Coolier - 新生・東方創想話

幽々子が白い花を食べる話

2009/10/13 05:19:54
最終更新
サイズ
17.48KB
ページ数
1
閲覧数
856
評価数
6/27
POINT
1580
Rate
11.46

分類タグ


 
 今日の夕飯を作るために、里に買い物に出かけた帰りのことだった。
 
 すべての買い物をすませ、白玉楼に帰ろうとしたとき、里はずれにある田んぼのあぜ道に白く咲く花を見つけた。
 遠くから見ても、まわりの花は紅く咲いているのにもかかわらず、その一輪だけが白く咲いていることが分かる。
 
 気になって近くまで行き見てみると、それは彼岸花だった。近くに咲いている彼岸花とは、その白い色以外に違いは見られない。
 変わった花だな、と思った。
 紅い色の中に咲く一つだけの白。それは私の興味を誘うのには十分だったし、幽々子様にも見てもらいたいなと思った。
 
 悪いなとは思いながらも、その白い彼岸花を根元から折る。ポキッという音とともに容易くちぎれる。
 放射線状に咲く花弁に目を奪われながら、握りつぶしてしまわないように、そっと買い物かごにしまう。
 そこに綺麗におさまったことを確認してから、私は白玉楼への家路を急ぐことにした。



















「変わったものを見つけた?」
「はい。幽々子様にも見てもらいたくて、持って帰ってきました」

 晩御飯である栗ごはんをよそいながら妖夢がそんなことを言ってきた。ご飯は大盛りでお願いねと頼む。
 目の前には松茸のお吸い物に、様々なきのこの炒め物がある。秋を堪能フルコースという感じだ。
 どれから手をつけようか迷いながら、聞き返す。

「変わったものねえ。食べ物?」
「残念ながら食べ物ではないかと」
「じゃあ何?」
「これなんですけど」

 そういって後ろから取り出されたのは、花瓶に挿された一輪の彼岸花だった。
 しかし普通の紅い花ではなく、白い花を咲かせていて、取り出された反動でゆらゆらと花が揺れた。

「・・・確かに、珍しいものを見つけてきたわね」
「でしょう。白い彼岸花というものは初めて見ました。幽々子様は?」
「残念だけど見たことあるわ。ちょっと昔だけどね」

 お吸い物を口に運ぶ。うん、いつも通り満点。

「見たことがあるんですか」
「ええ、前にね。その時も一輪しかなかったわ」

 栗ごはんを食べる。少し塩加減が薄いかも。

「はい、私もこの一つしか見つけられなかったんです。紅い彼岸花の群れの中にこれ一つだけが咲いてて」

 そう言って、少し言いよどむ妖夢。

「咲いてて、どうしたの?」
「いえ、なんだか綺麗だなって思いまして」
「確かに綺麗ねこれ。でも、いくら綺麗だからって食べちゃだめよ」
「た、食べませんよ!」

 顔を赤くしながらそう反論する妖夢。
 
「でも、天婦羅にしたら美味しそうじゃない、それ」
「た、食べちゃだめです!」

 サッと遠ざけられる彼岸花。妖夢は本気で私が言ったと思っているのだろうか。
 というか、その花が毒を宿していると知っているのだろうか。
 本気に取られたことを少しショックに思いながら、いつものように取り繕う。

「ふふ、分かってるわよ。妖夢がせっかく見つけてきてくれたんですもの。食べるなんてもったいないわ」
「あ、えっと。ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ。じゃあ、おかわりお願いできる?」
「はい!分かりました!」

 そう言って嬉しそうにご飯をよそう。さっきよりも多くしてくれているようだ。
 私は微笑みながらその様子を見て、そしていつもと変わらないように妖夢と一緒にご飯を食べた。

「ああ、おなかいっぱい。妖夢、ごちそうさま」
「はい、お粗末さまでした。お風呂は用意ができていますので、お入りください」
「わかったわ」

 早速、夕飯のあと片付けをはじめた妖夢を見ながら少しの間呆け、それから言われた通りに風呂場へ向かう。
 軋むことのない廊下を歩きながら、先ほどの食事のときの会話を思い出す。

