Coolier - 新生・東方創想話

ご隠居様のできるまで 前編

2009/10/11 13:29:17
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このSSは「咲夜は私の犬よ、当然じゃない  前編・後編」と同一設定になっています。
こちらが続編というわけではないので、どちらを先に読まれても大丈夫です。
まとめて読みたい方、前作を先に読みたい方は「咲犬」タグからどうぞ。
  



















朝、紅魔館のメイド長十六夜咲夜が外を見ると、一面銀世界となっていた。
冬の妖怪レティ・ホワイトロックの姿を見たと、咲夜はメイドから聞いてはいた。
また、雪が降っている事にも気付いていた。
しかし、一晩でここまで積雪があるとは予想していなった。

「冷えるはずね。この年になると、寒さがほんと辛いのよね」

咲夜の独り言であり、誰も返事を返すものはいない。

咲夜は時間を操る能力を使って自分の時間を引き延ばしてきた。
しかし、それでも少女と呼べる年頃ははるか遠くになり、今はだれが見てもおばさんと呼ばれる年頃になっている。
もっとも、咲夜自身は、

「子供もいない女性に向かっておばさんはないわ。まだ、おねえさんよ」

と言い張っていたが。

その咲夜がぼんやり外を眺めていると、少女が一人不思議な踊りを踊っていた。
いや、踊りではなかった。それは太極拳と呼ばれる、武術の一つであった。
咲夜は、寒い中精の出る少女の為に、自分の朝食用に作っていたスープを二人分にした。
そして、半分を水筒にいれ、冷めないように魔法をかけた。

咲夜は水筒を持って外に出ると太極拳をしている少女、紅魔館の門番を勤めている紅美鈴のところにきた。

「あ、咲夜さん。どうしたんですか?」

美鈴が気付いて太極拳をやめ、咲夜に声をかけた。

「ん、寒くないかなって」
「あはは、大丈夫ですよ。こう見えても私は妖怪ですから、これぐらいはへっちゃらです。それに、これもありますから」

と見せてくれたのは、湯たんぽだった。
咲夜はその湯たんぽに見覚えがある。

「まだ使ってるのね」

と半ばあきれる様に咲夜は言った。
それは、春が来ないという異変が起きた年のことであった。
美鈴が風邪などひかないようにと思って、咲夜が渡したのだ。
あれから500年近くたっている。

「物持ちのよさは自慢なんですよ」

と、美鈴は言うが、物持ちがいいにも程がある。
しかし、その点は咲夜も負けていない。
一つの懐中時計と一本のナイフを幻想郷に来る前から使い続けているのだから。





















森で一人遊びをしていると、この世のものとは思えない異形のものが現れた。
異形のものが突然目の前に現れた事に、私は驚きはしたが、恐れはしなかった。
いや、怖いのかもしれない。でも諦めが心を大きく占めているのか、恐怖は実感できなかった。
私はまだ、少女と呼べる年頃になりきっていない子供だ。また、そのような異形と戦う術など持ち合わせていない。
だから、逃げる事が出来ないのならされるがままになるしかない。
その異形は私の頭を掴んだ。そのまま握り潰されて死ぬのかな?と思った。
しかし、そうはならなかった。異形は私を掴んだまま空に飛び立ち、山の方へと飛んでいった。

空を飛ぶ。
私はごく普通の人間だから、空なんか飛んだことはない。生まれて初めて見下ろす空からの景色の美しさに魅入られた。
恐怖よりもそんなことに心を奪われているのだから、私は相当呑気。
気が付けば山を5つ程越え、山村が、紅い霧に包まれた山村が、遠くに見えてきた。
そこで私は思い出した。村の人が言っていたことを。
山の向こうには紅い悪魔が住んでいる、と。

私は今の状況を理解した。つまり、この異形がその悪魔か悪魔の僕なのだろう。
そして、私は悪魔に供されるために連れて行かれるのだと。
私は死ぬのね、と改めて思った。

山村に近づくにつれ、紅い霧は濃くなっていった。私はその濃い霧にむせた。なんだか気持ちの悪い霧だ。
山村の中心部らしきところに、その館はあった。紅い悪魔の住む館、悪名高き紅魔館であった。
あそこが私の死ぬ場所なんだ、と私は思った。

