Coolier - 新生・東方創想話

たいせつなもの

2009/09/08 19:23:50
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「ばかーっ!!!!」

霧の湖のすぐ近くにある森の中。鋭く透き通るような声が響き渡る。
最近始めた虫の知らせサービスで各地に飛び回る事が多くなったリグル・ナイトバグは飛ぶ羽を休める。

「な、なんだぁ!?あの声…大ちゃん…だよなぁ。」

まだ知らせる時間まで余裕がある。リグルは声のした方向に向かってみた。





声がしているのは湖の畔、いつもチルノが寝床にしている一本の大木だった。
寝床とはいえ家の様には整形されてるもののチルノはこの家を殆ど使う事が無い。
なぜならいつも湖で遊んでていつの間にか眠り気づいたら朝…という普通は考えられない生活をしていたからだ。

「チルノちゃんのバ、バカぁ!!」

「な!?大ちゃんが悪いんでしょ!?ばーかばーか!!」

「バカバカバカぁっ!!」

目を疑った。いつも穏やかで暴言を吐くことが 全くといっていいほど無い大ちゃん…大妖精が
チルノに向かって聞きなれた言葉を涙目で叫んでいる。
対するチルノも涙目になりながらも自分の知っている限りの言葉を使って大妖精を貶している。
…もっとも「バカ」くらいしか出てこないのだが。

「バカ!チルノちゃんの能無し!!」

「なぁっ!?」

「ちょーっとまった!ストップ、ストップ!!」

いつもとは違う異様な風景にリグルが止めに入る。
リグルがいた事に気づいてなかったのか二人ははっとリグルを睨む。
チルノと大妖精の喧嘩はいくらかあった。
でもいつもはチルノが一方的に大妖精を思いつく言葉全て使って精一杯貶すだけだった。
…もっとも「バカ」くらいしか出てこないのだが。

「うぅ…リグルちゃん…」

「なんだおぉ…なんか文句あんのかおぉ…うぅぅ」

どちらも疲れた顔で頬には涙が垂れている。チルノはともかく大妖精がこんな風になるのは珍しい。

「一体なにがあったのさ。大ちゃんも今日おかしいよ?」

「だってぇ…大ちゃんがぁ…」

「…っ」

大妖精がその場から飛び出す。やはり大妖精らしからぬ行動だ。

「え?ちょっと大ちゃん!?チルノ!ここで待ってて!絶対動かないでよ!?」

リグルもその後を追う。しかし振り返るともう大妖精の姿は無い。
急いでその後を追う…がサービスの事も考えなければならない。
リグルは香霖堂で買った外から来た正確な時計にめをやり、考えた末
後一つだけの依頼主の元に向かってから探す事にした。
なにしろこの広い森、何処にいるかなど到底予想がつかない。
とにかく急いで終わらせようと羽を揮わせた。





二人がいなくなり静かになった湖の畔、チルノは何をするでもなくそこに佇んでいた。
しかしじっとしているのは自分の性に合わないと大妖精が飛び去った逆方向にゆっくりと歩き出した。

考える事は一つ、あの口喧嘩。何故ああなったのか全く分からなかった。
いつもとは違う大妖精の態度にどこか悲しく、寂しく思っていた。
気づくとそこは魔法の森。湖畔では見かけない植物がたくさんある。
そんなものには目もくれずただ目当ても無く朦朧と歩くだけだった。

