Coolier - 新生・東方創想話

月の下、花の下

2009/11/10 21:41:23
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 本作は『東方三月精』を参考にしております。また、作者の六作目『紅い館のフーダニット』にかかわる会話が一部あります。どちらも読んでいただければ、より面白くなるかと思いますが、読んでいなくても全く問題ありません。
 長々と失礼しました。では、どうぞ。

(一)

 桜も咲き誇る春。大木の中、三人は今日も平和だった。

「ヒマねぇ、本当に」

 サニーは呟いた。しかし、ルナは新聞を読んでいるし、スターは本の世界に入っていたので、サニーの呟きは独りごととなって消えていった。

「スター、何読んでるの?」

 名前を呼ばれて、スターは本から顔を上げた。

「ミステリーよ。ミステリーってわかる?」
「推理小説でしょう? 犯人を推理するやつ」
「ま、そうね。犯人がトリックを用いて上手く人をだます。探偵は犯人の残した手掛かりから真相を導く。そのトリックが巧妙であればあるほど――もちろんそれだけとは言えないけれど――ミステリー的価値は上がってくるわ」
「すごいのは、名探偵じゃなくて、トリックを考えた犯人の方よね」
「確かにそうだわ」

 サニーは何か思いついたようだ。サニーが目をキラキラさせるときは、おおよそイタズラの名案が浮かんだときなのだ。

「私たちもミステリー的トリックを使ってイタズラできないかな、スター」
「可能だと思う。私たちの能力で、トリックの幅を広げることもできるわね」

 サニーは笑った。それからルナに向かって言った。

「ルナ、聞いてた? 私たちもトリック考えるわよ!」

 ルナは読んでいた『文々。新聞』をこっちに向けて言った。

「来週、紅魔館でパーティーがあるらしいわ」
「決まりね、そこでミステリー的にやりましょう!」

 ということで、スターの持っていたミステリーを机に並べ、打ち合わせが始まった。司会はいつもながらサニーが行う。

「打ち合わせを始めます!」
「はーい」
「スター、トリックを使うということは、何か目的がないといけないわよね?」
「そうね。ルナ、パーティーにそれっぽいものがないかしら。宝石だとか……」
「咲夜さんが名酒を手に入れたので、みんなで飲もうということらしいわ」
「それよ! 名酒のために頑張りましょう!」
「おー!」

 名酒と聞いて、サニー、スターはテンションが上がったようだ。わいわいやって、テンションが戻ったところでルナが言った。

「で、その方法、トリックね」
「スター、ミステリーの中から使えそうなものはない?」
「そうねぇ。密室トリックなら色々あるけど……」

 三人は唸る。サニーが何か閃いたようだ。

「わかったわ! 名酒を盗って逃げる。誰かが追いかけてくる。館内を逃げ、どこか部屋に入る。そこで、私の能力で姿を消せば、密室の完成じゃない」

 しかしサニーのアイデアは、すぐさまルナによって否定された。

「いや、ダメね。咲夜さんが来たら逃げられない」
「それは、スターの能力で、咲夜さんがいないときを狙うのよ」
「それにね、鈴仙さんがいたら不可能だわ。鈴仙さんにあなたの能力は通用しないのよね?」(『東方三月精』参照)
「そうだった! ダメか……」

 スターが追い打ちをかける。

「サニー、そういうのは、ミステリー的とは言えないわ。そうなった場合、能力で消えたのは明らかだから、トリックでも何でもない」
「そうね、スター」
「というか、別にトリックを使わなくても、名酒だけ盗れば良いんじゃない?」
「わかってないわねぇ、ルナ。トリックを使うのが、ロマンでしょうが」
「それに、トリックでも使わないと、捕まったときヒドいでしょうね」

 また、三人は唸る。口を開いたのは、スターだった。

「ねぇ、館内の地図を描いてみない? ちょっと前、あそこに侵入したじゃない」(『東方三月精』参照)
「そうね。それを見ながら考えることにしましょう」

 三人はカンタンな地図を作成した。

「よーし、完成ね!」

 と叫んだのはサニー。ルナは言った。

「パーティーはどこでやるのかしら? この大きい部屋?」
「そうじゃないかしら。密室的なことをやるなら、こっちに逃げるしかなさそうね」

 スターは密室にこだわりたいようである。ルナが言う。

「ここ、曲がってからまたすぐ曲がれば、どっちに曲がったかわからなくなるんじゃない?」
「でもそっちに行ったら全部行き止まりね。そっちはダメか……」

 スターが言った。しかしサニーが閃いた。

「トリック! 閃いたわ!」

 サニーは、二人にトリックを話し始めた。ルナとスターはうなずいた。
 その日、打ち合わせは夜遅くまで続けられた。三人とも、パーティーの日が待ちどおしいといった様子であった。

