見えるんだけど」
「そりゃまあ、咲夜さん片付けろって言わなかったですから」
「片付けろ」
「侵入者をですか」
「来たらね」
「来ましたよ。クリスマスには紅白が来るって相場が決まってます」
「神社から?」


湖の風を切って疾風の如く、博麗霊夢が紅魔館に迫る。

「あら、二人の逢瀬を邪魔しちゃったかしら」
「そう思うなら帰って下さいよー」
「否定しろ」

霊夢が袖から札を出す。面倒臭そうに。

「前から思ってたんですけど、」
霊夢が顔を声の主、美鈴に向ける。
「霊夢さんの袖が広いのは袖の下を沢山貰う為ですか?」
「渡す奴が居ればいいんだけどね……搾取しようかしら?」

札が弾けて、土煙が舞った。
当然の事と私は空に上がる。霊夢が何故紅魔館に押し入りたいのかは分からないが、押し切ろうとするのを通してやる道理はない。
「って美鈴!?」
「のわっ咲夜さんっ!?」
私の体が派手に転倒したのを感じて、それが美鈴とぶつかったからであると分かって、
「はいはい、お幸せにねー」
霊夢の若干ズレた言葉に一瞬で戦いが終わったと知った。

「ちょっとどういうつもりなの!?」
門をこの上なくあっさりと突破されて。
「ありゃあ、煙が濃かったもので」
「貴女は気を読んで動けるんでしょうが!」
「それは竜宮の使いさんのお仕事ですってば」
「少しは反省したらどうなの!?」
「してますよぅ。毎回怒られるのは私なんですから」


頭痛が痛い。間違えた、頭が痛い。
私の頭は目の前のおとぼけ妖怪をぶん殴れと命令を出しているのだろう。理性の僅かな欠片が水際で押さえている感じ。

「とりあえずね、美鈴」
私は瀟洒なメイド長。理性を失うなんてもってのほか。
「殺人ドール」
だから私は理性でもって思い切り攻撃してやった。

「全く……」
美鈴が裁縫箱の針刺しよりも全身に針もといナイフを受け入れたのを見届けて、私は門を後にした。

直後に聞こえた轟音と「マスタースパーク」との声は聞こえなかったことにした。



誰も居なくなった門に一人残った美鈴は、誰も居ないのにも拘わらず呟いた。
「やれやれ……仕事とはいえ大変な一日だねこりゃ」

誰も居ないから、誰にも聞かれることはなかった。




「お嬢様!」
「あ、霊夢がクッキー欲しいって」

出鼻をくじくとはこういう事を言うのですね。流石はお嬢様、私には出来ない事を平然とやってのけます。そこに痺れも憧れもしませんが。

「はいどうぞ」
大皿に山盛りのクッキーを出す。私の怒りを込めて。
「どーも……辛っ!?」
クッキーが口に入った瞬間、霊夢は叫び声を上げる。
「お気に召さなかったでしょうか?最近外から入ったらしいハバネロとかいう物から作ったのですが」
「ハバネロなんて……知らないけど……凄く辛いものだと思うわ……!」
「生憎と紅茶しかありませんわ。熱い熱い淹れたての美味しい紅茶ですから、どうぞ火傷しないように」
「ふほうふーひん!」
「不法富貧?」

そんな光景にレミリアは手も出せず口も挟めず。不毛すぎる争いが終わるのにはかなりの時間を要した。


「では、私はもう一人のコソ泥をシめなくてはなりませんので」
「二度と来るな。あー舌が痛い」

全く、あの紅白は紅魔館を避暑地か何かと勘違いしてるんじゃなかろうか。冬だけど。
聞こえないように悪態を呟いて、足は自然と図書館に向かう。
いや、正確には向かいかけた。

「って、あ、あー……」
煙が視界になだれ込む。何を意味するかは分かりきっていて、だから私はお嬢様に目を向ける。
お嬢様は首を横に軽く振って。つまりは、「図書館はほっとけ」。
「パチュリー様には申し訳ありませんが」
争っているならそっちに任せます。
私は少し休みたい。




