Coolier - 新生・東方創想話

アリスが魔理沙を泣かす過程―Hard―

2009/08/22 02:29:17
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「アリスー」

 ごんごんと、ドアを叩く音がする。
 私は手鍋に掛けていた火を止めると、ぱたぱたと廊下を駆けた。
 そして玄関に着き、ドアを開けると、はちきれんばかりの笑顔が飛び込んできた。

「よっ! 暇だから遊びに来てやったぜ!」

 満面の笑みを称えた魔法少女がそこにいた。

「ごめん今手が離せないの。じゃ」

 ノータイムでばたんとドアを閉める私。
 そのままドアに背中を預け、壁に掛かった時計を見る。

 チクタクと時を刻む秒針を凝視すること三十秒。

 そろそろいいかと、ドアをそっと押し開け、外の様子を伺ってみる。

 すると。

「……えぐっ……ひっく……」

 案の定、小さな魔法使いがドアの前でうずくまり、声を震わせ泣いていた。
 
 ああ……。

 ぞくぞくとした感覚が背中を走る。
 悪い事とは知りつつも、ついついやってしまうのは、妖怪としての性なのだろうか。
 私は自分の悪癖を自省しつつ、その後ろ姿にそっと声を掛けた。

「……魔理沙」

 その言葉に、小柄な背中がぴくっと跳ねた。

 そしてゆっくりと、私の方を振り返る。


 魔理沙。


 その大きな瞳は、うるうると潤んでいる。
 
「……アリス」

 その小さな口が、私の名を呼ぶ。

「ごめんね、魔理沙」

「……え?」

「さっきの、ウソ」

 ちろっと、舌を出して謝罪をする。

「…………」

 すると、潤んだ瞳はそのままに、魔理沙は、全身をわなわなと震わせ始めた。

 そして。

「アリス!」

 大音声を私に浴びせた。

「どうしてお前は、いつも、いつも、こんなことばっかりするんだ!」

 わあわあと叫びながら、ぽかぽかと私を殴る魔理沙。
 いや、正確には殴るフリか。

「ごめんごめん。つい、ね」
「何がつい、だ! この馬鹿!」

 私は魔理沙をなだめようとしたが、てんで効果なし。
 確かに、何度も何度も同じ事をする私も私だが、しかしそれで毎回泣いてしまう魔理沙も魔理沙だと思う。
 まあ、魔理沙が泣くからこそ私もやるんだけどね。

 ……そんな感じで、いつものやりとりというか、おきまりの儀式のようなものを終えた私達は、一緒に家の中へ入った。
 もっとも、魔理沙はまだ、小さなほっぺをぷうっと膨らませたまま。
 でもそんな表情をしながらも、トコトコと私についてくる魔理沙はやっぱり愛らしい。
 思わずいいこいいこしたくなったりもするが、今それをするとマスパ必至なので止めておく。
 こんな序盤で残機を減らすわけにはいかない。

 
「あのね魔理沙。今アップルパイを作ってて……」
「…………」

 私が言い終わる前に、無言のまま私の横を素通りし、リビングに入っていく魔理沙。
 そして、どっかとソファに腰を下ろすと、傍にあった帽子掛けに、お気に入りのとんがり帽子を、些か乱暴気味に掛けた。
 さらに、つんっと私から視線を逸らすと、そのまま壁とにらめっこを始める始末。 
 
 ……やれやれ。

 どうやらまだまだご機嫌斜めらしい。
 まったく、困ったお姫様ね。
 まあ、悪いのは私なんだけども。

 とりあえずこういうときは、何もせず、そっとしておくに限る。
 それが、長年の経験から導き出された、最善の対処策。

 というわけで、私はあえて魔理沙には干渉せず、そのままキッチンに戻り、再び手鍋を火に掛けた。
 今は、リンゴに砂糖やシナモンを加えて煮詰めている段階だ。
 後はこのまま、リンゴがしんなりするまで煮詰めれば……。


 ……と、そのとき。

 
 またしても、私の中の妖の血が疼いた。

 
(……もう一度、見たく……ないのかね?)

 悪魔の声が、私の心を蝕み始めた。


(――駄目、駄目よアリス。いくらなんでもそれだけは……)

 しかしすぐに、ひとかけらの良心が私を押し留めようとする。


(……本当に、見たく……ないのかね?)

