Coolier - 新生・東方創想話

真っ黒なスケッチブック

2009/08/09 11:54:11
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・真っ黒なスケッチブック









1、
ルーミアは奇妙な人間を見つけた。




森の中にある、少し開けた場所。

いい感じの大きさの切り株に、一人の少年が腰掛けている。

手には何やら紙? 本? なんだろう。 持っている。
ボーっと空の星を見ては、偶に思いついたように鉛筆を走らせる。
どうやら色鉛筆で、星をスケッチしているようだ。
松明一つに月明かりだけで、よくまあ絵が描けるものだ。
闇の中でも、随分と目が利くらしい。


━━━ 命知らずなこと。


喰ってやろうか? 巫女曰く、夜に出歩く人間は食べていいらしいし。


「ねぇねぇ、そこの君」

ルーミアは少年に話しかけた。

少年はルーミアの方を向き、一瞬驚いたような表情を見せたが、
また星の観察に戻った。

「ちょ… 無視しないでよ!」

少々腹を立てて食い下がろうとするルーミアに、少年は面倒臭そうに対応した。

『今星を観察しているんだ。 これあげるから、どこか行ってよ』

少年はそうスケッチブックの別のページに書くと、袋から取り出した握り飯を一つ、
ルーミアに押し付けた。
そして、再び星を見て、描く作業に戻った。


━━━ こ、この子…


「私が誰だか、いや、なんだか分かっているの?!」
『勿論。 妖怪でしょ?』

即答する少年。 鉛筆で。

「食べちゃうよ~? 逃げないと」
『逃げても逃げなくても食べるでしょ?
 握り飯でも僕でも、喰うならさっさと喰ってくれ。
 僕は忙しいんだよ』

少年は不快さを隠そうともせず、やや乱暴に鉛筆を走らせていた。

「さっきからなんなのさー? 喋りなさいよ、何のための口よ」

ルーミアは、少年から鉛筆を奪い取ると、スケッチブックを黒く塗りつぶしてしまった。
ちなみに、左手には握り飯があり、3分ほど欠けている。
とっくに食べ始めていたルーミア。 少しは警戒しなさい。

少年はページをめくり、別の鉛筆を握り、それを走らせ始めた。
ルーミアは文句を言おうとしたが、次の文章を見て、それは出なくなった。


『だって僕、喋れないもの』


少年はそう書くと、袋からもう一つ握り飯を取り出した。
どうやら、彼も食べるつもりらしい。

『君が美味しそうに握り飯を食べるもんだから、僕もお腹空いちゃったよ。
 夕食もまだだったし』

書き終えた少年は、握り飯を頬張り始めた。




色んな意味で呆気にとられたルーミア。


なんなんだ? こいつは。

こんな夜中に。
里から離れた森の中で。
たった一人で。
星を見るため、描くためだけにこんな所へ来て。
妖怪である自分を全く怖がらず。
隣で余裕でご飯を食べている。
そして、あまつさえ喋れないだと?



食事の手が止まったルーミアを見て、既に食べ終えた少年は、スケッチブックを手に持ち、
再び鉛筆を走らせた。

『どうしたの? 美味しくなかった?』

怪訝な表情で、ルーミアに問う少年。

「あ、いや、そういうわけじゃなくって…」

やや返答に詰まったルーミアに対し、少年はククッと笑って、こう書いた。

『変な子だね、君は』
「…あなたが、それを言うの?」



これが、この二名の出会いだった。
















2、
少年は、毎日その場所に現れていた。
鉛筆箱に、彼とルーミアの分の握り飯の入った袋、そしてスケッチブックを持って。

ルーミアは興味半分、食欲半分で彼を迎えるようになった。
ご飯を食べながら、少年の絵を描く姿を眺めたり、軽く雑談したりしていた。








ある日のこと。



ルーミアは友達のリグルを連れて、いつもの場所にやってきた。

「ほら、この子だよ。 リグル」
「ほほー。 
 ルーミアに人間の知り合いが出来たって話を聞いて、最初は信じられなかったんだけどね~」

少年はリグルを見て、

『誰? この子』

とルーミアに尋ねた。

「この子はね、リグルって言うの。 虫の妖怪よ」
「よろしくね」
『よろしく。 僕は□□っていうから』

そう書くと、少年は再び絵を描く作業に戻った。


リグルは苦笑いした。 聞いた通り、やや無愛想で、ズレている人間だ。

「こんなに暗いのに、よく絵なんて描けるね。 人間なのに、暗闇で目が利くんだね」
『暗いのには慣れてるからね。 月明かりと松明で十分さ』
「でも、もうちょっと明るかったらって思った事はない?」