「休ませる気はないの?」
どうしてこの館にはトラブルが付きまとうのだろうか。
「いやいやいや、結局咲夜さん片付けろって言わなかったじゃないですか!」
より派手に、より絢爛に、眩く光すら放つその本当にパーティを開きかねない飾り付けに、最早出せる言葉は限られていた。

「片付けろ!」
「片付けちゃいます?」
美鈴はあろう事か後ろに控えていた妖精達にそれを聞いた。
「折角飾ったからやだー」
「いっそパーティしようよー」
「お腹減ったー」

「だそうなので多数決で咲夜さんの負けー!」
きゃるんっとか効果音の付きそうなポーズを取りながら私を指す美鈴。
「……」
「……恥ずかしいんですからリアクションを下さいよぅ……」
「だったらやるなっ!そしてさっさと片付けろ!」
「嫌ですよー。多数決です多数決。今日くらいこのままにしましょうよ」
「普通の館でやれ!悪魔のお膝元でやるな!」


この口論の最中、侵入を画策する妖怪集団がものすごい剣幕で怒鳴る咲夜に怖じ気づいて逃げ帰ったのだがそれは関係ない。


「もうパーティにしちゃいましょうよ」
「ぶん殴るわよ」
ふざけてるとしか思えない美鈴に手を振り上げて見せる。
「ちょっと咲夜さん……私達は平和的解決に向けて協力するべきですよ!」
「貴女を力ずくで黙らせるのが平和的解決になると思ったのだけど」
「平和じゃないー」
ついに(私的にはずっと待っていた)美鈴は音を上げた。
「分かりましたよぅ。……片付けます」

美鈴の事だから必ず何かやらかすつもりだろうと思い、見張っていることにした。
意外にも淡々と、不満そうにではあったが次々と片付いていくデコレーション。
流石にそこまでふざける気は無かったらしく、先程までと見比べれば寂しいくらいの殺風景が蘇る。

それを何故か少し悲しく思っている私がいて、頭をぶんぶんと振ってそんな思いを振り切った。

「これで良いんですか?」
「え、ええ。やれば早いじゃない」

僅か30分。準備には何倍かけていたのだろう。
「まあみんな手伝ってくれましたから」
「じゃあ後は散らかっている飾りの残りを片付けておきなさいね」
「はーい……」




そんな門前を見ている影が4つ。紅魔館のテラスから。

「レミィも鬼ね」
「まさかとは思うけどあれだけやらせて美鈴にご褒美無しとか無いよな?」
「魔理沙、貴女パチェが鬼って言ったの聞いてないの?まあ私は鬼で悪魔だけど」
「性格悪ぅ……」
侵入者もとい客の二人と、レミリアとパチュリー。扉が開いて、フランドールまで現れた。

「何だ、居たんだ」
「何だとは何よ」
「別にー?あ、あれ美鈴の伝言?」
「うんにゃ、違うなフラン」
窓の外を指差して言うフランドールに魔理沙は笑いを向けて。
「ダイイングメッセージね」
「私に言わせろよ!」
霊夢に決め台詞を取られた。

彼女らが窓から見ているのは美鈴ではなく、咲夜でもなく。
美鈴が散らかした飾りの残骸であった。

「パチェ」
「はいはい。レミィ、貴女はもう少し自分で仕事をすべきだと思うけど」
「駄目だよ。お姉様に任せたら失敗する」
「それもそうね」
「否定しろ」

残骸は文字の形を成していた。「OK」と。

「さて、と。『内装』も終わったみたいだし、火力担当の私が派手な花火を用意してやったぜ」




太陽が沈んでいく。間もなく夜の闇が館を包むだろう。
咲夜はそんな事をぼんやりと考えながら立て掛けられたカレンダーを見ていた。

クリスマス。外の世界の宗教の風習であり、幻想郷では酒を飲む口実になる。
しかし紅魔館では決して祝うような日ではない。悪魔の館に神の生誕記念日など祝ってやる道理もない。
だから今までも自分が来た日だと言って祝おうとしてくれた美鈴にも徹底的に反発してきた。自分の為に無理矢理嫌な日に館を動かしたくなんてなかったから。



