Coolier - 新生・東方創想話

菩薩様が見てねぇ

2004/12/17 10:14:25
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「幽霊が出るッ、間違いないッ」ともっぱらの噂の白玉楼。
その広大な館の主である西行寺幽々子と、その庭師である魂魄妖夢が
居間で何やら乳繰り合っているように見せかけて普通に話していた。


「ねぇ妖夢、私ちょっといい事考えたんだけどって何で逃げるのよ」

「ふびゅふッ!?」


「ねぇ妖夢」と呼びかけられた時点でただならぬ不安を感じ
亜光速の速さで逃げ出そうとした妖夢の足を引っつかんで倒す幽々子。
何やら妖夢の鼻の辺りから「メチッ」等と言う鈍い音が聞こえてきたので
後で慧音に無かった事にしてもらうとしよう。


「この変わり映えの無い日常を素敵に無敵なビューティフルライフに変化させる術を思いついたわ」

「……幽々子様の仰るところの『いい事』が今まで何か好ましい結果を出した事ありましたか……?」

「本当に大事なのは結果じゃなくてそこに至った過程なのよ」

「(その過程もアレだから言ってるんじゃないですか……)」


まるで新しい悪戯を思いついた少女のように天真爛漫な笑顔を浮かべる幽々子。
そんな主を見ながら、妖夢は気付かれないように小さく溜息をついた。

……考えてみればいつもそうだった。
幽々子様の思いつきは常に私にろくでもない結果をもたらす。
最近の例では、西行妖を咲かせようとした時には何やら紅白と黒白と
変なメイドがかっ飛んできて札やらレーザーやらナイフやらで主従共々ハチの巣にされた。
確かに自分も「久し振りに斬り応えのある獲物だわウッフッフ」と
ちょっぴり喜んでいたのは事実だがそれはまた別の話だ。
どうせ今回もまた目を覆わんほどに凄惨極まりない大惨事が発生するに決まっている。
何とかしてその凶行を阻止せねば私の命その他諸々が危ない。
……ああ、幽々子様の思わず劣情を催しそうなキュートな笑顔が今はこんなにも恐ろしい。


「でね、この間こんなモノを手に入れたんだけど……」


ごそごそと幽々子が帽子の中に手を突っ込み、何かを取り出す。
出てきたものは明らかに帽子のサイズより大きかったのだが妖夢はあえてツッコまなかった。


「これは……本、ですか?」


妖夢の言う通り、それは本だった。
大きさの割には妙に厚さがあり、表紙には何やら二人の少女が
指を絡ませて熱く見つめ合い微笑んでいる絵が描かれている。
その絵を見た瞬間妖夢はふと寒気を感じたが、この時はさして気にも留めなかった。


「外の世界の本らしいわよ。確か……香霖堂だったかしら?あそこからかっぱらって来たの」

「かっぱらっ……って……幽々子様、強盗ってご存知ですか?」

「ああ、それなら大丈夫よ。反魂蝶で平和的に解決してきたから」

「それのどこが平和的なんですか!」


あまりにも非常識極まりない主の行動に頭を抱える妖夢。
一体何を考えて生きているのだこの天然大食い娘は。死んでるけど。
そんな従者とは対照的に、幽々子は鼻歌交じりに本をめくりとあるページを探していた。
ちなみにこの時妖夢の脳内では「斬殺」という単語が凄まじい勢いで渦巻いていたが
どうにかその衝動を押さえ込む事に成功した。


「あ、これこれ。ほら、見て御覧なさい」

「は、はい……って………な、ななななななななななナンデスカコレはぁ──ッ!?」


妖夢の隣に擦り寄って、本を大きく開いてみせる幽々子。
そしてそのページで繰り広げられていた惨劇を視認した妖夢は
あまりの衝撃に血を吐きながらぶっ倒れた。


「あらどうしたの妖夢?顔がまるでナイフの様に真っ赤よ」

「ナイフは基本的に赤くないってそれもしかして返り血ですかッ!?
そ、そんな事より何なんですかその破廉恥極まりない春画は──ッ!?」


驚きのあまり思わず二百由旬の一閃を発動させ部屋の隅まで飛びのいた妖夢が叫ぶ。
付随して発生した弾幕で部屋のふすまと障子が根こそぎ吹っ飛び
悲しいくらいに見晴らしがよくなったがこの際そんな事はどうでもいい。