異形は館の前にくると着地した。
そのとき地面に叩きつけられるかと思ったけど、異形は着地する前に私を抱きかかえたから大丈夫だった。
門をくぐると、そこには様々な異形がいた。人に似た姿をしたもの、見たことのない形状をしたもの。
そして、館内にいたメイド長と呼ばれるものの前に連れていかれた。
メイド長はみたところ人間と全く同じ姿をしている。ただそれだけで、何故か少し安心した。

メイド長は私の顔・姿をじっくり見定めた上で、ナイフを取り出し私の腕を取る。
そして、すーっとナイフを走らせた。私の腕には一筋の血が浮かび上がってきた。
痛いはずなのに、痛くない。
目の前のできごとが最早現実感を失っていて、なにか幻想を見ている気分だからかもしれない。
メイド長は私の血を舐めた。二度、三度。じっくり味わうように。
そして、メイド長はにこりと笑うと、

「これはお嬢様のものね」

と言った。さらにメイド長は、

「あなた運がいいかもしれないわ」

と私の耳元でささやいた。

私はそのお嬢様と呼ばれる女の子の前に連れて行かれた。
見た目は10歳ぐらいの普通の女の子だけど、大きな羽が生えている。
そしてなにより、周りを圧倒するような雰囲気を漂わせている。
その女の子、お嬢様は私をジロリと睨み付けると、興味無さそうに言った。

「今はいらないよ」

そういうと退屈そうにあくびをした。
メイド長が問いかける。

「これはどうしましょうか?」
「ん?おいしいの?」

どきっとした。
私はこの女の子に食べられちゃうのかと思ったから。
私は、せめて殺してからにしてほしいな、と呑気に考えた。
恐ろしすぎるからなのか、どうも怖さが実感できない。

「はい。お嬢様好みかと」
「そう、じゃぁ、そこに置いといて」
「かしこまりました」

そういうと、メイド長は私を残したまま引き下がった。
私にこう耳打ちして。

「逃げることは無理よ、大人しくしておきなさいね。永く生きたいと思うのならね」

私はこのメイド長の忠告にしたがうことにした。
そもそも逃げられるとも思わなかったから。

お嬢様と呼ばれる女の子は、さっきからずっと本を読んでいる。
私の存在なんて完全にわすれているみたい。
しかし、飽きたのか不意に私のほうに興味をしめした。
私に顔を寄せてきてじっと私を見つめると、ペロリと鼻の頭を舐めた。
そして、何かに納得したのか大きくうなずいた。

「その服はお気に入りかい?」

と女の子は私に聞いてきた。
私は声が出そうになかったから、ただ大きくうなずいた。

「そう。それじゃ、脱いで。汚したくないでしょ?」

言われるままに素直に脱いだ。ついに食べられるのかと思いながら。

「ふーん、きれいな体してるね」

というと女の子は私の体を引き寄せ、年の割りに膨らんでいる私の左胸に歯を立てる。
いよいよ観念した私は、目を閉じ、神に祈った。そして、気を失った。























「お掃除がはかどらないわ」

咲夜はつぶやいた。

咲夜が外に目を移すと、メイド達が雪合戦をしている。
今日はお嬢様も寝ている上に特に忙しくもないから、咲夜が許可を出したのだ。
何故かその雪合戦に美鈴が混ざっているが、この雪の中来客があるとも思えないから咲夜も黙認することにした。

咲夜は休憩がてらその雪合戦を観戦することにした。
妖精メイドたちがめいめいに雪玉をぶつけ合っている。
隅っこでは雪だるまを作っているメイドも数匹いる。
みんなが楽しんでくれている姿を見ていると、ここのところ沈みがちだった咲夜も楽しい気分になってきた。

