Coolier - 新生・東方創想話

咲夜は私の犬よ、当然じゃない  前編

2009/09/10 17:14:52
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この運命を選んだのは私

覚悟はしていた

咲夜の為に果たすべきこと

咲夜にかける最後の優しさ





今、告げる











季節は移ろい、人は老いてゆく。
万物は流転し、輪廻を巡る。
森羅万象変化する。変化しないのは蓬莱人と妖精ぐらいのものである。
遠くに妖怪の山が見える。
秋の神が紅く染め上げたはずの山の木々の葉も段々と色を落とし始めている。
自然の理に従って。

いつもは紅魔館の住人である十六夜咲夜が、
主の眠っている時間に一人で散策している湖畔。
そこに今日は紅魔館当主レミリア・スカーレットに誘われて、
咲夜はやってきた。
レミリアは吸血鬼であり夜間に行動するのが常である。
かつては昼間にも出歩く姿がよく見られたのだが、
最近では昼間にその姿を見かけることは稀となっている。
妖怪は永く生きる者程行動が抑制されていく傾向があるのだが、
それは吸血鬼にも当てはまるものらしい。

そのレミリアがまだ日が高い時間に咲夜を誘ったものだから、
咲夜も内心驚いている。
主の気まぐれに慣れているとはいえ、
ただでさえ今日は雲ひとつない悪天候なのだから。

レミリアと咲夜は咲夜のお気に入りの場所にある木陰に並んで座り
話し込んでいる。

「あなたよくここでぼけーっとしているでしょ」
「あら、ご存知だったのですか」

レミリアが何故知っているのかはわからないが、
大方、紅美鈴あたりから聞いたのであろう。
なお、咲夜は200年程前に引退し、メイド長の職を美鈴に引き継いでいる。
咲夜に言わせると、人間は年をとれば隠居するもの、ということらしい。

とはいえ、咲夜が常にレミリアに付き従っていることには代わりない。
実質的には雑用を美鈴に押し付けただけである。

「咲夜、あなたが私に仕えるようになってどれくらい経つかしら」
「そうですね、かれこれ700年程です」

咲夜には時間を操る程度の能力がある。
それは、自分以外の時を止めたり、特定の物の時を速くしたり、
遅くしたりする能力である。
咲夜の手にかかれば、新しいワインもあっという間にヴィンテージものとある。
咲夜はその能力を何百年も自分に使っている。
自分自身の時の速度を落としてきたのだ。
その結果、700年もの永きに渡ってレミリアに仕えてきた。


「そう。もうそんなに経つのね」
「私も随分おばあちゃんになりました。お嬢様はいつまでもお若いですのに」
「あの巫女もあなたにそう愚痴っていたわね」
「霊夢のことですね。あの巫女はほんと変わっていましたわ」

博麗霊夢。歴代の博麗の巫女のなかでも、
稀有な存在であったといっていいだろう。
今の幻想郷の安定は、彼女の功績によるところ大である。
特に彼女が制定したスペルカードルールは、
現在でもスタンダードとなっている。
彼女が巫女を引退してから600年以上経った今も、
過去の英雄の一人として彼女の名を知る者は多い。
しかし、彼女の姿を知る者は少なくなった。
いつも神社でお茶ばかり飲んでいるぐーたらな巫女だったといっても、
いまや誰も信じてはくれない。

「霊夢以上に面白い巫女はその後いないわねぇ」
「霊夢以上にお嬢様がお気に入りになられた巫女もいません。
 ちょっと妬けました」
「知ってる」
「あら、悪魔が悪いですね」

長く同じ時を過ごした者同士のたわいも無い会話が続く。

「そういえば、宇宙人がパーティーやるって言ってきてたわねぇ」

宇宙人。
迷いの竹林に住む永遠亭の者達。
かつては月の民であったという、そこの姫蓬莱山輝夜とその従者八意永琳は、
兎達と共に今も昔も変らぬ生活をしている。
彼女達は蓬莱の薬を飲んだ不死者であり、死ぬこともなく老いることもない。

「きっと、兎鍋ですね」

もちろん、永遠亭で兎鍋が振舞われたことは一度もない。
もっとも、レミリアにはそんな咲夜の軽口も耳に入っていないようである。
永遠でない我が従者のことを思い、その結果ふと浮かんでしまった寂しさを
含む表情を、咲夜に見られないように顔をそむけている。

