Coolier - 新生・東方創想話

目玉の気持ちになってみる?

2009/07/20 21:05:44
最終更新
サイズ
12.3KB
ページ数
1
閲覧数
973
評価数
6/60
POINT
2960
Rate
9.79

分類タグ


 朝食を食べ終わったところで、さとりは大事なものが消えている事に気付いた。

「第三の目が、ない?」

 どうにも今日は身体が軽いと思っていたが、よもやそんな大事なものが消えていたとは。うっかりにも程がある。どうりで、お燐の心が読めないわけだ。
 さとりは朝食も早々に切り上げ、自分の部屋に戻った。昨日の夜は蒸し暑く、何度も何度も寝返りをうった記憶がある。その拍子に第三の目が外れ、ベッドの下にでも転がり落ちたかもしれない。
 思い当たる場所を軒並み当たってみたが、部屋の中にはその姿を見つけることができなかった。
 足が生えているわけでもない。どこか遠くに行くはずもないのに。
 まさか、誰かが盗んだのか。それが一番有り得る可能性なれど、信じるのなら地霊殿の誰かを疑わないといけない。
 誰か侵入者がいたならば、さすがにさとりも気付く。誰にも気付かれず侵入し、第三の目を盗むなど、出来るのは妹のこいしをおいて他になかった。もっとも、あれが盗むとは考えにくい。
 欲しければ自分の目を再び開けばいいだけの話。わざわざさとりの目を盗む必要など、どこにもなかった。
 ならば誰が。何の目的で。
 戸惑うさとりの目に、テーブルの上に置かれた一枚の紙切れが飛び込んでくる。
 何気なくそれを手に取り、さとりはこの事件の全てを把握した。

『旅に出ます。捜さないでください。第三の目』

 俗に言う、家出だった。




 人が家出をしたなら心当たりは幾つかあっても、第三の目が家出をした場合の行き先など皆目検討もつかない。一応は水瓶の中やタンスの中を探してみたけれど、案の定収穫はゼロ。
 仕方がないので鳥避けの目玉をくっつけて外に出たら、空が怯えて近寄らなくなった。案外、効果はあるらしい。

「何してるんですか、さとり様?」

 至極もっともな質問が、お燐の口から発せられる。誤魔化せるのではないかという期待感とあと空気で膨らんだ目玉を首からぶらさげた主を見れば、どんな従者だって同じ質問をすると見せかけて、咲夜ならきっと「可愛らしいアクセサリーですね」などと瀟洒に微笑む。
 生憎とお燐には瀟洒の酒の字も判らないようで、微笑む余裕など有りはしなかった。訝しげな目でさとりを窺い、主体性なく揺れる目玉を突いて割った。

「なっ、何するんですか!」

 うっかり爪の部分が当たってしまったらしい。質問する立場が変わった。
 お燐もまさかこんな事になるとは思ってもおらず、どうしたものかと爪を仕舞い込みながら右往左往して動揺を隠さない。

「まぁ、いいじゃないですかさとり様。お燐だって悪気があったわけじゃないんですし」

 天敵がいなくなったのを見計らい、不謹慎にも満面の笑顔を浮かべた空が柱の影から姿を現す。

「仕方ありませんね。予備の目玉を出すことにしましょう」

 来たときの勢いそのままに、柱の影へと戻っていった。そんなに恐れるものなのか、さとりには理解できなかった。

「我々はー! 理不尽な目玉の破裂を要求するー!」

 遠くからそれこそ理不尽な声が聞こえてくるも、胸に何かないと落ち着かないのだ。怯える空は可哀想だけれど、その要求を呑んでやることはできない。

「あの、ところでどうしてそんな物を? いつもの目玉はどうしたんです?」

 ようやく話が本題に戻ってきた。

「実はですね、第三の目が家出しまして」
「家出!?」
「ついでにこいしが出家しまして」
「出家!? いや、どう考えてもついでじゃないですから! そっちの方が一大事ですから!」
「流れでちょっと言ってみただけです。冗談ですよ」