「お前、どうやって入ってきたの?」
10年前の今日、レミリアが最初に自分にかけた言葉だ。
「うちの門番は弱くないつもりなんだけど」
「殺したわ。弱かった」
確か私はそう返した筈だ。今考えると滑稽である。妖怪を心臓一突きで殺したつもりでいたのだから。
「ああ、お前が運命の人間か。美鈴め、やる気も無かったな」
「恐れられている貴女を殺せば……私も居場所を貰えるかしら」
時間を狂わす能力は忌避されて、幼い私はただただ居場所が欲しかった。
「居場所ねぇ、あるじゃないか。目の前に」
「目の前の貴女を殺せって事?」
だから紅魔館を訪れた。巷で名を馳せていた吸血鬼を殺せば、人々に居場所をもらえると信じて。

時間を止めて、山のようにナイフを投げつけた。
「時間を止めたのか!こりゃあ凄い」
次の瞬間にはその全ての刃が折られて落ちて、私はあの時相手にも同じ能力があるんじゃないかとすら考えていた。

「うん、目の前ってのは何も殺せって訳じゃない」
そう言ってあの時幼い館の主は私にその小さな手を向けた。
「ようこそ、紅魔館へ」
「貴女についていったら……私はきっとみんなに殺されるわ」
裏切り者と罵られながら灼かれるのだろう。
「それとも、死が私の安息だっていうの?」
「へぇ?誰が誰に殺されるって?吸血鬼の館って分かっててきたんだろう?」
不快そうに言うが、私にはその意味は分からなかった。ただただ首を傾げただけ。
「悪魔は契約を破るなんてこたぁしないよ。あんたを迎えると言ったらそれには護ってやるってのも含んでるつもりだったんだけどね」
「吸血鬼には沢山弱点があるって聞いたわ」
「銀ナイフしか用意してなかった奴が言うかい」
呆れ顔を隠そうともせず首を振りながら、主としてどうなのかと思うくらい粗暴にその場に座り込んで笑った。
「ま、確かに弱点は多いけどね。簡単には死なないし……何より私の門番には弱点がないからね」
「殺したって言ったはずだけど」
「弱くないって言っただろう?」
にやり、なんて擬音を発してもおかしくない、そんな笑みを浮かべて幼い吸血鬼は笑った。


言いたい事はまだきっと山ほどあった。だけど目の前の誘いは何よりも欲しかった居場所を与えてくれる。そう思った時、私がそれ以上悩む道理は無いと思った。

差し伸べられた手を取る事は何よりも簡単で、逃げるかのような答。
頭で警鐘が響いていたのかもしれない。「これは悪魔の囁きだ」と。まあ全く正しかった訳だけど。
私はその警鐘を無視して、右手を目の前の小さな自信に溢れた手に重ねた。ここでこの手を取らないのなら、自分の運命は永遠に変わらないと、そう思った。



「それでも美鈴が生きてるのを見た時は正直びっくりしたわね……」
いつの間に回想なんてしてたのかしら、とテーブルの上に山にしていた銀ナイフを一本だけ取って指先でくるくると回す。切っ先は何度か円を描いた後に指の間に綺麗に収まった。
「はぁ……そろそろお帰り願えないかしら……」
さっきから爆音が館中に響いている。回想を始めた頃からだろう。
ドン、時にはドドドドン、と騒がしいことこの上ない。
「お嬢様は気にもしてないみたいだし……私が出るしかないって事ね」
テーブルに銀ナイフはいつの間にか一本も残っていない。少し虚しげにドアが開いて、閉じた。


咲夜が部屋を出たその瞬間も、魔理沙は館中に持ち前の大火力をぶちまけていた。
「お!綺麗綺麗」
「この部屋中に防護魔法を張ってる私の身にもなって欲しいわね」
「やだよ」

パチュリーが居なかったら今頃紅魔館は湖の藻屑である。魔理沙の大火力はそれだけの威力は持っている。
「しっかし……私の火力が防がれてるのは良い気分じゃないな、精神的に」
「喘息を堪えて馬鹿の相手をしなきゃなんないのは良い気分じゃないわ、物理的に。ああもう、またひびが入った。修復しなきゃいけないじゃない」

