Coolier - 新生・東方創想話

異説風神録・鍵山雛編【今、光り輝くもの】

2009/07/23 23:52:47
最終更新
サイズ
16.22KB
ページ数
1
閲覧数
767
評価数
4/20
POINT
870
Rate
8.52

分類タグ

******


誰かを救うたび、彼女は一つ、闇を纏う。
誰かを救うたび、彼女は一つ、厄を背負う。
それでも彼女は、救い続ける。誰かに幸せになって欲しいから。誰かに笑ってほしいから。
引き換えに自分がどうなっても良いと、そう思って、彼女はまた一人誰かを救う。
けれど、けれど。
彼女は気付かない。彼女を包む闇の中に、強く輝くもの一つ。
それは…


******


秋の青空を、私は飛んでいる。箒の尻尾から星型の光を撒き散らして、道を塞ぐ妖精を蹴散らして。
良い青空だ、と私は思う。紅い霧で視界が塞がれているようなことはなく、吹雪で視界が真っ白に染められている事もない。
魑魅魍魎が暴れまわる怪しい夜でもない。秋晴れの空気を肺に送り込むと、なんだか更に気分がよくなってきた。
「産医師異国に向こう…………御社に蟲さんざん」
円周率を暗唱しながら雑魚を蹴散らして進む。山まではまだ大分かかりそうだった。
「なんの呪文よ」
と、声と共に道を塞ぐようにして女が現れた。
どこかで見たような女だった。いや、そう言えばつい先ほど、くるくる回ってるのを蹴散らして進んだ覚えがある。
それにしても、あんなにくるくる回ったりして目を回さないのだろうか。慣れれば案外イケる物なのか。いやまず慣れる必要がそもそもあるのだろうか。
そんな事を思いながら、会話を進める。どうやら彼女は厄神であるらしく、周囲には目に見えるほどの厄が漂っている。
それは彼女が信用に値する証。彼女が人間を救い続けてきた証だ。
だから私は、少しだけ警戒心を緩めた。彼女はどうやら、私をこの先に行かせたくないようだ。それはきっと、この先は本当に危険だからなのだろう。
どうしようか、と少しだけ私は迷った。元々、登山の理由はあってないようなものだったからだ。
だけど、と私は思いなおす。今、何処からか山へと向かっている巫女の事を思い浮かべる。
ここから先が危険ならば…仕方なく、本当は乗り気ではないけれど。
「…忠告感謝だぜ。お陰で、どうしても、仕方なくこの先に進まなきゃならなくなった」


******


弾幕の隙間を縫って、私は飛ぶ。さっきまでと違って、私にはこの先に進まなければならない理由がある。
負けられない。そう自分に言い聞かせながら。
相対する彼女は、元々私に危害を加える気などないのだろう。攻撃に激しさは感じられない。
試しているのだ、私の力を。私をこの先に進ませても大丈夫かと。
それならば証明すればいい。私は一枚のカードを取り出し、宣言する。
-恋符【マスタースパーク】
そして…


******


-鍵山雛は、厄神である。
彼女はその存在の始まりから、誰かを救う事を義務付けられてきた。しかしその在り方に対し、彼女が疑問を持った事は一度もない。
子供が母親を追いかけて、不幸にも小石に足を取られて転ぶ。子供は泣いてしまう。その涙にすら彼女は心を痛めた。
事前に雛が厄を刈取り、子供が母親まで無事に駆け寄った時のその笑顔に、彼女は喜びを覚えた。
厄神には自らの在り方に対し疑問を持つ程度の自由は存在する。けれども、彼女は一度も揺らがなかった。
だから彼女は、
誰よりも厄を集め。
誰よりも人間を救い。
誰よりも、優しく。
自らの使命を全うし続けた。
-それが自らの破滅を招くとしても、決して止まらずに。


