※一部に少々百合っぽいのや如何わしいの含みます。タグにするほどのものではないはず。糖分間違いなく0です。
虫しか鳴かない静かな夜。おおよそ誰もが寝静まる静かな夜。里の明かりも消え、弾幕の明かりも大体は消え、往来の喧騒も、妖精のいたずらも、某清く正しい烏天狗の行ったり来たりも止む静かな夜。
そう、夜とはすべからく静かなものだ。自然の摂理的な意味で、静かであるべきだ。彼女にとっては、安眠のためにも静かであるべきものなのだ。割と切実に。
「んっ……あぁん……藍様……藍様ぁ……」
「橙……可愛いよ橙……可愛いよ橙……」
――だと言うに何してるんだろう、うちのバカ式とその式の二人は……
隣の部屋(=藍の寝室)から聞こえてくる、ピンクタイフーンでラブラブボンバーな声に辟易することほぼ毎日、幻想郷の賢者こと八雲紫はまた今日もベットから起きあがる。
「……shit……」([間]((嫌悪,失望,軽蔑))くそっ,ちくしょう!)
憎むべきは防音設備のなっていない我が家か、自重できない式達か……
……それとも教育の仕方を間違えた自分か……
偉い王妃様は言いました。
『自宅で寝られないなら、ダチの家に転がり込めばいいじゃない』(違
私は自分の顔の広さを誇ってもいい。そんな事を考えながら向かった先が博麗神社である。今夜は巫女さんとの添い寝と洒落込もうか。
――くすくす……もう寝てるわね霊夢♪
明かりの見事な消えっぷりに、年端もなくときめきを禁じ得ない。
萃香あたりに付き合わされて起きている事も想定して(=萃香を抹殺する用意をして)来たのだが、杞憂だったか。
抜き足 差し足 忍び足、そろ~りそろりと近づいて、
「くすくす……くすくすくす……」
これからするいたずらに胸躍らせるその様は、さながら可憐な乙女のよう。
しかし、
「―――なっ!?」
現実はかくも非情である。
霊夢はいた。確かに寝ていた。しかし、そんな巫女さんと抱き合うようにして寝ている白い影が一人。
――……くろまくみこ……だと……!?
まだ冬でもないのに、何やっているんだこの冬妖怪は。と言うか、何やってんだこの二人は。
――私はそんな子との交際なんて認めませんよ霊夢。
娘に恋人を紹介された父親の気分を経験してしまった紫であった。
偉い王妃様はこうも言いました。
『博麗神社がだめなら、白玉楼に行けばいいじゃない』(違
幽々子なら大丈夫。寝てるだろうし。キャッキャウフフする相手もいないだろうし、今夜は親友との添い寝と洒落込もうか。
――くすくす……もう寝てるわね幽々子♪
明かりの見事な消えっぷりに以下略。
知人相手にも切りかかるバイオレンスでデンジャラスなナイス庭師も見受けられない。
――ザル警備ね。
余裕しゃくしゃくに侵入し、目的の部屋は目前。
「くすくす……くすくすくす……」
やっぱり可憐な我らがゆかりん。某烏天狗にゃとても見せられない。
しかし、
「―――うそんっ!?」
現実はかくも非情である。
幽々子はいた。しかし、そもそも寝てすらいなかった。そして、そんなベストフレンドに抱えられる様にして寝ている小柄な影+αが一人分。
「……う~ん……う~ん……」
「よ~うむ~♪ウフフフフ♪」
ほっぺたぷにぷに。従者に何やってんだマイフレンド。そして、その従者と寝る可能性を完全に失念していた我らがゆかりん。
「……紫?そこにいるの?」
「いませんわ。気にせず続けてちょうだい」
――ブルータスよ、お前もか。
信頼していた甥っ子に裏切られた議長の気分を経験してしまった紫であった。
偉い王妃様はこうも言いました。
『諦めんなよぉ……諦めんなよぉ!どうしてそこで諦めんだそこでぇ!?ダメダメダメ絶対諦めちゃダメだって!やれるやれるでき(以下略』(違
萃香はまだ起きている。ヤツはまだ起きている。そして、この虫の鳴き声を肴に酒を飲んでいるに違いない。今夜は旧友と一緒にやけ酒と洒落込もう。
つい2~3時間前まで抹殺する気満々だったくせに、白々しいものである。
しかし、
「どこにいるのよ……あの子……」
現実はかくも非情である。
探すこと数時間、甘えた考えに罰があたったに違いない。博麗神社にいなかったせいで、どこにいるのか、見当もつきゃしない。
だんだん辺りも明るくなってきてしまったじゃないか。
――うぅ……決定。不貞寝してやる……
そもそも、寝られないから出てきたのである。
帰宅。只今午前6時30分。いつもなら(式の喘ぎ声に耐えながらも)流石に寝ている時間である。
私は顔の広さの割の、友達の少なさに泣いてもいい。そんな事を考える我らがゆかりん。
しかし、収穫もあった。
――綺麗……朝の空と言うのは、こんなにも澄みきったものなのね。
ついでに、朝の空気は昼のそれよりも澄んでいておいしい。気がする。
早寝超遅起きの紫にはとても久しぶりに見える朝の景色、少し気分も晴れてきた。今ならどんな理不尽も「うはwwwwおkkwwwww」の二言で許してしまえそうだ。
寝室に戻る前に、式の部屋をのぞいてみる。やけに静かだ。
「らん……しゃまぁ……」
「ちぇ~ん……かぁいいよぉ……」
抱き合って寝ていた。これまた随分と幸せそうである。
――くすくす……可愛らしい寝顔だこと……
慈愛に満ちた聖母さまのように、優しく目を細める紫。
自らの命よりなお愛おしい我が娘たち。この幻想郷を守るのも、半分は愛する二人のため。もう半分は愛するその他大勢の住民のため。つまり全部ひっくるめて自分のため。
明日(厳密には今日)からも頑張ろう。そう決意を新たに、部屋へと帰る紫であった。
――こんな夜も、存外悪くない。
「……shit……」([間→感?]
そして、くろまくみことは何ともめずらしいw