少年はうーん、と考えるような仕草を見せ、

『確かに、そう思うときはあるね』

と相槌を打った。
その少年に対し、リグルはフフンと笑って、

「フフ、なら虫の妖怪の力を見せてやろうじゃない」

そう言って、手を振り上げた。





すると、どうだろう。

瞬く間に3名の周りに大量の蛍が現れ、その体を明るく光らせているではないか。
少年は、その光景に目を丸くさせた。

「どう? 明るくなったでしょ? ていうか凄いでしょ? 私!」
「初めは私も驚いたなー、これは」

胸を張るリグルに、感心したように周りを見渡すルーミア。



呆気に採られていた少年だが、ふと我に返り、急いで鉛筆を走らせ始めた。

『スケッチしてもいいかな? もう少し、このままにしておいてくれない?』

リグルはニコニコ笑いながら、

「どーぞ、お好きなように」

と言って立ち去ろうとした。

『どこに行くの?』
「他に鳴き声が綺麗な虫でも連れてくるかなー、と思って」
『それは楽しみだね』

少年は笑顔を見せた。
リグルは満足げな表情を見せ、去っていった。




ルーミアは不満だった。
少年との付き合いはリグルよりずっと長いが、少年の嬉しそうな笑顔は、これが見たのが
初めてだった。

少年を喜ばせる。

ルーミアがこれまで一度もできていなかった事を、リグルはあっさりやってしまった。
リグルに嫉妬しているのだ。


━━━ なんなのさ、君も。 ちょいと酷いんじゃない?


ルーミアは、ムスッとした表情で少年に近づいていった。










そこで、ある事に気がついた。

松明と月明かりの他に、新たに蛍の光が加わることにより、見えていなかったものが
見える様になったのだ。


「…ちょっと聞いていい?」
『何?』
「その首の後ろの傷、どうしたの?」


少年はそれを聞くと、気まずそうに顔を背けた。
そして、やや迷うような、彼らしくない気の篭っていない書き方で、こう書いた。


『転んだんだよ』
「…本当に?」
『本当だよ』


嘘である。
どう器用に転んだら、首の後ろなどを傷つけるのだ。
虫刺され等ではない。 正真正銘の、打撲傷である。


『絵の続き、描いてもいいかな?』
「…ん。 どうぞ」

少年は絵の続きを描き始めたが、彼が動揺し、先程の様に絵描きに集中出来ていない
事は、ルーミアは見抜いていた。


はっきりしない色合いに、中途半端に引かれる線。


スケッチブックに描かれるそれは、そのまま彼の心を反映していた。




















3、
「ああうぜぇ」


ゲシッ

クスクス


「お前だよ、お前」


ドカッ

ゲラゲラ


「何その目? キモイんだけど」


バキッ

ギャッハッハハッハ











昼過ぎ。 寺小屋が終わったくらいの時間だろうか?

人里外れの閑散とした空き地に、数名の人間の子供が居る。


黙って殴られ、蹴られている少年が一人。
彼に手を加える、男子が3名。
その光景を見て下品な笑い声を上げる、女子が3名。




「あのさぁ、前みたいに、もちっと抵抗してくれなきゃつまらないんだけど?」

少年を殴っていた3名のうちの一人が、少年にそう言った。

「この前みたいに、俺たちに手を出してくれたら、面白い展開になると思うんですよ」
「キャハハ、△△の家ってお金持ちで、里の皆に色々貢献しているから、そんな事
 したら大変だよー」

女子の一人が、それに続いた。

「前回もなぁ。 お前の両親、相手が俺たちだって分かった瞬間、いきなり
 土下座し始めたよな。お前の話なんか聞きもしないで、
 『私の息子がご迷惑をおかけしました』とか言ってさ」
「そりゃそうだよ。 こいつ喋れないんだから、聞こうにも聞けないジャン」

