Coolier - 新生・東方創想話

月と素麺

2009/10/25 23:11:20
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晩秋のある日。
博麗霊夢は、いつも通りまったりと、境内を掃除したり、お茶を飲んだりして過ごしていた。
「今日は来客も無くて、静かで平和ね。いい一日だわ」
普段の日なら、人だろうが妖怪だろうが構わずに、誰かはここへ来るものなのだ。
珍しく誰も来ない神社にて、霊夢は思う存分一人の時間を満喫していた。
だが。
「しまった・・・一日のんびりしすぎて、忘れてた」
夕日も沈む頃になり、さて夕飯の支度でも、と重い腰を立ち上げた霊夢は、とても困っていた。
米を切らしてしまっているのを忘れていたのだ。野菜があるから副菜だけなら作れるが、主食の無い食事など、何とも締まらない。

あいにく今神社には、パンやうどんなど、主食になるようなものの買い置きが無かった。まして、彼女がインスタントラーメンなども持っている訳が無い。かといって、今から人里の店へ行って買ってくるにしても、この時間ではもう閉まっているだろう。今夜の食事はどうしたものか。

あちこちと台所を探した結果、どうにか一つ、主食になりそうなものが見つかったものの。
「これじゃあねえ・・・あんまり時期が違いすぎるし・・・」
霊夢が見つけたのは、夏場毎日のように食べた素麺だった。
あっさりとしていて、何度食べても飽きるということがない。それこそ、夏場はこの素麺こそが主食のようなものだった。
しかし、それはあくまでも夏の暑さがあっての話だ。秋の日、しかも夜に食べるとなると、流石に食べていて辛いものがあるし、お腹の具合も心配になってくる。
どうしたものかと頭を抱えていると、ふいに、ドンドンと神社の戸を叩く音があった。

「はーい、どちら様ー?」
「こんばんはー、霊夢さん、いらっしゃいますねー?」
来客は、山の神社の風祝である早苗だった。
(あら、珍しい)と霊夢は思った。早苗が来ること自体はそうでもないが、わざわざ夜になってから来るのは稀なことだった。
霊夢は、とりあえず夕飯の問題を置いておいて、早苗を迎えるべく玄関へと向かった。
「はいはい、今開けるわ。どうしたのよ、早苗。こんな時間に」
「お夕飯のおかず、作りすぎちゃったので持ってきました。お口に合うと良いんですが」
そう言った早苗の手に握られていたのは、小鍋に入った煮物だった。
よほど急いで持ってきてくれたのだろう。鍋の中は、まだほかほかと温かそうだ。
冬も近づき、寒さが増すこの時期には、うってつけの差し入れだった。

「わざわざ持って来てくれたの?ありがとう、早苗」
「いえ、どうせ余ってしまっては勿体無いですし」
「でも、素麺食べながらだと、これ一緒に食べても体冷えちゃうわよねえ・・・」
「・・・え?素麺ですか?」
思わずぽかんとする早苗に対し、霊夢は先程までの事を説明する。
「実は、今米切らしちゃってるのよ」
「はあ、そうなんですか。でも、だったらうどんとか」
「それも無いのよ・・・あ、パンとかも無いからね?言っとくけど」
「それで、素麺だけが見つかったと」
「そういうこと。何か、色んなやつが『お中元』とか言って、持ってきてくれたものがね。はあ・・・この時期に素麺食べるのは辛いけど、しょうがないか。自分が悪いんだし」
あ、煮物ありがとうね。せいぜいこれで暖まらせてもらうわ。
そう言って、再び奥へと戻ろうとする霊夢。そんな霊夢に向かって、早苗は、思わず声をかけていた。

「あ、あの、霊夢さん!」
「・・・どうかした?早苗」
いきなり呼び止められ、怪訝な表情で霊夢が振り向く。
「何も、冷たくして食べるばかりが、素麺じゃないですよ?」
「え?」
そう言ったかと思うと、早苗は、玄関から上がりこんで台所へと向かっていった。
「さ、早苗!?」
「ちょっと台所お借りしますね。任しといて下さい♪」
慌てる霊夢を他所に、早苗はてきぱきと料理の準備を進めていく。
「ちょ、わざわざいいってば、早苗」
「遠慮するなんて、霊夢さんらしくないですよ?」
大なべにたっぷりと水を入れて沸かし、その間にネギなどを刻む。
「と、野菜使っちゃって良かったですか?」
「もう切っちゃってるじゃないの・・・好きにしなさい」
「ありがとうございます」
霊夢は、呆れ顔で、勝手にやってくれという感じだった。
そんな様子の霊夢などお構い無しに、早苗はてきぱきと調理を進めていく。