一つ声が上がる

「あれ…チルノ?」

顔を上げて声のした方向を見る。見慣れない顔、アリス・マーガトロイド、魔法使いだ。
もうこんなところまで来たのか…そう思いながら一応言葉を発する。

「マーガロイド…」

「トロイド!本当バカなんだから……あれ?いつもなら『違う!あたいさいきょう!』とか言うんじゃないの。」

「…」

「…いつもの元気がないじゃない。…まぁいいわ。丁度薬草摘みも終わったし、家に来る?」

チルノはまた顔を地面に向け動かなくなる。

「…はぁ。居場所が無いんなら家にきなさい。このところ暇だったから冷たい飲み物ぐらいは出してあげるわよ」

そういうとアリスは返事を待たず歩き出す。
チルノはその後をゆっくりとついていく。やっぱりまだ子供ね、と思いながらもアリスは家路につく。




「ほら、入りなさい。」

中に入ると外よりも暖かい。それもそのはず今は冬、本来なら冷たい飲み物ではなく熱い紅茶が出る所。
しかしチルノは氷精、暖かくなると溶けてしまう。アリスは冷蔵室から氷と茶葉を取り出す。
いや、正確に言うとアリスが人形に出させているが正しい。指を一振りすればそこに座っていた人形が動き出し
まるで生きているかのように飛び回り、つかみ、戻ってくる。
いつ見てもどうなっているのか見当もつかない、本当に自立していないのか気になるところだ。

「で、どうしたの。いや、当てるわ。どうせ喧嘩でしょ?いつもみたいに…相手はあの虫のお姫様かしら?
  いや、それにしてはいつにも増してあなたらしくないテンションね。転んだ?」

「…。」

「はずれ。じゃぁなくし物かしら、それとも何か壊しちゃった。でもそんなんであんたがこうなるようにはみえ…」

長々と喋ってるうちに気づく。チルノは小さく縮こまり震えている、いや、泣いているのだろう。
ひざを丸め顔をうずめて椅子に乗ったまま丸まっている。付け加えるならドロワーズが丸見えだ。
いや、そんなことは別にいいんだけど…とアリスは我にかえる。

「ちょ、ちょっと、突然泣かないでよ!ほら。人形可愛いわよー。ああもう!最近の子供のあやし方は知らないわ!」

尚もチルノは震えるばかり。少しばかり嗚咽も漏らしている。
ただただアリスにはうろたえる事しか出来なかった。

「あー…これは厄介なものを拾ってきちゃったかしら…でもあれはほっとけないでしょ」

「何自問自答してんだ?ひきこもりっぽいぜ。」

アリスは振り返る。そこにいたのは見慣れた影、魔理沙だった。
いつもの家業、泥棒ルックで肩に袋を担いでいる。また紅魔館にでも行って本でも頂戴したのだろう。

「ま、魔理沙ぁ…これ、どうにかしてよ。あんたそういうの得意でしょ」

「得意って…人の事を子守みたいに言うもんじゃないぜ…しかし、チルノがねぇ…珍しいこともあるもんだ」

「そんなこといってないで早く…ってあんたいつの間にそこに!?」

「この前窓割って入ったらお前怒ったから裏口から入った」

「違うでしょそこは!?ちゃんと玄関で呼び鈴押せば歓迎しなくも無い…ってそんなことはいいから早く!」

分かった分かったとテンションがおかしくなりつつあるアリスを落ち着かせチルノに寄ってみる。
とりあえずは様子見。ふむ…珍しく大泣きじゃなく啜り泣きか、しかもこんなに縮こまっちゃって…
とりあえず声をかけてみる。

「どうしたんだよ。とりあえず全部話せ。それからお前らしく盛大に泣け。」

「……………コレ。」

少しの沈黙の後チルノはスカートの中をまさぐり一つの人形を取り出した。
その人形は結構古く、首の辺りと腕の付け根辺りに亀裂が入り綿が飛び出していた。
アリスはなんてところに入れてんのよという突っ込みを押さえその人形をわが子の様に抱え込む。

「…結構古いわね。ところどころ痛んでるし…でもこの亀裂は真新しいわね。破れたあたりの生地が汚れてない。
  これ、あなたの?どうしてこんな風になっちゃったの」

「……大ちゃんが。」

重い口を開く。空気が凍るようだった。魔理沙とアリスは視線を全てチルノに注ぎ動かず集中する。

「大ちゃんが、破っちゃって。で、あたいが怒ってばかっていったら、大ちゃん怒っちゃって」

「大ちゃんって…大妖精か!?あいつが逆切れするようには見えないけどな…」

「え?大妖精?誰?」

「お前黙ってろ」


「で、喧嘩しちゃって、大ちゃんがどっかいっちゃってぇ…あたいもこっちにきちゃってぇ…」

途中からチルノは涙をポロポロ流していた。話して思い出して堪え切れなくなったのだろう。
最後には子供の様に泣き叫ぶチルノがそこにはいた。魔理沙が横に座って頭をなでる。