そこに居た中で一番大人しかったのはフランドールという奇妙な構図の中で、もう少し大人しそうな人間が入ってきた。博麗霊夢である。
「まぁーた……派手ね。ってか私は帰っても良いじゃない。参加するだけなん

「おおっと霊夢危なーい!」

……でしょ?」
魔理沙から「事故だぜ」で放たれたレーザーをひらりとかわし、如何にも面倒そうな顔で。
「まあまあ、霊夢は居てくれると私が嬉しい。それにクリスマスって言えば紅白じゃない」
「悪魔に喜ばれる巫女ってのもなぁ……」
「乙なものでしょ?」
「別に」

感慨すら沸かせる突き放すような答の後、霊夢の目線が泳いだ。
「ん……美鈴は?」
「ICU」
「馬鹿言ってないのフラン。美鈴は最後の仕掛け……にしてもちょっと遅いけど」
「最後の?何かさっき魔理沙が細工してたわよ?」
「え!?」
レミリアもフランドールも流石に慌てたのか走り出す。

走り出そうとして、阻まれた。
「お嬢様……しばしお待ちを」
「ははは……咲夜」
レミリアはフランドールを見る。フランドールもレミリアを見た。二人の顔は諦めを浮かべている。
「お姉様、美鈴は……」
「仕方ないわ。大きな物事には犠牲が付き物なのよ!」

そう酷い事を叫ぶやいなや、更に声を張り上げる。
「魔理沙!!」

「了解したぜ」
魔理沙の八卦炉から魔力が溢れ、魔法に関しては素人である咲夜も思わず向かうのを躊躇う。

「そらっ!」
極太のレーザーは何やら色々と積み上がっているその中へ。
「耳を塞ぐことを推奨するぜ」
爆発と共にその「色々」が宙を舞う。レーザーを魔力の着火点にして導火線を渡りながら。
何十もの「色々」はその全てに導火線があって、その全てに魔力の「火」が。

「せーのっ」
「ぎゅっとしてどっかーん!」
最後にフランドールが館の天井をもとい二階より上を粉砕して、

「どかんだぜ!グッドラック美鈴!」
爆音と、悲鳴。
「色々」は中身が魔力の結晶で、それらは弾けて花火を生み出した。
その中の一つが、美鈴。
「あに゛ゃあああああ!」
「あら綺麗」
冷静すぎる霊夢と、
「美鈴!そこでスペルカードだぜ!」
ノる魔理沙。

「彩雨!」
やる美鈴。彼女、タフである。


花火は弾け空を染め、暗い宵闇を明るく生まれ変わらせる。

不意に、

「あっ」

咲夜が声を漏らした。それは光が文字を作り出したから。

「10th anniversary!」

「お嬢様……これは、」
「見ての通りよ。……貴女が来てから今日で10年」
「で、ですが今日はクリスマスです!お嬢様ともあろうお方が祝い事をなさるような日ではありません!」
狼狽を隠しきれず叫んでしまう。あれほど駄目だと言ったのに。どうして。
「発案は美鈴だからねぇ」
「殺生な!」
悲鳴を上げる美鈴と案の定美鈴に顔を向ける咲夜。
「あれほど片付けろと言ったのに!」
「片付けたのは見てたじゃないですかー」
「見てたけど!まさか屋内まで装飾してるなんて!しかもパチュリー様に隠してもらって!」
「まあまあ咲夜、怒鳴るんじゃないよ。お前の来た日を祝いたい一心だったんだから」
「ですが今日は……」
「やれやれ、さっきから何だ咲夜。お前は私が祝い事をするのを拒否するのか?お前は私の従者だ。私が祝うと言ったら大人しく祝われれば良い!違うか!?」
「さっき発案は美鈴だと……」

その言葉で場が膠着した。

「い、言ってない!」
「レミィ、貴女は馬鹿」
「お姉様救えない」
「パチュリー様の仰る通りでございます」
「言ってたぜ」
「まあ紅茶も美味しいかな」
「霊夢さん浮いてますよ」

やんややんやと突き刺してくる言葉の槍はかなり痛い。

「さ……くや」
「は、はい」
それでもレミリアは精一杯の威厳を保とうとして失敗しつつ、右手を大きく振り上げた。
「十六夜咲夜。今日はお前が私のものになってから10年目となる日だ!それを祝うのは間違ったことか!?」