美鈴はメイド十数匹相手に雪玉弾幕ごっこをしているようだ。
美鈴とメイド達は予め作っておいた雪玉を弾幕にして撃ち合っていた。
美鈴はメイド達の雪玉弾幕を俊敏に避けていく。
メイド達もきゃーきゃー言いながら美鈴の雪玉を避けているが、すぐに被弾してしまう。
ただどういうルールになっているのか、被弾したメイドは暫く見ていたかと思うとまた混じって雪玉を撃ちはじめる。
残機ルールなのかメイド側は無限に復活できるルールなのかは咲夜には見当がつかなかったが、多分後者だろうと推測していた。

咲夜は暫く眺めていたが、ちょっと悪戯を思いついた。
咲夜は時を止め庭にでると雪玉を大量に作り、その雪玉をランダム弾のように美鈴の周りに配置した。
そして、少し離れたところに立ち、時を動かした。

「ぎゃっ!」

美鈴は突然現れた雪玉に驚き、避ける間もなく雪玉の雨に打たれることになった。
メイド達は大喜びである。

「もう、咲夜さん!何するんですかあ」

と言いながら、雪まみれになった美鈴が起き上がる。

「あら、貴方も随分なことしてくれるじゃない?」

咲夜の足元には十本のナイフが雪面に刺さっていた。
咲夜は大量の雪玉に混ぜてナイフを配置しておいたのだが、
美鈴はそのナイフに関してはきっちり避けて、咲夜の足元に投げ返していたのだった。

「いやいや、咲夜さんに言われる筋合いは無いような気がしますけど」

そりゃそうだ。何のサインもなく突然目の前に現れる弾幕なんてマナー違反もいいところだ。
時を止めるにしてもちゃんと避けられるように事前にサインを出すか、着弾までに時間的猶予を与えるのが最低限のマナーだから。
それも十分に危険なナイフである。妖怪とはいえ、急所に刺されば死ぬことだってありうる。
しかも咲夜のナイフが十本とも正確に急所を狙っていたとなればなおさらである。

「武者修行のお手伝いをしてあげただけよ」

咲夜はこともなげに言った。
もっとも美鈴も別に気を悪くしているわけではない。
咲夜のいうとおりこれも武術を極めるには必要な修行だったから。

咲夜はナイフを回収して館内に戻っていった。
咲夜は満足していた。
美鈴が遊びながらでもちゃんと周囲に気を配り、危機に対応できるようにしていることに。
美鈴の武者修行は趣味みたいなものだけど、紅魔館の一員として必要なスキルでもある。
幻想郷がいくら暢気なところであっても、お嬢様をお守りするために危機に備えていなければならない。
咲夜も常に心がけている。しかし、最近は少し隙がある、と咲夜自身は感じていた。























気が付くと私はベッドで寝ていた。
周りを見渡すと、石造りの部屋で窓がない。
家具はシンプルなデザインのものが一通りは揃えられていた。
部屋にはドアが付いていた。試しに開けてみたら鍵はかかっていない上に、特に見張りらしき姿もなかった。
どうやら私は監禁されているというわけではないようだ。

ベッドに戻りしばらく呆けていると、ノックの音が聞こえてきた。

「入ってもいいかしら?」

この声には聞き覚えがある、メイド長といわれていた方の声だ。
なんとなくであったが、私はこの方は信用できると思った。
どことなく人間味があり、温かみのある方だと感じたから。
だから私は、ドアを開けた。

「気分はどう?」

私は黙っていた。

「ふふ、仕方のない子ね。まだ、顔が青いみたいだし、今日はここで寝ていなさい」

そういってメイド長は出て行こうとしたが、すぐに振り返り私の下に寄っきて、

「あなた昨日はどうだったかしら?」

と耳元でささやいた。
私は昨日のことを思い出し、今頃になってなんだか恥ずかしくなった。
そう、私はあの女の子に服を脱がされて、何かされた。

「あら、顔が赤いわね。ご寵愛でも受けたの?」

私は顔がさらに赤くなるのを感じながら、何度も首を横に振った。
ご寵愛と言う言葉の意味は正確にはわからなかったけど、多分、大人の人たちがするあのことだろうと思ったから。
実際はその後のことは気絶していたから、何をされたのかわからないのだけど。

