Coolier - 新生・東方創想話

魔縁

2009/10/05 17:17:36
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卵より孵ったならば、瞬く間に成長した。
火炎と見紛うばかりの輝きをみせ、周囲の者を驚かせ、生まれながらにして彼を強者たらしめた。
その烏は幼き頃から慢心を抱き、その部分のみを切り取れば酒池肉林に浴す貴族の、とりわけて醜い部類と同じほど肥えていった。
慢心がゆきすぎたなら、大きい割にてんで哀れな夢を、夢などとはかなきものに例えるのもおこがましい、妄想を発想させ、彼の気違えた言動は見るに堪えず、聞くに苦しいのだ。
烏はまだ数年と熟成させていない知識と智慧を結集させると、ある考えに至った。
九尾の狐など、端はただの獣臭い狐ごときが万の年を食らったところ、尾を九本もやつしてみせたのだ。
年を食らって怪に化けれるのなら、もう一寸すみやかかつ手頃に化ける術があるはずだ。
と、さも天啓を授かったように申すのだ。救いなきところ極まれり、と他の烏は彼に取り合うことをまるで断ってしまった。
元々、仲間と呼べる縁が希薄だった彼において、その希薄さえ陽が射した朝霧が消失するが如く、もはやなきもとなる。このころから、彼の胸中に一抹の孤独が芽生えはじめたが、本人にも気づけぬほど小さき心情であった。
彼が目指すところは漠然として薄暗く。
蝋燭ひとつたてていない座敷で米粒を探索している風であった。
ゆえに彼は一心不乱に底知れぬ自己の妄想を追いかけ、永劫続きそうな不満足にますますそれを加速させるしだい。
その暗澹たる道中において、ある怪に出会った。
怪の姿は、人にて人ならず、烏にて烏ならず、犬にて犬ならず、足手は人、かぶとは犬、左右に羽根はえ、飛び歩くもの。
彼のとぼしき頭にわずか残留している記憶より、これは天狗であると判断した。大天狗、そして烏天狗らが語られるのだから、烏の自分もそこへ到達できうると思い、この天狗と言葉を交わそうとするも、そもそも彼はかあとしか発声できず、かあで彼の心を五分ともなく表現できる試しはない。よって彼のかあは、むなしく空に木霊するのみであった。
ところが天狗は、どういう力でもって彼を読心したのか「きみは私と同士になりたがっている。ならばその頼みを聞き入れよう」と申した。
彼は嬉しくって羽ばたくのも忘れるほどであった。
次いで「ただではなれない。決心と度胸を具体して私の眼を見開かせれば、晴れて天狗の身分である」という言葉をうけると彼はうなづき、では何で示すのが良しか問うた。
「ここより半里ゆくところに山がある。山には僧がよく足を運ぶ。それを襲いて、僧が手に巻いている数珠を奪い取り、私に示せ。一つとなく、六つばかり示せ」
このように極めて暴力的な条件であったが、願いの達成を痛いほど望む彼の盲目には、暴力が暴力として映ることがなかった。
彼はさっそく、持った黒い羽根を振るい悠々半里を飛び越え、山を見つけるなり適当な木に引っかかりそのまま僧を待つのだ。
すると一刻もすると話に出てきた僧が下方より歩いてきた。
乱雑する山道に足をすくわれている様子は弱々しいものがあったが、彼はそうとは思わず、挙動の貧弱さを認めるとこれ都合よしと弓矢の如く風にのり、僧にぶつかる。
押し倒し、胸板を、口ばしと足の爪で深々まで抉った。僧がもはや白眼を剥きだすままに至った頃に、彼は楽に僧の手首から数珠を奪えることができた。
彼の身の黒きこと、それはそれで美しいものだが、今や朱をまぶしたでたらめな色彩と果てており、おぞましき姿であった。
しかし彼は己を見る方法を知らないので、これもまた知らぬままである。
そうやって一、二日と挑み、三十日もすれば彼は五つの数珠を頂戴する形となった。
あと一つと迫ったが、僧が現れなくなってしまう。実は僧の間で、化物烏が出没すると噂が広まり、怖がってたれも近づかなくなってしまっていた。この、眼と鼻の先にあるものの、手が届かずという状態が彼の業を煮やし、焦らせ、せわしなく飛びまわらせた。
そのようなある日、山に久しく人影が見えた、しかし僧ではなく麓の村に住まう女子であったので、彼は瞬間的に一喜一憂させられた。
が、よく観察すると女子は手首に数珠を巻いており、その数珠は僧が身につけていたものと瓜二つであった。
彼は当惑した。
あの数珠があれば願いへ到達することができる。
そのためには女子を殺さねばならなくなる。女子はたいそう美人である。眺めているだけで向こう将来に輝かしさを垣間見れるような美貌である。
しかし、彼は突撃した。僧を容赦なく殺す彼において、迷いが切れるのに長い時間はかからず、慈悲は残虐心が覆い隠し、慈悲の切れ端が一寸突き出たところで彼の方向を曲げれはしなかった。思えば、女子ゆえに躊躇したのではなく、最後の人間に出会ったから躊躇したのかもしれぬ。