ぐつぐつと煮立ったお湯に、素麺を投入。
軽くほぐれたところで、お湯を切って笊へと上げる。
「何よ、普通の素麺と変わらないじゃない」
という霊夢のもっともなツッコミが入るが、早苗は「これから、これから」と言いながら、先程より小ぶりな鍋に、再びお湯を沸かしていく。
「霊夢さん、めんつゆありますか?」
「めん・・・?何よ、それ」
「あ、じゃあ、鰹節は?」
「それなら、ここ」
霊夢に渡された鰹節をお湯に入れてダシを取ると、酒と醤油で薄めに味付けする。
そして、具となるネギと大根を入れ、煮立てていく。
おおよそ大根に火が通ったところで、先程笊へ上げた素麺をつゆへと入れ、温めれば、完成だ。
手際の良い調理で、早苗の作っていた料理はあっという間に出来上がった。

「お待たせしました。煮麺(にゅうめん)です」
「・・・NEW MEN?」
「違います!『にゅうめん』です!」
NEW MENってどんなのですか!と叫ぶ早苗を無視し、霊夢はしげしげと出来上がった料理を見つめる。
「へえ、あったかい素麺ってどんな味なのかしら」
「私は子供の頃から結構食べてますけど・・・美味しいですよ?」
「そうなの。それじゃあ、早速頂くわ。ありがとう、早苗」
「いえいえ」
どういたしまして、と言った早苗のお腹が、寂しそうにぐうとなった。考えてみれば、彼女自身夕飯を食べる前だったのだ。
既に日はすっかり沈んでいる。お腹が減るのも当然のことだろう。
「・・・一緒に食べていく?」
「え?いいんですか!?」
嬉しそうに満面の笑顔でそう言う早苗。
その笑顔を見て何とも言えない複雑な気分になりながらも、霊夢は自分用のとは別に、もう一つ丼を用意してやった。

二人揃って、仲良く「いただきます」の挨拶をしたあと、麺を啜っていく。
と、初めてこの料理を食べる霊夢の顔に、驚きの表情が浮かんだ。
「・・・美味しい!」
それは、霊夢が今まで食べた事のある麺とは全く違う味だった。
蕎麦のような独特の癖も無く、うどんよりもずっと細いため、つるつると喉へ入っていく。
冷たい素麺が美味しいのは当然だとしても、これはこれでまた格別の美味しさだった。
「これ、いくらでも入るわね。ズルズル」
霊夢は、初めての食感に夢中になりながら、ドンドンと食べ進めていった。
「ふふ。気に入って頂けたようで、良かったです」
早苗も自分の料理の出来栄えに満足しているようだ。ゆっくりと、一口一口味わって箸を進めていく。

「あとで詳しい作り方教えてね、早苗」
「ええ、お安い御用です」
「実は、まだ大量に素麺余ってて、困ってたのよ」
「・・・どれだけお中元頂いたんですか?」
「数えるのも嫌になるくらい」
そう言って、霊夢は肩をすくめた。早苗は、思わず苦笑する。
「人気があるのも困りものですねえ」
「全く。そりゃあ食べ物貰えば嬉しいし、助かるんだけどね」
「食べ切れなきゃ、しょうがないですね」
そう言って、くすくすと、2人は笑い合う。
「しかし、あんた料理上手なのね。びっくりしたわ」
「え?そんなことも無いと思いますけど・・・」
「いや、そんなことあるわよ。プロ。天才。毎日食べたいくらい」
「そ、そうですか?」
霊夢の言葉を聞いて、えへへ、と、早苗の顔に笑みがこぼれる。
「そういうわけで、明日から毎日ここで」
「料理をしろ、なんて、流石に言いませんよね?霊夢さん」
「う・・・」
にっこりと笑みを浮かべた早苗の表情が、何故だかとても怖く感じる霊夢。
「まあ、たまには今日みたいに差し入れしますから」
「え、本当!?ありがとう、早苗!」
「ふふ、いくらなんでもそこまで褒められたら、何かしてあげたいなって思っちゃいますよ」
そう言って微笑む早苗に対し、霊夢はとても嬉しそうな表情を向ける。
「じゃあ、明日は・・・そうね。最近寒いから、おでん!」
「今、たまにはって言ったばかりじゃないですか!」