『綺麗だなっと思いまして』

 その妖夢の言葉が今も頭のなかに残っている。確かに、真っ白に染まった花は綺麗だった。
 しかし、私は彼岸花は好きではない。特に白いものは。
 風呂場に着き、身につけているものをすべて脱いだ後、妖夢がわかした湯船につかる。
 湯気や湯にさらされても、紅く染まらない自分の肌をさすりながら、少し昔のことを思いおこした。
 
 以前に一度だけ見たことのある白い彼岸花は、今日妖夢が見つけたものと同じように、一輪だけ咲いていたということを憶えている。
 まるで、まわりから拒絶されたように咲いている白い彼岸花。気になり、よく見てみようと近づいた。
 風にゆらゆらと揺れ、まわりから拒絶されているにも関わらず、来るものを拒もうとしていないように見えた。
 その花の美しさに、私は一時目を奪われた。
 だが、その花は毒をもっているということを思い出した。人を麻痺させ、死へと追いやる毒を。
 どんなに美しく咲こうとも、その身に宿しているのはいかなる生命をも断つ猛毒。
 飲んだものを死へと誘うその身は土の中に隠れ、表には美しい花を咲かせ人々を魅了している。
 そう思うと、今度は急に恐ろしくなった。たやすく人を惑わせ、その身に毒を宿す、その花が。
 そしてその時、その彼岸花に、こう言われたような気がした。

「お前も、私と同じだろう」

 次に気がついた時には、私の手の中にはつぶされた白い彼岸花が握られていた。
 先ほどのまでの美しさは消え去り、ぐちゃりとつぶされた白い花弁と茎からは汁がにじみ出ている。
 その様子は、地に落ち、踏みつぶされた蝶を私に想起させるには、十分なものだった。
 
 ばしゃりと自分の顔に湯をぶつける。温かさを感じた後に、水滴がぽたぽたと顔から流れていく。
 しかし、先ほど思い起こした昔の事は、流れていってはくれなかった。




















 晩御飯を終え、その食器を洗いながら、先ほどの幽々子様の様子を思い返す。
 今日の幽々子様の様子はどこかおかしかった。なにか、いつも通りを装っているような、そんな感じがした。
 
 もちろん、私の思い違いかもしれないが、しかし気になるものは気になってしまう。
 夕方、買い物から帰ってきたときはいつもと同じだった様な気がする。
 明日出す予定だったおやつのお団子を、隠しておいた戸棚から見つけ、それを食べながら、

「妖夢~。晩御飯まだ~?」

 と聞いてきたのだ。うん、いつも通り。
 じゃあ、何があったんだろう。
 いつもと違うのは、あの彼岸花を見せたことだけ。

(・・・まさか)

 すべての食器を片づけ、先ほど幽々子様に見せた彼岸花を取り出す。
 やっぱり、白く咲くその花はとても綺麗だった。そして、これを見ながらもう一度さっきの会話を思い出す。

『いえ、なんだか綺麗だなって思いまして』

 さっき言った自分の言葉だ。しかし、本当はこう言うつもりではなかった。

『綺麗で、なんだか幽々子様みたいだなと思いまして』

 こう、言うつもりだった。けど、これは言ってはいけないような、そんな感じがして言葉を変えたから。
 なぜ言ってはいけない気がしたのかは自分でも分からない。が、考えれば確かにまずいことでもある。
 毒をもっている花に主人を例えようなんて。なんと失礼なことなんだろう。
 
 そう思うと恥ずかしくなってくる。精進が足りない証かもしれない。明日は素振りの数を増やそう。
 そんなことを考えていると、後ろの障子が開く音が聞こえた。

「妖夢。お風呂上がったわよ。入ってらっしゃい」

 湯上りの幽々子様がそこに立っており、いつもの帽子の代わりに、今は布巾を肩にかけている。

「ありがとうございます。では、入らせていただきます」
「はいはい、入ってらっしゃいな。いいお湯だったから早めにね」
「はい。分かりました」

 そう言ってお風呂の準備をしようと立ち上がる。その時、幽々子様がこの花を見ていることに気がついた。
 先ほどまで私と話をしている時とは違う、何か、困惑したような目で彼岸花を見ていた。