******


雛は、目の前の人間の力を理解すると、戦闘をやめた。
目の前の彼女は足を取られて転ぶような人間ではないと知ったからだ。彼女は少しくらいの危険なら跳ね除ける力を持っていると知ったからだ。
引き際だと、雛は思った。全力を出せば引き止める事は出来るだろう。けれどそれは、子供が転ぶ姿を見たくないばかりに、子供が歩き出すのを押し留める様な行為だ。
人間は、いつか歩き出さなければならない。いつか決断しなければならない。
彼女は、決断し、行為に足る力を示した。ならばそれを邪魔する権利は雛にはない。
「もう邪魔はしないわ…一応、もう一度だけ訊くわよ。どうしても行くの?」
「仕方なくだ仕方なく」
そう言って魔理沙は頭を掻いた。
「はぁ…まあいいわ。けど、その前に…」
「…な、何だよ?」
雛が魔理沙の肩に手を触れる。すると、魔理沙の周囲に薄い黒色の靄があらわれ、雛の体に纏わり付いた。
「厄は此処に置いていきなさい。…変ね、人にしては随分と溜まって…?」
黒色の靄が、動く。人の腕の形を取り、魔理沙へと伸びる。
「…!?」
箒を駆って魔理沙はそれをかわした。
「なんだよ…またやるのか?」
「ちが…う…」
厄とは、謂わば原子のようなものだ。それ自体に意思はなく、ただ結合を求める。厄は一般的に穢れと結合し、不幸と呼ばれる現象になる。
雛は、厄神は、穢れよりも強い力で厄と結びつく。故に、厄神が集めた厄は一般的には無害化される。そうして集めた厄は、飽和する前に更に別の場所へと流される。
少なくとも、普通はそうなっている。と言うのも、雛は無害化しきれない量の厄を、術によって無理に身の周りに集めているからである。
もちろん、それらは事ある毎に穢れと結びつき、不幸となる。だがそもそも厄を無害化しなくとも、不幸は厄神に害を及ぼす事は出来ない。その点では雛に危険はない。
では雛以外にはどうか。
当然、近付く者には不幸が降りかかる。これこそが彼女が周りを不幸にする所以、メカニズムである。
しかし、今起きた現象はそれが原因ではなかった。
人間には有り得ない量の厄。流し雛一人では持て余す量の厄。それを魔理沙は持っていた。
通常であれば、ある程度厄が溜まればすぐに穢れと結びつき、不幸として消費され、消え果てる。
だが穢れを寄せ付けない人間も中には居る。巫女と呼ばれる人種がその一つである。
彼女たちは厄+穢れの結合によって不幸になる事はないが、それでも一定の期間ごとに担当の厄神が厄を回収しに行く。
稀にだが、大量の厄となんらかの意思が結びつき、ある霊的存在が生み出される現象が確認されているからだ。
魔理沙は恐らく巫女に日常的に接した結果、随分長い間穢れを寄せ付けていなかったに違いない。しかし厄神にはチェックされていなかった為に、大量の厄を身に纏っていた。
そして今、元々限界ぎりぎりまで厄を溜め込んでいた雛がその厄を引き寄せた結果…
ぞくり、と二人の背筋を悪寒が走った。
最早黒色の靄ははっきりと視界を遮るまでに色濃くなっている。雛はそれらに干渉しようとしたが、厄寄せの術式は奏功しなかった。
違うモノになりつつあるのだ。雛が干渉出来ない存在へと変わりつつあるのだ。
-悪魔に。
ぐい、と手を引かれて、雛は黒色の靄から遠く上空まで引き離される。
「ええと…これは私が原因だったりするのか?」
「ええ…まあある部分に於いては」
黒色の靄が人の形を作り始める。
空にそびえる巨大なヒトガタ、その異形の名を魔理沙は知っている。過去に文献で読んだ事がある怪異。セレナリアと言う名の世界に、遥か昔に存在した悪夢。
-そう、まるでその姿は黒の人<シャドウ・ビルダー>のようだ。
「…それ以外の部分は?」
「今そんな事言ってる場合じゃないの。早く逃げなさい人間」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
ビリビリと大気を震わせながら、黒のそれが産声を上げた。普通の人間であれば声を聞いただけで身動きが取れなくなるような、恐怖そのものが音波と化して空気を伝ったような声であった。
「逃げろって…お前はどうするんだ?」
魔理沙は、少し心を乱されたものの、恐怖に捕らわれ錯乱するような事はなかった。普通の人間ではなく、普通の魔法使いだからである。
「………。まだアレは完全に変化しきってはいないわ。もしかしたら、止められるかも知れない」
変化しきってしまえば多くの犠牲者が出るだろう。その前に何とかしなければならない。
たとえ…
「…言い直すわ。貴女が原因ではない。今から起きる事は、全て私に原因があるの。だから、ここから離れなさい」
-たとえ、この身が滅びようとも。
「…っ!?待て!」
魔理沙は、雛が何を考えているのかを理解し、その動きを止めようとした。けれど、伸ばした右手は虚しく空を切る。
雛が一直線に空を翔ける。黒のそれの胸部、存在の核が形成されつつある中枢へ向かって。
黒の巨人は雛が近付いても動かなかった。まだ彼女が身に纏っている多量の厄を感じ取っての事だろう。
雛が手をかざすと、胸部の黒い靄が彼女を迎え入れるの様に開く。
魔理沙がスペルカードを取り出す。同時に箒に霊力を注ぎ込み始める。
箒の制御は気にしなくてもいい。解放された制御術式が、自動的に箒の駆動を制限してくれる。
静止したままの箒に、霊力が限界いっぱいまで注入された、その瞬間。
スペルカードが輝き、その術式が完成した。
「【ブレイジングスター】!」
瞬時に音速を越えて、魔理沙が翔ける。今、黒の人の胸部へと入ろうとしている雛に向かって。
黒の人の手が動く。魔理沙を拒むように、人の掌ほどには分化しきっていないそれが立ちはだかる。
激突。黒い靄と魔理沙の力がせめぎあう。
靄が霧散するのと、スペルカードの力が消えるのとはほぼ同時だった。
箒のコントロールを失った魔理沙が、なんとか錐揉み状の回転から体勢を立て直す。目が少し回った。矢張り慣れる必要があるのかも知れない、と魔理沙は思った。
すぐに先ほど弾け飛んだ黒の人の手が再生する。
雛へと魔理沙は目を向ける。既に胸部は閉じられ、雛はその中に入り込んでいる。
「あの…馬鹿…っ!」
間に合わなかった。伸ばした右手は届かなかった。
-いいや。まだ救える。救ってみせる。もう一度…それで駄目なら何度でも手を伸ばす。
そして魔理沙は黒の人に突撃を開始した。