 だがまたすぐに、悪魔の誘惑が、私の頭の中で木霊する。


(――駄目。やめて。言わないで)

 必死に抗う、最後の良心。

 


 ――しかし、無情にも悪魔は囁いた。

(……魔理沙の……泣き顔を)




 ――この間、約1秒。


 お母様……ごめんなさい。
 アリスは、アリスは……。





 ――悪魔に魂を売りました。





 私は、まるで何かに操られたかのように、近くにあったスプーンを手に取ると、そっとリンゴの一片を掬った。
 そしてそれをふうふうと冷ましてから、ゆっくりと口の中へ。
 うん、甘くておいし。


 ――そして、次の瞬間。


「うがああッ!!?」

 私は、羞恥心を押し殺して出しうる限りの奇声を上げた。 
 そして、景気よくドッターンとその場にぶっ倒れる。
 右肩痛ッ。
 でもアリス泣かない。

 
 ……その状態のまま待つこと数秒。
 

「――ア、アリスっ!? どうしたんだ!?」

 大慌ての魔理沙がキッチンに飛び込んできた。

 
 ……思い通り!


 なんてほくそ笑むのは心の中だけに留めておいて、私は仰向けに倒れたまま、魔理沙の方へと手を伸ばす。

「ま、魔理沙……がふっ」
「アリス! お、おいしっかりしろ!」
「リ……リンゴの、味見、したら……」
「あ、味見……?」
「う……ぐぅっ」
「!! アリス! アリス!!」

 私の肩を抱き、私の名を呼び続ける魔理沙。
 うっ……。
 さ、流石にちょっと良心の呵責が……。

 でも……駄目。
 だって、今にも……。
 
「……ま、間違えて……この前、魔法の実験で作った毒リンゴ……入れちゃった、みた、い……」
「ど、毒リンゴ!? な、なんでそんなもん作ったんだ! おいアリス! アリス!!」

 魔理沙が……泣きそうなんですもの。

「はぁ……はぁ……ま、まりさ……」
「アリス……アリスアリスアリス! 嫌だ嫌だ、死ぬなアリス!!」
「い、今まで、楽しか――」
「アリス……アリスうぅぅぅぅ!!!」

 魔理沙の両目から零れる、大粒の涙、涙、涙。
 魔理沙が私のために流してくれた……涙。


 あぁ……。

 お母様……。

 アリスは……アリスは……。


 満、足、です……。

 
「が……ま……」

 満ち足りた気持ちを胸に、そっと目を伏して、ガクッと首を横に寝かす私。
 
「あ……あぁ……アリ」
「なーんちゃって」

 そしてすぐに笑顔でピースする私。
 
「…………」

 呆けたように止まってる魔理沙。

「あはは、ごめんごめん。今のはアリスちゃんジョー……」
「――――」




 えっ。




「…………」
「ま、まりさ……?」

 ……流石の私も、この状況を把握するのに数秒を要した。
 まさかこのタイミングで、魔理沙が私に抱きついてくるなんて思わなかったからだ。

「…………」
「魔理沙、あの」
「……アリス」
「は、はい」
「……もう二度と、こんなことするな」
「…………」

 魔理沙の声は震えていた。
 ぎゅっと抱きしめられ、少し痛い。

「……ごめん」

 考えるより早く、謝罪の言葉が口を衝いて出た。

「ごめんね、魔理沙」

 そして私も、魔理沙をそっと抱きしめ返す。
 
「…………」

 無言のまま、魔理沙はすん、と鼻をすすった。
 
「魔理沙」
 
 私は魔理沙の肩を軽く押して、少しだけ自分と魔理沙との間に空間を作る。

「…………」

 目を真っ赤に腫らした魔理沙。
 その目尻には、まだ涙が浮いている。
 ぐすっ、と鼻をすするたび、それが零れそうになる。

「魔理沙」
「…………」

「魔理沙」
「…………」

「魔理沙」
「……なん」





 その瞬間、










「      」


 