 さとりだって、その二つが同時多発しようものなら後者を優先させる。優先させてどうなるものでもないが、妹の一大事なのだ。毛生え薬なら持参してはせ参じる覚悟はあった。

「でも第三の目が家出したのは事実です」
「あれが家出……」

 俄には信じがたいことなのだろう。お燐の視線はあちらこちらへ彷徨っている。
 それはさとりとて同じこと。あんなに物静かな大人しい目玉が、まさか家出するなんて思いもしなかった。まさかあの子が、とインタビューに答える人たちの気持ちが今なら理解できる。

「どうやって家出なんかしたんでしょうね」
「お燐、あなたは今までに食べたパンはパンでも食べられないパンの数を覚えていますか?」
「ゼロです」

 記憶力のいい猫だ。おかげで誤魔化しも通用しない。
 なるべく考えないようにしていた事も、おかげで考えなくてはならない。

「あの目玉が一人で動けるはずもないですから、おそらく誰かが持ち出したんでしょうね」
「あるいは、第三の目が単独で飛んで逃げたか」
「飛べるんですか、あれ」
「さぁ? さして気にもしていませんでしたが、飛べても不思議ではないと思います」

 生き物を加工したわけではないが、無機物に命が宿ることなど珍しい現象でもない。長らく装着しているうちに、多少の自我が芽生えてきたのだろう。その結果が家出なのだとしたら、自力での飛行も頷ける。

「だとしたら、どこに行ったんでしょうかね」

 我が事のように悩むお燐とは違い、さとりは至って平静だ。覚りにとってはアイデンティティとも言える能力が失われ、てっきり動揺の一つでもすると思っていたのに。いざそうなってみれば、有るのは海のような穏やかな心。
 まるで隣家の騒音が消えたような、妙な爽快感すらある。ただ同時に喪失感も有るのは事実で、このままで良いと思うような事も無かった。胸元に第三の目がないと落ち着かないのも確かであるし。

「さとり様は何処か心当たりがないんですか?」

 頭を捻る。さて、第三の目が行きそうなところ。
 これまで自力で動けるとも思っていなかったし、そんな事は全く考えたこともなかった。何処に行ったのかと訊かれても、有効な回答など持ち合わせてはいない。

「第三の目が行きそうなところ……」

 自由になったものが、まず行こうと思う場所。しばしの間、思考に身を委ね、そしてさとりは一つの答えを導き出した。
 予備の目玉を小脇に抱えて、お燐の首根っこをひっ掴まえる。

「行きますよ、お燐」
「な、なにかわかったんですか!?」

 抵抗することなく引きずられるお燐が、期待感の籠もった声をあげる。さとりはただ前を向きながら、自信満々に答えるのだった。
「目玉が望むこと、それ即ち目の潤い。ならば行くべきところは一つ。薬局です」

 薬局には目薬がある。むき出しの目玉が動けばさぞや乾燥することだろう。
 砂が水を吸うように、干からびていく眼球は間違いなくオアシスのごとき目薬を欲するはずだ。
 確信で満ちたさとりとは裏腹に、お燐の顔色は冴えなかった。

「でもさとり様。目を閉じることができるってことは、つまり目蓋があるってことですよね。だったらそんなに乾くことはないんじゃないですか?」

 お燐と予備の目玉を手放し、銃弾を避けるように転がるさとり。お燐とは反対方向に転がっていった予備の目玉は、こっそりと後をつけていた八咫烏によって踏みつぶされた。
 破裂音と共にさとりは起きあがり、額に滲む汗を拭う。

「危うく正論にやられるところでした」
「現実は避けても消えませんよ」
「見ざる、言わざる、着飾るです」
「何故、お洒落を……」

 それはさとりにも判らない。久々の清々しい気分でテンションが上がっているせいか、たまに自分にも何を言っているのか判らなくなるのだ。
 第三の目がなくなってテンションが上がるなど、一体誰が予想できただろう。あるいは、こいしなら推測ぐらいは出来たのかもしれない。
 そういえばこいしも、目を閉ざしてから微妙にテンションが上がっていた。以前はおずおずと姉の名前を呼ぶぐらいだったのに、最近は股下をスライディングでくぐり抜けてから姉の名前を呼ぶ。本人的には格好いいつもりらしいのだが、どうにも効果は現れていない。
 その時は何をはしゃいでいるのかと、侮蔑すら籠もった感情を向けたものだ。自分が同じようなテンションに支配されるとも知らずに。