******


雛は、泥のような黒の中で、今までに出会った人間の事を思い出していた。
みんな、幸せに生きてくれているだろうか。みんな、笑えているだろうか。
-私は役に立てただろうか。
彼らの、彼女たちの、笑顔を思い出す。無数の人々の顔、大抵は一度しか出会った事がない顔。それでも、雛は全員の顔を覚えていた。
これから行う術式を完成させた時、雛に訪れるのは確実な死である。けれど、雛は微塵も迷う事無く術を開始した。
想いは力となる。
人々への想いが、雛に力をくれる。だから、きっとやり遂げられる。そう雛は信じている。
厄+厄神、結合を開始。完了するまでは凡そ五分ほどか。なんとしてでも、黒の人が完全に顕現する前にやり終えなくてはならない。
厄+穢れ→不幸。
厄+邪念→悪魔。
そして最後の厄+厄神結合。
通常、第三の結合は無害と考えられている。だけど、本当はそうではない。その事を厄神たちだけが知っている。
過去にも何度か行われたその術。膨大な厄が狭い範囲に発生した際に行われるその術。悪魔の顕現を阻止する為に幾度となく行われたその術。
集まった厄をその一帯もろとも此岸から吹き飛ばす禁術。厄を全身の霊質と結合させた後に、霊力を限界まで高める事で起きる現象。
終点【ファイナル・デスティネーション】。
自ら死に向かって歩みを始めた雛は、だが穏やかな笑みを浮かべていた。終わりを受け入れた者が見せる、優しい諦めの表情だった。
だから、彼女は気付かない。そんな彼女を救おうと足掻いている者がいる事に。
-そして、もう一つ。常に彼女の傍に存在したそれに。


******


四度目の突撃は、やはり黒の人の防御によって弾かれた。ぐるぐる回る景色に気分を悪くしながら魔理沙は何か手はないかと考える。
マスタースパークを放てば雛もろとも吹き飛ばしてしまう。まず先に雛を救出しなければならない。だが、自分の最高の突撃技であるブレイジングスターでもあの防御は突き崩せない。
その時、ふと魔理沙は気付く。
「…なんだあれ?」
雛が入り込んだ胸部、その周りにちかちかと煌く物が見える。優しい光を放ちながら、黒の人の胸部にぶつかっては跳ね返されてを繰り返している。
「あれは…」
その光の群れは、雛を助け出そうとしているように見えた。しかし力が足りないのか、黒の人がダメージを受けている様子はない。
目を凝らす。恐らく、周囲を覆っていた厄の所為で気付かなかっただけで、あの光は最初から雛のすぐ傍にあった物だ。
魔理沙が意識を向けた瞬間、光の群れは黒の人への突撃を止めた。少しの間、思案するかの様に静止していたそれらは、意を決したかのように動き出した。
魔理沙の周囲へと向かって。
「…暖かいな」
光は、魔理沙が予想していた通りの物だった。
雛はきっと気付かなかったのだろう。盲目的に人を救い続けてきた彼女は、自身に向けられる想いに鈍感なのだ。
それは、人の想いだった。
彼女に救われた人たちの感謝の想いだった。彼女のお陰で笑えた人たちの、限りなく純粋な願いだった。
無数の想いは、けれどたった一つの共通した願いで纏まっている。
-どうか、あの人が幸せになりますように。
魔理沙の心が、強い決意で燃え盛る。勿論、今までの突撃も全力で行っていた。だがそれよりも更に強い力が、心の奥底から湧き上がってくる。
「…行こう」
魔理沙が無数の光に向かって語りかける。同時に、ブレイジングスターのカードに新たな記述を書き加える。
カードの記述にあわせて、光に霊力が注ぎ込まれる。光の群れが輝きを増して、大きく展開する。
想いは力となる。
これだけの想いが集まれば、きっと出来ない事など無いと、魔理沙は信じている。
今や無数の力に囲まれた魔理沙は、胸を張ってスペルカードを掲げた。
「星軍【ブレイジング・スター・ウォリアーズ】!」