「そんなに驚かなくてもいいじゃない。いつも私達だって似た様な事やってるでしょ」


幽々子の開いたページには、二人の少女が仲睦まじく
お互いの身体を愛撫し合っているシーンが描かれていた。
それだけなら妖夢もこれ程までに衝撃を受けることは無かっただろうが、
あろう事かその少女達は何も身に付けていなかった。
まさに背徳に彩られた禁断の楽園が降臨した奇跡かつ最悪の瞬間だ。
たぶん今頃お空の上で菩薩様がみてる。


「それとこれとは別です!と、とにかくそんないかがわしいモノは
即刻蓬莱の薬に匹敵する禁忌の具現物として処分してください!」

「嫌よ、こんなに実用性の高い便利な本を捨てるなんて」

「ソレのどこに実用性が……って……ま、まさかッ……!?」

「ほらこの絵なんか凄まじいわよ、人の身体って結構無茶利くのね。私も試してみたくなったわ」

「勘弁してくださいよぉぉぉぉぉぉ!!」


いかがわしさの極致としか言い様が無い絵を見せながらじりじりと近づく幽々子と
まるで地獄の鬼に追い掛けられているかの様な焦燥し切った表情でずりずりと後ずさる妖夢。
その仲睦まじい姿はまるで夕暮れの海岸で鬼ごっこに興じる恋人同士の様だ。
ただしある意味鬼「ごっこ」と言っても鬼がものの例えではなく実際に鬼だが。


「ほらほら妖夢、机上での学習の次は現場での実習で
しっかりと知識を身体に経験として刻み込まなきゃ」

「そんな知識は脳内の引き出しに突っ込んで厳重に鍵を掛け
幾重にも封印した上でその引き出しごと廃棄してくださいッ!」

「……あぁ──ッ!魔理沙が庭でマスタースパークぶっ放してる──ッ!!」

「何ですとぉ──ッ!?おのれ不届き者めがぁぁぁぁぁぁ!直ちに成敗してくれ……って……誰も……ッッ!?」


幽々子のシンプルかつ巧妙でそれでいて単純、何より馬鹿らしい罠に引っ掛かってしまった妖夢。
うっかり庭に目を向け、誰もいないことに気付いて慌てて振り向いた時にはもう全てが遅かった。
弱り切った獲物のハラワタを食いちぎらんとする獰猛な肉食動物の様に、幽々子が妖夢に飛び掛った。


「恋色ギャストリドリィィィィィィム!!」

「お願いですから人の話をって嫌ぁぁぁぁ!庭師虐待で訴えてやるぅぅぅぅ!!」




─少女同衾中─




「……ふう、実にいい勉強になったわ(はぁと)」

「う……うう……こ、腰が……足が……うずらが……ああ……」


実に満足そうで尚且つ妖艶な笑みを浮かべる幽々子と、
精根尽き果て刀折れ矢尽きたと言った風情で何やら謎の単語を呟く妖夢。
何時の間にやらしっかりと布団が用意されていた所に幽々子のデリカシーが見て取れる。
肌に畳の跡を付けるなどもっての他だ。まさに布団イズサンクチュアリ。
そして、まだ半分くらい現世に帰ってきてない妖夢に向かって幽々子が更に衝撃的な事を口走った。


「さあ妖夢、こんな楽しい事は私達だけで独占しちゃ勿体無いわよ」

「~~~~ッ!?」


そこまで言っただけで主の言わんとする事を理解したのか、妖夢の顔が一気に青ざめた。


「だ……だめです、幽々子様ッ……こ、こんな惨劇は……私だけで十分で……」

「惨劇?私はとっても楽しかったけどなぁ(はぁと)」

「お願いですからもう少し被害者の気持ちってモノを──ッ!」

「え─、いい考えでしょ?誰か適当な人に狙いを定めて
この本を使って日頃鬱積した想い人への劣情その他を刺激的に刺激。
しかる後それによって巻き起こる白百合的カーニバルをじっくり鑑賞。
私達は楽しめて上手く行けば新たなカップルも誕生、まさに一石二鳥よ」

「それによってもたらされる被害にも目を向けてくださいッ!」


あまりにも自分勝手極まりない主の言動に思わず感動の涙を流す妖夢。
確かにそれはそれでどことなく見てみたい気もするが、
自分の様な者をこれ以上増やすわけにはいかない。


「ま、一時の暇潰しにはなるでしょ」

「もはや暇潰しの範疇から二百由旬程逸脱してますよ!」


この時妖夢は何となく「無駄な抵抗」と言う言葉の意味が分かった気がした。
これだけの凶行を暇潰しと言い切る様な悪魔に自分が敵うわけがない。
再び自分の無力さに苛まれ涙を流す妖夢。