少し時間がたちチルノも落ち着いた頃に魔理沙は口を開く

「まぁ大体は分かった。大妖精と喧嘩したんだろ?人形が原因で…
  で、仲違いして歩いてるうちにアリスにつかまってここにきた…と。
  まぁ人形がらみだったら一番はこいつだしな。」

「ちょ、つかまったって何よ。誘拐犯みたいじゃない」

アリスは人形を慣れた手つきで直しながら喋る。いつ見ても芸術のような手捌き。
手先の器用さならアリスにかなう者はいないだろう。

「ま、大丈夫だぜ。人形はこいつが直すし、大妖精とも謝りあえば仲直りできるさ。
  今回はお前が一方的に悪いわけじゃ無さそうだしな」

「でも…大ちゃんすごく怒ってた。いつもはあんなに怒んないのに。
  あたい、なんか悪い事、したの、かなぁ。大ちゃんに、ばか、って…」

チルノはまた涙を目に溜めている。

「まぁ泣くようなことじゃないぜ。何しろ、原因が突き止められればなんでも解決しないもんはない
  とにかく話は謝ってからだぜ」

「あ、そうそう。私も聞きたい事あるんだけど、この人形、どうしたの?
  あんた人形なんてつく…作れるはずないし、人形抱いて寝るたちじゃないでしょう
  どっかでひろったの?」

「それは、すっごい昔、………私氷の妖精だからみんな私の事嫌っちゃって、友達いなくて
  一人で遊んでたら誰か来て、どうしたの?って聞くからいろんなこと喋って、
  そしたらその人が人形くれて、じゃぁこの子が一番最初のお友達。仲良くしてあげてって。
  あたいその人形と毎日一緒にいて。で、その後大ちゃんに会って
  大ちゃんも冷たいの嫌いなのにあたいと友達になってくれて…それなのに大ちゃん…
  大ちゃん…うぅ…」

またチルノは涙を流す。

「…すっごい昔ってどれくらい…前?」

「…すっごい。」

「…ま、まぁいいわ。ともかくこの子とは長い付き合いなのね。ふーん、あなたの最初の友達、ねぇ。」

アリスは繕い終えた人形を見ながらふーん、と声を漏らす。
さも長い付き合いだったのだろう。ところどころ自分で頑張って直したのか、稚拙な縫い口がいくつかある。
ずいぶん大事にしたのだろう。心がこもり、暖かい感じがする、そして、この人形…

「チルノ、よく聞け。」

魔理沙が口を開く

「…なに?」

「友達ってのは一番大切にしなきゃいけない存在なんだ。時には命よりも重い
  お前は大妖精と友達になって嬉しかっただろ?感情を分かち合える存在は無くてはならない
  今回どちらが悪いとは言わないが喧嘩はする事自体が悪い事。喧嘩両成敗っつーのがある
  でも喧嘩が一概に悪いとは言わない。喧嘩して、また仲良くなるんだ。友達ってのはそんなもんだ
  だから、ここで何もしなくてまた一人ぼっちになんてなるな。絶対にだ
  多分近いうちに会えるから絶対に自分から謝れ。で、仲直りして、また一緒に遊ぶんだ。」

「………。」

「ちょっと難しかったか?」

チルノは話を聞いてる間、魔理沙の目を見つめるだけ、呆けているのかのように思えた。
今も全く動かず、ただ魔理沙の目をじっと見つめているだけ。
でも、少し間をおき、喋る。

「ううん、分かる、魔理沙の言う事わかるよ。ありがとう!あたい、かんばるから!」

「…よし!それでこそ私の教え子だ!」

「いつからあんた教師になったのよ…あと、私からも一つ。これは私の大事な人から聞いた話。
  人形って言うのも心を預けられる一つの糧なのかもしれない。
  でも、いつまでも無機物に頼っていたら自分の心も無機物になってしまう
  だから、人形はもう卒業。あんたにはあたらしい友達がいるんだから!
  あ、でも、無機物って言っても心は生まれ来るもの何にでもある。捨てたりなんかしちゃだめ。
  枕元にでも飾ってあげなさい。この子も喜ぶと思うわ…。」