「冗談よ。お嬢様はそんなご趣味はお持ちでないわ。そうじゃなくて、そうね、このほうが早いわね」

というと、メイド長は私をベッドに押し倒し、服を剥ぎ取った。
私はベッドに仰向けに横たわり、メイド長が馬乗りになっている。
メイド長が私の体をまじまじと見つめる。
また、私の顔が赤くなっていくのを感じた。

「うふ、やっぱりそうなのね」

メイド長はそう納得すると、私の上から退きベッドから降りた。
そして、私のほうに服を渡し着るように促した。私は急いで服を着た。

「これ見てくれる?」

と言うと、今度はメイド長が服を脱ぎ始め、胸を露にした。
メイド長の胸は大きくてきれい。私の胸も同い年の子に比べれば大きいほうだけど、メイド長のは倍くらいある。
そして、メイド長の左胸には穴のような傷があった。
さっきメイド長に脱がされた時に気付いたのだけど、私の左胸にも同じ傷がつけられていた。
多分、昨日の女の子がつけたのだと思う。

「これはね、お嬢様流のマーキングなのよ。これは私の物だから誰にもあげない、てね」

私は黙っていた。メイド長が話を続ける。

「つまり、ここでは誰もあなたに手出しできないの。お嬢様以外はね」

私はそれがどういう意味を持つのかよくわからなかった。

「簡単に言えば、猶予を貰ったということよ」

まだよくわからない。

「ここではお嬢様が絶対よ。そのお嬢様が死なさないと思っている限り、貴方はここの誰にも殺されないということ」

ここまできて私はやっと理解した。

「それでね、貴方には生きるチャンスが生まれたの。どう?生きたい?」

うなずく。

「そう、よかったわ。それじゃ、明日からそこの服に着替えて働いてね」

というと、メイド長はクローゼットを指差してから、部屋を出て行った。
私はとりあえずクローゼットを開けてみた。
そこには数着のメイド服が吊ってあった。

メイド長が部屋から出て行って小一時間ほどたった。
私は少し落ち着いてきたのか、やっと現実問題として考えられるようになってきた。
昨日、私は異形の者につかまって、おそらく食料として、あるいは他の用途もあるのかもしれないけど、ここにつれて来られた。
ただ、たまたま私の味がお嬢様と呼ばれるこの館の支配者に気に入られるものであった。
だから、死なずに済んだ、と私は理解した。

そして、改めてメイド長が話した内容を思い返す。
「あなたは運がいい」「生きるチャンスがある」「働け」
つまり、ここで働いて役に立てれば食料としてではなく、住人として扱ってもらえるということかな?
メイド長は人間ではないのだろうけど、どこかしら人間味の感じる方だと思った。
だから、人間である私の発想でも理解できるのだとすれば、そういう意味を含ませていたと思う。
人間であっても、ここで生きていける道がある。
そこまで考えて、私は決めた。
ここで生きていく。そのためにやれる事はなんでもやってやろう。
もっとも、逃げる事なんて出来そうに無い以上、ここで何とか生き延びるしかないのだけど。
それに、私には身内がいないし、あのまま村にいてもどうなるのか不安のほうが大きい。
村の人たちは親切にしてくれているけど、それは村に余裕があるからで、
何かの事情で余裕がなくなれば、私なんてどうされても文句の言える立場ではない。
つまり、仮に逃げる事に成功したところで、私に帰るべきところなんて最初からない。
だったらここで生きていけるのならここに居ればいい。

翌日から私は、メイド長の下で必死に働いた。
メイド長が全住人に私がお嬢様のものであることを通達してくださったので、
私に対してちょっかいをだしてくるものなどおらず、余計な事さえ考えなければ居心地も悪くはない。
毎日のようにつれて来られる人間達が気になっていないわけではない。
しかし、私には他人の事を考える余裕はなかった。自分もいつ処分されるのかわからない身だから。





