「10年間共にありましたがお嬢様は相変わらず強引ですね」
「ならもっと強引になろうか?」
「勘弁して下さい……それから、

ありがとうございます」


満足そうに笑ったレミリアの後ろで、魔理沙が「花火切れた!」と叫んでいた。



それからの惨劇は相変わらずで、美鈴達が用意していたパーティー料理のチョモランマは恐ろしいまでのスピードで減っていき(乱入者が全体の七割)、現金な乱入者達はチョモランマが丘程度になる頃から減っていき、遂にもとの人数に戻った。
「うわぁ……そんな時間経ってないですよ」
「幻想郷恐るべし、ね」
レミリアやフランドールは満腹の余韻に浸り(直訳:眠り)、パチュリーと小悪魔は魔理沙と魔術的な話をしている。
霊夢はレミリアに膝を占領され、今すぐにでも札を投げそうだったので止めないでおいた。

「美味しかったわ。ありがとうね」
「いえいえ、部下の子達がよく頑張ってくれました」
咲夜と美鈴は夜風にあたり、しばしの談笑。それはこの荒れ果てたパーティーの残骸からの逃避かもしれない。

「美鈴」
「どうしました?」
風は特に強くはないが、少し気温は低い。咲夜は首元のマフラーが暖めていたが、美鈴はいつもどおりの服装だ。
「あ……寒くない?」
「平気ですよ?体内の気を循環させて新しい熱を作り続けるんです」
「便利ね」
それだけ言うと、また咲夜は右の美鈴から前の残骸に目を移す。

「でも……どうして?」
「何度も反対してきたのに強引にこんな事をしたのか、ですか?」
「……分かってるじゃない」

ひゅう、と少し強い風が吹いて、美鈴の長い髪がその眼前にぱさりと被った。
「わ。……と、お嬢様の仰った通りです」
「私の十周年?」
「半分は」
「残り半分は?」

その質問に、美鈴はすぐには答えなかった。

「咲夜さんに、分かって欲しかったんです。多分」
歯切れは悪くテンポも悪い言葉。
「クリスマスは神様のお祝い……でも私は、そんなのどうだっていいんです」
そこまで言って、美鈴はちらりと咲夜を見る。内容が内容なだけに言い辛いのだろう。
「あ……あの日、咲夜さんが紅魔館に来たのは、その……私は紅魔館にとって、一番大きな事だったって思ってるんです」
「そんな大仰なものじゃないわよ」
「私にとっては大きい事でした。神様の誕生なんか比じゃないくらいに。だから、咲夜さんがそんな最高の日を嫌な風に思ってるのが……その、身勝手なんですが、悲しかったんです」
思い返してみれば、美鈴は毎年この時期になると祝いたいと言っていた気がする。今回になってついに隠れてでも準備しようと考えたのだろう。
「私は分かって欲しかったんです!クリスマスで悪魔の館だからなんて理由で咲夜さんが来た証まで否定されてるみたいで……私達はそんな事関係ない位咲夜さんが大切なんですって……分かって……欲しくて……」
言葉は尻すぼみ、目には涙、挙句体はがくがくと震えさせて、美鈴はそう言葉を絞り出した。
そんな美鈴だったから、咲夜も何も言えなかった。一笑に伏す事だって出来たはずなのに、そんな事は出来なかった。

「ありがとう、ね」
そう言って咲夜は立ち上がって、美鈴の後ろから前にそっと腕を回した。
優しく抱き締めているその体勢は少し恥ずかしくて、顔が見えないことにほっとして。

「あ、あの、あはは……凄く散らかっちゃってますねー」
慌てて美鈴は話を動かす。
「あの、」
「美鈴」

片付けは私達がやりますからね。
美鈴はそう言おうとして、咲夜に遮られた。

「ごめんなさい」
「はい?」

その謝罪の言葉に目を丸くする。
「何がです?」
「貴女って本当に天然よね」
「え?何でですか?」
「あの、さ。……もう。言い出し辛くなったじゃない。その、パーティーするなって怒ったり、片付けさせたり……」