アリスはチルノに人形を渡す。破れていた部分は繕われ、古くなった布は取り変わっている。
綺麗になった人形を手に、チルノは元気な声で言う。

「わかった。ありがとう!」

「分かってるのかしら。まぁ、どういたしまして。人形がまた壊れたらここに来るのよ。いつでも歓迎してあげる。」

「よし、じゃぁ大妖精を探すか。」

「うん!」

さっきの泣き顔は何処へやら、チルノは打って変わりすっかり元気になっていた。
人形を手に持ち。子供独特の満面の笑みで立ち上がる。

「おい、アリス、ちょっとこい。」

「な、何よ。」

「お前、チルノに付き添って探してやれ。」

「え?何で私が?」

「こういうのはお前のほうが合ってるような気がする。頼むぜ。
  あと、時草の調合剤少し分けてくれねえか?」

「…まぁいいわ。分かった。薬ならあの部屋よ」

悪いな。と、魔理沙は指差された部屋に向かって歩く。アリスはチルノに近づき、行きましょう、と扉を開ける。
チルノもそれについて行き、外に出た。寒空の下、二人は歩く。


「大ちゃーん!どこー!?」

リグルは雪の降り始めた森の上をただ当ても無く飛び回っていた。無理も無い。広さは地平線が見えるほど。
ましては雪が降って視界も悪くなり、そして寒さで体力も削られる。
虫の知らせサービスを無事終えて急いで大妖精を探しているリグルはとてつもない疲労感を感じていた。
途中、冬に備えて食料を集めていた虫、また、妖精などに大妖精の居場所を聞いた。が、分かるものはいない。
途方にくれ一度森の木に留まる。森のど真ん中、四方八方何処を見ても雪が少しかかっている木ばかり。

「雪…か」

時刻は未の刻。雪が降っているのもあり、何処となく暗い。
上空からでは見えないものも多いだろうと木から下りて地面に立ってみる。すると

「リグル…ちゃん?」

なんという幸運だろうか。大妖精はリグルが羽を休めていた木の下で縮こまり座っていた。
大分泣いたのだろう、見える目は赤く、涙の跡も取れていない。

「大ちゃん!よかった………ねぇ、今日どうしたの?みんなおかしいよ。」

「…全部私が悪いの。チルノちゃんの人形をふんずけて転んで、その時の弾みで破っちゃったんだ。
  本当に全部私が悪い。」

「人形って…」

リグルには覚えがあった。初めてチルノに会った日、その人形で知り合った気がした。
妖精が一人で遊んでると思って近付いたら人形と遊んでいた。今も覚えている、凄く楽しそうだった
「かわいいね。」振り向いたその日のチルノはどこか嬉しそうだった。
そして仲良くなり、知る。その人形は大切な人から貰って、初めての友達だったと。

「でも、それじゃぁなんで大ちゃんはあんなに怒ってたの。本当珍しかったよ。
  いつもそれくらいじゃ絶対怒らないよね」

「…。」

長い沈黙。雪が降り続ける森。その中の一本の木の下に二人で並んで座っている。
あれからどれだけ飛んだだろう。目印が殆ど無い森の中では自分が何処にいるのかを把握する事さえ難しい。
そして、大妖精の言葉で、沈黙は破られた。

「…もう、顔も見たくない…って。」

「…え?」

それはチルノが言った言葉なのか。リグルは頭の中で即座に考える。
チルノにしては少しでにくい言葉だと思った。膝が笑うを怪談だと思って本気で怖がってたあいつが?

「それって、チルノがいったの?」

「うん。その時の私、どうかしてた。それだけだったのに、あんなに怒っちゃって。…なんでだろ。」

「…。」

やっぱりあの人形が大事だったのだろう。大妖精の事など考えずに頭より先に言葉が出たんだろう。
結果こういう事態になった。どちらもらしくない。

「大ちゃんはさ、怖かったんじゃないの?」

「…え?」

「なんていうか…チルノが友達じゃなくなっちゃう事が。」

我ながら語彙の少なさに悲しくなる。搾り出した言葉がこれでは全く意味が通じない。
大妖精もポカンとした顔でこちらを見ている。

「あ、あの、その。なんていうのかなー…要するに、大ちゃんは離れたくなかったんだよ。チルノと。
  大ちゃんの大切な友達だもん。僕だって話さなくなっちゃうのは…なんていうか、寂しい。
  いや、怖い。この先どんなことがあっても、チルノと遊ばなくなるなんて考えたこと無かった。
  …あ~…なんていうか、要するに、みんなチルノが大好きなんだよ!」