「あの者達は変らないわね」

レミリアがつぶやく。
そんなレミリアの様子を怪訝に思いながら、いつもどおりに咲夜が答える。

「あの人たちは時間が違いますから」

今までにも何度もくり返されてきたであろう、
たわいも無いやりとりであったが、
今日のレミリアは、いつもと違う印象を受けたようである。
レミリアは確認するため、これから咲夜に告げるべきことを確認するため、
少し間を置いた。

「そうね」

レミリアが沈黙する。
咲夜は静かに待つ。
数瞬沈黙が続いた後、レミリアが決意を込めて口を開く。

「ねぇ、咲夜」
「はい、お嬢様」
「楽しかったわ」
「それはよかったですわ」
「もう十分よ、咲夜。休みなさい」
「お嬢様・・・・・・」

咲夜は、レミリアの目に真剣さがはっきりとあらわれているのを見てとると、
その言葉の意味を違えることなく受け取る。
そして、往年の瀟洒な雰囲気を纏い主に伝える。

「それでは十六夜咲夜、先に失礼させていただきます」

レミリアはそっと咲夜を抱きよせる。
咲夜も逆らうことなくレミリアに身を預け、ゆっくりと目を閉じる。






・・・・・・そして咲夜は、己の能力を解き、眠りにつく。















 
紅魔館近くの湖畔。冷たくなりつつある風が、落ち葉を運んでくる。
その湖畔にある木陰でレミリアは佇んでいる。
その腕の中にまだ暖かい咲夜を抱きながら。
どこか遠くで騒霊が楽しげな曲を奏でているが、
レミリアには聞こえてはいないであろう。
そして、何か思い切ったように、虚空に話かける。    

「藍、いるのでしょう」
「もういいのか」
「十分よ。あとのことは頼んだわ」
「あぁ、任せてもらおう。主の約束を式が反故にするわけにいかないからな」

八雲藍。八雲家の現当主。
かつては妖怪八雲紫の式であった。
現在、式はついていない。

「そういえばあなたの主が消えてからどのくらい経つのかしら」

レミリアは何か関係のないことを話していないと、
理性を保つ自信がないのかもしれない。

「213年4ヶ月と3日だ」

藍はそんなレミリアの心情を慮ってか、淡々と答える。

「あのときは大変だったわね」
「迷惑をかけた」
「いいのよ。なんだかんだで私もこの郷が気に入っているのよ」

ある日、忽然と八雲紫が幻想郷より消えた異変。
八雲異変と呼ばれるその異変は、
幻想郷に博麗大結界が出来て以来最も大きな異変であるにもかかわらず、
ごく一部の有力な人妖にしか知られていない。
そして、現在も八雲紫の行方は掴めていない。
この異変により紫が失踪したことをうけ、
藍が紫の留守を守る形で八雲家の当主を代行し、幻想郷の結界を守っている。


「紅い悪魔と恐れられた吸血鬼とは思えないな、近頃のレミリアは」

幼いといわれた吸血鬼も年月を経ることで、他の妖怪同様知恵をつけ、
行動も抑制的になってきたように見える。
もっとも、紅魔館内においては相変わらず奔放に遊び周囲を振り回しており、
その姿は見た目のままの子供そのものである。

「年をとったのよ」
「そうか?そのようには見えないがな」
「吸血鬼は見た目は年をとらないからね」
「そうだな」

納得した顔をしておいて、レミリアの様子を図る。
レミリアも幾分落ち着いたようである。
それを確認した藍が告げる。

「それでは咲夜を連れていくぞ」

藍の言葉に、レミリアがいずまいを正す。

「咲夜のこと宜しくお願いします」

レミリアが深々と頭を下げる。
気位の高いことで知られる吸血鬼レミリアによる想定外の行動。
流石の藍もめんくらっている。
レミリアが頭を下げるなど見たことも聞いたこともないのだから、
いたし方ないところであろう。

「おいおい、気味の悪いことをするな。それに私は連れていくだけだ。
 全ては主がなされたことだ。主に言ってくれ」
「あのスキマ妖怪、どうせ見てるわ」

と軽口をいったのを最後にレミリアは再び黙り込む。
それを見た藍は、できるだけ静かに、できるだけ速やかに、
そして、できるだけ丁重に扱いながら、咲夜を連れていった。
藍が去ったのちも、レミリアはそこを動こうとはしなかった。





