Coolier - 新生・東方創想話

満開の桜 四

2009/10/02 00:50:29
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※この作品には多大な百合表現が含まれています。
※この作品には設定の捏造、曲解、作者の妄想が含まれています。
※この作品にはオリキャラがでます。
※以上に嫌悪感を持たれている方は、お手数ですがブラウザの戻るボタンを押す事をおすすめいたします。
















 西行寺本家の正門前に、紫達はいた。厚い雲と夜の闇に覆われ、あたり一面が黒一色である。横から打ち付けるような雨は、さらに強さを増し、響く雷とあいまって嵐の如き様相を呈していた。
 境界から出て、門番を確認するや否や、妖忌と光恵が門番を締め上げる。

「幽々子様はどこだ?」

 妖忌の鬼気迫る勢いに圧倒され、門番たちはすぐに白状する。

「幽々子様なら、今日はお偉い方々と花見をされるご予定でしたけど、この雨ですから、多分屋敷内におられると・・・。」

 それを聞いた紫はすぐに境界を開く。が、中には入らず、怪訝な顔をしているだけだった。それを見た妖忌がじれったそうに、紫に向かって叫ぶ。

「どうしたんだよ、八雲!さっさと行こうぜ!」

 しかし、紫は動かない。何事か思案しているようだ。
 光恵は動かない紫の理由が判っているらしく、式神を顕現させ始めた。何か言おうとする、妖忌に紫が説明する。

「幽々子の居場所は西行桜。どうやらこの雨の中花見をやっているようね。」

「何言ってんだ!ふざけてんのか!?」

「境界が繋がらないのよ。かなり強い結界を張っているみたいね。」

 紫の顔に焦りの色が浮かんでいる。

「だったら、走って行きゃいいだろ!とっとと行くぞ!」

 走り出そうとする妖忌に光恵が叫ぶ。光恵の周りには三体の式神がいた。白銀の狼のような、その式神の身の丈は光恵の倍はある。

「こちらの方が速いです!お乗り下さい!」

 言うが速いか、狼にまたがり駆け出す。先頭に紫、その後ろ、右に妖忌、左に光恵がついてきている。一度しか通った事の無い道を紫は躊躇う事無く進んで行った。
 西行桜の咲く、山の麓には無数の式神が配置されていた。あちら側も紫達が来ると判っていたらしい。

「突っ切るわよ!」

「「承知!」」

 叫ぶなり、紫は前方の空間へ力任せに妖気を放つ。妖気の直撃を受けた式神が、跡形も残さず、吹き飛んでいく。
 崩れた陣形のど真ん中へと突っ込み、再度前方へ力を放つ。飛び掛ってくる式神達は妖忌と光恵が迎撃していく。一瞬たりとも同じ場所に留まらず、前へ、前へと突き進んでいった。

「この先に西行桜があるわ!」

 森が途切れ、視界が広がる。抜けた先にあったのは、紫が一年前に見た桜とは全くの別ものだった。
 優美に咲き誇るその桜は、依然見た時よりも、二周りほど大きくなっている。視界の全てが桜の花で覆われていた。桜の花びら一枚一枚に、魂が宿ったかのように淡く光り、薄暗い雲の下にあって尚、美しい。その美しさとは反対に、肉眼ですら見える程、濃い妖気を立ち昇らせている。以前いた、地縛霊は残らず怨霊に変わり、桜に絡め取らて、怨嗟の声を上げていた。
 目の前に咲く桜は、紛れも無く妖怪桜だ。その美しさで人妖の区別無く、魂を死へと誘う妖怪桜がそこに存在している。
 妖怪桜の墨でも塗ったかのような漆黒の幹の根元には、紫の捜し求めていた人がいた。

「幽々子!」

 紫は愛しい、その少女の名前を叫んだ。


                      *


 紫の声に幽々子が反応する。

「紫・・・さ、ま?」

 幽々子縛るように桜の枝が巻きついていた。意思を持つように枝が蠢いている。
 搾り出すように、紫の名前を呼ぶ幽々子。力無く、顔を上げて紫を見つめてくる。衣服ははだけ、露になった素肌のいたるところに、朱い口付けの痕がついていた。
 紫の視界が紅く染まった。黒い何かが、紫の心を埋め尽くしていくのが、解る。気を保つ為に、強く、唇を噛んだ。

「夜々子!いるのでしょう、出てきなさい!」

 大気を震わせるような怒号。側にいた、光恵と妖忌が竦み上がる。

「そんなに、大きな声を出さなくても聞こえているわ。」

 紫の怒号に何かを感じた様子も無く、優雅な足取りで夜々子は現れた。姿形共に幽々子と同じだが、その笑顔は度し難いほどに似ていなかった。裸体を隠そうともせず、紫を見つめる。