「それじゃ早速出発よ。最初は……そうねぇ、慧音達辺りがいいかしら」

「……いきなりあの二人ですか?どうせならもう少し……
例えば咲夜さんとレミリアさんの様にある程度双方にその気があると思われる人達の方が……」

「何血迷った事言ってるのよぅ、それじゃ普段と同じで全然面白くないじゃない」

「(あ……悪魔ッ!凶悪な悪魔がッ!!)」

「名付けて、悶々とした想いを溜め込んでると心身共に良くないから理性の檻を壊してあげよう大作戦、
作戦コード『恋色U.N.オーエンは月まで届け、不死の彼女のマスタースパークの煙なのか?~ふたりは不死キュア1970~』発動ッッ!!」

「(コードネーム長ッ!!)」


かくしてこの瞬間、白玉楼にて。

幻想郷史上に出来る事なら残したくなかったけど何の因果か残っちゃった大惨事の賽が投げられた。


「あの……立てないんですけど」

「置いてっちゃうわよ?」

「いやだから立てないんですってば」

「今すぐ立たないとギャストリドリームよ?」

「任務了解ッ!!(いつか絶対庭の手入れ中の事故を装って待宵反射衛星斬でぶった斬ってやる)」



・ ・ ・



「いかんせん慧音は真面目だからね。でもああいうタイプこそ秘めた欲望は強烈だったりするのよ。
この本でリビドーを過激に刺激されたところに妹紅が輝夜に襲われているのを見たら
それはもういてもたっても居られなくなって自分も参加するに違いないわ」

「(これはどう考えても犯罪なのでは……)」


幻想郷の何処かに位置する深い竹林のほぼ最奥。
日の光すら弱まって届く地上の檻とも言うべきその場所に
幽々子と妖夢はこっそりと潜んで、カーニバルの主賓達の到着を待っていた。


「ちょうど読み終わった頃合ね。本に手紙を挟んでおいたからもうすぐここに着く筈」

「……手紙?」

「ええ、『この本が私の気持ち、この場所で待ってます 妹紅より』って書いておいたから効果覿面よ」

「(うッわぁぁぁぁぁぁ)」

「……あ、ほら、二人が来たわよ」


主の残酷極まりない恐るべき所業に思わず言葉を失う妖夢。
それと同時にまだ悪の芽が小さい今の内に根っこから刈り取るべきかと思ったが
どうせ自分ごときが歯向かったところで半魂蝶もしくは爆熱ユユコフィンガーでかっ飛ばされるだけだと気付き
世界平和の為には何としてでも倒すべき敵を目の前にして何も出来ない己の弱さに歯噛みして涙を流した。


「輝夜ァァァァァァ!!今日こそその首貰い受けるぅぅぁぁああ!!」

「会って早々首が欲しいだなんて何て素敵な愛の告白ッ!
分かったわ妹紅!首どころか私の生き肝丸ごと捧げちゃうわよぉぉぉぉぉぉ!!」

「やっぱり私帰る──!!」


そしてそれとは対照的に実に微笑ましい殺し合いを繰り広げる二人の永遠娘。
言わずと知れた変態地球外生命体・蓬莱山輝夜とほんのり逆恨み系復讐鬼・藤原妹紅である。
妹紅が目を血走らせ殺気をぶちまけながら凄まじい勢いで輝夜に飛び掛ったが、
自分とは別の理由で目を血走らせ、殺気よりも数倍危険な感情を惜しげもなく垂れ流す輝夜の春度にあてられ
そのあまりの恐怖に一瞬で戦意を失い、間髪入れずに逃走の態勢に入った。


「それにしても……随分都合よくあの二人が戦って……って、もしかして……幽々子様……」

「うふふ、そんなのお互いに「ここで相手が待ってる」って言えば一発よ。我ながら天才的な策略だわ」

「(これっぽっちも悪びれもせずッ!?)」


もう我侭しか聞こえないと言った感じの絶望感に打ちひしがれる妖夢。
手の施し様が無いとはこういう場合を言うのだろうか。
馬鹿は死ななきゃ治らないと言うけども既にこの人死んでるし。
と言う事は結局私に出来る事は幽々子様にツッコむ位しか無いという訳で
ああ幻想郷の皆様申し訳ありません、私が無力なばっかりにこの天然大食い悪魔を野放しに。
と、妖夢が自分を責めている間にも輝夜達の攻防は激しさを増していく。