違いねーな、と言って、ゲラゲラ笑う子供達。

ここ数週間、ずっとこの行為で笑っている彼ら。
随分と長い間楽しめる『遊び』を開発したものだ。






数分後。

飽きたのだろう。 子供達は帰っていった。

殴られていた少年は、暴行が終わった事を確認し、ヨロヨロと立ち上がった。
空き地の隅っこに置かれていた彼の荷物を持ち、家に帰っていった。




家は嫌いだ。

あのいじめっ子達に土下座をした日以来、両親のみならず家族全体が、少年を腫れ物の
様に扱っている。
向こうもやり難いだろうが、少年の方も相当無意味な苦痛を味わっていた。
妙な気遣いをされるのが嫌だった少年は、ある日の夜から、『星の観察に行く』と言って
家を抜け出す事にした。
危険性も高かったが、少年に負い目を感じている両親は、彼の意向に逆らえなかった。



少年は、人間以外の色々な生き物が居る、森が好きだった。
少年は、夜の間だけ神秘的な美しさを見せる、月と星が好きだった。


だから、彼は今日も、里の近くの森へ行った。



危険性など、全く省みることなく。





















一部終始を見ていた、彼の行動を昨晩から張っていた闇の妖怪は、一つの疑問が
頭に浮かんだ。


























「なんで仕返ししないの?」


ルーミアは少年に聞いた。


「私の勝手な勘だけど、君は腕も頭も、人間にしては切れる方なんじゃないの?」

気に入らない相手は殴り合いで殺したり、喰らったりすればいい。
妖怪であるルーミアにとって、それは当たり前の行為だった。


『僕が彼らに抵抗すると』

少年はスケッチブックに書き始めた。

『家族に迷惑がかかるんだ』
「迷惑? どういう迷惑なのさ?」
『人里に、居られなくなる』
「なんでさ」
『彼らは里に貢献している人間だからさ』
「大した理由も無く、同族やその家族を傷付ける馬鹿共が、貢献している?
 寝言は寝てから言いなさいよ。 まだ夜は更けきっていないよ」

やや怒り気味に凄むルーミアに対し、少年は黙ってしまった。


「大体、里には歴史を見れる慧音先生がいるじゃない。
 先生に歴史を見てもらって、その馬鹿共を懲らしめてもらえばいいんじゃない?」
『…もし、里の人間全員で、慧音先生を里から追い出す様な事になったら大変だよ』
「なんで当たり前のことをした者を、追い出そうとするのよ」
『そういうものなんだよ、人間ってのは』

少年はそう書くと、溜息をついた。





…人間って、とっても、醜い生き物だ。

ルーミアは、そう思った。

腕も頭も一流の妖怪には遥かに劣り、博麗の巫女や歴史の半獣が居なければ身の安全さえ
確保できず、1日2食は食べないとそのうち死んでしまう生き物が、こんな下らない
仲間割れを起こしているのだ。
無論、妖怪の中にも似たような事は無くはないが、ここまで陰湿且つしつこくはない。





「んー… 久しぶりだね、こんな気分が悪くなったのは」

ルーミアは、普段の彼女からは考えられない、不機嫌な表情でそう言った。

『不快な思いをさせちゃって、ごめんね』

少年は申し訳なさそうに、そう書いた。
袋から御握りを取り出し、ルーミアに差し向ける。
謝罪代わりのつもりだろうか?


