Coolier - 新生・東方創想話

"It's Over"

2009/10/02 02:10:52
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――咲夜の、寿命が近い。



無論、驚く事では無い。彼女は人間なのだから、何れ死ぬ。



何とかしてもっと生かせないかと思う日も有った。

蓬莱人の生き肝を食わせようかと思った時期も有った。

私自らが吸血鬼にしようかと思い悩んだ時も有った。

・・・思うだけで、結局実行はしなかったが。



咲夜自身が、其れを望まなかったのも有る。

幾ら従者とはいえ、望まぬ事を強いるのは愚の骨頂。
従者が、只のイエスマンであってはならないのだから。



もう1つ、其れを成した所で何が残るか想像すれば、割に合わないというのも有ろう。

彼女は人間である。在り方が大きくずれよう物なら、耐えきれなくなってしまうだろう。
そうなった後に残るのは、抜け殻か骸か人形か――何れにせよ、下らない。

そんな「物」に居て欲しいのでは無い。「咲夜」に、居て欲しいのだ。
そう考えれば、その手の魔術やら何やら・・・悉く、無価値である。



夜。私は、横になった咲夜の側に居た。

見た目に変化は無いが、この頃は起き上がる事すら減ってきている。
この様子だと、何時迄持つやら・・・。



「良い夜だ。月が、緩やかに此方を照らしている。」

「えぇ・・・とても、良い夜・・・。」

「・・・。」



話すのも侭ならぬ状態らしいが、黙っているのも苦しい。

此が最後の会話だと、何となく分かっているからだ。



・・・別に確信していた訳では無い。何とは無しに、そう感じただけだ。

だから、せめて感謝の言葉を述べておく。後悔しない様に。



「お前は、良くやったよ。私が今まで見てきた人間の中で、最もね。

 ――誇れ。地獄まで、持って逝け。そして、高らかに叫ぶが良い。

 自分は紅魔館のメイド長で、紅い悪魔『レミリア・スカーレット』の従者だったのだと。」



「光栄です・・・。」



「生まれ変わって、再び流れ着く様な事が有ったなら――此処に、来なさい。

 貴女は、必ず私を見付けるよ。私が、貴女を見付けた様にね。それが、お前の運命だから。

 生まれ変わったかどうかなんて関係無い。一目見れば・・・分かる。」



「えぇ。その時は、必ず・・・。」



・・・やっぱり沈黙からは逃れられない。だが、さっきよりは楽になっている。

そうか、こうやって、やんわりと死を受け入れていくのか・・・。





「――お嬢様。」

「ん?」

振り返ると、咲夜は静かに此方を見上げていた。何時もの微笑みだが・・・何故だろう? 何処か違う様に感じる。





「失礼致します・・・。」





――あぁ、そういう事か。





「お疲れ様。・・・安らかに眠りなさい。」





そう言うと、咲夜は静かに目を瞑った。そして――





・・・言い表せない。兎に角、何かがスルリと抜けていった様に感じたのだった。





・・・・・・・・。





・・・・・・。





・・・・。





「・・・なぁ、咲夜。」





「・・・・・・・・。」





「・・・咲夜?」





「・・・・・・・・。」




「・・・眠っちゃったのか?」





「・・・・・・・・。」




「咲夜ってば――。」





・・・私は心の何処かで、あぁ咲夜は死んだんだ、と其れを受け入れた。拍子抜けする程、穏やかだった。

そして、それが咲夜の最期だった。余りに呆気なすぎて、暫く何にも言えなかった。





葬儀は、至ってささやかな物だった。あんまり大事にしたくない私と咲夜の意見で、密葬にしたのだ。



「お姉様。」

「なあに? フラン。」

「咲夜は、眠っちゃったね。」

「そうね、咲夜は眠ってしまったわ。」



「私、何で泣けないんだろう? 咲夜の事、本当に好きだったのに・・・。」



「・・・これから、よ。これから、じわじわと募る。悲しみとは、得てしてそういう物よ。

 だから、泣きたい時には泣いておきなさい。其れが出来ない奴は、本当に泣きたくても泣けなくなってしまうから・・・。」



「――うん、分かった。」





葬儀が終わった後、何とは無しに屋敷を彷徨くが、何処を見渡しても咲夜の影がちらつく。

堪らず、自室に戻りたくなった。飲まなけりぁやってられない様な気がしたのだ。



「其処のメイド。」

「は、はい?」

「一番上等なワインを、私の部屋へ。飛び切りの上物を、ね。」

「か、畏まりました・・・。」





ワインを受け取った私は、やけくそになって飲んだ。

しかし、無性に苛々させられる。何しろ、飲んでるワインさえも・・・。