「妹紅ッ……そんなに私の事、嫌い?」

「ひゃッ!?ど、どこ触ってッ……や、やぁんっ!た、助けてー!助けて慧音ー!色々散らされるー!」

「ッ……ああっ……私の、私の手で妹紅がこんなに可愛い声をッ……!!夢みたい……妹紅──!!」

「寝言は寝てから言ってそしてそのまま二度と起きてくるなぁぁぁぁぁぁ!!
それとその血走った目でその手つきは止めて──!!」


凄まじい勢いで揉み合う妹紅と輝夜。
妹紅の神速の連撃を物ともせず求愛行動に至らんとする輝夜はまるで重戦車のようだ。
ちなみにこの場合の「揉み合う」は、輝夜がする分においては
ごく局部的な意味を含んでいる事を付け加えておく。


「うーん……妹紅も随分しぶといわねえ。
慧音が来る前にある程度剥かれて貰わなきゃ計画が狂っちゃうんだけどなぁ」

「(そんな計画いっそ狂ったほうが……)」


輝夜が力の限りに妹紅に抱きついて触って頬擦りし、その他諸々の破廉恥な行為を繰り出すが
妹紅もこのまま無残に散らされてはなるものかとあらん限りの抵抗をする。
それを見ながらじれったそうに言う幽々子と、そんな主の姿を見て悲しい気持ちを持て余す妖夢。
そして次の瞬間、幽々子がどんな極悪人でも震え上がる信じられない凶行に出た。


「よーし」

「よーしって死蝶霊使用って一体何する心算ってお待ち下さい幽々子様!!
それは人として以前に例え僅かであれ理性を持つ知的生命体であるならば
絶対に踏み越えてはならぬ悪魔の世界への入り口ですッ!!」

「私もう死んでるから生命体じゃないもん」

「(揚げ足を取られたッ!!)」


ぶわぁ、と幽々子の周囲におびただしい数の死蝶霊が舞う。
適当に撃ってりゃ当たると豪語するだけあってまさに質より量、自機狙いよりばら撒き弾だ。
これだけ派手に弾幕を展開したら援護射撃にならない様な気もするが
幸い輝夜と妹紅は目の前の相手をどうにかする事に夢中なので奇跡的に気付かれなかった。


「援護射撃……開始ッ(はぁと)」

「ついにこの人悪魔に魂売ったぁぁぁぁぁぁ!!」


妖夢の必死の嘆願も受け入れられず、ついに幽々子が妹紅の後頭部目掛けて死蝶霊を放った。
援護射撃どころか明らかに殺しに行ったレベルの弾幕だが、
とりあえず妹紅も輝夜も死なないのでその辺りは問題無いだろう。
そのかわりそれ以外の部分が問題塗れだというのは言うまでも無い事だがあえて言っておく。


「その手をどけ痛ッ!?な、何か飛んで来たッ……って……や、ヤバッ……きゃあッ!?」

「もこたんゲットだぜ!てるよ流柔術絶対壊滅奥義『恋の蓬莱横四方固めクラァァァァァァッシュ!!』」


幽々子のぶっ放した死蝶霊が「カチョォーン」といい音を立てて妹紅の後頭部に華麗に直撃した。
その衝撃で思わず妹紅が輝夜から意識を外してしまい、そしてその隙に輝夜が一気に妹紅を押し倒した。
その際固い地面では無く、柔らかい落ち葉が盛っている所にちょうど着地するように押し倒している辺りは
さすが女性同士と言う事で、輝夜のさりげない優しさがありありと見て取れる感動の瞬間だ。
死蝶霊使って打撃系のダメージを与える事が出来るのかどうかは甚だ疑問だがこの際それはどうでも良い。


「丁度誰も来ない竹林の奥ッ!こんな僥倖をみすみす逃す手は無いわ!
シャルウィプレイデンジャラス竹取物語──!!」

「のわぁぁぁぁぁぁ!あんた脳味噌膿んでるって!絶対膿んでるって!
いや──!宇宙人が!凶悪極まりない変態宇宙人がぁぁぁぁぁぁ!!」


ついに輝夜の手が妹紅のサスペンダーにかかった。
ああ、私はこのままなす術なく輝夜にある意味ぶっ殺されてしまうのか。
妹紅がそう思った、正にその刹那。


「待てィ!悪党ッ!!」

「な……何奴ッ!?」


突如竹林に響き渡る勇ましい叫び。
いざこれからと言うところで水を差された輝夜が振り向くと、
何時の間にやら出現した大きな崖の上に何者かが立っていた。


「天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!悪を掘れと私を呼ぶッ!」

「誰が呼んだかキモけーね!誰も呼ばない中国の本名!目に付く全てを華麗にcaved!!!!」

「幻想郷の歴史は私が守るッ!!ヒストリーイーター上白沢慧音……参ッッ!上ッッ!!」


我等がヒーロー「ヒストリーイーター上白沢慧音」が妹紅の人生ほぼ最大のピンチに颯爽と現れた。
歴史を守るとか言っといてヒストリーイーターとは一体どういう了見だという話だが
一旦ツッコみ始めると芋蔓式に二次災害が発生し事態の収拾がつかなくなるのでこの際置いておく。