「…御握りはいいや。 なんか食べる気分じゃないし」

ルーミアはそう言うと、闇の中に消えていった。



残された少年は、御握りを片手に、呆然とするしかなかった。






















4、
翌日、里の離れの空き地。



少年は昨日に引き続き、またも呆然としていた。

原因は、またしてもルーミアだった。






















数人の子供たちが、気絶して横たわっていたり、小便を漏らしてガタガタ震えていたり
している。
よく見ると皆、体の何処かしらから、出血しているのが分かる。

そのうち、意識のある一人の子供の胸倉を掴み、自分の目線に合わせるルーミア。

その目は、妖怪が人間へ向ける目というより、娘が親の敵を睨み付ける様な、
そんな感じの目だった。


「聞いてる?」


ルーミアの問いに、その子供は震えていて答えられない。
ルーミアは、お構いなしに続けた。


「殴る者は、殴られる覚悟が必要。 痛みを与える者は、痛みを味わう覚悟が必要」


ルーミアは、子供の首をグッと掴んだ。
その手には、大量の血液が付着している。
ぐぇ、と情けない声を出す子供。


「…喋れない事を笑いの種にする者は、自分が喋れなくなる覚悟が必要」


ルーミアは徐々に腕に力を込めていった。
段々、顔色が青くなっていく子供。


「人間、妖怪、関係ないわ。
 全ての生き物が、当たり前の様に理解している事よ。
 …安全地帯から見下ろしているつもりだったの? 君は」


ニヤニヤ嗤うルーミア。 完全に、その子供を見下している目つきだった。


「安心して。 食いはしないから。 ていうか、お前みたいな腐った奴を、お腹に
 入れたくないからさ」


そこまで落ちぶれちゃいないよ、と言うと、ルーミアは腕に一層力をこめた。
いよいよその子供の顔色が悪くなっていき、浮いている足をバタつかせている。


「…でも、『人間』を襲うのは、『妖怪』の義務だからね~。
 …その醜い声、もう聞きたくないし。 てなわけで、奪ってあげるよ。 君の『声』を」


ルーミアは『妖怪』の笑みを浮かべ、その子供の声を奪━━━













おうとして、邪魔が入った。


「…何よ、□□」

少年が、ルーミアの腕を掴んでいた。
彼なりに力を込めているようで、恐怖とは違った意味合いで、彼の腕が震えている。

「私は、余計な事をしている?」

ルーミアの問いに、少年は首を振った。

「じゃあ、邪魔しないで」

少年は、またしても首を振った。

「…こいつを放せと?」

少年は頷いた。

「…こいつを許せと?」

少年は、またしても頷いた。

「……」
「……」

しばし、沈黙して見つめ合う両者。




やがて、ルーミアが折れた。

パッと手を離し、その子供を地面に落とした。

ゲホゲホと咳き込む子供の髪の毛を、グイっと掴むルーミア。
そして、こう言った。


「いい?」

「二 度 と」

「□  □  に」

「近   づ   く   な   よ   ?」


言われた子供は、引きつった表情で、必死に頷いた。

そして、ルーミアの指示で、気絶していた者達を起こし、慌てて去っていった。















「……フゥ」


一つ、大きな息を吐いたルーミア。


「さて、□□はもう家に帰りなよ。
 私は、もうちょっとここで待たないといけないから」

ルーミアの発言に、少年は ? という顔をした。
そして、周囲を見渡し、空き地の隅っこへ走っていった。
どうやら、例のスケッチブックを取りに行ったらしい。

ルーミアは少年の質問内容を分かってはいたが、取り敢えず持ってきてもらう事にした。


『誰を、待つの?』

少々字が汚い。 焦っているのだろう。

「…誰ってそりゃ」

ルーミアは普段見せる愛らしい表情に戻り、

「妖怪が里で暴れたとなれば、来るのは2人しかいないよ」

と言った。




























「…こんな事が、あったのか…」

「そういう事だったのね…
 アンタが人間を食う以外で襲うのなんて、初めて見たかも」

「妖怪、の、義務を果たし、ただけ、よ。 私、は」

「…礼を言わせてくれ。 有難う、ルーミア。
 それと、すまなかった。 申し訳ない」

「何言ってるんだよ、慧音さん!」

「巫女さん! この妖怪を殺して下さい!」

「あと何発か打ち込めば、止めをさせるわ!」

「……お前達は、自分や子供達がしてきた事を、なんとも思わないのか?」

「どっちが妖怪なんだか……」






















5、
それから3日後。



少年は、いつもの通り、森の開けた場所で、星を眺めていた。

但し、スケッチブックは殆ど更新内容がない。

ボーっと、星を眺めては、深夜になる前に帰って行く。
これを繰り返していた。



絵に集中出来ない理由は、2つ。



一つは、ここ3日間で、里における自分の立位置の変化が影響していたため。



まず、あの日の翌日。
寺小屋で、慧音に頭を下げて謝られた。
私がもっとしっかりしていれば、とか言っていた気がする。
慧音の授業を殆ど受けていない少年は、元より接点があまり無かった慧音を
恨んでなどいなかったので、対応に苦慮した。


その日の夕方。
家をそろそろ出ようかと思っていた矢先に、少年に来客が現れた。

男子3名、女子3名及びその親達。

少年に、謝りに来たのだ。

中には不満そうな表情の者もいたが、彼らの背後にいた霊夢が、恐ろしいオーラを
発していたため、仕方なくと言った感じで、ぶっきらぼうに謝ってきた。


日が明けると、不満そうな顔をしていた子供たちが、寺小屋に来ない。
何でも、蜂に刺されたらしい。


その日の夕方、永遠亭の薬師に診察させてほしい、と言われた。
理由を尋ねると、『貴方を話せるようにして欲しいって、貴方の両親と慧音に
言われたの』という返事が返ってきた。