「幽々子に何をしたの・・・。」

 静かな口調とは裏腹に、焼け付くような怒気が込められていた。膨大な妖気が紫の体から溢れ出る。目に見えるほどに密度を増す妖気は常人なら、浴びただけで意識を失っているだろう。強烈な憎悪を宿した瞳が夜々子を睨みつける。
 空間を歪めるほどの殺気を浴びて尚、夜々子は平然としている。

「何をって、姉上を清めていたのよ。」

 呆れたような口調で言う、夜々子の瞳は紫と同じく憎悪を宿していた。

「どこぞの野良妖怪が、私の姉上を誑かして、穢してしまったものだから、その消毒をしていたの。」

 忌々しげに言い放つ。立ち昇る妖気は紫と比べても遜色ないほどだ。

「私はこれから姉上と一つになる。その為にこの桜を作った。結構苦労したのよ?この桜を作るの。」

 妖怪桜と言われてはいたが、元々は、地縛霊が多い程度の桜だった。時を経れば妖怪桜へ変化していたかもしれないが、数百年は先の話だ。だが、今現在この桜は、紫と同等かそれ以上の妖気を放っている。
 外的要因があったのは明らかだった。

「変化の外法。」

 光恵が呟く。少し驚いた顔をする夜々子。

「あら、呪術に詳しい人も混じっているのね。まぁ、簡単に言っちゃうと、妖怪や人間をたくさんここで殺して、桜に取り込ませただけなのだけどね。あと、姉上の死霊も桜に取り込ませたわ。もう、姉上に死霊は寄り付かない。人を殺して苦しむ事もないの。そのおかげかしらね、死霊を操る事も出来たわ。こんな風にね。」

 夜々子が優雅な所作で掌をかざすと、そこに蝶が現れた。一匹や二匹ではない。無数の蝶が夜々子の周りに現れる。青白く光る美麗な蝶だった。まるで、命それ自体が形を得たかのような美しさ。それは人妖の命という蜜を吸い、変態をとげた死霊達の姿だった。

「まぁ、どうでもいい話だわ。」

 心底つまらなさそうに呟いて、幽々子の側まで歩いていく。夜々子の意思を汲み取っているかのよう、枝が蠢き幽々子を起こした。
 同じ人物とは思えないほど、純心無垢な笑顔で幽々子の頬に口付けをする。目をきつく閉じる幽々子・

「愛しいわ、姉上。とても愛しいわ。
一つになりましょう、姉上。
未来永劫、永久に、悠久に。」

 幽々子に向ける優しい表情は、間違いなく本心からのものだろう。光恵も、妖忌も、それに紫もそれだけは伝わってきた。
 紫達に向き直った時には、先程の表情はすでに消えている。

「姉上は渡さない。姉上以外は何もいらない。輪廻の輪から外れて、二人で生きる。」

 凪いでいた空気が、徐々に荒れだす。地鳴りのように大気が震え始め、桜の根が大地を割り、数え切れない程の死蝶が群がり始める。

「その前に、姉上を穢した貴女は許せない。
必ず死なす!」

 世界が爆ぜた。


                      *


 西行桜は夜々子を取り込んで、でたらめに枝や根を伸ばし始めている。死蝶もさらに増え、世界が終わるような光景が目の前にあった。

「幽々子!」

 紫の声は届いたらしく、紫を見つめる幽々子。悲痛に顔を歪め、紫に向かって叫ぶ。

「お逃げ下さい、紫様!こうなったのは私の責任なんです!」

「あなたに責任なんてない!待っていて、必ず助けるから!」

 自身に襲い掛かる枝へ横なぎに妖気を放出して、蹴散らす。だが、蹴散らした先から、再生し、襲い掛かってくる。枝が、腕を抉る直前、光恵の式神が枝を食い千切った。全周囲から襲い掛かる枝と死蝶を、結界を張り防ぐ、光恵。光恵が張った結界の隙間から侵入する枝や死蝶を桜観剣が両断した。

「ここは危険すぎます!下がりましょう!」

「馬鹿言うな!まだ、幽々子様を助けてねぇだろうが、下がってどうする!」

 言い争っている間にも、襲撃は止まない。それどころか次々に量が増えている。光恵と妖忌が奮戦しているが、そう長くは持たないだろう。
 枝に阻まれ、幽々子の姿も見えなくなりつつある。悩んでいる時間は無い。

「光恵!今から幽々子の所まで枝と死蝶を吹き飛ばすわ!結界を張って食い止めて!妖忌は侵入してくる枝や根の処理をお願い!」

 光恵が何か言おうとしているが、時間がない。出せる力を極限まで振り絞り妖気を放つ、前方の空間が闇に食われた様に抉り取られる。
 枝が再生する前に結界が張られる。式神も同時に操り、結界に近づく枝を迎撃させていた。