「どうかされましたか。幽々子様?」
「え、いえ。何にもないわ。じゃあ、私はもう寝るから。妖夢もお風呂入ったら早めに寝なさいね」

 そう言ってパタパタと自分のお部屋に入ってしまった。やはり様子がおかしい。
 やっぱり何かこの彼岸花に思うことがあるようだ。しかし、いったいどんなことなのか、まったく想像がつかない。
 
(いや、幽々子様の考えることを今まで分かったことなどないか)

 己の修行の未熟さをそういう点でも感じる。主人のことを全て理解しているメイドもいるというのに。よし、明日の素振りは四倍だ。
 そう決めた後に、とりあえずお風呂に入るために自分の着替えを取りに行く。その時、団子を隠しておいた戸棚の前を通る。
 そういえば明日のおやつは幽々子様がたべてしまったんだ。また買いに行かないと。
 そう思ったとき、先ほどの夕飯の時の幽々子様の言葉がもう一度思い浮かんで、そして閃いた。
 
「ああ!そういうことだったのか!」

 分かった。幽々子様が考えていらっしゃる事が。だからあれほど、この花を見ていらしたのか。
 そうと分かれば準備をしなくてはいけない。どうすればいいか分からないが、おそらく慧音さんなら知っているだろう。

「よし、明日の一番に慧音さんの所に行こう。あの人なら何か知ってるはずだし」

 幽々子様の考えていることが分かり、なんだか嬉しくなってくる。明日の予定ですぐに頭の中がいっぱいになる。
 そんなことを考えながら行動してしまったからだろうか。いつの間にかお風呂に入っていて、しかも着替えを用意していなかった。
 脱衣場で右往左往しながらやはり自分の未熟さを感じ、明日の素振りは八倍にしようと決めた。




















 朝起きて、妖夢と一緒に朝ごはんを食べる。いつものように白いご飯にお味噌汁とお漬け物、そして卵焼きだった。
 ぱくぱくと食べる。やはりお味噌汁は美味しいけれど、卵焼きは塩味が効いていなかった。
 
「幽々子様。今日のご予定はございますか?」

 急にそう妖夢に聞かれる。しかし、私には思い浮かべるような予定はなかった。

「うーん。ないわね」
「でしたら、お願いがあるのですが」
「何かしら?」
「今日の午後三時には白玉楼にいてくれませんか」

 お願いをしてくる妖夢はめずらしかった。主人に自分の都合を押しつけてはいけない、と考えているようなところがあったから。
 お願いされることに、少し嬉しくなってくる。もう少し、甘えてきてもらいたいと思っていたから。

「三時にここにいればいいのね」
「はい。お願いできますでしょうか・・・」
「いいわよ。今日は予定がないしね」
「あ、ありがとうございます!」
「もう、そうかしこまらないの。妖夢のお願いぐらい、いつでも聞いてあげるんだから」

 そういうと顔を赤くし、ありがとうございますと小さな声で呟いている。どうやら照れているようだ。

「あの、では私は食事を片付けたあと、人里に行って来ますので」
「え、もう?少し早くないかしら」
「え、あのその、少し用事がありまして」
「ふうん、分かったわ。じゃあ私はここにいるからね」
「はい」

 そう嬉しそうに言う妖夢。私にお願いしてきたことを考えると、おそらく用事とは私に関することだろう。
 いったいどんなことをしてくれるのか。今から楽しみになってきた。
 そのあとはいつも通りに朝ごはんを食べた。妖夢をからかったり、おかわりをしたり。

「では、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」

 朝ごはんの流れのまま、妖夢を見送った。はじめは見送りは結構ですといっていたが、私がしたいのよ、というと簡単に折れた。
 小さくなっていく妖夢の影を見ながら三時までの間、何をしようかなと考える。完全に見えなくなってから居間へ戻った。
 