リーンリーンと鳴く虫の声と、少女2人の姦しい声が、同じように響き渡る。
月明かりが照らす中、博麗神社には、ただただ穏やかな時間が流れていった。
「・・・早苗、遅いねえ」
「・・・うん」
「先、食べてよっか。お腹空いたよ~」
「駄目!!3人揃って食べなきゃ、美味しくないでしょうが!!」
「あーうー・・・」

―――――――――――――

どうも、ワレモノ中尉です。
前回コメントくださった方、ありがとうございました。

毎度のことですが、僕の書くSSでは事件らしい事件が起こりません。
今回なんて題材がにゅうめんですし(笑)
多分、これから先もずっとこんな感じなんだろうなあと思います。平和が一番。

にゅうめん、美味しいです。
なので、自分でも何度か作ったことがあるのですが、どうしても母親の味には勝てないんです。何でなんだろうなあ。
昨日も自分で作って食べたのですが、そのときにこんな話を思いついた次第です。

少しでも楽しんでいただければ、そして今回は、少しでも美味しそうと思っていただければ、是幸いです。
それでは。

※10月26日 追記
2000点・・・!
正直な話、こんなに伸びるとは思っていませんでした。ビックリです。
皆さん、本当にありがとうございます!

細かいところを修正させていただきました。
ワレモノ中尉
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コメント



0.2770簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
投稿1分後の奇跡

平和だなあ・・・
new menってww
5.100名前が無い程度の能力削除
そういやにゅうめんって食べたことないや
この話読んで食べたくなりました
6.100名前が無い程度の能力削除
NEW MEN…新しい男…
ニューハーフが幻想入りしたらこんな風に呼ばれるのだろうか…?
しかしにゅうめんの美味しい季節になりつつある
8.100名前が無い程度の能力削除
にゅうめんは昔1度食べたきりだなぁ…まぁそもそも素麺自体をあまり食べないので余らないのですが

そしてかなすわww早苗さんは帰った後も食べて肥えるんですねわkウワナニヲスルキサマラー
14.100奇声を発する程度の能力削除
NEW MENが頭から離れなくなったwww
19.100名前が無い程度の能力削除
このまったりとした空気、たまらん。
25.80名前が無い程度の能力削除
Warning!Warning!
Here comes The NEW MEN!!

平和が良し!って感じ
キャラの行動にわざとらしさがないのが好き
26.80アイス削除
にゅうめん聞いてはにゅうめん思い出すのは俺だけだ?
31.100名前が無い程度の能力削除
いいなあ
32.100名前が無い程度の能力削除
あったかい素麺って美味しいですよね。

楽園の巫女、博麗霊夢は守矢早苗の『アレ』なのだ!!
34.90名前が無い程度の能力削除
そうめんは,カレースープとか肉じゃがのつゆと一緒に喰ってもンマイよ
37.80名前が無い程度の能力削除
法事の料理で出てくる甘辛い刻み油揚げの乗ったのが凄い好きなのです。
そうめんは夏よりも冬に暖かいの作るほうが多いなー
豚汁大量に作ったりしたときにかけるのもうまいよー
39.100名前が無い程度の能力削除
ごっつあんです。
44.70マイマイ削除
神様……(泣
でも、分社があるんだから様子見れるんじゃね?
46.80名前が無い程度の能力削除
NEWMENw
48.100名前が無い程度の能力削除
今幻想郷で最も熱い麺類といえば『ほうとう』だろうがぁ!

素麺大好きです。
56.90名前が無い程度の能力削除
ばぁちゃんの作ってくれたにゅうめんが美味かったんだ。
また・・・食べたかったのにな。
・・・来年訪ねよう。
59.80名前が無い程度の能力削除
new menで新人類って単語思い出したました
オッサン用語ですけどね
60.100名前が無い程度の能力削除
ちょっと煮麺食べてくr(ry

このほのぼの感がGJ
65.100名前が無い程度の能力削除
素麺はビーフンみたく炒めても美味いんだぜ!
白飯との相性も抜群よ!

腹が減るSSは、良いSSだ。
70.90名前が無い程度の能力削除
夏に食べるだけが素麺じゃないんだぜっと。シンプルだからこそ広がりを持つ。
ん~、夜に読んだのはマズかった気がしてなりませんが、二人が可愛いのでまあいっか。

にゅうめんはクタクタになるまで煮込んでもヨシ。