「咲夜、今日のお昼は私の書斎に運んでちょうだい」

と紅魔館に住む魔女、パチュリー・ノーレッジが言った。

「はい、パチュリー様。温かいものがよろしいでしょうか?」

「そうね、そのほうがいいわ。あと、できれば小悪魔の分も一緒に作ってもらえると助かるわ」

パチュリーのところにいる小悪魔のことである。
紅魔館の住人は誰も彼女の名前を知らないが、特に不都合がないため小悪魔と呼ばれている。
本人もそれでいいと思っているらしい。
ちなみに、小悪魔はパチュリーの従者でも使い魔でもない。ましてやレミリアの従者でもない。
しいて言うのなら、居候である。勝手にパチュリーの書斎に住み着いているだけの。

「それではお二人の分を用意させていただきますよ」

おそらくパチュリーは小悪魔に手伝わせて魔法実験でもやっているのだろう、と咲夜は考えた。
パチュリーは、普段は小悪魔のことなどいちいち気にかけていない。
パチュリーが小悪魔の分まで食事を要求するときは、大抵、自分の用事につき合わせているときである。




















ここに来てから数ヶ月が経った。
働き始めた初日にお嬢様は吸血鬼だということを教えてもらった。
私は時々血を吸われている。そして、最近では血を吸われてもそれほど体調を崩さなくなっていた。
最初のうちは、血を吸われたあとは一日寝込んでいたのだから、大きな差だ。

「随分慣れてきたわね」

とメイド長が仰った。

「はい、最近は貧血も起こさなくなりました」
「そう、よかったわ」

といいながら、メイド長はナイフを取り出す。今日も訓練が始まった。
私は日常業務をこなしながら様々な訓練を受けている。人間の私でも役に立てるように。
戦闘技術、魔法、神霊技術、他、医療・教養の類にいたるまで、それぞれに専門の教師がついていた。
神霊技術のような聖職者の技術を持っているものがいることに私は驚いたりもした。

数日前からはナイフ投げの指導をメイド長直々に受けている。
ナイフは小さいためメイド業務の邪魔にならずに携帯できる。そのうえ、投擲の技術は非常に応用範囲が広い。
投げることの出来るものなら何でも武器となるからだ。お嬢様の警護も兼ねるメイド業務にはもっとも適した戦闘技術である。

「いい、見てなさい。手首を返しちゃいけないのよ」

と仰ると、シュッとナイフを投擲する。
その姿はいつ見ても美しく、私の憧れだ。
メイド長の投げられたナイフは半分だけ回転して、きれいに的に刺さった。

「はい、やってみて」

メイド長に促されて構えた。私が使っているのは練習用のナイフだ。
といっても、正確にはナイフではない。先のとがった鉄製の棒だ。メイド長が仰るには東洋の武器で手裏剣というものらしい。
しっかりとした動作で投げないと使いこなせないという扱いの難しい武器で、投擲の基礎を身に着けるには丁度いいと仰っていた。

私は的を目掛けて、エイッ!と投げた。
その鉄の棒はクルクルまわりながら飛んでいき、的に当って落ちた。

「だめよ。まだ手で投げているわ」

とメイド長に注意された。

「いい、腰の力を肩から放出して投げるの。腕から先の力は使わないのよ」

いまいちよくわからない。
昨日は、感覚としてはね腰と腹で投げる感じよ、と仰っていたがピンとこない。

「そしてね、手は最後の調整に使うだけよ。手で投げ出す角度と回転を調整するの」

と仰るとメイド長がナイフを次々に投擲された。
最初の一本は半回転。
次ぎの一本は一回転半。
そのつぎの一本は二回転半。
そのつぎは、と言う具合に回転数を変えて、同じ距離にある的に次々とナイフが刺さっていった。

















「あら、お客ね。こんなに寒いのに奇特だわ」

館内に戻って掃除を続けていた咲夜が外を見ると、二人の飛行物体が確認できた。
黒を主体とした地味な服を着た魔法使い霧雨魔理沙と七色の派手な服を着た魔法使いアリス・マーガトロイドであった。