「…っ!!」

あぁもうグダグダ。自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。
そう思いながらリグルは沈黙を打ち破る次の言葉を捜す。

「あ~…その…そ、そうそう!チルノ…は…」

リグルは大妖精が笑っているのに気がついて言葉を止める。
大妖精は尚も微笑みながら

「ありがとう。やっぱり、チルノちゃんはみんなの友達だもの。友達じゃなくなるのは…怖い…かな。
  でも自分が悪かったのにあんなに怒っちゃった自分が本当に悲しい、悔しい。
  リグルちゃんの言葉で決心ついたよ。私、チルノちゃんに謝る。で、人形も頑張って直す。
  …私に出来るのはそれくらい…だよね。」

「…大ちゃん…。」

大ちゃんは、強い子だ。僕よりも強い。こんなにも、自分で考える力がある。
なのに僕は…そう思うと少し悲しくなる。でも、いいよね。これから先、長いんだから。

そんなことを考えながらリグルはあの人形の事を大妖精に話してみた。
大妖精は一言も喋らず、その話を聞いているだけだった。そして、言う。

「やっぱり、あの人形は大切なものだったんだ…私、なんて事を。」

「大丈夫だよ。チルノはバカだけど、謝ったら許してくれる。絶対に。断言する。
  だってあんなにも楽しそうだもん。毎日、遊んでる時が」

「…そう…かな。」

「そうだよ。ほら、チルノ探しに行こう。」

リグルは立ち上がり、大妖精の手を取った。チルノは何処にいるだろう。
あそこで待っててと言ったものの、待っている性質じゃないのはわかっていた。でも
もしもの事を考え、一番先に向かう事にした。














「やっぱり、いないか。」

リグルと大妖精は湖の畔に戻ってきた。しかし、チルノの姿は見えない。
チルノの事だ、どうせふてくされていつもの様にかえるでも凍らせに大蝦蟇の池にでも行ったのだろうか。
本当三日に一度は大蝦蟇に襲われるのに懲りない奴…
そう思いながらもまた、歩き出す。その時


「だ、大ちゃん…」

か弱い声がした。いつもの元気は無いが分かる。チルノだ。
二人は振り返ってそちらを見る。そこにはどこか表情の暗いチルノと、何故かアリスがいた。

「あの…大ちゃん…」

「チルノちゃん…?」

少しずつ近寄っている。リグルは遠くで見守っているようなアリスの下へと向かう。

「なんでアリスさんが?」

「いや、私でも分からないわ。ただ、あいつがなきながら道端に落ちてたから拾っただけよ」

「チルノが?泣いてた?」

想像がつかない。チルノは泣くにしてもそんな道端で泣くようなやつじゃない。
もっと、歩きながら大声で叫ぶように泣くやつだ。ププ、自分で考えて笑えてきた。何処の迷子の子供だよ。
そんな事を考えてるうちに二人はもう手を伸ばせば触れ合えるほどに近付いていた。

「チルノちゃん…あの…」


「…ごめんっ!!!!…なさい。」

「え?」

「え?」

一つ目の「え?」は大妖精。もう一つはリグルの声だ。

「あたい…悪いことして…ごめんなさい!」

「ち、違うよ!全部私が悪いんだよ!チルノちゃんの大事な人形…壊しちゃって…」

リグルも同じ事を考える。
今回ばかりはチルノに負はない。あえて言うなら言葉の暴力だが本人に自覚は無いはずだ。
リグルがわけもわからないといった表情でいると、アリスが耳元でささやく。

