Coolier - 新生・東方創想話

とっておきの1枚~文椛写真合戦~

2009/11/10 00:08:02
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※この話は前作「椛の記者見習生活」の設定を引き継いでいます。
※などと警告を書きましたが、天狗社会でワークシェア導入→椛が射命丸の助手になる」という点さえ押さえて頂ければ問題なく読めると思います。

 雪も日陰で僅かに見える程度になり、妖怪の山も春の空気に包まれていた。
 そんな、紅魔館の門番でなくともついつい居眠りしたくなるような陽気の中で、真剣な表情の白狼天狗が空を飛んでいた。
 哨戒部隊員兼射命丸文付き見習記者の犬走椛である。
 手にはカメラが握られており、その千里を見通す瞳は獲物を求めて炯々と光を放っている。
「今月のお題は鳥……。ありふれているだけに難しいなぁ」
 射命丸の元で見習いを始めて1年が経ち、椛は晴れて記者見習から見習記者へと格上げされた。
 それまでと活動が大きく変化したわけではないのだが、新聞作成の助手としては記事の一部を書かせてもらったり、ちょっとしたインタビューを独りで任されるようになったり、写真の弟子としては毎月テーマを決めての品評会を行ったりと、内容が少しずつ高度になっていった。
 今日も2人で写真撮影対決である。
 しかしながら、対決とはいうものの実際のところ勝つことはおろか勝負にすらならないことが多い。
 年季の差と言われればそれまでなのだが、椛は文の写真を見て感動させられっぱなしであるのに対し、文の方は駆け出しの頃を懐かしむだとか素人ならではの視点に関心を持つだとか椛の一生懸命な様子を感じるだとかばかりで、写真そのものを意識してもらえたことは数える程度である。
 それでも、最近はようやく月に1枚程度の頻度ではあるが文に面白そうな顔をさせることができるようになった。故に、椛は今日も気合いを入れて被写体を探している。
「ん?」
 ふと、椛はあちこちに向けていた視線を一方に固定する。
 違和感があった。
 千里眼が何かを捉えたようだと結論し、椛はその方向をつぶさに調べ始める。
 そして、見付けた。
 山と麓の境界に位置する峰の麓側にある崖。境界とはいったが、区分的には麓であり妖怪の山の領域からは外れるため、気づくのが遅れたのだ。
大きな木の幹にくくられた綱。
 それは崖へ向かって伸び、先端には人影がぶら下がっている。
 胴に綱をくくって何かをしているようだが、ずいぶん長いことそこにいたのだろう。崖の端との擦過により、一見丈夫そうな綱が少しずつほころんでいく様を、椛の目は克明に映してした。
 人影がまた少し動き、綱のほころびは加速する。
「文様!!」
 これは緊急事態とばかりに、椛は文を呼んだ。
「あやや、どうしました椛? 時間はまだ余っていますよ?」
 素晴らしい速さで文が現れる。
「東峰の崖に人間がぶら下がっているんですが、このままだと綱が切れます。いかがいたしましょう?」
 緊急事態とあって自然と椛の口調が事務的なものになる。
組織の下っ端にとって、とりあえず判断できないときは上司に報告するのが正しい振る舞いだ。
「ふむ、人間が里から出た以上、妖怪に襲われようが事故死しようが関係ないと言えばないんですが……」
 人間との馴れ合いが進んではいるが、妖怪は決して全ての人間のお友達というわけではない。
 強い人間には興味を覚えるし、好意を持つこともあるが、ただの人間が自分たちの領域へ不用意に近づき、何某かの不運に見舞われて冷たい骸に変じたとしても、別段意に介すことはない。
 しかし――
「ふむ、わたしの新聞の読者だと困りますね。助けましょう」
 言うが早いか、里に最も近い天狗は最速のスピードで現場へ向かった。
 
 その人間は珍妙な格好をしていた。
 胴に綱を巻いて崖からぶら下がっている段階で相当に珍妙ではあるのだが、周囲で揺れる様々な道具が異様な雰囲気を出していた。
 大きな帳面に、水の入った桶、色とりどりの固まりが塗りつけられた板。
 ぶら下がっている娘の手には大小の筆。
 視線の先には、一輪の花。
 どうやらその娘は、崖の中腹に咲く花の絵を描いているようだった。
 ずいぶんと長いこと描いているようで、時折伸びをしたり、崖を蹴ってぶらぶら揺れたりと体をほぐしている。
 綱が揺れるたびに、少しずつ、崖と接している部分が擦れて綻びていく。そうして――、
「うぇ!?」
 一瞬がくんと体が沈み、ぶら下がり娘は叫んだ。
 とっさに水を吊していた綱を掴むも、そうそうただの娘に自分の体重を支えるような膂力はない。胴の綱が切れて落下し、その勢いに巻き込まれて自身も落ちたその刹那、
「はいセーフ。大丈夫ですかお嬢さん?」
「あ、あわわわわわわ」
 崖に墜落しかけた恐怖か妖怪に抱き留められた恐怖か、娘は声も出ないようだった。