藍は咲夜を連れて白玉楼を訪れた。
春には桜の咲く白玉楼も今は枯葉が舞っている。
その落ち葉の中を、藍は沈んだ面持ちで飛んでいく。
レミリアの心情に当てられているのだろう。
ようやく階段を上がりきった藍に、白玉楼の庭師魂魄妖夢が声をかける。

「藍さんいらっしゃい。あれ、そちらは咲夜ですか」

藍も今は八雲家の当主ということで、
妖夢もいくらかは丁寧な対応を心がけているようだ。

「あぁ、幽々子様はいるか」
「はい。それではこちらに。」

と、妖夢が屋敷へ藍を案内しようとすると、
白玉楼の主である亡霊西行寺幽々子が現れた。
幽々子は閻魔より冥界における霊の管理を任されている。

「妖夢、ご飯まだかしら」
「さっき食べたばかりじゃないですか」
「そうだったかしらね」

そもそも亡霊なのだから、食べる必要があるのかどうか疑わしい。
食べること自体が洒落のつもりなのかもしれない。
会話が一段落ついたのを見て、藍が話しかける。

「幽々子様、咲夜を連れて参りました」
「そう。でも本当にいいのかしら」
「その点はご心配なく。全て主が話をつけてます」
「そうだったわねぇ。あの子のやることに抜かりがあるはずもなかったわ。
 それにしてもあの子、どこでなにをやっているのかしらね」

藍の心情を知ってか知らずか、いたずらっぽく笑いながら幽々子が言う。
どんなときでもこの亡霊は自分の調子を崩すことはない。
藍も常日頃より見習いたいと思っているところである。
幽々子は藍との会話を楽しみつつ、妖夢に指示を出す。

「妖夢、この咲夜を運んでちょうだい」
「はい。でも、幽々子さま、咲夜は死んでいますよ」
「もう、だから藍もここに連れてきたのよ」
「でも、死ねば閻魔のところに行かないと」

妖夢が訝しがるのは、霊は閻魔の裁きを受けてから冥界に来ないと
転生できないからである。
そして、咲夜の遺体には藍の手によって結界が張られており、
咲夜の霊はまだ肉体に宿っている。
そのため、直接冥界に遺体と共に霊を運ばれた咲夜は、
このままでは閻魔の裁きを受けることができず、転生も許されないことになる。
このまま幽々子と同様の亡霊として永遠に過ごすこととなる。

「いいのよ、妖夢。この子はここで預かることになってるのよ」
「そうなのですか。それでは、運んでおきます」
「お願いね、妖夢」

妖夢が咲夜を連れて行くのを見届けて、

「幽々子様、お手数かけますが宜しくお願いします」

丁寧にお辞儀をし、藍は白玉楼を後にした。
















白玉楼の一室。
丁寧な細工の入った調度品の数々と隅々まで掃除の行き届いている様子に、
この屋敷の主の品格が感じられる。
その和風の部屋に布団が敷かれ、咲夜は寝かされている。
咲夜を安置した妖夢が、幽々子に問う。

「幽々子様、どうして咲夜さんは閻魔のところに行かせないのですか」
「あら、妖夢わからないの」
「はい。わかりません」
「しかたのない子ねぇ」

といいつつ、どことなく楽しそうに幽々子は話を続ける。

「あのね、咲夜は人間でしょ」
「そうですね、人間ですね」
「人間の寿命は知ってるかしら」
「もちろんです。長く生きても100年ぐらいのものです」
「そうよ。じゃ、咲夜の年齢は知ってるかしら」
「え、年齢ですか。正確には知りませんけど、
 たしか700年ぐらいは幻想郷で生きていたと思います。
 でも、咲夜さんの能力が能力ですから、それは不思議ではありませんが」
「そこが問題なのよ」
「はぁ、どこがでしょうか」

幽々子の言うことがさっぱりわからず、妖夢は首をかしげる。
それもそのはずで、幽々子はわざと妖夢に伝わらないように説明して、
楽しんでいるのだから。
幽々子はわざと大きな溜息をつく。