…もう、訳が分からない。
激動過ぎるこの数日間を、まだ少年は受け入れられていなかった。











そして、二つ目。 こちらの方が重要なのだが…



あの日以来、ルーミアがここに現れないのだ。

少年は心配だった。
ルーミアが博麗の巫女や、慧音に退治されたであろう事は、もう少年も察しがついている。
慧音曰く、それほど大きな怪我も負っておらず、数日で体は全快するだろう、
との事だが…

ルーミアには、伝えなければならない事が山ほどある。
早く会いたい。
少年はこの三日間、ずっとそう考えていた。

























少年は突然、肩を叩かれた。

驚いて振り向くとそこには、
金髪の、
黒服の、
見た目は少年と同じくらいの、妖怪が居た。
…手には鉛筆と、スケッチブックを持っている。



少年は、慌てて鉛筆を走らせた。

『心配してたんだよ。 大丈夫なの? もう』

少年の問いに、ルーミアはスケッチブックに文字を書くことで、対応した。

『からだはだいじょうぶだよ ただね』

ルーミアはページを捲り、続けた。

『1かげつのあいだ、しゃべれなくなっちゃった』

字は汚く、書くペースも遅い。 書き慣れていないのだろう。
回答を想定できた少年は、こう書いた。

『巫女に、封印されちゃったの?』

書き終えた後、少年はルーミアの方を見た。
ルーミアはそうそう! と言った感じで頷いた。



それを見て、少年は申し訳なさそうにこう書いた。

『ごめんね、僕のせいで』

両親や寺小屋の教師達はともかく、ルーミアを巻き込む道理は全く無い。
己の無力さを呪う少年。


しかし、ルーミアはこう返答した。

『きみのため? なにをいっているの?』

ルーミアは、ページを捲る。

『わたしは、ようかいとしての』

ルーミアは、またページを捲る。

『ぎむを、はたしただけだよ』

ルーミアは、またまたページを捲る。

『ようかいは、にんげんをおそうのがしごとなの』

ルーミアは、またまたまたページを捲る。

『みこは、そのようかいをたいじするのがしごとなの』

ルーミアは、またまたまたまたページを捲る。

『おたがいにぎむをはたした。 それだけだよ』

そこまで書き、少年の方に向いて、ニコッと笑うルーミア。
少年は目をぱちくりさせている。
そして笑顔を見せ、さらさらと鉛筆を走らせた。

『ありがとう。 君は優しいんだね』

少年の笑顔をみて、ルーミアは満面の笑みを見せた。






『僕ね』

暫く間をおき、少年がスケッチブックに何やら書き始めた。

『1週間後くらいに、手術をするんだ』
『永琳先生が、僕を話せるようにしてくれるんだって』

嬉しそうに書く少年。

『声を出す練習とかもしなくちゃいけないから、まともに話せるようになるのは、
 1ヵ月後位かなって、言ってた』
『じゃあ、わたしとおなじだね』
『そうだね』

見つめ合って、笑いあう二人。




少年は再びスケッチブックに目を落とし、しばし迷ったような仕草を見せたが、
意を決した様に、こう書いた。


『でね、話せるようになったら、君に言いたい事があるんだ』


少年はやや顔を赤くしている。
首を傾げたルーミアだが、直ぐにハッとして、わざわざ少年のスケッチブックを
取り上げて、こう書いた。


『わたしのことが、すきって』


そこまで書いたところで、少年が持っていた鉛筆で、ルーミアの書いた文字を
グシャグシャと塗りつぶしてしまった。

ルーミアはニヤニヤしながら、スケッチブックのページを捲った。
少年が返して欲しそうな仕草を見せるが、全く取り合わない。



『あいし』
グシャグシャ。

『つきあ』
グシャグシャ。

『だいす』
グシャグシャ。



顔を真っ赤にして、ルーミアの書いた文字を、手当たり次第真っ黒に塗りつぶす少年。
ついには、スケッチブックの白紙のページが、無くなってしまった。




真っ黒になってしまったスケッチブックを手に持ったまま、ルーミアは空に飛び上がった。
そして、今度は自分のスケッチブックに、文字を書き始めた。
少年にとって、それに手は届かないが、それに書かれた文章は見ることが出来るという、
いやらしいポジション取りだった。