 食器は全て片付けられていて、今は机の上には何もない。しかし、部屋の隅にある台の上にはあの白い彼岸花が飾ってあった。
 昨日見た時よりも色あせてはいるが、いまだにその花は力強くひらいている。
 
 それを花瓶ごと机の上に持ってくる。ことりと置き、つんつんとつついてみた。
 つつかれるままに揺れるその花は、やはり、昔感じたようにとても綺麗で、それでいて恐ろしかった。
 やはりこれを見ていると言い様のない気持ちに駆られる。まわりとは異なり、白くその身を染めているこの花に。
 
 どれくらい見ていたのだろうか。気がつくと白い花を握りつぶそうとしている自分がいた。
 上を向き咲いている花を、その上から握りつぶそうとしているのだ。
 しかし、その手は動かなかった。この花を見つけた時のことを話す、妖夢の顔が浮かんだから。

 手を下げ、顔を背ける。
 ・・・よし、二度寝をしよう。妖夢が帰ってくるであろう三時まで、どうせすることはないのだから。
 彼岸花をそのままにし、自分の部屋へ戻ろうとする。その時、風に吹かれて彼岸花が揺れた気がした。

「・・・そこで、ひとりで枯れなさい」

 そう呟いて居間を後にする。いま、胸に残っているこの気持ちがいったい何というものなのか、私には分からなかった。



















「幽々子様ー!?どこですかー!?」

 まどろみの中で、そう呼ぶ声が聞こえた。
 どうやら約束の三時になってしまったらしい。少し乱れた服を直し、部屋の外へ出る。

「ここにいるわよ~」

 そう呼びかける。すると気がついたのか、こちらにやってくる妖夢が見えた。

「そこにいらっしゃったんですか」

 笑顔でそう駆け寄ってくると、妖夢は私の横を通り抜け、居間へ入っていった。

「え?」

 居間の中を見る。そこには

「もう、どこにいるのかと思いました。はい、これが約束していたものです」

 そう言いながら、机の上の白い彼岸花に話しかけている妖夢がいた。
 私にいつも向けているあの笑顔を、いまは花に向けて楽しそうに話している。
 
「よう、む?」

 そう呼びかけても、妖夢はこちらを向いてくれなかった。
 その瞬間に、足もとの床が無くなって、私はいつの間にか真っ赤な絨毯の中にいた。
 
 どうやら彼岸花畑らしい。すべての花がこちらを向き、風もないのに揺れている。
 足を動かそうとしても動かなかった。下を見ていると、地面と一体化しているのが見えた。
 手を動かそうとしたが動かなかった。どうやら腕はなくなっているようだ。
 
 すると、目の前に私が現れた。とても冷たい目で、こちらを見下している。
 そっと私に手をかけてくる。その手は大きくて、私の顔を覆い尽くした。
 そして、

「・・・わたしが枯らしてあげるわ。かわいそうな白い花」

 そう言ったかと思うと、ぶつりという音が聞こえ、全てが私の中から消え去った。



















 ガバッと体を起こす。はあはあという自分の息遣いが、とても大きく聞こえる。
 二度寝のために着替えた服が汗で体に張り付き、とても気持ちが悪い。
 なんという夢を見てしまったのだろう。今も少し、自分の体が震えているのが分かる。

「幽々子様ー!?どこですかー!?」

 自分の部屋の外から妖夢の声が聞こえる。
 どうやら約束の三時になってしまったらしい。妖夢の声は、どことなく焦っていた。

「ここに、いるわよ」

 そう声をかけてから服を着替える。服から伝わる気持ち悪さは、完全に脱ぎ去るまで消えなかった。
 部屋を出るとそこにはもう妖夢がいた。そわそわと落ち着かない様子でこっちを見ている。