「そこの黒髪姫カットの不埒者!今すぐ妹紅からその薄汚い手を放せ!
さもなくば唯でさえ小型なその胸を最初から一切無かった事にするぞ!」

「何よ!そう言う自分こそ無駄にデカイだけのまんじゅう怪人キモハクタックーじゃないの!
大きいことはいい事だっていう時代はとうの昔に過ぎ去ったのよ!このタコ!ハクタクだけどタコ!!」

「ふん、ミニマムサイズ過ぎて肉眼では確認できない様な乳しか持ってない奴が何を言う!
その程度の質量と柔らかさで私と張り合おうなどとは片腹ならぬ片胸痛いわ!」

「け、慧音……」


実に頼もしく勇ましく、そして力強く言い放つ慧音。
その人間には指一本触れさせない、と言う気迫がビシバシと伝わってくる
威圧的で高圧的、まさにヒロインのピンチに華麗に現れた正義のヒーローだ。
幽々子の仕掛けた罠(本)の効果か、満月の夜どころか真ッ昼間なのにも関わらず変身しているが
この方が相手に対してより甚大な精神的ダメージを与えられるので全く問題無い。
今の慧音は明らかに本気と書いてマジだ。
そしてその凛々しさに思わず妹紅の頬が桜色に染まる。
更にどこからともなく現れたリリーホワイトが何やら無意味に弾幕を展開している。
因みにリリーホワイトのリリーとは「百合」という意味に取れるがこれが一体何を暗示しているかは不明である。


「誰の胸が巨大隕石の落下地点ですってェーッ!?誰が何と言おうともこたんの貞操は私のよ!
貴方みたいな歴史の教科書が肉まんふたつぶら下げて歩いてる様な怪奇生物には渡さないわッ!!」

「世迷い言をぬかすな!
もこたんと共にヴァージンロードを歩むのは他の誰でも無く私だと七十億年前から歴史に記されている!
貴様の様な『恐怖!戦慄のまな板人間あらわる!!』的な幻想郷外生命体は大人しく自分の星に帰れィッ!!」

「ちょっと待ってもこたんってひょっとして私の事ッ!?」


あまりにも男らし過ぎて涙が出そうな慧音の言葉に、妹紅が悦びの余り豪快に鼻血を出しながらぶっ倒れた。
何やら「うわーん慧音まで狂っちゃったよー」等と言いながら咽び泣いている辺りにその感動の大きさが見て取れる。


「永遠を生きられない貴方にはもこたんの相手は相応しくないわッ!大人しく身を引きなさい!!」

「フ、馬鹿め!ならば貴様の生き肝を貪り食ってやるまでだ!そのキモよこせぇぇぇぇぇぇ!!」


迸る妹紅への想いと異常なほどの興奮の為か、二人とも弾幕を一切展開せずに凄まじい打撃戦を繰り広げ始める。
想い人のハートを射止める為の闘いにおいてスペルカードや楔弾やレーザー、
あまつさえ自機狙い弾等に頼るなどもっての他。
己の身体一つを剣とし盾とし、全身全霊にてにっくき恋敵を叩き潰し捻り潰しすり潰し吹き飛ばす。
それこそが想い人に己の真剣な感情を伝える上でもっとも重要な事なのだ。
死んでもこの腕を放すな、信じろもしも何があっても。妹紅にとってはある意味今が人生で最悪の瞬間だ。


「待っててもこたんッ!早いトコこのある意味ミスタードリラーな妖怪をぶっ飛ばして
それから二人一緒に永遠に続く爛れ切った百合の花咲く桃源郷紀行に出発よッ!」

「ほざくなまな板!貴様を倒してもこたんと共にめくるめく倒錯の菊花壇へと掘り進むのはこの私だ!
例えこの首がもげ腕を食いちぎられ足を切り落とされ胴を貫かれたとしても貴様にもこたんは渡さんッ!!」


目にもとまらぬ激しいドツキ合いを繰り広げながら二人が叫ぶ。
そしてどちらが勝っても自分を待ち受けている運命は大差ないと言うことを知り
そのあまりの衝撃に妹紅が頭を抱えながら涙を流してしまいにゃ鼻血も噴いた。
ちなみにこの時妹紅は「慧音が相手だったらまあいいかなー」と一瞬思ったのだが
慧音の頭から生えている二本のツノを見た瞬間、何故か背中側の腰のもう少し下辺りに
凄まじい悪寒が走ったのですぐさまその甘い見通しを破棄した。