「文様、お疲れ様です」
「ああ椛、ご覧の通り無事救出です」
 椛が暫くしてから現場にたどり着くと、文は既に娘を崖の上に移していた。
「ほら、この子が貴方を見付けてくれた天狗ですよ。この子がいなかったら、今頃は人間のタタキになって山の妖怪の新鮮な肴になってる所でした」
 人間は震え上がりつつも椛に向かって深々と頭を下げた。
「あの、あんなところで一体何をしていたんですか?」
「あ、はい。絵を描いていました」
「絵ですか? わざわざ崖にぶら下がって?」
 空を飛べない人間にとっては、かなり危険な行為に該当するだろう。何故そんな無茶をするのかと椛は首を傾げた。
「はい、私は里の画家志望でして、花を主題にしているんです。この時期の山の崖には珍しい花が咲くと聞いていてやってきました」
「……花を摘むとか、鉢に移植して安全なところで描くわけにはいかないんですか?」
「それでは花の美しさが雲散霧消です!! あくまでもそのままの姿を自分なりの解釈で形に表すことにこそ私の絵画の主題が――」
 先ほどまでの怯えきった表情はどこへやら、画家志望という人間は生き生きと語り始めた。
「ふむ、写真と絵という違いはありますが、中々骨のある人間のようですね」
 黙って椛と人間のやりとりを見ていた文は助けた甲斐があったものだと微笑んだ。
「写真……、それに文様って、もしかして文々。新聞の射命丸文さんですか? 絵を描く休憩でよくカフェに行くんですけど、拝見してます。切り口が面白いですよね。」
「あや!! 本当に読者の方でしたか。これは運命ですね」
 上機嫌になった文と椛はその娘を人里まで送り届け、文の部屋に戻った。
「しかし、人間というのはやはり面白いですね。あんな危険を冒してまで珍しい絵を描きたいと欲しますか」
 冥界や吸血鬼の館への潜入取材も辞さない文も十分に危険を冒しているのではと思う椛だが、言っても「あやややや? そうですか?」と言われるだけなので黙っていることにした。
「よし、椛!! いいお題が浮かびましたよ!!」
 文はいかにも楽しそうに笑った。

 ううん、と唸りながら椛はあてどもなく幻想郷の空を漂っていた。
『お互いにとって滅多に見られない写真』
 新たに文が設定したお題は、中々に難しかった。
 人間ならば行けない場所は多々あり、その風景を写してくれば珍しいとされるだろうが、椛も文も妖怪である。冥界や吸血鬼の館が危険だとは言ったが、実際はうっかりすると面倒になるかも、といった程度であり、幻想郷において妖怪が滅多に行けない場所、というのはそうそうない。
 地底に関しては約定で立ち入りを禁じられているのでそもそも対象外だろうし、外の世界まで含めてしまうとそれこそ収拾がつかなくなる。
 だからきっと――、
「文様の真意は、単純に珍しい写真を撮れというのとは別のはず」
 相手が何を珍しいと感じるか、それを調査する修行。
 今回のお題に込められた意図をそのように解釈し、椛は文の情報をまとめた帳面を開いたのだが、
「……文様って、どこにでも現れるし色々なことをしてるんだよね」
 妖怪の山で社会機構を構築している天狗達は、原則としてあまり山から出ない。しかし、報道部隊である烏天狗達は別だ。文ほど頻繁に人里へ行くことはないが、幻想郷の中をところ狭しと飛び回っている。
「文様でも滅多に見たことがないものなんてあるのかなぁ」
 相手を知り、調べることが主題だとは思ったが、知れば知るほど、調べれば調べるほど、答えが遠ざかっていく気がする。
 ふわふわと漂いながら、椛は頭を抱えた。
 