「ともかく、こんな所で問答をやってる場合じゃありません。早く見つけ出さないと、悪用される可能性もあります」

 取り戻したいという気持ちと共に、あれを他人に使わせてはいけないという理性もしっかりと働いていた。そもそも第三の目は覚りのみが持つことを許された道具であり、普通の人間や妖怪が持てば発狂して死ぬ。だが、そういう輩は勝手に死んでくれるのだから大して問題があるわけではない。
 困るのは、それに耐えうるような奴がたまにいるということ。いきなり他人の心を読めるようになったなら、誰だってそれを利用しようと思うだろう。もしも誰かが第三の目を悪用し、それが閻魔の耳に入ったならば。
 いや、既に知っているかもしれない。だけど今のところは被害がないから、あえて黙っているのだとしたら。
 一刻も早く回収しなければ。
 たかが家出と侮るなかれ。これはもう、地霊殿存亡の危機なのだ。
 
「お燐!」
「はい」

 黒猫の妖怪が、さとりの隣に並ぶ。どこか惚けたような笑顔が、今はただ頼もしい。

「お空!」
「ふっ!」

 八咫烏が、吹き矢を放つ。
 胸に輝く鳥避けの目玉が綺麗に破裂した。幸いにも懐に鉄の板を入れていたから良かったものの、なかったらどうするつもりだったのだろう。
 前途は多難だった。




 決意も新たにさとりは畳へ寝転がり、意欲溢れる仕草でテレビのリモコンを握りしめた。いま己が押すべきは電源のスイッチだと、そう確信しているように。

「さとり様」
「はい?」
「目玉を探しに行くんじゃなかったんですか?」

 転がって、視線をテレビから燐に移す。我が主のことながら、何ともだらしない格好だ。対抗するように寝そべる空はいつものことだが、果たしてここまでだらけきったさとりを、今までに見たことがあるだろうか。
 燐の戸惑いもよそに、さとりは真剣な眼差しで言った。

「お燐、私は気付いてしまったんですよ。とてもとても、大事なことに」

 思わず唾を飲む。だらしないと評したものの、それが深遠な思惑からきたものだったとしたら。だらけているように見せかけ、本当は何か意図があるのだ。
 愚かにも自分はそれに気付けず、ただ見たままに主を評価してしまった。自分の不甲斐なさに腹が立つ。
 さとりはちゃんと考えていたというのに。

「探しに行くのが面倒くさい」

 駄目な境地に達したらしい。ガスの元栓を閉め忘れた前言が、凄い勢いで自宅に帰った。
 さとりは至って真面目な顔で最低の台詞を吐きながら、そのまま根を下ろしたように床から動こうとはしなかった。まるで一つの植物のようである。
 そこで燐は思ったのだ。
 よもやこれも、第三の目が無くなった弊害ではなかろうかと。
 そこでお燐の中に一つの仮説が浮かぶ。
 もしかしたら、あの目は他人の心を読むだけでなく、所有者自身を見張り律する力のあるアイテムであったのかもしれない。そして自らを律する目がなくなったことにより、こんなにまでさとりが怠けてしまったとすれば説明がつく。人も妖も、基本的にはだらしのない生き物なのだ。
 他人の目がなければ、誰だってさとりのようになってしまうだろう。だから、無闇にさとりを責めることはできない。
 そう、要は第三の目を取り戻せばいいのだ。自らを見る第三者役の目を。
 怠ける主を尻目に、燐は一つの決意を胸に刻み込む。

「そうと決まったら、お空! 目玉探しに行くよ!」
「頑張って!」

 だらけ癖が伝染した空を引っ張りながら、燐は地霊殿を後にした。




 一日と、二日と。燐と空による捜索は続いた。
 もっとも聞き込みをしていたのは燐が殆どで、空はそれを横から聞いたり、飛んだり、帰ってきたりと大した役にも立っていなかった。
 元から空は荒事に長けており、こういう作業には向いていない。それに気付いた時はやんわりと地霊殿に帰ったらどうかと誘導してみたものの、何故か空は急にやる気を出していた。今となっては燐よりも活気に溢れ、ぎらついた瞳で店先の商品を品定めしている。