「相変わらず、仲がいいわ。さて、パチュリー様のご都合はどうかしらね?」

霊夢が博麗の巫女を引退し博麗神社を出て以来、魔理沙はアリスの家に毎日のように顔をだすようになっていた。
魔理沙としては、一番近所にいる友人だしそれが普通だと思ったから。
それに魔理沙は種族としての魔法使いとなっていることもあり、魔法使いどおし仲良くしておけばいいと思っている。
アリスは正直研究の邪魔で鬱陶しいと思っていたが、いつの間にかそれが日常の風景となり諦めた。
幻想郷では、今やこの二人はセットで考えるのが常識になっている。
アリスは割りと本気で迷惑だった。魔理沙の起こしたトラブルのツケが自分に回ってくるから。
だからといってアリスは魔理沙とのコンビを解消しようとも思っていなかった。
つまり、仲がいいのである。

門ではさっそく美鈴と魔法使い達、魔理沙・アリス組の弾幕ごっこが始まった。
御呼ばれしたわけでもなく大した用があるわけでもない来客は、弾幕でお迎えするのが幻想郷のマナーだと美鈴は考えているらしい。
門番の職務としては弾幕ごっこに持ち込む必要はないのだけど。

美鈴が相手している間に、咲夜はパチュリーに二人が来たことを告げ、通していいか伺う。
この二人が昼間に訪問してくるなら、ほぼ間違いなく図書館に用があると思っていい。
レミリアに用があるのなら夜に訪問してくるのだから。

「ん、今日は忙しい」

とパチュリーが言う。パチュリーは咲夜が推測したとおりに魔法実験をしているようだった。
小悪魔の頭に猫耳がついている。これは何の魔法なのだろうか?と咲夜は疑問に思った。

「美鈴、劣勢ね」

咲夜は門前に出ると、2対1で苦戦していた美鈴に声をかけた。
スペルカードルールでは、本来は1対1で行うものとされているが、実際はその場のノリで無視されることも多い。
アリスの人形が魔理沙の弾幕と息を合わせて忙しく動く。息の合ったコンビプレーに美鈴が翻弄されていた。
二人の一番の弱点は、人形を動かしているためほとんど移動できないアリス本体だ。
しかし、アリスの体を狙って飛び込んでいくと、完全に罠にかかることになる。魔理沙の八卦炉がその瞬間を狙っているから。
そして、ただのアリス狙い弾なら人形に被弾させて弾消ししてしまう。
それでは魔理沙を狙おうと思っても、
アリスの人形が弾幕の中に作った道を使い、易々と高速で飛び回る魔理沙を捕らえるのは容易ではない。
対策としてはアリスに弾幕でプレッシャーをかけたりトラップを仕掛けることで、アリスのミスから連携が崩れる事を狙うしかない。
しかし、百戦錬磨の二人にはそう上手くいくものでもない。

「わーん、咲夜さん、助けてください!」

と必死に弾幕を避けている美鈴が泣きつく。

「これで2対2、いいでしょ?」

と咲夜は二人の招かざる客に参加を伝える。

「ち、厄介なのが出てきたな。今日は入れてもらえない日なのか?」

と魔理沙が言う。

「あら、よくわかったわね。今日はお通ししない日よ」

というと咲夜はナイフを取り出した。

「大人気ないわね。大の大人が少女相手に弾幕ごっこ?」

と嫌味を言うのはアリス。弾幕ごっこは少女の遊びである。そして、この場において見た目が少女でないのは咲夜だけだ。
アリスは少女の段階で不老の魔法をかけているし、魔理沙も若返りの魔法をかけている。
そして、美鈴は妖怪だからか見た目が少女のまま変わらない。
実は咲夜も若返りの魔法をかけようと研究してみたことがあるが、魔法はあまり得意ではない咲夜はすぐにあきらめた。