 結局その日は一枚も写真を撮れず、椛は文の家に帰宅した。
 文はまだ帰って居なかったので、夕食の下ごしらえをして帰りを待つ。
「遅いなぁ文様。新聞の資料整理もやっておこう」
 もう一仕事するべく、仕事部屋に入る。
「アレ、これは」
 明かりをつけると、テーブル一杯に広げられた資料の山が目に入った。現在制作中の新聞に関するものではない。
『人里。甘味処の限定メニュー 評価3 椛は甘い物が好きだし、人里にもあまり出向かないから興味を持つと思われる』
『天狗の工房。新型のカメラ 評価2 まだ道具にこだわりを持つほどじゃあないから微妙かな。椛が持つと似合いそうなんだけど』
『霧の湖。巨大魚 評価3 これも椛の好物の魚。一緒に釣りに行こうかしら』
『魔法の森。四季を通じて紅葉が見られる木 評価5 一押し。あの魔法の森の木なのに綺麗。いつでも椛がいますよーなんちゃって。追記 今回はこれで行こう 薄暗いのと茸の幻覚が強い場所なので何度も挑戦せねば』
「はっ!? い、いけない」
 意図的に覗いたわけではなく、おおっぴらに広げてあったので図らずも目に入ったというのが正確なのだが、椛は文の手の内を見てしまったことに動揺する。
 1つ見て、それがどういう性質の物なのか知った時点で見るのを止めればよかったのだ。そうすれば本決定した対象を知らずに済んだのに。
 そう後悔はするものの、自分のことを深く考えて選んだ被写体と、その覚え書きには麻薬めいた求心力があり、目を離すことができなかった。
「文様、こんなにも私のことを考えて……」
 ほぅとため息をついた椛の耳に、羽音が聞こえた。
 匂いで文だと判ったのだが、羽ばたきに力がない。
 まさか怪我を、と椛は慌てて玄関に向かう。
「椛~、ドアを開けてください。6つも7つもあってどれが本物だか分かりません!!」
「あ、文様!! お気を確かに!!」
 慌ててドアを開けると、そこには魔法の森の幻覚茸に当てられてあたまをぐらんぐらんさせている文がいた。
「あや~、全部のドアから椛が!! お買い得? これは今夜は眠れませんね」
「へ、ヘンなこと仰らないでください!!」
「据え膳は食い尽くすのが礼儀!! それもみじもみもみー」
「ふわぁっ!! あああ、あやさまぁ、や、やめてください」
「ふふふふふー、待てと言われて自首する白黒なんていませんよーろろろろ? これは、天蓋が厄神様のようにぐわんぐわわわわわ」
「お気を確かに!! 早く医者の所に、いや、この場合専門家の方が良いのか。と、とにかく、しっかり掴まってください」

 これは大分胞子を吸ったなぁ、と白黒の魔法使い――霧雨魔理沙はけらけらと笑った。深刻な状態ではないからこそ見せる余裕だと、椛は無理矢理自分を納得させる。
「あのねえ、笑ってないで、早く薬を出してあげなさいよ」
 呆れたような声で促すのは七色の人形遣いことアリス・マーガトロイド。今も人形達を操って文の額に濡れタオルをあてがったり口に水を含ませたりしている。
「はいはい。パチュリー、奥の戸棚あるだろ? 下から三段目の右側に入ってる茶色の瓶を取ってきてくれ。4つあるけどどれでもいいぜ」
「……これだけ散らかっているのにどこに何があるかは把握できているのね」
 七曜の魔法使い、パチュリー・ノーレッジが言う。感心しているのか呆れているのかは、その声質からは読み取れない。
「あの、文様をよろしくお願いいたします」
 椛はすがりつくようにして三人の魔女に頼み込む。
 魔法の森の茸については現地の専門家が詳しいだろうと判断した椛は酩酊状態の文を担いで霧雨魔法店を訪ねた。留守にしがちということだったが、幸いな事にこの日は主人と客の魔法使いが2名おり、てきぱきと処置をしてくれている。
「文様は大丈夫でしょうか」
 暫くは幻覚をみて笑い転げていた文だったが、次第にうなされ始め、魔法の森に着く頃には冷や汗をかいていた。
「大丈夫よ。元々妖怪にはそこまで強い毒にはならないの。まあ、あの木の辺りは特別に幻覚作用が強く出る場所だからちょっと派手に見えるけど、中和剤を飲ませたから放っておいても一晩寝れば治るわ」
 アリスの言葉通り、文の呼吸は安定し血色も良くなってきている。
「しっかし、あの傍若無人なゴシップ記者がこんな有様になるとは珍しいこともあるもんだ。ひひひ、こいつをネタにしばらくからかってやるか」
 魔理沙は面白い悪戯を思いついたとばかりに文のカメラに手を伸ばす。
「そ、それは……」
 椛はどうするべきか迷いおろおろと手を彷徨わせる。
 普段の文が彼女たちにしている接し方から考えれば、これくらいのちょっとした報復はされてしかるべきではあるし、何よりこちらは助けてもらっている立場だ。力ずくで拒否して興ざめさせるのも躊躇われる。
 しかし、椛としては普段の優しい文様も知っているわけで、何より自分との写真対決の為にこのような状態になってしまったのだ。そんな姿を写真に残されてはならじという思いも強く、今にもカメラを奪い返したいのだが、それで今後この魔女との関係にしこりが残っても困る。
 結果、椛は文と魔理沙の間に入るような入らないような位置であわあわと腕をばたつかせ、よく分からないボディランゲージを放つという何とも哀愁漂う状態になる。
「はい」
「そこまで」
 魔理沙の手がシャッターに伸び、椛の葛藤が最高潮に達しかけたあたりで、アリスとパチュリーが魔理沙を止めた。
「弱ってる所に追い打ちをかけないの。そっちの子、泣きそうじゃない」
「悪いわね。でも悪ふざけが好きなだけで、悪意はないのよ?」
 困った様に笑うパチュリーに、椛は無言で頷いた。言葉を発すれば、涙がこぼれてしまいそうだったから。
「なんだよー、私ばっかり悪者か? 面白いじゃないか、普段人様のあれやこれやを撮りまくってる記者が逆に撮られるなんて」
 慌てて反論する魔理沙だが、時と場合によるとかもう少し考えろと2人の魔女に責め立てられる。
「……逆に、撮られる、かぁ」
 そんな中、椛にある考えが浮かんだ。

