Coolier - 新生・東方創想話

欠月永夜 その3

2004/12/08 13:25:26
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「こんばんは、誰かいますか?」
謎の館の入り口にて、一応声をかけてみるが返ってくるのは妖弾ばかり。
「うさぎ、兎、ウサギっと。これだけあればしばらく食料には困らないわね、藍?」
「……私は武器です。ウサギは食べません」
「あ、すねてる」
「馬鹿やってないでさっさと入るわよ」
妖怪兎とその使い魔達が形成する弾幕を抜け3人は徐々に館の奥へ進む。
「もう、何なのよこの家は」
「でもよかったじゃない。これだけ抵抗があるってことはここで正解ということよ」
「ただ単に不法侵入者に攻撃してきてるだけじゃないの? ……まったく、どこまで信用して良いのかホントに困るわあんたって」
「あら、ありがとう」
「褒めてない」
「二人とももう少しは手伝ってくださいよ、こう数が多くちゃ―」
「数が多い? 1人しかいないわよ?」
「あれ?」
いつの間にかたくさんいたウサギは姿を消し、目の前にいるのは1人だけ。
「こんばんわ、お客さん。永遠亭にようこそ。お帰りはそちらですよ」
「帰り道は今来た廊下を戻ればいい。それにまだ帰るつもりはないわ。月を元に戻すまではね。そこをどいてくれる楽できていいんだけど?」
「だめ~。仲間を撃ち落す物騒な人間と妖怪を通すことなんて出来ない」
「藍は物騒だって」
「悪いのは私だけなんですか?」
「……あたしはてゐ。人に幸運を与える兎。せっかくあたしが幸運を呼びこむ道を示してあげたのに、それを選ばないなんて変な人間。まあ、いいや。とにかく帰ってもらうから。その先に幸運なんてもうないよ」
「妖怪からもらった幸運なんていらないわ。おとなしくどいてもらうから」
「あれ、霊夢。あなたマヨイガでは強盗を働こうとしたわよね?」
「あれとこれとは違うでしょ?」
「橙に略奪開始って言ったとか」
「はいはい、あいつに集中しなさい」
「いつまであたしを無視する気? そっちがこないならこっちから行くよ!」
てゐの周囲に使い魔と妖弾が展開される。
「せっかちね。もう少し落ち着きというものを持ったらどう?」
「紫はマイペース過ぎ」
―数刻後
「で、それはどうするの?」
勝負はあっという間について、てゐは藍の腕の中。
「うぅ、狐……あたしはおいしくないよ~」
「食べない食べない」
「スペルカードも持ってないんじゃ弱いものいじめしている気分だわ」
「スペルカードくらい持ってる。けれど鈴仙が屋内では使うなって」
「魔理沙のマスタースパークも屋内では使用禁止にしなきゃ」
「とにかく、放してよ。食べる気なくても、いい気がしないから。もう邪魔しないから」
ちょっと潤んだ目で見つめられて、藍の良心がずきりと痛んだ。思わず放す。
と、蹴られた。
「はうっ!?」
てゐはその勢いで距離をとり振り返る。
「あっかんべ~、まぬけぎつね~」
「さっきのは演技かしら?」
「それはどうでもいいけど。やられっぱなしでいいの?」
「よくない。兎に舐められてたら狐が廃る。式輝「プリンセス天狐」!」
「武器なにのスペルなんて使っちゃダメでしょ?」
「まあ、今くらい見て見ぬふりしてあげたら?」
人間と妖怪は追ってこない。が、よく見ると一つ足りない。あれ? と思って、てゐは立ち止まる。
「そら、捕まえた!」
てゐの真後ろに転移した藍。それに気づいた反応はよかったが、逃げ切れるところまで行かずてゐは再び藍の腕の中に。
「さて、どうしてくれようか?」
「放せ~!」
「煮て食べるか、焼いて食うか。橙も食べるかな?」
「素材の味をそのままに、直火で丸焼きにしましょう」
「ひ~ん」
「悪ふざけはその辺にしときなさいよ。さっさと先に進むわよ」
「紫様、これはどうします?」
「明日の夕飯」
「い~や~」
そんなやり取りに霊夢は1人額を押さえ悩む。止めるべきか放置すべきか。
だが、再びうさぎの大群が襲い掛かってくると悩んでいる暇はなかった。
「人質の価値はないみたいね」
「馬鹿狐! 避けろ~!! あたしに当たるぅ」
「大丈夫、私には当たらない」
「盾にしないで~!」
「まあまあ、ほら、少しは話のわかりそうなのが来たわよ」
ふわりと飛び出してきたのはタキシードを着込んだ少女。
「遅かったわね。全ての扉は封印したわ。もう、姫は連れ出せないでしょう?」
「……ホントに分かり合えると思う? いきなりわかんなこと言われてるけど」
「なんだ、妖怪か。心配して損……ってあれ、てゐ? 何してるの?」
「これ? 明日の夕飯よ」
「うどんげ~、たすけて」
「うどんげって呼ぶな。呼んでいいのは師匠だけ。……ホントは師匠にもやめて欲しいけど」