******


黒の人の中枢にいる雛に、大きな衝撃が伝わってきた。外で何か起こっているのだろうか。黒の靄に包まれた彼女には知る事が出来ない。
-いや。
まさか、と言う思いが湧き上がる。まさか、あの人間がまだ逃げずに何かをしているのではないだろうか。
残りの時間は三分。今から逃げてくれればまだ間に合う。
だが、もしあの人間が時間まで逃げなかった時は…
「………」
自分と、一人の人間が死ぬだけで済むのならば、そうするべきだ、そう雛は自分を納得させようとする。
黒の人が完全に生れ落ちてしまえば確実にそれだけでは済まない。だから、これは必要な犠牲なのだと自分に言い聞かせる。
「…っ!…術式を継続。残り時間は…二分と三十七秒」
今行っているのは、確実に自らを滅ぼす術である。その術を使うことには微塵の躊躇もない。
だと言うのに、なんて難しいのだろう。
自らを殺して、助けたいと願う心を押し殺して、歩みを進めるのは。
誰かを助ける為ならば、雛はどれほど厳しい条件でも乗り越えてきた。その向こうにある、誰かの幸せを願って。だが、今回は…
涙がこぼれる。自分がこれからどう行動する【べき】か、そして自分はそれを理解していて尚どう行動【する】か、雛にはわかっている。
-出来ない。私には人間を巻き添えにする事は出来ない。たとえ未来の犠牲を減らすためだとしても。
術式を停止する。もう雛にはどうする事も出来ない。ここから脱出する事もないだろう。恐らく、このまま黒の人に吸収される筈だ。
せめてその瞬間までは、厄+邪念結合を阻害しようと雛は決めた。その為の別の術式を開始する。
それによって、何が変わるとも思えないけれど。
ごめんなさい、と暗闇に向けて雛は言った。
誰に向けた物か、何に向けた物か。自分でも分からずに。