「いや~、すっかり心配をかけました」
 翌朝、見立て通り完全復活した文は照れくさそうに頭を掻いた。
「いえいえ、大したことがなくて良かったです。文様、魔理沙さんに中和剤を分けてもらいました。また森に行く時はこれを使ってください」
「おお、これは用意がいい。椛もどんどん記者としての手際がよくなってきていますね。今回の撮影勝負、期待していますよ」
 それではと再び森へ向かう文を見送ると、椛は自分も用意を始めた。
 にとりから借りた光学迷彩スーツと、魔理沙から買った幻覚茸の中和剤。
「よし、撮るぞ。文様へのとっておきの1枚」
 
 そして来た対決の日。
 椛は珍しく自信を持って臨んだ。
「ふむ、いい顔ですね椛。いい写真が撮れたようですね」
「はい。間違いなく、今までで一番の作品です」
 力強く答える。
 椛の撮った写真は、魔法の森で撮影をしている文。
漂う障気をものともせず、真剣な顔で被写体に向かい、今まさにシャッターを押す瞬間の姿を収めたものだ。
 先手必勝とばかりに椛は自分の写真を披露する。
 直前までは、隠し撮りした後ろめたさから迷いがあった椛だが、いざ決戦となると気分が高揚し、自信に溢れていた。
「どうです!! 被写体を狙う真面目モード全開の文様!! こんな格好良い文様はちょっとやそっとじゃお目にかかれませんよ!!」
 何だか大層失礼な事を口走ってしまう椛だが、興奮状態のため自覚できていない。
 えへへ、どうですか文様? 文様にこんな素敵な文様以上の写真が出せますか? 今回ばかりは文様との勝負に文様を味方につけたわたしの発想の勝利です。ありがとう文様、そして良い勝負でした文様。むむ、何回文様って言ったかなぁ。
 椛の脳内で文様がゲシュタルト崩壊を起こしつつあったが、眼前に悠然と構える本物の文様のニヤリとした笑みが椛を現実に引き戻す。
「ふふ、中々やりますね。撮る者を撮る、このお題の発想としては合格点と言えるでしょう。けれど、詰めが甘いですよ椛!!」
 そう言って文が露わにした写真を見て、椛はまさに魂消えそうになった。
「ええ!? ど、どうして? だって? ええぇ?」
 大混乱に陥る椛を、文は楽しそうに眺める。
「光学迷彩スーツは河童の創ったもの。ならば、それを無効化するものも、河童は創っていたということです」
 ニヤリ笑いの文の手には、椛の写真の文よりも数段気持ちの入った表情の椛が写っていた。

