Coolier - 新生・東方創想話

欠月永夜 その4

2004/12/18 17:30:26
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永遠亭の長い廊下。新たな人物の出現により空気は張り詰めていた。
珍しいことに霊夢も藍も緊張している。紫は……あまり変わらないようにみえる。
「説明する言葉も持たない? 地上の人間と妖怪ときたらこれだから困るわ」
「あんたは地上生まれじゃない?」
「私は八意永琳。月の民よ。そこの、あなた達が倒した姫もそうよ」
「だからこれは事故だってば」
「あらあら、霊夢。実はわかっててやったのよ?」
「やっぱり。だとするとこのまま帰すわけには行かない」
「……話がややこしくなる。私は月が元に戻ればそれでいいのに」
「残念だけどそれも出来ない。少なくても今夜中はこのまま。明日の朝になれば術は解くわ。けれど、あなた達はそれを確認することも出来ない」
「どうなるのかしら? 月の民」
紫は相手を挑発する。
「あなた達はここで死ぬ。輝夜をひどい目にあわせた罪を、その命をもって償ってもらう。……輝夜が倒れた今、力を押さえる必要も無い。今宵は全力よ」
「つまりは弾幕ごっこね」
「弾幕ごっこ? 違うわ。今から始まるのは、殺し合いよ」
「それは楽しみ」
「……これって楽しめる状況?」
「……紫様ですから……」
「さて、遺言は決まったかしら?」
永琳はどこからともなく召喚した弓に矢を番えキリリと引き絞る。
「まだと言ってもこれ以上待たないけど」
放たれた矢は数条の光に変わり霊夢たちに降り注ぐ。
「う~ん、これは当たったら死ぬわね……」
「その通り。紅白のあなたもそこの狐みたいに早く戦闘態勢になったら?」
「それもそうね。紫、あんたも少しは動きなさいよ」
「はいはい。藍、好きなようにおやり」
「あんた、動く気ないでしょ?」
「まあ、……紫様ですし……」
会話の間にも永林の矢が降り注ぐが霊夢たちはまだ余裕があるようだ。
「……すこし頭にくるわね。これでどうかしら? 神符『天人の系譜』」
網目のようなレーザーが展開され、さらにすきまを縫うように大量の妖弾が迫る。
「こんなもの!」
藍はわずかなすきまを掻い潜り、至近距離で尾から毛針を打ち返す。霊夢もそれに合わせてお札を打ち込んだ。タイミングはバッチリ、逃げ場はない。
だが、永琳は余裕の表情。
スペルカードを自ら破棄。符にこめられた力が強烈な光と共に弾け毛針もお札も一瞬で打ち消される。霊夢も藍もたまらず目をかばう。
「まだまだ、甘いわよ」
限界まで引き絞った矢が放たれる。矢の狙う先、藍は目をかばい、矢の到来に反応できない。
「藍! 右に飛びなさい!」
紫の声に藍が反応し言葉どおりに跳躍。
「ふふふ、残念。読めてたわ」
着地した地点にニの矢が。正確な狙いで矢は藍の胸に突き立った。
「あ……紫様……」
「まず1人……」
血がにじむ藍の胸はまだわずかに上下している。だが、そう長くは持たないのが明らかだ。
紫はその様子を見ても表情一つ変えず、ただ戦況を傍観している。だが、側にいるてゐは紫の変化に気づいていた。
てゐはその場から逃げ出したいのに、紫からあふれ出す身も凍るような妖気に当てられて完全にすくみあがっていた。
「回霊『夢想封印 侘』!」
「蘇生『ライジングゲーム』!」
光と光がぶつかりあい互いの力を相殺してしまう。
「つっ……これでもだめなの?」
霊夢は懐を探り御札とスペルカードの残数を確認する。どちらももうほとんどない。
「どうしたのかしら、博麗の巫女。あなたの力はその程度?」
「次で決めるわ! 神霊『夢想封印 瞬』!」
「最後でその程度……期待はずれだわ。天呪『アポロ13』!」
呪と呪が激しくぶつかりあい、一進一退を繰り返す。
「さてと、もう遊びは飽きたわ」
突然、天呪の威力が跳ね上がった。その衝撃に耐え切れず、霊夢の手元でスペルカードが砕け散る。
「しまっ―きゃっ」
スペルを破られひるんだところに大量の妖弾が。そのいくつかが霊夢を捉えた。
立ち上がり戦おうにも体がいうことを聞かない。藍と同じく虫の息だ。
(まずい……ホントに死ぬかも……)
霊夢は残った力で首を動かし、紫の方を見た。思わず息を呑む。
(あ~あ、頼むから巻き込まないでよ。……この状態で結界かかったら終わりだわ)
「……どちらもまだ生きているの? 頑丈ね。……まあ、いいわ。止めはあなたの後にしましょうか」
「あら、そんなこと出来て?」
「式を使い戦うような妖怪に負ける要素はないわ」
「あの式は戦闘用ではないわ。雑用を任せる為の式。私、これでも戦闘は得意なの」
紫から押さえ込まれた妖気が一気に解放される。間近で当てられたてゐはそれだけで失神した。怖気も走るような禍々しいそれは普段の紫からは想像できない。
「……あなたがやっていることは不毛なこと。復讐は復讐を呼び込み無駄に血が流される。それを理解できる頭を持ちながら、なぜ復讐しようとするの?」
「理解していてもやらねばならない時もある。私にとっては姫が、輝夜がその理由」
「そう、なら私も行動に移させてもらうわ。理由は二つ。一つは藍を、私の大事な式をこんな目に合わせた。二つ、幻想郷のためにも博麗の巫女をこんなところで失うわけには行かない。次の世代にその任が渡るまで霊夢は博麗の巫女たらねばならない。……それと一応大事な友達だし。というわけで、私はあなたを倒して、さっさと帰ることにする」
「つまりはその二人の復讐、と?」
「大正解。さあ、月の民、覚悟はよくて?」
紫の指先に光がともり、その軌跡が小さな八卦図を描く。
「今ならまだ見逃してあげられるわよ?」
紫から放たれるとんでもないプレッシャー。
「くっ! 秘術『天文密葬法』!」
「……これで決まり。あなたが生き延びる道は蜘蛛の糸より細く蜘蛛の糸より複雑な弾幕の道よ」
八卦図を両手の親指と人差し指で作った輪の中に収め、さらにその中心に結界に落とし込む対象、つまりは永琳を捕捉する。
「一名様ご案内。『深弾幕結界-夢幻泡影-』」
永林の秘術が一瞬で破られる。捕らわれた結界に秘められた力を感じ永琳は戦慄した。
同時に破る術が自分にないことも思い知らされる。
「ばかな……これほどの力の持ち主が……」
大量の魔方陣がとんでもない威力を秘めた妖弾を配置していく。最早逃げ場はない。
「せめて、5番目くらいまでは避けてね?」
「5番……?」
「さあ、楽しい弾幕の始まりよ? ……収束せよ」
紫の言葉と同時に弾幕結界が収束を開始した。