「諦めなさい!不死である私に歯向おうなんてそんなの無意味で無為で全くの無駄よッ!
無ゥゥ駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァ!!」

「愛以外に人を強くするものなどあるものか!そして愛とは言わば双方向通信!
つまり貴様のソレは愛では無くただの醜い劣情だ!私ともこたんの金剛石より固い絆を見て悔い改めろッ!
ホォォリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリィィィィ!!」


永遠を生きる輝夜の全く隙の無いまさに永遠なるコンボラッシュと
慧音の無差別絨毯爆撃とでも言うべき超重量級の打撃がぶつかり合い、
打撃の交錯によって発生した衝撃波で周囲の草が抜け竹がひしゃげ地面が削れる。
上下左右あらゆる角度から打ち込まれる二人の連打はまるで重機関銃の様だ。


「ウフフ……さ、面白くなってきたわよ妖夢ッ!この先はもう瞬き禁止ッ!
刹那の暇すら逃さず網膜が剥がれる程に眼に焼き付けるのよッ!!」


まさに手に汗握る血で血を洗う愛と劣情のぶつかり合いに、
この原因を辿ってみると死ぬほど悲しくなる闘いの首謀者がヒートアップする。

……そして、その異常なほどの興奮のあまり自分の背後で起こっている
目前の闘いなど足元にも及ばぬ無残極まりない大惨事には気付かないままに。


「うおおおおおお!滅びろ変態!去り行け姫カット!喰らえ必殺!ハリケェェェェェェン・ジューサァァァァァァ!!」

「くッ……こ、こんなッ……こんな程度のッ……うッ……あ、あぐッ……きゃぁぁぁぁぁぁ──!」


ともかく、やはり最後に勝つのは正義であり美しき愛であった。
慧音の凄まじい回転を伴った渾身の右アッパーが輝夜の胴に突き刺さり、
そのあまりの威力に輝夜は空の彼方へと吹き飛んでいった。
ちなみにこの技を出す瞬間、慧音は頭突きにしようと考えていたのだが
何故か凄まじい全身に悪寒が走ったので急遽アッパーに変更したのだがそれはこの際関係無い。


「ホリーヴェデルチ(掘りまくりだ)」


『バァァァ──ン』と決めポーズを取る慧音。
そしてこんな感動的な光景を見せられてあの天然娘が冷静でいられる筈が無い。
そう、知る人ぞ知る白玉楼の主にして幻想郷五指に入る無自覚トラブルメーカー、西行寺幽々子である。


「ぃやったぁぁ──ッ!やっぱり最後は愛が勝つのねッ!もう私感動の極みで溢れ出る涙が止まりそうに無いわ!
ほら見て御覧なさい妖夢!あれこそまさに世界を包む大いなる愛の具現……ッ……!?」


大歓声を上げながら幽々子が妖夢の方を振り向く。
しかし次の瞬間、歓喜と興奮に彩られた幽々子の表情が色あせ凍りつき
代わりに驚愕と絶望、そして衝撃にまみれた表情になっていく。


「……どうも……この度は……随分とお世話になりまして……」

「ゆ……幽々子様……そ、その……す、すみません……」


まさに惨劇、まさに衝撃。幽々子が慧音と輝夜の闘いに夢中になっていた隙に、
妹紅が幽々子のすぐ真後ろ、手を出せば必殺の超至近距離まで近付いてきていた。
そして恐縮しきった様子で呟く妖夢。あまりにもあまりな幽々子の凶行を見るに見かねて、
良心の呵責に耐え切れずに洗いざらい妹紅に喋ってしまったようだ。
と言うかあんなに大声で色々叫んだり飛んだり跳ねたりしていれば見つからない方がおかしい。


「あらあらそんなお礼を言われるほどの事じゃないわよウフフ」

「いやいやお陰ですッッッッごくろくでもない目にあわせて貰ったからアッハッハ」

「ウッフフフ」

「ハハハ」

「エヘヘヘヘ」

「クックック」

「(目がッ!目が笑ってないッ!!怖ッ!!)」


とりあえず表面ではにこやかに笑いあっているが内に渦巻く怨念を隠す事が出来ていない。
そのあまりのプレッシャーに妖夢は身体の震えが止まらなくなり危うく卒倒しかけた。