 私は魔理沙の言葉を奪った。



「……これで、許してくれるかしら?」

 再び、自分と魔理沙との間に空間を作り、魔理沙に問う。

 ……すると魔理沙は、目どころか、顔全体を真っ赤に染め上げて、

「……なんで、お前は、こう、やることなすこと、とうとつなんだよ……」

 と、ひどく弱々しい声で呟くと、そのまま下を向いてしまった。

「……魔理沙。可愛い」

 そう言いながら、私が頭をそっと撫でると、魔理沙は、いやいやをするように頭を左右に振りながら、真っ赤な顔を一層深く、俯かせてしまった。





以前プチに投稿させて頂いた『アリスが魔理沙を泣かす過程』のHard版です。
どのへんがHardなのかというと、魔理沙視点で見た場合のアリスさんの攻めっぷりがHardという意味です。
もっとも、アリスさん視点だといずれの場合もEasyになると思います。
だって魔理沙すぐに泣いちゃうから……。



それでは、最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。
まりまりさ
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コメント



0.4490簡易評価
2.100奇声を発する程度の能力削除
>羞恥心を押し殺して出しうる限りの奇声を上げた。
魔法の森の何処かで自分を呼んでいるような気がする…。

もう、この二人の関係は最高ですな!!!
3.100名前が無い程度の能力削除
>が……ま……

Lwwwwwww


このアリスすごくいいなぁ。ごちそうさまでした。
5.80ほむら削除
これは、なんというドSアリス。
なんか少し、Mの血が騒いできましたよ。
ていうか魔理沙、ちょっと代われ
8.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙の表情が目に浮かぶのは何故なんだぜ…!
倒錯した愛(笑)が良かったです。
10.100名前が無い程度の能力削除
ヤベエ、この魔理沙かわいすぐるw
次はLunaticでお願いします。
11.100ななし削除
まいどまいどあなたのマリアリは鼻血が出そうです
13.100名前が無い程度の能力削除
おいおい、これでハードならルナはどんだけ甘くてドSなんですか。
20.100名前が無い程度の能力削除
俺の中のアリスのイメージが壊れていくwww
25.100名前が無い程度の能力削除
どうしてあなたのマリアリはこうなんだ!?
読んでて萌死にしたらどうするんだ!!
いや寧ろ死んだよ!!
36.100名前が無い程度の能力削除
う、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!
39.90名前が無い程度の能力削除
素晴らしいな
49.100名前が無い程度の能力削除
Sな俺がニヤニヤニヤニヤ(以下、ループ)
くそっ、ここ電車の中なのに! 押さえられないっ!
52.100名前が無い程度の能力削除
早くルナを書いて下しあ!!
53.100名前が無い程度の能力削除
乙女魔理沙おいしいです。
58.100名前が無い程度の能力削除
んひゅひゅひゅ!
63.100名前が無い程度の能力削除
いぢめっこアリス…イイ…
64.80名前が無い程度の能力削除
2828ですね
65.100名前が無い程度の能力削除
あなたのせいで魔理沙が受けじゃないと違和感モリモリになってしまった
もっとやってくだしあ
69.100名前が無い程度の能力削除
やっぱりマリアリはいい。
71.100名前が無い程度の能力削除
アリスがドS過ぎるwww
乙女な魔理沙は可愛いなぁ…ついついいぢめたくなるなぁ…
72.90名前が無い程度の能力削除
ルナはここで書けないくらい鬼畜になるんですねわかります。
……あっちで全裸待機かな
76.80名前が無い程度の能力削除
アリスw
79.60名前が無い程度の能力削除
たしかに面白かったけど今までの氏のアリス像からすれば穏やか杉
81.70名前が無い程度の能力削除
こりゃあひでぇ
85.100名前が無い程度の能力削除
アリスひでぇw
乙女魔理沙かわいすぎ。アリスはもっといじめるべき
91.100名前が無い程度の能力削除
やだ...なにこれ....


魔理沙かわいい.....
96.100名前が無い程度の能力削除
くぅ。ドSなアリスだぜw
98.100名前が無い程度の能力削除
>が・・・ま・・・

ここで腹筋死んだ
107.100名前が無い程度の能力削除
ドSアリスに注目が行き勝ちだが
毎回同じような手で泣かされちゃう魔理沙がもうね。
プチから読んでますがあなたの描く魔理沙は可愛すぎて困る。
109.100土管の糸目削除
寒気がするくらいい話だ。
114.100名前が無い程度の能力削除
思い通り!!
125.100非現実世界に棲む者削除
魔理沙可愛い。