(二)

 月のキレイな夜であった。パーティー会場。アリスは阿求と話していた。

「お久しぶりです、アリスさん」
「阿求。この前のパーティー以来ね。名推理だったわ」(「この前のパーティー」については『紅い館のフーダニット』参照)

 阿求は照れたように笑って言った。

「いえいえ、私は与えられた手掛かりをまとめただけです」

 アリスは会場を見て言う。

「今回は沢山来ているわね。何人いるかしら」
「23人です。参加リストを見ました。言いましょうか?」
「いや、大丈夫だわ。これじゃ、名酒、少ししかもらえないわね」
「そうですね……」

 レミリアが前で何か言っている。アリスはそれを無視して言った。

「この前みたいに、名酒を盗る人が出るんじゃないかしら?」
「そうなったら面白いですね」
「例えば……サニーとかかしら」
「そうなんですか?」
「サニー、ルナ、スターはいわばイタズラのプロね。サニーは光の屈折をあやつって姿を消す。ルナは消音の能力、スターはレーダーの能力を持っているわ。三人合わせると、なかなか厄介なのよ」
「面白い能力ですねぇ」

 アリスが会場を見回すと、鈴仙の姿があった。

「サニーの能力が通用しないのはウドンゲだけみたいよ」
「何故なのでしょうか?」
「さぁ、相性があるのかしらね」

 アリスと阿求は知的な会話を続けた。会場の光が消えるまで――。

(三)

 プツン――。
 照明が消え、パーティー会場は真っ暗になった。会場がざわつく。

「誰か、明かりを!」

 そう言ったのはレミリアだ。またか、とアリスは思っていた。パチュリーが火を出すより早く、会場のドアが開き、外の光が会場にさし込んだ。

「サニー、ルナ、スターが名酒を盗って逃げたわ!」

 霊夢が叫んだ。ドアの近くにいたアリスと阿求は、三人を追いかけるため、いち早く会場を出た。

「咲夜! ……咲夜はいないのね。タイミングの悪い」

 レミリアはそう呟いた。霊夢が言う。

「三人はサニーの能力で姿を消しているわ。普通に探しても見つからない」
「私は見えます」

 そう言ったのは鈴仙だ。霊夢は鈴仙を見て言う。

「他に見える者はいないわよね? ウドンゲ、早く三人を追うわよ!」

 アリス、阿求に続いて、鈴仙、霊夢、そしてレミリアは会場を出た。他の者は、会場に残った。

(四)

 その頃、アリスと阿求は犯人を追いかけていた。何故か、三人は姿を消していない。そのため、アリスと阿求は三人を追いかけることができた。

「何故、姿を消さないんだろう?」
「わかりません。それに、館内から出ようとしているようでもない。何故?」

 三人の逃げ足は速かった。アリスと阿求の後ろには、20m程はなれて鈴仙、霊夢、レミリアがいた。

「いつまで追いかけっこするつもりかしら?」

 アリスは、同じような所を走っているような気持ちになった。洋館ってそういうものかしら。メイドたちによってキレイにされた館内は、どこも全く同じように見えた。

「迷ってしまいそうね」
「そうですね」

 館内は広かった。曲がり角が多く、アリスたちはしばしば三人を見失いそうになった。そしてある角を曲がった時である。

「見失ったわ。どっちに曲がったかしら?」

 アリスたちが角を曲がると、その先は十字路になっていた。三人はどっちに曲がったのだろうか。十字路に向かいながらアリスは言った。

「左右どちらかに曲がったとしか考えられないわ」
「私は右に行きます。アリスさんは――」

 阿求が前を見ると、ルナが転んでいるのが見えた。転んでしまったために、姿が現れたのだ。サニーとスターの姿は見えない。

「なるほど。曲がったと見せかけて、姿を消しただけでしたか。ルナさんのミスがなければ、だまされていました」

 ルナの姿が消えた。アリスが後ろを向くと、鈴仙たちが角を曲がって姿を現した。

「皆さん、三人はまっすぐに行きました」

 阿求がそう言うのをきいて、レミリアはクククと笑った。

「良いわ。その先は部屋が二つあるだけ。窓もないから、行き止まりよ!」

 十字路のまん中で、アリスと阿求はレミリアたちが追いつくのを待った。レミリアが追いついて言った。

「こっちに行ったのは確かね?」
「そうよ。ルナが転ぶのを見たもの」
「わかったわ。ウドンゲ、私と来なさい。犯人を捕らえるわよ」
「わかりました」

 レミリアと鈴仙が歩いていくのをアリス、阿求、霊夢は十字路のところで見守っていた。レミリアによれば、この先は行き止まり。追いかけっこもここまでだわ、とアリスは思った。しかし10分程して、レミリアと鈴仙が二人だけで戻ってくるのを見て、アリスは恐怖した。