やがて風船が萎む様にして二人の笑いが止まり、刹那の静寂を挟んだ次の瞬間。


「……そんなに見つめちゃいやん(はぁと)」

「───────ッッッッ!!」


幽々子がわざとらしく小首をかしげて言った。
一瞬遅れて妹紅の背中に鳳凰を模った焔が巻き起こり、
ブァチンッ、と、アキレス腱断裂の如き音を立てて妹紅の血管がキレた。
血の吹き出した位置から判断して恐らく断裂したのは頚動脈だと思われるが
何処の血管が切れようととりあえず死なないのでそんな事はこの際どうでもいい。


「キシャアアアアアア!!消えて亡くなれこの大ボケ幽霊────!!」

「な、何で私まで!?熱ッ!熱いですよ!火!火付いてますって!明らかにこれ大惨事ですから!」

「あらら、竹に燃え移っちゃった。これはもう完膚なきまでに大火事の気配ね」

「何をそんなに冷静に現状を分析してるんですかぁぁぁぁぁぁ!!逃げるんですよォ──ッ!」

「逃がすかぁぁぁぁぁぁ!!パァァァァァァゼストバイッ!フェニックゥゥゥゥゥゥス!!」



─少女炎上中─



・ ・ ・



その夜、白玉楼にて。
広大な庭を一望する縁側に座り、夜空に燦然と輝く月を眺めつつ
幽々子と妖夢が茶菓子をつまみながらお茶を飲んでいる。
ちなみに何やら妖夢の頭がタンコブと包帯だらけになっているのは
あの後結局逃げ切れずに妹紅にとっ捕まえられて殴られまくったからだと言う説があるが
その真偽を確かめる術は今のところ存在しないのでとりあえず置いておく。


「今回の騒ぎでようやく気がついたわ。
自分がされて嫌な事は人にもしない、自分の勝手だけで周りの人を巻き込んではいけない。
そして常に相手の立場に立って物を考える努力をしないとね」


ずず、とお茶を啜り、しみじみと呟く幽々子。
ちなみにこの時妖夢は、幽々子があまりにも真面目な顔で真面目っぽい事を口走ったので
あわてて永遠亭めがけて飛び出し速やかに医者を連れてこようとしたのだがこの際それはどうでもいい。


「ッ……幽々子様……」

「私の我侭の所為で妖夢を傷つけちゃっただなんてそれこそ死んでも死に切れないわ。
こんな愚かしい事態はもう引き起こさない……今まで御免なさい、妖夢……」

「わ……分かってくれたのですね幽々子様ッ!その言葉を待っておりました!」

「さあ妖夢!私の胸に飛び込んでおいで!二人で、そう、二人で何処までも歩んで行きましょう!」

「ゆ……幽々子様ぁぁぁぁぁぁ!!」


妖夢の目を真っ直ぐに見つめ、真摯な表情で言う幽々子。
強く、それでいて優しく抱き締め合う二人。まるで雪の中で卵を温めるかのように。
史上最高の芸術家でも写し取る事の出来ない、究極の美が誕生した愛と涙と感動の瞬間だ。
人間は何時の世も失敗してから気がつく愚かな生き物。
しかし人間はその経験を生かして自分の行動を反省し未来に繋げる事が出来る筈。
一歩ずつでも確実に進んでいこう。そう、となりにいる誰より大切な人と手を取り合って──。








「次はもっと上手くやるわ」

「全然分かってないじゃないですかぁぁぁぁぁぁ!!」

前作に持てるネタの殆どをつぎ込んだので今回は比較的難産でした。
執筆期間と内容が比例しないのが実に辛いところです(馬鹿)

それにしても何と言いますか、
人を笑わせるための台詞以外の全てを削ったギャグ、
例えば一日中仕事をしてズタボロに疲労した社会人の方々や
受験等でおびただしいストレスにさらされピリピリしている学生の方々等が
何も考えずに読んで何も考えずに笑える、そんな単純明快で簡潔な作品を目指しましたが……うーむ。

結果なんだか今までと大して変わり映えの無いアホな文が出来ました(何)

(誤字等を修正しました)
c.n.v-Anthem
http://www.geocities.jp/cnv_anthem/
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コメント



0.6190簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
その、アホぶりに惚れました。
またも抱腹絶倒。これでネタ切れだとは思えないほどの勢い。
ジョジョネタ多めなのが個人的には余計笑えました。全部呼んでます。第四部からリアルタイムで。
社会人や学生に当たる身分、笑いで明日への活力を得られました。これからも頑張ってください。
10.80名前が無い程度の能力削除
最近思います。
いじられ系のキャラが幸せになるには壊れるかコワすかしかないと言うことを(何を
きっと幸せと引き替えに大事な何かを失いますが。
14.90SETH削除
「やっぱり私帰る-----!!」 なんか気に入ったーw
17.70いち読者削除
>─少女同衾中─
 そ、そんな……妖夢の操がッッ!!