「妖夢はいつまで経ってもおばかさんね」

それだけ言うと、幽々子は妖夢にお茶を頼んでから自室へ戻った。
日常の掃除・洗濯・料理などは白玉楼に仕える幽霊たちが行っているのだが、
幽々子は何かと妖夢を使いたがる。
そして部屋に戻ると、「もういいよ」といわんばかりに話しかけた。

「紫、来てるんでしょ」
「あら、気付いていたの。藍でも気付かなかったのに」

何もないところからもやのような姿を現せたのは、幽々子の友であり、
かつての八雲の主八雲紫である。

「そりゃそうよ。あなた死んでるんだもの。生きてる藍じゃ気付くはずないわ」

八雲紫はすでに滅している。
だが、滅したのちも八雲紫として存在している。
妖怪でもなく、亡霊でもない。一人一種族の特殊な存在として。
おそらく、肉体が滅するにあたって精神体に結界を張ったのだろう。
あるいは何かの境界を弄ったのかもしれない。
今の紫には肉体はなく、見た目は幽霊そのものである。
生きているものでは存在に気づいたとしても、個体までは識別できない。

「そういうものかしらね。それでも藍に気付いてもらえないのは寂しいわ」

紫は大袈裟に寂しそうな表情をして答える。
その芝居気たっぷりの紫を面白そうに眺めながら
幽々子が問う。

「ふふ、それで何の用かしら」

もちろん、紫が何故ここにいるのかなんてことは、
幽々子にはわかりきっている。
咲夜の件が予定通り履行されている事を確認するためであり、
幽々子に感謝の意を伝えるためである。
聞くまでもないことを聞くのは、
幽々子も友とのおしゃべりを楽しみたいのであろう。
紫も幽々子に説明が必要ないことを知っている。

「あなたのところに遊びにくるのに、用が必要かしら。
 それより、ここは客人にお茶もでないのかしら」
「ここで客人にお茶が出たことなんてあったかしら」

冗談だけの会話が続く。
そこへお茶を淹れてきた妖夢が入ってきた。

「幽々子様、お茶がはいりました。あれ、紫様いらっしゃってたのですか」
「あら、妖夢おひさしぶりね」
「あ、お茶すぐ淹れてきますね」
「えぇ、お願い。お茶請けもよろしくね」
「妖夢、私の分も」
「もう、わかってますよ」

妖夢が再び台所へ戻ろうとすると、紫が呼び止めた。

「そろそろあの子が来ると思うから、3人分用意しといてちょうだい」
「はい、わかりました。でも、どなたが来るのですか?」
「楽園の素敵な天人よ」




















冥界を後にした藍は、天界に来ていた。
天界には住んでいる、天人の一人に報告するために。
今回、咲夜を亡霊にするにあたって、協力が必要なのだ。
天人への報告を済ませると、藍は八雲の家に帰ってきた。

八雲の家は幻想郷でもなく、外の世界でもない空間にある。
藍の手によって何重にも張られた結界により守られている。
藍は重苦しい気分も棲家に帰ってきたことで少し晴れたような気がした。
そして、できるだけいつもどおりの調子で、自分の式八雲橙を呼んだ。
橙は今では藍の右腕として不可欠な存在であり、
結界の管理も十分に任せられるだけの能力も身に着けている。
また、紫が失踪する直前に紫から八雲姓を名乗ることを許されており、
紫失踪後は八雲の家にも住むようになったのである。

「橙、いるか」
「はい、藍さま」

橙は屈託のない明るい声で返事をし、すぐに駆けつけてきた。
藍は橙の明るさに救われながら、いつもの調子に戻っていく。

「閻魔のところに行くから、ついてきなさい」
「はい、藍さま。でも、閻魔なんかのところに何をしに行くのですか」
「報告だ。咲夜が死んだからな」
「あのメイド長が死んだのですか」
「そうだ。元メイド長だがな。お前も世話になったろう」
「はい」
「それでだ、咲夜は予定どおり白玉楼で面倒を見てもらうことになったから、
 その報告だ」
「そうですか。でも、こんな無茶な計画をよく閻魔が許可しましたね」
「あぁ、そのことについては紫様も随分骨を折られたんだ。
 橙は知らないだろうけどな」
「そうなのですか」

