Coolier - 新生・東方創想話

さとりの愛した覚り

2009/12/11 20:52:23
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 さとり様、さとり様。あのね、綺麗な花が咲いていました。
 すごく綺麗でした。赤とか黄色とかピンクとか。
 それから空! 蒼くて高くて、風が吹いてて気持ちよかった!

 そう言って、空が広げた心象風景は、彼女の言葉通りに素晴らしいものだった。

 じゃれつく空をなだめながら、さとりは彼女の心象風景に心を傾ける。
 綺麗ねぇ、と感嘆すると、空は日なたの猫のように目を細めて笑った。

(もっと見て。さとり様)

 嬉しくて嬉しくて仕方がないんだと、身体も精神も喜色満面で訴えかける。

(さとり様。大好き)

 だって全部わかってくれるから。
 言葉にするのは下手だから、そのままの気持ちでわかってもらえて嬉しい。
 さとり様がさとり様でよかった。

(ええ、そうね空)

 本音を言うと。
 さとり自身もそう思っていたのだ。
 私が私でよかったと。

 けれど手放しでその台詞に頷くには、世界はあまりにも冷酷だった。






 覚りという種族にとって心を読む行為は、魚が水を泳ぐ行為に等しかった。
 誰に教わるでもなく、生まれたときから備わっていたもの。

 魚が水を泳ぐように、人が息をするように、覚りは心を読んだ。
 何故心を読むのかと問われても、理屈など解らない。
 覚りは覚りなのだから。
 きっとそれが答えだった。

 歩き方を意識して学習した者など居ないし、
 息の仕方を教わった者など居ないだろう。

 だから「息をするな」と言われて、許容できるものが幾人いるだろうか。

 けれどもさとりが「息をする」と、傷つく者が居るのだという。

 「息をするな」と言われても「息をすること」を止めないさとりを、周囲は糾弾し、
 そうして彼女は嫌われていった。






「……さとり様?」

 抱きついている空が不思議そうにさとりの顔を覗き込む。
 主人の様子を敏感に察したのだろう。
 空の心象は、疑問と不安で満たされていた。

 安心させるように、さとりは笑いかけ、ゆっくりと彼女の黒髪を梳く。

 この地獄鴉は本当に素直だ。
 脳内で、たった一言がぐるぐると駆け巡っている。

 どうしたの? どうしたの? どうしたの?

 しばらくすれば、その一言が凝縮して、彼女の中で爆発をするのだろう。
 悲しみに暮れるかもしれない。
 取り乱すかもしれない。
 もしかしたら、太陽の化身に相応しく、怒りだすかもしれない。見えないさとりの敵に向かって。

 そうならないように、さとりは空を撫でながら、

「空」
「うにゅ?」
「なんでもないの」
「なんでも?」
「ええ。なんでもないのよ」

 空の心象が、落ち着いてゆく。
 そうよ、空。なんでもないの。

 仕様のないことなのだから。

 諦観は、さとりの精神に巣つくう、最も古い友の一人だった。






 仕様のないことなのだ。

 抜き身の刃を携えた見知らぬ者を、招き入れる愚か者など居はしない。
 ありのままの自分を受け入れて欲しいという望みは、きっと覚りには縁遠いものなのだ。

 覚りではないものに覚りを理解できないように、 覚りにも覚りではないものの気持ちを、本当の意味では理解できないのだろう。
 たとえ心を覗いたとしても。

 水を泳げない者に、水泳の楽しさはわからない。
 水泳を楽しんでいる誰かの心を覗いたとしても、そこで解るのは、その者の感じ取った「結果」でしかない。
 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。
 何もかもが誰かのフィルターを通したものだ。
 さとりが直に感じたものではない。

 それはとても素晴らしいものではあるのだが、さとり自身の五感で得られたものではない心象たちは
 どこか映画を見ているような感覚を与えてくれた。

 彼女であれば笑わない場面で、笑う誰かの心。
 彼女であれば悲しまない場面で、悲しむ誰かの心。
 彼女であれば驚かない場面で、驚く誰かの心。

 ……それらを眺めるのが好きだった。
 すべてを解ることは出来ないけれど、大半の気持ちは汲み取ることが出来る。
 先ほどの空にしてあげたように。

 嫌われたくはないけれど、手中の能力を手放すことも出来なかった。
 何故なら、気持ちを汲み取れる自分自身を、本当は――






 空が腕に力を込める。
 少し痛いぐらいの強さだった。
 心配げな心象が浮かんでいる。苦しくて張り裂けそうな空の心。

 ああ、まったく。

 湧き上がる感情が、身体を震わせた。


 心からの感謝を込めて、さとりは空を抱きしめ返した。






 覚りの力。

 彼女の能力。
 水を泳ぐこと。息をすること。
 心を共有する喜びをもたらす、彼女の大切な……宝物。

 私が私でよかったと、心から思えればいいのに。
さとりは自分の能力、実は好きなんじゃないかなぁと思ったりします。
世間が肯定させてくれないけれど。
サバトラ
http://sabatiger.blog119.fc2.com/
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コメント



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2.90名前が無い程度の能力削除
そうですね。
俺もさとりは自分の能力を誇りに思ってるんじゃないかと。

ていうか原作のさとりって結構性格いやらしいですよねw
18.80名前が無い程度の能力削除
自分をたいせつに思ってくれる心を見逃すことはないのだから、素晴らしい能力なのだと。私は信じます。
空の純粋な優しさが胸に沁みました。
22.80名前が無い程度の能力削除
能力嫌いって話が多い中で良い新鮮さ
44.100名前が無い程度の能力削除
人間が持つマイナス要素をほぼ無くした存在と考えるなら、非常に崇高で素晴らしい能力なんだなぁ、と思いました。面白かったです。