「変な名前。うどんげっていうの?」
「違う! 私は鈴仙・優曇華院・イナバ。月の兎よ」
「これも?」
「てゐは地上の兎。ついでに嘘つき」
てゐがすごい顔で鈴仙を睨み付けるが、鈴仙はどこ吹く風。
「それより妖怪と人間が何のよう? ただの兎狩り? てゐなら好きにしていいわよ」
「よくない! うどんげのくせに! 後で覚えてろ~」
「兎狩りじゃないわ。月を戻しに来たの。……でもあなたが犯人じゃなさそうね?」
「月? ん~地上の密室のこと?」
「よくわからないけど。きっとそうなのね」
「地上の密室は師匠のとっておきの秘術。この地上を密室化する術なの」
「つまり、犯人はこいつの師匠ってことね。霊夢、藍、先を急ぐわよ」
「ちょっとまって、はいそうですかって通すと思う? まだ月を戻させるわけには行かない」
「あらあら、止めるおつもり?」
「もちろん。そして、あなた達に全て見せてあげるわ。月の狂気を!」
「月の狂気?」
「月に来た人間を狂わせた催眠術。月は人を狂わすの。月の兎である私の目を見て       狂わずに居られるかしら?」
「要するに見なければいいのね?」
そういうと紫はすきまの中に半身を滑り込ませた。何かを探している様子。
「何か策があるの?」
「ちょっと時間稼ぎしてて」
「仕方ないわね。さあ、行くわよ。……えっと、うどんげ?」
「鈴仙! さあ、狂うがいい! 幻波『赤眼催眠(マインドブローイング)』」
カッと鈴仙の目が怪しく光る。直視してしまった霊夢は一瞬飛行の姿勢制御を失った。
「うわっとっと……これが月の兎の力?」
「あったわよ、霊夢。対兎用マル秘アイテム」
すきまから出てきた紫が手にしているのはにんじんだった。弾幕ごっこの途中にもかかわらず霊夢はあきれ返った。
「で、それをどうするの?」
「こうするの」
紫はそのにんじんを頭上に掲げた。
「このにんじんは『史上最強の農家・山田さん』が作り上げたにんじんよ。これに興味を持たない兎はいないらしいわ。……ほら」
鈴仙とてゐの視線が本当ににんじんに釘付けとなっている。
ついで、スペルカードも術者の制御を失い消失した。
「……効果のほどはわかったけど、それも流れ着いたもの?」
「そうよ。まさか、こんなところで役に立つとは思わなかったけど」
何を思ったか紫はにんじんを背後に隠した。
「はっ! 私としたことが……まだまだ勝負は始まっ―」
紫がにんじんを出すと鈴仙の動きとセリフが止まる。鈴仙より近くにいるてゐにいたってはよだれまでたらす始末。
「これ面白いわ」
「あきれてものも言えないわ」
「言ってるじゃない」
「揚げ足取るな」
「そ、そのにんじん……」
いつの間にか鈴仙が近くに来ていた。目はにんじんしか見ていない。
「これがどうしたの?」
紫はにんじんを持った手を右に伸ばす。鈴仙の首も右に移動。続いて左。鈴仙も左に。
続いて上下。そして投げた。
「!!」
鈴仙はとんでもない反応速度でそれに飛びつきすぐさまゲット。
カリコリ。とても幸せそうに食べている。
なんというか、かわいい。不覚にも霊夢はそう感じた。
紫はすきまに腕をつっこむと二本目のにんじんを取り出す。
「うさぎさん、もう一本あるわよ?」
そういって、にんじんを投げた。
にんじんはとある扉の方へ飛んでいく。
と、その扉が内側から開いた。
「イナバ、さっきから騒がしいけど誰か迷い人? 月の使者の気配じゃない―痛っ! って、にんじん?」
にんじんは扉から出てきた人物の額に。そして、弾丸の速度で飛んだ鈴仙が迫る。
その目はにんじんしか見ていない。
「えっ、ええ!?」
ごっつんこ。キラキラと星が散った。魔理沙がばら撒いたのとそっくり。
「……事故? わざと?」
「事故、かしら」
「「きゅ~~~……」」
鈴仙と、ラスボスこと蓬莱山輝夜は額をまともにぶつけ二人仲良く目を回している。
「なんで姫も出てくるかな~」
「姫? こいつは師匠じゃない、と?」
「ちがう。うどんげの師匠はもっと怖い人。姫を守るためならどんなことでも―」
言葉が途切れる。視線の先には新たな人影が。
「てゐ。この状況、わかりやすく説明してくれるかしら?」
たった一声でその場の雰囲気ががらりと変わった。ぴりぴりと刺すような殺気が満ちる。
「そちらの妖怪と人間でもいいけれど」
てゐの様子も今までとは違う。明らかに脅えている。
「よほど怒ってるみたいね」
「……紫のせいでしょ?」
「事故よ。たぶん」
そんなやり取りをしつつも二人はいつになく緊張していた。

ラスボスはえーりんで。
輝夜より、雰囲気も曲もボスっぽいと個人的に思います。
ASOBU
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