「いないわ。本当にこっちに行ったの?」
「本当よ! ね、阿求」
「はい、三人はそっちに行ったはずです。部屋で探し残した場所はありませんか。ドアのウラだとか……」

 鈴仙は困ったように言う。

「いないんです。どこにも……」

 霊夢が口を開く。

「ルナが姿を消してから私たちが角を曲がってくるまでどれぐらいあった? 十字路まで引き返して、左右いずれかに曲がることは可能だったかしら?」
「……不可能ね。そんな余裕はなかったはずよ。ウドンゲが三人を見ていないのだから、ルナは消えた後、そのまま進んで曲がり、部屋に入ったとしか考えられない」
「念のため、こっちも探しましょう。ウドンゲ、行くわよ」
「あ、はい」

 レミリアは完全に鈴仙をシモベのように扱っていた。レミリアと鈴仙が三人を探しているあいだに、アリスたちは頭で考えることにした。どうやって三人は消えたのか。霊夢は言った。

「あなたたちがそこの角を曲がると、三人はいなかった。そしてあなたたちは、三人が目の前の十字路を左右どちらかに曲がったのだと思った」
「えぇ。しかしそれは三人の罠で、三人は姿を消してまっすぐ進んでいただけだった。三人が何故姿を消さないのか疑問だったけど、それは、ここで私たちをだますためだったようね」

 阿求はだまって、二人のやり取りを聞いていた。アリスは続けて言う。

「幸い、ルナが転び、姿を見せた。それで、私たちはだまされずにすんだというわけね。ルナはすぐに姿を消し、その後私が後ろを向くと、あなたたちが姿を現した。しかし、ウドンゲはサニーの能力が効かないにもかかわらず、ルナの姿を見なかった。ルナがそのまま進んで曲がったからでしょうね」

 霊夢は唸る。阿求は何か考えているようで、口を閉じたままだ。レミリア、鈴仙が戻ってきた。

「いないわ……。一体どういうことかしら」

 レミリアが呟くように言った。霊夢が言った。

「三人が消えたと思われる部屋が見たいわ。この場合、部屋で何らかのトリックがあるとしか考えられない」

 五人はその部屋の方に進んだ。ルナが転んだのはこの辺だろうか。何にもない所で転ぶとは、よっぽど焦っていたのだろうなとアリスは思った。

「この先に部屋は二つですね?」

 阿求は訊いた。答えたのはレミリアである。

「えぇ、そうよ」
「十字路で左右に曲がると、何があるんですか?」
「あっちにも、同じように、部屋が二つずつあるわ。ここは客人用の部屋で、同じような部屋のつくりになっている。この部屋と同じと思ってもらって良いわね」
「わかりました」

 部屋はあまり広くはなく、また窓もなく、ここが密室の舞台とは考えにくかった。

「見逃しはないのよね?」

 これはアリスだ。鈴仙は自信ありげに言う。

「もちろんです。ベッドの下から天井まで、全て見ました」
「こっちの部屋を探しているあいだに、逆の部屋から逃げ出したとかは?」

 これにはレミリアが答える。

「ドアを見張っていたけれど、ドアが開いたりすることはなかったわね」

 唸る五人。霊夢がため息混じりに言う。

「お手上げねぇ……。密室ができちゃったわ」

 アリスが色々考えていると、阿求がアリスの名を呼んだ。

「今回は、どうやら、私にもわかりそうにありません……。すいませんが、用事ができたので、これにて失礼させてもらいます」
「そう……。阿求にもわからないのね」

 アリスはたいそう残念そうに言った。阿求は館を出た。

「さて……」

 阿求は呟いた。そしてまっすぐ、ある場所を目指して歩いていった。

(五)