「言い出したら聞かない、お人だ。」

 呆れるように言う、光恵。すでにあちこち負傷している。汗を飛び散らせながらも、微笑を浮かべていた。まだ、余裕はあるようだ。
 すぐさま前方へ駆け出す。迎撃をかいくぐった、枝と死蝶が隙間に雪崩れ込んでくる。足を止めず、突っ込む。

「幽々子様を泣かせちゃいかんよなぁ!八雲!」

「当たり前よ、あの娘は今までずっと泣いてきたのだから!その万倍は笑わなくてはいけないわ!」

 紫の脇を駆け抜ける妖忌は、満面の笑顔を浮べている。肩口辺りで破れた服が紅く染まっている。閃光が疾駆し、眼前の視界が開けた。一足飛びに幽々子の元へ飛び込む。
 顔を上げるとそこには、愛しい少女がいつもの泣きそうな顔で紫を見つめていた。

「そんな顔をしないで、妖忌に怒られてしまうわ。」

 力一杯、幽々子を抱きしめる。今は、幽々子がそこにいる事を感じたかった。幽々子も紫の背中に手を回す。

「何も心配しなくていいのよ。私があなたを助けてあげる。」

 幽々子の瞳を真っ直ぐ見つめる。愛しい少女を不安にさせない為、笑顔で笑いかけた。
 幽々子の腰から下は、桜の木に絡め取られている。幽々子を抱きしめ、力を解放した。周りの木々が吹き飛び、幽々子の体を取り出す事に成功する。
 光恵と妖忌に合図し再度、力を溜める。

「必ず死なすと言った。」

 腹部に焼けるような痛みが奔る。

「紫様!」

 振り返ると、夜々子が上半身を幹から出して、灼熱のような瞳を紫に向けていた。右腕は尖った枝にかわっている。夜々子がさらに力を込めるより先に、背後に力を放出し、枝を叩き折る。特に痛痒を感じたでもなく、夜々子は再び桜の中に消えた。
 体が千切れとようと、幽々子だけは絶対に渡さないよう、強く抱き寄せる。

「私はまだまだ、貴女に飽きていないわ。多分一生飽きそうもないみたい。」

 幽々子を抱き込むようにして、地に伏せる。
 二人の頭上を諮り輝く巨大な刃が通り過ぎた。辺り一帯の木々が木っ端微塵に爆散した。

「迷津慈航斬!斬れぬものなど、少ししか無い!」

 斬撃で大きく開いた空間に次々と結界が張られる。強固な結界が瞬時に出来上がった。

「賀茂流四重結界、四重に結界を張りました。と言っても長くは持ちません、急いでください。」

 先程の式神に跨り、山を駆け下りていく。全員があちこち擦り傷やら、切り傷やらを負ってぼろぼろだ。
 後ろは、一面桜色だった。光り輝く桜の花が幻想的に舞っている。このような状況でなかったら、大層美麗に感じていただろ。

「どうします、紫?このまま巨大化するようなら、辺り一帯が妖怪桜の領地になってしまいますよ。・・・紫?」

 紫の顔色は蒼白だった。それでも、安心させるように笑っている。紫と同じような顔色で、幽々子も紫を見ていた。

「大丈夫よ、大妖怪はこんな事じゃ死なないから。安心なさい。」

 優しく微笑むと幽々子の頭を撫でてやる。

 雨は止めども、まだ厚い雲が空を覆っていた。


                      *


 山の麓、西行寺家の屋敷まで四人は下りてきていた。

「で、どうすんだよ、あの桜?どうやらまだ成長しているみたいだぜ。」

 皆の視線が樹によりかかる、紫に集まる。致命傷ではないが、かなりの深手だ。着ている着物は深紅に染まっている。

「方法はあります。」

 声を発したのは、紫ではなく光恵だ。

「あの桜は元々妖怪桜だったわけではなく、外法により、無理やり変化したものです。妖怪は妖怪なのですが、夜々子の言った方法を行うには必要なものがあります。」

 紫は厳しい目で光恵を見つめている。光恵も当然気付いていたが、その視線を無視して話を続ける。

「人柱です。人柱がその妖怪の核となり、統制をとる。核は間違いなく夜々子でしょう。夜々子を封じれば妖怪桜を封じる事になります。ですが、現在の妖怪桜は大きく、あれを封じるだけの力は私達にはない。万全の紫でも相討ちが限度でしょう、今の状態では到底無理です。そこで―――」