「あぁ、此か・・・。初めて拵えたビンテージじゃないか・・・。」



こんな所にまで、咲夜が居る。堪えきれずに、何か吐き出してしまいそうだ。

折角なので、二人分のグラスにワインを注いだ。貴女に一杯、私に一杯・・・。







おや? よく見ると、ラベルに小さく書き込まれている。何が記されているのだろう。







――気になって仕方が無く、止せば良いのに覗き込んだ。其処には、







~永遠に愛するRへ捧ぐ 貴女が忘れても構わないSより~







と綴られていた。





・・・やってくれる。思わぬ不意打ちで、遂に涙が零れてしまった。





一筋流れたのを切っ掛けに、次から次へと涙が溢れてくる。





昼間、フランに言われた事が浮かんだ。何で泣けないんだろう、と。





悲しくない訳では無かった。大事じゃない訳でも無かった。





只、人前では泣けなかったのだ。見栄とか、立場とか。そんな、下らない物のせいで。





「咲、夜・・・!」





だが、限界だ。もう、堪えきれない。私は、静かに泣いた。





――なぁ、周りには誰も居ないんだ。今位は、泣いて良いだろう、咲夜?





・・・・・・・・。





・・・・・・。





・・・・。





目覚めた時は、既に日が昇っていた。どうやら、メイドがノックする音で起こされたらしい。

「勝手に入って。」



「失礼します、お部屋の方を掃除させて頂きます。」

「あぁ、うん。・・・?」



其処でやっと、自分の体に毛布が掛けられていると気づいた。



「貴女かしら?」

「は?」

「貴女が、毛布を掛けたの?」

「は? いえ、私ではありません。御自分でお掛けになったのでは?」





数秒、言った意味が分からなかったが、ピンと来た。

振り向き様、グラスを見てみると――







飲み干されていた。水滴一粒、残さずに。







ふ。







ふふ。







ふふふふふふ・・・!







「はは・・・ははははははは!」

「お、お嬢様!? お気を確かに・・・!」

「良い良い、無性に笑いたい気分なだけさ。掃除を続けてくれ。」

「は、はぁ・・・。」



全く――やれやれだ。折角泣いてやったというのに、もう笑ってしまったじゃないか。



「何処までも瀟洒な奴だよ、全く・・・。」

「はぁ?」

「何でも無い。さっさと持ち場に戻れ!」

「は、はいぃ!」





幽霊がワインを飲めるか? そんな事は知らない。こんな場所だ、こういう事も起こりうるだろう。

亡霊が、気を利かせてくれたのかもしれない。或いは、どうしても見届けたいという執念の為せる技かもしれない。

何れにせよ、有り難いと思った事は確かだ。幾らか、気持ちが楽になった。



・・・有り難うな、咲夜。未だ、生きていけるよ。

何時か、また会おう。何度でも、見付けるさ。お前は、ずっと私の従者だ!


END
最後の作品から約1年2ヶ月。流石に、覚えてらっしゃる方はいないのじゃないでしょうか。

今回は、何か訳の分からぬ侭に閃き、その勢いの侭突っ走って書いてます。お陰で、淡々とした作品になってしまいました。
「咲夜さんに死なれたくないからうにゃうにゃするお嬢様」ってのを見る度、何か釈然としない思いを抱いていた事や
「そうじゃないよ! 「死」も含めて、咲夜さんの全てを受け入れるんだよ!」と思ったのが、今回の執筆動機だった様です。

其れでは、此処まで呼んで下さって有り難う御座いました。
seirei
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コメント



0.1190簡易評価
4.80名前が無い程度の能力削除
死してなお瀟洒、ってのがまた瀟洒だよなぁ。
5.90煉獄削除
レミリアの『物ではなく咲夜にいてほしい』という言葉やラベルに書かれていた文字、
死んでいても咲夜さんの想いが感じられる場面など、とても良いお話でした。
6.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんは瀟洒だなぁ…素晴らしい。
7.100名前が無い程度の能力削除
貴方と同意見ですね。
9.100名前が無い程度の能力削除
死してなお...
多分 咲夜さんも笑っているのではないでしょうか。
いった人も残された者も涙を越えて笑うことができるなんて...
本当にいいお話でした。
16.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんもレミリャもこうでなくっちゃな!!
25.80名前が無い程度の能力削除
咲夜さんの逝き方は完璧ですねw