「やっぱりここでしたか」
「うわ!」

 サニーたちが振り向くと、そこには阿求が立っていた。

「どうしてここに?」

 スターが訊いた。阿求は答える。

「あなたたちのトリックを見破ったから、というのが一つ目の答えです。そして二つ目は、ここが花見で有名な場所だから、いうことです」

 犯人たちは口をポカンと開けて、阿求を見ている。

「今夜は月がキレイです。そして桜も今が見頃。名酒を手に入れたなら、月見て一杯、花見て一杯になることはもはや必然的なのです」

 阿求はにっこり笑う。

「私の推理を話しても良いですか?」

 三人はうなずいた。

「あなたたちは、あの十字路まで逃げた。そして一旦姿を消し、わざと転んでみせた。そう、あそこでルナさんが転んだのは意図的なものだった。そうですよね、ルナさん」

 ルナはうなずく。

「あれはあなたたちが仕掛けた、二重の罠でした。あなたたちは姿を消さずに逃げた。それが急に消えれば、能力で消えたのではなく、どこかを曲がったのだと考える。これが一つ目の罠です。そして、転んだルナさんの姿が再び消える。そうすれば、再び能力を使って消えたのだと考えるのがふつうです。しかし、そこが二つ目の罠。私たちは、一つ目の罠を逃れたことにより、二つ目の罠を見失っていたのです」

 阿求はちらと月をみる。そして続けた。犯人たちは、何も言わずに、阿求を見ていた。

「ルナさんは、サニーさんの能力を使って消えたのではなく、能力を使うことを止めたために消えたのです。それが二つ目の罠でした。つまり、ルナさんが転んだのは、十字路をまっすぐ進んだ場所ではなく、十字路を左右いずれかに曲がった場所だったのです。十字路を左右いずれかに曲がったあなたたちは、ルナさんを残して隠れます。私とアリスさんが曲がり角を曲がり、十字の所を見たら、ルナさんは転び、転んだ瞬間にサニーさんがその姿を屈折させ、私たちに見せる。そして鈴仙さんが曲がってくる前に、屈折を止め、ルナさんの姿を消したのです。そして、その微妙なタイミングで屈折をあやつることができたのは、スターさんのレーダー能力があったためです。ルナさんが転んだとき、音が全くしなかったので、ルナさんの能力で音を消し、スターさんが声で指示をしていたのだと思います」

 三人は感心している。阿求は笑いながら続ける。

「鈴仙さんが部屋を見に行ったら、あなたたちは私たちの頭上を通り、館を出た。スターさんは、会場を出る時点で鈴仙さんを捕捉していたのでしょうね。また、消灯は咲夜さんがいない時を狙ったのでしょう。そうでないと、このトリックは成功しません。そうですよね」
「スゴい、全くそのとおりです!」
「しかし、この場合、スゴいのは探偵ではなく、犯人の方でしょうね。探偵は、与えられた手掛かりをまとめるだけなのですから」

 サニーとスターは、お互いを見て笑った。ルナが不安げに言う。

「もうみんなに推理を話したんですか」

 三人の不安をとくために、阿求は笑って言った。

「いえ、まだ話していません。安心して下さい、私は、あなたたちを捕まえに来たのでなければ、こらしめに来たのでもありません。私も、この月光浴びる桜の下、名酒をいただきたく、ここに来たのです。ご一緒してもよろしいでしょうか?」

 三人のピンと張った糸がゆるみ、笑い声となった。サニーは言う。

「よろこんで! 三人より四人の方が楽しいわ」
「ありがとう。ただ、いくらみんなで飲んだ方が楽しいといえど、あの人数で分けるというのはやはり論外でしょうね。酔えぬ名酒に、価値はあるのか。だから私は、一人でここに来たのです」

 スターが杯に名酒を注ぐ。阿求は三人を見回し、言った。

「今頃、館内はどうなっているでしょうかね。では、我々の勝利に――」
「かんぱーい!」

 杯の音が夜に広がっていった。

 
読了、ありがとうございます。
いつのまにか10作目です。これで引退とさせてもらいます。
ミステリーで〆たかったという気持ちもあり、ミステリーです。館内の描写が上手く伝わったか、少し不安です。
今まで続けられたのも、読んでくれる人がいたから。本当にありがとう!
ちなみに、三人の中では、スターが好きです。
では、失礼します!
丸ひ
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コメント



0.200簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
好きです。こういうの。三月精の会話は見ててニヤニヤしますね。阿求カッコいい。
……ただ、オチがもうちょい欲しかったです。
5.80名前が無い程度の能力削除
私もちょっとオチに期待していました。
だって妖精でストレス発散とか書いてるあの阿求ですよ?普通に飲んで終わりのはずが(ry
8.80名前が無い程度の能力削除
能力を使うだけでなく
ちゃんと推理らしく考えてる所がよかった。