彼が女子にのった。

眼玉を啄むのだ。

皮を剥がすのだ。

肉を千切るのだ。

肝をばらすのだ。

赤々、濡れそぼる数珠をとると、彼は飛びあがった。このまま天狗の元へ急ぎ、天狗へ六つの数珠を示した。
もうすぐ一段上に昇華できるという興奮に彼は我慢できぬといった様子だが、数珠を見つめる天狗の面は思わしくない。
彼はそれに気づくことなく浮かれている。
「よろしい。きみを天狗にしよう」と言うと、彼へ一杯の水を浴びせた。
たちまち彼の身に異変が起き、みるみるうちに烏の形から人の形へ変貌した。しかし、それ以上がなかった。
そこに人間以外を見出すことはできず、肌の滑らかなこと、顔の整ったこと、背の丸いこと、人間であった。彼が困惑していると天狗が鏡を手渡してきて、覗きこんだときの彼の愕然たる表情はない。
彼が先ほど殺した女子の顔があり、またその顔も愕然の表情を見せていた。彼は憤怒して天狗へ説明を求めたが、天狗はただ「案ずることはない。立派な烏天狗である」と言い残し山の切れ目へ飛び去っていった。
彼は天狗がいった方角の空を眺め、眺めているとますます怒りがこみあげ、鏡を地へ投げ捨てるや裸足で踏みつけ、それでも足りぬとかがみこむと拳で粉々になるまで叩き続けた。
吹きだす血に白い肌が染まったのを見て、鋭く痛みを感じたときに、自身が烏でなくなったことを理解した。
彼の虚脱甚だしく、心、衰弱しあれほど積み上げられていた慢心は、蜃が吐き出した気だったのではと思えるほど見当たらなくなっていた。
ただ彼の中に少なからずの安堵が導き出されたのも事実。
力関係ゆえに烏天狗は大天狗に仕えることが多いが、仕えるという行為によって、彼は居所を掴まえるに至った。
孤独は払拭された。

 
烏羽玉の身は消へてなし風もあおげぬは

魔縁さしあふむくいとぞ思ふ


烏羽玉の果実のように黒かった姿は消え入り、翼で風もあおげなくなったのは、天狗に会い魔がさしてしまった報いと思われます。と、彼女は詠んだのだった。





天狗が落とす文などあると聞く。
文には、およそ人には解読できぬ文字が綴られており、そこに書かれているのは知識や予言で、もし読むことができたなら何らかの助力になろう。
彼女の落とし文に並ぶ文字は、以外にかわいいと噂されている。
前から何か投稿したいとは思っておりました。
だから、せっかくなので作品投稿に踏み切った次第です。

この作品は多分に実験要素が含まれているのでお見苦しいところがあったかと思われます。
あしからず。
今野
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コメント



0.390簡易評価
10.60名前が無い程度の能力削除
まあタグどおり。これを創想話以外の場所で目にしたならもっと面白く読めたかと思います。
古めかしい文体は技量がないと逆に読んでいて醒めてしまうものですが、そのボーダーは越えていたかと。
益々の御研鑽を期待しております。
13.70名前が無い程度の能力削除
良いよ、良いよ。
私は実験作好きだし、文章の技量も高かったと思うので。
14.70名前が無い程度の能力削除
誤字らしきものを

>もはやなきもとなる
もはやなきものとなる
>以外にかわいいと噂されている。
 意外に~

 雰囲気は好みでした。次も期待したいと思います。
15.80名前が無い程度の能力削除
「ひがしかた」であって「とうほう」でない
と読んで、てっきりJOJOネタかと思ったのは俺だけ?

話自体は面白かったけど
ほんとほとんど東方関係ないなw
16.90名前が無い程度の能力削除
文が元男、もとい元雄と聞いてやってきました。
それはともかく、この雰囲気いいなぁ。この文体で他キャラの話も読みたいです。
17.90名前が無い程度の能力削除
文章の綺麗さがずば抜けててすごい。
確かに東方SSというには疑問かもしれませんが、おもしろかったです。