Coolier - 新生・東方創想話

聖夜の憂鬱

2004/12/25 09:38:08
最終更新
サイズ
4.37KB
ページ数
1
閲覧数
1406
評価数
8/65
POINT
2770
Rate
8.47







「は~~~~~~~~~~あ…………」
 綺麗に整頓された部屋。 戸棚には、可愛い字で書かれた、ラベル別に分類された色とりどりの瓶。 部屋の壁際にきちんと整列する、彼女の自慢の人形たちは……見てはいけないものから、目を逸らすように俯いている。
 その他にも古びた柱時計やオルゴール、書机に広げられたままのグリモワール、羽ペン、インク壺……すべてが、持ち主である彼女を―――腫れ物でも扱うかのように、放置している。
「は~~~~~~~……」
 ふたたび部屋を吹き抜ける、脱力の吐息。
 目を逸らす人形たち。
 魔法具たちは、只の道具のように硬直し続ける。
「…………ねぇ、蓬莱。 今日って、何の日だったっけ?」
 あるじに問われ、困ったようにもじもじする人形。 赤い小さな服を着て、背中にちょこんと可愛らしい羽をつけた金髪の人形――――蓬莱人形は、生みの親たる彼女の、とろーんとした目から逃れるように顔を伏せる。
 気まずい沈黙。
 かち こち
 かち こち
 かち こち
 かち こ……ぼん。
「……あー。 うるさい……。」
 だらーんと特殊な机―――『こたつ』に突っ伏した、この部屋の主―――アリスの指先から迸った光弾が、柱時計を沈黙させる。
 ―――自分はただ、やるべき事をしていただけなのに……
 あるじの八つ当たりを受ける時計。 面と向かって文句を言うでもなく、ふてくされたようにその刻を止める。
 びくびくする器物たちのようすに業を煮やしたのか、アリスはどたー、と背後に身を倒す。
 ぐてー。
 ぐた~。
 ごろん、
 ごろん。
「あー。…………暇だわ。」
 動きを止め、ぼそりと呟くアリス。
 虚ろに天井を見上げ、彼女はそのまま……ぼ~っと脱力状態を維持する。
 ……ぼへらー
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 ……
 …………
 ………………はっ。
 口から零れたよだれを拭い、慌ててアリスは起き上がる。
「……いけない、いけない。 危うく今夜を無駄に寝過ごすところだったわ……。」
 ちらり、と柱時計を見やるアリス。 しかし動きを止めた時針からは時を読み取ることは出来ない。
「むー。 誰よ? こんな酷いことをする奴は? う~、きっとこの前来たあの黒白の仕業ね! まったく……ぶちぶち。」
 先程、自分がやったことなど……とうに忘れて、彼女は責任転嫁を始める。 無言でざわめく器物たち。 もし、彼らが言いたいことを言えたなら、きっとこう言うことだろう。


 ―――あんただ、あんた!!


 しかし……所詮、創造主には逆らえない悲しい身。 声ならぬ声は、空しく虚空に消えてゆく……。
「あー。 うー。 あ゛あ゛~~~~~っ!! うがぁあああああああああああああ!!!!」
 突如おたけびをあげるアリス。 心配そうに、あるじを痛々しく見守る蓬莱人形。 けれどなにが出来る訳でもなく、ただ生暖かい目で……アリスの狂態を見届けるのみ。
 ばんばん! とコタツを叩きまくる。
 かごに入ったみかんを皮ごと頬張る。
 奇声をあげ、首をぶんぶん振りたくる。
 貴重な魔法書で、クッションをばすばす殴りつける。
 紫から闇取引で入手した、映像の出る魔法の箱のスイッチを―――滅茶苦茶に切り替える。
 どういう仕組みか知らないが、それには外の世界の番組が映ることもある。……あるいは、紫のきまぐれで、スキマと直結されてるのか。
 けれど、まったく訳のわからないことを……楽しげにくっちゃべってるその様子を見ていると……むかっぱらが立つ。
「うがっ!」
 ばちん、とスイッチを切るアリス。
 時計と同じく沈黙する魔法の箱。
 ……。(壊されないだけ、ましだな……。
 始まった時と同様に、狂態は唐突に終わりを告げる。
 ふたたび、ぐてーーんとコタツに足を入れながら倒れこむ。
「…………空しいわ。」
 悟りを開いた賢者のような、老成した言葉。 先程までのアリスを知らなければ、さぞや儚げに聞こえたことだろう。
 ふと、窓の外を見上げるアリス。
 暗い空には、ちらほらと白い結晶が舞い落ちている。
 今日という日に相応しい、天からの贈り物。


 ―――そう、今夜は


「……メリー、クリスマス。……霊夢。」
 そっと、コタツの脇に置かれた箱を見る。
 女の子らしく可愛く包装されたその箱は、アリスの巻き起こした八つ当たりの暴威に晒されること無く……ひっそりとその場に鎮座し続けていた。


 寂しがり屋で、意地っ張り―――つまらないプライドが邪魔をして、今年も渡せなかった……この人形。

 ―――今年こそは……! と思ったのに……。


「はあぁぁ………………」
 恋する乙女のため息は、今年も聖夜に木霊する。
 しんしんと降り続ける雪は、恋焦がれるこころを
 やさしく やさしく
 ―――鎮め、慰める。







「今年は駄目だったけど、―――来年こそは………!」










 アリスの憂鬱は終わらない。








  
寂しいっす。
しん
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2320簡易評価
4.30七死削除
気持ちは解る。 だからもちつけ(ノд`)
後書きだけで泣ける作品はこれが最初で最後であって欲しい。
6.50nanasi削除
何でだろう、涙が止まらないんだ……
11.60はね~~削除

 うあああ、洒落にならないー。私もだけどー!(泣)
12.50SETH削除
私 昼に寝たらイヴが終わってましたよ はは・・・・・・は は
31.80無為削除
イヴは休みだったんでずっと寝てました。
当日は朝から仕事で帰ってからすぐ寝ました。
そんなどこにでもいる人間から一言。

がんばれ。
34.40いち読者削除
イヴの夜は大学の研究室で独り篭りっきりの作業でしたよ'`,、('∀`)'`,、 …………寂しかったっす。
まあアレだ、アリスよ。思い人がいるだけ幸せってやつだよ(何)。
40.40名無し毛玉削除
アリスじゃなくて作者&読者のような気が…_| ̄|○
63.100名前が無い程度の能力削除
おう…