 光恵は少し溜めてから言葉を繋いだ。

「核をおびき出す為の劣り役と、核を封じる楔役が必要です。私と魂魄殿では夜々子は出てこないでしょうから、囮役は―――。」

 光恵が言いきる前に妖忌が割って入る。

「だったら俺が楔役で、八雲が囮だ。元々俺の力足らずで幽々子様を奪われたんだ、一番の責任は俺にある。それでいいか、八雲?」

 光恵の発言に間髪いれず妖忌が名乗り出る。紫が頷くよりも先に声をあげる者がいた。

「私がやります。」

 声を上げたのは幽々子だった。強い眼差しで、光恵を見つめ、口を開く。

「私なら囮役と、楔役のどちらもできます。それに、夜々子があんな風になったのは私のせいです。私は自分の不幸だけを考えていました。でも、夜々子も苦しんでいたんです。私と同じように、助けを求めていたんです。だから、私が助けます。」

「いや、俺がやりますよ!あなたは八雲と共に暮らしてください!」

「駄目、私がやる。元々妖忌は巻き込まれたに過ぎないわ。この役目は私のものよ。そして幽々子、あなたは生きなさい。今、貴女は普通の女の子よ。西行桜に能力を喰われ、能力のない今の貴女なら外の世界で暮らせる。狭い屋敷で暮らす必要もない。生活の事なら、妖忌と光恵が協力してくれる。」

 紫は幽々子の瞳を見ない。幽々子の瞳を見てしまったら、全てが終わってしまう気がした。
 幽々子が紫へと近づいていく。紫の前に座ると紫の瞳を見つめ、唇へ触れるだけの口付けをする。

「紫様はお優しい人です。私は紫様に救っていただいて、本当に幸せ者でした。紫様に愛していただいた日々は絶対に忘れません。紫様、私にやらせてください、私が胸を張って紫様の恋人だと言えるように。」

「・・・だから、目を見たくなかったのよ。そんな目をされたら断れないじゃない。しょうがないわね。だって、幽々子の頼みだもの。」

 頬に温かいものが伝う。どちらともなく、再び口付けを交わす。幸せそうに笑う二人。

「妖忌さんもありがとうございます。でも、やっぱりこれは私の役目です。」

 妖忌は何かを言いかけ、幽々子の瞳を見て渋々口を閉じた。幽々子の瞳には強い意志が宿っている。妖忌だけでなく、その場にいる全員が幽々子の意思を変えることが出来ないと理解した。

「光恵、妖忌、幽々子を頼んだわ。私は動けそうにないみたい。」

 静かに頷く光恵と妖忌。幽々子の瞳を真っ直ぐに見つめ、最後の言葉を紡ぐ。

「愛しているわ、幽々子。」

 紫の目の前に満開の桜が咲いた。

「私も愛しています、紫。」

 紫も微笑む。幽々子は名残惜しそうに森へと歩き出した。
 人が畏れ、妖怪が畏れた大妖怪はたった一人の少女の為に涙を流す。
もう会えないだろう少女を想い涙を流す。




遠く、山一面に咲いた桜の花が静かに散っていくのが見えた。
この作品の注意書きに関しては『満開の桜 一』のあとがきをご覧下さい。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます!
よろしければ作品に関するご意見、ご感想をいただけるとうれしいです。
織田航洋
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コメント



0.620簡易評価
10.40名前が無い程度の能力削除
最後の余韻を静かにしようとしたのかもしれませんがあっさりさせすぎたために、
ラスト1Kで力尽きてリタイア扱いになったマラソンみたいになってしまいました。
キャラクターの心情も場面の盛り上げも良く考えてあっただけに本当に残念。
15.40名前が無い程度の能力削除
最後の盛り上がりがないから「え?これで終わり?」ってなっちゃいました。
話の筋は中々おもしろかったんですがラストの別れのシーンをもうちょっと
描写してほしかった・・・
19.70名前が無い程度の能力削除
ある一部分を除いたら余裕で100点連打したいくらいの作品なだけに勿体ない。
ラストのシーンがあまりにもあっさりしすぎているのが残念でした・・・この続きがあるわけではないですよね?
せめてラストシーンの視点を幽々子視点にして夜々子とどういったやり取りがあったのかや、もしくは紫視点で、やがて幽々子が亡霊になるまで・なった後のエピローグ的なものが欲しかったです。

でも1~4までの場の雰囲気の出し方や戦闘などの動きのあるシーン、それぞれのキャラの性格描写は最高でした!
百合注意と書いていましたが、なるほどと頷けますね。
織田様の素敵なゆかゆゆワールドを堪能させて頂きました。
個人的には夜×幽もオリジナルな設定ながらに素晴らしいと思いました!