自分の知らない紫の話に、橙は興味深々である。

「当時の閻魔が、まだ話のわかる四季映姫だったからよかったがな。
 それでも3年ほど閻魔のもとに通いつめて説得して、
 やっと許可を取ったんだ」
「紫様がそこまでして認めさせたのですか」

咲夜の件が紫をそこまで動かしたことに橙は驚きを隠せない。

「そうだ。でもな、橙、それが八雲なのだ。
 八雲が約束をするということはそういうことなのだ」
「はい、藍さま」

幻想郷をずっと見守ってきた八雲。
その八雲が取り交わす約束は何があっても果たされなければならない。
八雲が信頼を失うことは幻想郷のパワーバランスを崩しかねないからである。

普段は胡散臭い紫であったが、
こと幻想郷のために交わした約束は違えたことがない。
橙もそのことを紫の背中を見てよく知っている。
そして橙は新たに沸いた疑問を藍にたずねる。

「でも藍さま、約束ってなんですか」
「ん、橙は知らなかったか。レミリアと紫様の間で交わされた約束だ」
「そんなものあったのですか」

一度深くうなずいてから藍が答える。

「レミリアが幻想郷入りするときに交わされたものだ。
 咲夜の死後は閻魔の裁きを受けず、白玉楼で過ごす。
 そのかわり、こちらの条件を全て飲むということだ」
「咲夜の措置の裏にはそんな約束があったのですね」
「まぁ、レミリアと本気でことを構えることになると厄介だからな。
 それでおとなしくしてくれるのだったら安い買い物ということだ。
 それに、咲夜が白玉楼にいる限りレミリアは悪さはできんさ。
 人質の意味もあるってことだ。
 もっとも、今のレミリアにはそんなものは必要ないがな」

橙は始めてきく話に驚きながらも、
その意味を一つ一つ咀嚼し自分の脳にしまっていく。
そんな橙の様子に藍は頼もしさをも感じながら、三途の河へと向かう。












湖畔にて一刻ほどの時を過ごし、
日が落ち始めた頃レミリアは紅魔館へと帰ってきた。
館内はいつもと変らず、
妖精メイド達が賑やかに仕事のような遊びのようなことをしている。
その妖精メイドを叱りつけながら忙しそうに働くメイド長紅美鈴を見つけると、
レミリアは呼びとめた。

「パチェとフランを呼んでちょうだい。至急よ」
「はい、お嬢様。あの、咲夜さんは」

一緒に帰ってくるであろうと思っていた咲夜が、
同伴でないので確認しただけである。

「咲夜は白玉楼に行ったわ」
「そうですか。それでは、妹様とパチュリー様をお呼びしてきます」

レミリアが平素と変らぬ様子で指示をするので、
美鈴は特に疑問を持っていない。
主に言われたとおりに用事をこなすだけである。
美鈴はすぐに行動に移す。
図書館に住む、レミリアの友であり、
魔法使いであるパチュリー・ノーレッジと、
レミリアの妹である、フランドール・スカーレットを呼びにいった。
レミリアはベランダに出て白玉楼のある方向を眺めながら待っている。
そこに、まずはパチュリーが入ってきた。

「レミィ、何のようかしら」
「もうすぐフランも来るわ。ちょっと待って頂戴」
「そう。ところで咲夜の姿が見えないわね」

パチュリーは友の様子に異変を感じている。
具体的にどうということはなくとも、どことなく感じるのであろう。

「咲夜なら白玉楼に行ったわ」

レミリアの返事にパチュリーは全てを覚る。

「そう、そういうことなの」
「そう、そういうことよ」

パチュリーはそれっきり黙り込む。
一つはレミリアの心情を思ってのことだろう。
そして、パチュリー自身も咲夜に対して少なからず思うところも
あったのであろう。

そこへ美鈴がフランを連れて入ってきた。
レミリアとパチュリーがフランドールと美鈴のほうに向きなおり、
レミリアが居ずまいを正し威厳を示しつつ、話を始める。

「それじゃ、皆聞いてちょうだい。咲夜が逝ったわ」

レミリアの言葉に反応したのは、美鈴だった。

「え、あの、咲夜って咲夜さんですか」
「あら、咲夜以外に咲夜がいたかしら」
「あの『いった』というのはつまりその・・・・・・」

美鈴はレミリアの言わんとすることを正確に理解しようと努力しているが、
少し気が動転しているのであろう。

「死んだということよ。そういうことだから、美鈴、お葬式の段取り頼むわよ」

レミリアはそんな美鈴の様子を見て、
わざと突き放した言い方をしながら美鈴にやるべきことを伝える。
美鈴も指示を受けたことで落ち着いてきたのか、
確認すべきことを聞いていく。