「ううー、悔しいよう」
 九天の滝の裏の洞窟。
哨戒任務の待機場所で椛はごろんごろんと転がっていた。
「にとりぃ、文様が対光学迷彩機能付き遠隔操作カメラなんてものを注文してたなら教えてよぉ」
 暇つぶしの相手にして友人のにとりは、珍しく駄々っ子の様に振る舞う椛を見てクスリと笑った。
「ダメダメ。確かに私は面白い発明ができれば、それをどう使われようと勝手だとは思ってるけど、お得意様への仁義ってものは忘れちゃいない」
「がうー、惜しかったなぁ……」
 椛は写真対決の幕引きを思い返し、またもごろごろと転がった。

 一通り遠隔操作カメラの解説をした後、文は椛の写真と自分の写真を並べて椛に問う。
「椛、貴方の写真の私と、私の写真の貴方、どちらが魅力的に見えますか?」
「……うう、文様の写真の、わたしです」
 通常ならば不遜も甚だしい物言いだが、この場合は完全な敗北宣言である。
「同じく写真を撮っている撮影者の写真ですが、何が違うか判りますか?」
「――判りません。どうしてわたしなんかが、文様の技術越しとはいえこんなに輝いて見えるんですか?」
 素直な言葉に文は満足げに頷く。
「それはね椛、被写体が違うからです。被写体に注ぐ想いの違いが、こうして如実に現れているのですよ」
「被写体?」
「そうです」
 文はくすくすと、さも可笑しそうに微笑む。
「椛が撮った私、の被写体はただのちょっと珍しい木です。そりゃあ気合いは入れますが、それでも普通程度。それに比べて、貴方が狙っていたのは私。大切に想うヒトを撮ろうとする瞬間だからこそ、ここまで魅力的に写るのですよ」
 何の臆面もなく自分を椛の大切な人の称する文だが、事実その通りである。
「くうっ……」
 椛はがくりと膝をついた。
 完敗だった。

「まぁまぁ、文さんとの勝負はこの先何回もあるんだし、次頑張ればいいじゃない」
 文の「大切に想うヒトを~」のくだりまで聞いて胸焼けを起こしつつあったにとりは、話題を変えるべく適当に相づちを打った。
 しかし、
「違うよにとりん。勝負に負けたのが悔しいんじゃないんだよ」

「しかし、惜しかったですね」
「何がですか?」
 地にくずおれた椛は、文の残念そうな声に顔を上げる。
「椛が時間差でもう1枚撮っていれば、そこには『私を撮る椛を撮る私』が写っていたでしょうに」
「!?」
「大事な私を撮ってくれる大事な椛を撮る私は、さぞや映えたでしょねぇ」
 文はくすくすと笑い、椛は今度こそ五体倒置の様に地べたに這いつくばった。

「うわーん、見たかったよう。文様を撮ってる私を撮ってくれてる文様の写真―!! きっと相乗効果で旨味が爆発だったよう!!」
 延々と駄々をこねる椛を半眼で眺めつつ、にとりは当分甘い物は食べたくないなと思ったのだった。
初めましての方、ありがとうございます。
また会ったなという方、再会に感謝です。

今回のあやもみは甘さを全面に押し出したいなーと思ったのでこんなお話になりました。
後半のテンションが明らかにおかしなことになってるなぁ・・・・・・。
文椛好きな方々が少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
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コメント



0.1190簡易評価
7.90名前が無い程度の能力削除
にとり…お疲れ様w

ちなみに年期→年季ではないかと。
13.100煉獄削除
二人の関係に頬が緩みますねぇ……。
対決後とかの文たちの会話など、甘くて面白いお話でした。
15.100名前が無い程度の能力削除
これは素晴らしいあやもみ。文様計画的すぎるwww
バカッポゥどもめがwww
20.無評価削除
>7さん
持つべきものは友達ですねwにとりは何だかんだ言いつつ付き合いがいいイメージです。
誤字のご指摘ありがとうございました。

>煉獄さん
甘さを感じて頂けたのなら望外の喜びです。
また頑張りたいと思います。

>15さん
この文様は用意周到ですよ~w
ナイスバカップルを目指しました。

みなさん、コメントありがとうございました。
励みになります。
21.100名前が無い程度の能力削除
写真撮影という小道具をうまく使って
二人のあまあまストーリーを展開しているところが素晴らしい。
22.無評価削除
>21さん
ありがとうございます。
なるべく原作の設定を生かしたいと思いました>写真
25.100名前が無い程度の能力削除
これは・・・甘い。調度いい甘さだ。