そう。
当たり前のように強いた事だったが、彼女達の好意に対してとても酷い対応だっただろう。
こんなに優しいパーティーを準備してくれていたのに。

「ああ、でもあれは全部計画通りでしたから。咲夜さんなら反対するなぁって」
「どうりで目立つ準備だったわけだわ」
「でも悲しかったです」
「う」
唸ってから気付く。まずった。確信したけどもう遅い。美鈴に主導権を握らせるとろくな事がない。

「でも許しちゃいます。条件付きで」
「やられたわ……何かしら?」
こうなったら受け入れるしかない。






「来年もやりましょうね」
「期待して良いのよね?」

今年はまったく、永い一年になりそうね。
ちょっと気の早いクリスマスSS。
紅魔館ってクリスマスの雰囲気が良く似合う(と思ってる)のですがぶっちゃけ悪魔なんだよね。まぁ本人達は気にもしないんだろうけど。
なーんて事を考えながら書いてました。

私のクリスマスはそれはそれで大忙し。
何よりも彼女と一緒に聖夜を歩くなんて大変な用事が。



って今日クラスの人が話してました。え?私?一人さみしく受験勉強とお絵描きですが何か。
楼閣
http://gensouroukaku.web.fc2.com/
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コメント



0.810簡易評価
3.90ずわいがに削除
ディケイドなら仕方ない。
クリスマスとか関係なく自分たちの記念日を祝うべき。
6.90名前が無い程度の能力削除
いやーめーりんがいい子だ……

……まて、クリスマスは幻想入りしたのか?
それはつまりc(ry
12.60名前が無い程度の能力削除
相変わらず、わかりにくい。
書きたいものの主点ははっきりしていて面白いだけに残念。
これを読んだ時に、しっかりと「誰がどこに立っていて何をしているか」がみえにくいんだよな。
次回に期待。
16.90名前が無い程度の能力削除
これはいいクリスマスSS
17.無評価名前が無い程度の能力削除
繰り返し出てきてる部分に一言
神では無く、神の子の誕生日だと一応言ってみる
分かっていて書いてたらごめんなさい
22.70名前が無い程度の能力削除
2度読んでようやく誰がどの台詞を喋っているのかが解った。
ネタは悪くないので会話文をもう少し推敲したら良いかなぁと、この点数。
23.無評価楼閣削除
勉強に飽きた楼閣さんですよ。今回もみなさんありがとうございます!

ずわいがに 様>
一瞬ディケイドの意味が分からなかった。大丈夫か受験生。
大事な日が何か世間の名目付きの日だと祝いにくい気がする今日この頃。私自身はそんなことないのですがね。やっぱり大事な日ってのはあるものですよ、誰しも。そういう日を素直に祝いたいと思います。でもクリスマスは要らn(ry

6>
うちのめーりんは良い子なんです。昼寝はするけど。ぐーすか。
クリスマス?うーん、何だっけそれ?思い出せないから幻想になったんです。はい。

12>
相変わらず……というとまさかっ!前の作品も読んで頂いたですと!?やばい鼻血出そう。
なのに分かりにくくて本当に申し訳ない。
もっと気を付けて書かなきゃですね。文章って難しい。でもそこが面白い所でもあると思うので、精進します。

16>
多分クリスマスで純粋に聖夜を祝うお話は他の素晴らしい方々が描いて下さると思ったので、私は少しカーブで。その曲がったあたりが性格を現わしているとかいないとか。

17>
やっぱりこういうのは書いた方が良いのかなぁと反省しました。あとがきでお話の中身の解説はあまりしたくないのが本音なので控えるのですが……これはいかんですよね。

紅魔館が舞台で、そもそもクリスマスっていうものをまともに捉えていないんじゃないかな、と最初に思ったんです。そしたら『神の子の生まれた日』よりは『神の生まれた日』と捉えさせた方が悪魔っぽいかな、と思った次第でした。
分かりにくくてすみませんでした。

22>
二度も読ませてしまって……本当に申し訳ないです。
番号12の方と同じ内容の指摘なのでやっぱり、と再認識。
もっと推敲した方が良いなと反省。

ご指摘、感想、評価などなど、ありがとうございました!