「ここにいらしたのですか。少し探してしまいました」
「ごめんね、ちょっと寝すぎちゃったみたい」

 少し笑ってそう答える。ほっとしたような顔を浮かべる妖夢に、私も安堵をおぼえた。

「それで、約束の三時になったけど、どんな用事なのかしら?」
「あ、そうでした。では、縁側でお待ちください。今日のおやつとお茶を持ってきます」

 そう言って台所にかけていく妖夢。ぽつんと残された私は、仕方がないので居間のすぐ前の縁側に腰かけた。
 少しした後に、とことこと歩く音が聞こえ、すぐ後ろに妖夢は座った。

「ええと、今日のおやつになります。これが今日幽々子様にお出ししたかったものです」

 そして出されたのは、何の変哲もない一口サイズのお団子の山だった。

「えと、これ?」
「はい。どうぞ、お食べください」

 差し出されるお団子の山。確かに昼食を食べていなかったしお腹は空いている。
 盛られたお団子の中から一番上にある物をとり、口に運ぶ。
 ほんの少しの塩味と、それにより強まった甘さが口の中に広がる。
 そして、どこかやさしい味を感じた。

「おいしいわよ、妖夢」
「あ、ありがとうございます!」 
「でも、どうしてこれを私に食べてもらいたかったの?」

 そう問いかけると少し言いよどむ。どうしたというのだろうか。
 少しの間考えていたかと思うと、意を決したかのように口を開いた。

「・・・実は、そのお団子は彼岸花が入っています」

 その言葉に一瞬、黙ってしまった。

「・・・彼岸花が?」
「はい。正確に言うと彼岸花の根、ですが。慧音さんに頼んで、食べられるようにしてもらったんです。
 彼岸花の毒は水に溶けるらしく、長い時間水にさらしておくと食べられるようになるんです」

 正座をしたままそう答える妖夢。だけど、一番大事なところを答えてもらっていない。

「・・・どうして、これを私に?」
「えっと、昨日の夕飯の時に彼岸花を天婦羅にしたら美味しそうだとおっしゃったので、もしかして食べたいのかと」

 そう言って、はっとなる妖夢。バッとうつむいて、上目遣いで恐る恐る聞いてくる。

「・・・もしかして、・・・違いましたか?」

 不安そうな目の色がよく見える。もしかして間違えてしまったのではないかという不安の色が。
 しかしそれ以上に、私を思ってくれているということが伝わってきた。
 優しい味になっているこの団子からはもちろん、顔を真っ赤にして不安そうに私の顔をうかがう妖夢から。
 もう一つお団子の山から取り、そして口に運ぶ。やっぱりどこかやさしい味がする。

「・・・よく分かったわね、妖夢。取ってきた花を食べたいだなんて、みっともないからばれないようにしてたのに」 

 そう言うと一気に顔が明るくなる。本当に分かりやすい。

「それに、本当によくここまでおいしくできたわね。・・・とてもうれしいわ」

 最後の一言に本音を込める。
 ぱあっと明るくなった顔を緩ませ、これ以上はないという笑顔で

「ありがとうございます!」

 と言った。
 その言葉を言いたいのは、こっちだっていうのに。

「えと、あとこれも見てくださいませんか?」
「何かしら?」

 差し出されたのは、昨日よりも大きい花瓶に入れられた、たくさんの白い彼岸花だった。
 花束のようになってしまっているその花瓶の真ん中には、他の花よりも少し色が褪せた花が見える。

「団子を作るために根を集めていたら、たくさん見つけまして。
 一輪だけでは寂しいかなと思って、慧音さんに頼んで持って帰ってきました」

 ほほをかきながら、はにかんでそう答える妖夢。
 その瞬間、なんとも言えない感情が湧きおこった。先ほどまでこの彼岸花を見ていた時とは異なる、違う何かが。
 その時、