「いやぁ、見たことないね」
「そうですか……」

 空振りも此処まで続くと清々しい。第三の目など、元々無かったのではないかと思うぐらいだ。
 憂鬱な気持ちのまま、その日は地霊殿へと戻っていく。今日も何の収穫もなく、捜査は全く進展していなかった。だが、それを咎める者はどこにもいない。
 それが燐にとって、何よりも辛かった。
 いっそ怒られた方がマシだ。
 燐が帰ってもさとりは無反応のまま、ただただ床でゴロゴロしている。朝からこうだったのだろう。そして、夜までこうなのだろう。
 第三の目だけでなく、凛々しく聡明なさとりも何処かへ消えてしまった。本当に、どちらも最初から存在していなかったかのように。
 もしもここに夢の精霊が現れて、第三の目なんて元からありませんでした、などと言ったら燐はどうするのか。主を見限るなんて選択肢は無い。例えさとりが修羅の道に落ちようと、畜生以下に成りはてようと燐は最後までついていく覚悟があった。
 だから離れるつもりはない。だけど、今のさとりは見ているだけで辛い。
 せめて、誰か彼女を叱る者がいれば、戒める者がいれば。
 こいしは何だかんだと言いながら姉に甘い。空は論外だ。あれはどちらかというと戒められる側である。
 だとしたら、残るのは。
 床にへばりつく主を見下ろし、燐は拳を握りしめた。

「こら! さとり様!」

 突然の怒声に、さしものさとりも飛び起きる。いつもの飄々とした自分だけを見ていたのなら、豹変という言葉も生やさしい変わりようにさぞや驚いたことだろう。
 だけど列車は発車した。後はただただ線路の上を走り続けるだけのこと。
 燐は眉間に皺を寄せ、効果音がつきそうな勢いで指を指す。

「そんなにダラダラしていたら閻魔様に首をとばされますよ! ほら、さっさと立って。ちゃんとしてください!」
「え、ええ……」

 まだ動揺から立ち直れていないさとりは、言われるがままに重かった腰をあげる。

「第三の目は見つかりませんでしたけど、だからといってさとり様をこのままにしておくわけにはいかない。だから!」

 腕を組み、胸を叩いて燐は言う。

「あたいがさとり様の第三の目になります!」

 そして彼女を見つめていよう。どちらかが灰になる、その日まで。
 あるいは案外、第三の目が戻ってくるかもしれない。それならば、それで良い。燐は役目を終えて、また元の仕事に戻るだけだ。

「…………お燐」

 何か感じる部分があったらしく、さとりの目に生気が戻る。ほんの僅かだが、そこにかつての古明地さとりを見た。

「容赦なんてしませんよ。これからは、とことんいきますからね!」

 胸を張る燐を見て、さとりは微笑みを浮かべる。
 よろしくお願いします、とその小さな口は動いたのだった。




 翌日、首から燐をぶらさげるさとりの姿が地霊殿で目撃されたという。
 救出された燐はこう語る。

「そういう意味じゃない」

 ちなみに第三の目は鳥避けのバイトをしており、密かに空と死闘を繰り広げていた。
 どうも。長編が仕上がらず悶々としている大崎屋平蔵です。
 長編二作同時進行してます。無謀一直線。そのくせ片方には星ネタ含むので公開できず。くそう。

 そんなわけでほのぼの地霊殿ネタです。幻想ノ風、地霊ネタないので飢えてたり。
 ほのぼの系書きたいけど、骨休みしたから、次は長編だ!

 さて、お読みいただきありがとうございました♪
 したらなー。
大崎屋平蔵
amusukeryuuseigun@yahoo.co.jp
http://ozakiya.blog.shinobi.jp/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2450簡易評価
6.80名前が無い程度の能力削除
やっぱりさとり様はだらだらしているのが似合うと思います。

>>「ついでにこいしが出家しまして」
これは噴かざるを得ない
18.90名前が無い程度の能力削除
「お空!」
「ふっ!」
で腹筋が崩壊したwwwお空のキャラが良すぎる
22.80名前が無い程度の能力削除
カリスマブレイクしすぎww

長編待ってます
28.90名前が無い程度の能力削除
改めてお空はすごいラスボスなんだと認識したw
32.70名前が無い程度の能力削除
なんだこの脱力っぷり。
51.100月宮 あゆ削除
まず第三の目が家出したで吹き
お空があの銀色のでっかい目玉を見た瞬間逃げる所でまたふきました。
お空のキャラよすぎる 
さとりんお燐は首からかけるものではありません