『私は闇の妖怪』


ルーミアは書き始めた。


『君の心を闇で支配することくらい、お手の物なのよ』


そこまで書くと、ルーミアはニヤニヤ笑いながら、少年の方に徐々に近づいていった。



そして、鋭い牙を持つ口を大きく開け ━━━


























少年の耳を、甘噛みした。







fin
なんかキャラ違うよな、ルーミア。
とか思いながら作っていましたが、なんか完成しちゃいました。

バカルテット(チルノ、ミスティア、リグル、ルーミア)で普段一括りにされている
ルーミアですが、確か4名中、公式で唯一馬鹿認定されていなかったはず(それっぽい
言動は見られますが)なので、こういうのもありかなーっと思った次第であります。


さて、『妖怪』という立場の為、軽く退治される程度でルーミアは済んでいますが、
似たようなことを『人間』が『人間』にやったら、これよりずっと怖い仕打ちが
待っていることでしょう。

ルーミアは間違っていたのでしょうか?






唯一つ言える事は、少年の事を一番真剣に考え、実際に解決するために行動したのは
ルーミアである、という事です。
ぷぷ
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コメント



0.3440簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
妖怪であるルーミアが人間よりも人間らしいとは皮肉ですな。
昔いじめを受けた人間として言わせてもらうなら、ルーミアは間違っていなかったと思います。
24.100名前が無い程度の能力削除
いい話有難うございます。
展開テンポの良さと面白さもあってサクサク読めました。
同じ種族じゃできないものなのでしょうか、まさに作中のルーミアと同じ気分
26.90アクセス削除
こういうルーミアは有りだと思いました。少年とルーミアに幸あれw
イジメって本当に陰湿なものが多いよな~と考えました。
そういうが無くなれば少し良い世の中になって行くんでしょうけどね。
27.90名前が無い程度の能力削除
ルミャかわいいよルミャ。
やっぱ妖怪みたいな普通の人間が逆立ちしても勝てないような知的生命体が必要。(ただし人間を駆逐したりしない)
そういうのがいないせいで人間は傲慢になる。
28.90名前が無い程度の能力削除
緊迫感があってよかったと思います。
31.100名前が無い程度の能力削除
虐げられた者にはしかえしする権利があって、虐げた者はそれに文句を言う資格がない…。けど世の中そうじゃないからなぁ…。るーみあグッジョブ!!ついでにリグルも…。
36.100名前が無い程度の能力削除
妖怪だからこそできることなのかもしれないな。
かっこよくて愛らしいルーミアですね。
41.90名前が無い程度の能力削除
ルーミアは人食の妖怪だけど人間が忘れた物を持っていた
里の子供は人間だけど妖怪よりも醜い心を持っていた
霊夢も言ってたけど「どっちが妖怪なんだか…」
42.100たぁ削除
GJ!
45.100名前が無い程度の能力削除
やべえ!王道!2828!

しかも霊夢がいい味出しすぎです!!
51.100名前が無い程度の能力削除
このルーミア最高だ!
68.100名前が無い程度の能力削除
良い女だな、ルーミア。
69.100ト~ラス削除
ルーミアかっこいい!!
馬鹿っぽくかかれてるルーミアしか見たことなかったので
結構新鮮でした。

しかし少年よ…ルーミアはわたさn(閉じるムーンライトレイ
71.100名前が無い程度の能力削除
にやにやがとまらんwwwwww
73.100名前が無い程度の能力削除
かわいいですねルーミアと少年
嫉妬するルーミアもニヤニヤルーミアもかわいい
74.70名前が無い程度の能力削除
あえて言いますと、ちょっと腑に落ちないなぁとも思いました……。
作中で少年がルーミアを止めたように、自分が苛められたからといって仕返しをしてもスカッとする感じは別にしません。こうやって暴力で解決したほうがいいこともあるんでしょうがね。
でも少年とルーミアの絡みは中々ニヤニヤしてしまいましたのでこの点数で。
78.90名前が無い程度の能力削除
これはいいけど…なんだかね
80.90名前が無い程度の能力削除
イジメへの対応は完全な正解がないものだから
やっぱりもやもやしてしまいますね
それは別として素敵なルーミアでした
84.100名前が無い程度の能力削除
起承転結がまとまっていて、オリキャラの魅力も充分にあった作品だと思います
90.100絶望を司る程度の能力削除
このルーミアに惚れました。かっこよすぎ!!!