「はい、お嬢様。それで、その、咲夜さんの御遺体はどこでしょうか」
「さっきいわなかったかしら。白玉楼よ」
「はぁ」
「咲夜は白玉楼に預けてあるわ。だから遺体はなしで葬式を出してちょうだい」
「わかりました。それでその、咲夜さんはなんで亡くなったのですか」
「ただの寿命よ」
「そうですか。それでは準備にかからせてもらいます」
「よろしくね」

美鈴は準備にかかった。
咲夜の葬式に関する様式等は事前にレミリアから聞かされており、
段取りに問題はないようである。

「それじゃ、小悪魔にも美鈴の手伝いさせるわ」

美鈴が出て行くのをみて、パチュリーも図書館へと戻った。
フランドールはしばらくレミリアの傍に黙って座っていたが、
そろそろと立ち上がり自分の部屋へと戻っていった。
レミリアはまた一人ベランダへと出て白玉楼の方向を眺める。
その手には咲夜が愛用し、常に肌身離さず身につけていた懐中時計があった。














三途の河のほとりに八雲藍と八雲橙はやってきて、
三途の河の渡し守をしている小野塚小町を探す。
するとちょうど霊を迎えにきた小町の姿を、遠くに見つけることができた。

「小町、久しぶりだな。閻魔に会いたいのだが案内してくれるか?」

藍が小町に声をかけた。

「やぁ、藍さん、それに橙ちゃん、久しぶりじゃないか。
 そっちに船まわすから、ちょっとまっとくれ」

小町は藍と橙の姿を認めると船の進路を藍たちのほうへと向けた。
川岸に着くと手際よく接岸し縄で船を繋ぎとめ、身軽に川岸へと飛び移った。
川岸に上がってきた小町に藍が話しかける。

「随分まじめに働いているじゃないか」
「何言ってんだい。あたいはいつも真面目に働いてるよ」
「そうなのか?四季様は随分手を焼いておられたと記憶しているのだがな」

かつての幻想郷担当の閻魔、四季映姫。
彼女は現在昇格しており、今は別の閻魔が幻想郷を担当している。

「そりゃ、四季様だからだよ。四季様だから安心してさぼれたのさ」
「ほう、そんなに四季様は甘かったのか?」
「そうじゃないさ。四季様のことを心底信頼しているからさ」
「ふ~ん、そういうものなのか?」
「あたいと四季様にとってはそういうものさ」

四季映姫なら自分のことを最終的には守ってくれるという信頼感、
というよりは安心感があったのだろう。
小町は二人の間の信頼だと考えているようであるが、
実際は小町が映姫の温情に甘えていただけである。
もちろん、映姫にとっても小町が可愛いところのある部下であったからこその
温情であったのだが。

「ところで小町、紅魔館の咲夜知ってるだろう?」
「あぁ、知ってるよ。紅魔館のメイドだね。
 そういえば、人間の癖にまだこないなぁ」
「その咲夜が死んでな、それで閻魔に報告だ」
「そうなのかい。でもなんでまたそんな報告がいるんだい?
 放っておいてもくるのにさ」

死者の霊は通常は三途の河にやってくる。

「実はな、紫様と四季様との間で取り決めがあってだな、
 咲夜はこっちにはこないんだ」
「へぇ、そうなのかい。まぁ、お上の決めたことだ。
 一死神のあたいが詮索することでもないね」

小町も興味がないわけではないが、自分の職分はわきまえているのである。

「そうか。それで、四季様はお元気か?」
「あぁ、元気だよ。四季様は昇格してから忙しくて、
 説教して回れなくなったのが不満らしいけどさ」

かつて映姫が幻想郷担当の閻魔であったころには、
よく映姫が幻想郷を見回り、説教をしていたのである。
幻想郷の住人にとってはあまりありがたくない行為であり、
遠くに映姫の姿が見えると避けるものも多かった。