******


その時。
一際強い衝撃と共に、黒の泥が一掃され、その向こうに光が見えた。
「…何…が起きたの?」
そんな筈はない。まだ完全では無いとは言え、悪魔の雛形を人間が打ち倒せる筈はないのに。
彼女は、無数の暖かな光を従えて、右手を差し出していた。
「どう…して?」
「…それは、私の周りにいる奴らに訊いてくれ」
その言葉に、雛は光の一つ一つに注意を向ける。
雛に死の淵から救われた老人の想いがあった。崖から落ちそうになったところを寸前で助けられた少女の想いがあった。妖怪に遭遇した時に雛に助けられた青年の想いがあった。
無数の想いが、柔らかく雛を包み込み、周囲の闇を吹き飛ばす。
「貴方たち…どうして…?」
-私は全て諦めたのに。救われる資格なんか無いのに。
なのに、光は優しく、雛を黒の泥から守っている。
「まだ分からないのか、馬鹿」
それでも右手を取ろうとしない雛に向かって、魔理沙が口を開いた。
「お前が誰かを救いたいと思った分だけ、その誰かも、お前を救いたいと思ったんだ」
だから。
無数の想いは、力となって。今も周りの黒の泥から二人を守ってくれている。
「それでもまだ、この暗闇に残るって言うなら」
「…え?」
「力づくで、勝手に助ける!」
魔理沙の右手が雛の右手を掴み、そのまま飛翔する。同時に、黒の泥を打ち払っていた光の群れも移動し、黒の人の胸部が閉じられた。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
黒の人が咆哮する。雛が押さえ込んでいた厄+邪念結合が進み始めたのだ。最早、雛にはそれを止める術は無い。
世界を裂く者。空を染める者。黒の破壊者。<シャドウ・ビルダー>。
誰もが絶望し、恐怖し、諦めるその怪異を目の前にして。
「さて、あとはアイツを吹き飛ばすだけだぜ」
けれど、魔理沙は決して諦めない。
絶望を与える声を耳にして、彼女はそれでも希望を胸に。
恐怖の具現の形を前に、彼女はそれでも揺らがない。
いいや、彼女『達』だ。
-ああ、そうだ。これが、これこそが私が救おうとした人間だ。
心の奥が熱い。力が無限に湧き出るような気がする。
それもその筈だ。雛はもう迷わなくて良いのだから。
黒の人を倒して、人間を救う。今はもう、ただそれだけの話になったのだから。
「ええ、貴女にも原因があるのだからなんとかしてもらわないと困るわ」
「さっきと言ってる事が違うような…」
そして。
-想いは、重なって、力となる。
魔理沙の右手が伸びる。雛の右手が重なる。無数の光が、彼女達を包む。
ミニ八卦炉が、眩いばかりの光を放つ。
-死の運命を一度は受け入れた。あの暗闇が終点だと思っていた。けれど、私は間違っていた。
スペルカードが掲げられ、術式が完成する。
-道が無ければ、切り開けば良い。運命は、打ち破られる為に存在する。人間はそうやって生きているのだから。
黒の人の目が暗く輝く。口に当たる部分が開く。狙いは上空の二人。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
黒の人が吼える。黒が収束し、かつてある世界を恐怖に染めた一撃が放たれる。
破界【シャドウ・ビルド】。空を裂く咆哮。黒の一閃。
その一撃に対して、二人と、そして無数の想いは…
ミニ八卦炉が震える。射出口から光が奔る。超々高熱の嵐が黒の人へ向かって迸る。
魔砲【ファイナルスパーク】。人の想いが込められた、無限熱量の光線。
放たれた黒と白がぶつかり合う。大気が震え、木々が波打つ。世界が悲鳴を上げて、空間が歪む。僅かな拮抗の後…
黒の光が、白の光に押されて消滅した。
黒の人がファイナルスパークの光の中に溶けてゆく。何かを掴もうとするかの様に伸びた右手が、光の中に淡く消えた。
<シャドウ・ビルダー>の消滅を確認した魔理沙は、スペルを解除して、一つ大きく息を吐いた。
「つ…疲れた…」
ぐったりと肩を落とす魔理沙を横目に、雛は静かに微笑みながら、光を見つめている。
優しく、柔らかく、踊るように、無数の光が雛の周りに漂っている。その一つが、一際強く光を放つと、力を失って消えた。
それに続くように、無数の光が消えてゆく。その光景を、雛は見つめ続けていた。
「…ありがとう」
たとえ力を失っても、想いは変わらずに此処にある。だから、きっとこの言葉も届いている。
今の雛には、そう信じることが出来る。
「貴女にもお礼をしなくちゃいけないわね…お酒くらいなら出せるわよ」
「気持ちは有難いが、私はこれから仕方なく山登りをしなくちゃならないんだ」
「あ、ちょっと…」
何故か逃げるように箒を駆って、魔理沙が進む。照れているのかも知れなかった。
その後姿を、雛は感謝の笑みを浮かべながら見送った。


******
良き青空を!(未知なるカダスに夢を求める方の方言でこんにちはの意味)

最後までお付き合い下さり有難うございました。
初めましての方初めまして。そうでない方は胎児よ胎児よ何故躍るな自分のSSを再び手に取ってくださり有難うございます。桜井作品のあまりの面白さに嘘屋儲に転職した目玉紳士です。
嘘です。ちゃんと毎日「光射す世界に、汝ら暗黒住まう場所なし!渇かず餓えず無に還れ!レムリア・インパクト!!」って叫びつつ鍔眼返しの練習してます。義務です。近所の目を気にしていたらガンカタマスターにはなれないのです。

このSSは去年の冬コミの合同誌で素敵な挿絵付きで出させてもらったSSの加筆・修正版です。同人誌版には素敵な挿絵がありますが完売した為紹介は省略とさせていただきます。
鍵山雛編と銘打ってありますが他の編を書く予定はなかったり。

それでは、機会があれば次も読んで頂けると嬉しいです。
目玉紳士
[email protected]
http://medamasinsi.blog58.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.540簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力削除
厨2
8.60名前が無い程度の能力削除
なんか厨っぽい…
だがこれはこれで面白いぜ
18.70名前が無い程度の能力削除
これはこれで悪くない。
19.100irusu削除
マジで感動泣いた。
20.100名前が無い程度の能力削除
厄神様の想い 人間達の想い
鍵山雛は初めて、そしてあらためて人間と出会ったようですね
一途な心の美しさを改めて実感しました。ありがとうございます