「……しかし驚いたわ。生きて出られるはずはないのだけれど?」
弾幕結界を避けきり永琳はまだ立って意識を保っていた。だが、身体はぼろぼろ。
「……あいにく私は死ねない身。避けきれてなんかいないわ。普通の身体なら5回は死んでるから」
「そう。まあ、生き延びちゃったものはしょうがないわ。こっちの二人もまだ生きてるから、これで分けにしましょう。……もっともあなたに選択肢はない」
「あらら、どうしたの永琳? ぼろぼろね」
「姫……大丈夫ですか?」
「まあ、ちょっとこぶになってるだけだけど。イナバがぶつかっただけだからたいしたことはないわ」
「そう……ですか……」
安心して気持ちが緩んだのかそこで永琳は気を失ない倒れた。
「何がどうなってるのかしら? そこのすきま妖怪さん、できれば教えてほしいわ。あちらにお茶を用意させるからいかが?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。あと、そこで寝てる二人を頼めるかしら? 二人の境界をいじっておいたからどこかに寝かせておけば勝手に起きてくるわ」
「ええ、いいわ。ん? ……刻符? ……あなた達なの、夜を止めていたのは?」
「そうよ。でも、術士が戦闘に入って地上の密室とやらも解けたみたい」
「……それなのに月の使者がまだきていない?」
「月からの使者? そんなものこの幻想郷には入ってこれないわよ?」
「え?」
「博麗大結界っていう大きな結界があるから。もしかして、それも知らずに月を隠していたのかしら?」
しばらく輝夜の動きが止まった。
「……満月は月と地上を繋ぐ鍵。けれど使者には来て欲しくなかった。だから永琳が地上の密室の術をかけたのに……最初からその必要も無かった?」
「そういうことになるかしら?」
「長い間引きこもり隠れ住んでいた意味も実はなかったり?」
「ご愁傷様。あら、綺麗な満月……」
永遠亭の渡り廊下、ぐったりとうなだれる輝夜をよそに紫はそこから空を見上げる。見上げれば綺麗な満月が。色々あったがとりあえず目的は果たせた。
幻想郷に本来の月が戻ってきた。
「ふぁ……さて、これで安眠できるわね」
紫は大きなあくびを一つ……
222番が取得できた時ちょっと感動したので劇中で使用してみました。
うまく表現できなかったけど……
ASOBU
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