 と、そんな戯言は置いといて。
 これまた壮大にアホですね。アホすぎてスカッとします。まさに一服の清涼剤。内容的に清涼って言っていいのか分かりませんがそこはそれ(笑)。
 それにしても、慧音までもがここまでアホになってしまうとは。ひたすらcaved!!!!しまくる慧音が生き生きしすぎでもう降参するしかありません。
24.80名前が無い程度の能力削除
・・・うずら・・・?
26.90名前を決めかねる程度の能力削除
読みながら、思ったことをいいますと、
「おや?今回は“比較的”おとなしめですね。」
読了後。
「………(思考能力停止)」

もうダメだ、僕に人間の感性を返してください。
29.80紫音削除
OK、個人的にc.n.v-Anthemさんを創想話の壊れSSの神に認定します(ぉぃ)
ここまで来るとまさに「笑うしかない」です。思わず周囲に変な人扱いされそうなくらいに笑わせてもらいました(マテ)
・・・そして妖夢、あらゆる意味でご愁傷様・・・(合掌)
42.60名前が無い程度の能力削除
ホリーヴェデルチ(掘りまくりだ)

ウケタw
45.70TAK削除
「ホリーヴェデルチ」で吹きましたですよ…。
慧音さん、その和訳多分間違ってますよー!

しかし…妖夢さん…本っ当にお疲れ様でした…。
48.80おやつ削除
c.n.v-Anthemさんの作品に触れたときから、もしかしたらと思っていた…そして今回で確信した…あなたはわたくしめの笑いの神です!!
ほんとに、もう楽しませていただきました。
テルヨともこたん、幽々子様と妖夢の関係はとてもツボ(笑いの)でした。
これからもオーエンしてます。
53.80名前が無い程度の能力削除
もう、ゆゆさまったら食いしん坊なんだからぁ


・・・とか思った自分は終わってますか?終わってますね。
くそう、おもしろいなぁ
57.80色々と削除
ホリーヴェデルチで吹いたw
60.80名前が無い程度の能力削除
ごめんなさい、こんな素晴らしい作品に対して
揚げ足とるようでなさけないやら何やらなんですけど
「バ」ゼストではなくて、正しくは「パ」ゼストですね
こんなくだらない指摘でほんとすいませんorz

まさに受験真っ最中の身なのですが、
この作品読んで心が無闇に落ち着きました、ごちそうさまです
62.80名前が無い程度の能力削除
……あ~いかん、笑いすぎた。
途中から呼吸に苦しんだほどだった。

〉「ホリーヴェデルチ(掘りまくりだ)」
………ど・ん・な・訳・で・す・か?w
83.90叢雲 魁削除
ホリーヴェデルチ!!(Caved!Caved!)
たすけてえーりんなノリでひとつ。
‥‥いやいや。
これで腹がツらずに居れようか。
特にラッシュの速さ比べの慧音さんの科白、反射的にドラッグボールを高速回転。
‥‥直視したら死んじゃいそうなんですもの、引きつけで。
とにかく。
Cavedを武器として取り込み悟りきった慧音にMVP。
幽々子様に散々な目に遭わされながらもついぞ「(実家に)帰らせて頂きます」を言わなかった妖夢に敢闘賞。
そして幽々子様。
こ れ が し ん の く ろ ま く の じ つ り ょ く か !

‥‥‥‥もう腹一杯です。
駄スレのツケは自分に向けてファイナルスパークでひとつご理解を。 
84.100名前が無い程度の能力削除
ミキサー(頭突き)ではなくジューサー(アッパー)を使用したところに、
けい姉のかすかの良心の残り香を感じました。やっぱカツラは嫌か。
ジョジョも好きですが、額に肉の漫画も大好きだったなぁ……
怯えるもこたん可愛過ぎ。こーいう桃色お笑い話、大好きです!
90.90名前が無い程度の能力削除
織田裕二吹いた
123.100幽霊が見える程度の能力削除
ホリヴェーデルチww
137.70名前が無い程度の能力削除
掘りまくりだwww
159.90tattu削除
お願いです!僕の腹筋を返してくださいwww
いやー笑いました。もう酸欠でみょんが見えてきました。このコメを見ることはないでしょうがいろんな意味でこの一言を
有り難うございました。
162.100非現実世界に棲む者削除
うんうん、ゆゆさまはどこまでも素敵な方ですね。
妖夢おつかれ。