「まぁ、それは喜んでる奴のほうが多いな。橙もそうだろう?」
「はい、叱られるのは藍さまと紫様だけでいいです」
「ははは、そうかい。あたいは四季様に叱られないのは寂しいがね」

そうこうしているうちに船は対岸に着いた。

「ほいっと、着いたよ。帰りもこの辺にいるから呼んどくれ」
「あぁ、頼む。それじゃ、橙行くぞ」
「はい、藍さま」

藍と橙は船から降り、小町と別れると是非曲庁へと向かっていった。









是非曲庁での閻魔への報告を終えた藍は、橙を先に八雲の家に帰し、
自分は紅魔館へと向かった。
紅魔館へつくと、門番にレミリアに用がある旨を伝え取り次いでもらった。
紅魔館の一室に案内され、メイド長である紅美鈴の淹れた紅茶を飲んでいると、レミリアが入ってきた。

「咲夜は白玉楼に届けてきた。閻魔にも報告済みだ」
「ありがとう。それで、確認だけど咲夜に記憶は残らないのね」
「もちろんだ。西行寺幽々子に生前の記憶がないように、
 咲夜にも生前の記憶は残らない」
「そう」

咲夜が全くのあかの他人になってしまう気がして、
レミリアは寂しい心持ちになった。

「そうだな。もう一度言っておくが、
 咲夜はレミリアが生きている間は白玉楼から出ることは許されない。
 また、レミリアお前が白玉楼に立ち入ることも許されない」
「わかってるわ。そういう条件だったもの。大丈夫よ、破ることはないわ」

厳密に言うとレミリアだけでなく、主だった紅魔館関係者全てである。
死んだはずの咲夜が幻想郷内を行き来することは好ましくないからであり、
生前の記憶のない咲夜に生前の知識を与えないためでもある。

「頼むぞ、これが是非曲庁の目一杯の譲歩なんだからな」
「紫の顔に泥を塗ったりはしないわ。安心して。悪魔にとって契約は絶対よ」

藍の念押しが少々しつこく感じられたのか、
自分がいまいち信頼されていないと感じたのか、
レミリアは少し不機嫌な表情を見せた。

「そうだったな。いらぬ心配だった。すまぬ」
「別にいいわよ」

藍も必要のない念押しだったかなと一瞬脳裏をよぎったが、
やはり重要なことなのだから言うべきことであった、と自分の中で確認した。
しかし、これ以上しつこくすることもないので、話題を変えることにした。

「しかし、お前の従者想いも度がすぎているな」

一従者でしかない咲夜のために、
自由気ままな吸血鬼には耐え難いのではないか、
と思われる条件をレミリアはのんだ。
今のレミリアであればまだしも、
かつてのわがまま放題のレミリアを知る藍としては、正直意外なのだ。
そんな藍に対して、何を訳のわからないことを言ってるの?
といわんばかりの顔をしながらレミリアが答える。

「あなたのところと一緒にしないでよ。美鈴たちはもちろんだけど、
 咲夜にだってそこまで溺愛してないわ」
「そうなのか?」

レミリアは鬱陶しいという感情を全身で表しながらいい放つ。

「そうよ。関係ないわ」

レミリアの異様な不機嫌さに、藍は余計な事に触れてしまった事に気付く。
レミリアと咲夜の事情には、何やら特別なものが混じっていたようである。
そして、そこには誰にも触れられたくないらしい。
藍は引き上げることにした。

「そうか、いや、立ち入ったことだったな。
 お前と咲夜の間に何があろうと私には関係ないことだ。
 その理由がなんであれレミリアが約束を破らぬ限りは、
 八雲には関係のないことだな」
「そう、それだけのことよ」
「さて、そろそろお暇しよう。うちに溺愛している式を待たせているからな」

藍はレミリアの心中にあるものが何なのか、いまいちわからなかった。
しかし、それはレミリアの言うとおり藍には関係のないことであった。
藍はこのことについては、今後一切考えないことにした。
よろしくお願いします。
いすけ
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コメント



0.1470簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
前後編両方きてるので、評価は後編で……。
私的には未来系のものは結構好きなので、期待しつつ後編いってきます。
しかし紫は予想外だったw