「あいつなりに考えたのよ。まぁ見てなさい。」

「え?…はい。」



「人形は!…アリスが、直してくれた。」

「え?…ごめ…」

「違うの!そうじゃなくて、人形は直せばどうにだってなるの!」

「…。」

こうなると大妖精は黙って話を聞くばかりになった。
リグルとアリスも黙ってそちらを見ている。

「あ、あああああたいが、いい一番大事なのは、と、友達だからぁっ!!」

「!!」

一際大きな声でチルノが言った。一風、風が流れる。雪は少し弱くなり、日も明かりを取り戻している。

「だ、だからぁっ!ごべんなさいぃ!!」

感極まったのか涙をボロボロ流しながら尚もチルノは叫ぶ。
対する大妖精も声を出さずに涙を流していた。

「…じゃ、じゃぁ、これからもずっと一緒にいられる?」

「うん!」

「ずっと仲良くしてくれる?」

「うん!!」

「…っ!!」

抑えきれなくなったのか大妖精はチルノに抱きつき、声をあげて泣いた。つられてチルノも大声をあげる。

「さ、行くわよ。」

「え?いいんですか?」

アリスが唐突に喋ったので、声が裏返ってしまったリグルは動揺する。

「いいのよ。後は。…どちらかというと、私たちは『お邪魔』かしら?」

そういうとアリスは歩き始める。どこか楽しそうだった。
リグルはもう一度抱き合って泣き叫ぶ二人を見てから歩き出した。
霧の湖の畔。もう粉雪になった雪降る中で、チルノと大妖精、二人だけ残された。




どれくらい時が流れただろうか。雪は止み、日が差し始める。

「ねぇ、チルノちゃん」

先に口を開いたのは大妖精だった。二人とも泣き疲れ、チルノが寝床にしている木の根元で寄り添い座っている。

「ごめんね。リグルちゃんから聞いたの。その人形、とても大事なんだって。」

チルノの手の中には少し命が吹き込まれた人形が暖かく、包み込まれていた。

「いいの。もう、この人形はともだちじゃない。かぞく。」

「家族…。」

「ともだちは、もっと他に、一杯いるもの。いーっぱい。いーーっぱい。」

そういうとチルノは子供の様に両手を伸ばし、大きく円を作る。
そして、笑う。

「だから、何も寂しくない。大ちゃんとも。リグルとも。みんな、みんな。一緒だもん。」

「チルノちゃん…」

「へへへ。おかしいかな。」


そうだ、チルノちゃんは、私には無い心を持っているんだ。
私は、そこに惹かれたのかもしれないな。冷たいのに。暖かい。とっても暖かい。
だから、これからも一緒。またいっぱい遊んで。いっぱい喧嘩して。
…嬉しいな。楽しみだな。これから先、ずーっと。


「ねえ、チルノちゃん。」

「なぁに?」


そうやって笑顔でこっちを見てくるんだ。それだけで、もう楽しくなる。
これからも、ずーっと。


ずーーーっと。














「だーいすき!…だよ。」
結構昔に書いた気がするものをメモ帳から掻っ攫ってきました。

絵も練習したいし文章も書いてみたい。趣味に夢中になれれば幸せかなぁ。

大チルです。この二人には幸せになって欲しいなぁ。

投稿二回目でしかも前回より古いお話ですが色々とありがたいお言葉をいただければ光栄。

人間踏まれて強くなるがモットーでございます。では。

P.S

今改めて見返してみたらリグルが僕っ娘だった。困ったなぁ。俺の性癖がばれてし
すば
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コメント



0.1500簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
大チルですよ大チル。
いい話でした。

…魔理沙は何故にアリスにまかせたし?
6.無評価すば削除
コメントありがとうございます。少し勇気がでました(笑

魔理沙がアリスに任せたのはただの口実、本当はその調合剤だけでなく
家中漁って素敵なぐりもわあるを盗…借りるためにアリスを留守にした…んじゃないかなぁと(何
何せ結構昔。当時の俺はなにを考えていることやら。そこらへんは補完していただければ(苦笑
10.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです。妖精たちは可愛かったし。
ただ、会話と字の文で、微妙にズレがあるような…
23.100名前が無い程度の能力削除
とても可愛かったです。
読みやすい文章でした。
33.80名前が無い程度の能力削除
描写が足りないところもいくつかあるように思えましたが
内容はすごく満足でした。大ちゃん健気。素直チルノおいしいです^q^