「おいしそうなものをいただいていますのね」

 そんな声が聞こえたかと思うと、目の前の空間が歪み、割れ、見知った顔が出てきた。

「私にもおひとつ、頂けませんこと?」

 紫がスキマから出てきたかと思うと、縁側に腰掛けそう言ってきた。

「あ、はい。今すぐお茶を用意いたします」

 そう言ってすぐに台所に戻っていく妖夢。
 私は隣に座った友人を見ながら、お団子を口に運ぶ。

「どこから見ていたのかしら?紫」
「あら、なんのことかしら。おいしそうなものを食べているから、出て来ただけよ」

 そうのたまう紫だが、どうせ全部お見通しだろう。
 ひとつお団子を紫に渡す。頬に片手を当てながら、それを半分かじっている。

「あら、おいしいじゃない。さすがは妖夢ね」
「あたりまえじゃない」
「・・・白い彼岸花の、花言葉は御存知かしら?」

 残りの半分を食べ終え、目に不気味な笑みを浮かべながら、口元に扇を当て紫が聞いてくる。

「・・・知らないわ」

 そう告げると、パチン、と扇を閉じ、得意げな様子で紫は言う。

「・・・『想うはあなたひとり』。だそうよ幽々子。あなた、とても想われているわね」
「そう」

 そう言って紫から顔をそらす。だめだ、今の顔を見られたら。

「紫様。お茶です」

 いつの間にか帰ってきていた妖夢が紫にお茶を出している。
 そんな妖夢を見て、声をかける。

「妖夢も一緒に食べましょう。このお団子」
「え、しかし、それは幽々子様に作ったものでして」
「その私が一緒に食べたいと思ったの。ダメ?」
「あ、いえ。幽々子様が良ければ、是非一緒に」
「ふふふ、じゃあハイ。ここに座って」

 そして、自分のすぐ隣を示す。おずおずと近づいてきた妖夢を、私にぴったりと寄り添うように座らせた。

「はい、あーん。どう、おいしい?」
「ふぁい、おいしいです」
「あらあら、妬けちゃうわね。じゃあ妖夢、私からもあーん」

 そうやって食べさせた後、三人で笑いあった。
 
 

 そんな三人に、冥界の風が優しげに吹く。
 その後ろある花瓶の中では、仲間達に囲まれたあの白い彼岸花も、風に吹かれて楽しげに揺れていた。
 
 
彼岸花を見ちゃうとついつい食べたくなってくる、そんなジーノです。


実は彼岸花の根は、水にさらすと食べられるらしいです。
でも、とても危ないので慧音のような知識人か、幽香のような専門家に頼みましょう。
よい子もそうでない人も、自分でやっちゃだめだよ!

さてさて、紫に花言葉を教えてもらったとき、幽々子はどんな顔をしていたんでしょうね。

ここまで読んでいただき、圧倒的感謝!

追記、10/11 思うところがあり、勝手ながらタイトルを変更しました。
       10/21 再び修正しました。報告ありがとうございます!
          修正したのに誤字があるなんて、俺の馬鹿野郎!
ジーノ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.990簡易評価
3.100煉獄削除
紫様に花言葉を教えてもらったとき、きっと幽々子は顔が赤くなっていたと思いますねぇ。
白い彼岸花のことでの幽々子の心情や妖夢の行動力など面白かったです。
12.100名前が無い程度の能力削除
こうして妖夢は勘違いを続けるのです…っ

それはともかくいい話でした。
15.100名前が無い程度の能力削除
とても面白かったです。夢の描写がとてもリアルだと思いました。そして全てを把握しきれていないとはいえ、主人の悩みを取り去ることの出来る妖夢はやはり良い従者なのでしょう。
17.90名前が無い程度の能力削除
お団子がとても美味しそう。
すれ違っているけど、思う心はつながっている、そんな感じがしました。

誤字を報告

>~ご飯をよそう。さっきよりも多くして『くれいる』ようだ。
 『て』が抜けていますよ。

あと中段あたりの「あ、ありがとうございます! ←カッコ閉じが抜けています。
18.100名前が無い程度の能力削除
夢のくだりは本当にドキドキしてしまった。
幽々子の花への想いが、その立場を逆にすることで鮮明になって。

妖夢が幽々子の悩みとは全然違うレベルで考えて行動して、
その結果幽々子が救われると言う展開は実にお見事。
素敵な映画を見た気分になれました。
21.100名前が無い程度の能力削除
いい