「お子様のお守りをしてあげているだけよ」

咲夜は嫌味に嫌味で返しながら、相手の動きを予測して、正確にナイフを投擲していく。

「おまっ」

と魔理沙が被弾する。アリスが美鈴の弾幕の中に作った道を、咲夜のナイフが容赦なく塞いでいくのだから仕方ない。
さすがに隙間を全て埋め尽くしていくのは遊びとして成立してないじゃないか、と魔理沙は文句を言おうとした。
しかし、この場合は単に帰れと意思表示しているだけなので、文句を言うのも粋じゃないなと思い直した。

「ふぅ、今日は無理ね」

とやはり被弾したアリスが人形達を引き上げた。
咲夜が改めて二人に告げる。

「今日はパチュリー様がお忙しいので、お二人を図書館にはお通しできません」

「そうか、残念だぜ。ちょっと調べたい事があったんだがな」

と魔理沙がいうと、

「今日は大人しく帰る事にするわ」

とアリスが言った。
素直に帰ろうとする二人に、咲夜はいつもの愛想のいい笑顔に戻して言った。

「でも、宜しければおうどんでもいかがです?私もそろそろお昼にしようかと思っていたのですよ」

軽く昼食は済ませていた二人だったが、好意にあまえることにした。
雪で冷え切った空気の中にいた二人には、温かいうどんのお誘いはありがたかった。
















メイド稼業を始めて数ヶ月が経った。
私はメイド稼業に必要な様々な技術・知識を貪欲に吸収した。
そして、神霊技術において目覚しい進展があった。
時間を操れるようになっていったのだ。
最初は戦闘訓練の中で飛んでくる礫の速度を僅かに落とす程度だった。
それが徐々に対象範囲が広がって行き、速度差も大きくなっていった。
そして、ついに完全に時間を止めることに成功した。
最もこの能力は私固有の能力で、元から私が持っていたものであった。
神霊技術の教師がそのように言っていた。
少なくとも後天的に獲得できるようなものではないらしい。
訓練が結果として覚醒のきっかけになったのだと思う。

私は工夫してその能力に磨きをかけた。
この能力があればもっとメイド長の、そして、お嬢様のお役に立てると思ったから。
少なくとも、この館には他に時間を操れるものはいなかったから、
私は私にしかできない貢献ができるのではないかと思った。

また、この頃にはメイド長の直属のような形で業務を行うようになっていた。
その結果、お嬢様と接する機会が格段に増えていった。
当初は血を吸われるとき意外は接する事なんてなかったのに。

私はお嬢様と接するにつれて、お嬢様が敬愛すべき方だということに気付いた。
そして、メイド長を非常に大切に考えておられる事も。
メイド長も何を差し置いてもお嬢様のことを想っておられた。
そんなお二方の姿に憧れを抱くようになっていった。

そうして私の中にお嬢様に対する敬愛と絶対的な忠義心が育まれていった。












―――― ガシャン!

昼食の後片付けをしていた咲夜がどんぶりを落とした。
咲夜は自分が落としたことに気付くまでに数瞬を必要とした。

「あら、いけない」

咲夜はあわててしゃがみ込むと、どんぶりの破片を集めた。

「また、物思いに耽っちゃったわね」

とつぶやくと、小さく溜息をついた。

咲夜は悩んでいる事があった。
人間としての限界に咲夜は悩んでいた。
年を重ね確実に肉体と精神に陰りがみえてきた。
今はまだ大丈夫であっても、この先今まで通りにお嬢さまに仕え続けることは人間のままでは無理だと感じていた。
レミリアより先に逝くこと自体は覚悟ができている。ただ、自分が十分に仕えることのできる能力を維持できるのかどうかが不安だった。
人間を辞めてしまえば能力を維持できる。さらに永くレミリアに仕えることも可能となる。
それは少しでも永くレミリアに仕えていたい咲夜にとって、凄く魅力的な選択に思えた。
しかし、そこに踏み込ませない何かが咲夜の中にあった。
よろしくお願いします。
いすけ
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コメント



0.500簡易評価
8.100名前が無い程度の能力削除
つまり魔理沙は若作りバb(ファイナルスパーク)